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ダンジョン。そこはモンスターと言う厄災や魔石やドロップアイテムと言う富が同列に存在する
そんな命知らず達の事を冒険者という。
そんな冒険者の一人となった北氷原 翔一は今、同じファミリアの仲間、ベル・クラネルとダンジョンの二階層にいる。
一階層では人が密集し過ぎて、翔一の銃GM-01では誤射の恐れがあり戦い難かったので二人は急いで二階層にやって来たのだ。二階層は円錐状のダンジョンの構造上一階層より広いので少しは戦いやすくなっていた。
「グギャァ」
前方から身長一メートルほどの全身毛むくじゃらの狗頭のモンスターが3匹やって来た。
「ショーイチさん前方から3匹、コボルトです。」
「えぇ、見えていますよ。」
ベルに言われずとも声も潜めず騒々しくやって来るものに気づかぬ翔一ではない。
「GM-01スコーピオン。」
G3システム用の自動小銃を召喚した翔一はベルが射線から外れるよう一歩左によってからGM-01を両手で構る。コボルトまで約20m、ベルが動き出すより先にダッダッダンと素早く三連射する。
放たれた弾丸はすべて寸分たがわずそれぞれのコボルトの眉間に命中し、その命を絶った。
完勝である。だがこれは偶々だ。
反動の大きいGM-01をG3システムの照準補正なしで撃ってこの結果は翔一の腕がいい事は基より、相当幸運が重なった偶然によってもたらされたに過ぎない。がこの結果に不満なものも居た。
「またですか、ショーイチさん。」
ベルが口をとがらせ戦闘に参加できなかったことへの不満を口にする。
「ふっ、すまないね、クラネル君。しかしこんな偶然そうないよ。次こそは作戦道理に進むはずだから、今回はこれで良しとしていいてくれ。」
翔一が建てた作戦では会敵時まずは翔一がGM-01を用い先制射撃でダメージを与え、そののちベルが接近して止めを刺すという手筈だったが、これまで遭遇した敵全て翔一の先制射撃で倒してしまっていた。
「絶対ですよ。」
ベルは翔一に念押ししながらコボルトの死体から魔石を回収に行く。
その姿を見ながら翔一は改めてダンジョンはおかしなところだと思う。まずダンジジョンだ。その構造は下に行くにつれ広くなっていく円錐型になっていて、今翔一たちのいるダンジョン上層は洞窟だが下に降りて行けば森林地帯や湿地、泉などもあるらしい。その上破壊されても自己修復されていく。
次に地下のはずなのに明るい、これは壁面や天井の鉱物が光っているのだ。光るだけなら地球でも紫外線を当てると光るユーパーライトと言う岩石が数年前に有名になったがあれはいわゆるフォトルミネッセンスと言うものらしく、簡単に言えばエネルギーを受け取ってそれを再放出しているのであって、それ単体で光っているわけではない。しかしこちらの鉱物はそれだけで光っている様に見える。
最後にモンスターだ、モンスター自体おかしな存在だが魔石を壊すか抜き取るかすると灰となり消えていく。この時稀にドロップアイテムが残るらしいがそれはともかくとして体がすぐに灰に成るなんてありえない。まぁ地球でもアンノウンを倒すと何故か爆発し、跡形もなく消滅していたのであまりダンジョンの事ばかり責められないが。
「ショーイチさん。」
ベルが魔石を集め終わり戻ってくると翔一も思考の海に沈んでいた意識を浮上させた。
「集まりましたか?」
「はい! 今回はドロップアイテムもありましたよ。」
ベルは小さなドロップアイテム、コボルトの爪を嬉しそうに翔一に掲げて見せた。
「それは幸先が良いですね、この調子で進みましょう。」
「はい。」
ドロップアイテムに気を良くした二人はどんどんダンジョンを進んでいく。
この後も2人の探索は順調に進み終には七階層にまで到達するのだった。
ダンジョン探索を終え、ベルと翔一は
2人とも表情は明るい。それは今日のダンジョンでの収入が11万ヴァリスもあったからだ。ベルなどギルドでエイナに七階層に行ったことを叱られ、肩を落としていたのに換金した途端、今までの落ち込みようが嘘の様にはしゃいでいた。
「神様、ただいま帰りました!!」
「ヘスティア君、今戻りました。」
「2人ともおかえり。」
ベルと翔一が帰還を知らせるとヘスティアは暖かく二人を迎えた。
「神さま神さま、今日、僕たち七階層まで到達して11万ヴァリスも稼げたんですよ。」
翔一は疲れたのかすぐにソファーに座り休んでいたが、ベルは七階層まで行けたことがよほどうれしいく、そのことを誰かに聞いてもいたくてたまらないようでダンジョンにいく時の革鎧から着替えもせずにヘスティアに話しかけていた。
「七階層! 11万ヴァリス!! 凄いじゃないかベル君。」
「はい!!」
わざわざヘスティアが大仰に驚くのでベルはさらに気を良くし饒舌になる。
「ショーイチさんとならきっともっと深い階層も行けそうですから、これからはもっとお金も稼いできますよ。」
(神さまにもっと楽をさせてあげられるように)とベルが心の中で付け加えていることが解るヘスティアは、嬉しくなると同時に何もしてあげられないことが情けなくてたまらなく悲しくもなる。
「ベル君。」
ヘスティアはベルの頬に優しく触れる。剣を握るわけでも農作業をするわけでもないその手の平は胼胝で硬くなることもなく、荒れてもおらず、綿の様に柔らかく絹の様に滑らかだ。
頬から感じるその感触にベルはいつも道理にどぎまぎしてしまう。
「昨日も言ったけど、僕は君に死んでほしくはないんだ。お願いだから無茶はしないでおくれよ。」
まっすぐベルを見つめるヘスティアの瞳が彼女の真剣さをベルに伝える。
ベルは頬に触れるヘスティアの手に己の手を重ね、余計なことは言わずに「はい、約束します。」とだけ返事をしてヘスティアを見つめ返した。
「ン、ンッ!」
ちょっといい雰囲気になりかけていた2人の間を裂く様に咳払いの音が響く。音の主は砂を吐く思いで二人を見ていた翔一だ。
途端に今の状況が恥かしくなったベルとヘスティアははじける様に離れた。
「あっ、えぇっと、もちろんショーイチ君も無理しちゃだめだよ。」
ヘスティアは慌てて取り繕う様にそう言う。心配している事は本当だろうが取って付けた感じが否めない。
「心得ていますよ。 それよりステイタスの更新をお願いします。」
「そう言えばまだ更新してなかったね。じゃあ、ショーイチ君から更新しよう。ベル君はその間に着替えておいで。」
翔一は別段気分を害していたわけではなかったがたがヘスティアは気を使いステイタスの更新の順番は翔一を先にした。
2人のステイタス更新を終えたヘスティアは2人のステイタスを思い出し、頭を悩ませる。
しかし別に悪い事があった訳ではない。現にベルと翔一のどちらもステイタスが記載された用紙を嬉しそうに見ている。
ベッドの上に胡坐をかき、頬杖をつきながら2人を見てヘスティアは思う。
(魔法やスキルは増えなかったとは言え、2人とも熟練度上昇トータル800オーバーって多すぎやしないだろうか。)
翔一とベルは今回一度のダンジョン探索で力や魔力などの基礎アビリティだけとはいえ大幅に上昇させていたのだ。
(この結果はまぁ、まず間違いなく成長を促進するスキルの効果なんだけど、こんなすごい効果のスキルが2人同時に発言するなんてあるんだろうか。)
結局はその疑問に行きつくのだ。
(あっ、そういえば……)
ヘスティアはかつて神友の話していたことを思い出す。
(確か種族ごとに発生しやすいスキルがあって、それはスキルの名前こそ違っても効果は殆ど同じもっだっていってたっけ。なら成長促進スキルはヒューマンに発生しやすいスキルなのかもしれない!!)
しかしその考えには大きな穴がある。
(あれ、だけどもしそうならもっと成長促進スキルの事が広く知れ渡ってるはず……)
ヘスティアはまた頭をひねる。
(そうかっ!! 下界の子供たちは変わりやすいからスキルの効果がすぐに切れるんだ! だからうわさが広まらないにちがいない。)
ヘスティアは心の中で思わず、ほくそ笑む。
(ふふっ、そうさ、ベル君はたとえ一時ロキの所のヴァレン何某に誘惑されて迷ってしまっても、最後には僕のもとに帰ってくるのさ、そうだ、そうに違いない。)
人は、いや、神でさえも真実ではなく、信じたいものを信じてしまう様だ。
「ベル君! ついでにショーイチ君、今日は、今日は豪華に外食と行こうじゃないか。」
ヘスティアは愉快そうに笑いながら立ち上がり、ベルの手を取るのだった。
ヘスティアの外食の誘いにベルは朝であったシルの事を思い出した。
「神さま、外食なら行きたい店があるんですけど、僕が決めちゃだめですか?」
小首をかしげながら訪ねるベルは男ながらまるでうさぎの様にあざと可愛らしくヘスティアには感じられたのか「もちろんかまわないよ。」と言いながら身悶えさせている。
「ショーイチさんもいいですか?」
ベルは翔一の方に振り返りそう訊く。
「ええ、良いですよ。早速行きましょう。」
ヘスティアとベルの作り出す砂糖菓子の様に甘々な空間に辟易していた翔一は、これ幸いと動き出す。
その翔一に続きヘスティアとベルも夜の街に繰り出していった。
夜のオラリオの大通りは昼間のそれとは異なる。昼間は屋台や商店で賑わっていた路肩も片づけられたり、閉まっていたりする。
しかし閑散としているわけでない。代わりに酒場が回転し店の外にまでテーブルやいすが並び夜の街を活気づかせていた。
そんな中でも一際賑わっている人気店。それが今、翔一たちが入ろうとしている酒場、豊穣の女主人だ。
沢山の冒険者や昼間働いていた街の住人が大声で笑い合い、行き良い良く飲み食いしている光景に尻込みしていたベルに変わり翔一が酒場のウエスタンドアを開けてヘスティアとベルに中に入るよう促す。
2人が店内に入り翔一も後を続くと「いらしゃいませ!!」と活気がありつつも華やかなウェイトレスたちの声が響く。
ヒューマンに猫人、エルフなど、種族は様々だが皆美しい女性達だった。翔一はこの店の人気の秘密が少しわかった気がした。
鈍色の髪の少女、今朝ベルに話しかけてきたシル・フローヴァがベルを見つけ小走りでやって来てベルの手をとる
「よかった。ちゃんと来てくれたんですね。」
手を握られたベルは赤面ししどろもどろになりながら「約束しましたから、はい。」と、はにかみながら
微笑ましいがその光景に不満を持つ者もいた。
「ふんっ。」
ベルとシルがつないだ手にヘスティアが手刀を振り下ろす。
2人の手が離れるとヘスティアは間に割って入り、頬を膨らませシルを睨みつける。
「君!! ぼ・く・の、ベル君に余馴れ馴れしくしないでくれないか。」
「えっと、あの。」
ヘスティアの顔立ちは幼いので睨みつけられても怖くない。それどころかどこか可愛らしくもある。なので睨まれた当の本人のシルも困惑し、ベルに視線で助けを求める事になった。
「神さまこの人はシル・フローヴァさんと言って、朝、僕が落とした魔石を拾ってくれた人で、とても良い人なんですよ。」
「そんな好い人だなんて。」
ベルの説明にシルは頬に手を当てもじもじと赤くなる。
それはヘスティアの怒りに油を注ぐ。
「ふん、ベル君、君少し気が多すぎるんじゃないか!」
「はぁ。」翔一は周りを見回しこれでは気が休まらないなと嘆息する。ベルたちのやり取りは酒場の客たちには格好の肴になったらしく注目を集めてしまっていた。
いい加減空腹にもなってきた翔一はシルを急かすことにする。
「すいませんがフローヴァさん、そろそろ席に案内していただけませんか?」
「そうでした、私ったら、すいません。こちらにどうぞ。」
シルは頭を下げると壁際の四人掛けの四角いテーブル席に翔一たちを案内した。
翔一達が席に着き、注文をするとシルも店が忙しくなってきたのか給仕の仕事に戻っていった。
しばらくしてやってきたおいしそうな料理や飲み物に翔一たちが舌鼓をうっていると猫人のウェイトレスの声が店内に響いた。
「ご予約のお客様、ご到着ニャ。」
その声に一瞬皆の視線が入口に吸い寄せられる。
ウェスタンドアを行き良い良く開けてやって着たのは綺麗な緋色の髪を短いポニーテールにまとめた糸目の女性に率いられた十数人の集団。その集団を見た客たちが噂し始め、翔一の耳にところどころからロキファミリアや剣姫と言う単語が聞こえてくる。
(ほう、あれがロキファミリアのメンバーですか。)
翔一は横目に観察する。
(なかなかどうして、荒くれ者の多い冒険者の中にあって美男美女ぞろいなことだ。)
エルフにドアーフ、アマゾネスの姉妹、狼人、小人、ヒューマン、色々な種族の者がいる中で特別目を引いたのは、街のうわさにたがわぬ金髪の美丈夫な
ベルも気づいているのかなと翔一が今度はベル方を見ると彼は小さく丸まるようにして翔一の影に隠れていた。
懸想している人物の登場に恥ずかしくなったのだろうが助けてもらったにもかかわらず、挨拶もしないのは礼を失している。ベルだけが礼儀知らずとそしられるならともかく、一緒にいる自分までそう思われてはたまらないと翔一はベルに挨拶に行くよう促そうとした。
丁度その時、他のロキファミリアの面々が席に着く中、先頭にいた緋色の髪の女が翔一たちの席に近づいてきた。
女は糸目を薄く開き、いじわるそうに笑い話しかけてきた。
「よう、ドチビ、こないな所であうとはなぁ。 ファイたんの所おん出されたぁ、聞いたからどっかで一人寂しゅう野たれ死んで
「おあいにく様だったね、ロキ、今のボクにはベル君とショーイチ君ていうとっても頼もしい
糸目の女はロキだった。ロキは最近まで眷族のいなかったヘスティアをからかいにきたようだ。 ヘスティアもそれは分かっているのかそっぽを向いて素気なく対応している。
「ふぅん。」
ロキがベルと翔一を一瞥して馬鹿にするように笑う。
「まぁ大方その無駄に大きい胸に着いた脂肪で誑かしたんやろ。それしかとりえないもんなぁ、じぶん。」
ロキのその言葉はベルを馬鹿にしている様に思えたヘスティアは怒って「ふん、その何もついてない不毛な大平原の様な胸よりだいぶマシさ。」とロキのコンプレックスである身体的特徴をあげつらいバカにし返す。
「なんやて!!」
「なにさ!!」
ロキとヘスティアは角を突き合わせて言い合いを始める。
言い合いはやがて過熱していき喧嘩に発展しそうになっていき、店主らしき大柄の女性からの視線もきつくなってきた。
翔一は仕方なく止めに入る。
「2人ともその辺で止めましょう。 ここはおいしく食事を楽しむ場所であって闘技場ではないのですから。それにお店の方も怒ってますよ。」
翔一が店の女将らしき、カウンターの中にいる大柄なドアーフの女性に視線を向けながらそう言うと、2人も女将の方に顔を向ける。
女将は腕を組み、怖い顔でヘスティアとロキを睨んでいる。大変ご立腹のご様子だ。
2人は思わずたじろぐ。
「くっ、此処はミア母ちゃんの顔を立てて収めたるわ。」
「それはこっちのセリフだよ。」
「「ふん」」と2人は互いにそっぽを向いた。そしてロキはファミリアがいる席に戻っていった。
ロキが席に戻ると今度はロキファミリアの狼人が大きな声から始まり何やら会話が聞こえてきた。
「よっしゃ、アイズ、そろそろ例あの話、皆に披露してやろうぜ。」
「あの話?」
「あれだよ、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス、最後の一匹、5階層で始末した時の事だよ。その時いたトマト野郎の事だよ。いかにも駆け出しって感じのひょろっちいガキが逃げたミノタウロスに追い詰められててよぉ、アイズが始末した牛野郎の血を浴びで真赤なトマトみたいになっちまいやがたんだよ。 そんでそのトマト野郎最後にはピィピィ泣いて逃げてきやがってよ、情けないったらなかったぜぇ。」
その話を聞いて、褐色の肌のアマゾネス、長い髪で起伏に富んだスタイルの良い姉のティオネと短い髪でスレンダーな妹ティオナの姉妹が笑っている。
どうやらベルの醜態を酒の肴としている様だ。ベルは羞恥と悔しさのあまり震えている様だが翔一は大して気にも留めなかった。よい事ではないのだろうが酒の席ではよくあるとまでは言わないもののまったくないわけではない。それにベルを庇う者も居たからだ。
「いい加減にしろべート、元はと言えば我々が17階層でミノタウロスを逃がしたことが原因だ。恥を知れ。」
緑の髪に日本人がエルフと言えばと聞けば、良く想像するだろう通りの長ぼそくとがった耳のエルフであろう女性が正論で狼人、べートを諌めるが酔っ払いには通じない。
「あぁん、ゴミをゴミと言って何が悪い。」
ベートは手に持つジョッキをあおり中の酒を飲み干し、舌を滑らかにして言葉を重ねる。
「例えばだ、アイズ、お前あのトマト野郎に言い寄られたらどうするよぉ? 相手にするか? ありえねぇよなぁ。 アッハハハ!!」
べートは笑いながらベルを傷つける言葉を重ねていく。
「自分より弱くて軟弱な雑魚野郎にお前の隣に立つ資格なんかねぇ、他ならぬお前自身が認めねぇ、そうだろ、アイズよぉ。」
ガタンッ、椅子が倒れる音が店内に響く、皆が音のした方を見た。
そこにはベルがいた。彼は瞳に薄っすらと涙をにじませ集まる視線を振り切るように店の外に駆けだして行く。その胸中には悔しさや情けなさ、不甲斐無い自分への怒りであふれているなだろう。
「ベル君!!」
ヘスティアも席を立ちただならぬ様子で店を出て行ったベルを追いかけて行く。そしてその後にロキファミリアのアイズも店の外まで出て行った様だ。
翔一もそれに続け席を立ったがベルを追いかけるためではない。
翔一はカウンターに行くと金貨を渡し女将に会計を頼み、世間話風に大きな声で独り言をつぶやいた。
「それにしてもロキファミリやの冒険者の質もおちたものですねぇ。」
「っんだって?」
その言葉に真っ先に反応したのは酔っぱらっているべートだった。
(釣れた!!)
翔一は心の中でほくそ笑む。翔一はエルフの女性がべートを諌めるときに言っていた話を聞いてから、この時を待っていたのだ。
翔一はヘスティアファミリアをオラリオで一番のファミリアにするつもりだ。そのためには自らが大きくなるのは勿論だが他のファミリアを引きずり下ろさなければ今のヘスティアファミリアの規模では話にならない。
だがそう簡単に他のファミリアの粗など見つけられない。今回のベルの事にしてもベルとべートの話だけならば、結局ベルは助けられているのだから翔一もロキファミリアを非難しづらかった。だがロキファミリアの中でも非が自分たちにあると思っているものがいるのなら付け入る隙はある。
「もしかして聞こえていましたか? 声が大きくて失礼しました。」
「ちげぇよ!! 質がどうのこうのって奴だ!!」
「あぁ、そちらですか。」
翔一はべートの気勢にも負けず、落ち着いた様子で酒場の皆に聴かせる様に話し出す。
「いえね、私のファミリアの者があなた方にモンスターから助けられたと聞いたので、お礼をしなければならないと話していたのですがね。先ほど貴方たちから聞こえてきたお話によるとそのモンスター自体あなた方が嗾けたそうではありませんか。とんだ茶番だ。」
「ちがうよ! あれはミノタウロスが勝手に逃げてったんだよ!第一そんなことする理由もないよ。」
アマゾネスの妹の方、ティオナが心外だと翔一に反論するがそれも想定の内だ。
「理由はあるでしょう。」
翔一はそう言ってロキを見つめる。すると皆の視線がロキに誘導され、先ほどのヘスティアとロキの喧嘩が頭に浮かぶ。そうなれば後は勝手に理由が想像されていき、翔一があれこれ語るより各々の中で真実味が増していく。
「それとも何ですか、貴方たちロキファミリアはミノタウロスもろくに処理できないのですか?」
翔一はガンガン火に油を注いでいく。
終に我慢の限界を超えたべートが翔一に詰め寄り胸倉を掴みあげる。
「いい加減にしろよ、てめぇ。」
「おや、言い負かされれば、次は暴力ですか。 冒険者がいくら実力次第とはいえ、これではまるでそこら辺のゴロツキと変わりませんね。」
べートが拳を振り上げ翔一に殴りかかる。
このまま殴られると流石に大怪我をするだろう。冒険者北氷原 翔一ではべートにはかなわない。だがアギト北氷原 翔一ならば酔っ払い冒険者をあしらうぐらいなんでもない。
これでロキファミリアの醜態は広まり、信用を落とすだろう。翔一は勝利を確信し、変身しようとする。
しかし「やめろっ!!」と強い制止の声がかかりべートが止まってしまい翔一も機会を逃す。
ロキファミリア団長のフィン・ディナムの声であった。華奢で小柄なパルゥムの身体にも関わらす大した声量と迫力である。
フィンは静かにべートと翔一のもとに歩いて行く。
「こんなにコケにされてなんで、とめんだよ。」
「その手を離して席に戻れ、べート。」
不満を口にするべートを真っ直ぐ見つめフィンは有無を言わせぬ迫力で命令する。
フィンの本気さが伝わったのかべートは「チッ」と舌打ちをして翔一の胸倉を掴んでいた手を離し、不貞腐れた感じで戻っていた。
入れ替わりにフィンが翔一の前に立つ。
「ファミリアの団員が失礼をした。」
目論みをつぶされた翔一もべート同様激しく不本意で舌打ちをしたい気分だったがそれは一旦心の奥にしまう。それにまだ策は続いている。爆発させる標的を変えればいいだけなのだ。
「いえ、かまいませんよ。あぁそうだまだ名乗ってませんでしたね。私は北氷原 翔一と言います。貴方は、えぇっと確か、ロキファミリア団長の蛮勇のフィンさんでしたか。」
翔一はあえてフィンの二つ名勇者を蛮勇と間違えた。これはかなり失礼にあたるだろう。さぁどう反応するだろうとフィンの反応を待っているとフィン自身ではなく別の所から大きな反応があった。
先ほどまで露出過剰で煽情的な装いに反し淑女然としていたアマゾネス姉妹の姉、ティオネが机を叩き割り気勢を上げる。
「テメェ!! 団長の二つ名を!!」
惚れているフィンを馬鹿にされフィオネは怒りで鬼の形相をしていた。周りの客たちもたじろぐほどだったが翔一にとっては心を怒りに支配された人間などいいカモでしかない。
フィオネに狙いを変え煽ってやろうと翔一は言葉を発そうしたが、フィンに先を越されてしまう。
「落ち着いて、フィオネ、僕は気にしてない。 けどフィオネが僕のために怒ってくれたことは嬉しかったよ。」
フィンのその言葉にティオネは又も豹変した。
「だっだんちょぉ。」
甘えるような声色でフィンを呼び蕩けそうなほどのぼせ上がった少女の顔になっていた。
「さて、ちゃんと自己紹介をしておいた方がいいかな。」
フィンは改めて翔一に向き直る。
「僕はロキファミリア団長フィン・ディナム、二つ名には勇者の名をいただいている。僕には過ぎた名かもしれないが、いつもその名に恥じない人間で在ろうと心掛けているつもりだ。」
「それは失礼を。」
「いや、謝罪するべきは、僕の方だ。」
「それは何に対してでしょう?」
翔一は悉く自分の邪魔をし、安い挑発にも乗らない老獪さを持つフィンがどう着地点を持っていこうとしているのか出方を待つ。
「君の仲間の事に対してだよ。勿論故意にモンスターを嗾けた訳じゃない。17階層でミノタウロスに逃げられてしまい君の仲間を危険にさらしてしまいすまなかった。」
フィンは頭を下げはしなかったが謝罪を口にした。自らの非を認めたのだ。しかし翔一は暗澹たる思いだった。ダンジョンでの危険は自己責任だ、いくらロキファミリアがミノタウロスを逃してしまったとしてもそれが故意であった疑惑が残らなければ大したダメージにはならない。それどころか今回の事に勝敗をつけるとしたら終始鷹揚な態度で器の大きさを示したフィンの勝利と言えるだろう。
もう挽回の余地はないと翔一は悟る。
「心がこもっていませんね。ですがまぁいいでしょう。私は心の広い人間ですから。」
悔しまぎれに翔一はそう言って豊穣の女主人を後にするのだった。
「団長、あのまま行かせて良かったんですか?」
翔一が店を出た後、幾分落ち着きを取り戻したティオネがフィンに問いかけた。ロキファミリアのメンバーのほとんどが同じ気持ちの様でフィンを見つめている。
「確かに業腹だけど、今回はこれで手打ちにするしかない。直前のロキが彼らの神と喧嘩している所を大勢に見られているからね。故意にモンスターを嗾けたと思われるのが僕たちにとって一番困る。」
なるほどとファミリアの殆どの者が納得するなかフィンと長い付き合いのドアーフのガレスが「本当にそれだけか?」と聞いた。
「ガレスにはかなわないね。」とフィンは苦笑し、自分の親指を見せる。
「実はべートがショウイチだったかな、彼に殴りかかったときからこの親指がずっと疼いていたんだよ。」
「なるほどのう。」
ガレスも納得した。
フィンの親指は彼自身に危険を知らせてくれる。警報装置の様な物で一度も間違ったことはない。それはフィンだけでなく多くのロキファミリアの仲間たちを救ってきた実績があり、皆信用していた。
「じゃがそうなるとこれから騒がしくなりそうじゃのう。」
「僕はそうならないことを祈ってるけどね。」
ガレスの不吉な予測は内心フィンも同感だったがあえて否定の言葉を紡いだ。フィンは仲間の為にも自分は最善手を取り続けないといけないと改めて心に留める。そしてそのためにはもっと翔一の事を知らなければならない。フィンは翔一が出ていったドアの先の暗闇に記憶の中の翔一を幻視し、観察するのだった。
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