もし、願いがなんでも叶うと言われたら、一体何を願うだろう。お金持ちになる?恋人と結ばれる?おいしいものをたくさん食べる?たぶん、すぐに願い事が決まるだろう。だけど、命がけの戦いを強いられるとなれば、願い事も変わるだろう。
私の願い事は、いつでも願いを叶えられますように。たった一回の願いじゃなく、いつでもどこでも何回でも願いを叶えられるように。そう願った。
ネコともリスともつかない白い生き物は、私の願いを叶えてくれた。最初は半信半疑、胡散臭い生き物だと思っていたが、いざ願ってみると、それは実現した。私はいつでも願いを叶えられる。どんな願いでも。
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眩しい朝日がこの神浜の街を照らす。街を行きかう人々は、どんな願い事を持つだろう。私はそんなことを考えながら、人々を見る。病院で泣きじゃくる男の子。耳を澄ますと聞こえてくるその願い。
「お母さん死なないでよ!!お母さん!!」
その願い、私が叶えて見せましょう。私は手を重ね、祈る。あの子のお母さんが一命を取り留めますように。そう願ったとき、私の手の中が光る。その光が消えたとき、男の子のお母さんが起き上がる。男の子は一瞬驚くが、嬉しそうにお母さんに抱き着く。医師は驚きのあまりパニックを起こしている。
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太陽が真上で私たちを照らす真昼間。屋上の隅でお弁当を食べる。今日のお昼ご飯は、かわいくデコレーションされたクマさんごはん。食べるのが勿体ないけれど、ありがたく味わいながら食べる。キーッと音を立てながら、屋上の扉が開かれて、女の子と男の子がやってきた。
「ず、ずっと前から、す……すっ……好きでした!わ、私と、付き合って、ください!」
精一杯勇気を振り絞り女の子は男の子に告白する。もちろんあの子の願いは、彼と付き合えますように。その願い、私が叶えて見せましょう。私は手を重ね、祈る。あの子の告白が、うまくいきますように。そう願ったとき、私の手の中が光る。その光が消えたとき、男の子の返事が返ってきた。
「うれしいよ。付き合おう」
女の子は、涙を浮かべ喜び、抱き合う。きっとあの子たちはうまくいくだろう。私はごはんがよく進む。
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オレンジ色に染まる街の時間はゆっくりと進む。勤務、勤勉、あらゆるものから解放された黄昏時は、人々を穏やかな気持ちにしてくれる。黄色い安全カバーを付けたランドセルを背負った、入学したての男の子。ささやかだけど私からの贈り物。私は手を重ね、祈る。男の子の親御さんが、男の子を迎えに来ますように。そう願ったとき、私の手の中が光る。その光が消えたとき、男の子を呼ぶ声が聞こえた。
「ママー!!」
お母さんが迎えに来てくれて、喜ぶ男の子。手をつないで帰るその姿はとても微笑ましく、私はとても和んだ。
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この街の願い事、私が叶えて差し上げましょう。この街の不幸、私が消してしまいましょう。そのために私は魔法少女となったんだ。不幸を撒き散らす魔女は私が倒してしまいます。
「やああああ!!」
杖を振るって魔女を殴った。魔女はアハハハハと奇妙な笑い声を上げながら、そのまま消滅した。魔女が消滅したことにより、結界は溶け、普段の姿を取り戻す。魔女を倒すのが私たち魔法少女の役目。絶望を撒き散らし、人を喰う魔女。どこから現れ、何を目的としているのかは分からない。
「よし!グリーフシードゲット!」
私と同じように願いを叶えた魔法少女、あやかは、グリーフシードと呼ばれる魔女の卵を手に取り、喜ぶ。このグリーフシードは私たち魔法少女の魔力を回復するために使う、貴重なものだ。
「やったね!今日はもう帰ろうか」
「そうね。はあー疲れたぁ」
私たちは変身を解き、帰路に着く。真っ暗になった路地裏は、女の子二人で来るような場所じゃない。でも、私たちは来ないといけない。なぜなら魔女は、こういう人気のないところにいることが多いからだ。早く魔女を倒さないと、犠牲者が出てしまう。
私の魔法なら、グリーフシードを増やすことだって造作もないだろう。だけど、私たちはそれをしない。理由は魔女退治をするためだ。グリーフシードを大量にゲットしてしまえば、魔女を狩る必要がなくなる。そのため、魔女狩りをサボるということが起こりうるからだ。そうならないように私たちはどうしてもというとき以外、グリーフシードを増やしたりなどしない。
「今回の魔女、なかなかに強かったわね」
「そうだね。でも、私たちにかかればどうということないよ」
私の固有魔法は召還。いつでもどこでも好きな時、好きな場所にあらゆるものを召喚できる。対してあやかの固有魔法は強奪。強奪と聞いて危ない魔法だと思ってしまうが、彼女自身が優しい性格のため、まったく危ない魔法にはならない。むしろ私の魔法と相性のいい魔法といえる。
どんなに遠くにあるものでも、彼女の魔法で、素早く手元に戻すことができる。また、彼女と対象の物の間に障害物があると、貫通して手元に来るため、後ろから攻撃するということだってできる。私の魔法で槍やら剣やらを召喚し、彼女の魔法で後ろからの攻撃をする。これが基本的な戦い方だ。
「あっそうだ!あんたにお願いあるんだった」
「うん?何?」
「新刊、すぐ売り切れるからさ、私が買いに行ったときに残ってるようにしてくれない?」
至って普通の願い。普段はこんな願いがこの世界に無数にある。たった一度必ず叶う願いを叶えてもらえるというならば、絶対に願わない願いだろう。だけど私の魔法は無限に願いを叶える魔法だ。だからといってこんな願いを叶えるために乱用してもらいたくはない。
でもまあ、あやかは同じ魔法少女、そして私の力を唯一知っている信頼できる友達だ。このくらい叶えてあげよう。私は了承し、手を重ねる。いつものように光り、そして消える。今回はすぐに結果が出るものでもない。明日あたりに買いに行ったとき、残ってるだろう。
「これで願いは叶ったよ」
「うん!ありがとう!新刊買ったらあんたにも見せるよ」
「うん。楽しみにしてる」
その日はそれぞれ帰路につき、私はベッドに横になると、疲れからかあっという間に眠ってしまった。
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眩しい朝日は雲に隠れ、今日は街も少し曇っている。それでも元気な人々は、忙しなく仕事場や学校へ向かっていた。昨日の男の子はお母さんと楽しそうに笑っている。私は願いが叶ったその男の子の笑顔が、とっても好きだ。
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あやかと一緒に教室で食事。今日の昼ごはんはかわいくデコレーションされたうさぎさんのごはんだ。あやかは私の弁当を見て、「かわいい!」ととてもはしゃいでいた。廊下を見ると、昨日の二人が話している。お弁当を持った女の子、そのお弁当を男の子に渡していた。とても幸せそうな笑顔だ。私は願いが叶ったその女の子の笑顔が、とっても好きだ。
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少しオレンジ色に染まった街は、いつもより少し暗い。それでも街はいつもと変わらない。今日もトボトボと歩く黄色い安全カバーを付けたランドセルを背負った男の子。今日は私が願わなくとも、男の子を呼ぶ声が聞こえる。
「パパ―!!」
お父さんのところに急いで走る男の子。それを受け止めるお父さん。その微笑ましい光景が私は大好きだ。
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「よし!今日の魔女狩りも終わり!」
魔女を倒し、グリーフシードを拾ったあやかはご機嫌にそう言い放つ。昨日のことが気になった私は、あやかに新刊を買ったのか聞いてみる。
「今日は塾で行けなかったんだ。ごめん。買ったら絶対見せるからね!」
「うん。楽しみにしてるよ。そういえばあのペンダント、戻ってきたんだね」
「うん!やっぱりきゅうべえにお願いして正解だったよ!」
彼女の願いは、大切なものを取り返してほしい。泥棒に入られた彼女の家、彼女が大切にしていたもの、家族が大切にしていたものがすべて奪われた。彼女は怒り、悲しみ、きゅうべえにお願いした。もちろん、命がけの戦いを強いられることを知っていた。それでもなお願わずにいられないほどに大切なものだった。
願いは叶い、警察が彼女が奪われた大切なものを届けてくれた。どうやら泥棒は捕まったようで、まだ売り払われる前だったようだ。
「あの時は大変だったなぁ。家に帰ったら荒らされてるんだもの。ペンダント探してもなくて……今思えばあんたにお願いしたらよかったかな」
「それは……」
「うそうそ。魔法少女になってもいいほど、これは大切なものなんだ。あんたに願いを叶えてもらっても恩を返しきれないからね。きゅうべえにだったら魔法少女になることで恩を返せるだろうし、きゅうべえに叶えてもらって正解だったよ」
「別に恩なんてよかったのに」
「あんたがよくても、私がよくないから!こうして戻ってきたんだし、細かいことは気にしない!」
私も魔法少女になって一緒に戦ってくれるあやかに感謝している。私一人じゃ勝てなかったかもしれない戦いもたくさんあった。
「それじゃあ、今日は解散ね。明日新刊買ってくるから、楽しみにしてなさいよ!」
「うん。また明日。おやすみ」
私たちは解散し、それぞれ帰路に着いた。母が作ってくれたおいしいご飯を食べ、私は眠りについた。
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今日は生憎の雨だ。静かな雨音はまるでメロディーを奏でているようだ。それでも街は忙しく動く。いつかの病室の母親は、窓の外を見て思いふけっているようだ。今日は男の子は来ていない。彼の笑顔が好きだったから、少し残念だ。
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あやかと一緒に教室で食事。今日はデコレーションする暇はなかったようで、でも色とりどりの食事は健在だ。あやかも、「これいただき!」と私のおかずを取り上げる。私の好物を知っている彼女は、私の好物は取らない。そこが彼女の優しいところ。いつかの女の子は少しうなだれ気味に弁当を持って廊下を歩く。いつもの彼はいない。彼女の笑顔が好きだったから、少し残念だ。
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雨に濡れた黄昏時はいつもより暗い。いつも穏やかな街も今日は早く帰ろうと少し早く動いている。いつもトボトボと歩く黄色い安全カバーを付けたランドセルを背負う男の子は、今日はいない。この街のように今日は早めに帰ったのかもしれない。あの家族の微笑ましい光景が好きだったから、少し残念だ。
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「ごめーん!!」
「え?どうしたの?」
合流した瞬間にいきなり謝り始めたあやか。私は訳も分からず、面食らっていた。
「新刊途中で落としちゃって水浸しになっちゃったんだ……」
「そうなんだ……ドンマイ。も一回新刊ゲットできるように願ってあげようか?」
「いやいいよ。そう何度もあんたの力になるわけにもいかないし。はあ……残念」
私は落ち込んでしまったあやかを励ましながら、いつもの魔女狩りに出かけた。今日の魔女退治は少し苦戦した。
帰った私はベッドに横になった。疲れたはずの体だけど、なかなか寝付けない。それでも、寝ようと目を瞑り、羊を数え続けた。そのうち眠りについていた。
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「ザアアアアアアッ」
雨が激しく降り注ぐ。雷もなり響くこの街は、いつもより穏やかだ。濡れたくない人々は、乗り物を利用しているのだろう。今日は朝から嫌なニュースを見た。男の子がダンプに轢かれたというニュースだ。元気になったお母さんが大好きなイチゴを買いに、街へ出かけた男の子がダンプに轢かれ、即死。私は胸が締め付けられるような思いだった。
大好きなお母さんの復帰を願った男の子は、願いが叶う対価に、帰らぬ人となった。
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今日は一人で教室で食事。いつもより質素な食事はいつもよりおいしくない。お母さんのごはんは美味しいけど、美味しくない。学校中に広まる嫌な噂を聞いた。フラれた女の子が失恋により自殺した。いつも廊下で見かける女の子は今日はいない。代わりに、男の子が、いつもの女の子とは別の女の子と歩いている。私は胸が締め付けられるような思いだった。
彼と結ばれるという儚い夢を持った女の子は、願いが叶う対価に、心を弄ばれ、帰らぬ人となった。
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真っ暗な黄昏時はいつもより忙しなく動いている。雨に打たれながら走るサラリーマンの背中を眺め、私は静かに涙をこぼす。いつもの黄色い安全カバーを付けたランドセルを背負う男の子はトボトボと歩く。いつもより元気がない。そんな男の子を迎えに来る気配がない親。私はそんな男の子に話を聞いた。
「僕の為に仕事を早く終わらせて、迎えに来てくれてたお父さん、お母さんは、たくさんつかれて倒れちゃった」
私は居たたまれなくなり、会話もそこそこにその子と別れた。私は胸が締め付けられる思いだった。
家族の微笑ましい姿を見たいからと勝手に願ったことで、男の子の親は過労で倒れてしまった。
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「どうしたのよ。蛍」
「もう、私、この魔法使わない」
私はそうつぶやく。あやかはもちろん驚いていた。
「どうしたのさ突然」
私は今までのことを話す。あやかは真剣に私の話を聞いてくれた。
「そんなことがあったの……実はね、私もうすうす気づいてたんだ」
「え?」
「きゅうべえに願った私のペンダント。あれ、じつは盗難品だったんだ」
私は驚いた。彼女は少し唇をかみしめながら話す。
「ずっと親が私の為に買ってくれたと思っていた。泥棒が私たちから盗んだとき、警察はそのペンダントを見ていた。じつは結構前に、同じペンダントが盗まれた事件があって、いまだ犯人が捕まっていなかった。そこで警察はもしかしてとペンダントのナンバーを取り、調べたらしいの。警察の勘は当たり。もともとそこまでお金持ちでもなかった親が、あんなペンダントを買えるわけがない。それでも私のためだと盗みを働いたんだ」
私は絶句した。まさかあの親がそんなことをしていたなんて。
「きっと希望と絶望、これの連鎖でこの世界は成り立っている。私は自分のペンダントを取り戻すという希望を抱き、自分のペンダントが実は盗難品だったという現実を見て、絶望した」
あやかの目には涙が浮かんでいた。私も一緒に泣いた。ひたすら泣いた。
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日常は変わらない。ただ変わったのは、魔法を使わなくなったということ。そんなある日、私たちの前に、傷だらけの魔法少女がやってきた。目の前で倒れる魔法少女。私たちは慌ててその魔法少女を抱き上げる。
「その傷どうしたの!?大丈夫!?」
うう……と唸るだけのその魔法少女。私は急いでグリーフシードを取り出した。ソウルジェムにグリーフシードを当てようとしたとき、突然その手は叩かれた。
「いら……ない……」
「そんな!ソウルジェムがもう真っ黒じゃない!」
「いらないっ!!」
ドンッと押されたあやかはそのまましりもちをつく。
「あんたらも……見てなよ……」
傷だらけの魔法少女はソウルジェムを手の平に置き、私たちの前に突き出す。そしてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「これが……魔法少女の……なれの果てさ……」
パリンと割れたソウルジェム。中から現れるはグリーフシード。グリーフシードは魔女を産み出し、私たちを巻き込んで、結界を作る。
あやかは私に詰め寄る。
「ねえ!あれはいったいどういうこと!!なんで!なんでソウルジェムの中からグリーフシードが現れるの!!」
「わからない!私だって!わからない!!」
「ギャアアアアハハハハハハ」
甲高い笑い声をあげる魔女。私たちは構える。今はあれを倒すのが先決だ。
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魔女を倒した私たちはその場にうなだれた。そこへやってくる白い生き物。
「ねえ、きゅうべえ。あれはいったいどういうことなの?」
「どういうことも何も、君たちも見ただろう?ソウルジェムがグリーフシードへと変わり、魔女を産んだのさ」
「それって、私たちは魔女だってこと?」
「その発言は相応しくない。君たちはまだ魔法少女さ。絶望に落ちた魔法少女が魔女」
「あんたの目的は何!!私たちを魔女に変えて、一体何が目的なの!!」
あやかの激高にきゅうべえは一切動じない。
「君たちの感情が生み出すエネルギーを集めるのが僕たちの目的さ。君たちが希望を持ち、絶望に落ちるとき、その時に発生するエネルギーの総量はとてつもないものだ。僕たちはそのエネルギーを集め、宇宙を守るために使うのさ」
「ふざけないでよ!!人の心を弄ぶようなことをして!!」
「僕たちに君たちの心なんてわからない。分かっていればこんな回りくどいやり方なんてしない。それに僕たちが心を弄んでいるとすれば、そこにいる蛍も同じようなことをしているよ」
「そんなっ!私はっ!」
「相手の願いを勝手に叶え、希望を見せたうえで絶望に落とす。まさに僕たちがやっていることと同じようなものじゃないか。むしろ同意のもとでやっている僕たちの方がよっぽど良心的だと思うよ」
私は何も言えなかった。勝手に願いを叶え、それが原因で絶望に落としている。きゅうべえが言っていることは正しい。何も言えなかった私の代わりに、あやかが私をフォローしてくれる。
「蛍は希望を望んで願いを叶えた!絶望が降り注ぐなんて知らずに!現に希望と絶望の関係を知って魔法を使うことをやめた!」
「それはただの言い訳に過ぎない。例えば君が運転をしているとき、曲がり角から子供が飛び出して来たら君は何と言うんだい?きっとこういうだろう。飛び出してくるなんて知らなかった。今回のもこれと同じさ。そんな言い訳が通用すると思うかい?」
あやかもそれ以上何も言えずに、うなだれてしまった。
「君たちが魔女に変わるとき、そのエネルギーはこの宇宙の為に使われる。光栄なことじゃないか。何も落ち込むことはない」
「……私はあんたを許さない。もう、消えてよ!」
きゅうべえは何も言わず、その場から立ち去った。
しばらく私たちはその場で座っていた。突然そんなことを聞かされ、心の整理なんてできるわけがなかった。
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次の日、あやかと合流すると、あやかは突然こんなことを言い始めた。
「ねえ、どうせわたしたち魔女になるならさ、あんたの魔法、この余生楽しむために使わない?」
「え?」
「魔女なんて狩らずに、自分たちが楽しめるように。こうなった以上、余命宣告されたようなものだしさ」
「……」
私はあやかの考えは理解できた。でも、賛同するなんてことはできなかった。もし賛同してしまったら、きゅうべえに協力することになる。
「いいじゃない。私たちの絶望で、他の人が助かるなら」
「ダメだよ……もう、これ以上絶望したら」
「……あんたが賛同してくれないなら、私は私のやり方で生きる。あんたもあんたのやり方で生きなよ」
「あやか……」
あやかは私の呼び声に応えず、歩いて行ってしまった。
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次の日、学校にあやかは来なかった。先生にあやかに何かあったのか聞かれたが、わからないと答えた。
下校途中、あやかが店の方に強奪の魔法を使っているのを見つけた。
「あやか……」
「ん?あんたか。何か用?」
「何をしてるの?学校にも来ずに」
「別に、何だっていいじゃない」
「今の、魔法だよね。店から何か盗んだの?」
「……」
あやかは何も答えなかった。私はしつこく聞く。
「……私はね、泥棒の娘なの。だから、泥棒したって何もおかしくないでしょ」
「……っ」
「失望した?だったらもう話かけないでね。私たちは違う道を歩むんだから」
また、あやかに何も言えなかった。
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魔女を一人で狩るのは久しぶりだ。久しぶりの一人での魔女狩りはかなり苦戦する。
「きゃっ!!」
魔女の攻撃を受け、しりもちをつく。その瞬間、魔女から伸びる触手によって、身動きが取れなくなった。
「いやだっ……」
こんな終わりなんて嫌だ。一人で寂しく死ぬなんて、そんなのは……。そう考えているうちに、触手はどんどん締め上げてくる。
「あっ……がっ……」
ふと、体の締め付けがなくなり、足が地面につく。顔を上げると、目の前にはあやかがいた。
「あやか……!」
あやかは振り向かず、魔女に立ち向かっていった。敵の攻撃を逆手に取り、魔女を狩る。その動きは熟練されたものだった。覚悟の違い、それが見て取れる。
「……あやか」
私は名前を呼ぶ。
「どうして……」
「え?」
「あんた、グリーフシードを出せるんでしょ!どうして魔女を狩るのよ!どうして私の獲物を取るのよ!その魔法をどうして使わないのよ!!」
「っ……」
「絶望が怖い?もう誰かに迷惑かけたくない?あんたがそんなんだから、私が迷惑してんのよ!!絶望が怖いならその魔法で絶望を消せばいいじゃない!あんたにしかできないフットワークがあるのになんで気づかないの!!」
私がそんなことに気づいていないわけがない。
「だって……」
「だって?何よ」
「だって……!!絶望を消しても、さらなる絶望が押し寄せてくるんだから、しょうがないじゃない!!」
「っ!?」
「私だって魔法を使って幸せを探したわ!あやかの考えることなんてもう、全部お見通しなんだから!!絶望の連鎖、それに耐えきれない。きっとあやかは絶望して魔女になる!私はそれが嫌なの!!」
「……」
肩を掴むあやかの手が緩んだ。私は泣きじゃくる。
「ごめん……蛍……」
「……ねえ、あやか。さっきの魔女、強かったでしょ?」
「……ええ」
「あれ、私がグリーフシードを望んだ結果の産物なの」
「っ!?」
「グリーフシードを望めば、自身じゃ勝てない魔女が現れる……絶望しかない」
「なんで?あなた、魔法を使わないって」
「魔法使ったのは、こうしたらあやかが来ることを知ってたから……あやかに目を覚ましてほしくて……」
「全部……私のため……」
私はあやかの手を握る。
「ごめんねあやか……気づくのが、遅いよ」
私のソウルジェムは、すでに真っ黒だった。
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魔女となった蛍は、私を容赦なく殺しに来る。あらゆる希望が絶望に変わるその力は魔法少女の天敵といえよう。いままでに魔女に行ってきた召喚攻撃が今はこちらに猛威を振るう。
「蛍……もう……やめて……」
「あはははっあはははははっあははははははは!!」
蛍に殴られながら、私は過去を振り返る。ああ、これが走馬灯というやつか……。今思えば、蛍は昔から、私を影から支えてくれた。昔から、誰かの幸せを願う女の子だった。
あの子の願いは自分の欲望のためじゃない。誰かの願いを叶えるため。彼女は願いを叶えるとそれ以上の絶望を与えることになる、そんな自分の魔法に絶望し、ソウルジェムを黒く濁らせた。ずっとずっと、誰かの為に使っていたのだ。いや、自分の為に使えなかったのだ。そうとは知らずに、自分の為に使えと言ってきた。悪いのは私だ。彼女が絶望する必要はなかった。
「蛍っ!!!私が悪かった!今まで私を支えてくれたあんたを、私は見捨ててしまった!!もう見捨てない!今度はあんたを助ける!!」
私の魔法は奪うもの。いつか蛍は言っていた。私たちの魔法は相性がいいと。そして今までやっていた。蛍の魔法の一部を私が奪い、使っていた。だったら、今だってできる!願いを叶える魔法を奪い、私が願いを叶える!
手を前に、彼女の魔法を奪い取る。
「願いを叶えてよ!!私の願いを!!あなたの願いを!!これ以上、絶望を与えないでよ!!」
蛍がやっていたように、手を重ね、祈る。二人が幸せになりますように。もし、ほんとの軌跡があるのなら、最後に本当の軌跡を見せてほしい。重ねた手の平から光があふれ出す。消えない、まぶしい光。光は二人を包み込んだ。
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目を覚ますと、美しい青空に、美しい花畑。そこに佇む蛍。蛍はこちらを振り向き、笑う。
「願い、叶ったのかな」
私がそうつぶやくと、蛍はうなづく。
「うん。私たちの最後の願い。叶ったよ」
「そう……よかった」
「それじゃあ、行こうか」
「……うん」
蛍は手を差し伸べてきた。私はその手を掴む。そして、花畑の向こうへ歩いて行った。
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希望を叶えた代償は、絶望という形で押し寄せてくる。そうしてこの世界の均衡は保たれる。だけど、たった一度くらい、本当の軌跡もあるかもしれない。