仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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(スイ)
ラッキークローバーに所属するオルフェノク。18歳。性格は唯我独尊、「喰種も人間も殺してよし」という思想を持つ少女。誰の指図も受けず、世間の常識や法を遵守する気もなく、行動が自由過ぎるためラッキークローバーのメンバーですら滅多にその顔を拝めない。唯一馳間にだけは信頼を置いている。2003年で種の霊長を決めるため「隻眼の梟」と有馬貴将に戦いを挑み、死亡した。

マーレイオルフェノク
ウツボの特質を備えたオルフェノク。常に「激情態」を維持しており蛇龍の姿に見えることから、〔CCG〕からはSS~レート「レヴィアタン」として駆逐対象とされている。生まれて間もなく死亡しオリジナルに覚醒した天性の殺戮生物。戦闘スタイルは「瞬殺」であるため詳しい能力は不明だが、生還した捜査官曰く「喰種に近い戦闘」らしい。


大学院に合格しました146です、お久しぶりです。
まず2か月も遅くなりましたが、今年も誕生日に度近亭心恋さんから本作の三次創作を頂きました!今年は壮間が主役となっております、是非お読みください!

https://syosetu.org/novel/229517/3.html ←ここからどうぞ

あと結構前にキャラ紹介を更新しておりました、そちらもどうぞ。
今回から掟破りのクロス無し、「ダンまち編」です。まずはなっげぇ世界説明とプロローグを。

今回も「ここすき」をよろしくお願いします!




EP17 ディエンド・オラトリアXXXX
未知(ダンジョン)


 

「この本によれば、普通の青年、日寺壮間。彼は2018年にタイムリープし、王となる使命を得た。未来から来た少年、光ヶ崎ミカドはウィザードの力を受け継ぎ、決意を新たに我が王と並んで歩むことになった。しかし……」

 

 

ウィルは本を開く。そこには、見覚えのない白いページと殴り書きされた「悪役」の文字。

 

 

「気がかりなのは、あの悪役……ディエンドのこと。最後の最後に全てを奪い去って行った彼は、新たな物語に進もうとする我が王たちを銀色のカーテンで攫って行ったのです。そう……全く未知の、冒険に胸踊る、『異世界』に」

 

 

「ちょっとウィル。誰に何を冷静に説明してるんだよ! それどころじゃないだろ俺たち!」

 

 

壮間に強い声を掛けられ、ふっと我に返るウィル。

そこは人が集う栄えた「都市」。しかし近代文明を象徴するようなコンクリートジャングルではなく、石造り、木造りの、壮間が知る所のヨーロッパのような街だった。

 

ただ一つ、この地を圧倒的な非日常と断定するのは、その街を行き交う亜人(デミ・ヒューマン)や、所々で聞こえる「冒険者」「魔法」という言葉。

 

 

「そうだね、失礼した。さぁどうなるのでしょうか、我が王の歩む冒険譚は……!」

 

 

簡潔な言葉で締め、ウィルは街中央の摩天楼に目を移す。

ここは迷宮都市オラリオ。青い悪役に誘われて迷い込んだ、物語のイレギュラー。

 

「仮面ライダー」が存在しない、正当な異世界である。

 

 

______________

 

 

「「異世界ぃ?」」

 

「あぁ。どうやらここは、私たちのいた世界とは別の世界と見て良さそうだ」

 

 

壮間と香奈が声を合わせ、使い慣れない言葉をウィルに返した。2012年から帰還したかと思ったら、その直後に全く知らない街に来てしまったのだからパニックに次ぐパニック。全く頭が情報を処理しきれていない。

 

 

「…ていうか、ウィルもいたんだ」

 

「嫌な予感がしたもので、咄嗟にあのカーテンに割り込ませてもらった。別の時間ならともかく、別の世界となると私も我が王を探すのは困難だからね」

 

「御託はいい。『異世界』とはなんだ、答えろ預言者。今俺達には何が起こってこうなっている。元の世界に帰る方法はあるのか」

 

「さすがミカド少年は鋭い質問をしてくれる。そうだね、異世界とは我々がいた世界とは根本から異なる世界のことだ」

 

 

壮間、ミカド、香奈に対し、ウィルはこう説明した。

今まで壮間たちが訪れていたのは、ある分岐点から派生した、現在とは異なる『分岐した時間軸』。それに対しこの世界は、人種、文化、世界の構造、文化の成り立ち、或いは物理法則さえも全く異なり得る、並行どころではない全く別の次元に存在する世界。

 

 

「あの青年、アオイは異世界を行き来する能力を有している。それが仮面ライダーディエンドの力だからね」

 

「ってことは、いくらタイムマジーンで時間を移動しようが、どんだけ遠くに行こうが、俺たちの知ってる日本には戻れないってこと!?」

 

「そうなる。私の知る限りでは、帰る手段は存在しない」

 

 

異世界にやって来て数分。己に降りかかった絶望だけを簡潔に理解し、壮間は猛烈な眩暈をそのまま溜息として吐き出した。ウィルの言う事には残念ながら信憑性がある。こんな突き当りってありかよと、人目が無ければ叫んでいたところだった。

 

 

「で……落ち込んでるのはまた俺だけかよ……」

 

 

顔を上げると目を輝かせる香奈。そして動じないミカド。

なんとなくそんな気はしていたが、こいつら飲み込みが早過ぎる。

 

 

「だって異世界だよ! ほら見て、エルフ! ケモミミ! 武器! ファンタジーじゃんこんなの!」

 

「食糧が無いわけでも環境が劣悪なわけでもない。無人島ならまだしも、ここは都市だ。情報さえ集めれば生き残るには苦労しない。怯える理由が無い」

 

 

予想通りの返答に呆れながら、壮間は自分でも比較的気持ちの整理がついていることに気付く。どうやら思っていた以上に、壮間たちは「非常識」に慣れてしまっていたらしい。

 

 

「異世界転生を受け入れる心になったようだね。それでこそ主人公だ」

 

「転生ってなんだよ……あぁもう、とにかく! 寝る場所とご飯…なんとかしようか」

 

 

______________

 

 

まずミカドの言う通り、壮間はウィルと、ミカドは香奈と共に、情報収集のために街を歩いて回ることにした。余りに冷静で何かを知ってそうなウィルを怪しみながら、壮間は街行く人々の会話に聞き耳を立てる。

 

 

「まぁそうだろうとは思ったけど、日本円は使えないよな……」

 

 

この時点で壮間たちは一文無しが確定した。先行きは最悪。

この「オラリオ」と呼ばれる街で使われる通貨は「ヴァリス」らしい。そしてもう一つ気になることが。

 

 

「異世界で、通貨も文化も違う。文字も読めない。それなのに言語は通じるの、なんかおかしい気がするんだけど」

 

 

そう、言語は通じるのだ。聞こえる会話は全て日本語。壮間の言葉も、この世界の人にしっかりと伝わる。

 

それに対しウィルは「この世界の共通語がたまたま日本語と同じようだね」と、馬鹿みたいな理論で受け流す。やはりこの男何か知っていそうだ。ディエンドのことも知っていたし。

 

 

「そうなるとどっかで働くか…でも身分証明もできない俺達がどこで働けるってんだよ。まじでどうしよっか……」

 

「我が王は働いた経験は?」

 

「無いよ。大学もバイト始める前に世界があんなんになって、高校生に戻ったわけだし。強いて言うなら職場体験くらいしか……うわ、働けるか不安になってきた」

 

「そうだったね。普通の大学生だった君は、私の一存で王となる使命を得たんだ」

 

 

普通に高校時代を過ごし、普通に大学生になり、普通に就職して一生を過ごすと思っていた頃が、もう遠い過去のようで自分の話だとは思えなくなっていた。あの平成が終わった日を境に全てが変わった。

 

そんな思い出を振り返っていると、これまで言葉にしなかったソレが、ふと壮間の口から零れ落ちた。

 

 

「なんで俺だったの?」

 

 

恨み言でもなんでもなく、純粋な疑問。

山のようにいる「主人公志望」の中で、ウィルは壮間を選んだ。その理由が知りたくなった。

 

はぐらかされる気もしたが、存外ウィルはしっかりと思考した後、その問いに答えた。

 

 

「そうだね。我が王は、この世界を見てどう感じた?」

 

「え……いやそりゃ、最初はどっかの国かと思ったし、変わった人種もいるんだなぁって」

 

「一般の君くらいの男子なら、少しは既視感を感じるものだ。ドワーフに、エルフに、猫人(キャットピープル)小人(パルゥム)といった亜人(デミ・ヒューマン)。そんな異世界ファンタジーに心躍らせたって不自然じゃない。姫君のようにね」

 

「そういうもんなの? でも俺、ファンタジーとかよく知らないし。エルフも名前くらいしか……」

 

「そう。君は知らないんだ。君は主人公になれない自分を貶めたくなくて、自分より眩しい人間を直視できなかった。だから君は……」

 

 

物語が嫌いだった。

非現実ほど辛かった。そんな自分も嫌で本を買ったりもしたが、結局冒頭だけ読んで埃を被った。主人公が自分とは違うと知った時点で、その先には行けなかった。今では少し考えにくい過去だ。

 

 

「だから私は君を選んだんだ。君の中にあったのは強烈な『主人公』への願望だけ。想像が作る世界の広さを知らない君だからこそ、真っ新な道をゼロから征けると思った」

 

「なんだそれ…聞いてもよく分かんないな、本当にそれが理由?」

 

「まぁ詭弁さ。実際の所はもう少し単純で幼稚な理由だよ。聞かせるのも恥ずかしいくらいにね」

 

 

結局はぐらかされ、時間の無駄を痛感した。

しかし振り返るとかつての自分とは随分と変わったと、断言できて安心した。少なくとも今は、自分より優れた「主人公」を直視できない、なんてことはない。

 

彼ら彼女らの生き様を、存在を学び、いずれ最高最善の王となるために。

 

 

「気を紛らわせる幕間話もこのくらいにして、生活基盤についてしっかりと考えようか。我が王」

 

「そうだよなぁ」

 

「さぁ知恵を絞り、異世界の人々と交流し、妙案を見つけるといい。なに、君はこんなところで行き詰る器ではないさ」

 

 

理想は何処かの店で住み込みだが、金もないのに店に入る勇気は無い。というか、この街は壮間の世界に比べて持っているモノと言い、人々の様相と言い、明らかに治安が良く無さそうなのだ。

 

となると靴でも磨くか、道端で芸でもするか。

 

……ミカドが媚び諂う姿が想像できない。

 

そもそも、そういうのは街の役所みたいなところで許可を貰うんじゃなかったか。いや、世界が違うのだから壮間の常識なんて役に立たないはずだ。

 

頭が痛くなってきた。

 

そんな内に内に狭まっていく壮間の意識が、一瞬だけ別の方向に向いた。香りだ。慣れない世界で何処か馴染みのある香ばしい匂いが、壮間の鼻腔を刺激したのだ。

 

 

「あれは……食べ物売ってる露店か。露店で何かを売れば…いやそれ結局許可とかいるじゃん。いや…そうだ、その手があった!」

 

「おっと…? なにか思いついたみたいだね」

 

「換金すればいいんだ。別に俺達が店を出さなくたって、持ち物いくつか換金すればしばらくは暮らせるかもしれないだろ」

 

「なるほど。確かに、ここは異世界だ。この世界に存在しない物品があればそれなりの金額にはなるだろうけど、我が王は何を……」

 

 

そこまで言ってウィルは瞳孔を見開き、言葉を忘れた。その答えは壮間が既に掲げていたのだ。彼の手にはジクウドライバーとファイズフォンXとタカウォッチロイドが。

 

 

「待ちたまえ我が王」

 

「どうせ予備あるんでしょ。壊れたりもするだろうし」

 

「あるが……そうじゃないんだ。それは君が王になるための資格そのもの。それを売り払うというのは少し了承しかねるというか」

 

「資格はウォッチの方だろ? 予備あるならいいじゃんか、このまま飢え死ぬよりは全然マシだって。さて、質屋はどこかな」

 

「だから待つんだ。そうじゃない。ライダーギアを売却アイテムと見なすのではなく、もっと別の場所に答えが……!」

「あるんだな? 何か考えが」

 

 

ウィルが口を滑らせたと同時に壮間はドライバーを下ろし、そこで「しまった」とウィルは駆け引きの敗北を自覚した。そのまま逃がしはしないと、壮間は更に詰め寄る。

 

 

「やっぱり知ってるんだろ。この世界のこと。いつものことだけど、俺たちを誘導してるのがなんとなく分かった。てことはお前にとってこの世界は未知じゃないってことだ」

 

「……それは」

 

「預言者っていうのが何者なのか、そういう話は…気になるけど今は別にいい。ただシンプルに緊急時なんだよ今は。勿体つけてないで、考えがあるならさっさと言え」

 

「全く……君はもう少し状況を楽しむというのをした方がいい。少しは姫君を見習うべきだと思うけどね。こういう所で現地民と触れ合うのも異世界の醍醐味だというのに」

 

 

そりゃ余裕があるなら観光だってしたいが、ここは完全に道筋から離れた世界。壮間の想像の外側。加えてメンバーはいつもの面子。どうやったって不安が勝つに決まっている。

 

観念したウィルから現状の打開策が語られた。

 

 

「この世界で…いやこのオラリオで職といえば、『冒険者』しかないだろうね」

 

「冒険…者? 探検家ってこと?」

 

「いや、そうじゃない。別に森や遺跡を調べるわけじゃない。冒険すべきは、この『下』だ」

 

 

ウィルは自分達の足元を指差し、『冒険者』なる職業の仔細を壮間に伝える。その一通りを聞き終わった壮間の反応はと言うと、

 

 

「レベル…? モンスター? ダンジョン??」

 

「この話でここまで首を傾げれるのも、まぁ珍しいだろうね」

 

「いや単語とかゲームっぽいなぁとは思うけど、俺ゲームとかあんましたことないし……え、それって現実の話だよな」

 

「現実さ。人間の想像の数だけ世界がある。最も、この世界ではもっと分かりやすい存在がそういったユニークな構造を生み出したんだけどね。さて、どうにも理解できていないようだからもう一度」

 

「……待った。折角だし2人にも一緒に聞いてもらおう。まずそっちの話を聞くべきなんだろうけど…」

 

 

目立って見覚えのある服が視界に入ったので振り返ると、疲れ果てた様子でヨロヨロと歩いて来るミカドと香奈がいた。思っていたよりも早い合流だったが、真っ先に飛び出たのは得た情報の共有ではなかった。

 

 

「ソウマ! 助けて!」

「日寺! 片平をなんとかしろ!」

 

「なんだなんだ、落ち着けって」

 

「少し目を離したら見知らぬ種族に話しかけ、追いかけ、ベタベタと触り回り! 挙句に勝手に触った店の商品を割りやがって! 馬鹿か貴様は! 金を稼ぐつもりが借金だ!」

 

「だってポーションだよ!? あのHP回復するアレよ!? まぁ割ったのはお店に悪かったけど…そーいうミカドくんだって、お金持ってる恐そうな人に突っかかって大喧嘩したじゃん!」

 

「俺は金を稼ぐ方法を訪ねただけだ! 先に手を出したのはあの連中だろう!」

 

「うん、お前らがまともに働けなさそうなのは理解した。ウィル、さっきの話を2人にも」

 

 

この短時間でトラブルを起こすのは、癖の強い2人が起こした化学反応だろうか。異世界に浮かれている2人を解き放つわけにもいかないので、壮間はその『冒険者』という職に希望を賭けることにした。

 

 

「では改めて…ここは迷宮都市オラリオ。その名の通り、この街の地下には迷宮……ダンジョンが広がっている」

 

「ダンジョン!! って、あのモンスターとかボスとかいる、あの!?」

 

「そう。モンスターもいるし階層主と呼ばれるボスも存在する」

 

「ダンジョンにモンスター、ポーションにエルフ! すごいっ! 本当の本当にまるでゲームの世界みたい! テンション上がるぅ!」

 

「見たまえ我が王、これが正常な反応だ」

「いいから話続けろよ」

 

 

ウィル曰く、『冒険者』とは迷宮のモンスターを倒し、モンスターの体から手に入るアイテムを換金して生計を立てる職業らしい。オラリオには複数の【ファミリア】と呼ばれる派閥が存在し、冒険者たちはいずれかの【ファミリア】に所属してダンジョンに潜るという。

 

下の階層に行けば行くほど、手に入る金も多くなる。

より強いモンスターを討伐すれば、世はそれを讃える。

冒険者とは、富と名声を求めて命を懸ける人々のことだ。

 

 

「強いモンスターと戦うためには相応の装備が必要…この街に武器屋や薬屋が多いのはそれが理由か」

 

「あとなんだっけ。レベルがどうとかって…」

 

「下の階層に行くには『レベル』を上げ、器を昇華させる必要があるというだけさ。君達との関係は薄い話だが」

 

「階級付けの類だろう。よし、決めたぞ日寺。俺は冒険者になる」

 

 

即断即決。ミカドは話を聞くと、早々に冒険者になることを決めた。こういう場合では珍しく、壮間も概ね同意見だった。

 

 

「普通は装備代とかもかかるだろうけど、俺達は変身すればオーケー。元手はかからないな」

 

「生身の人間が武器を持った程度で稼げるのなら、変身ができる俺達は俄然有利だ。これほど都合のいい金策があるか」

 

「そうと決まれば、早速ダンジョンにゴー!」

「お前は留守番に決まってんだろ!」

「えーなんで! 私もダンジョン行ーきーたーいー!」

 

 

変身できない香奈を連れて行くのは流石に危険だ。

ごねる香奈をウィルに押し付けると、壮間とミカドはダンジョンへと向かう。

 

地下迷宮への入口は、街の中央に聳え立つ摩天楼施設(バベル)、その一階。身分の証明も必要無い。ダンジョンは来る者を拒まない。

 

あれだけ目立つ建造物だ。バベルに辿り着くのには苦労しなかった。そしてその一階に存在する大きな穴。地下へと続く石の螺旋階段。間違いなくアレが、ダンジョンへの入口。

 

 

「行くぞ」

「よし!」

 

 

ダンジョンに潜入する前に、2人はドライバーを装着。

他の冒険者が装備を揃えて挑むように、壮間とミカドも変身して未知へと挑戦する。

 

 

「「変身!」」

 

 

________________

 

 

ダンジョン1階層

薄い青色の岩肌が続く洞窟。人の手が入り、加工されたような様子は見受けられない。人工物ではない、天然の迷路だ。何故こんなものが都市の地下に存在するのだろうか。

 

 

「早速お出ましか」

 

「確かに…あれはどう見てもモンスターだよな…」

 

 

洞窟の奥へと進むジオウとゲイツが、明らかに人ではないシルエットを捉えた。小鬼のモンスター『ゴブリン』が2体。視線が合った瞬間、ゴブリンは条件反射のように躊躇いなく襲い掛かってきた。

 

その形相に驚きこそすれど、速度は大したものではなく、ジオウもゲイツもその小さな体を殴り飛ばして壁へと叩きつける。

 

確かな手ごたえが示す通り、一撃でゴブリンは動かなくなった。

 

 

「死んだか」

 

「倒した後爆発しないっていうのは、ちょっと嫌だけどな…」

 

「こんなモンスターが地上付近に湧いて出るようでは迷惑千万だ。冒険者が駆除の役目を担っているということだろう。そこをどけ」

 

 

ゲイツはゴブリンの死体を持ち上げると、指でその胸部を裂き、心臓部分にある『鉱石』を見つけ、摘出した。その石を失ったゴブリンは粉になって消滅する。

 

 

「死体が残らないのか……オルフェノクに似ているな」

 

「ミカド、それが」

 

「『魔石』。これが冒険者の収入源…魔力を持った結晶」

 

 

ウィルやミカドと香奈が得た情報によれば、モンスターの中に必ず存在するというこの『魔石』は、地上で様々な技術に活用されるらしい。例えば街灯や発火装置など、壮間たちの世界における電力の役割を果たしているようだ。

 

 

「この世界では科学技術を魔法が代替しているようだな。言われてみれば、この結晶からは微弱な魔力を感じる」

 

「魔力とか分かんの?」

 

「ウィザードの力を受け継いだ影響だろうな。それまで知覚できなかった『流れ』のようなものを感じるようになった」

 

「ふーん……なぁ」

「断る」

 

「まだ何も言ってないんだけど」

 

「ウィザードウォッチを使わせろと言うんだろ。俺と貴様は依然、ライダーの力を取り合う敵同士だ。敵に塩を送るような真似はしない」

 

 

ライダーの力を受け継ぎ、壮間は王様を、ミカドは救世主を目指している。それが今の状況だった。これは前よりも進歩したと見ていいのだろうか。

 

またもウィルからの情報だが、1階層で取れる魔石の価値などたかが知れているらしい。より稼ぎたければ更に奥へ、下へ行く必要がある。

 

 

「とりあえず行けそうな所まで進んでみるか。この感じだとまだまだ先に行けそうだし」

 

「魔石は貴様が持て。どうせモンスターの解体は出来んだろう」

 

 

1階層に出現する「ゴブリン」や獣頭の「コボルト」などを討伐し、魔石を回収。2人はスイスイと先に進んでいき、直に下の階層へと続く道を発見した。

 

ダンジョン2階層。

風貌は1階層と変わらないが、地上から離れた分少し暗くなったか。それでも充分に明るい。どうやら地上の光が射しているわけではなく、ダンジョンを構築する石なんかが自ら発光しているように見えた。

 

ここも特には変わらず、壮間たちは先へと進む。

強いて言うならトカゲのモンスター『ダンジョン・リザード』や一つ目カエル『フロッグ・シューター』が現れたが、特に苦戦することもなく討伐。

 

 

「ん…魔石取ってもモンスターの牙だけ残った。これも一応持っとくか…」

 

 

モンスターを倒しても、稀に消滅せず残る部位が存在する。それらは『ドロップアイテム』と呼ばれ、種類によっては魔石よりも遥かに高い価値を持つ。香奈がいれば「ゲームっぽい!」と飛び跳ねていたことだろう。

 

ジオウとゲイツは同じように階段を見つけ、3階層、4階層と進んでいく。ここまでで数十分足らず。道筋も特に迷うような場所はなく、順調に魔石を集めて先に進んでいった。

 

様子が変わったのは、4階層を過ぎた所からだった。

 

ダンジョン5階層。

壁面が薄緑色のものに様変わりした。それに伴ってか、階層の構造も複雑になっている気がした。

 

 

「……おいミカド、これ道に迷って帰れないーなんてオチ、無しだからな」

 

「黙れ」

 

「じゃあ俺が壁に目印付けとく。帰りはそれを頼りにしよう。道に関しちゃミカドは全く頼りになんないし……」

 

「死ね」

 

 

ジオウはジカンギレードを使い、適宜道筋を示す目印を壁に刻み、更に奥へと進んでいった。

 

そこから先は現れるモンスターの種類も増え、同じゴブリンやコボルトでも、最初に出てきたものより強い個体が現れるようになっていた。特にアリのモンスターは数も多く強かった。

 

しかし、いずれも仮面ライダーのスペックで対応できる程度。アーマータイムを使うこともなく、ジオウとゲイツは淡々と勝利を納めていく。そうして2人は10階層まで到達した。

 

 

「霧……!? くっそ、前が見づらいな…」

 

 

10階層を少し進むと霧が2人の視界を支配した。最初は薄い霧だったものが、先へ進むほど濃くなっていく。階層を進み、12階層まで来るとそれは致命的とも言えるほどだった。

 

ただでさえ迷子の恐れがあるのに、これでは印を付けても意味が薄い。それだけに留まらず、足元から感じる感触は植物。辺りに広がっているのは草原だ。

 

ここまで来ると、壮間たちもダンジョンという存在を少しずつ理解し始めた。

 

まず、階層は下に行けば行くほど広くなっている。それだけ探索が困難になるということ。そしてこの霧や草原のように、下層に行けば環境までもが大きく変化し、モンスターも強くなる。

 

このダンジョンはどこまで下に続いているのだろう。

この最下層には何が眠っているのだろう。

進めば進むほど謎が増え、難解になっていく。これがダンジョン。

 

なんとなく、正体不明の不安が、壮間の想像を過ぎった。

 

 

「……ミカド、そろそろ鞄もいっぱいだ。香奈も待ってる」

 

「仕方がない。今日はここで一旦戻るとするか───こいつらを片付けてからな」

 

 

霧の奥に潜む幾つもの気配に、ゲイツは殺気を向けた。

ダンジョンに潜って初めて、四方を囲まれた。霧を裂いて突撃する豚の大型モンスター『オーク』に、厄介だったアリのモンスター『キラーアント』たちだ。

 

 

「蟻は貴様が駆除しろ! 俺はこの豚を倒す!」

 

「俺いつぞや虫嫌いだって言ったよな!?」

 

 

ジオウはジカンギレードを、ゲイツはジカンザックスを持ってモンスターを迎え撃つ。キラーアントの硬い甲殻をジオウが叩き割って行く中、斧を振りかぶるゲイツに対し、オークは地面に突き刺さる大木を『引き抜いた』。

 

 

「なんだと…っ!?」

 

 

ゲイツの斬撃を受け止めたオークの大木は、ただの木ではなく優れた強度を持つ「武器」と成っていた。迷宮の武器庫(ランドフォーム)。ダンジョンがモンスターたちに装備を「提供」する、厄介な仕様。ギミックだ。

 

だが、腕力や速度はまだゲイツの方が上を行く。僅か数撃のやり取りで棍棒を空に弾くと、ゲイツの斬撃がオークの体躯を真っ二つに両断した。

 

ジオウの方も危なげなくキラーアントを処理できたようだ。予定通りここらで見切りをつけ、地上に帰還するのが得策だろう。

 

 

少なくとも2人は、そのつもりだった。

それを許さなかったのは他でもない。『ダンジョン』だ。

 

 

ビキビキビキビキッ!!

何かが割れる音が12階層、2人がいる『ルーム』に響いた。

音を産んでいるのは薄い霧の向こう側。ぼんやりとした視界で、それでも鮮明に、目撃してしまった。

 

 

「壁が破れてる…!? いや違う、まさか……!」

 

 

ミカドも壮間も疑問に思っていた。

街にあれだけいる冒険者。あれらが全てモンスターを狩っているとしたら、こんな閉鎖空間に存在するモンスターなんてあっという間に根絶やしにされてしまうはずだ。

 

信じ難い一つの仮説が事実として立証された。

壁から這い出る文字通りの黒い影が、一つ、二つ、次々と現出する。まるで卵の殻を破るように、ダンジョンの破片が地に落ち、ソレは両足を現世に降ろした。

 

 

「そんな馬鹿な話があるか。()()()()()()()()()()()()()()()()()のか!? 」

 

「待って待って、それってかなりマズいんじゃ…!? ダンジョンが産んでるってことは!」

 

 

限りなく確信に近い強烈な予感に駆られ、2人は来た道を逆走する。壮間は「ダンジョンが生きている」という連想から、ミカドは「ダンジョンの壁が勝手に割れる」という事象から、同じ答えを導き出し、そして信じたくない窮地を自覚してしまった。

 

「ダンジョンは再生する」。

つまり、ここまで付けてきた目印は、とっくに再生され消失してしまっていたのだ。壮間とミカドは、帰る道を失った。

 

更に、生まれ落ちた影法師のモンスター『ウォーシャドウ』の大群が、退路も進路も塞ぎ尽くす。一つのエリアにおけるモンスターの大量発生、「怪物の宴(モンスターパーティー)」。

 

 

「っ……! 他にも冒険者がいた、帰り道は教えてもらおう! 今はここを切り抜けるぞ!」

 

「誰に指図をしている!」

 

 

光を逃さない漆黒の両腕はかぎ爪を備えており、ヒュンと空を斬ってジオウの装甲に傷を付けた。パワーと速度はここまでのモンスターの中でも指折り。何度もは喰らいたくない攻撃に、平常心が乱される。

 

 

(1体の力はいつも戦ってる怪人よりは弱い。でも……多い! 加えて霧で視界も悪い…!)

 

 

予想以上に厄介な敵を相手に、先に痺れを切らしたのはゲイツだった。ジカンザックスにウォッチをセットし、四方から迫るウォーシャドウを一気にぶった斬る。

 

 

《ゲイツ!ザックリカッティング!》

 

 

高エネルギーで練り上げられた必殺攻撃は、威力もさることながら、例え異世界のモンスターだろうと炸裂の後に爆発を引き起こす。爆炎は霧を食い潰し、体内の魔石ごと木端微塵に砕かれたウォーシャドウの体組織は瞬く間に塵へと還る。

 

だが、敵が潜むのは2人が意識を向けていた「周囲」だけではなかった。気配を音として感じる。そしてパラパラと、ダンジョンの破片が「上」から降って来たのが決め手。

 

天井から生まれた飛行する蝙蝠のモンスター、『バットバット』の怪物の宴(モンスターパーティー)

 

 

「ふっざけんな! またかよ!!」

 

 

勿体ぶる理由もない。ジオウが別のライドウォッチを使おうとすると、まるでそうはさせないように次々と突撃するバットバット。モンスターは生まれてすぐに冒険者を襲う。()()()()()()()()()()()

 

その身を動かすのは本能と衝動。それは時に、どんな悪意にも勝って冒険者を苦しめる。

 

 

「しまっ……!」

 

 

手に取ったダブルウォッチが離れ、空に放られた。それだけは失くす訳にはいかないという焦りが、ジオウの腕を伸ばし、体勢を崩しながらもなんとかキャッチする。

 

そこに襲い掛かるのはバットバットの攻撃。

ただの攻撃ならば問題はなかった。未だ地力はジオウとゲイツの方が遥か上。

 

しかし、バットバットが繰り出したのは「超音波」。身体のスペック、装備の性能に関与しない初見回避不可能の攻撃が鼓膜を襲撃する。脳が揺れる。平衡感覚が、くらり、ぐらりと、まわる。

 

壮間が認識したのは転んだという事実のみ。そこから先は上下が分からない時間が続く。

 

()()()()()()()()と気付いたのは、数秒後だった。

 

 

「日寺ぁっ!!」

 

 

ゲイツの声が上に昇って行く。いや、ジオウが落ちている。ジオウがふらつき、倒れ込んだその場所は、下の階層へと続く『穴』だった。

 

壮間はここが正確に何階層なのか把握していない。

2連続の怪物の宴(モンスターパーティー)に襲われた時には、既に12階層の端───13階層への入口の寸前だった。モンスターの対処をする過程で、2人は下の階層へと続く坂道を下ってしまっていたのだ。

 

よって、ここは13階層。冒険者が「中層」と呼ぶ、最初の死線(ファーストライン)。ここから先は正規のルート以外にも、下の階層へと続く「縦穴」が発生する。ジオウはそこに落下したのだ。

 

 

「───があッ!!」

 

 

長い落下時間を経て、ジオウは無様に岩盤へと叩きつけられた。

一体何メートル落下したのか。衝撃で身体が悲鳴を上げていると同時に、結構な時間を戦闘に費やした結果の疲労感が襲ってきた。

 

ジオウはダブルウォッチを用い、風による飛行で上階層に戻ろうと上を見上げた。が、その高い天井には既に穴は存在しなかった。上階層への帰還は不可能。ミカドと完全にはぐれた事になる。

 

 

「ダンジョンの再生……! そんなことってあるかよ、まるで───」

 

 

怪物の宴(モンスターパーティー)』も、『霧』も、『縦穴』も、ダンジョンではありふれたギミックだ。しかしそれがこうも立て続けに襲い掛かることは、反転した奇跡としか言いようがない。まるでダンジョン自体が悪意を以て、壮間たちを殺そうとしている。そう思いなくなる程に。

 

しかし、実態はそうじゃないと、壮間も薄々感じていた。

壮間は知らなかったのだ。出現するモンスターの知識、ダンジョンの地形や順路やギミック、予期される事故や危機。壮間は異世界の人間、普通の冒険者が身につけて然るべき知識を、壮間は何一つ知らなかった。

 

 

「気を引き締めろ俺…まだ、いるぞ…!」

 

 

階層が変わったのだ。冒険者の都合など考えず、モンスターは絶え間なく現れる。しかもこの心の臓を侵食するような窮地に、少々嫌な思い出を想起する生物。

 

 

「よりにもよって犬かよ!」

 

 

送り狼、とはまた違う。確かに「犬」だ。だが犬と言うには大きい、バイクくらいの───恐らく速度はそれ以上の───モンスターの群れが暗闇から喉を鳴らす。その名は『ヘルハウンド』。

 

そして、一つ壮間に降りかかった災難を付け加えるとするなら、壮間が落下したのは2階層分。ここは『15階層』だ。

 

 

『グガアアアアゥッ!』

「っ…! 重っ!?」

 

 

中層からはモンスターの強さが飛躍する。上層から一気に落ちた結果、ジオウを襲うのは想像を遥かに超える強さのモンスターたちだ。

 

問答無用で肉薄する暴威の塊がジオウの腕に喰らい付いた。想像以上の衝撃でジオウの体がよろけ、ホルダーに収まったウォッチに牙が立てられる。

 

 

「それはエサじゃねぇよ、離れろ!!」

 

 

腕を振るい、腕力と遠心力で引き剥がしたヘルハウンドの首を、ジオウの剣が断ち切る。だが、その動作の間にも次の、そのまた次のヘルハウンドが、まるで弾幕を張るように突進していた。

 

 

《ダブル!》

 

《アーマータイム!》

《サイクロンジョーカー!!》

《ダ・ブ・ルー!》

 

「一気に…吹っ飛ばす!」

 

 

召喚されたメモリドロイドはそれぞれ一匹ずつヘルハウンドを蹴散らすと、鎧としてジオウと一体化する。ダブルアーマーを纏ったジオウは、喉元目掛けて飛来するヘルハウンドを全力で蹴り上げた。

 

閉じた迷宮で突き上がる風の噴火。体に風穴を開けたヘルハウンドは天上に衝突して崩れ去り、軸足をそのままに繰り出された回し蹴りが、もう一体のヘルハウンドの頸を刈り取る。

 

 

(まだ奥にいる……ていうか、他のモンスターも来てる!?)

 

 

中層は上層よりも早くモンスターが産まれるし、冒険者に休む暇を与えまいと寄ってくる。元より魔石を回収する余裕は捨て置いた。モンスターの包囲網が薄いうちに突破し、上の階層に戻ろうと考えた、その時だった。

 

暗闇の中で赤い光が幾つも灯った。その光はヘルハウンドの貌を照らし出し、唸り声と共に強くなる。パチパチと弾ける光の粒。火花。

 

疲労と倦怠が生んだ僅か数秒の虚の先。

ジオウはそこでようやく、判断が遅れたと確信した。

 

ヘルハウンドの群れが一斉に口を大きく開け、それは解放された。ダンジョンの通路を埋め尽くす大爆炎、炎熱。ヘルハウンド、通称『放火魔(バスカヴィル)』の一斉火炎放射。

 

 

「───ッ!!?」

 

 

炎が止んだ。朦々とした煙と暗闇の牢獄の中で、赤く燃えるのはヘルハウンドの死体。その光と僅かな気配を頼りに、ジオウは炎を吐き終わって疲弊したヘルハウンドを仕留めた。

 

 

「ッ、はぁ…っ! ……ぁぐっ…!」

 

 

ジオウは膝をつき、灼けて熱い全身を鎮めるように呼吸を整える。今の戦闘で体力をごっそり持っていかれた。ジオウの持つウォッチの中で性能が最も高いのはダブルだが、防御性能の面では他に劣る。使うウォッチの判断を誤った。

 

今日の壮間は特に冴えていなかった。ここが常識から異なる異世界だからだろうか、この未知だらけの空間で、壮間の想像力が全くと言っていいほど機能しない。

 

 

「こんなとこで…異世界なんかで……死ねるかよ!」

 

 

暗闇の中、順路もわからず、ここまでの道を戻らなければいけない。その気が遠くなる生存条件を、壮間は上で待つミカドと香奈の顔を思い浮かべ、飲み込んだ。大丈夫だ、どこまで信用していいか分からないが、まだ死ぬ気はしない。

 

まずは顔を上げる。

瞬きの間に何かが通り過ぎたような感覚がした。

これは覚えのある感覚だった。

 

気付けば壮間が居たはずの洞窟は、僅かに明るい平原と化していた。

 

 

「……ヤバい」

 

 

もう何がどうなっても驚かないと半ば思考を投げ捨てていた壮間だったが、空間が切り替わった瞬間に迫り来る危険信号。息を吹き返す嫌な想像。また別の異世界に迷い込んだような。

 

『ここ』は、マズい。

 

 

『ガダデデ・ブザブ……!』

 

 

音? 泣き声? 否、言語。

壁を突き破って生まれたその「モンスター」は、理解不能な言葉を無意味に発すると、爆進。ジオウの戦慄に畳み掛ける。

 

焦げたように暗い茶色の肉体が、砲弾の如く正面からジオウに激突する。重い、なんて次元じゃない。骨が砕ける。生身で自動車に撥ねられたらこんな感じなんだろうと、激痛の中でそんな阿保らしい考えが飛び去った。

 

 

「『違う』……! いくらなんでも強過ぎる…!!」

 

 

イノシシのような姿だが、体格は人型だ。しかし、ベルトや腕の防具といった装飾をしている。なんだコイツは。ダンジョンから生まれた以上モンスターなのだろうが、違和感が主張を続ける。

 

下層に行くほどモンスターが強くなるとはいえ、それは少しずつ刻んだものだった。コイツの強さは不自然過ぎる。ジオウが全快でなければ勝負にならない程に。それを抜きにしても、このモンスターは『違う』。

 

立ち上がった途端に迫る右拳。風の力で後方に衝撃を逃がすが、それでも致命傷には充分な衝撃がジオウを貫き、拳圧はその身体を10mは離れた壁に叩きつけた。

 

 

血の味を感じながら再び顔を上げる。

視界に入ってくる光が少ない。手に伝わる岩肌の感触。

さっきまで目の前に広がっていた平原も、あの猪男も、まるで夢だったかのように消えていた。

 

助かった、なんて安堵できる訳も無い。

触覚も視覚も、間に何も挟まらず、鮮明。つまりダメージ過多で変身が解けている。この怪物の巣に生身でいることは、則ち「死」だ。

 

 

「早くっ……変身を……!」

 

『───ウヴォ』

 

 

鈍く、湿度を持ったように脳裏にへばり付く、獣の声。匂いが、気配が、近づく足音が途轍もなく重い。何も知らない壮間でさえ、それが冒険者の恐れの対象であることを考えるまでもなく確信した。

 

隆々とした暴力の象徴のような肉体に、牛の頭、蹄、圧倒的に怪物。天井の燐光が照らし出したその姿は、壮間の世界では迷宮の支配者と呼ばれる存在───『ミノタウロス』。

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

 

意識だけが、遥か後方に突き飛ばされた。その瞬間に死をも錯覚した。本能が抗うという選択肢を放棄した。脆弱な冒険者の心を破砕し、強制停止(リストレイト)させる、ミノタウロスの『咆哮(ハウル)』。

 

迫り来る鈍重な足音。あれに頭蓋を潰されれば死ぬ。

丸太のような太い腕。あれに捕まれば絶対に死ぬ。

何をされても死ぬ。生身では数秒も生存できない。

 

咆哮を喰らって身体が言う事を聞かない。

あのモンスターに負わされた傷が激しく痛む。

飲まず食わずで体力が枯渇している。

 

奴の攻撃の前に停止状態を解き、この体で変身し、ミノタウロスを倒し、地上に帰還できるか。思考なんて無意味だ。元の世界に帰り、王になるために───

 

 

「やるしか……ないだろ……!!」

 

 

 

 

───リン、リン、リン

 

 

死の淵に立つ壮間は、確かに聞いた。

幻聴に非ず。確かにこの理不尽な現実で、魔窟の中で鳴り響いた音。生命と勇気を鼓舞するように繰り返す、(チャイム)の音。

 

視界の裏から光が漏れ出す。それは神速を以て壮間を追い越した。

 

 

「人……?」

 

 

壮間が捉えたのは、地を滑るように跳躍する白色。その流星はミノタウロスに肉迫し、光の粒を帯びた漆黒の刃が円弧を描く。

 

瞬間、迸る。鋭さを持った閃光の斬撃。

ミノタウロスの左半身が白き光に呑まれ、体を離れた左腕が吹き飛び、塵となった。

 

絶叫の『咆哮(ハウル)』が再び15階層を揺らす。

明確な憤怒を張り巡らされた爆音に『彼』は全く動じず、右側だけとなったミノタウロスに掌底を向け、叫ぶ。

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 

殺気すらも追い越して轟き、敵を討つ、火焔の稲光。

速攻で放たれた『魔法』の一撃がミノタウロスを灼き滅ぼした

 

自分ではない誰かが来た。その事実で壮間を立たせていた精神の糸が途端に切れ、操者を失った人形のように膝から崩れ落ちる。

 

狭窄する意識の中で壮間が見たのは、炎で揺れる白髪と、痛いほど愚直な意思を魅せるように輝く、深紅(ルベライト)の瞳───

 

 

_______________

 

 

「アオイ」

 

 

青年は名を呼ばれ、振り返るでもなく空を見上げる。このダンジョンの世界、迷宮都市オラリオから見る空は美しい。だが街は円形の壁に囲まれ、入るは易し出るは難しの不自由な都となっている。

 

悪役は自由を愛し、不自由を最も嫌う。故にアオイは都市を囲むこの壁の上で黄昏ている。彼に会いに現れたマティーナは、それが気に入らないようだった。

 

 

「ねぇアオイー、ここ寒い! あと高いの嫌いー!」

 

「はは、ごめんよマティ。悪役は高い所が好きなものなんだ。見下ろす快感というのは中々代え難い価値を持つ。もっとも、この世界には更に上の視点を持つ超越存在(デウスデア)がいるんだったね……」

 

 

アオイは都市中央のバベル、その上部に視線を上げると、すぐに双眸をマティーナに移した。

 

 

「まぁ君とは次元の違う話さ。それでマティ、彼らは何処まで?」

 

「そうそう、そーなの。えっとねぇ…ジオウの子がいま15階層」

 

「初潜入で中層! まぁ、仮面ライダーの性能なら【恩恵(ファルナ)】無しでそこまで進むのも、容易に頷ける話かな。さて…死なれても困る。いつ、どう助け船を出すのが美学か……」

 

「んー…いらないっぽいかも。ジオウの子のとこ、誰か来た。可愛い系の男の子…真っ赤な目で白い髪の……ウサギちゃん?」

 

 

この世界でその特徴。アオイが以前この世界を訪れた時、出会った彼だと確信し、街にまで聞こえるような高笑いを空に響かせた。

 

 

「もう出会ったのか…それでこそ壊し甲斐があるというものさ。君達の矜持を、価値観を、美学を。悪役(ヒール)とは鮮やかに主人公を否定する存在。この世界の主人公は君だ」

 

 

世界最速兎(レコードホルダー)未完の少年(リトル・ルーキー)

神に愛されたヒューマンの少年。憧憬を燃やす若き冒険者。その名は、ベル・クラネル。

 

王を目指す少年と、英雄に憧れを抱く少年が出会った。

イレギュラーは動き出す。世界が求めていない物語を、彼は導く。

 

 

「さぁ僕らも動こうか、マティ。この世界に流れ着いた『お宝』を獲りに行こう」

 

 

これは、少年が歩み、女神が記し、悪役(ディエンド)が搔き乱す幕間の物語。【世界の冒険譚(ディエンド・オラトリア)】。

 

 




ダンまち編は前後編ではなく単一エピソード完結を予定しております(5~6話くらいかな?)
原作履修者に予め時系列を伝えておくと、異端児編の直前です。まだ見たこと無いって方は偶然たまたまいまアニメやってるので、そちらかアプリで読める漫画版を是非。(漫画版は戦争遊戯編無いけど……)

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