盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ 作:タコス13
勇者達は決闘の後、客間にて夜を過ごし翌日の朝に謁見の間に集められた。
「では今回の波までに対する報奨金と援助金を渡すとしよう。」
どうやら毎月決まった金額の援助金の他に、なんらかの活躍に応じた報奨金も出るようだ。
「モトヤス殿には活躍と依頼達成による期待にあわせて銀貨4000枚。」
元康は国王の前まで移動すると、国王の側近から大きな金袋を受け取り満足気に笑みを浮かべる。
国お抱えの魔法使いの腕が良かったのか、折れた前歯や鼻等は完治したらしい。
「次にレン殿、やはり波に対する活躍と我が依頼を達成してくれた報酬をプラスして銀貨3800枚。」
錬も側近から金を受け取るが、元康とマルティを交互にちらりと見遣り、不服そうに鼻を鳴らす。
「そしてイツキ殿……貴殿の活躍は国に響いている。よくあの困難な仕事を達成してくれた。銀貨3800枚だ。」
樹も同様に金を受け取り、錬ほど露骨ではないがどこか不満そうな顔をしていた。
「盾、貴様には援助金として銀貨500枚......だが、昨日の決闘によりモトヤス殿や兵士達に負わせた傷の治療代や装備の修復代を差引いて、ゼロだ。」
国王が忌々しげに烈を見ると、とんでもない事を言ってのける。
烈は口を開こうとしたが、意外にも元康が割って入った。
「待ってくれ王様!昨日の決闘は俺が望んでやった事だ!差っ引くなら俺の金から差っ引いてくれ!」
「その必要はありませんわ!あの決闘のルールとして、負けを認めるか、トドメを刺す寸前までだったはずです!盾の勇者は既に倒れたモトヤス様にトドメを刺そうとするどころか、止めに入った我々の魔法に対する盾に使ったんですよ!?それに盾の奴隷は、先に我が軍に攻撃を仕掛け負傷させた挙句に、他の勇者様にまで襲いかかったんです!」
国王にそう進言する元康に、今度はマルティが話に割り込む。
「そ、それは.........」
マルティの言葉に言い澱み、言い包められそうになる元康。
「俺の目にはトドメを刺そうとしてるようには見えなかったし、元康が倒れた時点で、烈の勝ちを認めてやれば良かっただけの話じゃないのか?それに、樹はどうだか知らないが、俺はラフタリアが兵士を殺しかねない勢いだったんで止めに入っただけだ。今回は、あんたらが悪い。」
錬がマルティに向かってそう言い返す。
「そうですね。あの時は、ラフタリアさんがあまりに強くてああ言ってしまいましたが、僕も同意見です。王様、お金を払ってあげるべきです。」
錬に続いて、樹が国王にそう意見する。
「ぐ.........わかった。盾の勇者に援助金として、銀貨500枚を支払おう。だが、それだけだ。話は終わりだ、さっさと去れ!」
国王が苦虫を噛み潰した様な顔でそう言えば、側近が金袋を放る様に手渡し、吐き捨てる様に国王がそう続ける。
「言われなくとも、そうする。」
「ええ、こんな所で無駄な時間を過ごしてる暇はありませんからね。」
国王など眼中に無いという態度の烈に、嫌味を言いながらあとに続くラフタリア。
「ちょっと待て、烈。」
城を後にしようとする烈達を呼び止める錬。
「何だ?」
「そのチートの盾はどこで貰った?」
振り返る烈に、唐突にそう問いかける錬。
「チート?何のことだ?」
あまり聞き慣れない言葉だが、確かズルだとかそういった意味であると思い返す烈。
「隠したって無駄だぞ。盾にそんな攻撃力があるわけねぇ。」
「そうですよ。どこで手に入れたんです?.......いや、言い方を変えましょう。どこで神様に出会ったんですか?」
元康と樹がさらに先を続ける。
「貴様らは、本当に何を言っているんだ?」
訳がわからないと、烈がそう返す。
「盾の貴方がこんなに強い筈がありません。それに、ラフタリアさんも強すぎます。神様に会ってその力を貰ったのでしょう?僕達はもっと強くなれる筈なので教えて下さい。」
「......何を勘違いしているのかは知らんが、ラフタリアが強くなったのも私の力も、鍛錬の成果だ。......心当たりがあるとすれば、海王の矜恃というスキルくらいか。」
樹の言葉に溜息を吐きながらも、思い至った事を教える烈。
「何だそれは?」
「海王の矜持と言うのは......」
続いて錬の質問に、スキルの効果を答える。
「そんな便利なスキル聞いた事がないぞ。」
「そうですよ、やっぱりチートじゃないですか。」
元康と樹が口を揃えて烈に文句を言う。
「.......チートチートと言うが、貴様らの成長速度とそう変わりないだろう。貴様らの実力を見る限りでは、攻撃力の成長で言うなら貴様らの方が上だ。」
「何を言うんだ!俺なんかよりずっと強いじゃねぇか!」
烈の答えに納得いかないのか、食ってかかる元康。
「それは仕方ないだろう。わたしが言うのもなんだが、前の世界において鍛錬を欠かさなかったわたしと素人の貴様らでは、そもそもの筋力に違いがあって当然だ。」
「それは.......まぁ、そうかも知れないが........」
烈の的確な指摘に、言い返せない元康。
「だと、してもだ。ラフタリアの強さの説明がつかない。」
「そうですよ。それに、スキルを手に入れた理由にもなってません。手に入れる方法を教えてください。」
元康に代わって話に入る錬と樹。
「ラフタリアだってステータスとやらで見れば、貴様らよりだいぶ劣るだろう。貴様らが彼女に押されていたのは
「あ、ちょっと.......」
烈はそう言い残すと、制止を振り切ってその場を去る。
「まったく.......自分より強い者は全てズルで済ませようとするのは、困りものだな.......」
「そうですね。鍛錬すれば、すぐにでも私なんかより強くなれるでしょうに.......ところで、何処に向かってるんでしょうか?」
歩きながら、そんな話をしている烈とラフタリア。
「ああ、奴隷商の所だ。奴隷紋の事を聞きたくてな。国王の態度を見るに、奴隷の呪いを解くことが出来る様だった。逆もまた然り.......では、困るのでな。」
ラフタリアにそう答えながらしばらく歩くと、奴隷商のテントへと着いた。
「これはこれは勇者様、御用向きで?」
奴隷商は烈に気付くと、仰々しい動作で出迎えて来た。
「おや?」
奴隷商はラフタリアを見るなり近寄ってくる。
「これは、驚きの変化ですな。あの薄汚いラクーン種がこれほど上玉に育つとは.......」
ラフタリアを観察する様に見ながら続ける奴隷商。
「これ程の上玉なら、非処女だとしても金貨7枚.......で、どうでしょうか?」
「私は売られるつもりはありません!それと、私は処女です!」
奴隷商の物言いに、ラフタリアが抗議の声を上げる。
「なんと!では金貨15枚に致しましょう。本当に処女かどうか確かめてよろしいですかな?」
「.......戯れもその辺にしとけ。死にたくはないだろう?」
更に続ける奴隷商に、烈が止めに入る。
「おやおや.......怒らせてしまいましたか?」
「わたしではなく、彼女だ。」
烈の方を見る奴隷商に、ラフタリアの方を示す烈。
奴隷商も危ない橋を渡ってきた為か並の冒険者よりは強いのだが、それを踏まえた上での発言だ。
「もう、それほどまでに育て上げられましたか!後学のためにも、コツを伺っても?」
「簡単な事だ。無理強いをしているのと、自分の意思で学ぶのとでは、違いが出て当然だろう。」
興奮を隠しきれない奴隷商の問いに、さらりと答える烈。
「ふふふ、大変勉強になります。やはり貴方は私共とは異なりますが、私の思った通りのお方の様です。」
「どういう意味かは知らないが、褒め言葉と受け取っておこう。そんな事より、本題なんだが.......」
烈は掴み所のない奴隷商に、話を打ち切って本題に入ろうとする。
「城での一件は聞き及んでおります。まずは闘いの勝利、おめでとうございます。.......して、奴隷紋に関しての事ですかな?」
「ああ、その通りだ。わたしは彼女に奴隷紋を施してはいないが、他の誰かが無理矢理に奴隷紋を施す事は可能なのか?」
ニヤリと笑みを浮かべて仕事の顔になる奴隷商に、真剣な顔で問い掛ける烈。
「結論から言えば、可能です。まず、奴隷紋を刻むには最初に下地となる強い呪いを施す必要があります。これには、相手が子供であるとか、心身の酷い衰弱状態であるとか色々条件が必要となりますが........いずれにしても、彼女はその最初の呪いが刻まれた状態にあります。それ故、専用のインクに所有者となる者の血が必要になりますが、出来ないこともないのです。例えば国王様ですとかね。」
「なるほど.......で?それを出来なくさせる方法はあるのか?」
奴隷商の説明に、やはりと言った顔で次の質問をする。
「もちろんありますよ。2通りありますが.......勇者様のお好みの方法であれば、基本の呪いを解く方法でございますね。高位の魔法故、かなり金額を頂きますが.......銀貨500枚でどうでしょう。」
「構わん。支払おう。」
奴隷商が烈の反応を伺えば、烈はそう即答する。
「ありがとうございます。準備もあります故、さ、どうぞこちらにお掛けになって下さい。そういえば、なかなかに珍しい茶を手に入れましてね。」
奴隷商に促されて、椅子に座る烈とラフタリア。
奴隷商が配下の者に指示すると、テーブルに茶が運ばれてくる。
「これは.........この色、花や果実を想わせる芳醇な香り、甘みのあるスッキリとした味わい.........烏龍茶かッッ。」
思わぬ所で故郷の味である、中国茶に出会い驚きを隠せない烈。
「はて.........?この茶はフィーロン茶と言いまして亜人の国シルトヴェルトにて作られていると聞いてます。その中でもこのフィーロン茶は特に出来の良いものらしく、神鳥フィーロン茶と呼ばれているそうで。」
烈の言葉に疑問符を浮かべながらも、そう説明する奴隷商。
「私も飲んだ事があります。ここまで高級な物ではありませんでしたが、村のおじさんが趣味で作ったのを分けてもらいました。師父様の世界にもこの様なお茶があるんですか?」
ラフタリアが少し懐かしそうに話しながら、そう烈に問い掛ける。
「ああ、香りや味わいが若干異なるが、わたしの故郷中国で作られるお茶にそっくりだ。」
「と、準備が整いましたので、始めましょうか。」
お茶を飲みながら話しているうちに、準備が整った様だ。
ラフタリアを台に寝かせて、魔道士らしき者達が数名で囲う。
「う......く......」
解呪には多少の痛みがともなうようで、歯を食いしばり耐えるラフタリア。
しばらくすると、ワイングラスの割れる様な音がして、光の粒がラフタリアから溢れて霧散する。
「ハイ、終わりました。」
「ああ。所で、あれはなんだ?」
烈は、木箱の中に入った卵が気になり問い掛ける。
「ああ、あれは私共の表の商売道具ですな。」
「表の商売とは?」
「魔物商ですよ。」
表でも、似た様な商売をやっているようだ。
「魔物?........そういえば荷馬車を引いている鳥がいたが、あれもそうか?」
「はい、あれも魔物使いが育てた魔物です。私の村にも食肉用の魔物をたくさん育てている方がいました。」
「なるほど、こちらの世界では畜産業を魔物で行っているわけか。」
ラフタリアの答えに、烈は1人納得する様に頷く。
「それで、あの卵を売っているのか?」
「魔物は卵からじゃないと人には懐きませんからねぇ。こうして卵を取引してるのですよ。」
「刷り込みを利用しているわけだな。」
「既に育てられた魔物の方の檻は見ますか?」
烈が興味を持ったと見るやいなや、勧めてくる魔物商。
「興味が無いわけでは無いが、今回はやめておく。それより、あの看板は何だ?」
矢印と数字らしきものが書かれているが、烈は生憎とこの世界の文字は読めない。
「銀貨100枚で一回挑戦、魔物の卵くじですよ!」
「ほう、それなりの金額を取るのだな。」
薬草や薬や魔物狩りで多少の蓄えがあるとはいえ、大金である。
「高価な魔物ですゆえ。」
「参考までに、あの.........馬車をひいている鳥で幾らくらいになる?」
「フィロリアルですね。……成体で200枚からですかね。羽毛や品種などで左右されます。ハイ。」
「なるほど.........だが、くじというからには他の魔物も含まれているのだろう?」
「ええ、勿論です。当たりの魔物は勇者様に分かりやすい言い方ですと、騎竜ですね。金貨20枚に相当する魔物でございます!」
当たりを強調してそう説明する魔物商。
「キリュウ.........騎乗する竜といった所か。当たりの確率はどのくらいだ?騎竜だけでいい。」
「用意した250個の卵の内1つですね。」
1/250、0.4%の確率である。
「見た目や重さで分からないよう強い魔法を掛けております。ハズレを引く可能性を先に了承してもらってからの購入です。」
「かなりの徹底ぶりだな。」
「ええ、当たった方にはちゃんと名前を教えてもらい。宣伝にも参加していただいております。」
「どちらにしろ、相当な運の持ち主でなければ損をする仕組みだな。」
「十個お買い上げになると、必ず当たりの入っている、こちらの箱から一つ選べます。ハイ。」
「流石に騎竜とやらは入ってないのだろう?」
「ハイ。ですが、銀貨300枚相当の物は必ず当たります。」
魔物商のやり方はおおよそくじ引き商法と同じであり、コンプガチャや宝くじ等の手法で現代では厳しく規制されているものだ。
「やり口が悪どい気もするが........まぁ、物は試しだ。1つ貰おう。」
「ありがとうございます! 今回は奴隷の儀式代込みでご提供させていただきます。」
「買うのですか?」
「ああ、前から考えていたが援助金だけでは心許ない。今までは、薬草等を売って稼げたが拠点を移すとなると話は変わってくる。ならばいっそ、旅商をやるのも1つの手だと思ってな。商売をやるならばフィロリアルの様な荷馬車を引く魔物が欲しいところだし、当たらずとも愛玩対象がいるのも悪くはないだろう。」
烈はそういうと、右側にある1つを選択する。
「では、その卵の記されている印に血を落としてくださいませ。」
烈は言われた通りにナイフで指先を切り、選択した卵に血を落とす。
無理矢理に隷属させるのは嫌いな烈だが、魔物故に人を襲わないとも限らないので了承していた。
カッと赤く輝き、烈の視界に魔物使役のアイコンが現れる。
最低限の項目にだけチェックを入れる。
奴隷商が孵化器のような装置の扉を開け、その中に卵を置く。
「.........ラフタリア、君にはなんて書いてあるか読めるか?」
卵が孵化する時間が孵化器に示されているが、この世界の文字が読めない烈はラフタリアに聞いた。
「私も少ししか読めませんが..........明日には、数字がなくなりそうですね。」
ラフタリアは少し思案して、そう答える。
「ありがとう。では、また来るとしよう。」
「勇者様のご来場、何時でもお待ちしております。」
烈とラフタリアの2人は卵を持って、テントを後にした。