この作品は香澄をヒロインとしてスポットを当てた作品となります。また、作者の別小説『Dreamer of Drummer』とリンクしてますのでそちらもぜひご覧ください。
では、どうぞ。
◇◇◇
―――満天の星空。
何光年もの間、旅をしてきた光達。
彼等が懸命に辿り着いた地球で輝きを放つその姿は儚い。遥か遠い地上から見上げる人々はさぞかし魅了されるであろう。
僕もまた過去で星光に魅了された、その一人である。
子供の頃に参加したキャンプイベント。
何事もない、巷で良く見かけるタイプのイベントであり、普通に家族や友人と一緒に自然を楽しむ事を目的としただけのもの。
僕は当時、家族総出で参加した。本音だと其処までやる気も無く、ただただめんどくさいとだけしか思っていなかった。
他の家族連れも同じイベントに参加していたが、今回のキャンプでは基本的に一家族につきテント一つを土台に動く。テント同士はある程度距離があったので余所のテントに誰が居るのかと気にするほどでもない。
けれども。昼間、楽しそうにはしゃぐ女の子の声が隣のテント辺りから聞こえたのできっと僕の家族と似たような構成の家族も遊びに来ていたようだ。
キャンプの内容は川で魚の掴み取りに励み、晩御飯のカレーライス作りを勤しんだり、とか。案外、途中から楽しくなってきてしまう。結果、充実した一日となった。
本題は―――そのキャンプの夜。
何故か寝付けなかった。無性に眠気が吹き飛ぶ。
別に僕は枕が違うと寝られないなんて拘りのある性格ではない。僕以外の家族は全員夢の世界へ輸送中。
気分転換を理由に外へ。夏の夜なので、薄着でも平気だとそのままの服装でテントから出る。
ふと視線を上へ向ければ。
澄みきった空気に案内された数え切れない程の無数の眩耀。それらが織り成す幻想的な夜景はまさに壮観。
僕の瞳ががっちり固定されるのも必然。
「夜空ってこんなに………」
騒がしい世界なのか。
でも、イヤではない。むしろ、その逆であり、僕は好感を持ってしまった。
都会からは抹消された小さな輝きを持つ星々もここでは我先にと己の居場所を主張し合う。
家からでも見える一等星がある。
その側で控え目に光る小さな星に偶然ながらも僕は発見してしまう。
そして―――不覚にも少し笑ってしまった。
何故なら、その星はまるで普段の僕。
そう暗示しているかのようにひっそりと鳴りを潜めていたから。
あの星に対して、僕は何も声をかけない。本人が満足で良いのなら、そのままで良い。
そのままで………良いんだ。
◇◇◇
『君という星に近づきたくて』
◇◇◇
◇◇◇
昼間。
「う~ん………どれもイマイチ」
僕は孤独に唸る。かれこれ数分。
パソコンに映し出された写真を確認がてらカチカチと選択しては、ぼけっと眺めていた。
どれも全て先日に僕自身が自慢のカメラで撮ったのだが、どうも腑に落ちない。
人物画にはこれまでの経験から多少の自信もあった筈なのだが。
「あっ、これは結構上手く撮れてる」
クリックする指が止まる。
真っ暗な背景。天井から紅く照らされた一人の少年が写真の中央に。暗めの服装を基調としている。
最大の特徴は楽器のベースの弦に指を携えている事。その人の顔辺りはくっきりと写し出されてはいないが、音に酔いしれたベーシストの写真としては良いアクセントだ。
と、此処までの説明で分かるとは思うが。
僕が先日に撮ったのはバンドのライブ写真。バンドメンバーが同じ学校の在校生かつ本人達の希望により、ライブの様子や風景の撮影を許可して頂いた。
ただし、その対価としてあるのはメンバーへの写真提供。そこまでデメリットになる訳ではない。
お陰様で僕もカメラの練習にもなる。バンド側も今後の宣伝活動に使える素材の入手が可能になったりするので、所謂Win-Winの関係と言えるだろう。
と、廊下から聞こえる足音を察知。
「お邪魔しますね」
やがて、背中越しの扉が開く。
部室の奥で壁際のテーブルに座っていた僕はくるりと椅子を一回転した。
「お疲れ様です、光先輩」
「はい、お疲れ様です」
頭を軽く下げ、挨拶。
来訪者は部室へと足を踏み入れる。迷いなく僕の側へ近寄ると、パソコンの画面を覗き見始める。
光先輩は先程説明した写真の張本人。
学年は一つ上の先輩。軽音部にも所属しており、学校内で特に男女学年問わず有名なバンドメンバーの一人でもある。
ライブでは垣間見れない先輩のプライベートのメガネ姿もまたファンの中では一興となるらしい。
「これがそうですか?」
「えっと、はい!!この前のライブとても良かったです!!」
「ありがとうございます。個人的にはちょっと反省点の多いライブではありましたけど」
「そ、そうだったんですか………」
「とまぁ、楽しんで貰えたのなら何よりです」
先輩の視線は画面に固まったまま。
誰に対しても丁寧な口調で話すのだが、ライブではゴリゴリのベースラインを全面に押し出してくるのだから、ギャップという言葉はこういう時に使うんだなと何度も実感する。
本人は不満足に終わったらしいのだが、観客視点の僕からでは共演したバンドの中では一番観客全員が熱狂したと思う。
相変わらず自分に厳しい人だ。
「これとかは特に自信作です」
「………僕じゃないですか」
「だ、駄目でしょうか………?」
「それは………えぇ、大丈夫です」
ぐぬぬ、と瞬間だけ唸った光先輩。
写真の良さを選ぶか、それとも羞恥心を選ぶか。
未知なる葛藤の末に勝利の旗を掲げた決め手は写真本来のクオリティの高さにあると予想される。
「それにしても、どれを鑑みても凄く迫力的に撮れてますね」
「あ、ありがとうございます………!!」
「データはいつも通りこれに入れて貰えれば」
「はい!分かりました!」
先輩のUSBを預かる。
それをパソコンに接続する作業を行いつつも僕の意識は上の空気味と化していた。
尊敬する先輩にカメラの技術を褒められたのだ。嬉しいわけがない。
「ライブの写真は全部いれておきました」
「ありがとうございます」
USBを返却する。
渡した写真はバンドメンバーのグループで共有され、宣伝材料としても活用される。
その際、僕の名前も片隅にだが掲載される。
「さて………」
―――来た。
ここで光先輩は必ずと断言して良いほど次回のライブでも撮影をして欲しいと依頼する事が多い。
今回もそのパターンで違いない。
「本来は僕から話すべきではないかもしれませんが、折角の機会ですのでお伝えしておきね」
「は、はい!?」
いつも通りじゃない………。
深刻そうな雰囲気に包まれる部室に僕の喉がごくりと音を鳴らす。
「僕達のバンド以外のライブも撮影してみたいと思った事はないですか?一つ、貴方に今度のライブでぜひ撮影してほしいとご指名が来てます。単刀直入に尋ねますとどうします?」
「僕に………ですか?」
「はい」
他のバンドのライブ撮影。
興味がないと言えば、嘘になる。でも、個人的には光先輩のバンドだけで十分カメラの練習にもなっていた現状が僕の思考判断を鈍らせる。
バンドが変われば、人が変わり、音も変化する。最高の瞬間を切り取りたいのであらば、撮影の趣向も変更を余儀せざるを得ない。ただし、一度満足してしまえばそこまで。それ以上の期待は寄せられない。
その点、光先輩のバンドはライブをこなす度にバンドの顔も変化する。撮る側としては飽きないのだ。
「や………やります!」
だがしかし。
新たな挑戦の機会を逃すのも惜しい。何より、僕を直々に指名してくれた期待を疎かにする度胸など僕には備わっていない。
光先輩は僕の答えにただ微笑みを浮かべるだけであった。
「では、そのように向こうには僕から伝えておきます」
「お願いします!因みに光先輩、質問を一つだけ良いですか?」
「えぇ」
「その………どういうバンドが僕を選んだんですか?」
「あぁ………言ってませんでしたね。ガルパ関連です」
「ガルパ?」
「ガールズアンドパーティ。今流行りのガールズバンドですよ」
「………え?」
ということは―――女子っ!?
女子をカメラのフレームに収めるなど未知。これまで女性経験もなく、細々と風景だけを撮影してきた僕にとって、それは唐突に降り落ちた難題の如く襲い掛かってきたのであった。
-2-へ続く。
ヒロインは次回登場予定。