かぐや様と僕勉のクロスオーバーです。恋愛は多分なし。

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もしも白銀御行と古橋文乃が幼馴染だったら

「うわーん! わかんないよう! ぜんっぜん、わかんない~!」

「……はあ。またか。今度はどこだ? 文乃さん」

 

 ある晴れた日の平日。二人の男女が某ファミリーレストランにて勉強に励んでいた。

 

 方や、長く艶やかな黒髪を腰まで伸ばした容姿端麗な少女。今はその端整な顔を歪ませて、涙目で対面にいる少年に泣きついていた。

 

 もう一方は、整った顔立ちに鋭い目つきが特徴的な少年。彼は目の前で自身に泣きついてくる少女に、一つため息をついてから問いかけた。

 

「ここ~! いっくら考えても、どの公式が当てはまるのかまったくわかんないんだよー!」

「どれどれ。……ああここか。まったく、これは前にも言っただろう。まずは――」

 

 一見どこにでもあるよう光景にも見えるこの一幕。勉強が得意ではない少女が少年に教えてもらうという微笑ましいシーン。この二人が先輩後輩、あるいは同級生同士であったのなら、ありふれたものと言い切れたであろう。少年が先輩で少女が後輩、のような関係であったのならば。

 

 だがしかし、この二人は実際には全く反対の関係であった。この少年――白銀御行は高校2年生であり、少女――古橋文乃は高校3年生である。それを知れば、今ここにある光景が異様なものであるということが分かるだろう。

 

 一学年下の少年が、一つ上の学年の少女に勉強を教えるということは普通の事ではない。何しろ一年も勉強をした時間に開きがあるのだ。その分当然内容にも開きがあるし、特に今二人が取り組んでいる数学のような教科は、出てくる問題の難度や専門用語なども大きく異なってくるものである。それはとても容易なことではない。

 

 それを可能としているのは、偏に白銀御行という少年が一般の高校生より群を抜いて優秀であるからである。

 

 なにしろ彼は、偏差値70オーバーと言われる秀知院学園の生徒会長だ。質実剛健であり、聡明英知。学園模試は不動の一位。全国でも頂点を競い、天才たちと互角以上に渡り合う猛者の一人である。そんな彼にとって、一つ上の学年の内容であることなど問題ではなかった。勉学で学園の生徒たちから畏怖と敬意を集める彼は、高校生で学ぶ範囲の内容など既に一通りは目を通している。一日10時間以上の勉強を自分に課している白銀にとっては、目の前に出されている問題などまさに朝飯前といってよかった。

 

「ああっ! そっか、なるほど! そういうことだったんだ。ありがとう、みーくん!」

「かまわないさ。あとはなんども繰り返し公式を使う練習をすれば、類似した問題を落とすことはそうそうないだろう。――それでは、次の問題にいこうか」

「うえっ! ……はーい」

 

 文乃は一瞬嫌そうな顔をしながらも、文句を言うことはなく、大人しく再びペンをとった。

 

 彼にしてみればそれほどの難易度とは言えない問題でも、今頭を抱えて悩んでいる眼前の少女にとってはその限りではなかった。涙目になってうんうん唸っている姿は、端目から見ても悲壮感が漂ってきている。この一幕だけ見れば、彼女が勉強が得意であるとは感じられないだろう。

 

 しかしながら現代文、古文、漢文という分野においてはという注釈は付くが目の前の少女、古橋文乃は天才である。得意とする分野においては他の追随を許さない、と言えるほどに。テストの点数や単純な知識量という意味では白銀も彼女に引けを取らないが、小論文などの文章作成などの方については及んでいないと、敗北を認めている。勿論負けたままでいようとは白銀は思ってはいないが。とりあえず現時点では、及んでいない。現時点では!

 

 とにかく文乃は勉強ができないというわけでは決してない。現時点だけでも、文系の大学を目指すのであれば合格できるといえるだけの学力は持っている。抜けているところもあるが、勉強への熱意はあり、基本はしっかり者で責任感も強い。自身の才能を生かす方向へと進もうとするのならば、文乃は問題ないといえるだけの力は既にある。……進もうとするのならば、だが。

 

 そう、文乃の希望する進路は文系の大学ではないのだ。星が好きな彼女は、大学では天文学を学ぼうと思っている。そのためには得意とする文系のものだけでなく、理系の試験も通る必要がある。彼女はそのために苦手だとわかっている理系の勉強は一生懸命に行っている。自分の夢をかなえるために。

 

 だが元々苦手だと自分で認識してしまっているものを克服するのは並大抵のことではなかった。必死に勉強を重ねるも、一向にテストの成績は上がらず、毎回のように補習を受けていたらしい。それでも苦手意識は治らず、現在に至っていた。

 

 しかし最近になってから、そういった現状に変化が生じてきた。

 

(文乃さん、問題を理解するの早くなったな。何かあったのか?)

 

 そう。あれほどできなかった数学の成績が目に見えて上昇してきたのだ。少し前までは本当に空回りばかりしていて四苦八苦していた問題も、今では楽々とまでは言わないができるようになってきている。この変化は今までには見られなかったことで、そのこと自体は喜ばしいことではあったが、少し気になった。

 

 白銀御行と古橋文乃。二人は幼少のころからの付き合いである。どういうつながりかは知らないが親同士の付き合いがあり、その縁で互いの家を行き来することが多く、幼いころから共に過ごす機会が多かった。特に白銀の妹の圭は文乃に懐いており、文乃も一人っ子だったことから懐いてくる圭のことをとても可愛がっていた。

 

 かく言う白銀も文乃のことを好ましく思っている。長男である彼にとって、優しく物腰柔らかな年上の異性である文乃のことは憧れにも近い感情を抱いていた。自分に姉がいたならこんな感じだったのかなと心の片隅で思ったりしたこともある。何よりも白銀は無類の天体好きであり、幼いころの将来の夢は天文学の博士だった程である。文乃も星好きであったことも相まって、共通する趣味を持った二人はすぐさま意気投合。父親の工場を引き払う、母親が家を出るなど様々なゴタゴタがあった今でなお、良好な関係を築いてきた。

 

 そんな勝手知ったる仲である少女の変化だ。良い方向のものではあるとはいえ、気になるものは気になる。

 

(聞いてみるか)

 

 好奇心とちょっとした寂しさを携えて、白銀は文乃に問いかけた。

 

「文乃さん。最近、何かあったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

   ●   ●   ●

 

 

 

 

 

 

 

「文乃さん。最近、何かあったのか?」

「ほえ?」

 

 思わず気の抜けた返事をしてしまう。ノートから目を離し、眼前にいる少年へと向ける。彼――白銀御行は、その整った顔を僅かに傾げてこちらの様子を窺っていた。

 

 白銀御行、みーくんとは小さなころからの付き合いだ。それこそ小学校のころまでは本当の姉弟のような関係で、「文ねえ」なんて呼んでくれていた。中学校になってからは恥ずかしくなったのか、そんな風に呼ぶことはなくなってしまったが。それでも彼は本当に良い子で、今に至るまで私のことを変わらずに慕ってくれていた。

 

 私より低かった背も、今ではずっと高くなり見上げるほどになった。成長をするにつれてみーくんには驚かされてばかりいる。特に彼が秀知院学園に入っただけでなく、学年一位でしかも生徒会長にまでなったと聞いた時には、それはそれは驚いたものだ。確かに昔から成績は良かったが、飛びぬけて凄いというわけではなかった。高校に入ってからやりたいことを見つけたのか、一気に伸びたと思う。勉強を教えてもらっている現状を思い返すと、伸びすぎかなと思わなくもないけれど。

 小さなころからしっかりしていたが、最近では頼もしい感じもでてきた。これも努力家である彼の努力の結果なのだろう。長い間その努力の一端を見てきた私としては、自分の事ではないけれど、とても嬉しく思えた。

 

「何かって?」

「いや、あの。久しぶりに会ったわけではあるけど、それを差し引いてもできるようになったなって思って。ほら、今までのことを知ってるから、なにかきっかけでもあったのかと」

「あー……。そっか。まだ言ってなかったっけ」

 

 そういえばここのところ都合が合わなくて会っていなかったから、伝えるのを忘れていた。ここに来てからも来て早々に参考書開いて勉強を始めていたから、近況報告とかもあんまりしてなかった。

 基本的にみーくんは忙しい。特に高校に入ってからはそれがより顕著になった。生徒会活動のこともあるが、彼の家はあまり裕福とは言えず、家計の足しにするために放課後はバイトをしている。それだけでなく学年一位という成績を維持するために私には想像がつかないほどの勉強を自身に課しているのだ。

 故に彼自身の自由時間というものは少なく、今日の邂逅も偶然時間が空いたことによってできたものなのだ。その貴重な時間を無駄にさせてはならないと、いつも以上に真剣に勉強に取り組んでいたのだが、それが彼とのコミュニケーションを減らす理由にはならない。文乃はそのことを反省しつつ、頷いた。

 

「お? 本当に何かあったのか」

「うん。みーくんには前に言ったよね。私にはその、教育係っていうお目付け役みたいな人がついてるって」

「あー……。そういえば言ってたな」

「それでね、今まではいろんな先生が代わる代わる勉強を見てくれていたんだけど、どの人も長続きはしなかったんだ。だけど最近になって別の人が勉強を見てくれるようになって」

「なるほど。その新しい教育係の人の教え方が文乃さんには合ってて、一気に伸びたと」

「まあ、そんな感じかな」

 

 腕を組んで納得したように頷くみーくんを見て、安堵の息を吐く。少し事実をぼかしながら伝えたのだけれど、彼はそれには気づいていないみたいだ。

 別に教育係が先生ではなくなって、同じ学年のクラスメイトになったということを隠す必要はない。……ない、のだが。なぜだがそれを伝えるのは憚れた。自分でも不思議に思ったが、それを表に出すことはしなかった。内心で首をかしげていると、テーブルの上にあったコーヒーの入ったカップを持ちながら、彼が口を開いた。

 

「それにしても、よかった」

「? なにが?」

「文乃さんの成績が上がってきたことが、だよ。俺は文乃さんの夢をずっと応援してきたからな。その夢がかなう可能性が、ぐんと上がったんだ。喜ばないはずがないだろう」

「――っ」

 

 微笑みながら発せられた彼の思わぬ一言に頬が熱くなる。私はまともに彼の眼が見れなくなり、思わず顔を背けた。

 

(ああもう! また気障な台詞言って! 狙ってないのはわかってるけど、あざとすぎるよっ)

 

 白銀御行という少年にはこういうところがある。長い付き合いで知っていたことではあったが、未だに耐性がない。普段からこういう言い回しをするのではなく、ふとした瞬間に、しかもこちらを気遣ったりする時に限って出てくるのだから質が悪い。彼の悪い癖だ。本当に、こっちの身にもなってほしい。

 

「ど、どうしたんだ。文乃さん」

「別にっ。なんでもないよ!」

「は、はあ」

 

 困ったように頬をかくみーくんを見て、すねたように顔を背けながら、これ見よがしにため息を溢す。彼は私のそんな姿を見て、とても慌てていた。

 

 あれこれとあたふたとしながら私の様子を窺うみーくんの姿に、小さな笑みがこぼれた。

 

(ほんと、しょうがないなあ)

 

 幼いころから変わらないやりとり。私はそれにほんの少しの幸せを感じながら、もう少し困らせてやろうと顔を背けて、外に見える景色を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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