アカデミーに入学して、ようやく5年。今日で卒業だ。本当に長かった。なにせアカデミーに通っているのは影分身。本体である俺はひたすら遊び続けているのだが、この世界は未だコンピューターネットワークも存在しない。漫画も面白いものは思ったより多くなく、すぐに読み尽くした。里内の女性との遊びにも飽きて、火の国全域に手を伸ばしたが、常にしたいわけではない。コレ以外に娯楽がないのは問題だ。
つまり、俺はどうしても暇なのである。
今思えば綱手との戦いは楽しかった。スサノオ第二形態を拳一発で破壊し、肉体の観察では捉えられない瞬身の術で距離を詰められ、輪廻眼と完全体スサノオまで使わされたあの戦い。当時は不意打ち出来なかった所から想定外の事ばかりで、心臓の音がうるさいくらいテンパりっぱなしだった。
しかし、言動までサスケに成りきって交渉を成功させたときは我ながら圧巻だったなぁ。伝説の三忍が1人を、経験で遥かに劣る俺が輪廻眼とスサノオの圧倒的な力で押し切ったんだ。殺すわけにはいかなかったから、最後まではやらなかったが、相手が木ノ葉の忍でさえなければ――――
「サスケ!」
「――ん?」
「来たってばよ!」
おっと、ようやくか。
カカシが遅いのは分かってたからな。机に突っ伏して回想に励んでいた。
ちなみに三人一組で選ばれる下忍のメンバーは、ナルト、サクラ、俺で原作と変わらない。アカデミーの成績が元と違うので他のアカデミー生がバランスがおかしいと騒がしかったが、イルカ先生は火影が決めたことだと一蹴していた。俺の場合、写輪眼の使い方を教えられるのは写輪眼のカカシくらいという理由なのだから、成績に関係なくカカシが担当上忍になるのだろう。ナルトについては色々考えられるな。サクラが謎だが。ただ、イノ、シカマル、チョウジの猪鹿蝶コンビなど、明らかに成績の平均化とは関係ない組み合わせも居るし、案外普段仲が良く、チームワークが発揮されそうな組み合わせで選ばれてる説もあるな。シノ、キバ、ヒナタの秘伝チームも大概だし。
「悪かったって」
「ぜってぇ許さねぇってばよ!」
カカシが全く悪びれない笑顔で謝るもんだから、ナルトがさらにヒートアップしていく。原作のようにいたずらを仕掛けなかっただけに遅れてきたカカシの酷さが際立つな。ナルトもここには影分身でこればいいのに。そうすれば俺のように苛立たずに済む。
ちなみにナルトも九尾からチャクラをもらって影分身修行してるもんだから、今も恐ろしい速度で成長中だ。だからなのか、修行が楽しくて仕方ないらしい。俺のように本体がサボって、なんてこともなく、本体はアカデミーにしっかり通い、影分身に修行させ、その後は本体と合流し、修行に励んでる。…………ただ、そうなって尚影分身の一体を悪戯に使うのはなぜなのだろう。アレか。本能か何かか。それとも歴史の修正力が――
「サスケくんー、外行くってさー」
「今行く」
――なんてな。
ナルトが優秀になったせいか、ミズキの事件もなくなったし、サクラもアカデミーに入ってすぐ俺と出会ってるから、イノと親しい関係ではなくなった。孤独で成績が良くないナルトに共感していたイルカは、両親が殺されているという共通点が残ってはいるものの、孤独でもなければ成績もいいナルトには親しみを感じていない様子。ナルトもナルトでイルカをいい先生以上には見てないようだ。どころか、戦えばもう自分のほうが強いんじゃないかとまで思ってる。九尾の力を使えば間違いじゃあないだろう。だが、あまり調子に乗らないほうがいいぞ、ナルト。綱手に追い詰められた俺が言えたことじゃないけれど、覚えてる術の数とか質とか、そんな差は意外に覆るもんだ。スサノオ第二形態を破られた俺が言うんだから、間違いない。
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それから、適当に自己紹介して、実は明日が本当の下忍卒業試験なんだーなんてやり取りがあった、らしい。らしいというのは俺が本体で、経験したのは今解除された影分身の方だからだ。それにしても、明日はさすがに本体で出るしか無いな。久々に本体出動で憂鬱……なんてことはない。あのカカシと戦えるのだ。喜ばないわけが無いだろう。綱手と戦った時同様、最高の娯楽になるはずだ。
もちろん、試験という名目だし、結局殺しが禁止であるのは残念でならないが、今まで覚えた術(おもちゃ)を存分に振り回せるのだから心が踊らないはずがない。
だろ?
――――ナルト、サクラ!
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「あ゛っー!
本当にいたってばよー!!」
「ん?
ああ、お前らか」
翌日。
カカシが決められた時刻になっても現れない時点で俺はナルトを連れて、オビトの名が刻まれた慰霊碑に向かった。サクラは留守番だ。万が一、億が一すれ違いになると大変だから。……できればナルトを留守番させておきたかったが、どんなバカを仕出かすか分からんからな。
・
・・
・・・
「さて」
カカシが12時にタイマーをセットした。原作と違い、今は7時ちょい。時間はたっぷりある。
「ここに鈴が2つある」
この鈴を1人1つ取れば合格。取れなかったものはアカデミー行きだとカカシは言う。
「手裏剣も使っていいぞ。
俺を殺すつもりでこないと、取れないからな」
その言葉を、ナルトが笑って指摘する。
「へへ、俺ってばすげー術覚えちまったからな!
カカシ先生本当に殺しちまうってばよ!」
「いるんだよなぁ。
強い術さえ覚えれば強くなれると思ってる奴」
「なっ!」
「ま、バカは置いといて、俺の合図で始めるぞ」
ナルトが歯ぎしりしてカカシを睨みつける。
「じゃー、よーい」
【瞬身の術】
「うらぁァァ……へぶっ!」
哀れ、瞬身による高速移動で殴りかかったナルトは、カウンターの蹴りで宙を舞った。瞬身、つまり肉体活性による正面突撃が成立しない主な理由はカウンターを見きれないから、だ。写輪眼を持つならまた話は別なのだが。
「まーだ合図はだしてな――」
【風遁・真空波】
「ッ!」
【土遁・土流壁】
「はやいっ!」
サクラが驚嘆の声を上げる。ナルトはカウンターを受けて宙を舞ったと同時に真空波の印を結び、その印を見たカカシは土流壁で応じたのだ。ナルトの印の速さもさることながら、それを見てから追いつくカカシはそれ以上に速い。修行時間を影分身で水増ししたナルトはともかく、カカシは本当に天才なんだろう。僅かに13歳で上忍になっただけはある。
ただ、写輪眼を使って本気になったカカシなら、あそこは土流壁ではなく豪火球で応じていたはず。カカシは写輪眼による術のコピーで擬似的に五大性質変化中風以外の4つを扱える。そして風遁は火遁に弱い。だが、写輪眼を使っていないカカシにはナルトの印を見切る事ができなかったのだろう。だから汎用性のある防御術、土流壁を選んだ。……まぁ、ナルトを殺さないよう配慮したという可能性もあるか。
「チィ、速えぇってばよ!」
ナルトが自分で放った真空波の反動で転がりながら着地し、即座に影分身の印を結びながら悪態をついた瞬間、
「――いでしょ?」
「あっ!?」
カカシがナルトの背後からクナイを当てていた。
恐らく、土流壁で視界を塞いだ瞬間から土遁・土竜隠れの術で土の中を移動。ナルトが真空波の反動で転がってる間に地中から背後に回り込んだ、といったところだろうな。
「ま、俺のことを殺るつもりになったようでなによりだ」
「くっそぉ!」
「んじゃ、今度こそ。
よーい、スタート!」
ポフン! という音と煙と共にカカシが消える。どうやら土流壁で隠れた際、土竜隠れだけでなく、先に影分身まで使っていたようだ。
土流壁が崩れるが、その先にカカシはいない。
土竜隠れで移動したか、あるいは…………
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ふー。
影分身を消した俺は、しっかりナルトにクナイを突きつけて開始の合図を言えた事を確認した。まさか、ナルトがあそこまで強いとはなぁ。先生(四代目火影)の息子にして、うずまき一族の末裔。うずまき一族の特徴として多量のチャクラ、主に膨大な身体エネルギーを持っている上に、術のキレが半端じゃない。印を結ぶ速度は13歳とは思えないし、下忍どころか並の上忍クラスだ。チャクラ量に限れば俺以上。
事前に情報を貰っているとはいえ、実際に見るのとじゃやっぱり違うな。先生の子を教え子として持てるのは感慨深い。ナルトを見ていると、13歳の時の俺、つまり上忍に昇格した頃を思い出す。強い忍術、巧みな体術、優れた成績、そして実績。それらを認められて上忍になったはいいが、大失敗を犯して友を失ったあの頃を。
強い術が使えれば強いわけじゃない。ナルトを先生のような立派な忍にすることが、俺の責務、かな。
「サクラ、下だ」
「しゃーんなろー!」
うん?
【桜花衝】
土の中にいた俺に、轟音と、光が届いた。
「地面を真っ二つに割る土遁・土流割の術……じゃないな」
信じがたい。拳で地面を割る、あの馬鹿げた怪力はまるで綱手様の桜花衝だ。 渡された情報では、綱手様の弟子なんてことはなかったはず。確か、一般家庭の子で、サスケの家に入り浸る思春期の女の子。ナルトのようにうちは所有の修行場に行く様子もみせないとか。
まさか、暗部の監視を掻い潜って外に? ありえない。そもそもこの里には結界忍術が張ってある。感知されずに外に出られるはずが……。
【火遁・豪龍火の術】
ッ!
俺はすぐに割れ目から外に出るが、豪龍火の術は追尾する。しかも龍火の術より火力が高く、連射も効く。土流壁では不安が残るな。
そのまま全力で後退し、俺は水上に着水。
【水遁・水陣壁】
前方に巨大な水壁を生成、衝突した火龍が爆散していく。
豪龍火はチャクラの消費が激しい。下忍や中忍が習得することも、まともに運用することもありえない。だが、サスケは例外だろう。サスケの兄イタチは13歳にしてうちは一族を滅ぼしてみせた。あんなこと、火影クラスの実力でもなければ成し得ない。そして、サスケは既に万華鏡写輪眼、いや、永遠の万華鏡写輪眼を開眼しているという。その才能はイタチすら凌ぐと思っていいだろう。
だとすれば、このままの俺じゃ話にならんか。
【写輪眼】
殺すつもりで、なんてカッコつけなきゃよかったかな。
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【土遁・土石龍】
水が晴れると、同時に、土の龍が迫る。
サスケのだな。豪龍火を防ぐために水上に移動させ、土石龍で追撃。地面にいれば土流壁で相殺できたが、ここには地面がない。そして、水遁は土遁に弱い。水陣壁では貫かれて終わりだ。
仕方なく横に躱すが、当然土石龍は折り返すように追尾してくる。
チラッとサスケ達の方を見ると、何やらナルトが6体に影分身して追撃の準備をしていた。一応合格者は二人だと行っているのだが、奴ら、しっかり協力してやがる。特にサクラが下がってるのがいいな。あの桜花衝を見る限り、サクラは恐らく医療忍者。攻撃を受けないよう、後方支援に徹する立場だ。鈴を取るというこの試験の性質上、協力するため後ろに下がるという選択肢は取りづらかったはず。ついでにナルトも下手に突っ込んでこず、追撃の準備に入ってる当たりチームワークが出来ている。
この試験は三人中二人しか合格できない状況で、三人協力し合えるかを見る試験。よってもう合格を言い渡してもいいのだが、さすがにここで合格を出すのは格好がつかんな。降参したようにしか見えん。
だから、
【雷切】
とっておきをくれてやる。
雷切、またの名を千鳥。肉体活性に雷遁の突きを合わせたオリジナル忍術。俺は後ろから土石龍が追いつく前に、土石龍の胴体、横っ腹を右手の雷切で貫く。そしてそのまま術の発動者のサスケに正面から突っ込む。土石龍の術の弱点は、発動中術者は地面に手を当て、地面から生える土石龍を操作し続けなければならないこと。もう防壁系忍術は間に合わない。肉体活性で正面突撃、ナルトの最初の一撃に似ているが、写輪眼でカウンターを見切れる故に完成度が違う。
さあ、どうする?
そこで6体のナルトが息を吸い込みだす。土石龍を貫いてる間に印を組み終えたか。だが、生半可な術なら写輪眼で見切って回避、そのままサスケを貫ける。
しかして、ナルトの選んだ術は
【風遁・真空連波】
真空波の乱発だった。
「ッ!」
影分身はチャクラを等分する術。解除すれば消費しなかった分のチャクラは本体に戻るが、6分の1になったチャクラでそれができるのか。
なんて膨大なチャクラを持ってやがる。
空間を埋め尽くすほどの真空波の連撃。それも雷遁は風遁に弱い。躱そうにも肉体活性で突っ込んでいるのだ。回避が間に合わん。まさか写輪眼を持ってしてもカウンターを喰らうとは。いや、土石龍を破る瞬間、あの瞬間に印を結んだからこそ俺に印を見切られずにこのカウンターが成立したんだ。
まさしく、チームワークの勝利。
「が、役目は果たしたか」
ポフン
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殺った!
そう思った瞬間、ボコっと土が破裂したような音がした。
「サスケくんッ!」
「ッ!?」
【スサノオ】
サクラの悲鳴で振り返ると、土の下から現れたカカシが雷切を掲げていた。
【万華鏡写輪眼】
【迦具土】
俺はサクラの悲鳴が聞こえた時点で反射的に発動していたスサノオに、迦具土で作った黒炎を纏わせる。天照はチャクラ消費が大きいので事前にチャクラを眼に貯めて置かなければ間に合わない。
しかし、間に合ったのは第一段階のスサノオ。これでどこまで防ぎきれるか――
「ごーかっく!」
――うん?
雷切は、スサノオの直前でピタリと止まっていた。
「へ?」
「ふー」
ナルトは不思議そうな顔で、サクラは安心して力を抜いた。
「な、なんでだってばよ!」
「忍者は裏の裏を読むべし。これは鈴を取る試験ではなく、2つしか無い鈴を三人で協力して奪いに来れるかを見る試験だ」
「へ?」
「だから、鈴を奪わなくても、協力できればその時点で合格。
その反応からしてサクラは気づいていたようだけどな」
「えぇ!?」
「……普通の下忍は3人がかりでも上忍にかなうわけないし、合格条件は別にあるってのは思ったわね」
「ッ!
でもさ、でもさ!
結構惜しかったてばよッ!
もう少しやれば……」
「普通の下忍ならって話よ」
「うん?」
「私の桜花衝で炙り出し、サスケくんの豪龍火と土石龍で追い詰めて、ナルトの真空連波でトドメ。
自分で言うのもアレだけど、どれも下忍レベルの術じゃない。私達3人なら十分やれたと思うわよ?」
「だよな! だよな!
俺とサクラちゃんならカカシ先生だって」
「サスケくんなら一人でもやれたって信じてるけどね!」
「ガクッ」
うなだれるナルトを尻目に、サクラは俺の腕に抱きついてきた。スサノオは既に消している。
「どうだろうな」
実際、完全体スサノオを使うならほぼノーリスクで戦える。殺す気でいいなら楽勝だ。唯一、土竜隠れ当たりで逃げ回られるのが懸念か。土に潜った相手を強制的に引きずり出すような術が欲しいな。……確か、蛇の仙術に無機転生なんてのがあったはず。地面などの無機物に命を吹き込んで操る術が。仙術は感知もできるし、龍地洞さえ見つかれば――
「確かに、サスケならやれたかもな」
「はぁ!?」
ナルトが目を見開き、サクラが意外そうなものを見る目でカカシを見る。ナルトをガキだと馬鹿にした時のキャラではないな。
「うちは一族には、俺より強く、お前らより幼いガキもいた」
「それって……」
サクラがカカシを非難するように問い詰める。
「そう、うちは一族を滅ぼしたうちはイタチ。サスケの兄に当たる男だ」
「……」
サクラとナルトが俺を見る。二人がそのことについて聞いてくることは、今までなかった。知らない、なんてことはないだろう。ナルトにしても本人に聞くほど無神経ではなかったということだ。
「サスケ、その力でお前は何を望む?」
これは、カカシの質問か? それとも、木ノ葉の上層部がさせたのか?
どちらにしても、俺の答えは変わらない。
「うちは一族の復興」
「……それだけか?」
「後は……充実した生活?」
「…………そ、そうか」
俺が本心から言ってるのがわかったのだろう。カカシはなんとも言えない微妙な表情をしていた。
ただ、カカシが言いたいことはわかってる。イタチに復讐するつもりなんじゃないかって話だ。俺が原作を知っているから、なんてことは置いといても、万華鏡の交換が行われた以上、イタチがサスケを想っている事は周りにだって、カカシにだって分かるはず。イタチはサスケの眼を奪わず、交換したのだ。故に復讐に走らずとも不思議はないだろう。ないはず。たぶん。
「大丈夫!
サスケくんの願いは両方私が叶えてみせるんだから!」
「さ、サクラちゃん!?」
「俺の子供を頼むぞ」
「サスケェ!」
「…………」
わいのわいのと騒ぐ俺たちを、カカシは温かい笑顔で見下ろしていた。