ヒュアデスの銀狼   作:蜜柑ブタ

10 / 12
コミックスの展開通りに見せかけて、ほぼオリジナル展開。


タイトル通り、ネタばらし。


SS10  ネタバラシ

 

 

『それが、あなたの答え? …私のオオカミさん。』

 

「オレは、どこまでもカンナと共にいるよ。例え、かずみの敵になろうとも。」

 

『…かずみが動き出した。…アイツらのために死を望んでる。』

 

「どうする?」

 

『いよいよお披露目だよ。レイトウコの所まで来て。身を隠しておいて。』

 

「分かった。」

 

 カズは、カンナからの指示を受け、身を隠して誰にも悟られず、かずみが陣取っているレイトウコに侵入した。

 天井からかずみを観察する。

 死を決意したかずみの表情は、固い。今にも泣き出しそうにも見える。

 かずみが魔法でテレパシーを送り、残るプレイアデス聖団を呼びだした。その中には、ニコに扮しているカンナもいる。

 そして、結界と称した魔法をレイトウコに施し、そしてプレイアデス聖団に問う、なぜ自分にミチルの記憶を与えなかったのか。

 そして彼女らは答える。ミチルの記憶を与えたかずみの失敗作は、魔女との戦いになると途端に暴走したのだと。だから“14人目”のかずみには記憶を与えなかったのだと。

 

 同じ顔をした別人でも、自分達はミチルの死を否定したかったのだと。

 

 ………………なら、どうして“自分(カズ)”を否定した?

 

 今すぐ問いかけたかった。だがまだ動くわけにはいかない。カズは、言葉を飲み込み、様子を伺った。

 

 かずみは、叫ぶ。そんなの認めないと。

 そして、叫ぶ。

 約束してと、何度失敗しても辛くてもくじけないでと。

 ミチルと里美を生き返らせて、もう一度心の底から笑ってと。

 それが魔法少女システムを否定し、“13人(実際はカズを入れて14人)”の自分を生み出した、あなた達の責任だからと。

 

 そして。

 

 自分を殺してと。

 

 ザワリッとかずみの体中にツルのような痣が浮き上がった。

「お願い。もう時間がないの…。最後にひとつだけ…、ミチルのクローンじゃなく、ただのかずみとして出会っていても。」

 

 魔女の姿へと変わっていくかずみは、スマートフォンに映った、かずみとプレイアデス聖団が映った写真を見せた。

 

「私達は、トモダチになれたかな?」

 

 その写真は、みんな笑顔だ。

 

「当たり前だ!」

 カオルが叫んだ。

「記憶のないまっさらなかずみと出会ったあたし達はトモダチになったんだ! いままでも、これからも! ずっと仲間だ!」

 

「………………ありがとう。それが聞きたかっ………………。」

 

 

『ふざけるな。』

 

 

「えっ…?」

 

 

『じゃあ、オレは、なんだ?』

 

 

「かずみ! 上だ!!」

 

 カズは、堪えきれない激情についに声を出していた。

 それと共に天井の空間が歪み出す。

 

「は、早く…私を殺せえええええええええええええええええ!!」

 

 かずみがレイトウコの魔方陣に置かれたイーブルナッツを掴んで口に入れてかみ砕いた。

 

『そこまでして、オレを否定するか!! プレイアデス聖団めえええええええええええええ!!』

 

 空間に空いた、穴からオオカミの魔獣の前足が飛び出し、魔女の姿になっているかずみを踏みつけ、床に伏せさせた。

「あれは…、オオカミの魔獣!?」

「どうして、ここに!?」

『ぐうううう!』

「かずみ!」

 自信を踏みつけるオオカミの魔獣の前足から逃げだそうとかずみが暴れる。だが、オオカミの魔獣の爪が伸び、まるで檻のようにかずみを閉じ込めた。

「まさか、オオカミは、かずみを守ろうと?」

「いや違う…。」

 海香の疑問に、ニコに扮しているカンナが否定した。

 

『こんなにも、愛されているのになぜ死を選ぶ!? かずみ!』

 

『わ、私は…。」

 かずみの姿がやがて魔女から人の姿へと変わった。だが体に浮かんだ痣はそのままだ。

「あなたは…なんなの?」

 かずみが弱々しくオオカミの魔獣に問うた。

 オオカミの魔獣は、少し黙り、やがて体全体を空間から出して、顔だけをユラリと変化させた。

「ひっ!?」

 サキが思わず短い悲鳴を上げた。

 

『思い出したか?』

 

「………………カズ…?」

 かずみが、信じられない目で爪の間から顔を出して見上げていた。

「うぅう…!?」

 サキが呻いた。彼女の手からソウルジェムが浮く、パキパキと表面が割れ、濁った本来の色になっていく。

「さ、サキ!?」

「…アブラカタブーラ。ほい。」

 ニコに扮しているカンナが、ガタガタと震えているサキに近寄り、ポケットからイーブルナッツを取り出し、それをサキの額に差し込んだ。

「アギッ!?」

「なっ!? ニコ!?」

「隠し味のスパイスだよ。」

 ニコに扮しているカンナがニッコリと、だが歪んだ笑みを浮かべた。

 すると、サキの体から凄まじい電撃が発生して周りにいた者達を吹っ飛ばした。

「サキ!! どうして!?」

『アイツだけは思い出したか…。』

「何言ってるんだよ!? さっきから! それにその顔…、お前なんだよ!?」

 体勢を整えたカオルが叫ぶ。

 カズは、顔をそのままの状態で表情を無にした。

 電撃に包まれたサキが、断末魔のごとき絶叫を上げる。

「うふふ…。イル・フラースで耐えてるの? 無駄なのに。でも、素敵な断末魔。」

「ニコ…、どうしてあなたがソレ(イーブルナッツ)を…。」

「簡単な話だよ。」

 ニコに扮したカンナが飛び、オオカミの魔獣…カズの背中に乗った。

「おまえ…!?」

「ここまでネタばらししたのに、思い出さないなんて…、可哀想なオオカミさん。」

 カンナが可哀想だと顔を悲しそうに歪め、カズの頭を撫でた。

「サキぃぃぃいいいい!! ジュウべえ! サキのソウルジェムを浄化しろ!!」

『無理だ! もう手遅れだ!』

 みらいが雷撃の中に飛び込んでサキに抱きつき叫ぶ。だがジュウべえは、もう手遅れだと言った。

「悪い子は…、オオカミに食べられちゃうんだよ? さあ、カズ。メインディッシュだよ。」

『ああ…。』

「やめて、やめて!!」

 かずみがカズの足の下で叫ぶ。

「ねえ、どういうことなの!? どうしてカズがオオカミなの!? 私と、カズは…。」

「そうだったね。かずみには説明しないといけなかった。簡単なことだよ。カズは、『かずみ』の失敗作。それも数にすら入れて貰えなかった、突然変異で性別転換したミチルのクローンだよ。」

「!?」

「あ…。」

「そんな…ことって…。」

 かずみは驚愕し、海香とカオルがようやく思い出したのか、言葉を失い青ざめた。

「だから顔が似てて当たり前。偶然にも生まれながらに身についていた能力『超再生力』で、カズは、アイツらに殺されたけど生き返ったんだよ。この能力は、血の一滴からでも復活できる。」

『痛かったよ…。苦しかったよ………………。何より…、オレは、悲しかった…!!』

「“かずみ”にすらなれず、女ですらなかったカズを……、プレイアデス聖団は、真っ先に殺した。」

「…嘘だよね?」

 かずみが海香達の方を見て恐る恐る聞いた。

 海香とカオルは、俯き、あるいは顔を逸らし、何も答えられなかった。それが答えだ。

「かずみは、死の数字、13番目じゃなかったんだよ。本当は、14人目。まさかここまでスッキリとカズのことを忘れてるなんてね……。ほんと、憎しみを通り越して呆れた。」

「おまえ…、ニコじゃないな…?」

「そうだよ。私は、聖カンナ。かつてニコが捨てた名前を持つ、かずみと同じ、合成魔法少女さ。」

 カンナがカズの背中の上で魔法少女としての姿に変身した。それは、ニコとはまったく格好だった。

 カンナが語り出す、ニコがかつて起こしてしまった事故とも言える死傷事件のこと。

 そして、なぜ復讐すると決めたのかも。

 

「私達はね。本物になりたいの。」

 

 やがて、サキが力尽き、電撃が消えて、ソウルジェムから魔女・サキが現れた。

 

「だから、カズを拾った。あんた達が酷たらしく殺して捨てたオオカミを。あんた達の仲間にもトモダチにもしてもらえず、ミチルの失敗作の数(カズ)にすら入れてもらえなかった、可哀想な、私のオオカミさん。」

 

 魔女・サキが、口を開けて、サキの遺体を抱いていたみらいを、喰った。

 

「人類を滅ぼし、私達が本物になる。名付けるとしたら、ヒュアデス! 人類に似て非なるモノ! プレイアデスの異母姉妹の名こそ、私達にふさわしい!!」

 

 カンナのコネクトのコードが魔女・サキに突き刺さり、動きを止めた。

 

 崩壊は、もはや誰にも止められない……。

 




傍観に徹しようとしたけど、かずみとプレイアデス聖団の会話に思わず激情が湧いたカズ。

オワリはもうすぐ。

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