ヒュアデスの銀狼   作:蜜柑ブタ

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今回、長い。無駄に。


原作通りっぽいような、オリジナル展開のような……。



あと、グロ注意。。内蔵とか……。


SS11  ヒュアデスのフェンリール(銀狼)

 

 

「さあ、かずみ! いっしょに行こう! 私達と新世界(ネクストステージ)へ!」

「…いやだ。」

 カズの足の下にいるかずみが拒否した。

 途端、カンナの顔が歪む。

「私は…、海香やカオル…、トモダチのいない世界には行かない。」

「トモダチ? 何を言ってる!? アイツらにとって君は代用品だ!」

「違うもん!」

 かずみがカンナの言葉に強く反論する。

「友情を感じた! 友情を信じられるから私は…、死を選ぶことが出来たんだ!!」

 次の瞬間、パアンッとかずみの破戒の魔法が発動し、かずみを閉じ込めていた爪とカズの前足の片方が途中まで無くなった。

 かずみの体が海香とカオルの方へ飛ぶ。そして、海香とカオルがかずみに駆け寄った。

 それを見つめながら、カズは、壊された片足をあっという間に修復した。

 かずみが笑顔だ。

 カズは、グッと唇を噛んで、しかしふ~っと息を吐いて、表情を無にしてやがてオオカミの顔になった。

「カンナ! カズ! あたし達が重ねた罪は一生かけて償う! だから、もうやめてくれ! 人間を滅ぼすなんて意味が無い!」

「かずみの魔女化が進んでる。今はかずみを助けることがあんた達にとって!」

「黙れ! お前達に何が分かる!? 自分が作り物だと気づいたときの絶望が、どれほどのものか! そして、お前達の望みに叶わなかったからと殺された奴の気持ちが!!」

『カンナ…。』

「…何度だって謝る。」

「はっ?」

「かずみに拘るあまりに、無かったことにしてしまい、そしてそんな自分の記憶すら改ざんして、あなた(カズ)を亡き者にしたこと…。どれだけ綺麗事を並べたって無意味なことは分かってる。でも…! 謝らせて! ごめんなさい! 私達が悪かったから!」

「お前ら…、今更…!」

 カンナが怒りに顔を歪める。

『もういい…。』

「カズ?」

「…カズ?」

 カンナが訝しみ、倒れているかずみが悲しそうにカズを見た。

『分かってたはずだった。かずみがプレイアデス聖団を選ぶことを。けれど、どこかで期待していた。オレ達を選んでくれるかもしれないことを。……かずみ。』

 枝分かれしている尻尾の一本が、一瞬のうちにかずみに触れた。

「なにを!?」

 焦った海香とカオルだったが、かずみの体の痣と変色し始めていた肌が元に戻った。

「カズ! それは…!」

『ぐっ…。』

「うぅ…。あれ?」

「かずみ?」

「かずみの体から穢れが…消えた?」

『かずみ。もう一度だけ、聞く。オレ達と来ないか?』

「……ごめんなさい。私、行かない。」

 立ち上がったかずみが悲しそうにそう言った。

『そうか。それがかずみの決意か…。』

「ねえ、カズ…、ううん。お兄ちゃん? どうしても私達と一緒にはいられないの?」

『オレも…、決めてるんだ。どこまでもカンナと共にいようと。そのためなら、かずみも殺す。』

「そんな…。」

『最後に…、お兄ちゃんって、認めてくれてありがとう。』

「カズ!」

『カンナ。迷う必要は…もうない。』

「…そうだね。かずみは、私達を否定した。それに説得の余地もなさそうだし。始めようか。」

「カンナ!」

 

 

 その時、バリンッと、魔女・サキの結界が一部割れた。

 すると、外側からぬいぐるみのクマのようなモノが濁ったソウルジェムを持って入って来た。

「あれは!? 双樹のソウルジェム!?」

「みらいの魔法…、ラ・ベスティアか!」

 クマ達が持ってきた無数のソウルジェムが放たれ、途端濁りきったソウルジェムが一斉に孵化して魔女が生まれた。

 魔女達はまるで魔女・サキを抑え込んでいるカンナとカンナが乗っているオオカミの魔獣を守るように陣取った。

「魔女達がサキを守ろうとしてる!?」

「アハハハ! アイツってばどれだけサキが好きなんだ? でも、まっ、ちょうど良い。メインディッシュの時間だよ! 私のオオカミさん。」

「お願い、カズ、やめて!」

『…もう、話し合いは終わった。かずみ。戦って示せ。オレに、お前の決意を。」

「っ…。」

「かずみの手を汚させない! 海香!」

「ええ!」

「ま、待って!」

 しかし、すぐさま変身したカオルと海香は、魔法の連携によって、魔女軍団を次々に撃破していった。

 かずみは、魔女軍団の中心にいる、カズとカンナを見て、やがて決意したのか、チリンッと耳にあるピアスを鳴らして変身した。

「カズーーーーーーーーーー!!」

 かずみが分身し、魔女軍団を次々に倒していく。

 三人の猛攻により、カンナとカズへの道が開いた。

「私が、やる!」

「かずみ!」

「それが…、『かずみ』として生まれた私のケジメだよ!!」

『……カンナ。手を出さないでくれ。』

「…分かった。」

 カンナが魔女・サキに乗り、カズから離れた。

 バサリッと広げた翼から羽が弾丸のように放たれる。それがかずみの分身達を貫き、本体であるかずみの肩や足にも刺さった。

 動きが止まったと同時に、カズは、口を開け、火球を発生させて放った。

 かずみは、バリアの魔法でそれを防ぐが、超高熱の火球の熱風を全て防ぎきれず、体が薄く焼けた。

『本気で、来い!』

 カズは、その巨体からは想像も出来ない速度で迫り、再び前足の片方を振り上げて、かずみを踏みつけた。

「がっ、はっ!?」

「かずみーーー!!」

『?』

 カズが違和感を覚え、足をどかす、次の瞬間、ドスンッと背中に衝撃があった。

 かずみだった。

 先ほど踏みつけたのは、魔法で作られた分身の人形だった。

「イル・フラース!!」

 サキのそれを越える電撃がカズの体を焼いた。

『ぐああああああああああああああああああ!!』

 全身が、細胞の一つ一つが焼かれるのを感じ、カズは倒れ込んだ。

 プスプスと全身から煙を出しながら倒れているカズに、かずみが杖の先を向けた。

「ねえ、カズお兄ちゃん…。」

『さっさと、とどめ……さ、せ…。』

「どうしても…、私達と一緒にはいられないの?」

『無理だ…、オレは、オオカミだ。遅かれ早かれ、どうあがいても喰らうことを止めることはできない。何より、……オレのせいでかずみの魔女化が進んだんだ。」

「どうして?」

『オレが、かずみと同じ、マルフィカ・ファレス(魔女の肉詰め)だからだろうな…。しかも、オレは、これまで数え切れないほどの魔女と、魔法少女を喰ってきたんだ…。そんな罪深いオオカミに…居場所なんて…ない。だから、お前が選んだ世界を救いたいなら…、オレを…殺せ!』

「私は…ただ…!」

『……甘いな。』

 

「そうだね。カズ。かずみ、君には少し失望したよ。」

 

 カズの呆れた声に同意したカンナが、ヤレヤレと肩をすくめた。

 

 次の瞬間、尻尾の一本が振られ、かずみの体が吹っ飛んだ。

「あ…が…。」

「かずみ!!」

『かずみの、破戒の魔法なら…、オレの超再生力も凌駕する破戒でオレの復活を防げたはずだ…。』

 カズは、何事もなかったかのように起き上がる。

 カズは、そこいらに落ちている、グリーフシードを舌を伸ばして広い、口に運んでかみ砕いた。

『かずみ…、オレの決意を見せてやるよ。』

「うぅ…ぅ…。」

「かずみ、もうやめろ! 限界だ! ジュウべえ!!」

『ほい来た! ……あれ?』

 カオルがかずみを介抱し、ジュウべえにソウルジェムの浄化をさせようとしたが……。

 突然、ジュウべえの体がポロポロと崩れ始め、そして、溶けた。グリーフシードの残骸を残して…。

「! ソウルジェムが…。」

 カオルと海香のソウルジェムが離れ、濁りの色が浮き出てきて変身が解けてしまった。

「アハハハハ! ようやくか。どう? これが真実さ。」

「カンナ? 真実…?」

「思い出しなよ。どうやってソウルジェムは、浄化できるのかを。」

 カンナは、わざと助かる道を教えた。

「浄化……、ハッ!」

 カオルが気づき、死んだジュウべえから出てきたグリーフシードの残骸を拾った。

「くそ! 使い物にならないか!」

「うぅ…。」

「まずい…かずみも限界だ!」

「グリーフシード…、そうだ、グリーフシードでソウルジェムを浄化できるんだ! けど…。」

 カズの方を見ると、倒された魔女のグリーフシードを舌に乗せて口に運んでいた。

「ちくしょう! アイツ(オオカミの魔獣)の腹の中だ!」

「だ、だいじょうぶ…。私が取ってくるから…。」

「ムチャだ! かずみはもう…。」

「……今までありがとう、海香、カオル。」

 体が変色し始めたかずみが、ピアスを鳴らした。

 すると、ドクンッとかずみのソウルジェムが胎動を始めた。

「っ…。」

「かずみ。私のオオカミさんなら、助けてあげられる。だから、一緒に行こう?」

「ぅ…、ぁあ…。」

 カンナが魔女・サキに乗って、かずみに近づいた。

 すると…、突如魔女・サキが暴れ出した。

「なっ!?」

 カンナを振り落とし、宙へ浮いた魔女・サキに、残った魔女達が群がる。そしてズタズタに引き裂き、噛みちぎり、魔女・サキを殺した。

 そして、死んだ魔女・サキからグリーフシードが落ちた。

「サキ…! あんたって子は…!」

「分かってる!」

 カオルと海香が、サキのグリーフシードを拾い、かずみのソウルジェムに当てた。途端、グリーフシードにソウルジェムの濁りが吸い取られ、それと共にかずみの体の変調も消えた。

 

『姉妹愛…か…。』

「ふん…。魔女になってまで妹とミチルに固執するなんてね。」

 

 かずみが起き上がる、だがソウルジェムが限界を迎えそうになっているカオルと海香は倒れていた。

「カオル! 海香!」

「ぐ、グリーフシードを…。」

「そうだ…、アイツに喰わせるんだ…!」

 徐々に封じていた記憶が蘇る。

 そして、叫ぶ。

 

 キュゥべえ、と。

 

 その瞬間、あすなろ市の上空にあった魔法の方陣が崩壊した。

 

 そして、ジュウべえと似た、けれど、白い体のソレが現れた。

 

『…久しぶりだね。プレイアデス。』

 

 キュゥべえは、孵化寸前のサキのグリーフシードを尻尾で拾い、投げるようにして背中の口に放り込んで飲み込んだ。

 

『そして、初めましてか。オオカミの魔獣。』

『お前が、魔法少女システムの元凶か?』

『元凶? 確かに僕らは、魔法少女を生み出したさ。けれど、それを選んだのは彼女達だ。』

 そこから、キュゥべえは、倒れている海香とカオルと会話し、あすなろ市全体を覆う結界を張り、キュゥべえの存在を認識できなくして抹殺する方法を取ったことが明らかにし、そして、魔法少女システムに逆らうために作り上げたジュウべえが、魔法少女が魔女になる瞬間に発生するエネルギーを回収するためだけに存在すると言っても過言ではないキュゥべえ達、インキュベーターの体を素体にしたことが失敗だったのだろうと分析して語った。だが、今日まで魔女化しなかったのは、ジュウべえが食べたグリーフシードによる多少の浄化があったことと、魔法を使うのをセーブしていたことにあるのだろうと語った。

『グリーフシードを使えば事足りることを、僕という素体にグリーフシードを組み込んで創り出した新たなシステムは、とても興味深かったよ。』

 キュゥべえが、倒れている海香とカオルの方を見た。

 浮き上がっている二人のソウルジェムが、濁りに濁り、限界が来ていた。

『もう間もなく、二人の魔女が生まれる。』

「キュゥべえ! 二人のソウルジェムを浄化して!」

『僕にそんな機能はない。ソウルジェムを浄化する方法はひとつだけさ。』

「グリーフシード!」

 かずみが、双樹の魔女を見た。

 そして、力を振り絞って倒す。だが……。

「残念。魔女が必ずグリーフシードを落とすとは限らないんだよね。」

 カンナがカズの背中に乗ってくつろぎながら、クスクス笑った。

「そんな! じゃあ、海香とカオルは!?」

『君の知っている通り、魔女になるしかないね。』

「さあさ、早くカズに食べられるための、メインディッシュになって。」

「やだ! そんなの、イヤだよぉ!!」

 かずみが、倒れている海香とカオルに駆け寄り二人の手を握った。

 すると、リンッとかずみの耳にあるピアスが鳴った。

 そして、意識がなかった二人が目を覚ます。

「海香! カオル!」

『信じられないな。ソウルジェムは、すでに臨界点を超えている。いつ魔女化しても不思議じゃない。」

「魔法少女システムの否定…、それが私達の戦い…。」

「希望が絶望に変わるとき、ソウルジェムは燃え尽き…。グリーフシードになるんだよな?」

『そしてグリーフシードは、魔女を生み出す。』

「なら、私達は魔女になんかならない!」

「ああ、あたし達は、絶望なんて、絶対に、しないから!」

「グランマがミチルに……。」

「ミチルが私達に教えてくれた……、希望があるから!!」

 

 次の瞬間、大きなお腹が鳴る音が聞こえた。

 

 海香とカオルは、にやりと笑うが、カンナとカズは、キョットーンである。

「海香…カオル…。帰ったら、イチゴリゾット食べようね!」

 しかし、二人は青い顔色で返事をしない。いや、もうその余力もないのだ。

『魔女化もせず、グリーフシードも生み出さず、死を迎える。それが君達の意志というわけか。だが前例はないよ。』

「なら…、私達が前例になる!」

「ダメ! 私をひとりぼっちにしないで! 海香! カオル!」

 かずみが涙を流した、その時。

 リィンっと音が鳴り、ひとりでに左耳にあるピアスが外れた。そしてほどけるように形が変わり、その中から、まだ濁っていないグリーフシードが現れた。

「これは…。」

「…ミチル……。」

 ぼう然とするかずみだったが、カオルの呟きに、このグリーフシードが誰のモノであるか理解した。

「ミチルのグリーフシード……。ミチルが海香とカオルを助けようとしてるんだよね?」

『グリーフシードに意志なんてない。』

「でも、私には分かる……。ずっとミチルは、私と一緒に…。みんなと一緒に戦ってくれたんだよ…。」

 

『……。』

「カズ…。」

 

 カズは、黙って、その光景を見ていた。

 かずみが、そして、ミチルが…、カオルと海香を救うのを。

 ソウルジェムが浄化されたことで、二人が起き上がった。

 

『ミチルは……、可能性であり得たかも知れない、オレさえも否定するか。』

 

 カズの言葉に、ハッとしたかずみがカズを見た。

「違う! それは違うよ!」

『なぜ、オレはオオカミになったんだ…。オレは何のために生き返った…。そう、悪い子(魔女)を食べてしまえというお告げだろうな。』

「カズ!」

『オレの基になった奴にすら否定されたオレに……、もはやこの世界に居場所はない…。」

「カズ…。」

 カンナがカズの頭を撫でた。

『カンナ…。終わらせよう。』

「!」

『決めてただろ?』

「それは…、最後の切り札であって…。」

『かずみを絶望させるには、もうこれしかない。やろう!』

「っ…。」

『強制進化か。』

「どういうことだ!?」

『…知ってたか。』

『認識されないよう魔法を使われていただけであって、僕はずっと君達のことも見てたんだ。魔女ではなく、魔獣たる君の、グリーフシードを食べることで進化する特性…、興味深くはあるね。しかし、聖カンナ、君がコネクトで縫い合わせた君のオオカミの魔獣は、それに耐えられるのかい?』

『耐えられるか、じゃない。耐えるんだ。カンナ!!』

「……分かった。」

「やらせない!」

『オレ達を止められるものなら、止めてみろ!!』

 カンナが飛びレイトウコへ向かった。それを止めようとするかずみ達の前にカズが立ちはだかる。

「リーミティ・エステールニ!!」

 かずみが放った破壊の魔法が、カズの胴体を抉った。

 グズグズとカズの腹が溶け、内臓がドチャッと落ちる。

『ふっ…、どうやら、オレとかずみは相性が悪いようだな。』

「カズ…。」

 グロテスクで痛々しい有様に、かずみが震えていた。

『さあ、怯えてる場合じゃないぞ? オレを止めたければ、オレを完全に、殺せ!!』

「かずみ! 行け!」

「あなたの魔法だけが、オオカミの魔獣を倒せる切り札よ!」

 二人の声を受け、決意を固めたかずみが、再び破戒の魔法を放った。

 それをカズは、巨体からは想像も出来ない速度で避け、かずみを喰らおうと大口を開けた。

 すると、横からカオルの強烈な蹴りが入り、そこにカズミの破戒の魔法が降り注ぐ。

 カズは、苦悶の悲鳴を上げ、倒れ込んだ。

『う…ぐ…ぁ…あぁ…。』

「今…楽に…!」

 かずみがトドメの一撃を与えようと杖の先に破戒の魔法を溜めた。

 

 その時。

 かずみが、限界を迎え、へたり込んだ。

 そして、カズは、内蔵や溶けた部分をボタボタと落としながら、無理矢理に立ち上がった。

 体が、徐々に再生していく。

『このままじゃ、君らの国で言う、いたちごっこだね。』

 キュゥべえがかずみに近づいた。

『かずみ、君に選択肢がある。』

「かずみに近寄るな!」

『そんなことを言ってる場合じゃないと思うけど。まあいいや、君は、この中で唯一僕と契約をしていないんだ。つまり…。』

 それを聞いたかずみは、ハッとした。

『願いの内容はともかく、今の君では、オオカミの魔獣を殺しきれない。さあ、どうする?』

「ダメだ、かずみ!」

 海香とカオルが止めようとする。

 だがかずみは、意を決したように表情を改め、胸に手を置いた。

 

「私を人間にして。」

 

『けれど、それだと結局は抜け殻になるだけだ。それでもいいのかい?』

「私は、誰の魔法も力も借りず…、自分の足で明日を踏み出すための体が欲しいの! だから……。」

 かずみの体が光に包まれ始める。

「さあ、叶えてよ! インキュベーター!!」

 そして…、かずみの姿が変わった。

 髪が伸び、そして魔法少女としての姿が変わる。

『君の願いは、エントロピーを越えた。さあ、その新しい力を解き放ってごらん。かずみ・マギカ(魔法少女かずみ)。』

 白に近い、薄紫色のドレスは、彼女の絶望に抗う強すぎる希望そのものか…。

『すごい力を感じる。この魔法少女はアタリだ…。』

 すると、カオルと海香の変身姿も変わった。

『かずみの魔法力に影響されて、君達もバージョンアップしたんだ。』

「やれる! これなら、勝てる!!」

『かずみ…。それがお前の出した答えなんだな。』

「カズ…。」

 新しくなった杖を手に、かずみが魔法を溜め始めた。

 その頃には、傷が完全に癒えたカズは、かずみに襲いかかった。

 振り下ろした前足の爪を杖で前足ごと弾き飛ばし、跳ぶ、そして振り下ろした杖で、カズの顔を切り裂いた。

『これ…ほどとは…。』

「トドメだ!!」

「合体魔法!」

 

 メテオーラ・フィナーレ

 

 三人が同時に発動したその魔法は、まっすぐオオカミの魔獣…カズの体を貫き、爆散させた。

 

「肉片も血もすべて消さないと!」

 海香がそう叫んだ。

 周りには、プスプスと焦げ、けれど、まだ生きている肉片が落ちていた。

 

『か…んな…。』

 

「カズ…。」

 かずみは、涙を流しながら、すべてを焼き払うため杖を振り上げようとした。

 

 その時。

 

「残念。時間切れだ!!」

 

 帽子に乗せたソウルジェムの山を、カンナが中にばらまいた。そしてコネクトと唱え、コネクトの光の糸のようなものがカズの残骸とソウルジェムから孵化したグリーフシードを繋ぐ。

 

「まずい!」

「止めるぞ! うぁ!?」

 近寄ろうとした途端、凄まじい衝撃が発生し、三人は吹っ飛ばされた。

 

『ぐ…が…ぎあああああああああああぃぃいいいいいいいいいいいいい!!』

 

「カズ…。」

 

 カンナは、涙を目に溜めていた。

 グリーフシードが溶け、コネクト伝って、カズの体に流れ込んでいく。

 ベキベキメキメキと、カズの体が再生し、オオカミの魔獣としての姿が変化していく。

 二本足になり、背中から映えていた翼がコウモリの翼へと変わり、枚数が左右で六枚へと変わる。

 白銀の毛皮はそのままに、角もそのまま。

 だが、体長は、40メートルはあろうとかという巨体へと変化した。

 尻尾もカンナのコネクトに似た、奇妙なコード状のソレへと変化した。

『ハア…ハア…。』

「カズ!」

『だいじょうぶ…だ…!』

『へえ、それが強制進化か。しかし…。』

『まだだ…。』

 キュゥべえが、言いかけた言葉を、カズが遮った。

 

『コネクト!!』

 

 カズがそう叫び、尻尾のコネクトの糸を、自身の結界と同時に広げた。

 それは、あすなろ市を包み込み、途端、異変が起こる。

『これは…。まさか…そんなことが…。』

 市内中の人間達がバタバタ倒れ、フワリッと体から小石のような物が現れる。中には、ソウルジェムもあった。

 それらは、すべてカズの周りに集まり、やがて黒い煙を出しながら濁って小さなグリーフシードや、普通のグリーフシードに変わっていった。

 それらは、すべてカズの体表に吸い込まれるように消える。途端、ドクンッとカズの体が脈動し、一回り大きくなった。

『素質の有無にかかわらず、あらゆる人間の魂をソウルジェムに変えて、グリーフシードにして、喰らっているのか!?』

「なっ!? そんなことが…!」

『早く、アレを倒すんだ! 結界の範囲が広がってきている! このままじゃ…、世界中…いや、地球を包み込むかも知れない!』

 キュゥべえの焦った声と言葉に、かずみ達は驚愕した。

 

「すごい…すごいわ。カズ! 私のオオカミさん!」

 

 カンナがカズの肩の上でカズの首に抱きついていた。

 

『まだだ。』

「えっ?」

『オレは……、否定する。』

 カズは、天を見上げ、再びコネクトっと叫んだ。

 コネクトの糸が天へと伸び、空間に広がっていった。

『馬鹿な…、そんなことが…一匹の魔獣にできるなんて…ことが、あってはならない。』

「キュゥべえ?」

『カズ…、否、オオカミの魔獣…、君は、宇宙を滅ぼす気か?』

『その通りだ…。』

 キュゥべえの問いに、カズは答えた。

『オレ達を否定した世界…、違う…、地球だけじゃダメだ…。インキュベーター…お前達も…オレは許さない。お前達がいなければ、魔法少女システムは生まれなかった。そして、ミチルは、魔女にならなかった。オレが、生まれることもなかった!』

 カズが立ち上がり、両腕と翼を広げた。

「キュゥべえ! 何が起こってるんだ!?」

『彼は、宇宙の因果に干渉して、エントロピーを加速させようとしている。』

「それって…。」

『そう…、宇宙を喰らい尽くす気だ!』

 すると、カズの体がまた大きくなった。

「カズ…、カズどうしてそこまで…。」

『地球の上で、インキュベーターの掌の上で魔法少女システムがある限り…、カンナは…、ヒュアデスにはなれない。』

「カズ…。」

『ならば、宇宙を滅ぼし! 新たな宇宙を創成するまで! そうすれば、真にカンナは本物になれる!!』

『宇宙を滅ぼしてまで仮初めの命から本物に昇華したいのか? 君らは、僕らインキュベーターのエントロピー回避も、宇宙のために死んでいった魔法少女の全てを否定するというのか? わけがわからないよ。』

『じゃあ、聞くが! お前達は、宇宙の滅びの先を知っているのか!?』

『決まっている。“無”だ。そこには何もない、無、しか残らない。』

『オレには見える……。オレとカンナの楽園が…!』

「カズ! カズ! ステキよ!!」

『そんなモノは、君らの妄想だ。』

『宇宙が滅んだ先のことを見たこともない奴が、戯言を言うな!』

 

「私が…、名付けてあげるわ…。あなたは、私のオオカミさん。ヒュアデスの世界を、いや、宇宙を誕生させる、滅びのオオカミ……。その名は…。」

 

 

 

 

 ヒュアデスのフェンリール(ヒュアデスの銀狼)

 

 

 

 フェンリール……、それは、とある神話において、神々の王を預言通り食い殺した巨大なオオカミの名。

 

「宇宙(神)を滅ぼす、オオカミにふさわしい名前だよ。カズ。」

 




タイトル回収かな。


エントロピーを加速させて、宇宙を滅ぼし、新たな宇宙を誕生させること。
それが、カズが出した、カンナを本物の存在にするための手段でした。

しかし、次回……。

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