皆さんは2次作転生という言葉を聞いた事があるだろうか?
神様のミスという謎のテンプレを経て転生したある一例がここに存在する。
彼にはある困り事がある。
いや、それは恐らく彼が生きている限り困り続けると思われることだ。
それというのは彼が神様に対して願ったチートに関係する。
"FFの魔法が使いたい"彼の願ったチートはただそれだけである。
それは"ヘイストとかストップとかデスとか現実で使えたらチートじゃね?"という彼の何気無い思いから願ったことだ。
だが、願った世界がいけなかったのだろう。
だが神様が彼を転生させる世界はハイスクールD×Dの世界だった。
そして彼はその事を知らなかった。
魔法どころか悪魔とか天使とかいるし転生先としては最高なんじゃね? と思ったそこのあなた。甘い、餡蜜の1000倍は甘い。
ハイスクールD×Dはパワーインフレ作品だということはご存知の通りだろう。
走り込みでヒイヒイ言ってた悪魔がわりと直ぐに一撃で山を吹き飛ばすような世界なのだ。
そんなところにただFFの魔法が使えるだけの者を神様ともあろうものが送り込むだろうか?
神様には面子というものが必要不可欠。よって彼には人生を楽しんでもらう必要があるのだ。
そのためにはまず死なないようにすることが最低限度の暗黙の了解というものだ。
ならどうするか? 下手に彼をチート化させたとしても過ぎた力を持てば慢心を生む。慢心は良い結果を決して残さない。彼には常に力に対して緊張してもらうぐらいがちょうどいいのだ。
だが、神様たちには人間を他の世界に転生させるにあたりあるルールがあった。
彼を転生させるに当たった最高神と呼ばれる力と地位を持つ神様とて例外ではない。
それは原作、あるいはその世界で無理の無い範囲でチート転生させることだ。
神様は彼の転生で困り果ててしまった。インフレ祭のハイスクールD×Dの中でFFの魔法程度でどうやって対応させれば良いのか解らなかったからだ。
フレアしかりアルテマしかりでもたかが一人間の火力で対処出来るだろうか?
無理だ…。そもそも個人には限界がある。どんなに強くしようとインフレ世界ではいずれ彼を越えるチートキャラというものが出現するのがインフレ世界の常識だ。
そるにそもそもFFの魔法が存在しない世界でそれを持ち込む事態が既に無理であるのだ。
魔法や、魔術といった類いのモノはその世界で根付いたものでありそれを他の世界に転用するのは文明規模の改変となるのだ。
個人で持たせるにしても火力不足、文明規模の改変は不能、それに師のいない世界では彼が存分に魔法を扱うことは出来ないだろう。
彼のチートは世界に対して微妙な上に無理が出過ぎたのだ。
さらにハイスクールD×Dともなれば悪魔とでも結婚するとしたら1万年程は生きてもらわねば困る。
だがFFの魔法に超延命魔法なんてものはない。リジェネ不死身説などは迷信でしかない。時間圧縮なんてものはあるがあれは魔女限定だ。
いっそ王の財宝や、大嘘憑きぐらい言ってくれれば神様も楽だっただろう。神器にすれば済む話だったからだ。
神様は頭を抱えた。このままでは私の面子ががが……。
地位の高いものは面子や、体裁を重んじたがる。この神様も例外ではない。
その時、神様に光明がさした。神様には元から光がさしてるとかはいってはいけない。
神様は最も簡単かつ効果的で無理もなく、さらに間違えなく最強の師兼護衛までつけられる最高の方法を思い付いたのだった。
神様は端から見たら厨二病か発狂した者にしか見えない笑い声を上げながら自分の面子の無事を喜んだのだった。
例えそれがありがた迷惑どころか彼が胃薬が手放せない生活を余儀なくされようとだ。
そんなこんなで彼……
◆◇◆◇◆◇
鬱だ……。
神羅くんは誰が見てもわかるように負のオーラを撒き散らしながら中学校から自宅への帰路に着いていた。
その足取りは果てしなく重い。
この辺りで神羅くんの中学三年生までの経緯を説明しよう。
ごく普通よりは結構裕福な母子家庭に生まれた彼は健やかに育ち、幼稚園、小学校と来て中学校三年生に至るわけだ。
だが、彼には気がかりな事がある…いや、あった。無論、それはFFの魔法のことだ。
転生したのに一切使えなかったのだ。
これはひどい。
と、どこかのクソゲーの村人と同じセリフを吐きながら業を煮やしたが、ただの人間にはどうすることも出来ないので沸き上がる怒りを押さえ込みながら日常生活を送っていると、小学校6年の誕生日に携帯に神と一言掛かれた題名のメールが届いた。
中を開いてみるとこう書いてあった。
『15歳の誕生日に素晴らしいプレゼントが届くから安心してくれ』
彼はその時を物凄く期待を込めて待った。何かは知らないがちゃんとくれるなら何も問題はない。シンラくんは現金な奴なのだ。
そして15歳の誕生日。
"朝起きたら庭にクレーターが出来ていた"
物音一つしなかったにも関わらずだ。
外国を飛び回っているため基本的に家に母親がいないことが幸いだろう。
普通親が自宅の庭に50m規模のクレーターが出来ていたら倒れる。
シンラくんの自宅が世間一般に豪邸と言われる程の広さで助かったのかも知れない、少なくとも自宅に被害はないからだ。
まあ、十分ストレスでマッハになりそうな状態ではあるが…。
シンラくんはとりあえずクレーターの端にたって中を見下ろした。
刹那。
盛大に顔を引き吊らせた。そして同時にこれが神様からのプレゼントだと理解した。
この瞬間から彼の胃薬生活は始まったと言っても過言では無いだろう。
そんなこんなで回想も終了し、着いてしまった自宅の玄関扉の前。
シンラくんはいつものように盛大な溜め息を吐くと胃を決して扉を開けた。
『お帰りなさい旦那様! お風呂にします? ご飯にします? それとも………わ・た・し?』
「………………………」
いた。シンラくんにとっての胃痛の原因が、諸悪の根源が…。
"裸エプロンで全裸待機してやがった"
これは流石に予想できなかったのか、彼の胃が早くも警報を鳴らし始めた。
シンラくんが頭を抱えているうちにバックを彼女に取られ背中を押されていた。
『返事がないなら夕食にしましょう! お風呂はその後です。今日の夕飯はミートソーススパゲッティですよ』
背中を押されながらリビングに入ったシンラくんの目の前にはテーブルに目を向けた。
普通のミートソーススパゲッティが皿に盛られていた。湯気の登りかたから出来立てだということと、シンラくんが育ち盛りだということも考慮して200g程の盛り具合だともわかった。
実は彼女がここに来て以来約1ヶ月。シンラくんに非常に献身的に尽くしてくれているのだ。掃除、洗濯、家事百般。それこそどんなことでも嫌な顔一つせずにしかも敬語でシンラくんに接しているのだ。
それがシンラくんにすれば不気味極まりなかった。
現在もそうだ。自宅では常にシンラくんの斜め後ろに控えており、ベッドで添い寝までしてくるので心の休まる暇がない。
いっそのこと一思いに後ろから刺されでもすれば気が楽なのだろ。
シンラくんがなぜそんな思考に至るか解らない人も多いだろう。
それは単にシンラくんが何も知らずに転生してしまっていれば起こり得なかった事だ。
FFの魔法をチートに願わなければ起こり得なかった事だ。
神様がもう少し面子を気にしない者なら起こり得なかった事だ。
シンラくんは一旦部屋に戻り着替えてから再び戻ってくると母の私物であるメイド服を着た彼女がいた。
なんでも母曰く、19世紀末に英国で使用人等が使っていたようなヴィクトリアンメイドが王道でありそれ以外のパチモンは一切認めないらしい。
だからってなんで家に何着もあるのか不思議で仕方ないがやぶ蛇な気がするので1ヶ月前までほっておいたのだが、それがこんなところで凶悪な威力を発揮するとは夢にも思わなかっただろう。
彼女が微笑む姿から伝わって来る慈愛に満ちたものをシンラくんも感じ、中々上級者向けだがクラっと来そうになるのを耐えていた。
『冷めてしまいますので、どうぞ』
そう言って椅子を引いてくれている彼女を見ていると彼女がどういう存在だか忘れそうになるが、それを振り払うと席に着いた。
シンラくんは食事に手をつけた。その味は家にあったものと近所のスーパーから安く買ってきた物とは到底考えられない程、無駄がなく洗礼された美味しいという結果を追求したような味だった。簡単に言えば凄まじく美味かった。
彼女はそれを確認するとまた微笑んで部屋から出ていき、しばらくすると普段年末ぐらいしか洗濯しないようなカーテンなどを持ってきてリビングにある部屋干し用の竿に掛け始めた。
そう、彼女はどこからどう見てもシンラくんのメイドさんである。しかもとても献身的で熱心かつスキルの高いメイドさんである。
だが、知っているとは恐ろしいものだ。そんな彼女がシンラくんにとっては死ぬほど恐ろしい存在にみえてしまうのだから。
シンラくんは何度目かわからないが彼女を上から下へ観察した。
赤黒い一対のどんな生物にも当てはまらない形状の翼。
青みがかった銀の長髪。
明らかに人の肌ではない深い蒼色の肌。
右手は人の手の形を模しているが左手は肌より濃い色の触手。
そして人の下半身をしているがそれを囲むように生える数本の赤い触手。
彼女が振り向き、シンラくんと目があった。
その目は白目も黒目も瞳孔も無く、薄く光る赤一色で統一された目をしていた。
それは正しく、FF史上最悪の宇宙生物。
星を喰らい無限の命を持つ
"
最近FF7をやってふと思った。
ジェノバさん弱すぎだろと。
そして作者のフロム脳が爆発した。
ひょっとして星を取り込んだ状態だったら無茶苦茶強かったんじゃないかと。
そんな妄想全開のこの小説。