直前まで読んでから寝たせいか初夢に貧乏神が! の山吹姐さんが出てきました。
これって…いい夢と捉えていいのでしょうか?
私はいつの間にか真っ暗の空間に漂っていたわ。
例えるのなら宇宙の中で迷子になったよう、でも不思議と安心し、暖かみすら感じる。そんな感覚かしら?
宇宙で迷子になったことも出たこともないからどうかなんてわからないけど。
またこの夢なのね。
暫く漂っているといつも通りソレが目の前にいたわ。
私と同じシルエットをした何か。
影のように黒くその見た目すら認識出来ない何かがそこにいたわ。
『はろー、また来たのね』
『ええ、もちろん』
私はいつも通り軽く挨拶を交わすとソレも私と同じ声で挨拶を返してきたわ。
『あなた一体誰なの?』
『さあ? あなたは誰だと思うの?』
いつも通りの質問ものらりくらりとかわされる。まるで私みたい。
『私自身かしら?』
『それはどうかしら? あなたはあなたは1人よね?』
『ええ、でも目の前のあなたは誰なの?』
『ふふっ、当ててみなさいよ♪』
そんな風にループし、いつまで経っても答えに辿り着かないので私は諦めたわ。
『それで今日は何があったのかしら?』
諦めた瞬間がわかっているようにソレは話題を切り替えてきた。
そして私はいつも通りソレに他愛もない今日1日の話を語っていく。
それをソレは相槌をうちながら聞き、時々ツッコミを入れたり改善点を教えてくれたりするの。
ソレが私ではないことは私自身よくわかっているわ。
だって私の知らない事を何でも知っているのだから。
聞けばどんなことでも教えてくれる。唯一、ソレの正体以外はね。
『それでね!』
私は気付けば長年の親友とでも話しているようにソレに向かって語りかけていたわ。
『今日彼に好きって言われたのよ!』
彼、神城 羅市。長いからシンラ。
私の幼馴染みで私の想い人。
他と違う私と一緒にいてくれる優しい悪魔。
残りの人生全てを捧げると決めて、唯一、男で好きになった最愛の人。
死ぬしか無かった私の運命すらねじ曲げて私を助けてくれた彼。
そういえばこの夢が始まったのも彼に助けられてからだった気が…。
『な………』
なめこ?
『なんですとぉぉぉぉ!!!?』
え?
『ちょ!? それ詳しく教えてください!』
え? ちょ…。
『あ、こら! まだ起きるなぁぁぁ!!』
「何よ…あれ」
今日の夢は変な夢ね…。
私は気持ちを切り替えると身支度を整え、家を後にした。
今日もシンラとの待ち合わせの場所に行くといつも通りいたわ。
私はシンラに抱き着くために走った。
◇◆◇◆◇◆
朝起きるといつも通りオーフィスちゃんの寝顔のドアップだった。
母さんが来てから1ヶ月後、今日はたまの日曜日である。
ふむ、今日はジェノバさんに起こされずに起きれたな。
寝顔が可愛らしいオーフィスちゃんを何気無く撫でた。
「ん…んむ…」
はむはむ。
………………指をくわえられた。
マジで寝てるのかこの娘。
とりあえずオーフィスちゃんを起こさないように引き剥がそう。
ちなみに母さんは異界の深淵から帰ってきてから目覚め、ジェノバさんが作った夕飯を食べると絶望にうちひしがれたような顔をし、暫く顔を伏せて"負けた……"と呟いていたりした。
その後、その日の内に"こんなこと…どう報告すれば…"などと呟きながら再び仕事に行った。
お仕事お疲れ様です!
よし、剥がし終わったぞ。さて…ん?
私は反対側に誰かいることに気配で気が付いた。
なんだジェノバさんも寝てたのか。
それとなく寝返りを打つと……。
「ほう…やっと気付いたか。余を1時間も放置するとは。汝は随分肝が据わっておるな」
"目の前に裸に胴体が隠れるほどのポンチョを着た女性が寝そべっていた"
な、何を言っているかわからないと思うが私もry)
待て待て私、クールになれ。
「ほう…」
その女性はベッドから立ち上がると私をまじまじと見詰めてきた。
ただ見られるのも癪なので私も彼女の観察をしよう。
どこかの四天王の紅一点並みに超ロングなポニーテールの灰色の髪に、碧の瞳。
180はあるかという高身長に、オーフィスちゃん並みの白い肌。
中性的な顔立ちだがそれを否定する女性らしいボディライン。
というかポンチョ越しに浮き上出てる胸って凄くないか?
「汝の封印は余と同じ…いや、それ以上と見える。それにそれはあ奴の封印か…汝も難儀なモノよな」
封印…?
「まあ、なにか。似た者同士仲良くしようぞ」
手を差し出して来たのでとりあえず握り返した。
あ、どうも。ところであなた誰?
次の瞬間、私はこれほどまでに聞かなければ良かったということはないと思い知ることになる。
「"余の名はヤズマット。かつての
あー、そういえばそのポンチョの色、ヤズマットの魔方陣みたいな首の封印にそっくりの配色だな。
………………………………。
………………………。
………………。
………ヤズマット…?
私が現実が受け止めきれずに適当に視線を泳がせていると、部屋のドアの前で口元を隠してニヤニヤしているジェノバさんだった。
いや、まだだ…まだ折れるな……これだけは言いたい。
いや、これはヤズマットの前に散った全プレイヤーの心の叫びだ。
ポンチョを…。
お・ま・え・が・着・る・の・か・よ。
◇◆◇◆◇◆
なぜそんなことになったのかは前日の土曜日に遡る。
ジェノバは現在、黄緑色の眩いばかりの光が集約する場所の中核にいた。
そこは星全ての生命エネルギーであるライフストリームが渦巻く"星の胎内"であった。
その中の開けた場所に浮かぶ正方形のブロックを乱雑に組み合わせて造ったような3km四方の足場の上にジェノバはいた。
目の前の完全に修理の済んだヴェグナガンに更に手を加えながら。
修理されながら実験材料などなりながらもヴェグナガンは大人しく動かずにいた。
九十九神になったことで利己的な回答が導き出されたのだろう。
自己進化程度ではジェノバに勝てる確率など兆に1つもないということを。
とは言ったもののヴェグナガンの身体は度重なる自己進化の結果、既に法則の限界を遥かに超え、この星に存在するありとあらゆる物質より硬く、柔らかで、温度耐性のあり、鋭く、決して劣化せず、時間経過で再生し、魔力を流すことで爆発的に再生速度が上がるというとてつもない超物質になっていた。
それは十二分に機械仕掛けの神の基準を満たしているだろう。
ジェノバから見てもかなり貴重だと考えるほどの良質な材料だ。
銀河中を探してもこれほどの素材を見付けるのには時間が掛かるだろう。
ジェノバはヴェグナガンの側に置いてある4mほどの機械を見た。
ヴェグナガンの装甲を少し削り、それに魔力を送ることで増やし、そこから切り出し、知識の中にある設計図で造り出された機械だ。
ジェノバの青い魔力から造り出したせいで青くなってしまうという問題が発生したが、元の配色と遜色なかったためペイントの手間が省けたらしい。
恐らく、これを見てもシンラが絶叫するのは間違えないだろう。
さらにジェノバの隣の培養機の中を緑色の小さな玉が浮いていた。
それはジェノバ特製の魔法マテリアだ。
マテリアとは星の命であるライフストリームの中の情報を凝縮して造られた魔法媒体だ。
手早く言えば魔力のある者ならそれに魔力を流すだけで魔法を撃てるというモノだ。
ジェノバが1つのマテリアを掬い上げた。
それに極少量の魔力を流すと周囲に数千発の光の槍が形成された。
三陣営がこのことを知れば度肝を抜かれるどころの話ではないだろう。
これさえあれば誰であろうと一定以上の基準を満たした即製の兵士となりえる。
その上、種族関係無しに多種族の固有の技や魔法を使うことができるからだ。
しかも当たり前のように大多数のマテリアは量産可能である。
蛇足だが手早く言えばマテリアは星の知識を凝縮されたものだ。
なので星が戦争などで魔法や技が進化すればするほど多種の攻撃系のマテリアが生成できる。
逆に言えば争いの少ない星では攻撃系のマテリアの種類が少ない。
そしてこの星は、ジェノバVSセトラの大戦争が行われた星並みに攻撃系のマテリアの種類が多く、ほぼ攻撃系のマテリアしかない。どれだけ戦争をやってたんだこの星は。
「んー、これは呂布ちゃんにでもあげますかねー」
ジェノバは"ひかりのマテリア"を指で転がしながら彼女、呂布 奉先のことを考えた。
間違えなくこの星の人間最強の肉体スペックを持つ奇跡の女。
それがジェノバの彼女に対する見解だ。
ソルジャーとなり人間の限界もある程度突き破ったので更なる進化が見込めるだろう。
彼女はジェノバにとっても最高の存在だ。
表で使える駒であれほど上質なモノは存在しないだろう…だが。
ジェノバは約1ヶ月前のことを思い出し、どこからかハンカチを取り出すとその端をはんだ。
「きー、私だってまだ好きだなんて言われてないのに」
それだけ言うとジェノバは思考を切り換えた。
次に考えたのは彼の事だった。
前の異界の深淵での彼。
その時、彼はジェノバが思っていた以上の存在である事がわかったのだ。
ジャッジメント・デイ。あれは並の威力ではない。
手加減なしなら1つの星を消し飛ばすことも不可能ではないほどの技なのだ。
ジェノバが障壁を張らなければ軽く異界の深淵全てを消し飛ばす威力だったのは間違えないだろう。
あれを間近で見て正気でいられるモノはほとんど存在しない。
事実、彼の母は気絶し、無限の龍神は子供のように脅え、真なる赤龍神帝は事態が飲み込めず止まるばかりだった。
だが、彼だけは違った。
彼はどこか楽しそうにジェノバがヴェグナガンを一方的に葬り去らんとする光景を見ていたのだ。
星を壊滅させる以上の威力を持った力を目の当たりにしながら…だ。
それは明らかな異常だった。
だが、それにジェノバは歓喜した。
それは確信にも近い回答と同然だった。
彼は過去にも同じように恐れたことがある。
それはジェノバとの遭遇の時だ。
それから推察するに彼には真なる恐怖を捉える能力があるということだ。
ジェノバは恐怖するという感情が最も重要な感情だと考えている。
恐怖することでそれから逃げ、生存出来る。
当然の思考回路だがそれが最も重要なのだ。
だが、あまりにも途方もない恐怖を前にすると大多数のモノはそれを認識できなくなる。
自分の尺度では推し測れないからだ。
つまり彼にはジェノバと同じ尺度でモノを見ることが出来るのだろう。
それは凄まじいことだった。
だが、疑問が残る。
精々この星の最上級悪魔程度の身体能力を持ち、微々たる程度の魔力しか持たない彼がなぜそんな思考を持っているのかということだ。
そこでジェノバは彼が寝ている間に徹底的に彼を調べた。
するとジェノバでさえ気が付かなかったほど巧妙に隠蔽された封印術式が施されていたのだ。
そして封印の奥には魔王2~3体分の莫大で潤沢な魔力と、"ジェノバが唯一手を出さなかった力の完成形"がそこにあったのだ。
ジェノバは彼の潜在的な素質を理解すると同時に歯軋りをした。
その封印術式があまりにも高度だったからだ。
ジェノバをして高度と言わしめるのだからそれがどれ程かはわかるだろう。
無論、ジェノバが解除出来ないわけではない。
"70%"
それが解除の完璧に成功すると思われる確率だ。
70%、つまりは10回に3回は失敗する可能性があるということだ。
それは、彼を思うジェノバにとってそれはあまりにも危険な賭けだった。
失敗とは即ち後遺症を遺すことである。
解けたとしても力が暴走すれば本末転倒、魔力を誤って枯渇させる可能性もある。
そんなリスクを犯すぐらいなら封印者を連れて来て解除させた方が何倍も合理的でリクスもない。
そもそも彼に被害が及ぶことなどジェノバの本意ではない。
そこまで考えるとジェノバは思考を切り替えた。
それはもう1つの疑問だ。
ジェノバと同様にしかも名前だけで恐れたヤズマットというモノは何なのか。
ジェノバはオーフィスに聞いたが要領の得ない答えしか返ってこなかったため、無理矢理記憶を見たところ、前回のヴェグナガンを撃退したのは紛れもなくヤズマットという竜であることがわかった。
ちなみにオーフィスの記憶から考えるにヴェグナガンはジェノバが撃破したのも含めて合計11回撃退されたようだ。ならば今のヴェグナガンは差詰めヴェグナガンmkⅩⅡ改といったところか。
話を戻そう、ヤズマットは真なる赤龍神帝の半分ほどのサイズの竜にも関わらず、ヴェグナガンに対して一方的な戦闘を繰り広げ、撃破していた。
その事実から推察するに実力はオーフィスとグレートレッドを遥か超えるところにいるのだろう。
ジェノバはふと作業の手を止めて後ろを振り向いた。
が、興味を無くしたように直ぐに向き直り、作業へと戻った。
するとそこの空間が歪み、ぽっかりと穴が空いた。
『汝がジェノバか』
するとそこから声が響いた。
声だけだというのに重厚で押し潰されるような威圧感が伝わってきた。
『グレートレッドから聞いておる。余はヤズマット。歴史に埋もれた竜ぞ。ヴェグナガンの件は礼を言おう。だが、それは?』
それとは確実にヴェグナガンのことだろう。
『汝は何を企んでおる? ことの次第によっては唯では済まさぬぞ』
「自分より弱いものを弄って何か意味があると思いますか?」
ジェノバは作業の手を休めることも視線を向けることもなくそういった。
それはそうだ。ジェノバからすればヴェグナガンは子供に持たせた玩具程度の存在。
そもそもこの行動自体がジェノバにとっては無駄なのだ。
『む………それもそうか』
ヤズマットは思いの外素直に引き下がった。
「まあ、名乗られたのなら名乗り返しましょう。私はジェノバ…」
『星を主食とする宇宙生物であろう? よく知っている。過去にも汝と似たものがこの星に来たことがある。確か…ラヴォスと言う名であったな』
「…まあ、そんなところです。あんな下等でスマートではない同業者と同列にされるのは少々癪ですが」
ジェノバ的にはラヴォスは下等生物だ。
星を喰らうという基本的な性質は同じだがジェノバからすればラヴォスは色々と効率的かつエレガントではない。
まず、ライフストリームの吸収を態々星の胎内まで潜って少しづつするため、数億年も時間が必要な事がいけない。
さらに時間移動や、魔法などの要らぬ対抗策を原生動物に与えてどうする。
トドメに肝心な星の活用方法が一度星の全てをビームで焼き払ってから子種を撒き、自分は星から去って次の星に向かい、その星は生体になるまで数十億年掛かる子供の成育所にさせることである。
一見完璧に見えるが星が普通に機能している時点で、星にとって深刻なほどのライフストリームが吸われていないのは見え見えである。
要するにジェノバからすればラヴォスのやり口は生温い。
まずジェノバは星に対して乗ってきた星を衝突させる。
そうすれば星が治癒のため、衝突部に膨大なライフストリームを集めるのでその中心で吸収すれば態々、潜る必要も長い時間を掛ける必要もない。
そしてその星制を圧し、自身は星の胎内へと潜り、宇宙を渡る方舟にして操縦することで再び他のライフストリームの溢れる星へ向かう。
そして始めに戻り新たに見つけた星に対してメテオに使うのだ。
自分の力を最低限しか使わない上、食料に、乗り物に、メテオにと実に無駄のない星活用である。
最も、当たり前のように外道極まりないが。
ジェノバな少しは話のわかる奴であるとヤズマットのことを上方修正した。
「ならあなたは何ですか?」
ジェノバはさぞどうでも良さそうに聞いた。そんなことよりも作業に集中したい用だ。
『む? 簡潔に纏めるのならオキューリアによって全ての神魔霊獣の頂点になるべく造られた神竜。そんなところであろう』
「オキューリア?」
『人より先に星に生まれ、
「自らを神…?」
『うむ、そして余はオキューリアに身に宿す力の大半を封印されて現在に至るわけだ。だが、未だオキューリアに遅れはとらぬぞ』
「封印…」
ジェノバの手が止まった。
ジェノバは何か思い出し、苦虫を噛み潰したような表示をしながら全身が小刻みに震えるほど力を込めていた。
「………………………セトラめ…エアリスめ……」
その直後、宵闇の星空のようなどこまでも冷たく悪意に満ちたオーラが噴き出した。
その力は地球の生命の流れであるライフストリームを一時的に完全に滞らせるほど強力なモノであった。
一瞬、莫大なオーラに当てられたヴェグナガンはなぜか目の光を一層強めてジェノバを見ていた気がした。
「"ミネルヴァァァ!!!"あのゴールデン(ピーーーー)女の(ピーー)め! この私を封印しやがりましてあのクソビッチの(ピーーーーー)。今度あったら(ピーーー)に(ピー)して(ピーーーーーーー)してやがり…」
矢継ぎ早に紡がれた呪怨のような明らかに御伝え出来ない罵詈雑言を超えた言葉と同時に、ジェノバのオーラにライフストリームが押し流され、ライフストリームの逆流により星が悲鳴を上げていた。
『落ち着け、底が知れようぞ』
「おっと危ない危ない。星がスイカみたいに美味しく割れるところでした」
ジェノバはさらっと恐ろしいことを言った。
『どうやら汝は余と似た者同士か』
「そうなりますかねー」
『ふむ、なら気にすることもないか』
そう言ってジェノバはポッカリと空いた次元を繋ぐ穴を閉じようとし始めた。
どうやらオーフィスしかり、ヤズマットしかり、竜というのはかなり素直な生き物らしい。
「まあ、待って下さいよ」
ジェノバはいつの間にか穴に身体を向けるといつもの貼り付けたような笑みを浮かべていた。
「もし良ければ私と取引などは如何ですか?」
その密約がなんだったのかは今は語るまい。
ただ1つ言えることは………。
「シンラとやらよ。余もここに住むことになった。よろしく頼むぞ」
「……グ………ズ………ギ ャ ァ ァ ァ ァ ム !」
「シンラ!? シンラ!?」
「と、言うわけでシンラさん。よろしくお願いして下さいね? ってもう聞こえませんか」
家は更なる人外魔境へと進化を遂げ、結果的に彼の心労は青天井を遥か超え、宇宙の黒天井へと突入したのだった。
ポンチョとは。
主に中南米で着用されている衣類、外套。四角形(ヤズさんのは丸形)の布の真ん中に穴があいていて、そこに首を通し、かぶって着用する。
そして、唯一風属性のダメージを半減できる究極の対ヤズマット用最終兵器なのだ(震え声)!