突然だが、家にあるニブルヘイム魔晄炉は内部までみっちりと作り込まれている。
実はその関係で見えている部分より、ライフストリームを汲み上げる関係で地下の部分の方が遥かに深く、広大だったりするのだ。
その地下約1500m付近にあり、作業の為に設置された足場。そのライフストリームを汲み上げる夜の12時と昼の12時になれば、3時間ほど魔晄に沈む場所に私はいる。
まあ、私だけではないのだが……そろそろ攻撃の手筈を整えているであろう目の前にいる"二体の悪魔"を眺めた。
「ねえ、兄様。あの人まだ追ってくるわ」
「そうだね姉様。追ってくるね」
見た目は昔のオーフィスちゃん程の年齢の男女だ。兄様と呼ばれた方は銀髪のショートヘアー、姉様と呼ばれた方は銀髪のロングヘアーと実にわかりやすい。
兄様と呼ばれた方は彼からすれば身の丈よりも少し小さな刀を持ち、姉様と呼ばれた方は身体に不釣り合いな大きさの銃を持っている。
だが、最も特徴的なのは兄様と呼ばれた方は俺から見て右側だけに5枚の悪魔の翼を持ち、姉様と呼ばれた方はそれと逆に左側だけに5枚の悪魔の翼を持つ事だろう。
「どうしましょう兄様」
「ええ、姉様」
その次の瞬間、二人は武器をこちらへと向ける。無邪気なまでの表情とは裏腹に、真っ直ぐなその瞳は何処までも純粋でありながら濁っていた。
「なら遊んで貰いましょう。私達と」
「それは名案だね。僕らと遊んで貰おう」
私は深く溜め息を吐くと、片手を前に突き出し、掌を2回程曲げて伸ばす事を繰り返す。
するとそれが引き金となり、弾丸のような勢いで二人の身体が私の眼下に迫り、姉の方は銃口を顔に突き付け、兄の方は首筋に目掛けて刀を振るっていた。
さて……どうしてこうなったのだったかな?
私は今日の朝頃にジェノバさんから聞いた話から思い返していた。
◇◆◇◆◇◆
『~♪』
早朝6時頃、セトラの最後の生き残りをイメージさせる鼻唄を歌いながらニブルヘイム魔晄炉のラボに入って来る影がある。無論、宇宙生物のジェノバだ。掃除が終了して、朝から何かの研究を始めるらしい。
ジェノバがラボの中を見回すとまず中央に鎮座している休眠中のアンラ・マンユが目には入る。更にマテリア工房、武具工房、裂けた空豆、アクセサリー工房と順に目に入り……。
『………………?』
裂けた空豆?
ジェノバはそれに気づくと目の前まで近付いた。
『ありゃ…』
ジェノバのラボの前の部屋に所狭しと並んでいた空豆ことモンスター製造機の一機がここにあり、どういうわけか内側から裂けていたのである。
とある理由により、前の部屋からここに移したそれがどうやら這い出て逃げてしまったらしい。ジェノバは顎に手を当てながら暫くどうしたものかと考えていたが、ふと他の異変に気が付くとそちらへと向かう。
『ひい、ふう、みい、よう、いつ、むー………………あれー?』
そこはなぜかビーカーの中に入れられていた彼の歩兵の駒の前だった。
再びジェノバは顎に手を当てるとポツリと呟いた。
『まあ、結果オーライでしょうか?』
おい待てや、宇宙生物。
『何か問題でも?』
寧ろそのどこに大丈夫な要素があったんですかねぇ…?
『この屋敷に張ってある大結界は予め登録されているモノか、結界外に設置されたインターホンを押したモノしか出ることが出来ないようになっているのでシンラさんの新しい眷属が出ることはまず有り得ません。敷地内の何処かにいますよ』
なにその新手のゴキブリホイホイ。無駄に高性能。
『まあ、いつもはそのホイホイのように泥棒さんなどにはお庭のルンバことキャリーアーマーさんが対応してくれるのですが……』
ジェノバさんが窓から庭を見たことで、私の視線もそちらへと向かう。そこには完全に大破し、煙を上げているキャリーアーマーがいた。
『……シンラさんの眷属相手は流石に荷が重かったようですね。まあ、朝見た時は黒のワルツ3号ちゃんが、修行の為に壊したのか程度に思っていたので対応が遅れました』
…………ジェノバさん作のキャリーアーマーはこの前、奉先と中々良い勝負をしていたと思うのだが…。
ちなみにアレもヴェグナガンの技術を流用して製造されたらしく、消し飛ぼうとも時間を掛けて自己再生するらしい。更に再生する度に学習し、より強力になるとのことだ。そのため、奉先と3号が修行という名目で頻繁に挑んでいるのを見掛ける。
それはそうとさっきからひとつ気になっている事がある。
「…ひぐっ……ひっく……ひっ……」
私はリビングの隅で、全てに絶望したようなオーラを纏いながらさめざめと涙を流しているオメガちゃんに目を向けた。
………………………………何事だよ…いや、本当に何事だよ…。
良く見ればいつもの忍装束ではなく、上下黒ジャージ姿だがそれどころではない違和感である。
…………とりあえず意を決して話し掛けてみるとするか…。
「………
顔を上げてそんな言葉を呟くオメガちゃん。思ったよりも少し高めの声だな……あれ? そう言えば声聞くの初めてなような?
とりあえずオメガちゃんに何かあったのかと聞いてみることにしよう……。
すると体育座りのまま目を赤くしてこちらを見上げるオメガちゃんはスマホを取り出し、文章を打つとこちらに見せてきた。
………………そうまでして発音言語という文明の力を踏み倒したいか。おのれ、流石はロンカ文明を滅ぼしたオメガちゃんだ徹底してやがる。
それは置いておき、文章を読む限り、いつのも短い方の刀と、バーが無いらしい。バーってなんだ?
「銃ですよぉ」
疑問を浮かべた直後、私の隣に修道服を着た巨大な女性ことヴェグナガンのヴェグナちゃんが現れた。
「私には不要ですから詳しくはしりませんけどぉ……んっ」
そう言うとヴェグナちゃんは何かのカプセル剤を飲み込んだ。風邪か…? いや、そんなモノに掛かっているようにも掛かるようにも思えないが。
『私が処方した向精神薬です』
「なんでも私は宗教妄想に取り憑かれたタイプの統合失調症らしいですよぉ?」
『ヴェグナさんあなたは?』
「この世で唯一にして最大の神ですぅ」
『効き目は薄いようですね』
「"BAR"ね。分隊支援火器よ。アメリカ製の結構、人気な銃よ?」
そうか。生憎、お前の影響で銃の出るゲームはやるが銃の名前まで氣にしたことは無いのでな。
で? 当たり前のようにお前は何しにきたんだ奉先?
「想い人に会うのに理由がいるかしら?」
そう言って目を瞑りながらスリスリ寄ってくる奉先。最早、語るまい。
どうでもいいがこの女、風紀委員長兼修学旅行実行委員長にも関わらず修学旅行の全生徒の前で夕食の時間にboys,be "stand up"!!を熱唱し切った猛者である。気にせずに無心で鍋をつついていた俺まで止めなかったために何故か怒られた事は記憶に新しい。
とりあえず
刃物や、銃をうっとりとした目で眺める忍者は様になっていると言えばそう思わないでもないが、今後のオメガちゃんが非常に心配になる光景なのは間違いない。
とりあえずそれらを探すのも頭に入れておこう。
しかし、これだけ強者が揃っているのに私も含めて全員熟睡していたとは……。
『そりゃ、私も、シンラさんも、オーフィスちゃんも、ヤズマットさんも、オメガちゃんも、ヴェグナちゃんも、黒のワルツ3号ちゃんも圧倒的強者ですからね』
ああ、成る程……つまりは誰も気配でソイツを敵だと見なさず爆睡していたわけか…。
『ファリスちゃんとレーヴァちゃんはまだ調整中だから動けませんし……まあ、私たちも枕元にでも立たれるか、攻撃でもされれば流石に気が付くと思いますけど』
そうですか。それでジェノバさんのラボから逃げ出したのはいったいどんなモンスターなんですか?
『んーと…』
その質問に答えて、ジェノバさんから吐き出された言葉に私は目を見開いた。
『Yの字の形をした魔物の"イン・ヤン"です』
◆◇◆◇◆◇
イン・ヤン。
FF7の神羅屋敷の地底部分に出てくる下半身は一つなのに上半身は二つという、いわゆるシャム双生児を連想させる姿をした雑魚敵である。
イン・ヤンという名前ではなく、インとヤンの2体の魔物。顔の青い方がインで赤い方がヤン。 エンカウント率がかなり低く、HP、攻撃力が高いため、ボスと勘違いする人も少なくない。
動きは非常に遅く、のたくってみたり、ヒクヒクとうごめいてみたりで非常に不気味。その上、FFの戦闘では敵の行動中はフレーム経過がないため、戦闘の流れも中断してしまい非常にストレスがたまる。だが、それ以上にこのインパクトは凄い。
ヤンはよろこんでいる。
戦闘中に流れ出したこのセリフに思わず、コントローラーを持つ手を止めた人間はどれほどいるだろうか?
そんな魔物がジェノバさんのラボから産まれ、近くにあった私の悪魔の駒を偶々体内に入れて今に至るようだ。
それを知った上で私はイン・ヤンの捕縛を命じた。
全くジェノバさんも珍しく気の利いた事をするじゃないか。ああいうのを眷属にしたいのだよ私は。
「シンラ昔からへんなもの好きよね」
その分類で行くとお前もへんなものになるな。うむ、言い得て妙だな。
「もう、好きだなんてそんな当たり前の事を……」
人生が楽しそうな奉先はほっておき、とりあえず私が眷属を作るならシアエガとハスターとムナガラーとイゴールナク、後アトラク=ナクア辺りが無難か。
「…………何と無くジェノバさんが勝手にシンラの眷属を推し進めている理由がわかったわ…というか流石にこの世界に神話生物は居ないでしょ?」
お前、それジェノバさんの前で同じこと言えんの?
「それは……あー…」
それに神話生物は実在するぞ。何せ私がエヌオーとして世界を牛耳っていた時代にナイアーラトテップが配下にいたし。
「マジで!? ニャル子さんいたの!?」
お前の想像している銀髪緑目な見た目ではないだろうさ。なんでもナイアーラトテップ族でも異様に人間を愛してしまった偏愛家だとかなんとか。千の顔と、噂を現実にする能力を持っていたな。
十二の武器の内、まさむねの守衛を任せていたんだが、大して役には立たなかった。この前、私に連絡を寄越してきた時はどっかの並行世界にある珠閒瑠市にいると言っていたぞ。まあ、関わる事はないだろう。
………………そう言えばふと思い出したが、奉先はたまに次元の狭間で修行してるんだったな。
「そうね。それがどうかしたの?」
もし、アルケオデーモンって名前の奴に会うことがあったら言っといてくれ。不問にしてやるから戻ってきてもいいとな。
「その人と何かあったの?」
私的には何もない。が、私が復活しても連絡ひとつ寄越さない当たり、何か後ろめたい事でもあるんだろう。
「なら覚えとくわ」
ちなみにだが、捜索は奉先と私だけでしている。それというのも家の面子は手加減というものを冥王星辺りに置いてきた連中しか居ないからだ。死体の一部だけとか持ってこられても困るからな…。
ジェノバさんはといえば"夜見島から夜見アケビを仕入れて来ますね。今日は夜見鍋にしましょう"と言って飛んで行ってしまったので今は居ない。あの人はあの人で本当に自由人…いや、自由宇宙人なので困る。
奉先と他愛もない会話をしながら家の敷地内を徘徊していると、ふと庭の中央に奇妙なモノが目に入った。
簡素な木の枝で出来た子供騙しの案山子のような何かが立っているのだ。
「ただの案山子ですな」
奉先の呟きを無視し、近付いてそれに触れてみたが、特に異常は無く触れただけて崩れてしまうようなものだった。
疑問符を浮かべた次の瞬間、生暖かい目で嘲笑うような異質な殺気を感じ、家の屋上を見上げると連続した光りが目に入ったために反射的に奉先を抱き寄せ、背中から6枚程悪魔の翼を出して奉先と私を守るように包み込む。
すると学校の助走などに使われるスターターピストルを、強めたような音が連続で聞こえ、翼に刺すような衝撃を感じた。
銃か何かか……防御の必要も無かったな。
それにしても悪魔の翼とは便利なモノだ。飛ぶによし、防御によし、攻撃によしだからな。
「シンラは過保護ね。あれぐらい何でもないって事はシンラが一番よく知ってるじゃない。そんなに私のこと大切?」
…………うるせえ。身体が動いただけだ。
「でも嬉しい。ありがとう」
そう言って微笑む奉先。奉先に顔を背けて翼を収納しながら発射地点を見たが、既にそこには影も形も無かった。
明らかに何かいるな…。
「うーん……なら私が本気で探してあげるわ」
そう言うと奉先の身体から濃いライフストリームのような氣が溢れ出る。
「これをこうして……っと」
奉先の氣が爆発的に膨らみ、押し広がることで屋敷の敷地内を染め上げて行った。さながら巨大なアメーバが生まれるかのような光景だ。
「氣も身体の一部だから感覚に似たようなモノがあるのよ。だから押し広げれば触れた空間に何があるのかを触れて感じ取るように知ることが出来るわ」
だとしても精々、ただの人間に出来る限界は半径数十mも無いだろう。軽い城と言ってもいいこの敷地全てを埋めるとなると、奉先に何れ程の氣の資質があるかなど氣を何も知らない俺でさえ理解出来る。
「詳しくはHUNTER×HUNTERを読みなさい」
………………奉先はいつもその一言さえ無ければ残念な美人から卒業出来ると思うんだがな…。
「あー……」
暫くすると奉先は珍しく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
どうした? 今はどこに居るんだ?
「いや、その……ジェノバさんの魔晄炉に入って行ったわ…」
この星有数の危険地帯にか…。
仕方なく私は奉先を入り口に置いてひとりで魔晄炉に入ることにした。
◇◆◇◆◇◆
まず、魔晄炉の魔晄を組み上げと貯蔵するための大円柱の空間に渡された大橋を渡り、
見渡してみるが特に変わった様子はない。中央を走る階段を登り、溜め息を吐きながらジェノバさんのラボの扉の前に立った。
ここには分量を間違えただけで地球が吹き飛びかねない劇物や、地球の規格を越えた毒物、宇宙悪夢的な何かなどが犇めいているため、永遠に世に出てはいけない空間である。
下を向いて頭を掻きながら扉を開けると、庭で向けられたのと同じ異質な殺気を感じ、顔を上げる。その瞬間、目に入ったモノに対して私は目を見開いた。
「来たわ。兄様」
「そうだね。姉様」
それはアンラ・マンユの両腕に当たる場所に生えている骸骨のような魔物のタルウィとザリチュの頭の上で、 クスクスと笑う少年と少女のふたり組がいる。
少女の方は黒を基調としたドレスのような衣装を纏い、長い銀髪をした身の丈に合わない巨大な銃を抱え。
少年の方は同じ銀髪で黒を基調としているが、髪は首元で切り揃えられ、コートに短パンという服装をしており、身の丈とほぼ同等の刀を木の枝でも持つように持っていた。
そして、なぜか部屋の中央で深い眠りに付いたまま安置されているハズのアンラ・マンユが覚醒しているのだ。
「遊びましょう」
「遊ぼうよ」
ふたりがそう呟くと、アンラ・マンユのザリチュが鈍く輝き、滅びの閃光が迸る。
魔力依存の攻撃と、ステータスダウンか……私が当たるのは洒落にならんな。
私はそれを腕から放った光線のアルテマビームでザリチュを倒さないように加減して滅びの閃光の相殺だけをする。
続け様に飛び上がり、アンラ・マンユのタルウィの頭に接近すると脚を大きく振り上げて、踵落としで頭蓋骨から背骨まで縦に砕き、タルウィを一時的に破壊した。
この場でちなまぐさい息など絶対に吐かせんぞ。ひたすらリスキルしてやる。
「わー、すごーい」
「さっすがー」
そう言って地面に降りるふたりの少年少女。
「私たちとも遊んでよ」
少女の方は銃をこちらへ向け、躊躇もなく発砲する。
さっきと同じように翼で防ごうと1枚だけ出したが、どうやら銃と弾自体をエンチャントで強化しているらしく、翼1枚では防ぎ切れずに何発か私の胴体に命中した。
「僕らとも遊ぼう」
さらに少年が私に接近し、刀を振るう。
私は造り出した赤い杖で少年と打ち合うが、どうやら私の杖が武器として地力敗けをしているらしく、数度打ち合うだけで杖に小さな傷が発生する。
まあ、これは本来は魔術触媒であり、近接武器でない。"無"を解放している時の私か、全盛期の私なら兎も角、今はただの悪魔の私がオメガちゃんの持っている短い方の刀とマトモに打ち合えている時点で十分なのだがな。
「兄様飛んで」
「わかった」
その掛け声で、少年が私から離れる。その行動を疑問に感じたが、正面を見て表情が凍る。
アンラ・マンユが黒魔法フレアを既に発射していたのだ。
私は舌打ちをしながらフレアの爆発地点を素手で包み、握り潰す事で被害を最小限に抑えた。まあ、威力の減衰は殆ど出来ていないため、フレアは私に直撃しているがな。
「そんなこと出来るのね」
「凄いや、あの機械と全然違う」
ふたりは相変わらず、何が楽しいのかクスクスと笑みを強めている。
マズいか……私の力は広域殲滅や、屋外での対軍戦には無類と言える程の実力を発揮するが、屋内のそれも部屋中に危険物が散乱している中で、単体を手加減した上で相手にするにはあまりにも向かないのだ。
いや、アンラ・マンユ一体なら何とでもなるが、あのふたりを放置するのはあまりにも危険だろう。
奉先を呼ぶか…? ダメだこのラボは人間が生きれる環境じゃない。他の奴らは……ああ、手加減出来る奴らがいないし、そもそも間に合わない。
何か無いか…? これだけ魔境なんだ。何かひとつぐらい利用できるモノが……。
…………いや、あるぞ。
私は瞬間転移でアンラ・マンユの背後にあるその装置の前に移り、素手でジェノバさんが入っていたのと同様のカプセルを叩き割る。
空いた穴から激しく何かの液体が排水されるのには構わずに、一糸纏わぬ姿の彼女を抱き上げ、さっきまで私が立っていた出入り口に戻った。
その次の瞬間にはフレアと、銃弾の雨が降り注ぐ。
だが、全てが私たち……と言うよりも彼女に近付いた瞬間に歪められ、攻撃自体が彼女に引き寄せられるように吸収されて無効化された。
いくらあの三体が何をしようと私たちに届くことは無い。
私の脳裏に数日前にここでしたジェノバさんとの会話が蘇った。
◆◇◆◇◆◇
『騎士の駒を使った今回の実験は何もただ、古の大英雄を復活させただけではありませんよ』
遂に実験って言い切りやがったぞこの宇宙生物。それはそれとして今回も例に漏れず何かしたんですか。
『実はですね。マテリアというモノはただ使うだけではなく、それ以外の用途もあるんですよ。人体に直接融合させるとかね』
マテリア融合実験。
FF7の前日談に当たるBCFF7で神羅カンパニーがやりやがったどうせ外道実験である。
まあ、実用化されなかった辺りジェノバ細胞に比べればお粗末なものだったのであろうが、それでもセフィロスと渡り合える旧アバランチリーダーのエルフィを生み出した結果は凄まじい。
『この星は中々いい星ですよ。人工でお目当ての召喚マテリアが造れた程ですからね。悪魔化させた後にそれと融合させたのが今回の実験内容です』
召喚マテリア…? ジェノバさんはいったいファリスさんのクローンに何の召喚獣を捩じ込んだんだ…?
『それはですね』
◆◇◆◇◆◇
「……ん…」
気付けの魔法を掛けられた彼女はゆっくりと目蓋を開き、濃い緑の瞳と目が合う。そして、私に微笑むとその口を開いた。
「……おはようございます。ご主人様」
おはよう、クローンファリスさん。いきなりで悪いが実戦だ。いや、それとも君の事はこう呼ぼうか。
"召喚獣ジルコニアエイド"
それを聞いた彼女の表情はどこか満足げでに見えた。
歯やダイアモンドの代わりとして造られる人工物の名を冠する。BCFF7のラスボスであり、不完全に召喚された状態ですら世界を焼き尽くし、すべての生命を星に返すには十分過ぎる性能を持っていた最凶の召喚獣。
しかも、彼女の身体と同化しているそれはエルフィのように4つに分割された内のひとつではなく、完全な状態のマテリアそのものだ。故に言うなれば彼女は完全体ジルコニアエイドそのものである。
ジルコニアエイドの特性は大きく分けてふたつだ。
ひとつは攻撃手段が雷撃と、レーザービームが主なこと。
「はい、ご主人様。どうかお好きなように呼んで下さい。俺はどちらでもあり俺自身に判断は付きません」
彼女はそう呟いてから私の腕から立ち上がると、三体の敵を見据えた。
そして、もうひとつは全属性吸収という頭のネジの外れたラスボス特有のイベント戦用耐性である。
だが、彼女は完全体ジルコニアエイド。つまりイベント戦なわけもなく、耐性に穴も弱点も無い。そのクセに身体能力はファリスの数十倍という無理ゲー仕様なのだ。
「どうした? その程度か?」
幾ら三体何をしようとも全裸の彼女に傷ひとつすら負わす事すら叶わない。それに少年少女も驚きの色を浮かべた。
一方は彼女は溜め息を吐き、その瞳には明らかな侮蔑が含まれている。
これのどこが調整中なんだ……まあ、ジェノバさんの事だ。しっかりとオレっ娘にするために無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術で精神などを調整でもしてたのだろう。
「……つまらん。ぶっ壊れろ」
次の瞬間、彼女から予備動作も何も無く発射された極太の雷光が数十連続で放たれ、アンラ・マンユの本体を貫いた。
(祝)作者のFF12総プレイ時間2000時間越え
色々と言われていますが作者はFF12が大好きですよ。ガンビットは革命でした。勿論、極力低レベルガンビット縛りもしましたしね。
で、最近新しい縛りを始めたのですがこれがまた辛い……。
それは"(通常版)FF12召喚獣縛り!"です。
まあ、縛りといってもFF12の仕様の関係で召喚獣だけボスやMOBと戦わせる縛りというのが正しいんですが。
具体的には:
ボス、モブ、召喚獣は全て召喚獣が与えたダメージのみで倒す。
ヴァンくんにはダメージを与えない技、魔法、アイテムのみを使用可能(一部例外あり)。
詠唱妨害、オートレベルアップ、召喚獣バグの禁止。
最初の召喚獣を入手するまでは縛りは無し(この時点である程度整えないとべリアルでマティウスが無理ゲー)。
途中経過としてはわかっちゃ、いましたけどダメージを縛ったのが辛過ぎますね………まあ、ヘイト管理してると与えられるダメージ量なんて高が知れているのですがそれでも貴重ですし。
やってみたい人はべリアル→マティウス→アドラレメクと回るのをオススメしますよ。アドラレメクさんは序盤から入手出来る召喚獣としては非常に優秀です(無いとやってられません)。
でもこの縛りの最大のキツいポイントはそこではありません。なによりも、最強クラスの召喚獣のアルテマ、ゾディアークの入手が倒すのが無理ゲー過ぎるためにほぼ不可能なことです。色々と模索していますが、特にゾディアークに勝てる気が一ミリもしません。
ゲーム内に一生に一度の願いが使えるならゾディアークをどれ程渇望したことか……どれ程イメージしたことか……まずゾディアークを具現化しようと決めてからはイメージ修行だな。最初は実際のゾディアークを一日中いじくってたな。とにかく四六時中だよ。目をつぶって触感を確認したり何百枚何千枚とゾディアークを写生したり、ずーっとただながめてみたりなめてみたり、音を立てたり嗅いでみたり、ゾディアークで遊ぶ以外は何もするなとトレマに言われたからな。しばらくしたら毎晩ゾディアークの夢を見るようになってその時点で実際のゾディアークをとりあげられた。そうすると今度は幻覚でゾディアークが見えてくるんだ。さらに日が経つと幻覚のゾディアークがリアルに感じられるんだ。重さも冷たさもヴァンの悲鳴も聞こえてくる。いつのまにか幻覚じゃなく、自然と具現化したゾディアークが出ていたんだ。それ以外はおそらくバルフレア達と同じだよ。とにかく毎日毎日レベリングとドロップ回収だ。
多分、そろそろゾディアークを現実に具現化出来と思います(虚ろ目)。