朝、私は目覚ましの音ではなく揺すられて起きた。
ゆっくりと目を薄く開けばいつもの青い化けmもといジェノバさんが見えてくるハズであるが今日は肌色の素肌がメイド服から覗き、長い胡桃色の髪がぼんやりと映った。
ジェノバさんには擬態能力があったことを思い出し、誰かに化けたのだと彼は気づいた。
………一体誰に化けた? 家の女性は基本仕事でいない母親だけだが髪の色は銀なので違うだろう。
目を擦って、常に笑顔を振り撒いているジェノバさんを見た。
瞬間。
私はジェノバさんに全身の体重を乗せた渾身の右ストレートを放った。
◆◇◆◇◆◇
通学路の途中、私は朝の出来事を思い出していた。
いくら相手が光の国の戦士が相手にするような肩書きの宇宙最凶生物だとしてもあれは酷い。
私は全国100万人のエアリスファンの気持ちを代弁して全力を込めてジェノバさんに立ち向かったのだ。
いや、身体が勝手に動いていたのだろう。
そして左頬に突き刺さった右ストレートで見事にブレイクしましたとも!
私の右腕が…。
どうしてこうなった………。
私はジェノバさんにケアルガをかけてもらって尚、痛む右腕を擦りながらぽつりと呟いた。
考えてもみれば当然である。
方やセフィロスの前座とはいえ三連戦最初のラスボ。
方やただの中学三年生。
ジェノバさんには0のダメージしか入らなかったようだ。
ゲームではスルーされるだけの物理による0のダメージは実はこうなっているのである。
ちなみに、今朝のジェノバさんはなぜか殴られたのにいつもより上機嫌に見えて更に怖かった。あれか? 後でトンでもない爆弾でも飛んでくるのか?
というかあの人は一体、いつになれば地球侵略を開始するんだ…もう三ヶ月経つが未だに家から出た姿を見たことが無いぞ…。
私はブツブツと呟きながらも中学校への通学路を進んだ。
帰ったらジェノバさんへどんな土下座と謝罪の粗品を渡すべきか考えながら。
◆◇◆◇◆◇
うーん………。
なんだかんだでお昼時。
私はジェノバさんに作ってもらった弁当を突っつきながら考え事をしていた。無論、謝罪のことである。
流石に女性(?)をぶん殴っておいて謝罪も無しは倫理的にアウトだと私は考えていた。
ジェノバさんの好きな食べ物=星。
ジェノバさんの好きな物=ライフストリーム。
ジェノバさんの好きな人=セフィロス。
………ダメだ…用意できるモノがない…。
私は頭を抱えた。
そもそも私はジェノバさんが食事すらしている光景を一度も見たことが無い。恐らく必要ないのだろう。
思い返せばニコニコ笑顔の青い宇宙人が手を小さくパタパタと振っている姿が頭に浮かんだ。
ふと弁当の中の赤い物体に気がついた。
「………これ…タコだよな?」
つんつん、ぷにぷに。
感触はタコのようだ。
私は吸盤のついていないタコのような物体を摘まみながらジェノバさんの下半身から生える触手の先端を思い出した。
………………。
90%一致。
いや、まさか…。とは思いながらも一度考え始めたらそう見えてしまうのが人というものである。
ちなみに別に私はジェノバさんのことを原作のジェノバさんほど危険視しているわけではない。
というか一応、神様直々の特典なのだから自分に直接的に害は無いだろうとさえ思っている。
だがしかし、同時に私はジェノバさんを全力で恐れているのだ。
なぜそんな矛盾が起こるか? 答えは単純明快だ。
Q:あなたは核爆弾を抱き枕に眠れますか?
A:勘弁してください。
つまりはそういうことである。
もうお分かりの通りジェノバさんの実力は核兵器など足元にも及ばないほどに高い。
それこ私など簡単に吹けば飛ぶどころか視線で殺せるレベルである。
そんな存在に献身的に尽くされ、寝食を共にし、一つ屋根の下で暮らす。
さらに毎日のように抱きついたり、抱き枕にされたりと過度のスキンシップをはかろうとしてくるのだ。ジェノバさんの腕力を考えると気が気でないのである。
そして一番問題なのがジェノバさんは何を考えているか一切解らないことだ。
苦行を越えて悟りを開けそうなレベルである。
ちなみに最近、私が学校に着くとまず思うことは"今日も生きてて良かった"だ。
そんなこんなで謎のタコ足(仮)と格闘していると横から声を掛けられた。
「シンラ? どうしたのかしら? 好き嫌いなんてあなたらしくないわね」
ライトグリーン髪のショートツインテールに歳不相応の大きな胸をして、ニヤニヤした笑顔がよく似合う同じクラスの女子生徒だった。
名を"呂布 奉先"という。
うん………流石に例え苗字が呂布という極稀な苗字だとしても女性に付けるには頭の可笑しいとしか思えない名前である。
なんでも彼女の家はかの呂布 奉先の子孫で何代かに1人に奉先という名を付けるのが慣わしらしい。
いつ呂布は日本に来たんだとか、呂 布 奉先じゃないのかとか色々突っ込みたくなるが腐っても幼馴染みにそんなことは言えないのである。
小学校入学以来同じクラスで、一種の呪いではないかと思うが常に私の十字方向のどこかの席にいる女子生徒だ。
私との仲も良好でいつも机をくっつけて昼食を共にしており、学校中の男子生徒から羨望と、恨みの眼差しを向けられたりしている。
奉先と交友をもったばっかりに頻繁に金をむしり取られる身にもなって欲しいものだ。
どうやら私が唸っていたり、タコと格闘しているのが不思議だったらしい。当たり前である。
私は疑問符を浮かべる奉先の顔を見て、タコ(仮)を見ると頭に電球の光が灯った。
そして私は箸でタコを掴むと清々しい笑顔でこう言い放った。
「このタコ食べるか?」
これは日頃の仕返しだ。決して外道な行いではないのである。
◆◇◆◇◆◇
小麦色の肌を頬を朱に染めながら、あーんと言って顔を出してきた彼女にタコらしき物を食べさせた後、私はいつも通り日課の場所へ向かった。
それは………。
カラオケボックスである。
「さ、今日も歌うわよ!」
俺の金でな。
私はメロンソーダを飲みながら皮肉を呟いた。
奉先は週五で私をカラオケに連れていくのだ。
しかも私の金である。
救いがあるとすれば二時間だけと私と彼女の間で決めていたり、月~金は土日より安いぐらいだろう。
「なに言ってるのよ。良いじゃない、他にお金の使い道もないんだから。大人しく自分の女に使いなさいよ♪」
そう言って奉先は私の腕を取り、抱きつきながら谷間に挟んだ。
それを言われると確かに親からの謎の過剰な仕送りの割に全く金を使っていないのだ。
普通、一人暮らしなら10~20万程度あればそれなりに暮らせるであろう。
だが、家の母親はその二桁多い金額を毎月振り込んでくるのである。しかも四捨五入すると桁が繰り上がる金額をだ。
当たり前だがそんな金額を最高学年とはいえただの中学生徒が使えるかといえば無理な話だ。
もっとも有り余ってるからといって募金やら支援基金やらにくれてやるほど殊勝な性格もしていないので溜まり続ける一方なのだが。
だが、奉先。お前はいつから私の女になった?
「堅いこと言わないのー。それとも………私じゃ不満?」
奉先は私に胸を押し付けるように正面から垂れかかりながら私を見上げた。
………………ふう。
そういえばドリンクバーのスープが今日はオニオンスープだったな。取りに行くか。
「ちょ!? 私は」
私はボックスから出ると戸を閉じた。
………一体いつからあんなに過剰なスキンシップをしてくるようになったのだろうか?
やはりあれか…。
私は1ヶ月半ほど前のことを思い出した。
奉先が突然、学校で倒れたのだ。
そして向かった病院の病室で涙を見せないよう必死で私に笑いかけながら、昔から持病で20まで生きられたら奇跡だなんてこと医師から言われていたことを初めて聞かされた。
その日、自宅に帰りそれはそれは落ち込んだ。
それはそうだ。あんなギャルでも幼馴染みである。
そんな俺の肩をポンと叩く者があった。
振り返ると…。
"魔晄じゅーす"と書かれ、デフォルメのうちの青い宇宙人がプリントされた缶ジュース片手にサムズアップする居候がいた。
その後、奇跡的に病気が完治し、今に至るわけだ。
まあ、命が助かったなら安いものだろう…幼馴染みをソルジャーにしてしまったことぐらい。
◆◇◆◇◆◇
カラオケと言う名の奉先の歌(ほぼアニソン)の独壇場も終わり、ジェノバさんへの粗品も購入して帰路についた。
私は紙袋から粗品を取り出した。
割烹着である。
メイド服? ちっちっち、時代は割烹着なのだ。
そんなことを思いながら家の前につくと妙だった。
なにやらモクモクと庭の方で煙が上がっているのである。
ゴミでも燃やしてるんだろう。だが、この辺りでゴミを燃やすのは禁止されているのだ。
仕方なくそれを伝えようと庭に入ると。
ジェノバさんが煮えたぎる巨大な鍋にボロボロの幼女を投げ入れようとしていた。
本日二度目のジェノバさんへの攻撃は飛び膝蹴りだった。
え? 奉先さんが出てる理由? 一騎当千の闘士って、ハイスクールD×Dの英雄派の連中によく似てないですか? だったらいっそ出してしまおうと作者の嫁ですけど二次作で見たこと無いですし。