家のメイドが人外過ぎて地球がヤバイ   作:ちゅーに菌

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JーEーNーOーVーA

 

 

 

時は彼が学校へ向かった日の夕方に遡る。

 

 

 

 

ジェノバさんは彼が出て行った事を確認するとエリアスの姿を解き、今はいつも通りの青い肌が白と黒の服から覗いていた。

 

そして彼に触れられた頬を撫で微笑んだ。

 

「フフフ…」

 

なぜなら初めて彼からのスキンシップ(だとジェノバさんは思っている)を受けたからである。

 

まあ、ジェノバさんにすれば彼の拳ぐらいタオルでフワッと触られた程度の威力だから仕方ないといえば仕方ないのだが…。

 

さてと…。

 

ジェノバさんは浮わつく気持ちを切り替えるとまたジェノバコピーを作製して今とは別の家事を開始しようとした。

 

が、ジェノバさんの動きが途中で不自然に完全停止した。

 

その視線を辿ると何もないリビングの中央を見続けていた。

 

するとそこの空間が突如として歪み出し、亀裂が入った。

 

空間が軋む音が響き、亀裂は次第に開き、やがて人が通れる程の裂け目となった。

 

そして、その狭間から。

 

"小さな女の子が現れた"

 

長い黒髪に前を大胆にも開けたゴスロリ衣装、さらには胸の頭頂部をバンソコのようなもので隠しているだけという一発で大人や警察に保護されそうな外見である。

 

「お前、なに?」

 

少女はぽつりと呟いた。

 

「我、オーフィス。無限の龍神、

でもお前、知らない「あなた」…?」

 

少女…オーフィスの独白をジェノバさんは遮ってオーフィスにニコリと笑いかけると三日月のように口の端を吊り上げて言葉を紡いだ。

 

 

「とっても美味しそうですね」

 

 

その刹那、オーフィスの顔面をジェノバさんの手が掴んだ。

 

「ッ!?」

 

驚愕の声を上げるオーフィスを片手にジェノバさんは閉じ掛けの亀裂を抉じ開けるとその中に飛び込むように入った。

 

二人の姿は完全に消え、後には静かなリビングでカーテンが風に靡いているだけだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

オーフィスは地球の極に位置する極寒地帯の星空の元で"それ"と対峙していた。

 

それとしか形容できない存在。

 

無限の龍神として永遠に等しい時を生きるオーフィスでさえそれが何かわからなかった。

 

だからオーフィスはそれが知りたかった。

 

危険であるならそれを排除することも視野に入れて。

 

「星が生み出した抑止力。こんなにも早く出会えるとは…フフフ」

 

「…?」

 

「おや、その顔はまさか…あなたは自分の存在理由すら知らないのですか?」

 

「…どういうこと?」

 

ジェノバはやれやれと大袈裟に首を振るそれに言葉を返した。

 

「私は何かと聞きましたね? 今日はとても気分が良い。紛い物とはいえ同じ"無限"としてあなたに教えましょう」

 

そういうとそれは満天の星空に青い両腕を掲げ、空を見上げた。

 

「ここはよく聞こえますね」

 

「え…?」

 

「星の声ですよ。この宇宙で最も巨大な生物の声。巨大過ぎる故に普通には聞こえない声」

 

「星の声…?」

 

「そう、星の声。私には良く聞こえる」

 

いつの間にかそれの右手にオーフィスが知っているようなものより遥かに長く、それの身の丈程の長さのある刀が握られていた。

 

「無限の龍神と言いましたね? それは面白い。この星ではあなた程度の存在で神と呼ばれるとは…クククッ…」

 

それは顔に片手を当てて不気味に笑うと、刀の刃を上に向け、切っ先はオーフィスを定めた。

 

「私はジェノバ。あらゆる生命体を凌駕し、万物の死を越え、数多の星を巡った怪物」

 

その刹那、絶対的上位者だったオーフィスの眼は驚愕に見開かれた。

 

ジェノバという生命体から溢れ出る自身より遥かに莫大な魔力。

 

恐怖すら感じるほどおぞましく、空に色を付けたような錯覚に陥る程のオーラ。

 

そしてそれを永遠と垂れ流し続けているにも関わらず一切の衰えを見せる片鱗すら感じず、寧ろ時間が経過する毎に勢いも密度も激増しているからだ。

 

それはまさに"無限"と呼ぶに相応しかった。

 

「今は"星3つ"分程度の力ですがあなた風情の紛い物の無限に不足は無いでしょう」

 

「…ッ!?」

 

あまりの力の波動にオーフィスは身体を強張らせ、氷の大地を強く踏み締めた。

 

それの力は一般人どころか最上級悪魔や、聖書の天使や堕天使でも浴びれば即座に精神を病むであろう程の力の濁流だった。

 

「ああ、そうでした。まだ名乗っていませんでしたね。私のことは…」

 

瞬間、オーフィスの視界の青い影がブレ、背後から次の言葉が聞こえた。

 

「"星喰者ジェノバ"とでもお呼びください」

 

オーフィスが振り向いた先には狂喜の笑みを張り付けたそれ…ジェノバと。

 

最凶の魔剣より遥かに忌々しい妖力を纏い、伝説の聖剣を嘲笑うかのように美しく輝く刀の刃が目の前に迫る最中だった。

 

「…!?」

 

オーフィスは手をクロスさせることでその刃を防いだ。

 

が、オーフィスの腕には綺麗な刀傷が出来上がり血を吹き出した。

 

「くッ…!?」

 

即座に止血を済ませながらありえないとオーフィスは思った。

 

未だかつてオーフィスの身体に一撃でこんなにもダメージを与える武器など存在しなかったからだ。

 

今、この瞬間までは。

 

「おや? この正宗で斬り落とせないとはそれなりにマシな細胞で出来ているようですね」

 

オーフィスはジェノバが止まって関心の声を上げているうちに力を練り上げ、片腕に黒い力を纏わせるとジェノバに突撃した。

 

狙うは生物の急所、心臓。

 

その攻撃は確かに正面からジェノバの心臓に当たり、接触箇所と背中の布が衝撃で消し飛んだ。

 

「………!」

 

それと同時にオーフィスはそれを理解した。

 

理解した瞬間、表情は驚愕に染った。

 

それはジェノバへの明確な恐怖だった。

 

「もっとも…」

 

オーフィスの全力を持った渾身の手刀は紛れもなくジェノバに当たっていた。

 

「私ほどではありませんが」

 

ただそれだけでオーフィスの手が触れるジェノバの身体は依然無傷のままだった。

 

「あ、ああ………」

 

オーフィスは気づいた。気づいてしまった。

 

目の前にいる怪物には真なる赤龍帝と対峙した時と同様に自分では勝つことが出来ないことを。

 

そんな存在に自ら近づき、自身が餌にされそうなことを。

 

そして…もう逃げられないことを。

 

「少し本気を出しましょう…」

 

その刹那、再びオーフィスの視界からジェノバが消えた。

 

「え…?」

 

しかも今度はただ消えたのではない。気配、力、魔力、存在そのものが全て影も形も消えていた。

 

360度どこを見回しても気を巡らせてもいないことでオーフィスの警戒心が多少薄れていった。

 

 

"胸から刀が生えていることに気づくまでは"

 

 

「う…そ…?」

 

オーフィスはどんなに力を入れても曲がるどころか傷1つ付かない刀を両手で握りしめながらそんな呆けた声を出すことが精一杯だった。

 

オーフィスは背後に回られたことも、刀を振った音も、突き刺された痛みも気がつかなかったからだ。

 

恐る恐る後ろを見るとそこにはなにもなかった。

 

「な…んで…?」

 

「このように体細胞の色、温度、質感に至るまでを空間と背景に溶け込ませてたんですよ」

 

それに答え、写真に切り絵が加わったようにジェノバが現れた。

 

「クククッ…」

 

ジェノバはオーフィスを自分の高さまで持ち上げると刀を抜きながら宙に放った。

 

直後、引き戻しの最中に一撃、更に十字、バツ字、十字と六度斬撃を放つと最後の十字を打ち込んだ瞬間、正宗をオーフィスの胸に垂直に構た。

 

「八刀一閃」

 

正宗は全身を斬り刻まれたオーフィスの胸を無情にも再び貫いた。

 

さらに全身を乗せて回転すると近くの地面にオーフィスを叩き付けた。

 

「がはっ…」

 

5回ほど地面をバウンドすると両足で地を踏みしめて受け身を取った。

 

そして全身の傷を見て一際再生が極端に遅いことに気がついた。

 

この星で唯一、無限を司るオーフィスですら再生出来ないのだから、あの刀には途方もない生命を刈り取る力を宿しているのだろう。

 

オーフィスは全力を出すしか無いと意を決して前を向いた。

 

既にジェノバが片腕を向け、手のひらに淡い光を放つ青い球体が発射される寸前だった。

 

オーフィスは一目で危険と判断し、それを防御するため数百十枚の障壁を展開し、合成することで巨大な一枚の障壁とした。

 

それは聖書の神を始め、数多の神々でさえ打ち破れないほど強固な絶対防壁だった。

 

「ペイルホース」

 

青い光線はその障壁をまるで何も無いかのようにすり抜けた。

 

絶対神話が崩れるのと同時にオーフィスを直撃し、瞬時に生命力そのものを葬り去った。

 

「フフフ…残念。ペイルホースはどの属性にも属さず対象の命そのものを削り取り、恐怖と絶望を植え付ける魔法。そんな陳腐な障壁では防げませんよ。あら?」

 

ジェノバは顔を上げて空の星を見つめた。

 

星の位置で時間を見ているのだろう。

 

「そろそろ彼が帰ってくる時間ではありませんか、次で終わりにしましょう」

 

そういうとジェノバは正宗を消して片手の掌を上に向けて力を集約し始めた。

 

ジェノバは次でとてつもない一撃を放って来るのだろう。

 

オーフィスの息は上がり、身体は軋み、ボロボロにされながらも、こうなったら一撃で決めるしかないと考え、生まれて以来したことが無いほど莫大な力を絞り出し、口に集中させた。

 

オーフィスの口に黒い球体が出現し、それが身の丈以上の大きさまで膨れ上がると中心が白く回りが黒い太陽のような球体となった。

 

間違えなく地表に当たれば大陸そのものを消し飛ばすようなシロモノだ。

 

だが、オーフィスは最早自重してはいられなかった。

 

生き年生けるもの全てを葬り去る無限の一撃は放たれて無いにも関わらず氷の大地を割り、海水を蒸発させ、時空すら歪めた。

 

そしてオーフィスから無限の一撃が放たれる。

 

 

 

 

 

「"心無い天使"」

 

 

 

 

 

一言、その一言だけだった。

 

オーフィスは"無限"から"有限"へと堕ちた。

 

「え………」

 

溜めていた力も一瞬で霧散し、最早小さな少女となったオーフィスは力無く膝から崩れ落ち地へと伏した。

 

苦しい、痛い、悲しい、怖い。

 

様々なこれまで経験したことのない負の感情の連鎖に苛まれる中、微かに頭を上げてジェノバを見上げた。

 

「あなたの力は全ていただきました」

 

そこには確認するように手から蛇を出し入れするオーフィスがいた。

 

「なるほど力に仮初めの命を吹き込み分割できる能力ですか…興味深い」

 

1つ違うところは小さな少女の姿ではなく、オーフィスを20ほどまで成長させたような姿だった。

 

オーフィスはそれを唖然と見つめて暫くしてからようやく気がついた。

 

自分が無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)では無くなったことを。

 

ただのオーフィスになってしまったことを。

 

そして最悪の存在に全ての力を奪われてしまったことを。

 

「さて…」

 

ジェノバは手に移していた視線をオーフィスへと戻した。

 

そしてにっこりと女神のように慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべた。

 

それと対極の無限の龍神のドス黒い力を撒き散らしながら。

 

「い、いや…いや……いやぁぁぁぁぁ!!!?」

 

それを見て遂にオーフィスの心が限界を迎えた。

 

地に伏したまま動かない身体を引き摺りながら地べたを這うように逃げ始めた。

 

ジェノバはそれを面白そうに見つめると一歩一歩ゆっくりと追い掛け、オーフィスの髪を掴んで持ち上げた。

 

「あう…」

 

ジェノバはオーフィスがしていたのと同じように次元を割った。

 

「大規模な術式も空間破壊も無しに空間と空間を繋げるとは…これは中々使えそうですね。そしてコレは…」

 

ジェノバはオーフィスを胸の高さまで持ち上げた。

 

「………鍋にでもしましょうか!」

 

指パッチンをしながらさらっと吐かれた恐ろしい言葉を聞いて悲鳴を上げるオーフィスを引き摺り、ジェノバは次元の狭間を進んで行くのだった。

 

 

 

 

そして庭先でなぜか家にあった配給でもするのかという大鍋に水を張り、そろそろいい具合になってきたので具材(オーフィス)を投入しようとしていたところ。

 

「ぎゃぁぁ!? 膝がぁぁ!! 膝がぁぁ!! 」

 

彼に飛び膝蹴りを入れられるのだった。

 

 

 


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