ジェノバさんは私の膝蹴り(自爆)を受けた後、慣れた手つきで膝にケアルガをかけると何事も無かったように幼女を私に託し、冷蔵庫から魚や、肉や、野菜を持ってきて夕食の鍋を作り始めた。
火は外でしてはいけないと言ってから幼女について尋ねると。
『もう用済ですし身寄りも戸籍も無いので好きにしてくれていいですよ』
というとんでもない返答をいただいた。
というわけで一緒に私の部屋に行った。
さて、さっきから私に引っ付き続け、ふるふる震えているこの娘をどうしようか考えよう。
1:交番に捨てる
2:教会に捨てる
3:山中に捨てる
さて、どれにしたものか…。
2は止めよう、近付くと身体が怠くなる上に妙に光る槍が飛んでくる事もあるしな。この世界の教会は私屈指の危険地帯だ。
3は…最近よく熊に襲われるとニュースがやっているので止めておこう。
無難に1か。
とりあえず名前ぐらいは聞いておくか。
「我、オーフィス」
ふむ、オーフィスちゃんとな。
とりあえず何があったのか聞くか。
「我は………」
ーオーフィスちゃん、身振り手振りを加えながらの説明中ー
………………えーと…話を纏めよう。
まずオーフィスちゃんは無限の龍神という肩書きの龍らしい。
それで長い時を生きた中でも一切の正体が不明な存在…というかジェノバさんを見つけたそうな。
とりあえずオーフィスちゃんが接触したところジェノバさんが捕食に走り戦闘になった。
結果はオーフィスちゃんの惨敗、なにそれチート過ぎる。能力ごともぎ取るってどんだけ無慈悲な心無い天使だ…。
そして身体も物理的に食べられそうになったところに私がストップを掛けた。
ここまでおk?
「…ん」
龍神か…。
私は依然として私に抱きつきながらぷるぷる震えている幼女を見た。
………家にジェノバさんという前例があるにしてもそうは見えん…。
何か証明するものでもあれば良いのだが…いや、見たところで私ではわからんか。
「証明? コレでいい?」
近くの空間が歪み、オーフィスちゃんがそこに手を突っ込んでから引き戻すと金の刃を持つ大剣が握られていた。
「ラグナロク、我の剣」
………………………何?
なあ、オーフィスちゃん…。
宝箱に入ってた事ある?
「我、よくお昼寝する。中、もふもふで気持ちいい」
orz…。
よし、無限の龍神かは兎も角、"しんりゅう"であることは保証されたな。
タイダルウェイブは止めてくれ。
「ん…」
オーフィスちゃんがラグナロクを私に掲げていた。
それがどうしたんだ?
「あげる、命のお礼」
本当か?
「それに我、もう力ない。持っている意味ない」
ふむ………。
よし、ジェノバさんと交渉してこよう。
私は弱々しく手を握り続けるオーフィスちゃんの手を優しくほどくとジェノバさんのところへ向かった。
◇◆◇◆◇◆
結論から言おう。
ジェノバさんはオーフィスちゃんに力を非常時は返してくれると言い、その準備までしてくれた。
ただ冗談半分で割烹着渡しながらオーフィスちゃんに力を危険な時だけは返してやって欲しいと言っただけなのだが…。
ジェノバさんは割烹着を受け取り小躍りしてからそれを着た。正直、小躍り風景が無茶苦茶怖かった。
その後、直ぐにジェノバさんは濁流のような黒い蛇を出した。こっちは猛烈にキモかった。なんだあの黒ミミズの大群を間近で見せられるような拷問は…。
さらにその全てを凝縮して小指ほどの竜の目のような宝玉に変えた。
それからジェノバさんが触手の先端を千切って環にすると首輪となった。
最後に首輪に宝玉を埋め込み完成した。
ジェノバさんはジェノバさんに脅えて私に隠れるオーフィスちゃんに首輪をはめると私に親指を立てた。
それをオーフィスちゃんに嵌めて置けば緊急時のみ無限の龍神の力を戻すことができるらしい。
ちなみに緊急時とは首輪になっているジェノバ細胞からリアルタイムでジェノバさんが判断するとか。
と言うことは完全にジェノバさんがオーフィスちゃんの手綱を握っているが、ジェノバさんから無限の龍神の力は完全に抜け消えたということだろう。
流石に無限の龍神の力と専門店で8980円の割烹着。いくらなんでも釣り合わないじゃないかとジェノバさんに確認したところ。
『フフフ…好きな人からの初めてのプレゼントに勝るものなんてこの宇宙にありませんよ?』
だそうだ。一瞬、その笑顔に惹かれそうになった私を誰が咎められようか。
その時、照れ隠しのためにそういえばラグナロクは
『それにもう一度力を取り込んだので自由に擬態出来ますから、そんな雀の涙みたいな力なんて始めから必要無いんですよ』
ジェノバさんはオーフィスちゃんを20ぐらいにした姿を取ると、指から黒い蛇を覗かせた。
………………………私の感動を返せ!!!
………その話はもう止めにしてオーフィスちゃん…無限の龍神などと言われている者を交番に届けるのもどうかと思い始めていたが。
「我、ここに住みたい」
モノ凄い爆弾を投下してきた。
「ここ、安全。世界で一番安全、安心」
そう言ってやはり私の手を握り続けるオーフィスちゃん。
………………経済的には全然問題ないが如何せんジェノバさんが…。
と、思ったがなぜかジェノバさんまでそれを押してきた。
そう言われれば仕方がないのでオーフィスちゃんは新たに家族の一員となった。
ああ、ちなみにラグナロクはリビングの壁にインテリアとして飾られることになりました。