翌日、いきなり問題が発生した。
というか学校へ行こうとしたのだが…。
「我を一人にしないでぇぇぇぇ!?」
オーフィスちゃんが発狂したのである。
年相応の力で必死で引き止めようとする姿はなんとも微笑ましい。
経緯を説明するまでもないと思うが一応説明しておくと。
ジェノバさん+オーフィスちゃんに抱き着かれて寝る。
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日本文化を未だに履き違えているどうみても外国人の母が、私の腹の上に漬け物石を置いている夢を見ながら起床。
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腹の上にオーフィスちゃんがッ!
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ジェノバさんにびくびくしながらも空腹には勝てないようで朝食を取る姿を微笑ましく眺める。
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さて、今日も学校だ。
↓
ん? オーフィスちゃんも着いてくる? ははは、君はお留守番だ。
↓
オーフィスちゃん発狂←今ここ
オーフィスちゃん、そんなこと言ったってお留守番だ。
『そうですよ。私が責任を持って面倒を見ますから』
そう言って(触)手をわしゃわしゃさせながらオーフィスちゃんに近づくジェノバさん。
「嫌ぁぁぁぁ!?」
それに過剰反応して私に抱き着くオーフィスちゃん。
ははは、そんなに脅えなくてもジェノバさんはなにもしないよ。なあ、ジェノバさん。
『モチのロンですよ』
なら、ジェノバさん?
『なんでしょうか?』
その背中にお背負いになっている昨日の大鍋は一体なんなんでしょうか?
『ただの幼女を茹でるには丁度いい大きさの鍋ですよー』
「ひぃぃ!?」
………………………ダメだこりゃ。
◇◆◇◆◇◆
結局、私にいい考えがあるから任せてくださいとジェノバさんに言われたためオーフィスちゃんを任せておいた。
玄関扉が閉まる寸前の絶望に打ちひしがれたオーフィスちゃんの表情が今も忘れられない。
「おはようシンラ!」
後ろから奉先が抱き着いてきた。
ちなみにだが、シンラとはコイツが付けたあだ名である。
別に嫌でもないので呼ばせているうちにお前ってシンラって名前じゃなかったの!? とかクラスメイト言われるようになってしまったがな。
「シンラ分補給~」
奉先はすりすりと身体を擦り付けてきた。
昨日の今日だろうが。
「いいのよ私がしたいんだから」
さいですか。
奉先はいつも通り私の手を握った。
歩きづらいから谷間に腕を挟むのは止めろや。
「い・や・よ」
そうかよ…。
「好きなくせに、こういうの」
ああ、好きだな。
「もう、素直じゃ…え? 今好きって…」
ほら見ろ、あの私達を恨みがましく見る羨望の眼差しの数々を。
これを見ているだけで清々しい気分になるな!
ん? どうした奉先? ぶるぶる震えて風邪か?
「………わかってるわよ…わかっていたわよ…シンラが鋼の心で性格が悪いって事ぐらい…」
おーい、奉先さーん。急に止まってどうしたー?
「シンラ!」
お、おう?
「絶対…私の処女もらッあいた!」
女の子がそういうこと言うんじゃありません。
「うう…痛いわ。私は本気なのに…」
涙目で頭を押さえながら奉先が見上げてきた。
仕方ない。とりあえず撫でておくか。
「なんで撫でるのよ…」
奉先。
「なによ? 」
私はお前のこと結構好きだぞ?
「え…?」
それより、学校だ学校。どうせ今日もカラオケ行くんだろ?
私は呆ける奉先を置いて学校へ駆け出した。
「あ、待ちなさい! 今の言葉もう一度言って! 後、カラオケは行くわよ! 」
あー、もうさっきのことなんて覚えてないな。
◇◆◇◆◇◆
その人物はチョークでカリカリと黒板に名前を書き込むと生徒へ振り向いた。
「ティファ・ロックハートです。今日からあなたたちの担任よ。よろしくね」
超ミニのレディースーツを着た女性がいた。
………………………………はい?
美人だなんだと男子生徒が騒ぐなか私は唖然として見覚えのあり過ぎる女性を眺めていた。
ふと、目があった。
ウィンクされた。
やはり
「シンラ~? 何見つめてるのかしらー?」
奉先が怒りマークが浮かんでいそうなイイ表情で俺をつねった。
痛い、地味に痛い。止めい、お返しだ。
「はんでふねるのよ?(なんでつねるのよ?)」
お前が言うな。
「あの…先生?」
1人の生徒がジェノ…ティファさんに声をかけた。
「はい、なんでしょう? えーと、田中君」
ほう、クラスに田中なんて奴がいたのか。
「3年間一緒じゃない…」
え? 本当か?
「担任の吉田先生は「産休よ」え? でも吉田先生は男「産休よ」あの…「産休よ」……わかりました」
田中ァァ!? お前はよく頑張った…頑張ったよ…。でもジェノバさんには理屈も通りも現実も通用しないんだよ…。
「いきなりだけど転校生を紹介するわ!」
…なるほど、だから朝に弁当が二個用意してあったわけだな。
……………………ふう…わー、一体誰フィスちゃんナンダー。
ガラリと扉が開き、うちの学校の制服を着た15歳ぐらいのオーフィスちゃんが入ってきた。
………え? なんか成長してる。
ちなみにこの学校の女子生徒の制服は上下赤である。
男子生徒は至って普通なので謎だ。
オーフィスちゃんはカリカリと黒板に名前を書き………おい。
「我、神城 オーフィス」
またもや爆弾を投下した。
オーフィスちゃんはそれだけ喋ると何事も無いようにてくてくと移動し、奉先と私を挟んで反対側の席に移動すると席に着いた。
さらに奉先と同じように机を私の机にくっ付け、手をギュッと握って来た。
「ん…」
ん、じゃねぇよ!
「シ・ン・ラ?」
奉先、痛い、痛い! 足を踏むな!
お前の馬鹿力はかなり洒落にならん!
「あなたシンラのなに?」
イイ笑顔の奉先はオーフィスちゃんに話し掛けた。
オーフィスちゃんはそれを聞いて暫くジェ…ティファさんを見つめてから首の首輪を弄り、奉先へ顔を向けた。
「我、シンラのペット」
オーフィスちゃんは核爆弾を投下した。
「ぺ、ペット!?」
あー、だから聞こえない。2人の会話でオーフィスちゃんがとんでもない事を言っていることなんて知らない。
「シンラ…」
奉先は私の両肩を掴んでガクガクと揺さぶった。
「なんで私にはそういうことしてくれないのよ!?」
そして私の予想の斜め上を行く幼馴染み。
もう嫌だこんな生活。
◇◆◇◆◇◆
クラスメイトに修羅場だのシンラの女が増えただの言われ続ける苦行を経て放課後。
現在、いつも通りカラオケにいた。
1つ違うのは私、奉先、オーフィスちゃんの3人だということだろう。
奉先はオーフィスちゃんと何やら盛り上がっており、オーフィスちゃんは注文したカラオケ店定番の価格設定の料理をもきゅもきゅ頬張り、私は財布の諭吉さんの数を数えていた。
諭吉が1まーい、2まーい、トータル57まーい。
「オーフィスちゃんこれも注文する?」
「食べる」
「本当によく食べるわね」
さっきの今でなぜそんなに仲が良いんだコイツら。
「さあ、オーフィスちゃん! シンラの財布をスッカラカンにしちゃいなさい!」
「ん…」
おい、止めろ。
◇◆◇◆◇◆
相変わらずの奉先の1人カラオケも終了し、現在は自宅のリビングで夕御飯中である。
しかしよく食べるなオーフィスちゃん。諭吉さん二枚分ほど食べた後でよくまだ食べれるものだ。
さて、時にジェノバさん、今日のはどういうことでしょうか?
『はい、1人で留守番は寂しいと思いまして、一緒に学校へ行ってもらうことにしました!』
でも勉強とか付いていけるかわからないでしょう?
『それは大丈夫です。だってほら…』
ジェノバさんはオーフィスちゃんを見てから黒い笑みを浮かべ、それを見てオーフィスちゃんがビクッと震えた。
『"入れましたから"』
………………最早語るまい…。
100歩譲ってそれは良いでしょう。
で? あなたは?
『いえ、2ヶ月ぐらい前から教師として教鞭を振るう予定でしたので準備は既に済ませていたんですよ』
初耳ですね…。
『サプライズ精神に乗っ取りました。でもその娘はちょっと強引な手段を取りましたねー。聞きたいですか?』
さいですか…遠慮しときます。聞いたら後悔しそうなので。
『ちなみにモデルの女性は私の知る限り純粋な人間最高の身体能力を持つですよー』
でしょうねぇ…。
気色悪い怪物だろうと、硬そうな兵器だろうと、ジェノバさんであろうと拳で殴り潰す
『家事は私のコピーが済ませますから何も問題ありませんね』
そうですね…。
もう、いいや…どうでも。あー、ジェノバさんの特製ローストビーフ旨い。ウマイナー。
現実逃避をしていると私の携帯電話が鳴り響いた。
どうせ奉先だろう。アイツぐらいしか私に電話…な……ん…てッ!
絶対喋らないで下さいね! オーフィスちゃんも喋らないでくれ! 後、音も立てないように!
私は脱兎の如く飛び出して廊下に出て、さらに走り玄関まで向かい電話に出た。
は、はい。
『久しぶりですね』
そ、そうだね。母さん。
『話し方がぎこちないですがどうかしましたか?』
何でもないよ。ホントダヨ?
電話の相手は俺の母、神城 頼羅だ。
日本人の名前ではあるが明らかに外国産の髪と顔立ちをしたかなりの美人である。
そんな、電話越しではまずわからないことはどうでもいい。それよりも今重要な事は勿論。
『……犬か猫でも拾って来ましたか?』
うん、宇宙生物としんりゅう拾ってきたんだ! って言えるかボゲェッ!
は、はい…そんなところです。
『仕方がないですね。きちんと面倒を見るんですよ?』
はい、片方からは面倒を見られてます! ではなく…。
いいですとも!
『いい返事ですね。では、本題を話します。 また、仕事が立て込んでしまいまして暫く帰れそうにありません』
そうかそれは残念だ。
シャー! これでまた暫くは問題を先送りにできる!
『ので…』
え…? ので…?
その直後、家の玄関扉が開いた。
「その前に一度帰ることにしました」
そこには少なくとも30~40歳は間違えなく行っているというのに未だに20代前半、下手すれば10代に見えなくもない銀髪の女性。
礼儀作法、教養、料理、家事百般その他諸々を全てこなし、凄まじい年収を叩き出すスーパーウーマン。
まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花のような女性。
私の母さん本人が携帯電話片手に立っていた。
そして丁度、後ろから。
『シンラさーん、今日の金曜ロードショーはもの〇け姫ですって…あれ? 誰ですかその女性は?』
明らかに人間の容姿をしていない
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………………………………
………………………
………………
………
ウボァー
私は膝から崩れ落ちると頭を抱えた。
シンラくんの母親は一体、誰イフィアさんなんだ!