僕のヒーローアカデミア『風見幽香見参!』   作:ラディスカル

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第3話「世界震撼〜World News〜」

 

【挿絵表示】

 

 

動画投稿サイトItube(アイチューブ)に投稿された1つの動画が世界を震撼させた。「風見幽香見参」、英語名「Yuka has come!」は瞬く間に全世界に拡散された。それは次世代の平和の象徴の到来を予期させ、人々にオールマイトの世代交代を強く印象付けた。40を超えるオールマイト。彼の引退が日本の暗黒時代の始まりだと危惧されてきた。しかし、もう6年。たったの6年で、「風見幽香が来る!!」のである。これは人民への福音であり、革命の時を待つアナキストたちにとっては新時代そのものの訃報だった。終末論者の評論家は掌を返して、日本の栄光ある未来を唄った。円の買い注文が殺到し、為替レートは10ポイント、日経平均株価は3ポイント上昇した。

 

「これでいい。」

 

一方で、彼女に新しい世界秩序を見出すものがいた。AFOである。本来ならば、手元に彼女を置いておきたかった。しかし、焦がれるからこそ、彼女に日の当たる場所を歩いて欲しかった。これは初めて抱く恋心に対する方便であり、同時に愛しいものを傷つけたい自身の悪辣さから彼女を守る悟性の働きかけだったのかもしれない。だが何よりも…

 

「こっちの方が面白い。」

 

風見幽香は善でも悪でもない。超人類的な感性、自然そのもののような残酷さ、暴力性、そして生への普遍な愛を持っている。…愛は希望的観測かもしれない。太陽の畑で笑う爛漫な少女の容貌から、そうあれかしと願っただけである。人は美しいモノに好印象を抱きがちなのだ。

 

「なんだ、僕も人間じゃないか。」

 

唯ひとつ、分かること。それは彼女が善悪二元論的な現代社会に第三勢力として君臨するだろうということだ。それは混沌か中庸か分からない。ただ、世界はもっと面白くなるだろう。西部開拓期や明治維新のような暴力が口よりも物を語り、ペンと剣が戦う。劇的でドラマチックな、血と涙で渇きを癒す、真の意味で人間が生を謳歌する愛の世界がやってくる。

 

「次代はもうそこまで来ている。僕もオールマイトもそこでは時代遅れの爺に過ぎない。」

 

ーーーーー

 

「本当に幽香ちゃんの戦闘訓練流すんですか?」

 

国立個性研究センターの研究室では白衣の青年が動画を編集していた。彼は元Ituberなのである。動画編集ができるからと、業務外で作業をさせられていた。

 

「来週の日曜に幽香ちゃんのお披露目会見するからね。それに合わせてリークする予定なんだよ。」

 

オールマイトは混乱していた。別に「子供は親の言うことを聞くべきだ」などという毒親思想にかぶれていたわけではない。ただ、自分が子供の頃はもっと素直だった気がするのだ。

 

「女の子って難しい。」

 

女性に失礼である。女性は女性である前に人間なのだ。男性とそう変わるわけでもない。結婚しないまでも、事実婚状態だったことがあるオールマイトだったが、この歳になってもまだ女性に幻想を抱いていた。幻想とはいっても、良い夢ではなく、悪夢である。

 

「分かったわ、お父さん。記者会見には出てあげる。」

 

「都合の良い時はお父さんと呼んでくれるんだね。」

 

どういうわけか、記者会見に出て貰う代わりに、北海道に土地を買うことになっていた。坪単価¥500の農地に適さない場所を1万坪ほど…個性でどうにかするらしいが、全て花畑にするらしい。「家族になるなら一緒に住むお家が必要ね。」とは何だったのだろうか。自分の子は可愛いと言うが、この娘にいたっては、全くかわいげがない。本人はどうとも思っていないくせに父親が嫌がるからと、妻子を捨てたことをグチグチと言ってくる。人を虐めている時が一番生き生きしている。この娘をヒーローに育てられるだろうか。オールマイトは欠片たりとも自信が持てなかった。

 

「良くてヴィジランテかなあ。」

 

「何を言ってるの。私はヒーローになるわ。それがあればヴィランをふん縛っていいんでしょう?暴力許可証なんて便利な物を取らない手はないわ。」

 

「そんなんじゃ、ヒーロー科を除籍されちゃうよ。」

 

「あら、人間らしく振舞うことだってできるのよ。」

 

「君は人間だろう?」

 

「さあ。」

 

(私はこの娘を導けるのだろうか…。いや、そもそも人類には荷が重い気がする。)

 

親子の再開を果たしてから一週間。オールマイトは既に子育てを諦めつつあった。中学1年生で既に自分の面倒は見れる歳だし、事あるごとに父親にたかってくるが、幽香には一家族養えるだけの稼ぎがあった。「太陽の畑」をググってみたところ、かなりのハイブランドだったのだ。北海道の土地も自分で買えるはずである。

 

「甘えてくれてるってことかな。それならば嬉しくもあるが…。」

 

鳳香(ほうか)はこの娘とどうやって暮らしていたのだろうか。何かと忙しい身だが、墓参りに行かなければ。幽香が訪ねてきたあの日まで、オールマイトは鳳香が死んだことを知らなかった。自分にさえ行方が分からないようにしていたからだ。彼女は幽香が一番可愛かった頃を知っていた。そして、彼にはその思い出がない。仮初めとはいえ平和な時代だ。手元に置いておく選択肢もあったのではないか。師がそうしたから?それが妻子のためだから?ただ自分の悲劇に酔っていただけではないのか?考えれば考えるほど、あったかも知れない幸福が、孤独な中年の胸を締め付けた。それは秋の空っ風のように心から潤いを奪い、何か大切なものが荒れた野原のようにひび割れていく。

 

「何、ウジウジと泣きそうな顔してるの?何時もの馬鹿みたいな笑顔はどこに行ったの?それともイジメすぎたかしら?」

 

それは優しさだろうか?できればそうであって欲しい。オールマイトは幽香の発言を全て、ポリアンナ的思考回路で好意的に解釈することにした。これはツンデレだ。そう自己暗示をかける。こんなに優しくない女が自分の娘だとは信じたくなかった。

 

「ありがとう幽香!笑顔を忘れてはいけないよね。HAHAHA!ほーら、これで元通り!私が帰って来た!!。」

 

「そう。どういたしまして。お礼はチーズスフレでいいわよ。ほら、ヒルズの前にあるやつ。アジサイの紅茶に合うと思うの。」

 

「それは私にも淹れてくれるのかい?」

 

「(毒があるけどいいのかしら?)あなたが欲しいなら…。」

 

オールマイトは週明けまで入院した。

 

ーーーーー

 

日曜の真昼間

 

公共放送は雄英体育祭以来の視聴率42.3%を記録した。オールマイトの会見である。「重大発表」と銘打たれたその会見は、彼が直前の一週間姿を見せなかったことから、引退会見だと囁かれていた。誰かに毒を盛られたことは内緒である。

 

オールマイトに続いて、緑髪の少女が会場に入ってきた。謎の人物の登場にネット実況板やSNS、寄合所や飲み屋、お茶の間に至るまで「誰?」「隠し子か」と言った言葉で埋まる。概ね当たりである。

 

「日本の皆様、私が来た!!今日、マスコミの皆様に集まってもらったのは、向かって右に座るこの子を紹介するたっ」

 

「隠し子ですか?」

 

どこぞの記者が言葉を遮ってヤジを飛ばす。

 

「あー、まあ、そうなる…かな。名前は風見幽香って言うんだ。」

 

オールマイトが「風見幽香」と書かれたフリップボードを掲げる。

 

「私は嫌われているからね。私でさえも知らない場所で母子共に隠れて生きていたんだ。年齢は12歳。中学1年生の女の子さ。…………ええと、以上で終わりです。」

 

「それでは質疑応答に移ります。OO新聞の方。」

 

「OO新聞田村です。幽香さんの個性は何ですか?」

 

「…『花を操る程度の個性』かしら。」

 

「違うでしょ。」

 

ツッコミを入れるオールマイトだが、軽く流される。

 

「あら、本当よ。あれはお花パワー。世界中のお花から、人間の花に対する想いを吸い上げてるのよ。だってそういう声が聞こえるもの。多分そういう個性なんでしょ?」

 

「初めて聞いたなあ。あの超パワーもその個性の応用かい?」

 

「さあ?」

 

「次は週刊XXの方。」

 

「週刊XX山本です。幽香ちゃんのお母様はどうなさってるんですか?」

 

「あ!?」

 

「本性、ほんしょー出てるから。」

 

記者を威圧する幽香にオールマイトが小声で注意するものの、マイクが優秀で音を拾われる。

 

「すみません。薮蛇でした。」

 

「それでは、BBテレビのかた〜」

 

会見は1時間ほどで終了した。

 

ーーーーー

 

会見から2時間後、動画投稿サイトItube(アイチューブ)に投稿された1つの動画が世界を震撼させた。「風見幽香見参」、英語名「Yuka has come!」は瞬く間に全世界に拡散された。

 

「焦凍、これを見なさい。」

 

轟焦凍は羨望した。オールマイトの娘の戦闘能力に。これがナンバーワンヒーローの血か。自分とは全く違う。確実にトップヒーローになれる実力がある。

 

「コレがお前と同い年だ。コレがお前のライバルだ。コレをお前は超えなければならない。お前はコレに勝つんだ。コレのせいでお前は苦しんでいる。」

 

父親がそう囁く。父親の望みを叶えるのは癪であるが、この女が超えなければならない壁であるのは確かである。何も戦って勝つ必要はない。どう見ても脳筋なこの女よりも自分の右の個性の方がヒーローとして優れている。暴力だけがヒーローの資質ではないのだ。

 

ーーーーー

 

緑谷出久はヒーローオタクである。勿論、オールマイトの重大発表とあっては見逃すはずもない。会見の前にはまとめサイトの眉唾なリーク情報に目を通していた。オールマイトの引退の噂にはやきもきとさせられたが、その焦燥は彼の娘のお披露目で歓喜へと変わった。

 

「かわいいなあ。お花の個性か。お姫様とか令嬢みたいで華やかだなあ。」

 

会見のあと、ネットで風見幽香の情報を検索する。会見から30分後にはすでに「風見幽香」スレが乱立し、まとめサイトにも色々な情報が出揃った。

 

「長野県のホームページに記事があるんだ。」

 

「小学生花農家、『太陽の畑の可憐な少女』」という特集記事へのリンクを踏む。ヘッダー画像にはムスッとした顔の幽香が載っている。腰に手を当てて仁王立ちしている姿は勝気そうだ。記事によると5年生で母を亡くし、一人で家業を継いでいると書かれている。「一人で困ることはありませんか?」という質問に「児相のカスどもがウザい」と答えているのは、大いに笑いを誘った。

 

暫く「幽香スレ」でレスバトルを繰り広げていると、唐突にItubeへのリンクが貼られた。「幽香ちゃんの動画ハケーンww」と書かれたそれを、釣りを疑いつつ開く。出久は失神しかけた。

 

「危うく昇天するところだった。どういうことだ。花を操る個性じゃないのか。それともオールマイトの増強系との複合個性?確かに花みたいなのを出しているし。いや、そもそも増強系、ビームに花。3つの複合個性なんてあり得るのか?いや、会見でも言っていた。冗談かと思ったけど、本当に人間の花に対する想いを吸い上げる個性なのか?だったら、そもそも複合個性ではなく、1つの個性で、パワーもビームも花の操作もその応用ってことか。それにしても、驚くべきことはこの頑丈さだ。並の硬化系個性の比じゃないぞ。オールマイトは殴り合いで消耗して見えるのに、傷ひとつ付いていない。うわ、うわあ、オールマイトやり過ぎだよ。女の子の顔をよく殴るなあ。でも、怪我の心配が無ければ、いや、一対一のタイマンで手加減するのも失礼かもしれない。それに、彼女に限っては手加減する必要がないんだ。うわああ!死んだ!死んじゃったの!?オールマイトもやっちゃったって言ってる。あわわわ。えっ!?ビーム?コンクリートが飴みたいに溶けてる。ヤバすぎでしょ。服がボロボロだけど、怪我はなさそう。あ、ちょっとおヘソ見えた………じゃなくて。強過ぎだよ。12歳でこれかあ。力押しで避けたり、フェイントをかけたりといった技術的なものは素人って感じだけど、この先戦い方を覚えたらオールマイトよりも強くなるんじゃないかな。僕もヒーローになりたいけどかっちゃんも自信無くしそう。それにしてもーー」

 

出久少年のマシンガン独り言はこの後3時間も続いた。




軍隊への影響
動画の内容からジープの機動力を持った重戦車8台分と評価されました。「殺す方法はいくらでもある。」というのが軍事関係者の共通認識です。

幽香の毒耐性
植物毒などの有機系の毒は効きずらいものの、無機系の毒は普通に効きます。ポロニウムで死にます。フグは自分の毒では死なないのです。、

母親「鳳香」の墓
墓は家の裏手にありますが、納骨されていません。幽香が黙って太陽の畑に散骨しました。

幽香のおねだり
別に銭ゲバなわけではなく、オールマイトの足下をみているだけです。金銭に余裕がなさそうだから、高いモノを強請っているのです。お金を使うたびにオールマイトが面白い顔をするのがいけない。
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