とある研究者の、とある研究発表

1 / 1
第1話

 人が何かを始めようと意志を持つのは、そう難しい事ではない。

 

 例えば何かひょんな事--これを書くのが面白そうだとか、この曲を元に何か絵を描いてみたいとか、小さな興味から引き込まれる事が殆どだろう。かくいう私も、その動機が小さな興味から引き込まれ、この研究発表への参加を決意した研究者の一人だと思っている。

 

 さて、そんな私はこの発表会に(勝手に)参加し、投稿するにあたって、とある動物を観察していた。しがない一研究員である私が動物の観察なんぞするのかという野暮な疑問はこの際置いておくとして、この発表の名に冠された動物が一体どんなものであるかが少し、気になったのである。

 

 これまた小さな興味である。誰もが持つありふれた欲求に身を任せ、その動物の実態を観察させて頂いたが、何というか、こういうと失礼かもしれないが笑ってしまった。

 

 端的に言ってしまえば、観察したのはアザラシである。何処かの漫画で、何処かのヒロインにぶっ叩かれて「ア゛ア゛ア゛〜」と情けなく鳴く、あのアザラシである。

 

 私が見たその光景というのは、紛れもなく上記のものそのままだった。クラゲやら鹿尾菜やら、果ては兎にまでぶっ叩かれるその様は、さながらエスキモーが行う狩猟のようで、カオスというのはこの事を言うのかと理解しかけたものである。

 

 ちなみに一回ぶっ叩くとどう言う訳か論文が大体三千字くらい書けるようになるらしい。この事を知っていれば多分、私も一緒になってアザラシ狩りに参加していたかもしれない。どうやってアザラシをぶっ叩くのかは聞かないでくれるとありがたいが。

 

 そんな背景を理解しつつ、現在進行形でこれを書いているのである。

 

 書いてはいるのだが、この発表会に参加される方というのがこれがまた大物である。名前は出せないので研究成果で紹介しよう。

 

 鹿尾菜にシベリアンハスキー、猫と狐のハーフの獅子、天使に水飛沫……これを書いているのが十五時現在であるので、ここからどうなるかは分からないが、こうやって文にして並べてみると、錚々(そうそう)たるメンバーである。どの方も各分野において、最高評価の赤評価を貰っているのである。そんなサメやシャチが泳ぎ狂う海の中、弱々しい魚一尾がそこに身を投げるのは自殺行為である。

 

 そこで私は考えた。論文が無理なら論文じゃないものを作ればいいと。一応絵画部門もあったのだが、私には絵心がなく、下手な絵を発表すればサメやシャチはおろか当のアザラシにまで食い尽くされる可能性がある。

 

 そんな折にふと、とある記事を見かけた。見たら、笑ってしまうような記事だった。ならばこれをネタにエッセイのような形式にして発表しようと心に決めた。

 

 恐らく他の発表者の方々は、アザラシをぶっ叩き、狩り尽くす事に全力を尽くすであろうが、ならば今回の私は、アザラシを擁護する側に回ろうと思う。シーシェパードやグリンピースよろしく、過激な発言や行動はしないよう(というか多分この段階で色々失礼な事を言っているかもしれないが)慎重にか弱いアザラシには自分の身を守る術を教えようと思う。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 2018年、とある記事がネットに流れた。

 

 カヤックをしていたあるグループが、タコを食べているアザラシに遭遇した。可愛いと思ったグループの男性が、その姿を写真に収めようとした。ところがこれで怒りを買ったのか、アザラシが反撃で食べていたタコで男性をぶん殴ったというものであった。

 

 文面にしてみればなんだこの程度と思うのも無理はない。動物と人間の微笑ましいトラブルである。

 

 しかし、私はこの点に着目した。私がこれから話す事を聞いて、か弱いアザラシには自衛手段として身につけてほしいと思っている。

 

 察しのいい人ならもうお分かりだろう……武器や防具としてタコを持てばいいのである。

 

 何を馬鹿なことをと思うかもしれない。確かに一見するとタコは弱く見られがちであり、全ての動物、人間の食料であるが、その実タコというのはとても強い捕食者のうちの一匹であるのだ。

 

 私もこれには驚いたのだが、大体のタコには毒がある。基本的に人間には無害なものであるが、ヒョウモンダコという例外もあり、一概に安全であるとは言えない。また、人間には無害であっても他の動物や魚には有害である可能性もあり、対動物に対して大変効果的な代物であるのは間違いない。

 

 そして、タコは無脊椎動物の中で最も賢い動物であると言われているのもポイントだ。ご存知の通り、タコは閉じられたガラス瓶の蓋をねじって開け、中の餌を食べる事が出来る。更に驚くべきことは、二枚貝やココナッツの殻等、自分達が自力で持てるもの全てを使って身を守る事が報告されているのである。

 

 このように、タコという生物は身を守る術を持たないアザラシにとっては大変有り難いものである事は明らかである。毒を持ち、更に道具を使うことも出来るこの生物は地球上ではこの生物くらいしかいない。いざと言う時にはスミを吐いて目をくらまし、触手や身体の一部には毒があり、果ては自力で身を守る知能もある。そしてお腹が空けば非常食にもなるという隙のなさ。アザラシとタコの相性は抜群であるのだ。

 

 ……と、ここまで筆を躍らせた後で更に調べてみたのだが、ここで驚くべき事実が分かった。

 

 アザラシは魚を主食としており、タラやイカなどの口に入るものならなんでも食べるが、なんと鯖も食べるという。

 

 私は鯖研究の第一人者であり、鯖を研究するものからはある程度名は知られている。

 

 だからここに前言を撤回する。

 

 アザラシというのは悪魔の生き物だ。ここ数年で鯖の漁獲量が目に見えて減っていたが、あれは全てアザラシの仕業である。奴は自分の視界に入った魚介類を全て貪り、その通り道には骨の一つすらも残らないという。

 

 前述の記事は私達人類への警告だ。アザラシはいずれ進化を遂げて、人間をも食べ尽くそうと目論んでいるのだ。そうなる前に我々は手を打たねばならないだろう。

 

 アザラシは北の海に生息しており、石鹸や上質な皮物として利用される他、北極圏の人達にとっては貴重なカロリー源である事が確認されている。

 

 これを読んでる方々には、是非とも全力でアザラシをぶっ叩いて一匹でも多く絶滅させて欲しい。

 

 以上が、私の研究発表である。読んでくれた人達に多大な感謝を送りつつ、私も筆を置こうと思う。

 

 

 

 〇〇大学◇◇学部△△学科

 名誉教授 海腹鯖ノ助

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。