前作「自分勝手に生きた男が殺される話(仮題)」の復讐者目線となります。
前作を読まれなくても問題ないようにはなっていると思いますが読まれることを推奨します。

この作品はTwitterシェアワールド企画「アトリビュート・スレイヴ」参加作品です。

詳細はこちらの企画立案者とぅりりりり様のURLをご参照くださいhttps://syosetu.org/novel/185460/

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平凡な男が復讐する話

 「へい、毎度。これからもご贔屓に!」

 

 今日もまた一人、商品を買い客が帰っていく。

 

 先の発言から分かるかもしれないが、俺は屋台商を営んでいる。売っているものは平凡極まりない焼き串だ。

 

 当たり外れの差が少ないのでぼちぼちと商売をさせてもらっている。

 

 妻子はなく、母も先日亡くなったので一人身だ。悲しくはあったが、長い間病気を患っていたので仕方ないとも思う。

 

 俺の平凡な稼ぎではとても払える金額ではなかったのだ。その分、願いは出来るだけ叶えてきたし最期も看取った。

 

 願いといっても商売をしていない間は出来るだけ傍に居てほしいというものだったが……。

 

 本当に俺は幸せ者だ。こうして自由に生きられているのだから。

 

 うすうす気付いているかもしれないが、俺の属性は凡属性、山も谷もない平々凡々な人生を約束された属性だ。他にも属性を持っていればもっと変化もあったのだろうが、現状の生活に不満はないのでこれでよかったのだとも思っている。

 

 だが神様は凡属性の俺に、そんな日々の幸せすら許してくれなかったらしい。俺はそれをある日思い知るのだった。

 

 運命の日、その日俺は仕入れを終えて自宅に帰る途中だった。

 

 特に急ぐでもなくゆっくり帰路についていた俺は通りすがりの者に何かを押し当てられたような気がした。

 

 振り返って確認してみると、過ぎて行ったのはぼろぼろになった服を着た男。おそらくスラムの者なのだろうその男が大通りを歩いているのは珍しいと思ったが、その時はそういうこともあるのだろうと特に気にも留めなかった。

 

 だが、ここで追いかけなかったことを後悔するのを、このときの俺は知らなかったんだ……。

 

 その次の日、いつも通りに店に向かおうとした俺は何故かトラブルに遭遇した。なんていうことはない道でだ。

 

 怪我こそしなかったものの、上から花瓶が落ちてきたり、馬車が暴走して突っ込んできたりと散々だった。

 

 店についてからもトラブルは続いた。店の目の前で乱闘騒ぎが勃発したり、商品が不味いから金を返せとクレームをつけられることなどが頻繁に起こった。

 

 俺も最初はこんな日もあるだろうと気にしていなかったのだが、そんな日がいつまでも続けば平凡だった俺でも分かる。属性を奪われた!ってね。

 

 それから俺は思い出した。それらしい接触があったのは、あのスラムの男だけだと。

 

 俺はすぐさま行動した。通りすがりの犯行だ。他にも被害者は居るに違いない。

 

 情報は面白いように集まった。これも凡属性を無くした影響だろう。あの男について知りたかった俺にとっては好都合だった。

 

 集まった大まかな情報は3つ。1つ、男は手当たり次第に属性を奪ってはノンマンを増やしていること。2つ、属性を奪っている道具は呪術結社カースドから盗み出した物のようであること。3つ、男はその所業から簒奪者と呼ばれているようであること。

 

 以上のことが俺が必死に聞き込みをして集めた情報である。

 

 だがここまで来て行き詰まってしまった。男の居場所の情報だけが分からないのだ。

 

 スラムにも聞き込みに向かったが誰のことだか分からないと言われてしまった。

 

 それもそうだ、ぼろぼろの服を着た男などスラムには溢れかえっている。

 

 諦めきれずに何日も粘ったが、いよいよどうしようもない。ここまでかと諦めかけたときに、ある男と出会った。

 

 それは、スラムで聞き込みをしている時だ。今日も収穫がなかったと夕暮れ時、薄暗い路地で肩を落として帰ろうとしたときにそいつは突如現れた。

 

 「おい、そこのお前」

 

 いきなりお前とは無礼なやつだと思ったが、自分以外に誰もいないので仕方なく返事をする。

 

 「俺のことか?」

 

 「そう、お前だ」

 

 「一体、何の用だ?」

 

 「簒奪者の居場所について知りたくはないか?」

 

 心臓がどきりとした。知りたいに決まっている!

 

 「なぜ、そのことを知っている」

 

 「知りたくはないか?と聞いている」

 

 「教えて……くれるのか?」

 

 「いいだろう、教えてやる」

 

 思わぬ展開に内心で歓喜の声をあげる。今までずっと追ってきたものが、こんなに唐突に手に入るとは。

 

 「それで簒奪者は何処にいるんだ!?」

 

 「まぁ、ひとまずは落ち着いて話を聞いてくれ」

 

 一刻も早く聞き出したかったが、このチャンスを不意にするのはとてもできない。とりあえずは男の言葉に従い落ち着くことにする。

 

 「少しは落ち着いたようだな。それでは本題に入る前に持っている情報のおさらいといこうか」

 

 「おさらい……だと?」

 

 「そうだ、まず簒奪者と呼ばれていること。無差別に属性を奪っていること。ここまでは良いな?」

 

 「ああ、そこまでは知っている。そして使っている道具がカースドから盗み出したものらしいということも」

 

 「そう、問題はそこなんだよ。簒奪者は我々から属性を奪える道具を盗み出したんだ」

 

 これは驚いた。本当にカースドから盗み出していたとは。だがそうなると疑問も残る。

 

 「それならなぜ、簒奪者の居場所が分かっているのなら自分達で始末しないんだ?」

 

 「我々も疑問に思っているのだが、どうやら簒奪者は悪意に敏感なようでな。我々が近づこうとするとすぐさま逃げ出してしまうのだ」

 

 これには少し納得できる。カースドは目的のためなら非道な手段も(いと)わない。そのため、悪意に敏感な者は事前に察知してしまうのだろう。

 

 「そこで我々は善良な一般人に協力を依頼することにした。これを」

 

 そう言って渡されたのは1本のナイフだった。

 

 「これは?」

 

 「それは属性を奪うことのできるナイフだ」

 

 それを聞いて驚いた。属性を奪える道具は貴重品だ。そんなものをホイホイと渡してしまって良いのだろうか……。

 

 「我々も簒奪者にはほとほと困っていてな。なにせ我々が属性を奪う手段があるのが噂とはいえ大々的に広まってしまったのだ。一刻も早く奴を始末したい。他にも奴の被害者に協力を依頼している。お前の復讐が実るかはお前次第だ。」

 

 ナイフを持つ手が震えてくる。なんというチャンスだろうか。だが復讐出来るかは早い者勝ちだ。悠長にはしていられない。

 

 「簒奪者の居場所を教えてくれ───」

 

 そのあと俺は男から地図を貰った。地図には簒奪者の(ねぐら)が書かれている。俺はその場所へ早速向かった。

 

 何日か張り込んでみたが見掛けることはあっても近づく前に逃げられてしまう。少しずつ近づけてはいるので、害意の隠蔽には慣れてきたのだろう。そんな日々が1月になろうとしたときについに第二の運命の日はやって来た。

 

 簒奪者が上機嫌な様子で歩いている。どうやら今日も誰かから属性を奪ってきたらしい。

 

 俺はナイフを懐に忍ばせ、そっと後ろから気配を絶ち近づいていく。

 

 そしてそのまま簒奪者にナイフを突き立てる!

 

 知らず知らずの内に興奮からフーッ、フーッと呼吸が荒くなる。

 

 「お前が、お前が悪いんだ。俺から属性を奪うから……ざまあみやがれ」

 

 俺は簒奪者にそう告げると背を向け走り去る。

 

 胸の内は達成感で一杯だ。とうとう俺の復讐が成功したのだ。他の誰でもないこの俺の!

 

 「復讐の成功おめでとうございます」

 

 唐突に声をかけてきたのは15、6歳くらいの少女だった。

 

 「ありがとう。もしかして君も?」

 

 「はい、私も簒奪者に属性を奪われた者です」

 

 「そうだったのか。それで何か用があるのかい?」

 

 「はい、実は簒奪者が持っていた属性は元々私の物で──」

 

 そこで唐突に鳴り響く拍手の音。発生源を見るとナイフを渡してきた男だった。

 

 「復讐の完遂おめでとう。ナイフを返して貰いに来たよ」

 

 俺は素直にナイフを渡す。

 

 「そうそう。簒奪者の持っていた属性だが我々には必要ないので君の好きにするといい」

 

 男はそう言い残すとその場を去っていった。

 

 残されたのは属性を奪われた男女二人。

 

 「そのあとの話はしなくてもいいだろうアイシャ。こうして君という素敵な女性に出会えたんだ。簒奪者には感謝してもいいかもしれないな」



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