果たして、彼女は最後に何を遺すのか。
十重に混じる羽。か細い鉛色。
苔むした、多色刷りの草花樹の実。
舞いつ巻かれつ詰みの瀬へ。
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この世界は、私が生まれた時から、いや、生まれる前からずっと戦ってきた。海の向こう、世界の果てから襲い来るキカイは、大地を砕き人を食い、街を焼き払ってきた。だから、私は戦う。そう念じて、久方ぶりの格納庫へと歩を進めた。
「一番隊長がやってきたぞ!」
「隊長のお出ましだ!これで今回の戦も勝てる!」
「隊長、身体の方は大丈夫なんですかい?」
私の隊のみんなが、口々に騒ぎ立てる。不本意ながら隊長を務めさせて頂いている私__そうだな、
「ああ、大丈夫だ。だがお前ら、私が来たからといって決して安心してはならない。コトが終わったら、愛する嫁に元気な姿を見せてやれ。雄姿を見せるのは私だけで良いだろう」
「隊長に雄姿を見せるのは、ちっとばかし骨が折れやすねえ」
「何を言う。お前らは一人で十人力だ。だったら私くらい軽く越せるだろう。さあ、さっさと準備しろ。出撃まであと一時間だ」
ともに戦場を駆け抜け続けた戦友たちと軽口をたたき合いつつ、己の愛機を点検する。
戦闘型金属飛行塊_青灰天空三十二式電子鳥「彩明」
お前と空を飛べるのは、これで最後か。
配置について、高まるエンジン音を聞きながら過去を思い出す。私が初めて空を飛んだのは13年前。空を舞う巨大な鳥が醜悪なキカイを追い払っていくのを見て、当時の私は憧れたものだ。それで軍へと入隊し、多くの同期たちと厳しい訓練を受け、初陣を迎えた。初陣は帰還率が83%、生還率が67%。死の戦場から辛くも生きて帰って、その後積んだ戦果から隊長に抜擢されたのが4年前。同時にこの
私は隊長となっても、ずっと最前線で戦い続けてきた。それは幾人もの同期が冷たくなって帰投し、友人が喰われ、親友が自爆特攻をした
そんなところへ、部下の一人から通信が入った。
「隊長、本当に身体はは大丈夫なんですかい?」
さっきも身体を心配してくれた天竺葵が再び話しかけてくる。心配し過ぎだが、それが心地よい。
「ああ、大丈夫だよ」
「そうですかい。それなら良かった。ですが隊長、前に血を吐いていたでしょう?それが心配でさあ」
「あれはただ機体の大破に巻き込まれたからだ。今回のは気の所為だろう」
「そうですかい。そんじゃ、今回も頼んますぜ、隊長さん」
「ああ、お前もな。必ず死ぬなよ」
「分かっとります」
中々勘が鋭い。まあ、それでも察せてはいないだろうが。私の身体はもうボロボロで、命が燃え尽きんとしていることは。
あらゆる未練を置き残して、電子の鳥は大空へ飛び立つ。本体の小型戦闘機から、白と紫の仮想翼が生え、淡く輝く一回り大きな羽を作り出した。さあ、戦闘開始だ。
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広がる灰空。眼下には、紅葉が進む森がある。緑と黄と赤が入り混じる独特な風景は、しかしキカイの油とミサイルの破片で煤けていた。目の前には空飛ぶ農業用トラクターから褐色のタコが生えてきたかのような醜悪な生命体。猛スピードで飛び回り、辺りに災害を撒き散らしていく。
「こちら菖蒲。水仙!残弾はどうだ!」
「こちら水仙、弾薬は心元ありません!」
「こちら天竺、右翼の破損と妨害電波により仮想体の構築に支障!戦線を離脱します!」
状況はあまり良くない。弾も減り、仲間は一機ずつ戦闘不能に追い込まれていく。何か、策はないのか。私個人の武勇でなんとか守り切って戦える領域ではなくなってきた。
そんな追い詰められつつある状況に、更に追い打ちをかける通信が舞い込む。
「……っ!?こちら牡丹、方位029より新手の敵影!これは……『青種』です!」
「なんだと!?こちら菖蒲、私以外は戦闘不能になる。総員退却!殿は私が務める!」
よりにもよって『青種』が現れた。青種は周りから空気を奪い、空気に頼らない航行が出来る青天空、青灰天空でないと空を飛ぶことすらおぼつかなくなり、電波も不安定になる。そして周囲の地形から何から全て破壊し尽くす、最悪のキカイだ。
「ですが隊長!」
「ここは私に任せろ!足手まといは居ると邪魔だ!撤退しろ!」
「こちら天竺、了解した。私が一番基地まで近い。増援要請も届くはずだ」
仲間は心配してくれるが、私は追い返した。ラストフライトでこれとは、つくづく運がないと思う。だが、最後まで意地を通させて欲しい。
普段の灰仕様から、青仕様に機体を変化させていく。轟々と唸りを立てていたエンジンは無音になり、代わりに白色の尾を生やしていく。羽は翼へと形を変え、バサリバサリと羽ばたきながら辺りに羽根を散らす。口から零れる血を舐め取り、私は最後の旅に出る。
キカイが狂った金属音の鳴き声を撒き散らす。辺りの空気が奪われ、空は真っ青に染まり上がっていく。コイツらが青種と呼ばれるのは、この絶望的に青い、ただひたすら青いこの空によるものだ。
「さて……ここでお前を必ず倒す!絶対に、仲間に、街に、手を出させはしない!」
電子の鳥は空を舞う。青種の周りを飛び回って撹乱しつつ、まずは周囲の灰種を確実に仕留めていく。舞い散る羽根をミサイルに変え、何十条もの輝く線へと変えていく。辺りで大量のキカイが音もなく落ちていき、辺りに腐食油を垂れ流す。
青種が大量の触手を伸ばし、こちらを掴まんとして襲いかかってきた。それを鳥独特の立体機動でいなしつつ、その翼で逆に切り取っていく。
一時間が経過した。
死闘は終わらず、増援も来ない。今頃は後方の海上を全速力で飛んでいるのだろう。だが、もう私の体は死に瀕していた。自らの口から出る血で汚れたヘルメット。血色の悪い両手。もはや感覚すら残っていない両足は、ただ機体に繋がった棒のようだった。もう、長くは持つまい。ならば、最後にやってやる。私が気づいた勝利への片道切符。
全速力で青種に突撃する。突然の動きで狼狽えた隙をつき、機体をその口に突っ込む。怒り狂った青種が、そこから光線を放とうとしてくる。当たれば即死。しかし冷静に、分の悪い賭けに臨む。
光が集まる。徐々に光量が増していく。それがピークに達さんとする時に、クチバシから最後の実弾ミサイルを吐き出した。爆発。
青光が周りに散らばり、キカイの触手は力なく垂れ下がった。ここからが本番だ。青光を羽根で巻き取り、無理矢理集中させて起爆する。
__来た。青色の奔流の中から、黒い体躯に真っ赤な一つ目。醜悪なソレが、キカイの根源が現れた。賭けに、勝ったのだ。
全身の力を使って、全ての羽毛を武器に変え、自らもその無防備な瞳に特攻した。視界が白と紫に染まり、口から血が溢れ出す。意識が遠のいていく……
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キカイの侵攻は終わった。立役者は、菖蒲。彩明に乗った歴代最強の戦闘機乗り。たった一人で青種と渡り合った彼女は、機体の総称であり、最高位の称号でもある「電子鳥」の号を与えられた。
彼女は「青種」の裏にいた本体の存在を暴き、果てなき戦いに対する終着点を見出した。彼女の活躍が無ければ、この戦いは終わることは無かっただろう。
彼女に最大級の賛辞を。