Twitterでの企画用です。

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とある狗竜の物語

 青く澄んだ空の下。照りつける日差しに目を細め、私は走っていた。

 

 少し前から響いてきた、赤と緑の飛竜と人間の戦いの音は、今はもう聞こえない。人間達の動きに無駄はなかった。おそらく、相当な手練だろう。あの人間に、私から見ても弱い個体である飛竜共が適うはずもない。

 

 それなりに急な坂を登りきり、凹んだ地形を覗く。予想どうり、二頭の飛竜の死体を発見した。人間の姿は見当たらない。嬉々として死体に近寄り、武器で切られたであろう肉の断面を見て、ハッとした。

 

 肉が赤紫色に染まっている。よくよく見ると、鱗も紫がかった色合いだ。

 

 こいつらは、『禍』に蝕まれている。

 遠くない昔、突如発生した『禍』によって、少なくない数の生物が狂暴化した時があった。その時に『禍』に蝕まれた獲物を喰らったことがあるのだが、食えた味ではなかった。

 

 竜の死体を目当てとしていた私は落胆した。

 

 卵でも食べるか。

 

 今や大きくなったこの体では、卵で腹を満たすことはできないが、仕方がない。

 

 竜の死体に背を向け、巣の中心にある卵に顔を近づける。ここにも戦闘の影響があったのか、原型を保っている卵はたったひとつだけだった。

 

 

――パキッ

 

 

 慌てて顔を上げ、辺りを見渡す。が、先程と特に変わったところはない。再び卵に目を向けると、なんと、唯一の卵にヒビが入っている。

 

 呆気にとられる私の前で、卵はパキパキと音を立て、遂に小さな竜が誕生した。

 

「キー……キィ」

 

 鳴きながら、私の姿を見つけると、よたよたと私の方へ近寄って来る。まさか、私を親だと思っているのか。

 

 ――その姿が、群れにいた我が子と重なった。

 

 いつの間にか、喰おうという考えは頭から抜け落ちていた。私は走る。小竜の食料を求めて。

 ――確か、この先に丸い鳥がいたはずだ。

 

 

 

「クルルル……」

 

 仕留めた丸鳥を引き摺って戻ると、小竜はこれまたよたよたと近寄って来た。私は丸鳥の肉をちぎり取り、咀嚼して柔らかくしてから戻す。その肉に顔を突っ込み、小竜は一生懸命食事をする。そのままの肉は食べられないと思っての行動だったが、どうやら正解だったようだ。

 その光景を眺めながら、私も丸鳥にかぶりつく。口に広がる脂の甘味を堪能しながら、私と小竜の食事は進んだ。

 

 

 

 あれから、どれだけの時が流れただろうか。赤茶けた体色は紅蓮を思わせる真紅に染まり、私の顔程度の大きさだった体も、私を超える程に成長した。

 今や単独で狩りができるようになり、度々私に獲物を分けてくれる。

 

 私が教えたことはそう多くはなかった。せいぜい、獲物の捕らえ方と厄介な相手、人間への対処の仕方だ。

 

 なるべく単独の弱った獲物を狙え。深追いしてはならない。

 仕留めたら、安全なところまで運べ。

 

 黄色い四つ足の飛竜には関わるな。無駄な傷を負うだけだ。

 緑色の二足歩行の竜からは逃げろ。とにかく逃げろ。私達が敵う相手ではない。

 角が生えた黒色の猿には近づくな。返り討ちに会うだけだ。

 

 人間は、こちらから手を出さない限りは脅威にはならない。人間の姿を見かけても、無視をしたり私が逃げることで、戦闘になることを少なくできる。

 もし、戦闘になったら逃げろ。小さな生物だと高を括ってはならない。

 

 私が大前提としているのは、命を守ることだ。リスクは避けろ。死に物狂いに生を掴め。プライドなんて意味は無い。

 言葉は通じないが、理解はしたようだ。私の教えをしっかりと守り、日々を過ごしている。……頃合いだな。

 

 

 

 

 夜。私は、寝ている赤い飛竜の横を通り過ぎ、黄金の草原を走る。もう単独でも生きてゆける。ならば、私はここで去るべきだ。それが、互いのためだ。

 

赤い飛竜(我が子)は、きっと私を探すだろう。何日も何日も空を飛び続けて。慟哭の叫びを轟かせて。

 

 踏み留まろうとする己を諌め、私は走る。全てを振り切るように。全てを置き去りにするように。

 

 ポッカリと胸に穴が空いたような気持ち。そうか。これが『悲しい』という感情なのか。なんて苦しく、なんて切なく、なんて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりの下、狗は走る。両の足で大地を蹴り、己の体を風として。

 

 月明かりの下、狼は走る。群れを離れ、我が子と離れ、渦巻く感情に耐えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『孤狼ドスジャギィ』

 

 とある地方にて目撃された、狗竜ドスジャギィの特殊な個体。通常の個体よりもひと回り大きく、ドスジャギィの最大の特徴であるエリマキは、右上部が消失している。

 通常、群れの長のドスジャギィは、リーダーの座を奪われるか、その命を終えるまで変わることはないが、この個体はそのどちらでもなく、自ら群れを離れた。その後は、どの群れに属することなく単独で生活している。

 孤狼の最大の特徴は、通常のドスジャギィとは比べ物にならないほど知能が高いことである。高所から岩を落として獲物を仕留める。崖を脆くしておき、そこに獲物を追い立てて落下させる。罠肉に含まれる毒の微かな匂いを嗅ぎとる。ハンターが大型モンスターを狩るのを見届け、そのお零れに預かる等と、ドスジャギィどころか鳥竜種で見てもかなり高い知能を有する。また、ハンターを見ても襲いかかることなく、逆に逃亡することが多い。

 その他の特徴として、命を守ることを最優先していると思われる行動をすることがある。通常、ドスジャギィはプライドが高く、敵に背中を向けて逃げることは滅多にしない。しかし、この個体は、僅かにでも自らが不利になると、全速力で逃げる姿が度々目撃されている。また、通常はエリマキを傷つけた相手には、しつこいほどの襲撃をかけることがあるが、この個体は逆に近付きすらしていない。

 孤狼による被害は殆ど無く、『狙っていたアプトノスを横取りされた』『突然現れたドスジャギィに驚いてガーグァの卵を落としてしまった』等の緊急性が高いどころか、狩猟依頼を出すに値しないものばかりである。

 目撃された場所は、渓流、砂原、遺跡平原など、通常のドスジャギィが現れる場所と同じである。

 

 

 ごく最近、遺跡平原で火竜の子供を育てている姿が目撃された。その火竜の親は、狂竜症を発症していて、ギルドに狩猟依頼が出された個体である。

 目的や理由は不明だが、狗竜が別種の幼体を育てるという報告はかつて聞いたことがない。引き続き、調査を求む。

 

 育てられた火竜は、雄の個体(リオレウス)のようだ。孤狼は、火竜に何事かを教えるような動きをするようになった。

 火竜は、教えられてはないが、空を飛べるようになった。通常の個体よりは習得が遅いが、別種に育てられても問題なく羽ばたけるようになったことから、火竜の飛行能力は完全な教育性では無いようだ。

 

 孤狼が、火竜の元を離れた。おそらく親離れと同じことだろう。通常は親が子を追い出すものだが、体格的にそれが難しいと判断した故の行動だろう。彼がどこに向かうか、火竜がどのような成長をするか。この二頭は重要な調査対象になりえる。引き続き、調査を求む。

 

 

 

 




緑の飛竜→リオレイア
赤い飛竜→リオレウス
黄色い四つ足の飛竜→ティガレックス
緑色の二足歩行の竜→イビルジョー
角が生えた黒色の猿→ラージャン


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