Fate/elona_accident 作:セイント14.5
やっぱりタイトルが思いつきません。
さて、あなたが軽く眠っている間にレイシフトとやらは終了したらしい。
先程まで殺気立っていたマッドサイエンティスト達も手をほぐしたりして、多少落ち着きを取り戻したように見える。とはいえ未だ忙しそうではあるが…
「目が覚めたかい?」
ダヴィンチちゃんがこちらを覗き込んできた。あなたは首肯し、軽く身体をのばした。
「うんうん、元気そうだね。これから君はレイシフト中のマスターに呼ばれるまで待機だよ。体調を万全に保つのもサーヴァントの仕事さ…まっ、例外を除いてサーヴァントは体調なんか崩さないんだがね。ほら、お茶は飲めるかい?それと念のために、トイレならあちらだよ」
トイレ!なんと甘美な響きだろうか。ト、イ、レ。あなたは復唱した。トイレだ!トイレがあるのだ!噴水、井戸に次ぐ『願い』のリソース。ちなみにあなたは願いの杖も魔法も持ち合わせてはいないので、願いについては未だにこれらに頼っている。
あなたはテーブルに置かれていたお茶を一気に飲み干すと、一目散にトイレへと駆け出した。
「あっ、おーい!…よっぽど危なかったのかな?」
また、妙な勘違いを生みながら。
………………………
あなたはトイレの前に立ち尽くしていた。トイレの水は
そう。
あなたは絶望した。とはいえ最初は喜んだ。トイレがこんなにたくさんある!これなら願いも一度くらいは…
…しかし、トイレをいくら飲み干しても「この水は清涼だ」と、そう感じるだけであった。『願い』どころか金貨を見つけることもなければ、筋肉が増えたり減ったりすることもなかった。寄生生物を誤って飲み込むことも、敵対的な何かが這い出てくることもなかった。良いことも、悪いことも…何も、起きなかったのだ。
『願い』…この世のどこかにいるという願いの神が気紛れに地上に耳を傾けた瞬間に遭遇できれば、その者のあらゆる望みが叶うという。
多分に漏れずあなたも様々な願いを叶えてもらってきた。貴重品、金、装備…時には、有り余る信仰心から神を地上に降ろしてもらったことさえある。
確かに、今どうしても叶えたい願い事があったわけではない。水場があるので飲んだに過ぎない。条件反射に近い行動であったことは確かだが、何一つイベントが起こらないことに対するあなたの落胆は相当なものであった。
あなたは思わずその場に膝をつき、手で顔を覆った。
おお、神よ!何故私にこのような試練を課すのか!何故ここに来てから何もお言葉を下さらないのか!何故あなたから賜った大槌が毎度のように真っ先に呪われるのか!!
あなたの不満の矛先はいつしか神へと移り、両腕を天に向け、白目をむいたままあなたは静止した。このままでいれば、神も面白がって何か言うんじゃないかという打算もないではなかった。
その時、足元が光った。
………………………
「宝具展開、いつでも行けます」
地面でゆっくりと回る光輪に対して、マシュが立香を守るように臨戦態勢をとる。
「そんなに警戒しなくても…」
「いえ。所感ですが、あの方は信用なりません。先輩を守るための措置です。ご了承ください」
「う〜ん…直接何かされたわけでも…いや、されたけどあれは勘違いだったし…それに…」
「…それに?」
「…押し倒された時、その…ちょっとドキっとしたっていうか…」
「先輩それはただの体調不良による動悸ですいやむしろ病気です間違いないです早く治療しましょう医療班ー!医療班ーー!!早く!!人理修復は後です人類最後のマスターが治療を求めてるんですよハリーハリーハリー!!!」
「ちょ、ちょっとマシュ…うわっ!」
立香が目を回してあたふたするマシュをなんとか宥めようとした時、光輪の回転が勢いを増し、バチバチと放電のように光条を放ち始めた。呼び出したサーヴァントが到着した証左である。
「っ!先輩、離れて下さい!」
「う、うん」
回転は次第に鈍化し、放たれる光も弱くなっていく。その中心から現れたのは、白目をむいて膝をつき天に手を伸ばしたまま静止したあなたであった。
「…え…うわ…何ですかこの…この人?」
「…どうしたんだろう…」
精一杯に怪訝な表情を含んだ二人の声に強いドン引きを感じ、周囲の状況の変化も感じ取ったあなたは、流石に神への祈りを中断することにした。
「あ、動いた」
「立ち上がりましたね。辺りを見渡してます」
あなたはここがトイレではなく、どことも知れぬ野原であることに疑問を感じた。ムーンゲートを通った覚えはない。装備も呪われていないし、そもそも呪い程度のテレポートでは景色が変わるほど遠くへは飛ばない。あなたはこの疑問を苦い表情の二人にぶつけることにした。
「ムーンゲート?…っていうのは分からないけど、ここへは私が呼んだの。サーヴァントとして契約した英霊なら、こうして私がいる場所に呼び出すことができるんだよ」
「あなたが望む如何に関わらず、あなたは先輩のサーヴァントということになっています。サーヴァントは分かりますか?」
聞き慣れない言葉だが、話を聞く限りサーヴァントというのは紐で縛ったペットのようなものだろうか。
「ペッ…紐!?わ、私にはそんな性癖ないよ!?」
「変態ですか!?いえ変態でした!!」
待ってほしい。変態というのは異常者、異端者のことだ。それは聞こえが悪い。
そもそもノースティリスにおいてペットは大切な戦力なのだ。自分を補う存在として、馬として、何かのリソースとして。自分やそれ以上に大切な存在として、装備や食事にだって最大限に気を使ってきた。それはあなたにとって、冒険者にとって至極当然のことなのだ。
あなたは自分のみならずペットをも非難されたように感じ、少しの憤慨を覚えた。
「…ねえ、これって…」
「…ええ。彼は、私達の認識とは少し…違うところがあるのかもしれませんね」
何やらひそひそと話をしている。あなたは腕を組み、反応を待つことにした。
「…えっと、ペット…っていうのは、例えば犬とか猫とか、そういう愛玩動物のこと…でいい?」
犬猫をペットにすることはあるが、少女やゴーレムもペットにする例は多い。神から賜った下僕もペットとして優秀だ。また、特殊な例だが妹を取り憑かれるようにして連れ歩く冒険者もいることも付け加えて説明した。
「…う〜ん…ペットは何をするの?」
先程も言った通り戦力として扱うのが主だろうが、場合によってはトレーニング相手や牧場、店の管理を任せることもあるし、それ以外にもペットの用途は枚挙に暇がない。
「…愛でたりとか、癒しとして〜みたいなのはいないの?」
それもペットの用途に含まれる。あなたはエイリアンを愛でながら寄生されて興奮する知り合いを思い出した。腹が裂かれる瞬間が最も気持ちいいらしいが、あなたには理解できなかった。
「…なんでしょう、この合ってるけど合ってないといいますか、絶望的な崖が二者間にある感じといいますか」
「そうだね。とりあえず、私達の思うペットとはちょっと意味合いが違うみたいだ」
「じゃあ、やることは一つだね」
立香とマシュが、あなたを前にして並び、頭を下げた。
「ごめん!勘違いしてた!」
「変態呼ばわりしてすみませんでした」
突然の謝罪に困惑する。確かに変態呼ばわりされたが、憤慨したのはほんの一瞬だ。盗まれたり殺されたわけでも、呪われた酒瓶を投げつけられたわけでもないのだ。
とりあえず、あなたは早く頭を上げてもらうことにした。
「うん…ありがとう。多分、あなたと私達では色々と常識が違うみたいだね。これからは気をつけるよ」
「でも行動については監視させてもらいます」
「マシュ?」
「う…すみません」
「ごめんね。マシュは人一倍警戒心が強いから。監視なんかつけないから大丈夫」
あなたは首肯した。さて、落ち着いたところで再度辺りを見渡す。
何もない。辺りをふらつくコボルトも、大量に群れてブレスを吐いてくるハウンド達もいない。ただあるのは見渡す限りの地平線と、頭上にうんざりするほど広がる雲ひとつない青空。そして立香とマシュ。知り合ったばかりだが、数いる冒険者のようにこれから何度か交流していこう。二人とも珍しい装備を持っているが、盗むのはバレない時だけにしておこう。
とにかく、未知の景色だ。ノースティリスにも平原はあったが、遠くには山があり、ネフィアがあり、こちらを伺う盗賊団がいた。地平線というのは珍しい光景だった。
あなたは空気をいっぱいに吸い込み、ため息をついた。新しい冒険の始まりを予感して、目を輝かせた。
もはやトイレのことなどすっかり忘れていた。
…一方カルデアでは、トイレの水がすっかり枯れてしまう珍事が起こり、職員を大いに悩ませていた。
GWやら年号やら、最近は色々とイベントが多いですね。道端や駅のホームには顔を真っ赤か真っ青にした若者やおじさま達が座りこんでいたり。
お酒って怖い。しかも最後まで素面でいる下戸が一番割を食うんですよね。嗚呼。