【完結】ありふれたハジケリストは世界最狂   作:味音ショユ

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奥義15 遂に現れたあの男

 七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱えるハルティナ樹海への到着をを目前に控える中、馬車を走らせながらハジメとユエは取り留めのない話をしていた。

 

「ハジメ、さっきの帝国兵……」

「何、殺さなかったことが不満?」

「別にどうでもいい。――危なくないなら本当に殺さないんだ、って思っただけ」

「あの程度の相手をヤバイと思ってたら、僕の故郷じゃ生きていけないよ」

 

 ユエは大きな感心と小さな心配を向けているが、ハジメからすれば小学生の頃襲われて戦ったことのあるケガリーメンの方が強かった、と思っている。

 あの時のケガリーメンが持っていたラーメンが豚骨ラーメンだったら、抵抗を諦めてパゲメンされるレベルだった。醤油ラーメンだったから命を捨てる覚悟で戦えた、とハジメは昔を思い出していた。

 

「でもちょっと心配。今は危なくなったら殺すって言うけど、主人公のキャラが初期と中盤以降で変わるとかよくあること。その内ブレードチルドレンの一人みたいに、殺すくらいなら殺される方がマシとか言ったりしない?」

「いや言わないけど……。めっちゃ懐かしいねスパイ○ル……」

「今なら原作通りにもう一回アニメ化出来そう」

「三クールは欲しいね」

 

 という、割と真面目な話の筈だったのに気付けば漫画談義になりながら話していると、いつの間にか樹海の手前に到着した。

 

「てかオレの出番少ねえ!!」

「がはっ!!」

 

 そして首領パッチはカムを殴り飛ばしていた。

 

「痛たた……。それでは、ハジメ殿、ユエ殿、首領パッチ殿、天の助殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。貴方方を中心に進みますが、逸れると厄介ですからな。それと、行先は森の深部、大樹の下でよろしいのですな?」

「うん、そこでお願い」

「ん、大樹ってなんだ? てか何でそこに行くことになってんだ?」

 

 カムとハジメの会話を聞いていた天の助が思わず口を出す。それを聞いて二人だけで話を進め過ぎた、と思ったハジメはちゃんと説明することにした。

 

「あー、そういえば天の助達には言ってなかったっけ。まず大樹っていうのは、カムさんから聞いたんだけど、ハルツィナ樹海の一番奥にある巨大な一本樹木で、亜人族には神聖な場所として扱われているんだって」

「ほうほう」

「それ聞いて、最初はハルツィナ樹海が大迷宮かなって思ってたけど、そんな所に人住めるわけないし、じゃあとりあえず怪しそうな所行くかって思って」

「お前さあ……」

 

 説明を聞いた天の助は、ハジメの肩を両手でつかんで一言。

 

「そう言うことは、先に言えよ」

「ごめーんね♪」

「許す」

「いいんですかあんな雑な謝罪で!?」

 

 ハジメと天の助が和解した所で、カムが再び話しかけてくる。

 

「ではハジメ殿達は出来る限り気配を消してもらえますかな。我らは御尋ね者なので、他の集落の者に見つかると厄介です」

「うふふ、オッケー」

「それ何キャラですか」

 

 ハジメがそう言った後、ユエは奈落で培った方法で気配を薄くする。そしてハジメは段ボールを被り、天の助は木のコスプレを着て、首領パッチは変形してイガグリの姿になった。

 

「「「完璧な気配消しだ……」」」

「どこがですか!?」

「では行きましょうか」

「父様!?」

 

 こうしてハジメ達は出発した。しばらく道なき道を突き進む。途中、魔物に襲われる事もあったが、概ね問題なく樹海を進んで行く。

 しかし数時間後、無数の気配に囲まれハジメ達は歩みを止めた。カム達はウサミミを動かして索敵をし、囲んでいる相手の正体に気付いたのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 ユエも正体に気が付き、面倒そうな表情を見せる。

 そしてハジメ達は、未だ気付かれていないと思い棒立ちしている。

 

「いや気付かれてますから! その意味の無い気配消し解いてくださいよ!!」

「「「えー……」」」

 

 文句を垂れながら気配消しを解くバカ三人。そして普段の格好に戻った時、囲んでいる相手の正体を目撃した。

 その相手の正体は――

 

「お前達、なぜ人間といる! 種族と属名と名前を名乗れ!!」

 

 虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 虎の亜人はシアを目で捉えると、怒りを隠すことなく見せつけハウリアを怯ませた。

 

「白い髪の亜人……? 貴様等、報告のあったハウリア族か……。亜人族の面汚し共め! 長年同胞を騙し続け忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明を聞く必要もない! 全員この場で処刑す――」

「そうカリカリすんなよ~」

「せっかくの新歓コンパだ。飲め飲め!」

 

 怒り狂い、問答無用で攻撃命令を出そうとする虎の亜人に、新歓コンパに馴染めていない新人に接する先輩みたいになる首領パッチと天の助。首領パッチは肩を組んでいるだけだが、天の助は日本酒の瓶をそのまま虎の亜人の口に突っ込んでいる。

 

「はい。のーんでのーんで飲んで」

 

 そしてユエは悪乗りして一気コールをしていた。完全にアルハラだ。

 だがしかし、アルハラという悪を許さない男がこの場に居る。

 

「アルハラ駄目絶対!!」

「「「「ぎゃあああああああああああああ!!」」」」

 

 アルハラしていたバカ三人を、虎の亜人諸共マシンガンで銃撃するハジメ。そして虎の亜人を助け起こしてから話しかけた。

 

「落ち着いて下さい。僕らは別に争うつもりは――」

「黙れ黙れ! 貴様等人間族の言うことなど信用できるか!!」

「この場に人間族って僕しか居ませんけど」

「じゃああの金髪の小娘は何だ!?」

I am vampire(私は吸血鬼です)!」

「なぜ英語!?」

「信じられるかそんなこと! ええい、もう問答は終わりだ!! 貴様等全員皆殺しに――」

 

 ユエの言葉を信じず一蹴し、襲い掛かろうとする虎の亜人。しかし、その言葉は最後まで語られることは無かった。

 なぜなら、さっきまで目の前にいた筈のハジメがいつの間にか虎の亜人の遥か後方に立ち、更に彼の肩には『ところてん促進!』と書かれた襷が駆けられていた。

 

「いや何ですかその襷!?」

「ば、馬鹿な……! 見えなかっただと……!!」

 

 そしてハジメの一連の行動に虎の亜人は戦慄する。自分の動体視力を超える速度で動き、しかも攻撃せず明らかにからかっているとしか思えない襷を掛けるという行動。これが意味するところは即ち、自分はまだまだ本気を出していない、その気になればお前らなど一瞬で始末できるという意思表示に他ならない。

 

「何か勝手に深読みしてません!?」

「まあ、これで分かったんじゃないですか。僕とあなたの、実力差って奴が、ね」

「ウザい」

 

 ツッコミを入れまくるシアをよそに、ドヤ顔で脅しにかかるハジメ。しかしその顔がウザかったのか、ユエに容赦なく発砲された。

 

「……馬鹿野郎――! ユエ田ァ! 誰を撃ってる! ふざけるなあああああ!!」

「オルガじゃ、ない……!?」

「馬鹿な……、パターンを変えてきやがった!?」

 

 今まで撃たれていたらとりあえずオルガだった今までと違うハジメに、少なからず戦慄を覚えるユエと天の助。そして首領パッチは

 

「やめてくれええええええええ!!」

 

 ドパンドパンドパン

 

 オチの為、実写ドラマ版松田になって追撃していた。

 

「魅カム……! 何してるぅ……? そいつらを、殺せぇぇ……!!」

「何なんだ……。何なんだこいつらは!?」

 

 ハジケリストというものを生まれて初めて目撃し、その余りに理解を越えた振る舞いに、遂に恐怖すら覚え始めた虎の亜人。

その心の隙をついて、ユエが淡々と語りかける。

 

「落ち着いて。私達はただ樹海の最奥にある大樹の下へ行きたいだけ」

「……本当か?」

「信じるも信じないもあなたの勝手。だけど私達に嘘をつく理由は無い」

 

 ユエの言葉に考える虎の亜人。

 ――確かにこの小娘の言う通り、私ではもはやこいつらに勝つビジョンは思い浮かばない。仮にこの場に居る仲間とともに掛かっても、どうなるか予想がつかない。ならば、通すべきではないか? 恐るべき相手と無理に相対するより、話し合いで解決すべきではないか、と。

 

「分かった、信じよう。だがこれだけは聞かせてくれ。お前達は、何の為に大樹の下へ向かうのだ?」

「そこに本当の大迷宮の入口があると思うから。最初はこの樹海そのものが大迷宮とか思ったけど、魔物が弱すぎるし、亜人さえ協力してくれたら突破できる場所を試練とは呼ばない」

「……」

 

 虎の亜人は正直何を言われているか分からなかった。だが少なくとも嘘をついている様子も見えず、また自分に選択肢など無い。

 

「いつの間にか随分選択肢が減りましたね……」

「ハジメがちょっと脅かしただけなのにな」

 

 シアと天の助が虎の亜人に好き勝手言うのを尻目に、彼は国の上層部へ使いを出す。そしてユエ達に待ってもらうように言い、ユエも大人しく従った。ちなみにハジメは死んでいる。

 

「イギリスのフィッシュ&チップス! 何で美味しく作れない? なんでなんでなんで?」

「油……」

 

 首領パッチと天の助は普段通りハジケていた。

 そして数時間後、霧の奥から新たな亜人が数人現れた。それと同時にハジメも生き返った。

 彼らの中心に尖った長耳を持つ初老の森人族がおり、彼が長老なんだろうな、とユエは思った。

 

「ふむ、お前さん達がここに来た人間族……かね? 名は何という?」

「ハジリー……です」

「ユエガスでございます」

「キャプテン・パチリカ」

「オレは豆腐殺隊天柱、竈門天の助だ!」

「誰も本名名乗ってないですぅ!!」

「ふむ、南雲ハジメにユエ。それに首領パッチとところ天の助か」

「理解してる!?」

 

 長老っぽい人の理解力に驚愕するシア。しかし長老はそれを歯牙にかけることもなく、淡々と話を進める。

 

「私はアルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さん達は解放者という言葉を知っているか?」

「ええ。オルクス大迷宮の最下層で、解放者のオスカー・オルクスが残した映像を見たので知っていますが……」

「ふむ」

 

 質問の意図が分からず、訝しがりながらも素直に答えるハジメ。その一方でアルフレリックは驚愕していた。なぜならば、解放者もオスカーの名前も、長老達とごく僅かな側近しか知らないことだからだ。

 だからと言って、アルフレリックはハジメの言葉を無条件で鵜呑みには出来ない。亜人族の上層部に情報を漏らした者がいる可能性もあるのだから。

 

「それを証明できるか?」

「証明と言われましても……」

「これがある」

 

 アルフレリックの問いに首を捻るハジメだが、ユエが即座に懐からオルクスの指輪を見せる。それに刻まれた紋章を見て、アルフレリックは目を見開いた。

 

「成程。確かにお前さん達は嘘をついていないらしい。よかろう、とりあえずフェアベルゲンに来るがいい。私の名でハウリア達も一緒に滞在を許そう」

 

 アルフレリックの言葉に、ハウリアと周囲の亜人族が驚愕の表情を浮かべる。そして虎の亜人を筆頭に猛烈な抗議の声が上がりそうになった。だがその前に新たな気配が一つ現れる。

 

「案ずるな。その者達の内二人は私の戦友だ」

 

 その気配の主は、見た目はオ○Qみたいでありながら人間の手足を持った不審な男だった。だが、首領パッチと天の助は間違いなくこの男を知っている。

 そう、彼の名は

 

「「サービスマン!!」」

「久しぶりだな、二人とも」

 

 サービスマンだった。彼はは首領パッチ達と久々の再会を喜び合うと、なぜ自分がここに居るのかを話しはじめた。

 彼曰く、ある日前触れもなくこのハルツィナ樹海に転移したらしい。

 あてもなく彷徨っていると、魔物に襲われた亜人族を見つけ助けた。

 すると恩返しとばかりに、その亜人族にフェアベルゲンに招待された。ちなみに亜人からは、外見のせいで人間族とは思われていない。

 そして色々あって、異界のハジケリストを知っている長老達と関わりを持ち、今に至る。

 

「―――という訳だ」

「何か色々すっ飛ばしてません?」

「詳細に説明されても尺の無駄」

 

 サービスマンの説明を聞き、大変だったんだな、と思うバカ二人。それと同時に、サービスマンが現れたことで、アルフレリックの発言に批判的だった亜人族が徐々に落ち着き始めていた。

 そんな中、ハジメは一人目を輝かせていた。

 

「あれが、時に数百万ドルの金を動かすと言われているサービスマンか。一体どんなサービスをしてくれるんだ?」

「ほう、少年は私のサービスがお望みか」

「はい!」

「戦友二人の仲間とあれば、惜しむ理由は無い。サービス!!」

 

 ハジメの頼みを快く引き受け、サービスマンはサービスをする。

 そのサービスとは、サービスマンの布を惜しげもなくたくし上げ股間を、もっというならチ○コを見せつけるものである。これが漫画なら股間に黒丸が、アニメなら逆光で見えないのだが、ハジメ達の視界にはそんな物は無い。

 

「いやあああああああああああ変態ですううううううううううう!!」

 

 よってサービスを直に目撃したシアは叫び、ハジメは

 

「オラァ!!」

「ごふっ!!」

 

 サービスマンを殴り飛ばし、気絶させた。

 

「ではフェアベルゲンに出発しましょうか」

「え、なぜです?」

 

 一連の流れを黙って見ていたアルフレリックの言葉に、思わず問いかけるハジメ。その問いに対する回答は明確だった。

 

「あなたが気絶させたサービスマン殿は、あなたに運んでいただきたい」

「あ、はい。すみません」

「何でこんなに信頼勝ち取っているんですか、あの露出狂……」

 

 シアの力無い疑問の声をBGMに、ハジメ達はフェアベルゲンに出発した。


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