前回までのあらすじ
南雲ハジメはスポーツに青春を費やす高校二年生。
今日はそんな彼の晴れ舞台。世界大会の日がやって来た。
彼は今日優勝を目指し挑む、その競技の名前は――
ハジメ「絶対優勝して見せる……!」つアイロンとアイロン台とワイシャツ
エクストリーム・アイロニング。
彼は愛用の首領パッチアイロンと、天の助アイロン台を携え、エベレストを登頂しアイロニストの頂点を目指す!
ユエ「撮影は任せろーバリバリ」つカメラ
ハジメ「やめて!?」
大体こんな感じだった。
シア「何でいきなりスポ根――いやどういうスポーツですかこれぇ!?」
ティオ「ちなみに実在するスポーツじゃからな」
シア「マジですか!?」
ティオ「マジじゃ」
フードの女(仮称)は必死だった。
確かにそれほど仲が良かったわけではないが、何度かは話した関係である。
こう聞くと彼女が自分の容姿を鼻にかける嫌な女に見えなくもないが、実の所初めての体験にテンパっているだけである。
なぜなら彼女は一度会った人に忘れられた経験などないのだから。
そんなフードの女はハジメに問う。
「南雲さん、私のことを思い出せませんか?」
| →はい いいえ |
フードの女(元)の問いに、ハジメ達は静かに首を横に振る。
それでも彼女はめげない。
「よく見てください。本当に私のことを覚えていませんか?」
| →はい いいえ |
再び問うもやはりハジメ達の返答は変わらない。
しかし彼女は諦めない。
「何度か話したことがあるはずです。それでも変わりませんか?」
| →はい いいえ |
三度目の問いも不発。それでもフードの女は――
「いつまでやってるんですか!?」
めげずに問いかけようとしたところで、シアのインターセプトが入った。
「名乗ればいいでしょフードの人が! 何で粘ってるんですか!!」
「いいえを選ばないと進まない選択肢って面倒くさい」
シアがフードの女の妙な粘り強さに、ユエがインターフェースの悪さにそれぞれツッコミを入れる。
そのツッコミ*1に納得したフードの女は大人しく名乗ることにした。
「私はハイリヒ王国王女、リリアーナ・S・B・ハイリヒです。これならどうですか?」
フードの女、改めリリアーナの名前を聞いたハジメは頭をひねり、必死に記憶の棚を漁り続ける。
そして五分後。
「ああ、いたいた。なんかキャラの薄い王女! 地の文で名前出てきたの五章が最初の王女!!」
「ロクな覚え方してないですぅ!!」
「私、キャラ薄いですか……?」
ハジメの言葉を聞いて目に見えて落ち込むリリアーナに、当のハジメは親指をクイッと自分の後ろに指をやる。
リリアーナがハジメの指す方に視線をやるとそこには――
「ポリゴンロリコン成田離婚♪」
「コンコンコン♪狐の悪魔がココンコンココンコン♪」
「「リリカルトカレフキルゼムオール!!」」
「ふざけすぎ!!」
「「ぎゃあああああああああ!!」」
いつも通りにハジケる首領パッチと天の助に対し、ボケ殺しとして容赦なく突撃する魚雷ガールの姿があった。
それを見せたうえでハジメは言う。
「
「ハードルが高すぎる……!」
「あやつら、さてはディビジョンバトルに出場する気じゃな……!」
「絶対違いますよ」
「ディビジョンバトルは三人必要。つまり僕もマイクが必要か」
そう言ってハジメは右手を地面に叩きつけ、召喚術を起動。
そして呼び出されたものは、トンカチを持って頭にねじり鉢巻きをつけた一人のおっさんだった。
「マイクじゃなくて大工が出てきたですぅ――――――!!」
「さあ、僕らも行くぞ」
「間違いを認めようとしてない! 大工でごり押そうとしてるですぅ!!」
「いつまでもふざけてないで話を進めなさ――――い!!」
「すみませんでした魚雷さん――――!!」
あまりのハジケっぷりを見かねた魚雷ガールがハジメをぶっ飛ばし、ハジメと天の助は首だけを出した状態で地面に埋められる。
ちなみに首領パッチは――
「ハジケ組闇の支配者。我こそ最強。見事超えて見せよ」
『はは――っ!!』
リリアーナと一緒にいた隊商達に崇められていた。
(何で!?)
「あれは数日前のことでした……」
「この状況で話を始めるんですか……!?」
「なかなかできることじゃないよ」
ユエの茶々にも負けず、リリアーナはここに来たいきさつを話し始めた。
要約するとこうだ。
なんか最近城内の様子がおかしいから、丁度戻ってきていた愛子に相談しようと思ったら謎の銀髪の女にどこかに連れていかれてマジ激ヤバ。
周りに相談しようにも光輝達に相談すれば大事になって何が起こるか分かんないし、かと言って自分の父親である国王に相談しようにも、「最近エヒト様に対して信心足りなくない?」と威圧されてるから迂闊なことしたらスプラッタされちゃいそうで激ビビリ。じゃあって思って騎士団長のメルドに相談しようにも、任務でどっか行ってるしもうどうしよう!?
そうだ! そういえば南雲さんが外で冒険してるじゃん、じゃんじゃん? 会うの久しぶりですけど多分話聞いてもらえますよね。だって私、王女だもん!
こうして私はたまたま出会った隊商、モットー・ユンケルさんと共にアンガジ公国を目指してやって来たって訳。おわかり?
「ということがあったのです」
「要所要所がウザいですね!?」
「えっ……?」
「こっちの話です。気にしないでください」
リリアーナは実際には真面目に話していたのだが、地の文を認識しているのがシアだけなせいでシアは訳が分からないことで叫んでいるようにしか見えなかった。
「奥義44と同じミスしてる……」
「学習しませんね私も……」
ユエに指摘され、シアが自分に自分でちょっと落ち込んでいる。その後ろでは――
「お久しぶりですユンケルさん」
「オレを買う気になったか?」
「絶対に買わん! 私の商人の誇りに掛けて!!」
いつの間にか地面から出ていたハジメがモットーに挨拶をする。そのついでに天の助が自分を売り込むが、モットーは己の全身全霊を掛けて断った。
「うむ、それでよい。これからも精進せい」
「はは――っ!!」
モットーの誇り高い姿に首領パッチが称賛を送り、モットーはただ平伏するばかり。
(何ですかこの光景?)
「うむ、辛かったじゃろう。妾にバブみを感じてオギャるがよい」
「嫌です」
一方、ティオはリリアーナを慰めようとするも、素気無く断られてしまった。
「ナズェジャァァァァ!!」
「慰め方がおかしいんですよ」
嘆くティオを冷たくあしらう中、シアはふとなぜこの流れで魚雷ガールが突っ込んでこないのか疑問に思う。
シアが魚雷ガールの方を見ると、彼女はハジメ達ではなく違う方向を見ていた。それは奇しくもハイリヒ王国王都のある方角だ。
彼女は左目にセットしているスカウターを見ながら呟く。
「強大なおふざけ力を感じる……七千、いや八千以上だ……!?」
スカウターを握りつぶしながら呟きが叫びに変わる魚雷ガール。そのまま彼女は叫び続ける。
ただし――
「どんなおふざけも許さないわ!」
口からカギ縄を吐き出して、それをハジメの体に巻き付けながら。
「え?」
「魚雷の名に掛けて――――――――――!!」
そのままハジメ諸共空へ飛び出そうとする魚雷ガール。しかしハジメは悪あがきとしてティオの腰に手を回し、道連れにしようと悪足掻く。
「旅は道連れ世は情け!!」
「ぬお!? 離すのじゃご主人様!!」
「なあ……僕と一緒にハードな
「ええい、妾の生殺与奪の権を魚雷に握らせるでない!! というか行くのは話の流れ的に王都じゃろ!? ならせめて愛用のこしあんとたくあんとベジタリああああああ!!」
必死にハジメを振りほどこうとするティオだったが、抵抗むなしく彼女はハジメと共に空へ連行されていった。
「飛んでったですぅ――――――――――っ!!」
「空を超えて ラララ 星のかなた」
「ア〇ム!?」
首領パッチはせめてもの哀悼としてささやかに歌を贈る。
しかし同じ光景を見ていたリリアーナは大慌てだ。
「あてにしていた最大戦力が飛んで行ってしまいました!?」
「甘ったれるな。ここはもうところてんと豆腐の戦場なんだぜ」
オロオロするリリアーナを一喝する天の助。
その言葉に正論は一つも含まれていなかったが、勢いに押されて反省してしまうリリアーナだった。
一方、シアはユエにちょっと質問をする。
「ところで、私達も王都に向かうべきだと思いますけど、どうやって行くつもりですぅ?」
「それならこれ」
シアの質問への返答はユエだけではなく、首領パッチと天の助も加わって三人同時にこういった。
「「「この駅から、電車で」」」
「駅あったんですか!? いつの間に!?」
(電車ってなんでしょうか……?)
ツッコミを入れるシアを宥め、脳内で疑問を浮かべているリリアーナを無視して駅に向かうユエ達。
そこで待っていたのは、首領パッチにどこか似ているも一回り小さく、そして色が黄色の謎の生物がワラワラ数十体いるというとてもリアクションに困る状況だった。
そのうち一体が首領パッチに話しかける。
「おやびんお久しぶりです! ちゃんと電車の用意しておきました!!」
「おう、よくやった」
「誰?」
件の謎生物が首領パッチと親し気に話している姿にユエが疑問を向けると、当人が普通に返答してくれた。
「オレ達はハジケ組のコパッチ。首領パッチおやびんの舎弟だぜ」
「首領パッチって舎弟とかいるんだ」
「それよりおやびん。ハジメの奴はいないんですか? 一緒にいるって聞きましたけど」
ユエの疑問が解消されたところで、今度はコパッチが首領パッチに質問をするが、首領パッチは遠い目でこう言うのみ。
「あいつは、魚雷先生と一緒に空の旅だ」
「儚い人生だったな……」
「死んだみたいに扱わないであげてください」
シアがツッコミを入れつつも、ユエ達は大人しく外壁に首領パッチが書かれた山手線に乗り込んでいく。
そのまま何事もなく出発し、彼女達は目的地である王都・王城の隠し通路出口前駅に到着した。
「いやこんなの建設する許可を与えた覚えありませんけど!?」
「大事の前の小事」
「ケチケチすんなよ」
大事な隠し通路の出口にいつの間にか駅を造られたリリアーナは当然の如く怒るが、ユエと天の助に容赦なく封殺される。
とはいえ今はそんなことを言っている場合ではないので、とりあえずリリアーナはユエ達を連れて王城に潜入した。
最終的な目的は愛子の救出だが、その前に救出した後に預ける先である雫達が無事かどうかを確かめに行くことにする。
「皆さん、ここからは慎重にお願いします」
連れている一向にそう忠告しながら振り向くリリアーナ。しかし――
「これからオレ達の王城に潜入生配信を開始するぜ!!」
「イエ~イ!!」
リリアーナの後ろでは、スマホを使ってyoutubeで配信を始める首領パッチと天の助の姿があった。
「早速慎重とはほど遠いことしてるですぅ――――――――!?」
「お、早速コメントが付いてるぜ」
| コメント欄 |
| ・わこつ ・わこつー ・おやびんわこつです! ・おやびんの配信だぜ!! ・おやぴ――――――――――ん!! ・これが伝説のハジケリストの配信か ・俺とお前の ・大〇郎!! |
「結構視聴者いますね」
「恐らくこれハジケリストしか見てねえけどな」
シアと天の助が配信のコメント欄に対し好き勝手言うが、首領パッチはこのコメ欄に不満気だ。
「お前らぁ! もっとハジケろぉ!!」
| コメント欄 |
| ・ザムディン! サムデイ!! ・シックスカッキインドチャンポン!! ・死ぬほど不味い!! ・お ・や ・ビ・ビ ビ・ビ・ビ ビビッドアーミー ・泣き叫べ劣等! 今夜ここに神は居ない!! ・Briah―― チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー!! |
「うるせええええぇぇぇぇ――――――!!」
首領パッチは怒りのあまり、配信している自分のスマホを膝蹴りでへし折った。
「えぇ――――――――――っ!?」
「いきなり訳分かんねえコメばっかしてんじゃねえぞクソが!!」
「そっちがやらせたんですよね!?」
首領パッチのまさかの言動に驚きが隠せないシア。
こっそりところてん食レポ配信をしようと企んでいたのに、出来なくなって一人泣いている天の助。
そしてこれ以上騒がれるのは流石に拙いのでそろそろ止めようとするリリアーナ。
しかし彼女が注意しようとすると同時に
ドゴォン バリィン
轟音と、その直後に何かが割れた音が響いた。
リリアーナが慌てて近くにあった窓から外を見ると、魔力の粒子が輝き舞い散っていく光景が広がっている。
「そんな……大結界が砕かれた……」
リリアーナの言う大結界とは、王都を守る三枚の巨大な魔法障壁のことである。原理的にはアンガジ公国にあるアーティファクトと同じようなものだが、あれは砂と悪意のある侵入を防ぐだけ。しかし王都はさらに直接的な攻撃も防ぎ、しかも三枚もある。
その結界のうち一枚が破られ、そして二枚目も今破られそうになっている。
「一体何故……? まさか内通者? それとも敵軍?」
リリアーナが必死に頭を回し何が起きているのかを考察するが、そこにユエが追い打ちをかけてくる。
「強いフォースを感じる」
「フォース!?」
「これは……魔人族? それも私達と因縁のある人物……」
「敵軍? 一体どうやってここまで……」
リリアーナが疑問を眉にしかめるが、ユエ達にはその答えに予想がついている。
グリューエン大火山で出会ったフリードが、あそこで得た空間魔法を使って魔人族の軍勢を王都まで転移させたのだろう。
そうと分かれば話は早かった。
「私が魔人族の迎撃に出る」
「ユエさん!?」
「勘違いしないでよねっ。私は因縁のある魔人族と戦いたいだけで、別に人間族なんかどうでもいいんだからっ」
「ツンデレ!?」
ユエは謎のツンデレムーブをしつつもリリアーナがさっきまで覗いていた窓を開け、そこから外へ飛び出していった。
「あ、ユエさん。私も行きます!」
そのユエをシアは慌てて追い、同じく窓から飛び出していく。
ここでリリアーナはあることに気付いた。
(私、ひょっとしてツッコミ役を押し付けられていませんか?)
リリアーナは不安を隠せなかった。