とある町のとある店にある雑貨屋。
そこでは世話焼きの店長が、来店客に合わせた雑貨を売ってくれるという。

1 / 1
かなり昔に書いた小説を手直ししてテスト投稿。
書いた当時にあった出来事を基に作っているので古臭いですがご容赦を。


《 雑貨屋『ボタン』 》

からん。

 

「いらっしゃいませ。

…おや、お客様は当店は初めてのようですね。

ならば初めまして。

私は雑貨屋『ボタン』の店主を勤めさせていただいています。

以後どうぞお見知りおきを ―――」

 

「…そうですか、お客様は初舞台のための衣装をお求めにいらしたのですか。

でも、何を選べばいいか分からない。

失敗が気がかりでならないと―。

…判りました、お手伝い致しましょう。

ここ『ボタン』では、お客様が心地よく暮らすのに良い衣服は勿論、

思い出を詰めるのに最適なオルゴールでも

快適な暮らしを支えるテーブルでも何でも取り揃えております。

…その分、置く場所が足りなくて商品が壁沿いや床など所狭しと積んでおりますので

少々窮屈な状態になっております。どうかご容赦を―――」

 

「さて、お客様の衣装の件ですが…失礼ながらもう少しばかりお待ちを。

本日はご来店のご予約をなさっているお客様がもうじきいらっしゃるので、

そちらの方から対応させていただきますでどうが。

…ありがとうございます。では、お飲み物などはいかがでしょうか?

最近入荷をしたものなのですが、心を落ち着かせてくれるおいしい紅茶がございまして」

 

 からんからん。

 

「おや、ちょうどいらっしゃったようですね。

お客様、申し訳ございませんがしばしお待ちを ―――」

 

「いらっしゃいませ。ようこそ雑貨屋『ボタン』へ。

ご予約をいただきました○○様ですね?お待ちしておりました。

お客様の御用件は、古着の処分と晴れ着の受け渡しでしたね。

『学生』という服から、『社会人』という服に着替えることにお客様のご両親もさぞお喜びのことでしょう。

…老婆心ながら、一つ助言をば。

その服に着替えるということは、今まで意識しなかった『責任』というネクタイをつけることでもあります。

決して、ネクタイの締め忘れなどなさいませんように。

…少々口が過ぎてしまいましたね、申し訳ございませんでした。

さて、お代のほうですが…はい、確かに受け取りました。

では、また御贔屓にどうぞ」

 

 ころん。

 

「いやぁ、巣立ちというのはいいですねぇ。

いつ見ても新鮮さがありますねぇ。

まぁ、最近はそういう若者が減ったことが残念ですが…。

おや、どうなさいましたか?

『衣装を選ぶのがもっと難しくなった』と。

これは申し訳ございませんでした。

ご安心ください、お客様。

どうしても選べないようでしたら、私もお手伝いさせていただきますから。

…さて、どうも遅くなりました。紅茶をどうぞ。

気分が落ち着きますよ ―――」

 

 ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん…。

 

「さて、次のお客様がそろそろいらっしゃるはずですが…」

 

 からんからん。

 

「いらっしゃいませ、××様ですね? お待ちしておりました。

確かお客様の御用件は、不要の衣服の売却とのことですが。

…本当によろしいのでしょうか?

―いえ、私としましては、一向に構いません。

ですが、お客様がこの度お売りになる衣服…

『優秀』…

『普通』…

『親孝行』…

どれもとても高価なものです。昨今出回る量も在庫数も少なく、

再び手に入れるには相当な時間を要するかと思いますが。

―はぁ、ご両親の買い与えた服なので、もう着たくないとおっしゃるのですね。

…分かりました、お客様の都合に私が口を出すなどおこがましかったですね。申し訳ございません。

―はい、ご予約の通り、受け取らせていただきます。

お代については―はい? …はぁ、あちらの短剣とランプでいい、と。

かしこまりました。ではこちらをどうぞ。

では、また御贔屓にどうぞ ―――」

 

 ころころん。

 

「最近は、ああいったお客様も増えました。

ご両親の選んだ服は着たくない、

『自由』という服を着るのだとおっしゃるお客様が。

そうして今まで着ていた服をこちらで処分して、

自分が選んだ新たな服を着るお客様と私は何度も会いました。

私が指図できる話ではありませんが、何か物悲しい気持ちになりますね。

特に、ああやって短剣やランプをお求めになるお客様や、

深紅のまだら服をお求めになるお客様を見ると。

…ああ、失礼。少々愚痴っぽくなってしまいましたね。

ええと、次のご予約までは少し時間がございます。

その間にお客様の衣装の見立てをしましょうか ―――」

 

 からんかんかん。

 

「いらっしゃいませ…おや、○×様 ―――」

「申し訳ございません。予約のお客様がお着きになられたので、

お客様はその間に店内を見て回ってはいかがでしょうか?

気に入った衣装の目星でもつけておくといいでしょう ―――」

 

「お待たせしました。ご予約の時間よりも少々お早めのお着きですね。

―いえ、私は一向に構いません。

―はい、用意はできております。

…えーと、はい、こちらの、手紙セット。

あとは、こちらの、鉛筆でございますね?

どなたかに、お手紙でもお書きになられるのですか?

―はぁ、学校のお友達に、それと家族にですか。

―ああ、はい、申し訳ございません。

もう一つございましたね…はい、頑丈な麻綱です。

…差し出がましいようですが、麻綱の使い方には十二分にご注意ください。

―はい、分かっていると。失礼しました。

はい、お代については、そちらのスーツケースの中のものですね。

ではこちらに…はい、確かに受け取りました。

…ああ、今しばらくお待ちを。

どうぞ、このオルゴールを受け取ってください。

当店からのサービスです。

では、ごきげんよう…」

 

 ころんころん…。

 

「―お気づきになられましたか、お客様。

私が、『また御贔屓にどうぞ』と言わなかったことに。

…あのお方はもう、この店には来ないでしょうから。

以前、あのお方がこちらにお越しになられたとき、

先程お求めになられた品のことでお尋ねしたところ、

『もう、疲れた』

とおっしゃっていました。

そのときは破れた服の修繕と、小さな小物入れをお求めになられたのでした。

…もう、ずっと前の話ですがね。

―何故オルゴールを、と?

…はい、せめてあの方が、楽しかった思い出だけでも耳に出来たらと思い、

お節介を焼かせていただきました 。

このスーツケースの中には、涙に塗れた衣服しかございませんでしたからね ―――」

 

「…さて、今日の予約はあの方で最後ですから、

お客様の衣装についてお見立ていたしましょうか。

何かお決めになられたものは ―――」

 

 がらがらがらん。

 

「おや、これは懐かしい。一昨年の夏以来でしょうか…。

ああ、失礼。あのお方は私の店の古い常連客でして。

…ああ、お客様のお見立てのほうが先ですから、ちゃんとお客様を優先いたしますのでご安心を。

―なに、構わないと?

では、お言葉に甘えてまして―――」

 

「いらっしゃいませ、お客様。

ほぉ、この度奥様が御出産をお迎するのですか。

これはこれは、おめでとうございます。

ふむ、しかし…ちゃんと生まれてくるのかどうかが不安でしかたがないと。

左様でございますか、ご安心ください。

こういうときは、神頼みに限るものです。

シンプルですが、ちょうど一つ『安産祈願』のお守りがあります。

―そう、貴方様のご出身の土地の神社のものです。

…満足いただけたようですね。

では、私から一つ贈り物を…これをどうぞ。

はい、写真立てでございます。

この写真立てには実は魔法がかかっているのでございます。

この写真立てにお祈りをしながら、幸せになってほしい相手の写真を入れると、

その人が幸せになるというおまじないがあるのです。

ですがね、この写真立て、写真がなくても魔法が働くのです。

それは貴方様が、これから写真立てに入れる相手の幸せを願えば、

後で写真を入れたとしても十分に効果があるのです。

これからお生まれになるお子様のことを想いながらこの写真立てにお祈りをすれば、

きっとお子様は無事にお生まれになると思いますよ。

お生まれになった暁には、こちらでベビー用品のご提供も致します。

…そのときは、お代はいただきますがね。

では、貴方様の幸運をお祈りします。

また、御贔屓にどうぞ ―――」

 

 

からんころんかろん。

 

 

「…いかがですか、お客様?

お客様は、望まれてお生まれになるのです。

失敗なんてあり得ましょうか?

ですからお客様が一番いいとお思いになられた衣装であの方に会いに行くことが、

貴方にとって、あの方にとって最も幸せなことではないでしょうか?

―どうやら、もうお決めになられた衣装があるようですね。

…はい、これですね?

どうぞ。この度は当店からのお祝いの品としてお客様に贈らせていただきます。

では、また御贔屓にどうぞ ―――」

 

― 了 ―


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。