惰性にならないように気をつけてます
俺が所属している広告課と一緒の階層にある営業課に所属している若手…いやもはや実力的にはベテランの域に達しているであろう営業成績を毎月叩き出している相当やり手のエリートといってもいいだろう
有名というのは優秀な営業成績でもそうだがその見た目も理由の一つだ
とにかくイケメンの高身長でスーツ姿が様になっていやがる
女性社員からはそれなりの人気を獲得しているという噂もたまに耳に入る
同期で入社した俺とは天と地の差だ
「よう
そんなやつが俺みたいな日陰者に気さくに話しかけてくるのは単に席が近いからなのか、もしくは同期で同い年という接点からなのか、いずれにせよ会社内のコミニュケーションにそこまで積極的ではない俺にとって涼太とのやりとりはちょうどいい息抜きなのだ
「ああ、空いてる」
「向かいのラーメン屋で昼飯どうだ?もちろん伊西の奢りでな」
「お易い御用だ」
「ラーメンでいいのかよ、もう少し贅沢してもいいけど」
「彼女も妻もいない独り身の独身野郎なら容赦なく高級ランチに誘っていたが、今はもう違うからな」
ニヤリとしたり顔で挑発するようにそんなことを言う
そんなイケメンには一発活を入れた後にあの快活美少女を押し付けてやりたい
「他人事みたいに言いやがって」
「そうでもないぞ」
パタンと手にしていた手帳を閉めて続ける
「先週の一件で噂が広がってるからな、それの火消しに俺が一役買ったわけだ」
「なるほど」
それを聞いて俺もキーボードから手を離し涼太に向き合った
「適当な嘘で噂を塗り替えるのは楽だが後が怖い、俺としては確かな情報をもとに事実を整理したいわけよ」
「…ごもっとも」
なんとなくこいつの言わんとすることが理解できた
用は俺とアストルフォの関係と今後の展開について詳しく聞きたいのだろう
まぁ実際涼太には迷惑もかけたしこいつにだけはなるべく包み隠さずに話しておこう
◇
ラーメン大盛りを食べ終えた後、2人で喫煙所に入り一服しながらアストルフォとの共同生活についてできるだけ端的に伝えた
「結局同棲することにしたか」
ふぅーと吐いた煙が換気扇へと吸い込まれていった
こいつが吸ってるiQOSの香りはどうにも苦手だ
というかiQOSの香り全般あまり得意ではない
現に俺はいまだに時代遅れの紙タバコを愛用している
「同棲って言うな、同居だ、たまたま1つ屋根の下生活を共にしているだけだ」
「年頃の男女が1つ屋根の下生活を共にしてることを同棲って言うんだよ」
「年頃の男女だろうとなかろうと俺とアストルフォはそんな浮ついた関係じゃない、第三者がどう捉えようとそこだけは揺るぎない事実だ」
「今はだろ?」
「何が言いたい?」
「伊西があの子と懇意な関係を築くのも時間の問題じゃないのか?、あれだけかわいい女の子が同居人で手を出さない自信があるとでも?」
「……いや、相手がいくら可愛かろうが未成年に手を出したら社会的にアウトだろ」
紙タバコの煙を目で追いながら返答する
「それを言うなら同居してる時点でアウトだろ」
間を置かずに鋭いツッコミが帰ってきた
「…いやいや、ないから絶対ないから」
「まぁ会社辞める時は事前に教えてくれよな」
「辞めないから!社会的に死ぬ予定は無いから!」
そもそもアストルフォは男だから...とは言えなかった、まだ俺の中で確かな確証はないのに迂闊な発言は避けるべきだろう
邪念を払うようにタバコの火を消した
「いずれにせよ同居を始めるなら色々と気をつけなきゃいけないだろうな、頑張れよ」
あんまり心無い励ましに力無く「ああ」と応えた
他人事だとしてももう少し親身に聞いてくれてもいいだろうにこういう所は冷めた対応だ
「だけど意外だったよ」
「なにが?」
「伊西なら面倒事は避けて同居なんて選択肢はしないと思っていたからさ」
「ああ…まぁ仕事だったらそうしてたかもな」
「かわいい女の子と同居する仕事なんてないぞ」
「そうじゃなくて!…仕事の命令だとしてもリスクがあることは避けてきたしそのスタンスはこれからも変わらないだろうけど、事プライベートに関してはそういう線引きが上手くできてないんだなぁと反省してる」
「今になって後悔か?」
「…いや」
2本目のタバコに火をつけてふぅーと煙を吐いた
「反省はしてるけど後悔はしてない。アイツさ…俺の家に初めて来た時に帰る場所もないし、知り合いもいないって言ったんだ。俺だけが頼りかのような期待した表情で大人を見やがった」
「期待か……」
涼太も1本目を吸い終わり、すぐに2本目を取り出した
「ほぼ初対面の大人にそんなこと言うやつを追い出すほど薄情な人間じゃなかったってことだ、俺は」
「伊西が根っから冷たい人間だったら俺はお前に話しかけてないと思うよ、意外とは言ったがその選択は悪いとは思わないぜ」
「悪い結果にならないよう善処するよ」
なんとも無責任な言葉だ
俺がアストルフォと今後どうなっていくのか誰も分からないし知り得ない、問題の先送りかのように善処するなんてよく言えたものだ
そんな言葉も煙と一緒に霧散していく
「話し変わるけど今溜め込んでる業務はあるか?」
「……いや特にはないな、強いて言うならタイムスケジュール管理が終わってないからそれの調整と見直しをやるくらいで後は適当に残業して終わらせられる、次が控えてる訳でもないから珍しく溜まってない...それがどうした?」
「まぁ聞いてくれ...」
涼太が仕事の話題を持ち込む時は大抵頼み事がある時だ、ただ俺の直属の上司とは違ってこちらの予定度外視の無茶振りやスケジュールの変更を要求するようなものじゃなく空いているかどうかを聞いた上での申し出なので迷惑はしていない
さらに、俺の評価まで上げてくれるように上司に報告してくれるのでなんなら助かっていたりする
「ウチの会社で新しい取り組み…というか広告課を作ろうとしてるのはお前も知ってるよな」
「まぁ毎日課長たちが頭抱えてる案件だから近くにいる俺も嫌でも知ってるよ」
「広告課は他の部署に比べてもやることが多いから以前からもう1つ作るべきだって声もあったしな、けど…上層部がそこでただ同じ事をする部署をもう1つ作ったところで仕事は早くなっても直接売り上げに繋がらないって言い出してさ」
「それも知ってる、俺の上司を悩ませているのがそこだな」
用はなにか新しい取り組みで既存の広告課とは違うってことを示さなければ広告課の増築は認められないらしい
まぁ売り上げを考えるのなら当然の判断だろうと思う
社員の負担は無視してるけど
「今各部署から数名の代表者を募って問題解決に取り組んでるらしいんだけどそこにウチの新人が指名されちゃってさぁ」
「新人って確か今年の4月に入った子だよな?」
涼太が所属している営業課は1人しか採用されなかった
面接官を務めた涼太が太鼓判を押して採用したと聞いた記憶があるのでよく覚えている
「そう
涼太が人の事を雄弁に話すのは珍しい
それなりにかわいがっている後輩なのだろう
「そんなかわいい後輩がウチの部署の増築に一役買ってくれる事の何が問題なんだ?」
「まぁ取り立てて問題とは思っていないけど不安要素はあるわけよ、年上の男共に囲まれて意見出していくのも大変だろうし単純に業務が増えるからな、精神的に参っちゃわないか心配にもなる」
「意外だなぁ…お前って面倒見がいいんだな」
「失礼な!俺ほど後輩に優しい上司はいないと自負してるぞ」
「要はあれか?俺も会議に参加してその後輩ちゃんのフォローをしてくれってことか?」
「ご明察!さすが伊西話しがはやいねぇ、本当は俺も一緒に参加してやりたいところだけど来週から連続で出張の予定が入ってな」
やれやれと溜息を吐く
涼太は優秀なだけに仕事量も人一倍多い印象だ
その上後輩の指導もこなしていたのだから恐れ入る
「別にいいよ、会議つってもただの意見交換会みたいなものだろ?、お前が太鼓判を押した優秀な後輩なら俺がフォローすることもそんなになさそうだし…それに最終的に広告課の増築は俺の負担も減るだろうから他人事ではないしな」
「ありがとな、梅野には伊西のことも伝えておくから今週中どこかで軽く挨拶しておいてくれ」
「わかった…あっ、くれぐれもアストルフォのことは言うなよ」
「言わねーよ、未成年と同居なんてこと知れたら警戒心MAX状態で蔑んだ対応されるぞ」
「それを聞くとますますバレるわけにはいかないな」
…ということで俺は来週から広告課増築に向けての意見交換会もとい会議に参加が決まった
アストルフォには悪いがまた帰りが遅くなることになりそうだ
◇
「ただいま」
「おかえり〜( ´ ꒳ ` )ノ」
仕事を終えて帰宅する。
リビングに入るとアストルフォがソファに寝そべってスマホを触っていた、昨日の夜もずっと触っていたみたいだがこの感じだと日中も夢中だったのだろう
「マス...じゃなかった伊西さん見て見て〜(۶* '▽')۶" 」
と言って自慢げにスマホの画面を見せてきた
そこには自撮り写真が写っている
「お〜よく撮れてるなぁ」
正直手ブレが酷くてあまりキレイに撮れてはいなかったがここで酷評したところで意味もないし適当に褒めておいた
「それとね動画もあるんだよ(≧▽≦)」
今度はスマホを横にして昼間撮ったであろう自撮りの動画を流す
俺は上着を脱いで風呂に入る準備をしながら観賞した
「あとねあとね今日は近くのコンビニまで行ってきてお菓子を沢山買っちゃったんだよ( ˶>ᴗ<˶)」
嬉々として今日あったことを報告してくる
俺が仕事してる間は基本的に外出は控えてもらっているのだが本人的には外で遊びたいのだろう
「お菓子ってもしかしてそれしか食べてないのか?」
「そだよ〜、さ、伊西さんも一緒に食べようぜ!( ˶>ᴗ<˶)」
アストルフォが指さした先には狭いテーブルに所狭しと並べられたお菓子が置いてある
「いやいや夜飯にお菓子は食べないよ、栄養バランス偏った食事してると体壊すから」
「え〜せっかくボクが買ってきたのに食べてくれないの〜
(´・ω・`)」
ちなみにそのお菓子を買うためのお金は俺が先週渡した1万円から捻出してるっぽいな
「お菓子だけだと必要な栄養摂取できないから、野菜とか肉も食べなきゃだめだろ」
なんでこんなオカンみたいな事を言わなきゃいけないのだろうか
「大丈夫だよ!これ見てくれれば伊西さんも大納得さd(≧▽≦*)」
そう言ってお菓子の中からいくつか取り出して俺に見せてきたのはポテチ(コンソメ)とBIGカツというロゴが入った薄いとんかつのようなものだ
「これでお肉も野菜もしっかり摂取できるんだぜd(≧▽≦*)そして仕上げにこれさ!」
さらにもう1つ取り出したのは明るい派手な色を放つドリンク缶
詰まるところエナジー系ドリンクだった
「ここ見てよ、眠たい夜もこれ一本で解決!肉体的疲労を吹き飛ばす!って売り文句で売ってたんだ。これとさっきの栄養バランスバッチリのお菓子を食べれば伊西さんの日頃の疲れも吹き飛ぶっていう寸法さo(`・ω´・+o) ドヤァ…!」
「……そのパッケージの裏面のカロリー数と栄養素よく見てみろ、全くバランス良くないから」
あとドヤ顔やめろ
「仕方ないなぁボクが食べさせてあげるよ」
「いや聞けよ。人の話しを」
コイツたまに俺の意見をフル無視する時があるよな
反抗期か?
「はい、あーん」
「うぐ……あ、あーん」
ポテチを一枚取ってそのまま俺の口まで運んでくる
俺は渋々それを受け入れた
「どうだい?美味しいかい?」
「まぁ、うまいよ」
既製品だし不味いわけがない
「それは何よりだ(≧▽≦)次はこれだよ、はいあーん」
そういって今度はBIGカツを食べさせようとする
嫌がっても埒が明かないので受け入れる
「…………あ、久々に食べたけど上手いなこれ」
お菓子だと思って甘くみていたけど(お菓子だけに)確かに本物のお肉を食べているかのようなジューシーな味わいがあって中々に病みつきになりそうだ
「でしょでしょ♪- ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-ボクもこれは特にお気に入りなんだ〜」
「いやいやだからってこんなものばかり食べてたらダメなんだよ。せめて冷凍食品とかコンビニ弁当食べろ」
「けどもうお腹いっぱいだよ〜(ノ)´∀`(ヾ)」
「買いすぎなんだよ。そもそもあの1万円はお菓子買うために渡したんじゃないぞ。...そういえばスマホで課金もしてたよな?!ちょっとスマホよこせ!」
「あっ返してよ〜」
アストルフォから半ば無理矢理スマホを奪い取り通知画面を確認する...やはり俺のクレジットカード決済で課金していたらしい
いくつか支払い完了のメールが届いている
「おいアストルフォこのプレミアム会員登録ってなんだ?」
「それかい?それはボクが今日見つけた動画投稿アプリの会員登録さ!ここに登録したら配信者の放送を快適に視聴できるんだぜd(≧▽≦*)」
「さっきから夢中になってたのはそれか」
俺もたまに趣味の動画やゲーム実況を視聴したりするけどそんなシステムがあったのは知らなかった
ん?なんか細かい支払いがやたらあるな
100円、300円、500円、……スーパーチャット代金支払いってなんだ?
よく見たら合計で5000円近く使っていやがる
「さぁてボクはそろそろお風呂に入ろうかな〜( ˊᵕˋ ;)」
段々と雲行きが怪しくなってきた俺の表情に勘づいたのだろう
そう言って風呂場に行こうとしたアストルフォを呼び止める
「待ちなさい」
俺の声かけにビクリと肩を震わせた
どうやら雰囲気でこれから折檻されることを悟ったようだ
「座りなさい」
「いや……違うんだ、決してわざとって訳じゃなくて興味本位でやってしまって(汗)」
「いや別に本気で怒っている訳じゃない」
そう言うとアストルフォは素直に応じてバツが悪いように俺の前に座った
「…ごめんなさいm(._.)m」
どうやら反省はしてくれているようだ
「まぁスマホ渡した時に注意しなかった俺にも非はあるから強くは咎めないよ。ただし…次は無いと思え、どうしても欲しいものがあるならまず相談してからにしなさい」
「わかったよ(´・ω・`)」
アストルフォのスマホには今後自由に課金出来ないようにクレジットカードの情報を消しておいた
これでひとまず安心だろう
「伊西さん」
「なんだ?」
「早速なんだけど欲しいものというかやりたいことがあるんだ」
「…聞くだけ聞こう」
「あのね……ボクも働きたいんだ!ボクだけ家に閉じ籠って伊西さんの帰りを待つのは流石に罪悪感があるんだよ。ていうか暇なんだよ!」
「な…なるほど」
確かに俺はアストルフォに外出は必要最低限にしろと強制させて家に縛り付けてばかりでコイツの主体性を無視していた部分もあるのかもしれない
「伊西さんの負担を少しでも減らしたいというボクの健気な心遣いを汲んでくれると嬉しいな( *´꒳`* )」
「それ言わなかったら素直に喜べたな」
「ダメかい?」
「……うーん……」
正直ダメな理由が見つからないし、アストルフォとの同居が始まって出費も増えたので俺だけの収入では心許無いから収入が増えることは素直に助かる……のだがどうにも不安だ
アストルフォに社会に出て働けるほどの理性も知性も今の所感じられないだけに不安要素が満載すぎる
「まぁ面接もあるだろうし、面接官がまともならこんな理性が蒸発した頭のおかしいヤツを雇おうとは思わんだろう」
「…………(´・ω・`)」
「わかった。許可しよう」
「伊西さん……全部声に出てたよ」
「あっ……ごめん」
まだ夜飯前だというのになんともいえない空気になってしまった
俺の理性も壊れてきたらしい