おしかけサーヴァント   作:袈裟山

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自分の文章を読んで違和感がないかを探す作業が1番大変です








13話

 

 

「広告課の伊西香(いさいかおる)です。今年で6年目です。よろしくお願いします。」

 

そんな無難な自己紹介から始まった会議はそれなりの人数が集まっていた。先日涼太からの申し出で俺もこの会議の参加が決まり、今日がその初日なのだ。いくつか見知った顔ぶれもいるが初めて会う面子もちらちらいる

議長がとりあえず自己紹介から始めましょうと切り出したのでまず俺から軽く挨拶をした

 

「今年度から営業課に入りました梅野都子(うめのみやこ)です。本日はよろしくお願い致します」

 

次いで自己紹介をしたのは涼太から面倒を見てくれと頼まれた営業課の新人だ。ビシッとシワひとつないスーツを着こなし、綺麗な姿勢でハキハキと自己紹介を終えると隣りに座る俺に軽く会釈をしながら席に座った

さすが涼太がかわいがっている後輩なだけにしっかりしている

働きはじめて6年目の俺よりよっぽど社会人している

あとけっこう可愛い

 

なるほど涼太の心配も頷ける。この器量なら周りの男が放っておかないだろう

隙あらば話すキッカケを伺う輩が出てきてもおかしくはないかもしれない

だが涼太よ…俺も一応男だということをわすれてはいないだろうか。そこら辺は信用されてると受け取っていいのかな…

 

「では自己紹介も終えたところで本題に入りましょう。広告課の増築に伴って新たに始める取り組みの案を1人ずつお願いします」

 

そんな感じで明るい雰囲気で始まった会議ではあったが

始まってみると色々な意味で白熱した

 

「じゃあ私から……」

 

「いやそれならこういうのはどうだろう」

 

「ちょっと待ってください、それだと我々の負担が……」

 

「それを言い出したらキリがないだろう!」

 

「各々もう少し責任を持って発言を……」

 

最初は穏やかだったみんなの口調も意見が出されることによりヒートアップしていき、段々と収集がつかなくなってきてしまっていた

 

会議という名の言い合いが気づけば1時間経とうとしていた

そんな中俺はゆっくりと手を挙げて控えめに発言をした

 

「あの〜」

 

一斉に俺の方へ視線が集まる

 

「みなさんの意見をまとめたいので一度休憩というのはどうでしょう?」

 

「……」

 

「そうだな…ひとまずそれぞれの見解がわかったのだから整理する時間も必要だろう。10分程の休憩とします。」

 

議長がそう言うと皆一斉に席を立って散っていった

俺もタバコ休憩に行こうと席を立つと声をかけられる

 

「あの、伊西さん少しよろしいでしょうか?」

 

隣に座っていた営業課の新人、梅野都子さんだ

 

「大丈夫ですよ、なにか分からないことでもありましたか?」

 

「分からないことはないのですが、理解に苦しむと言いますか自分が未熟故に理解が追いついていないだけなのか分からなくて……えっとここでは人目を憚るので場所を変えてもいいでしょうか?」

 

かわいい後輩の頼みを無下に断る訳にも行かないので場所を移すことにした

会議室の隣にある書庫室へと入る

ここならそうそう人は入ってこないだろう

 

「で?どういったところが理解できなかったのかな?」

 

圧をかけないようにできるだけ優しめな口調で聞いた

 

「あの……本会議に集まる方々は全員同じ会社の方々ですよね」

 

「ええ…当然そうですよ」

随分と当たり前の質問をしてきたのでなんだか呆気にとられた

彼女の言わんとすることがイマイチ理解できない

 

「ではなぜ皆さん自分の部署の都合のいい意見しか出さないのでしょうか?本会議の趣旨は広告課の増築に伴った新たな取り組みの提案とそれに付随して新事業の改革と聞いています。となれば広告課だけの責任と負担ではなく部署全体、さらに言えば会社全体の負担にも繋がるはずなのにまるでその責任から逃げようとする意見ばかりでまるで平行線でした。あのようなやり取りは会議ではなくもはや責任の押し付け合いとしか思えません。」

 

畳み掛けるように、というか不満をぶつけるように俺に遠慮なく意見してくる新人の圧に若干後ずさる

 

「……あーうん、なるほど」

 

「同じ会社の社員である責任と自覚を持つべきだと思いますが違いますか?」

 

「いやいや違くはないよ、正しいと思う。」

 

「分かりました。その確認ができただけで充分です。ありがとうございます。」

 

そう言って会議室に戻ろうとする梅野さんを慌てて引き止めた

 

「ちょっと待って!…その確認をしてどうするんですか?」

 

「全員の目を覚まさせるために私が思ったことをそのまま言います」

 

「いやいや待って待って落ち着いてください」

 

「落ち着いています」

 

……確かに至って冷静に見える

てことは大真面目に実行しようとしているらしい

恐ろしい新人がいたもんだ

 

「そんなことしたら国会並みに荒れちゃうから、ひとまず考え直してくれません?」

 

「……分かりました」

 

どうやら聞き分けはいいらしい

アストルフォよりはマシかもしれん

だが……なるほど涼太が言っていたのはこういうことか、これは目が離せないな

可愛さ余って憎さ百倍とはこのことか……

 

会議が再開して再び意見が飛び交うが、先程梅野さんが言っていた通り平行線だった。

やれ責任がどうだの…やれそんなことをする余裕はないだとか…全ての意見に賛同する訳では無いが俺も同感と思ってしまうだけに改善案を提示することができないでいた

結局次の会議までに各々が宿題として案を考えてくることになり会議は終了となった

 

会議中、隣りの梅野さんの表情をちらちら確認していたが随分と納得がいかないような曇った感じになっていたのでなにか余計なことを言い出さないかヒヤヒヤした

 

カバンから携帯を取り出し通知を確認する

通知は3件ほど来ている

全部アストルフォからだ

 

……えーと1件目が『伊西さんへ♡ボクのエプロン姿だよ~

٩(๑>▽<๑)۶』という文章と共にエプロン姿の自撮りが送られている

 

……これはどうでもいい連絡

 

2件目が『そういえば先日一緒に観に行った映画の過去作が沢山あるらしいから今度一緒に観ようよ( ˶>ᴗ<˶)』

 

……これも無視していい連絡、ていうか見なかったことにしよう

 

3件目が『面接終えてきたよ〜採用だって!٩(๑>▽<๑)۶明日から頑張るぞー( *˙0˙*)۶』

 

なんだと?!まさか採用されるとは…どんな面接官だったのだろうか、あのアホを採用する店があるとは…顔採用でもされたか?

 

『おめでとう』とひと言返信し再びカバンにしまった

 

「彼女ですか?」

 

「うお!」

 

急に下から覗き込むように俺に問いかけてきたのは梅野さんだった

 

「なにやら笑顔を零しながらスマホを凝視していたので恋仲の方からの連絡かと思い、終わるのを待っていました」

 

そこまで言うと俺に一歩近づき他の人が居ないことを確認するかのように周囲を見周してから続けた

 

「先程は出過ぎた発言をしようとしたのを止めて頂きありがとうございました。秋月先輩からいつも注意を受けていたのですが今日は不在でしたので助かりました」

 

「いやいやそんな大した事はしてないので気にしないでください…ていうか俺そんな笑ってましたか?」

 

「はい、僅かではありますが口元が緩んでいたように見えました」

 

まじか…携帯見ながらニヤついてたとは我ながら気色悪いし恥ずかしい。それを新人に見られたこともさらに恥ずかしい

 

「本当に少しだけであからさまではなかったので気にする程ではないと思いますよ。恋人からの連絡であれば誰だって嬉しいものです。」

 

「いやいや恋人じゃないので、ただの…えーと親戚からの些細な連絡ですよ」

 

「そうでしたか…ところで次回の会議の事なんですけど伊西さんはなにか妙案がありますか?」

 

「俺は…そうだな…いやまだなにも思いついていないしこのままだと他の人もいい案が出そうにないだろうなと薄々思ってます」

 

「私も同感です。意識改革が急務かと思われます。もちろん部署全体の意識です」

 

「まぁ全員が全員今回の会議に前向きって訳では無いだろうから中々同じ方向向いて話し合いできないんだと思いますよ」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「そもそも広告課の増築に反対してる人も少なくないんですよ。それに伴って仕事量が増える部署もあれば影響をほとんど受けない部署もあるのでモチベーションに差が生じるのは当たり前です。梅野さんだって同じ仕事量をこなしているのに給料に差が出たらモチベーションを保つのは難しいと思いませんか?」

 

「なるほど…確かにそれはそうですね、会社全体の問題なのだから無条件に我慢しろとは言えません」

 

「要約すると全ての部署に重すぎない程度の負担があって尚且つ会社の売上に繋がるような新事業案を考えてこいって事ですね」

 

「…………かなりの無理難題ではないでしょうか?」

 

「気づきましたか」

 

そんな都合のいい事業はそうそうない

あればとっくにやっている

この会議の本質は今日でなんとなく理解したけれどそれを新人が汲み取るのはなかなかにハードルが高いだろう

涼太もなんとなくそれを予期していて俺に新人のフォローを頼んだのかもしれない

 

「次回の会議は来週らしいからそれまでになにかいい案があれば涼太にでも聞いてみるといいですよ」

 

「はい…そうしてみます」

 

「では俺もそろそろ失礼します」

 

「あの伊西さんにもお伺いしても大丈夫でしょうか?」

 

「俺ですか?……まぁ大したアドバイスができるか分かりませんが俺でよければ構いませんよ」

 

「ありがとうございます。ではいつ相談してもいいように連絡先の交換をお願いします。」

 

「…わかりました。」

 

梅野さんは携帯を取り出して連絡先のQRコードを見せてきた

断る訳にもいかないので俺も携帯を再びカバンから出してコードを読み込んだ

 

「では本日はお世話になりました。また来週もよろしくお願い致します。」

 

「ああ、こちらこそどうぞよろしく」

 

梅野さんはテキパキと帰り支度を済ませてさっさと会議室を後にした

俺はというと可愛い後輩からの予期せぬ連絡交換に若干浮き足立ってしまいそうになりつつも涼太に少しだけ申し訳なくなったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アストルフォとの同居生活も既に2週間が経とうとしていた

そんな中気づいたことがいくつかある

まず一つはアストルフォのことをおバカキャラ的な扱いをしていたのだが物覚えが悪い訳ではなくむしろ自分の興味があることに関していえば呑み込みが早いまである

それが如実に現れているのが主に電子機器の取り扱いだ

スマホの操作速度が既に玄人の手際まで達している

わからないことがあれば直ぐにスマホを駆使して自分で解決してしまうので最近は俺が教えることもなくなってきた

 

それに付随するようにゲームやPCの扱いもそれなりに覚えてきているようで暇があればよくやっている

 

一度一緒にやろうと誘われたので協力プレイできるパーティゲームをやってみたのだが、少々頭を使うようなミニゲームも迷うことなく難なくクリアしていた

他にも初見であるはずのギミックやひっかけにも戸惑うことなくサクッとクリアしていたりしたので地頭の方は悪くないどころか良いまである

 

終始楽しそうにしていたのでこちらもかなり楽しんでしまったのを覚えている。

 

そう思うとアストルフォが働き始めるというのは不安要素が無いわけではないが案外上手くやっていけるのかもしれない

接客業にしろデスクワークにしろ興味を持って取り組めば要領良くやれそうだ

 

「なぁアストルフォ」

 

「なんだい•́ω•̀)?」

 

「聞いていなかったんだけど、バイト先ってどんな店なんだ」

 

「あそっか、そういえば言ってなかったっけ」

 

スマホを触りながらソファに寝そべって俺に応えるアストルフォ

なんだかその位置とその体勢がおなじみになってきているな

 

「えーとねぇ…確かぁ、コスプレするお店でぇ」

 

「コスプレ?メイド喫茶的なやつか?」

 

「メイド服もあるんだけどぉ他にも色々あったよ、例えばナースとかチャイナドレスとかアニメキャラとかもあったり」

 

……最近のメイド喫茶はバラエティに富んでいるようだ

そうでもしないと集客に繋がらないのかもしれない、世知辛いな

 

「でそれを着て男性のお客さんに接客するんだよ」

 

「なぜ男性限定?、女性の客も来るだろ」

 

「たまーに来るらしいけどほとんど男性なんだってさ、今日も面接で店内を少し見させてもらったけど男性のお客さんばかりだったよ」

 

「…そうなのか」

 

まぁそういう店のことは入ったこともないのでよく分からないけど男性客が多いイメージだしそんなものなのかもしれない

 

「まぁ頑張れよ」

 

「うん明日から頑張るo(*゚▽゚*)o」

 

明日か…俺も頑張ろう

晴れて同居人は暇な時間を埋めるために労働を選択した

俺の心配が杞憂に終わることを願うばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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