カーテンから木漏れ日が射し込み、睡眠中の俺に直撃していた
壁に掛けてある時計を確認
まだ起きる時間帯ではないが二度寝をするにしては中途半端な睡眠になりそうだ
たまには早起きして朝食でも取ろうかと思案していると隣からスースーと心地良い寝息が聞こえてきた
「……」
隣には俺のジャージとTシャツを着ている美少女が寝ている
あやうく忘れるところだった
昨日は会社で女の子を保護した後に我が家に連れ込んで一夜を共に同じベッドで眠りについたんだったなぁ
寝ぼけた頭で状況整理していても余計に頭が痛くなるだけだったので深くは考えないことにした
今日も今日とて会社に出勤して仕事をしなきゃならんのに余計な事を考えていては業務に差し支える
掛け布団を剥がして隣の女の子を起こさないようにそっとベッドから降りてからシャワーを浴びて歯磨きを済ませトースト1枚にジャムを塗った簡単な朝食を取った
その間もベッドの上の女の子『アストルフォ』は起きる気配がなさそうだった
あと10分ほどで出勤しなけらばならないのだが俺は大事なことを失念していた
俺が家を空けている間にこの子は一体どうするのだろう
異世界から来ましたとか電波なんだか中学生なんだかとにかく痛い発言をするパーソナルスペースがやたらと近いこの子どもに留守を任せてもいいのだろうか
多分…いやおそらくはあまりいい事ではないだろう
なにより俺はこの子のことをまるで知らない
昨日あったばかりなのだから当然だろう
そして向こうも俺の事を知っているような感じではなかった
マスターなどとおかしな名称で俺を呼んではいるものの俺の名前も把握してはいないだろう
俺とこの子が信頼し合うにはあまりにも互いに知らなさすぎるのだ
「うーん」
モゾモゾとベッドがうごめいている
「あ…おはよーマスター」
起きたばかりでまだ眠気が残っているのだろう
身を起こしながらも掛け布団を離さずにしっかりと握っている
「おはよう」
「あれ…どこか出掛けるのかい?」
寝ぼけ眼の半目でスーツ姿の俺を見ると興味深そうに質問してきた
「出掛けるよ。これから仕事だ」
当然だろと付け足して俺はアストルフォに少しの一万円札と電話番号が書かれたメモ紙を手渡した
手渡された本人は「?」といった感じの表情で俺を見上げている
「ここからお前の家までどれだけあるかは知らないけどこれだけあれば適当な交通手段でも帰れるだろ。最寄りの駅までここから10分もしないからそこに行くといい。」
「……これって」
「もし帰れない事情があるのなら友人かもしくは頼れる知人とかに連絡を取れ、俺の携帯番号も一応書いといたけどできれば日中の連絡は控えてくれると助か…」
「友達なんていないよ」
俺が言い終わる前にアストルフォはそんなことを言った
「家族もいないし帰る家もないよ。ここにはボクの事を知っている人はひとりもいないんだよ」
そんなことをまるで当然であるかのように言ってのけた
そして笑顔だった
その台詞になぜ笑顔が同居できるのか俺にはまったく理解ができない
「…そういえば異世界からきたんだったな」
「そう、そのとおり!強いて言うならボクの家はここでボクの家族であり友達でありご主人様はマスター1人だけなのさ♪」
「つまり頼りは俺だけだと」
「マスターもボクを頼ってくれて構わないよ」
自信ありげに胸を張っているところ申し訳ないけど頼りがいがあるとは思えなかった
「本当に行く宛がないのか?」
「…ボクがここに居たら迷惑かい?」
俺の真剣な声色の問いに対しアストルフォも少し声のトーンを落とした
「……別に迷惑なんて(少ししか)思ってない」
「じゃあここにいる!」
早かったなぁ
こいつとの会話はある種の爽快感を感じさせる
思いきりもいいし素直さが声に乗っかっていて実に清々しい
これ以上の問答は時間の無駄だと悟った俺の頭は既に仕事モードへと切り替わっていた
「ここにいたいなら俺の言うことは聞いてもらうからな」
「うん!まっかせて♪なんでも好きなように命令して構わないよ」
背徳感が残る返事だがまぁよしとしよう
アストルフォにもそれなりの事情があるのだろうさ
きっと俺には想像もつかないようなでかい事情が…