おしかけサーヴァント   作:袈裟山

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仕事の話ってしたい人としたくない人に明確な線引きがあるよね




9 話

 

「ただいま」

 

家に着く頃には23時を回ろうとしていた

酒を飲んだせいだろう、帰り道は千鳥足になっていて歩くペースもいつもより遅い

量はそんなに飲んでいないのだが柚希先輩のベースに合わせて飲んでいたら俺の身体には負担が大きかったようだ

 

「本当に強いな、あの人」

 

革靴を乱雑に放り捨てて廊下の壁に身体を擦りながらリビングに入ったところで異変に気づく

電気は着いているのだがアストルフォの姿が見えない

あの無駄に高いテンションで激しめのおで迎えをしてきてもいい気がするのだが嫌に静かだ

 

「ただいま〜」

 

再度帰宅したことを周知してみたのだが返事もない

 

「...おかえり〜」

 

と思いきや俺の背後から返事が帰ってきた

 

「うおっ!」

 

不意をつかれた

心臓に悪いからやめてほしい

酔いも覚めるってもんだぜ

 

「なんだいたのか、いたのなら最初から返事してくれよ」

 

「あぁずっといたよ、かれこれ3時間以上マスターの帰りを心待ちにして晩ご飯まで準備してずーーーっと待ってたよ、けど待てども待てどもマスターは帰ってこないし用意したご飯は冷めちゃうし、しびれを切らしたボクはふて寝をしてやったのさ...するとどうだい?もう深夜に近い時間になってようやく帰ってきたと思ったらお酒の臭いを纏わせたマスターのご帰宅だよ!一体どういうこと!ねぇ!なんでボクを1人にして外でお酒飲んで遊んで帰って来れるの!!こんなに惨めな気持ちにさせるなんてマスターは鬼畜だよ!鬼畜マスターだよ!!」

 

後半になるにつれ感情が昂ってきたのか声量を増していき最終的にはその場で仰向けになりジタバタと転げ回っている

まぁ分かりやすくいうと拗ねて暴れてるわけだ

 

「す...すまなかった」

 

「ゆるさなーい!!鬼畜マスターの謝罪を拒否しまーす」

 

ジタバタをやめると今度はソファーの端で足を抱えて縮こまるようにして座り込んでしまった

 

これはさすがに帰る時間を伝えなかった俺に非があると思う

タブレットの端末にメールを送信しておくことくらいはできただろうに柚希先輩との飲み会に浮き足立って報告を怠った俺のミスだ

 

「本当に申し訳ない...これお詫びというか、お土産だ」

 

帰りにコンビニで買ってきたロールケーキを差し出す

 

 

チラと俺を一瞥した後に受け取った

中身を確認するとまた俺を見る

 

「こんなものでボクが許すと思ってるのかい?」

 

「…許してもらおうなんて思ってはいない、ただ少しでもこれで気が晴れるならと思ってだな」

 

本音をいうと食べ物で機嫌をとることは難しくないと思う

現に口では否定しつつも既にケーキを袋から出して食べようとしているのだから

 

「まぁ今回はマスターの暴挙を特別に許すことにしてあげるよ、決して甘くて美味しい菓子に絆された訳では無いからね!」

 

ケーキを素手で口に運び美味そうに頬張りながら許された

表情も怒りのそれから満面の笑みに変わっている

 

…犬かな?

 

番犬だとすればかなり不安要素が残るだろう

愛犬と思えば愛嬌たっぷりだと思う、あまり聞き分けは良くないが

 

「すまん、まず風呂に入ってくる、夜飯はまた温め直して一緒に食べよう」

酒の匂いと汗を流してから改めて食事にするとしよう

俺は既に居酒屋でそれなりに食べてきたのだがアストルフォが待っていたのならその気持ちを汲んで一緒に食べてやりたい

…なんてことを思ってしまうのは俺も段々とコイツに対して甘くなってしまっているのかな

 

「ボクも一緒に入るー!」

 

「絶対に来るな、お前はまたご飯を温めなおしておいてくれ」

 

「やだやだー!今日に限ってはマスターの意見を聞き入れない権利がボクにもあると思います!」

 

…くっ!

真っ向から反論してやりたいけれど俺にも非があるので強くは言い返せないジレンマだ

 

「確認したいんだが俺と一緒に風呂に入ってどうするんだ?」

 

「え〜そんなことボクの口から直接言わせるのかい?マスターってばそんなに恥じらうボクを堪能したいなら初めから伝えてくれよ〜」

 

「いやお前に恥じらいがないことは既に知っている、そんな期待はしていない」

 

「してよ!ボクに期待をしてくれよー!」

 

俺の腰にしがみつきながら叫ぶアストルフォを引き剥がそうとするけど意外と力が強くて中々離れない

 

「ええい子供じゃないんだから風呂くらい1人で入れるだろうが」

 

「マスターともっと仲良くなりたいんだよぉ!1人で留守番してたんだから少しはボクのわがままに付き合ってくれてもいいじゃないかぁ!」

意外にも健気な理由に少し心が傾きかけたが、さすがに未成年の少女と社会人のアラサーが混浴するというのは背徳感が強すぎて俺には背負いきれない

 

「……わかった」

 

ということで妥協案を提案することにしよう

 

 

 

 

 

 

「これが終わったら大人しく出ていってくれるんだな?」

 

「もちろんさ、マスターとの約束は守り通すよ♪」

 

アストルフォはるんるんと鼻歌まじりに大人しくバスチェアに座っている

そう…バスチェアがあるということはここは浴場だ

俺とアストルフォは2人で浴場にいることになる

これだけでも十分に世間から後ろ指を刺され非難を浴びてもおかしくない状況だ……だが最後の一線は超えてはいけない

 

男女間のトラブル、特に成人男性と未成年の女の子との関係は一生を棒に振るリスクがあることをおよそ8年以上の社会生活で学んでいる

 

 

アストルフォは俺に風呂で体を洗って欲しいらしい

その要望だけを叶えるのなら俺が服を脱ぐ必要はないわけだ

服を脱ぐのはアストルフォだけでも十分だろう

そして俺が一糸まとわぬ女性の裸体を見てしまうという問題もタオルで目隠しをすることでカバーした

「あまり動き回るなよ、こっちはなにも見えないんだから」

 

「じゃあそれ外しちゃえばいいじゃないか」

 

「その瞬間お前を家から追い出すことになるぞ」

 

「うぅ……わかったよぅ、じゃあその状態でいいから早くボクの髪を隅から隅までくまなく洗っておくれ」

 

「無駄に艶かしい言い回しをするんじゃねぇ」

 

俺はシャンプーを手に取り適量を出すと手の上で少し泡立てた後にアストルフォの髪に馴染ませていった

サラサラのロングヘアーにたちまち泡だっていくのが見えなくても感触で分かる

 

……つくづく思う

こいつの無防備なところは世間知らずとか、未成年だからとか、そんな簡単な理由で済ませてしまってはいけない位に危うい

なぜ会ったばかりの俺にここまで身体を許せるのだろうか、もしかしなくとも普段からそれを許容させるような環境に身を置いていたからじゃないのか、今もこうして平然と風呂場に同居しているというのにご機嫌の様子だ

 

「♪」

 

髪を洗われているだけだというのに鼻歌をするほどご機嫌らしい

他人の頭を洗ってあげるなんて人生で初めてなものだから変に緊張してしまっている

洗ってあげる立場としては喜んでくれているのなら悪い気はしなかった

髪の毛全体を洗い流した後にリンスまでしてやった

これで俺の役目も終わりだろう

 

「どうだ?もういいんじゃないか?」

 

「そうだね、じゃあ次は背中洗ってほしい!」

 

「勘弁してくれ、もう自分で洗えるだろ」

 

「背中だけだから……ね?お願い」

 

「……」

 

目隠しをしているからわからないがアストルフォの猫なで声だけで十分に表情が想像できてしまう

そこらの男なら簡単に落とせてしまうだろう

 

「…わかったよ」

 

如何せん今日の俺はこいつの言いなりになるしかないようだ

 

 

スポンジにボディソープを垂らし適度に泡立てる

見えなくてもいつも使っているから物の把握はできているようだ

 

再びアストルフォの方に向き直し背中の位置を確認するために手を前に出した

 

「ひゃう!」

 

不意にアストルフォの身体に触れてしまったようだ

なんとも可愛らしい悲鳴が風呂場に響いた

 

「す…すまん!」

 

慌てて前に出した手を引っ込めようとするとその手を掴まれた

 

「す…少し驚いただけだから大丈夫だよマスター」

 

導くように自分の身体に俺の手を触れさせる

 

「急にそんなところ触るなんてエッチだなぁ」

 

いやわからん!見えないからどこを触ったのか全く分からないけど、コイツが思わず反応してしまったのならかなり危うい箇所に触れてしまったのかもしれない

ていうか俺は今どこを触っているんだ?

スベスベの肌の感触があるから頭ではない

 

背中か?肩か?もしかして前の方か?

 

「ねぇ」

 

「うおっ!な…なんだ?」

 

「同じ場所ばかり触ってないでもっと全体的に洗ってよ〜」

 

「あぁ…わかった」

 

全大敵に触ったらその瞬間アウト判定だろうが!

極力余計な所を触らないように洗い始めよう

 

「だいたい洗えたんじゃないか?」

 

「まだまだ〜♪今度はこっちだよ」

 

また俺の手を掴んで別の場所を洗うように導く、それを数回繰り返した

結局背中だけじゃなく足先や腕も洗ってやりあとはシャワーで流すだけとなった

 

「マスターは本当に恥ずかしがり屋だね、目隠しをしないと一緒にお風呂にも入れないなんて大変そうだなぁ」

 

「他人事のように言うじゃねぇか、お前のためでもあるんだからな」

 

「ボクのためを思うならマスターも一緒に服を脱いでお風呂に入ってよ〜親睦を深めるためには裸の付き合いってやつが必要なのさ!」

 

「それは男同士の場合だろうが」

 

「だからボクは男なんだってば!」

 

「そんな見え見えの嘘信じるわけないだろ」

 

「本当なのに〜」

 

「余計なこと言ってないでさっさとシャワーで洗い流すから目ぇ瞑れ」

 

「はーい」

 

髪に馴染ませたリンスと身体の泡を洗い流すためにシャワーの勢いを調節して頭から流してやる

 

「マスター」

 

「なんだ?」

 

「気持ちよかったよ、ありがとね♪」

 

「…そりゃよかった」

 

素直に感謝を伝えてくれるのは普通に嬉しい

第三者視点で状況だけ見ると複雑な心境ではあるけど

 

「ほら終わったぞ、あとは自分で身体拭いて服着て待ってろ」

 

「はーい」

 

名残惜しそうに返事をしたアストルフォは脱衣所へと移動していった

 

うん……正直危なかった

言葉では冷静を装っていたけど何度目隠しを外してしまおうと思っただろうか

いっその事本人が嫌がらないのなら別に構わないだろうと勝手な思い込みで一線を超えるところだった

 

「酔ってるせいだ、絶対に」

 

そうやって何度も言葉にして邪念を払うように頭を抱える

自分の理性の弱さにイライラする

先程上司に釘を刺されたばかりだというのに眼前の欲求を満たそうと浅はかにも手を出しかけた自分が情けない

 

 

 

「遅いよー」

 

「あぁ悪い少し考え事してた」

 

アストルフォを洗ってやった後は自分もシャワーを長めに浴びた

冷水じゃないけど頭を冷やして置かなければまともに顔を合わせられる気がしない

 

「さ、座って座って、早速頂こう♪」

 

「ていうかその格好はなんだ」

 

食卓に座ろうとしたが裸にシャツ1枚いうアストルフォの姿を見て指摘しないわけにはいかない

 

「この服?マスターのやつだよ」

 

「いやそれは分かってるけど俺が貸したのはシャツとジャージ上下だろ、なんでシャツ1枚しか着てないんだ」

 

「だってお風呂上がりだと暑いんだもん、この格好の方が涼しくて動きやすいよ」

 

言いながらシャツの端を持ってパタパタと仰いでいる

その仕草も非常に目に毒なのでやめてほしい

俺のサイズなので大きめのシャツでよかった……のか?余計に扇情的になってないか?

 

「風邪ひくぞ」

 

「いただきまーす♪」

 

……無視かよ

 

まぁ俺の帰りを待って夜飯が遅くなったのだから咎めることはできないし、嬉しそうに食事してるところを邪魔するのも心が痛む

お小言はこれくらいにしておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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