時系列は奈落を倒し、四魂の玉が消滅した後の話になります。
気が付けば見たこともない静かな森の中に一人の青年が立っていた。
膝裏ほどもある長い銀髪に額には三日月の紋様が入った美男子、また腕と頬には二本の傷のような紋様がある。服装は着物の上に鎧を身に付け、腰には日本の刀を差している。
美しい顔立ちをした美青年の名は殺生丸、戦国最強の妖怪である。
ここが何処なのか、自分が知っている場所なのかを確かめるために、殺生丸は風の臭いを嗅いで今いる場所の情報収集をする。
しかし、臭いを嗅いでも自分が知っている臭いはほとんどなく、初めて嗅ぐ臭いばかりだった。
「邪見、阿吽」
お供である仲間の名前を呼んでも返事はなく臭いもしない。どうやら近くにはいないようだ。
「いない…か…」
そう呟くと殺生丸は空を見上げ、ゆっくりと身体を宙に浮かべて空を飛んだ。
見知らぬ場所に見知らぬ景色、一体私は何処に来たと言うのか、これは色々と探索して情報を集めないといけないな。
《~空中~》
空を飛んで移動しながら周りを見渡したのは良いが、どこを見ても森、森、森、あとは大きな山があるくらいだ。
以前、宿敵である奈落を探すために、東西南北色々な場所を旅して歩いてきたが、このような場所に来た記憶はない。
それに森や山から妖怪の臭いがすると同時に妖気を感じる。だが感じるのは明らかに自分よりも遥かに弱い妖気、俗に言う雑魚妖怪の類いか。
「……ん?」
空中を移動している途中、正面から少女がこちらに向かって飛んできた。
気づいた殺生丸は移動するの止めてその場に留まると、前からやって来た少女も至近距離まで殺生丸に近づいてから空中に留まってくる。
少女は服装はシンプルに黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ、赤い靴は底が天狗のゲタのように高くなっている。黒のボブの髪型、その頭の上には赤い山伏風の帽子をかぶっており、首からはカメラを掛けている。
臭いや妖気、気配や履き物の下駄から想定するからに、この女は天狗の類いか。
「なんだ貴様?」
「どうも、私は清く正しく生きる伝統の幻想ブン屋 射命丸文です。以後お見知りおきよ」
この女に殺気や敵意は一切なく、闘う気はないようだが、どうにも雰囲気や態度が気に食わない。正直こうゆうやつは苦手だ。
「あなた初めて見る顔ですね、名前はなんと言うんですか?」
「答える義理はない。」
「またまた~そんなこと言わないでくださいよ、それと写真取らせて頂きますね」
カメラを向けてシャッターを押そうとした刹那、対象の殺生丸は射命丸の目の前から突然姿を消した。
「あや?」
「それで何をしようとした?」
音も立てずに姿を消した殺生丸は射命丸の背後に腕を組んで立っていた。
自分の背後に殺生丸がいることに気づいた射命丸も驚きを隠しきれず、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべていた。
しかし射命丸が驚いている状態だろうと関係なかったのだろう、殺生丸は自分が気になったことをすぐ射命丸に質問した。
「その首に掛けている箱みたいなものは何だ?」
「これですか? これはカメラと言う写真を取る機械ですよ」
「かめ…ら、きかい?」
カメラ、写真、そして機械、殺生丸に取っては生まれて初めて聞く単語だった。
だが無理もない。戦国時代にカラクリはあったものの、カメラを含めて機械というものは存在しなかったのだから。
「もしかしてカメラと機械を知らないんですか?」
「知らん」
天狗の女の服装といい、機械という見たことがない道具といい、もしかしたらここは自分がいる世界とは異なる世界なのか?
その疑問をはっきりさせるために、殺生丸が射命丸という天狗の女に聞いた質問は。
「おい女、ここは何処だ?」
「ここは幻想郷ですよ、初めて見る顔から察するに、貴方は外の世界から来た妖怪ですね、しかも大分古い時代の」
やはりここは自分がいた世界とは異なる場所なのか、道理で初めて見る景色や臭いがあるわけだ。
それが分かれば私がやるべきことは決まった。それは元居た世界に帰る方法を探すこと、そしてこの世界の情報を集めること。
そうと決まれば早速この幻想郷とやらを巡ってみるのもありだな、私の知らないものが沢山見つかるかもしれない。
「射命丸と言ったか、早速この幻想郷とやらを巡らせてもらおう」
「ちょっと待ってくださいよ、知りたい事を教えてあげたのに私には一文無しですか? せめて貴方の名前くらい教えてくれてもバチは当たらないと思いますよ」
「殺生丸」
そう言い残すと殺生丸は射命丸をその場に置いて再び移動を始めた。
しかし射命丸も新聞記者、名前だけ知っただけでは物足りることはなく、更なる情報を求めるために自分から立ち去ろうとする殺生丸を急いで追いかけようとする。
「ちょっと置いていかないでくださいよ~」
だが、殺生丸は射命丸の声に聞く耳など一切持たない。情報を教えてもらったとはいえ、やはり性格が苦手だったからだ。
ついて来る射命丸を無視しながらも、殺生丸は行く当てもなく幻想郷の空を駆け巡る。
突如として幻想入りしてきた殺生丸、これが幻想郷で繰り広げられる御伽草子の始まりであった。