一部キャラ崩壊注意!
断崖絶壁、そう呼称するのが正しいか。
第2関門ザ・フォール。深い深い谷の間にある小島を繋ぐのはロープ1本、下は底も見えない断崖絶壁。全力で高所恐怖症患者を殺しにくるステージが私の前に立ちはだかった。
トップの轟は凍ったロープを滑り、もう第2関門を抜けようとしてる。続く爆豪、アイツ空飛んでるから穴とか関係無いじゃん!ひっきょ!
あとすっげえカッコ悪いポーズで綱を渡る飯田とかいるが、私はさっき使ったアレがあるのよ。
『龍征、断崖絶壁の前に怖気付いたか?背を向けたぞォ!?』
向きと角度は大体これくらい、一気に飛び越える為に大きいの一発で行きたいから吐いた炎を圧縮圧縮…斜め45度でえ…
「ここで…こうッ!!」
思いっきり地面に向かって炎の爆発を引き起こす!反動で私は大きく後ろに吹き飛んで、その勢いのままみるみる崖を飛び越えた。ちゃあんと後ろに被害が出ないタイミングでやりましたとも。
爆豪のパクリ?HAHAHAなんの事かな、リスペクトだよリスペクト。
『なんと龍征!大爆発の反動を利用して崖を飛び越えようって算段かァ!?』
『炎系は爆発力があるから応用も利きやすい。龍征には開始前に翼竜の使用禁止を伝えておいたが、まさか自力でここまでやるとはな。』
『入試んときのワイバーンか!
じゃあアイツがワイバーン解禁で障害物競走なんてやったら…』
『全部翼竜任せで終わりだ。
龍征は翼竜に任せっきりになるとダラダラやるからな、教師権限で禁止にした。合理的処置。』
『エンターテインメント!』
翼竜禁止の理由そんなだったんか…
『因みに、その翼竜達は俺が預かってる。
猫みたいでなかなか愛嬌あるぞ。』
『さっきから視界の隅で鯖缶食ってんのはソレだったのか!気付かなかったぜ!』
知らん間に餌付けされとるう!
「なっ!?あの女…」
なーんて呑気に実況を聞いてる間に爆豪を追い越して、そろそろ向こう岸に着きそうだ……て、あれ?
あれあれあれ…?
「やっべ、足りない?」
この飛距離だと向こう岸届くかギリなのでは?ぎゃああ横着するんじゃなかった!頼むあとすこし届いて届いてお願いします何でもしますから!
「ァァァあっぶなッ!!」
ギリギリッ!ギリッギリ右手が向こう岸に掛かった!でも片手が掛かればスグ登ってぇ…
「俺をパクんじゃ無ェよクソ金髪がァ!!」
その時、後ろから怒声あげながら飛んできた爆豪が私のすぐ隣に着地した。
結構な速度で着地したから振動が…
ボロッ
「「あっ…」」
思わず爆豪と顔を見合わせる。
一瞬身体がフワッと浮いて…
『おおおお落ちたァァァァッ!?
龍征、爆豪の着地の振動で崖が欠けてそのまま落ちてったァァァァァァ!!』
マイク先生の実況が全てを物語る、掴んでた地面が欠けて私は深い深い谷底へと落ちていく。
「あんの爆発頭がァァァァァッ!!」
力の限り叫んでやった。
落ちてる途中、チラッと綱を渡ってるB組の娘と目が合ったが、今は競走中。助けなんて求めてられん!
このまま終わると思うなよおおおおおおおッ!!
◆
『龍征、奈落の底へ落ちいくゥ!
因みに下には教員がスタンバってて、ちゃんと命は助かるから安心しろよな!』
『アイツがこのままリタイアするとは思えんが。』
クルルル…
『なんだ、まだ食い足りねえのか。』
『甘やかし過ぎじゃね…?
龍征除いた先頭集団は続々と第2関門を抜けてくぞ!
そろそろ落ちた龍征がブラド辺りに助けられて…アレ?連絡来ねえな。』
………ン…
……ガン…
…ガン…ガン…ッ…
『トップの轟は第3関門を半分通過!強個性故に地雷原は慎重にならざるを得ないィ!他の生徒も着々と第3関門に差し掛かってんぞ!
…あー?なんかノイズが聞こえるな…なんだ?第2関門の方からか。』
…ガン…ガン…ガンッ…ガンッ
『…ブラドから連絡来たぞ、龍征はまだ回収されてねえ。』
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
『さっきからガンガンうるせえYO!一体何が…ホワアアアットッ!?!?』
ガンガンガンガンガンガンガンッッ!!
『マジかよ!奈落に落ちたかと思われた龍征、なんと自力で這い上がって来たアアアアアアアッ!?
ソウクレイジィィィッ!!
つーか絵面!怖過ぎんよ!完全に地獄の使いみたいになってんぞォ!!』
『自分の腕を岸壁に突き刺して、ピック代わりに登ってきてるのか…なんつー力業だ。』
『そしてェ!今!奈落の底から龍征帰還ンンンンッ!!この女、文字通り底がねェ!まだまだ終わらねえぞ!』
◆
た だ い ま
あークソッ…失格になるかと思ったぞ!
だいぶ先頭集団から離されちゃったし、爆豪の奴…絶対復讐してやるからな!
走り抜けた先は第3関門、『怒りのアフガン』。流石にスタロー○が立ち塞がって機関銃振り回してはいないみたいだけど、地雷原か…このまま走ってもいいが距離を離されすぎて轟達には追いつけない。前にいるのはざっと20人位だから、本戦に残るにはまだ十分余裕はあるはず…でも才子先輩も見てるんだ、もっと上位でゴールしたい。
「焦るな…焦るな…まだ間に合う…皆早く抜けることを考えてて入口の地雷はおざなりだからそれを利用して…」
その時、地雷原手前でブツブツ独り言呟きながら地雷をせっせとかき集める緑谷に遭遇。
「みーどりや、なにしてんの。」
「りりりり龍征さん!?第2関門突破出来たんだね!」
「おう。爆豪の奴、後で絶対泣かす…」
「あ、あはは…そんな事より僕はやらないといけない事が…」
キョドってるのか目を見て話してくれない緑谷の足下には集めた地雷と、第1関門で邪魔してきた仮想ヴィランの装甲板が転がってる。
「…?あー、ちょいまち。
やりたい事は理解したわ、火力足してやるから私も一枚噛ませて。」
「…!?龍征さんまさか…僕の作戦が分かるの?」
「…ほら、グズグズしてると轟達が地雷原越えちゃうから急いで急いで。」
「わわわわわわわわわ龍征さん近い近い!胸!胸当たってる!」
「細かい事気にすると禿げる、行っくぞお!」
恐らく緑谷は装甲板を盾にして、地雷を一斉起爆させた推進力で一気に前まで飛ぶ腹積もりなんだろう。なので私もそれに便乗させてもらう。
下から装甲板、緑谷、私の順になるように挟みこんで…
圧縮したブレスを緑谷が積み重ねた地雷原に向けて炸裂させた。
地雷の爆発+私の炎による圧縮爆発により起きた超爆発はキノコ雲を作る勢いで周囲を揺らし、その衝撃に吹き飛ばされて私と緑谷が他の選手のはるか頭上を一気に飛び越える!
『やりやがったぜ龍征の奴!それから緑谷!
地雷と炎の衝撃で一気に前方へカっ飛んだァ!緑谷そのポジション色んな意味で羨ましいぞ!』
緑谷ぁ?ああ、身長差あるから必然的に私の胸に埋もれる形になってるけど、んな事は知らん!
「~~ッ!!〜〜…ッ!!」
「私はちょっと用事あるから、緑谷パージするよ。じゃあね。」
「んーッぶはっ!?龍征さん!?」
「アリーヴェデルチ、さよならだ!」
爆発の勢いは凄まじく、何故か地雷原で格闘戦してる轟と爆豪を追い抜いたのを見計らって、私は緑谷に別れを告げる。
「龍征…!」
「俺の前を行くんじゃねェデクゥ!!」
「悪いけど、爆豪はさっきの仕返しだ。恨むなよ。」
着地の瞬間、右手に込めた炎を地面を這わせるように解き放つ。するとどうなるか?
疾る炎が地雷を纏めて傷付けて、爆音と共に轟と爆豪がピンクの煙に呑み込まれた。
『本日2度目の大・大・爆・発だァ!
A組龍征、なんと後続妨害の為に地雷をわざと起爆させやがったァ!』
『地面を這わせるように火炎を…
地雷の連鎖爆発で後続は滅茶苦茶だな。逆に自分は爆風で加速、実に合理的な判断だ。』
「ザマーミロ爆豪!あばよとっつぁーん!」
「ぶわはッ!!?あンのクソ女ァ!!」
「くっそ…!」
『スゲーなA組!
イレイザーお前どんな教育してんだ!?』
『俺は何もしちゃいねえよ、アイツらが勝手に焚き付け合ってんだ。』
『雄英高校体育祭第一種目、障害物競走!
数多の生徒の中から知恵と体力とほんの少しの運で1位にのし上がったのはァ…なんとォ…』
A組、緑谷出久ゥゥゥ!!
スタジアムが割れんばかりの大歓声に包まれる。
結局あの後、私のダメ押し地雷起爆で更に勢いのついた緑谷はトップに躍り出て、そのまま1位になった。私は2位、轟3位の爆豪4位という結果に収まり、障害物競走は幕を閉じる。
上位42名が本戦進出、という結果を受け先ずは一安心かな。
「おつかれ帝。」
「響香もお疲れ。A組は全員本戦出場してるみたいだ、やったね。」
「ウチはアンタの起こした誘爆に引っ掻き回されてた所を上手く抜け出せたからね。」
「いやー崖から落ちた時は流石にダメかと…緑谷の策に乗らなかったらヤバかった。
お、心操も本戦残ってんじゃん。」
「ホントだ、普通科じゃアイツだけみたい。普通科なのに中々ガッツあんね。」
個性を上手く使ったんだろう、いい事だ。
前おっぴろげの百は何故かげんなりして落ち込んでた。聞いてみると、途中からブドウが背中に張り付いて付いてきたらしい。あのもぎもぎにそんな使い方あるんだ。
「くっ…情けない…
峰田さんに最後までいい様にされてしまいました、こんな筈では…」
「ど、ドンマイ百。次頑張ろ?」
「また峰田か…いい加減制裁考えておかないと…」
「響香?目が据わってんよ?」
「………」
ふと、何処かを睨み付ける轟の姿が見えた。その視線は観客席に向いていて、その先には見るからに暑苦しそうなオッサンが居る。
コスチュームどころか髭まで燃えてる、歩く地球温暖化かよ。オールマイト先生ごめん、貴方よりアイツの方が物理的に数倍暑苦しいわ。夏場絶対に遭遇したくない。
確かアレはフレイムヒーロー『エンデヴァー』だったかな、オールマイトに次ぐ実力派のヒーローだ。
轟に声をかけようと思ったけど、ハイテンションな透と三奈に捕まってしまったので構ってやれない。
あの目、やっぱり引っかかるんだよねえ…
◆
「どうやら無事に帝は予選を通過した様ですね、叔父様。」
「崖から落ちた時はヒヤヒヤしたけどネ。」
「あんなにはしゃいで楽しそうにする帝は初めて見ました。やはり雄英に行かせて正解でしたわ。
ああ…本当に良い表情…うふふふふ…」
パシャシャシャシャシャ…
「んー取り敢えず一眼レフのシャッター切るの止めない?まだ予選だヨ?」
「フィルムの予備は大量にありますから無問題ですわ。」
「そういう問題カナー?」
◆
「焦凍、またお父さん睨んでる…やっぱりこの大会で炎を使う気は無いんだ…」
「冬美さん…?どうかしました?」
「ううん、何でもないの。
今日は誘ってくれてありがとう、香子ちゃん。
…ちゃんと向き合わないと駄目だよね。」
◆
10分程の休憩の後、ミッドナイトから第2種目の発表がなされた。
2種目めは騎馬戦、各々2人~4人でチームを組んで、それぞれ予選の順位に合わせた得点のハチマキを奪い合う争奪戦だ。
ポイントは42位が5ポイントで、そこから順位が1上がる事に5刻みで増えていく。
という事は2位の私のポイントは205ポイント、そして気になる1位のポイントはなんと…
1000万ポイントよッ!!
あ、緑谷が吹き出した。
明らかに桁の違う得点、騎馬戦でそれを持つということはつまり…
『どんな順位からでも1位になれる…!』
緑谷を見つめる全員の目が修羅となった瞬間である。
産まれたての子鹿の様に足を震わせる緑谷、勝っちゃったのだからしょうがない。ほらほらプルスウルトラってやつよ。雄英に受難は
…漢字が違う?良いんだよコレで。
というわけで、15分間のチーム決めの交渉タイム。
さー誰と組もうかなっと…取り敢えず響香誘って…
「ゴメン、ウチもう葉隠の所と組んじゃった。」
なん…だと…!?
「えー…じゃあ百…」
「私は轟さんの所へ誘われました。
それに…帝さんは2位です。緑谷さん程ではないにしても、高ポイントの貴女と組んで下さる方は少ないかと。」
やだ、私の人徳…低過ぎ?
どうしよどうしよ…爆豪ん所はダメだ、目の敵にされてるし。彼処で泣いてる緑谷の所へ行くか…?でも1000万のリスクヤバいし…
「…………」
…は?
「…………」
んんー…?
突然である。
確かB組の子だ、髪の毛が茨の蔓の様に伸びてる女の子。何故か私の目の前で綺麗な土下座を敢行していた。
「えっ…」
「……せんでした。」
「は?」
「申し訳ッ御座いませんでした…ッ!!」
女の子が顔を上げた、むっちゃ泣いてた。
まあ待て落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ。素数は自分でしか割ることの出来ない孤独な数字、私に勇気を与えてくれる…いや今は別に勇気とか要らないわ。
中学生の頃なら兎も角、高校入って暴れた記憶は一切ない!…無いよね?まして隣のクラスの子だ、尚更変なことしないよ。じゃあ何故…何故…
「B組の子よね?
…何で開幕土下座してんの?」
「私は…救えませんでした…
競技の場とはいえ、崖に落ちる貴女を。
私の個性なら救えたのに、救おうとしなかった…自身の保身の為に貴女を見捨ててしまった…!
貴女は皆の為に仮想ヴィランを打ち倒した、個人勝負なのに、鉄哲さんと共に堂々と皆を救ってみせました!
神の前で誓ったのです!私はこの個性に産まれた時から、人を助けるヒーローになると!なのに…なのに私は…」
ああ、そう言えばこの子、私が崖から落ちた時目が合った女の子だ。名前は確か塩崎茨。
どうやらあの時私を助けなかった事を悔いている様で、こうして土下座を敢行しているらしい。
いや公衆の面前で土下座とか止めろよ…私がさせたみたいだからさ…たしかに昔、書記ちゃんと買い物してた時ナンパしてきたチャラい大学生10人くらいボコボコにして土下座させたけどさ…アレは私の身体目的で絡んできた向こうが悪いわけで。
取り敢えず、尚も顔を下げっぱなしの茨ちゃんの頬に優しく手を添える。
「顔を上げなさい。」
「……」
「女の土下座は宜しくないから。ほら涙も拭いて、綺麗な顔が台無しになる。」
「ぅ…はい…ッ!!」
「貴女は悪くない。ヒーローを目指すんだから、時には矜持を曲げないといけない時もあるわ。
大事なのは、後悔を忘れない事。」
「貴女も…後悔した事があるのですか…?」
「あるよ、沢山。
でも雄英はよく言うだろ?『
甘えも妥協もすればいい、でも途中で諦めるのだけは駄目だ。難しい事だけど、天下の雄英に入学出来た貴女ならできないはずは無い、違う?」
「……ッ御姉様!」
外行きの笑顔で必死に表情筋動かしながらフィーリングで喋り、胸に飛び込んできた茨ちゃんを抱き留める。その光景は思いっきり他の連中にも目撃されていた訳で…
「し、塩崎なんで号泣してんの?」
「わからん…A組の奴と抱き合ってるケド…」
「マリア様が見てる的なアレか?」
「き…キマシタワー!」
テンション上がってるブドウは後で殴ろう。良くわかんないけど、そうしなきゃいけない電波を感じた。
「御姉様、私をチームに加えて下さい。きっと力になってみせます…!」
「ええ、ありがとう。塩崎さん。」
「そんな…気軽に茨とお呼び下さい。」
「そう、宜しくね茨。」
「ッ!!…はいっ!」
花が咲くような笑顔で頷く茨ちゃんが仲間に加わった!
そんでもう1人は…
「おーい心操、一緒に組もうぜー。」
「来ると思った、良いぞ。」
二つ返事で許可を貰った、流石マイフレンド。
「コレで3人、あと一人欲しいところね。」
「それに関しちゃ大丈夫だ、ほら。」
心操の後ろを虚ろな瞳でとぼとぼ歩いてくるのは…
「鉄哲?…お前、洗脳使ったな。」
「ああ、簡単に返事してくれて助かったよ。」
抜け目ない心操、もう駒を手に入れていた。けど鉄哲なら普通に頼めばOKくれそう。
「洗脳解きな、私から直接話すから。」
「…いいのか?操ってた方が素直に動くと思うんだが。」
「いいから、ホレ。」
「わーったよ。」
ふっと心操が視線を外すと、鉄哲の瞳に光が戻る。戻った途端キョロキョロと慌てて辺りを見回して挙動不審。
「ああッ!?一体何が起こったぁ!?」
「よう、鉄哲。
率直に言うけどさ、騎馬戦私達と組まない?」
「龍征?気持ちは嬉しいが俺達ぁA組とは…」
「茨も協力してくれるんだって、それに私のチームはA、B、普通科だって混合さ。
んで、自慢じゃないけど私ってばA組のトップだから。確実に決勝まで勝たせてあげる。
A組の力を使って、真正面からA組を叩きのめす…アンタはどうする?」
「……分かった!A組でもお前なら信じていいぜ、龍征!お前には仮想ヴィランの時の恩もあっからなァ!」
これで騎馬は揃った!
クラス混成チーム、でも鉄哲と茨ちゃんの個性なら轟の企んでそうな事は阻止できるはず。
上鳴と百が居るんだもんな、やりたい事はバレバレよ。
四人の合計ポイントは630、意外と高い。守りに徹しても十分勝てるだろうけど、やるからには欲しいよね、1000万。
「勝ちに行くぞ、覚悟はいいか?私は出来てる。」
「おうよォッ!!」
「はいっ!」
「ああ…」
さあ、
塩崎と鉄哲こんな奴だっけ?作者は訝しんだ。