帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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はい捏造設定、独自解釈、その他諸々あるから注意







17 準々決勝終了

物心ついた時、父を見て最初に思ったのは酷く冷たい印象。

No.2ヒーロー『エンデヴァー』。その肩書きを持つ私の父は家族に対してとても冷淡で、愛情表現なんてまったくと言っていいほどしない。そんな父と、正反対に明るくて優しい母がどうして彼とくっついたのか、理由を聞かされるまで分からなかった。

 

『個性婚』

 

強い個性を持つ者同士を結婚させて、産まれる子供の個性を更に強化する倫理観の欠落した発想。私の母はその思惑で父と半ば強引に結ばれた。

個性婚を初めて母から聞かされた時、嫌悪感もあったし、そんな理由で母を選んだ父にも少なからず不快感を覚えた。だから幼い私は思わずこう言ったの。

 

「おかあさんはおとうさんが嫌いなの?」

 

って。

 

そうしたら、母は困ったように笑いながら私の頭を撫でて、優しく抱きしめた。

 

「どうかなあ…

確かに周りからは色々言われたし、最初は納得出来ないことも沢山あったたけど、貴女や燈矢達が産まれてくれたから。

貴女達を見る度に、嫌な事とかどうでもよくなっちゃうの。

一緒に居られるだけで、あの人とくっついたのも悪くないかなって思う。」

 

産まれてくれてありがとうね、冬美

 

 

 

窓の花瓶に掛かる、母が一番好きだと言っていた花をちらりと眺めながら呟いた。

 

父はヒーロー活動で家には殆どいないし、会話も殆ど無い。たった一人で私や産まれたばかりの夏雄の面倒を見ている母の手は温かくて、安心した。

 

 

 

 

そんな日々も、焦凍が産まれてから一変してしまう。

()(氷結)、両方の個性を持って産まれてしまった末っ子、焦凍は父から『最高傑作』と称され、6歳になったのを境に毎日泣きながらヒーローになる為の特訓に励んだ。

声を掛けようにも私達も会う事を極力避けられて、あの子はどんどん一人で孤立していく。そんな焦凍を止める為に母は何度も父に懇願したが聞き入れられず、母の心はすり減っていった。

 

そんな日々が続き、遂に限界に達してしまった母は焦凍の顔に熱湯を浴びせてしまい、病院へ入れられた。

重傷だった焦凍を置いて、母を病院へ閉じ込めた父は表情一つ変えずに私にこう言ったの。

 

 

 

「焦凍には何も話すな、あいつは完璧でなければならん。」

 

 

 

その無表情の裏にどんな感情が燻っていたのか、当時の私には分からない。

父は事の顛末を焦凍に話し、それ以降焦凍は父と会話する事も、食事を共にする事も無くなった。きっと父は焦凍に冷たく当たって、責任を全て自分で背負い込んでしまったんだろう。

 

それ以降、父は家族から孤立していった。

 

何かを忘れるよう必死にヒーロー活動に取り組む父。

消えない因縁を抱えたまま焦凍は雄英高校に進学し、父を憎んだままヒーローを目指している。

 

 

私は、どうすればよかったんだろう…

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

君の…力じゃないか…ッ!!

 

 

 

 

 

 

ボロボロの体を引き摺りながら絞り出した少年の叫びは、焦凍の心に火を付けた。

左半身か憎かった筈の父譲りの(ほのお)が吹き上がる。凍り付いた右半身を溶かし温めながら、熱気と冷気を交互にスタジアムに振り撒く焦凍は今まで見た事ないほど晴れやかな表情をしていた。

 

『なりたい自分』になればいい

 

母が昔私にも言ってくれた言葉が頭の中で何度も響く。

焦凍はやっと、自力で父の呪縛を断ち切ったんだ。

 

自分でも気付かないうちに、涙が頬を伝っていた。顔が熱くなって、どんどん零れ落ちてくる。

 

「ハンカチです、冬美さん。」

 

「ごめんね、ありがとう香子ちゃん…」

 

「強い子なんですね、弟さん…

1回戦の時とは表情が全然違います。」

 

「うん…うんっ…!私の…自慢の…弟だよ…っ!」

 

一番近いはずなのに…私はあの子に何も言ってあげることが出来なくて…なあなあのままずっと…私は父と焦凍から目を背け続けてきた。

あの子の氷を溶かしたのは家族(わたしたち)じゃなくて彼だ。

 

「緑谷くん、ありがとうね…」

 

体育祭が終わったらちゃんと話そう。

今までの事と、これからの事と…お母さんの事も。

私も前に進まなきゃいけない。

 

そう決心した私は、涙で濡れる視界の奥で戦う弟の姿を目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟と緑谷が巻き起こした大爆発はスタジアムを大きく揺らし、舞い上がった水蒸気が視界を覆い尽くす。両隣の響香と百が悲鳴を上げて、観戦席に突風が吹き荒れた。

 

吹き出した炎を一気に冷やして起こす水蒸気爆発…でもそれは、アクセルベタ踏みの炎を制御せずに氷で抑え込もうとした結果だ。本当に使うの嫌だったんだな轟の奴、炎の制御に関しちゃまだ私に分があるか。

 

煙が晴れて、リングに残っていたのは轟1人。手脚がバキバキに折れた状態の緑谷は壁に叩き付けられ気絶してる。本当に酷い個性だ。

 

ミッドナイトが轟の勝利を伝え、一拍置いて会場は最高潮の盛り上がりを見せる。気絶した緑谷は救護ロボットに運ばれて行って、それを見たお茶子と飯田が席を立ち上がったのを私は呼び止めた。

 

「ちょいまちお茶子、緑谷んとこ行くんならこれ持っていきな。」

 

「へ?これ…さっきの屋台の焼きそば…?」

 

「リカバリーガールの個性で治療するのに体力を使うんでしょ?だったら食べ物持って行った方が回復早くなるはず。温めるから待って。」

 

「…うん!ありがとう帝ちゃん!」

 

「龍征君は行かないのか?」

 

「私?ん〜…いいや。次アンタと試合だし、準備あるから。」

 

「…そうか、お互い悔いの無い戦いをしよう!」

 

「おー。」

 

「緩いな!?」

 

私はハンドクリーム塗らないとだしねー、家に忘れてたから今まで手がガッサガサだ。

手早く焼きそばとたこ焼きを両手で温めてお茶子に渡してやる。ブドウや切島、梅雨ちゃんも一緒に医務室について行くようだ。

 

 

「なー爆豪。」

 

「……あんだよ。」

 

「緑谷っていつもああなの?」

 

「ンで俺に聞くんだクソが…」

 

「だって幼馴染なんでしょアイツと。

個性が制御不能なのもだけど、緑谷の奴、誰かを救うのに躊躇いが無いっていうか、自分の事放り出して誰かを助けようとしてる。ヒーローとしちゃ間違ってないけどかなり危ないよアレ。」

 

「ッ…知るかよ、俺にデクの話振るんじゃねぇクソ金髪。」

 

爆豪の表情が一瞬険しくなったのは思い当たる事があったんだろう。もっと聞きたかったけどこれ以上会話すると殴りかかってきそうだったので止めた。爆豪の手が壊れたら試合できないからね。

 

ともかく次は私と飯田か…あのレシプロどうすっかなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リングの修復、終わったよ。』

 

『サンキューセメントス!

さァ会場の修理も終わったところでェ…準々決勝第二試合、始めようぜエ!!』

 

『1戦目はまんまと嵌められちまった可哀想な男!A組、飯田天哉!』

 

「くっ…忘れて欲しいッ!!」

 

『そんでもって対するはァ…上鳴を一撃で沈めたA組の女番長!龍征帝!』

 

「女番長…解せぬ…」

 

スタジアムいっぱいに広がる歓声を浴びながら、今開始のゴングが響く。

 

「速攻で決めさせてもらうぞ、龍征君!」

 

「よっしゃ来ーい。」

 

「本当に緩いな君は!?」

 

レシプロ…バーストッ!!

 

脹脛に着いたエンジンが唸りをあげて、一気にトップスピードに達した飯田はあっという間に龍征の眼前に迫る。

 

(!?これは…不味いッ!!)

 

帝の口元に赤い物がチラついた瞬間、悪寒にも似た何かを覚えた飯田は本能のまま踵で思い切りブレーキを踏み、90度方向を変え横っ飛びしてそれを避けた。

その直後、赤い波が先程まで飯田の走っていた空間を飲み込んでいく。

 

「うわ、避けたよ。やっぱり速いなーソレ。」

 

「くっ…うお!?」

 

帝の吐いた火炎放射はまだ生きている。

まるで蛇のようにうねりながら、彼女の指の動きに従って炎が踊り飯田に襲い掛かった。速さはそれほどでもない為レシプロ状態の飯田ならば逃げるのは容易い、だが何かが引っかかる。

 

「今回はちゃんとハンドクリーム塗ってるから、安心して炎使える。

さあ、あと何秒持つかな…?」

 

(くっ炎が…!

まさか彼女は…レシプロが切れるまで遠距離戦をするつもりか!)

 

その通り、帝は自分と飯田の間に常に炎を挟んで一定の距離を保つように動いていた。

レシプロバーストはエンジンの回転数を無理やり上げて速度を出す自爆技だ。爆発的な速度を生む分、冷却等の対策をしないと数十秒程度でエンジンがオーバーヒートを起こし、極端に遅くなってしまう。

一度エンストを起こしてしまえば飯田は個性を使えなくなると言っても過言ではない、1回戦や障害物競走でも分かる通り、素のフィジカルで勝る帝を相手にすればどうなるか想像に難くないだろう。

 

(レシプロが切れるまであと8秒と言ったところか。功を焦り過ぎた…失態だ。兄さんも見ているかもしれないのに…)

 

「さあ遠距離戦といこうじゃない…のっ!」

 

追加の炎を吐き散らす帝の振り下ろした右手に呼応して、アーチを描くように跳ねる炎の塊から逃げ回る飯田。

 

『スゲーッ!?炎が踊ってるぜェ!

A組龍征、吐いた炎を操って飯田を寄せ付けねえぞ!』

 

『飯田は個性の性質上近接に頼らざるを得ない、騎馬戦で見せたレシプロは持続力がない上にデメリットが大きいようだからな。切れるまで近寄られないよう徹するのが合理的だ。

今は速さで勝ってるから避け続けられてるが、リミットは近い。さあ、どうする…?』

 

(どうすればいい…!

残り6秒…切れたら確実に負ける、この状況を打開する為には…)

 

…あるにはある。

火傷にならないように調整しているのか、帝を守る様に渦巻く炎の層はそれほど厚くない。更に自身の身の丈より大きい炎のせいで視界も悪いだろう。ならば飛び交う炎を突っ切って不意打ち…それしか勝つ手段は残されていないと飯田は悟った。

 

(頭では分かっている…分かっているんだ、だがっ…!)

 

 

怖い

 

 

炎とは生き物が本能的に恐れる物のひとつである。野生動物は勿論、人間だって余程の訓練や経験を積んでいない限り、大量の炎を見れば身が竦んでしまう。ましてや彼はまだ高校一年生。掠める度に身を焦がす熱、頬に当たり続ける熱い風、走っていても感じる炎への恐怖を飯田は拭えないでいた。

 

そうこうしているうちに残り3秒、脹脛が妙な音を立て始める。こうなってしまったらエンストまで秒読み段階だ。

避け続けているうちに、ゆらゆら揺れる炎の向こうで飯田と帝の視線が交差した。

 

彼女は笑っている。

 

余裕の笑みでは無く、かと言って嘲笑している訳でもなくて。

 

乗り越えて見せろよ、と笑っている。

 

(試しているのか…僕を…ッッ!!)

 

勝つ為には炎の恐怖を超えるしかない、それしか勝ち筋は残されていないのだ。

必要なのは『覚悟』だ。

 

(負ける訳には…いかない…!

この戦い、『覚悟』が道を切り拓くッッ!!)

 

「おおおおっ!!」

 

踵で地面を踏みしめ思い切り方向を切り替える。一拍遅れて炎が着弾したのを合図に、飯田は龍征の下へと一直線にひた走った。

 

「…!!」

 

即座に反応した帝が指を動かし、後ろから炎が追いかけて来る。背中にチラつく熱が恐怖を煽るが、「こちらの方が速い。」その確信が飯田の脚を止めなかなった。

 

「プルスぅ…」

 

両腕をクロスし顔を守る。

 

飛び込むのは赤い波

 

乗り越えるのは灼熱の壁

 

「ウルトラアァァァッ!!」

 

覚悟は炎を突っ切って、飯田は帝の前へと姿を現した。

 

 

『飯田生身で炎を突っ切ったァ!?そのポーズTMR的なアレ?

火事に飛び込むようなモンだぞ!』

 

『アレが奴の覚悟だよ。火事場に飛び込む勇気…ヒーローに欠かせない素養の1つ。

まあ、物理的に飛び込んでるのは初めて見たが。』

 

両腕どころか四肢が焼け付くように熱いが残り2秒、向こうに待つ本体へと手を伸ばす。掴んでしまえばあとは速度に任せて投げ飛ばせばいい!

 

「わっ。」

 

「届くッ!!…なっ!?」

 

それでも、紅い瞳は笑っていた。

再び走る悪寒と共に目の前…ちょうど腹部の辺りに熱を感じた。局所的に蜃気楼が起きているのか視界が揺らぎ、膨大な熱の塊がそこ一点に収縮しているのが分かる。

 

ボンッ!!と何かが破裂する音と共に目の前が白に染まった。

 

「がは…っ!?」

 

何が起こったかも分からぬまま飯田は後ろに弾き出され、場外まで飛ばされ芝生に尻餅を突く。

会場が静まりかえる中、半ば動揺しながらミッドナイトの宣言により勝者が告げられた。

 

『い、飯田君場外…龍征さんの勝利!』

 

溢れる歓声と共に、帝は場外へ倒れている飯田に向かって手を伸ばす。ミッドナイトが「青い!青いわ!」とか言っているがこの際気にしてはいけない。

 

「お疲れ様、いい覚悟だったよ飯田。」

 

「龍征君…今のは一体…」

 

「ん〜今はまだ秘密、コレ結構奥の手だったんだけどな。びっくりして使っちゃった。」

 

「そうか……ともあれ僕の負けだ。準決勝、頑張ってくれ!」

 

「おう、がんばる。」

 

「やっぱり緩くないか?」

 

「こんな性格だからしゃーない。」

 

へにゃっと笑う龍征。

お互い笑いながら、飯田は伸ばされた手を握った。

 

 

 

 

『飯田を破り、準決勝へ進出したのは龍征!

あいつホントに底が見えねえなァ解説のミイラヘッド!』

 

『混ぜるな…

炎という個性の特性上、応用という点で見れば龍征は頭一つ抜けている、さっきの小爆発もその1つだろうな。だが今回はトーナメントだから戦う度に個性の幅は後の対戦相手に知れていく、他の連中はどう攻略するか…』

 

『さァドンドン行こうぜ〜!!

お次はB組塩崎VSA組常闇だァ!』

 

『…話聞けよ。』

 

 

(予想していた通り、準決勝の相手は龍征か。

…緑谷に言われた事がずっと引っかかる、俺は…どうしたら…ッ)

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおお姉御ぉぉぉッ!!」

 

「戦う姿もお美しいっス!オイちゃんと録画してっか!?」

 

「ったりめぇだスカポン!何の為に叔父貴から4Kのビデオカメラ渡されたと思ってんだ!」

 

「貴様等喧しいぞ!静かに観戦しろ!」

 

「エンデヴァーさんだって前の戦いじゃ叫んでたじゃ無いですかァ〜?」

 

「……俺はいいんだ。

お前達、妙な真似をすれば即座につまみ出すからな!」

 

『ウッス!!』

 

息ピッタリの男共はやいのやいのと歓声を上げながらリングを去っていく帝をビデオカメラに収めている。

帝に再三注意された彼等は結局、エンデヴァー監視の下立見席で雄英体育祭を観戦していた。彼等の特徴的な髪型と全員同じツナギで初めは周りの観戦者達から訝しげな目で見られはしたもの、今ではすっかり場に溶け込んで熱狂している。たとえ何かが起こっても「エンデヴァーが傍にいるなら何とかしてくれる」という安心感もあるのだろう。

 

そんな感じですっかり彼等のお目付け役になってしまったエンデヴァー。実は彼も、息子である焦凍が殻を破りずっと忌避していた左の力を使った事に歓喜し、緑谷戦では周囲の目もはばからずに思わず叫んでしまったものだ。

 

(やっとお前は俺の完璧な上位互換となった。

オールマイトでは届かぬ高みに焦凍は必ず辿り着く!フフ…流石我が息子だ。

それにしても…)

 

物憂げに考えるエンデヴァーの瞳は、先程まで自分と同じ『炎』の力で同級生を圧倒した少女の姿を捉えていた。

 

(吐いた炎の持続力、操作性、申し分ない出来だ。

それに()()()()()()。焦凍にとってこの上ない刺激となるだろう、今年は『当たり』だな。)

 

彼の思考は加速する。

息子のこれからの事、そして将来設計。伴侶を選ぶなら誰にするのが一番良好か?焦凍の個性に負けないような素晴らしい個性を持った相手を選ばなければ釣り合わない。

 

(その点、彼女は候補に上がるかもしれん…炎を使うという点でも俺の理想と合致しているしな。)

 

帝はかなりの美女である。まだ高校一年生だというのに大人びた高身長にスタイルも抜群で、世の女性が羨むであろうきらびやかな長い金髪と、ルビーのような紅い瞳。十人に聞けば全員が「美しい」と判断するであろう容姿は将来プロヒーローになってからも引く手数多だろう。性格面も問題無い、先程出会った時怯まず丁寧な対応をされたあたり彼女が出来た女性であるとエンデヴァーは判断していた。

高身長でガチムチ、しかも常時物理的に燃えているエンデヴァー。本人が威厳を示す為に威圧感を出しているのもあるが、それ故に初めて話す相手は必ずと言っていいほど怯え、大抵が挙動不審になる。しかし帝はちゃんと此方の目を見てハキハキと喋っていた。それがかなりの好印象だった。

 

(あのような子がまさか餓鬼道から生まれるとは…分からんものだ。まだ確定とはいかんが、焦凍との試合次第だな。)

 

焦凍の将来を考えるにあたり、彼は同じヒーロー科A組の女子の情報をとあるツテからある程度仕入れていた。そこには勿論帝の情報も載っていたし、彼女が問題児の集まる餓鬼道中学校出身という事も判明している。

教員でも手が付けられない程荒れていた不良達を纏めるカリスマ性は将来期待出来るだろう。

 

…正直な話、息子の為とはいえ同じクラスの女子の情報を調べ上げるとかどんな不審者だと総ツッコミを受けるだろうが、これも息子の為だ。歪んでいるがこれも親としての愛情なのだ、異論は認めない。

美しい容姿に強力な個性、天が与えた二物を持つ少女。彼女ならば息子の妻に相応しいかもしれないと、半ば確信を持って轟炎司(親バカ)はほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どしたの才子チャン、さっきまでの笑顔は何処へ?」

 

「いえ…あくまで私の勘なのですが、帝に近寄ろうとする輩がいます。消しておかないと…」

 

(ええ…怖っ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝第3試合、塩崎VS常闇。

 

序盤は終始優勢な常闇だったけど、防戦一方だった茨ちゃんが伸ばしたリング下のコンクリートを掘り進む蔓に背後を取られ身体を拘束された。黒影は強力だけど、本体をやられちゃおしまいだ。抵抗出来なくなった常闇はあえなく降参し、茨ちゃんの準決勝進出が決まった。常闇はフィジカル面が今後の課題ね。

 

そんで準々決勝最終戦、鉄哲VS爆豪なんだけど…

 

 

「死ねクソモブがァッ!!」

 

「煩ぇテメーが死ね!」

 

お互い罵倒し合いながら殴り合いを繰り広げてる、2人の相性は最悪だった。

個性〝スティール〟によって全身鋼鉄の塊と化した鉄哲を爆豪が爆破し続ける地獄絵図。地獄に行ってもこんな不毛な争いは拝めんぞFUFU☆と伝説の超野菜人の親父ィ…が言ってそうなこの戦い。なんとなんと、この膠着状態で もう10分近く経ってる。お互い罵倒しながら…しかも個性全開でだ、どんなスタミナしてるのよ。

 

「…そろそろかァ?」

 

「ああ?何言ってやが(BOMB!!)ぐおっ…!?」

 

「テメーの硬化はウチのクソ髪と被ってんだ。被ってンなら…ずっと気ィ張り続けてりゃどっかが綻ぶだろうよ!!」

 

不敵に笑う爆豪、どうやらわざと鉄哲を挑発して全力で個性を使い続けさせたらしい。個性は身体能力と同じだから、鉄哲もずっと硬化する事はできない。時間が経つにつれ、硬度に綻びが生まれたようだ。それを爆豪は狙っていた。

 

…本当に挑発は作戦に入ってたんだろうか、素で喧嘩してる様にも見えたけど。

 

「全ては爆豪さんの策の上、という事ですか…」

 

「ええーホントにござるか〜?」

 

 

 

 

 

「死ねェッッ!!」

 

「ぐっ…おおおおおおッッ!?」

 

そこから始まった爆豪怒涛の猛ラッシュ、爆破に次ぐ爆破により遂に鉄哲は吹っ飛ばされた。

リング際の攻防、一方的に爆破され続ける鉄哲にB組からの声援が聞こえる。

 

「耐えろ鉄哲ゥ!!」

 

「首席なんかに負けんな!」

 

「気張れ鉄哲!漢だろぉ!」

 

最後のは切島やんけ

 

「しっつけえんだよクソモブがァ!」

 

「さっきからモブモブ煩えよ爆発頭…!」

 

「んなっ!?」

 

なんと、鉄哲は爆豪が止めとばかりに繰り出した右の大振りを受け流した。

 

『おぉーッ!?鉄哲、爆豪の止めの一撃を受け流しリング外に押し出したァ!』

 

勢いのまま爆豪はリング外に倒れ込む、このまま手が着いてしまったら爆豪の負けだ。

相手を挑発していたのはお互い様だったみたい、お互い迫真の演技で…いやそれもうマジの喧嘩やん。

 

だがしかし

 

「くっっ…ソがあああああッ!!」

 

BOMB!!

 

手がリング外に着く直前、空中で起こした爆発の反動で大きく後ろに飛んでリングアウトを回避した爆豪。そしてそのまま鉄哲の腹に両手で爆破を打ち込んで吹き飛ばし、壁に勢い付けて激突した鉄哲は気絶して硬化が解けた。

 

『鉄哲君場外!爆豪君の勝ち!』

 

とっさの空中爆破からの体勢整えて反撃とか、普通に爆発させただけじゃできないよ。どんだけ個性の制御上手いのよ。

…いや、アレはどっちかっていうとセンスの問題か。上鳴が才能マンなんて言ってるのも頷けるね。

努力もして才能も持ってるのに、なんで性格がアレなのかねえ…

 

「ひえー今の動きえげつなかったな…」

 

「かっちゃん、更に爆破の制御が上手くなってる。きっと沢山努力したんだ…」

 

「お、緑谷戻ってたんだ。おかえりー。」

 

「あ…うん、ただいま龍征さん。や、焼きそば美味しかったです…」

 

壊れた腕にギプスを付けた緑谷がぎこちなく返してきた。お茶子の話だと手術するって話だったらしいけど、無事だったみたいね。

 

「あ、そうだ。ありがとうね緑谷。」

 

「りりり龍征さん近ッ…何が…?」

 

「轟のこと、()()()()()()()()()()()()?緑谷は強い子だなーもー。」

 

緑谷戦の後、轟から出てた威圧感や殺気が消えてた。

そして今は席の隅っこで1人考え込んでいる模様、緑谷と戦ったとこで何かしら心境の変化があったんだろう。いい事だ。

 

「いや僕はあの時はアドレナリンドバドバで…自分でも生意気なこと言っちゃったなって思ってるっていうかふもがっ!?ーッ!!〜〜ッ!?」

 

「デクくんが帝ちゃんの胸に埋もれとる!?」

 

おっと、感謝の余り思わず緑谷を抱き締めてしまったぜ。このサイズ、中々の抱き心地だな緑谷。エリザベス(長年愛用してる私の抱き枕)と同じくらい。モジャ髪も良い感じで撫でやすいし、ええですなあ…

響香、「またコイツは節操無しに…」とか言いたそうな目で睨まないで。

 

「でもな緑谷、身体壊す個性はよろしくないぞ。戦う度に身体ボロボロにしてたらヒーローになる頃には車椅子生活だろ。」

 

「う…うん。それは…何か対策を考えないと…」

 

「その個性、ほんとパワーだけならどっかの筋肉先生そっくりなのよね。」

 

「そそそそそそそうかなあ!?しょんな事ないとおおおお思うよぉ!?」

 

要は力の回し方と加減の問題じゃないかなあ?ガスコンロに例えると今の緑谷は()()()()()()()()()()感じだ、ツマミを回すみたいに火力調節できるようになれば毎度毎度スプラッタな骨折場面を見なくて済むんだけど。

緑谷は遅咲きの個性で体が追いついていないらしいし仕方ないかー。

 

「あの…龍征さん…」

 

「…んー?」

 

「そろそろ離してくれないかな…皆見てるし…なんか峰田君が呪詛吐きながら僕を睨んでくるんだけど…」

 

「悪い悪い、考え事してた。

いや、緑谷の抱き心地が良いのが悪いんだよ、ウン。」

 

「僕のせいなの!?」

 

『だ…抱き心地ィ!?』

 

一部男子が雷に打たれたような表情してるけど一体どうしたというんだ…

因みに緑谷を解放したあと、準決勝始まるまで時間いっぱい響香と百からお説教を食らってしまった。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑谷が気付かせてやったんだ、()()()くらいは私がやるよ。」

 

「…うん、ありがとう。」








次は轟戦

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