帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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2 私が高校に上がるまで:後

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都内某所、誰も近寄らないほど煤けた土地に唯一存在するコンクリートの巨大な建造物。世間一般に言えば『学校』というカテゴリに属する施設である餓鬼道中学校では、今日も今日とて授業中にも関わらず窓ガラスの割れる音が響いていた。

 

私立餓鬼道中学校、近辺では『県内最底辺』、『屑の掃き溜め』、『世紀末中学校』、『汚物を下水に漬けて煮沸かした場所』などなどありがた〜い評判を頂いている、今最もホットな中学校である。

授業サボりは当たり前、息をする様に学生同士は派閥争いを起こし、喧嘩と馬鹿騒ぎがこの学校の日常だ。当然ながら就職率、進学率共に最底ライン。土地柄もあってか、不良校と聞けば餓鬼道と真っ先に言われるほど悪いレッテルを貼られている。

 

 

「…場所は?」

 

「1年棟、3組です。」

 

ノートにペンを巡らすのを止めて、同い年の書記の子に位置を確認。

私達3年生は受験を控えているためこの時間は自習だ、かといって教室は喧しくて集中出来ないので、許可を貰った私は生徒会室で勉強に励んでいる。私ってばピアスも着崩しもしない優等生だから。

 

「1年かぁ。入学式であんだけシめてやったのにまだ分からないか…」

 

「喉元過ぎれば熱さを忘れ、ですね。」

 

「会計は授業中だから私が帳簿持ってくわ。

書記、行くよ。」

 

「はい。」

 

勉強道具もそのままに、学校の会計帳簿を金庫から出した私はイライラを抑えながら生徒会室の扉を開けた。

 

最近大人しくなったと思っていたのに…また奴ら窓ガラスを割やがった。2年生と3年生はかなり丸くなったけど、此処に来たばかりの跳ねっ返り共は元気だなあ。(白目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっ!?女帝…」

 

「そのあだ名止めろつってんだろ。」

 

「いやっ…割ったのは俺じゃ無くホグァッ!!?」

 

「せめてそのバットを置いてからマシな言い訳をしろ野猿共、授業中に野球始める馬鹿が何処にいるんだ。」

 

「「ひぃっ!?」」

 

「お前とお前は初犯だな?ならよく覚えておけ。

授業中は!座って!黙って!先生の話を聞いて!黒板をノートに写す!

あーゆーおーるらい?」

 

「「お、おーるらい…」」

 

「良かった、また1つ賢くなれたな。その調子で人に進化できるよう努力しよう。

…じゃあこれは授業料な。」

 

「え…初犯だからやられないんじゃ…ギャッ!?」

 

「ごめんなさいごめんなさい許して下ごッッ!?」

 

「謝るくらいなら最初からやるなよ…割れたガラスは私と書記で片付けるので、先生は授業を続けて下さい。」

 

「えっ、ああうん。いつもいつもすまないね…」

 

 

 

1年生のいる棟まで廊下を走らず辿り着いた私と書記は、現場を確認し冷静な判断力で元凶を探し出し素早く処理。襟掴みからのヘッドバットで3人ほど床ペロさせた後、割れた窓の後処理をしてる。

強く言えない先生も先生だけど、教育者とは保護者と生徒の板挟みで大変な職業なのだ。悪く言ってはいけない。私はデキる生徒会長、余計な口は挟まない。

 

「書記、技術の先生んトコ行って窓枠にはめ込むベニヤ板切ってもらうよう手配して。こっちは私が片付けておくから。」

 

「承知しました、帝会長。」

 

そう言うと素直な書記ちゃんはトコトコ歩いて職員室の方へ歩いていった。技術の先生(〝伐採〟の個性持ち、左腕がチェーンソーに変異した筋骨隆々ゴリマッチョおじさん。趣味は家庭菜園。)なら昼までには窓を塞ぐことができるだろう。受験シーズン真っ盛りの寒空の下、窓割れっぱなしは流石に酷だ。

 

「ああ、それと。

1番手前に座ってる茶髪の娘、ヤニ臭い。ちゃんと髪洗って。悪い事言わないからその年から吸うのは辞めなさい。

肺を悪くするだけよ。」

 

「ひっ…はい…」

 

香水で誤魔化してるつもりなのだろうが、残念ながら私にはバレバレだ。酒と煙草は二十歳になってから!

萎縮してる生徒達をよそにガラスの破片を集め、終わった頃に授業終了のチャイムが鳴り響く。

そのまま出ていく先生と共に世間話しながら廊下を歩いた。

 

「1年は相変わらず元気ですねえ…」

 

「すまないね…教師陣が不甲斐ないばかりに。

これでもこの学校、君が入学してからだいぶマシになったんだが、如何せん周囲の評価は変わらなくてね。」

 

 

一度張られた不良校のレッテルはそう簡単に覆らない。だがこの学校が無くなってしまえば、付近の子供達は片道1時間半のバスに乗って別の学校に行かないといけない。それ以外にも周囲の学校からすれば、問題児をひと纏めにしておける場所が必要なのだろう。文字通りこの学校は『掃き溜め』だ。他の学校に問題児が行かないようにする為のスケープゴート、正直言ってクソである。

私が入学してから3年間、生徒会室に抜擢されて色々な活動をしてはみたものの、正当な評価が得られたかと言われれば首を捻ってしまう。

誠に遺憾であるが、馬鹿共が他所で乱闘騒ぎ起こす度に武力介入していたせいで私は他校の人間にも顔と名前が知れ渡り、『女帝』なんてあだ名で呼ばれるようになってしまった。世も末だ。

 

「生徒達を抑圧するだけじゃない。導く者が居なければ…それこそオールマイトのような象徴が。」

 

「それは教師の仕事でしょう、先生方が頑張るしか無いです。幾ら私が生徒会長でも、3年間しか居られない生徒なんですから。」

 

まあ、丸投げだ。

実はご当主様からは母校の治安維持の他に「娘に危害が及ぶ可能性を1つでも潰す為」と言われこの学校で生徒会長をし不良共を纏めている。が、先輩が全寮制の聖愛学院に進学した一年前から私がこの学校に執着する必要はない。でもなんだかんだ愛着とか湧くわけで…

 

「分かってるさ。君が作ってくれた土台だ、これから僕達で少しずつ変えていくよ。」

 

学校の風評は変わらなかったけど、私が呼び込んだ新しい風は先生達の教育者魂に火をつけたらしい。

できる最善は尽くした、後を変えるのは先生次第。

 

「そう言えば、龍征君は雄英志望だったよね。どうだい、自信の程は?」

 

「偏差値79の倍率300倍ですからね、それなりに勉強はしてます。つい先程邪魔されましたが…」

 

「ははは…

そう言えば…これは教師連盟のあいだでまことしやかに囁かれている噂なんだが。

来年君達が入学する年に、オールマイトが教師として雄英に赴任するらしいよ。」

 

「オールマイトが?…倍率が更に上がりそう。」

 

「まだ一般公開はされてない。彼、サプライズ好きだろう?来年の四月あたりに『私が教師になった!』とか言いながらお茶の間を騒がせるんじゃないかな。」

 

まじかーオールマイト先生になるんかー…

あの人多方面から恨み買ってそうだし、雄英がヴィランの標的になったりしないかな?生徒の安全保障されてる?

 

「とにかく私は勉強するだけです、届け出はもう出しましたし。」

 

「そうだね、筆記試験なら僕らでも手を貸せる事がある。何かあれば言ってくれ。」

 

「その時はよろしくお願いします、先生。」

 

その後も軽くお喋りしながら私は自分の教室へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……時は流れ、雄英高校実技試験当日。

筆記の自己採点はまずまず、可もなく不可もなくといったところだろう。今日も試験が終わればバイトがある、欲しいゲームの封切りが近いから稼がなきゃなー、とかそんな事を考えながら他の受験者と一緒に試験会場で待っていると、突然ハウリングが会場に響いて皆を驚かせた。

 

『Hey!!雄英高校受験者の諸君!

早速実技試験について説明すんぞ!』

 

この声は確か…プレゼントマイクだっけ?

彼なりに受験者の緊張をほぐそうとしてくれているのかな、多分素でこのテンションなんだろうけど。

筆記の前にも説明されたな。強さで変わる1〜3ポイントの仮想ヴィランロボと、0ポイントのお邪魔ロボ、倒した数で得点を競うらしい。

流石にヒーロー科の実技試験はひと味違うなあ…

 

「(おい見ろよ、あの体操服…)」

 

「(もしかして餓鬼道中学校?やだ…試験会場被っちゃった。)」

 

「(絡まれると嫌だから離れて戦うか…)」

 

説明中は黙って話を聞きなさいよ、コソコソ嫌味言ってる場合か。

ていうか餓鬼道の体操服で試験受けたの失敗だったかな。リュック背負ってるし、私が背の高い女故に周囲の目が凄いことになってる。悪目立ちとはまさにこの事だ。あと金髪は地毛だから許せ。

なーんて言ってる間に試験開始の合図が鳴り響く。

準備もなくいきなりの『スタート』に反応出来ず、ぽかんとしてる他の受験者を横目に私はリュックの留め具を外した。

 

人ならざる叫び声と共に、4匹の翼竜がリュックの口から飛び立った。それぞれ上空を旋回して、索敵を行ってく。

…リュックの中にすし詰めにしたのは悪かったよ。あとで高いツナ缶買ってやるから機嫌治せ。

 

『おおーッ!?受験番号2675番、イキナリすげー個性だァ!』

 

プレゼントマイクが楽しそうで何よりです。

 

んじゃまー、頑張りますかねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇とある受験者side◇

 

まるで怪獣映画を見てるみたいだった。

黒地に金の線が入った独特の模様、県外でもかなり有名な不良校、餓鬼道中学校の体操服を着た女子生徒が背負ったリュックか放たれた4匹の翼の生えた小さなドラゴンが火を吐きながら飛び回り、仮想ヴィランを食い散らかしていく。

 

「あれ、アンタ達やんないの?ポイント全部貰っちゃうよ?」

 

そんな光景を先頭で眺める彼女の言葉で我に返った俺や他の受験者達は一斉に散り散りになり、それぞれの敵を倒し始めた。

 

 

 

 

 

 

……俺の個性はロボ相手には向いてない、恐らくこの試験は駄目だろう。

三体目の1ポイントロボを何とか倒しながら、俺は半ば諦め半分で戦っていた。

その時、唐突に起きた地震によってよろけた俺は変な具合に足を打ち付けて、挫いてしまった。

 

「痛っ、クソ…」

 

「ちょっと、今変な転び方したけど大丈夫?」

 

「確かに…怪我はないか?」

 

俺が倒れたのに気付いたのか、そばでロボットと戦っていた男女が駆け寄ってくる。

耳にイヤホンの着いた女子と、大柄で腕の複数生えた男子…多分異形の個性だろう。

情けない姿を見せてしまった…

 

「…早く試験に戻れよ、ただでさえ餓鬼道の受験生が放ったドラゴンに取られまくってるのに、俺にかまけてる場合じゃないだろ。」

 

「心配してあげたのにそんな言い方ないじゃん!」

 

「誰も心配して欲しいなんて言ってない。」

 

「ッ、この…」

 

「落ち着け二人とも。

お前が大丈夫と言うのならそうなんだろう、だが無理はするなよ。危険を感じたら監督官に報告してくれ。」

 

「ご高説結構だけどな、アンタ達は『早くロボの居ない安全な所へ行きなよ』。」

 

「「っっ!?!?」」

 

一瞬固まった2人は虚ろな目をして俺に背を向け去っていく。

…やってしまった。

つい個性を使って2人を遠ざけてしまった。折角心配してくれたのに…

俺の個性、〝洗脳〟は返事をした相手を操って思いのままにする個性。物騒な個性だからよくヴィランみたいだと言われるよ。

俺だってヒーローになりたくて此処に来たのにな…

 

揺れが更に大きくなる、急に影が俺を隠したので見上げてみると、今までのとは比較にならない程巨大なロボットがこちらに歩み寄って来ていた。

せめて離れないと…よろけながらも痛む足を動かして歩くが、1歩が大きい向こうの方がずっと速い、直ぐに追い付かれた。

 

これは試験だ、流石に死にはしないだろうが、この状況ではヒーロー科は諦めるしかない。

このまま終わりか、なんて半分諦め掛けていたその時。

 

「要救助者一名様入りマース。」

 

なんて巫山戯た事を言いながら、空飛ぶ翼竜の足から手を離して黒い体操服が降りてきた。

 

「お前は餓鬼道の…」

 

「やっぱこの体操服だと目え付けられるか、デザイン結構気に入ってるんだけどね。」

 

へらへらと笑いながら、俺の挫いた脚を触って「痛む?」などと聞いてきて、最終的に俺は翼竜達に介抱された。リュックのポケットから包帯を取り出して、痛む足を気遣うようにテキパキと処置を済ませた彼女は、0ポイントのロボに向かって歩き出す。

まさかアレと戦う気か!?

 

「おい!『アンタも早くここから逃げろ』!」

 

「ん…?なんだ今の、意識が一瞬ふわっとしたような…」

 

嘘だろ?この女、痛みもなしに俺の個性を振り切った…どんな精神力してるんだ。

 

「あー、もしかしてさっきの2人があんたからとぼとぼ離れていったの個性のせいか。何?催眠?」

 

「見てたのか…〝洗脳〟だよ。ヴィランみてえだろ。」

 

「イイじゃんそれ。」

 

「…は?」

 

 

「その個性使ってさっきの2人逃がしたんでしょ?此処は危ないからって。避難誘導とか、大人数がパニックになった時便利じゃん。

なれるよ、ヒーローに。

誰かを助けたい、救いたいって思ってる。最高にヒーローしてるよ、ソレ。」

 

頭が真っ白になった。

俺の個性が…ヒーローしてるって…?

そんな事、1度も言われたこと無かった。ずっと個性で俺の事を判断されてきた。

「お前もヒーローになれる」

その言葉を、よりによって餓鬼道の生徒に言われるなんて…

 

「あのデカいのは治療の邪魔、だから壊す。そうすれば逃げる必要も無い、おっけい?」

 

「いや全然OKじゃないぞ!?あのデカさのロボットどうやって壊す気だ!」

 

「大きさなら私も負けない。」

 

女の雰囲気が変わった。

翼竜達が彼女の上空を旋回し、周りに炎を吐き散らす。地面が炎上する中で、彼女のシルエットが大きく膨れ上がった。

 

背中からは黒く大きな羽根

 

長大な尻尾と巌の様に頑丈そうな四肢

 

まるで王冠のように綺麗な金色の角が輝いて

 

4本の足でアスファルトを踏みしめる巨龍が俺の目の前に現れた。

 

『アンタがヴィランなら、私は化け物だ。ちょっと待ってな。』

 

直ぐ終わらせるから。

 

大きく息を吸い込み、まるでジェット機の様な爆音が試験会場を揺らす。直ぐに彼女が発した『声』なのだと理解出来た。

次いで高熱が巨龍の口に収束していく。一拍置いて吐き出された炎の塊は0ポイントロボのどてっぱらに命中し、胴体をグズグズに溶かしながら貫通した。

大爆発が巻き起こり、バラバラに砕けたロボットがその辺に散らばって、最後に頭の部分が地面に落ちて砕けると同時に、試験終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

『YEAHHHH!!!!!!!試験終了だ!

俺スンゲーもん見ちまったぜ!マーベラス!結果を楽しみにしてな!』

 

 

プレゼントマイクの声が響き、出口に繋がる扉が開く。まださっきの余波で戦塵が舞い上がり視界が悪いな…

受験者達が去っていく中、さっきの2人組が俺の下へ駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?凄い爆発だったが…」

 

「てゆうか、うちら途中から記憶なくて気づいたら街の隅にいたんだけどアンタの仕業!?」

 

「…爆発は俺のせいじゃない。洗脳の件は悪かったよ、意地張らず素直になればよかった。」

 

謝罪の言葉は思ったよりすんなりと口から零れた。さっきの光景を見た後だからか…?

 

「思ったより素直じゃん、なら許す。」

 

「記憶の混濁はお前の個性だったのか、なら問題無い。此処は個性を使い競う場だからな。」

 

「それよりさっきの爆発!

何があったの?」

 

「ああ、それは…」

 

「あ〜ッ久しぶりに龍化使ったわ〜。」

 

後ろから声がする、餓鬼道の受験生だ。

御礼を言おうと思い振り返るとそこには…

 

一糸まとわぬ彼女の姿があった

 

全裸だ

 

上から下までハッキリ

 

胸…デカ…

 

 

「ぶはっ!?」

 

鼻から熱いものがこみ上げてきて、俺は気を失った。

 

……金髪の女って、下も金色なんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああ!?アンタなんで全裸!?」

 

「ん?ああ、私の個性って変身するから、予め脱いどかないと服が駄目になる。」

 

「何落ち着いて説明してんの!?いいから早く服着なよ!男子こっち見んな!」

 

「見ていない…俺は何も見てはいないぞ!」

 

「…………」(顔血まみれで気絶)

 

『オーイそこでグズグズしてる受験者4名、早く出ないと失格にすんぞー…ってオイ!

なんで1人全裸なんだァ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、雄英合格しました☆

 

 






雑?そうだよ

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