帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

21 / 35

独自解釈、端役登場あり


くぅー疲れました!これにて体育祭編終了です!


いや、エピローグ書くんやけどね。


20話投稿してから感想とお気に入り増え過ぎィ!皆オバホ好きなんやな…『僕の(私の)オーバーホールはこんなキャラじゃないやい!』って思ってる人は10月まで待てばアニメが始まってヤクザサイドのSSが山ほど増えると思うから、それを待とう!もしくは書いて!お気に入りするから!

戦闘シーン頑張ったんだけどクソ雑魚表現力でごめんな…ユルシテ…ユルシテ…







21 お・や・く・そ・く

あの子と初めて出会ったのは5歳の時、丁度連立方程式の応用を覚えて、経済学に興味を持ち始めた頃。

偶には外に出なさい。と半ば無理矢理連れてこられた父の支援する教会も兼ねた孤児院、礼拝堂の片隅で、見慣れない鳥のような生物に囲まれ目を閉じている彼女を見つけたの。

今はお昼休み時、他の子達はみんな元気に外で遊んでいる時に1人だけ静かに座っている。その子は祈りを捧げている様にも見えたわ。

 

「何に祈っているの?」

 

「……」

 

冷やかしたかったのかもしれないし、純粋な興味なのかもしれない。

本当にただの気まぐれだった、聞いても暫く答えは返ってこなくて、代わりに彼女を囲っていた生物がこちらを睨み付けてくる。

気まずい時間が流れていく。その間もじっと威嚇するように私を見つめてくる4匹に我慢出来ずに席を立とうとしたその時、漸く彼女と目が合った。

 

「祈って…ない。

確認してただけ、今日の私は『わたし』なのか…」

 

 

キラキラと輝く肩まで伸びる金髪と、相反する様に()()()()()()()()()。綺麗な顔なのに感情は一切感じられない無表情。

 

 

美しい、素直にそう思った。

 

「……きれい。」

 

「…?」

 

「あっ…ごめんなさい。つい口から出てしまったわ。

貴女、お名前は?」

 

「………みかど。

りゅうせい…みかど…神父様はそう言ってた…」

 

「私は印照才子よ、よろしくね。」

 

「……?」

 

「握手しましょう?ほら握手。」

 

「………ん。」

 

一瞬びくっと震えた彼女は無表情のまま恐る恐る右手を差し出してきて、ゆっくり私の手を握る。

 

まるで春の木漏れ日の様に暖かい、すべすべの手だった。

 

思えばこれが、彼女に魅入られた初恋(はじめて)なのかもしれない。

 

「ねえ、もう少しお話しましょう?私、貴女の事が知りたいわ。」

 

「…?」

 

私と彼女の始まり(オリジン)はここから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

 

 

天を穿つほどの大音量。大地は震え、音の衝撃で実況席の窓ガラスが今にも割れそうな程ビリビリと震える。

雄英体育祭本戦、トーナメント決勝戦。

一対一のガチバトルと称されたリングの上には1人の少年と、威風を放つ巨竜の王が向かい合っていた。

観客席の者は皆一切の余裕も無く、雄英教師陣だけでなくモニター越しに体育祭を観戦するプロヒーロー達、果てはあのエンデヴァーですら言葉を失い、ひたすらに目の前に現れた圧倒的な存在を注視している。

 

それを間近で受ける少年、爆豪勝己は肌で感じ取っていた。

 

(なん…だッ!!コイツはッ!?)

 

まるで準備運動の様に翼を伸び縮みさせ、身体を解す巨竜…いや、帝の姿に動揺を隠せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんじゃアリャあああああ!?

なんだよ龍征、アイツまだこんな手を残してたのかァ!?』

 

『…入試でもチラッと見えたが、これが龍征の個性本来の姿か。』

 

『決勝戦で解禁してくるとか!つか見た目!

the・ラスボスだぜ!』

 

 

 

「あれが…龍征の持つ内なる獣ッ!!!」

 

「と、常闇!?声大きいぞどうした!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍征、それがお前の本当の姿なのか…」

 

リカバリーガールの出張治療室で未だ横になっていた轟も、モニター越しに帝の本当の姿を目撃していた。

リング内ではたった一人の学生の前に身の丈何倍もある黒と金の巨竜が立ちはだかっている。少年が剣と盾でも装備すれば一昔前のRPGのラスボス戦の様な光景だ。

轟も他の観客同様、常軌を逸した帝の姿に唖然としていた。

 

(さっきまでと雰囲気が全く違う。これが…龍征の個性の本気…!)

 

「あの姿…成程、道理で傷があっという間に治るワケだよ。」

 

「焦凍、リンゴ剥けたよ…て何その映像!?怪獣映画見てるの!?」

 

同じタイミングで部屋に戻って来たのは松葉杖代わりに大きな注射針を突くリカバリーガールと、姉である冬美だった。

帝達が去った後、入れ代わるように駆け込んで来た冬美とそれに付いてきた友人の香子。どうやら学校側から許可を貰って選手専用の医務室まで来たらしい。

目が合った際、無傷だった焦凍に涙を流し抱き締めようとする冬美やそれを宥めようとあたふたする香子、そしてあまりにも喚くものだからリカバリーガールがやって来て2人まとめて折檻されかけたりなど色々あったが、今はこうして落ち着いて決勝戦を観戦している。香子と焦凍の顔合わせも済ませ、リカバリーガールの用意した林檎を切り終えた所だ。

 

「帝さん…あの姿を出すって事は、本気なんですね。」

 

「おや、その口ぶりだと幾らか知ってるみいだねぇ。」

 

「はい、少しだけ。

私も話に聞いていただけで、実際に変身している姿を見たのは初めてです。あの子、『図体がデカいだけでレスキュー活動に邪魔』と言って滅多に使わないみたいでしたし。」

 

(レスキュー活動に邪魔…)

 

香子の言葉に頷き、轟はモニターを再度見る。

翼を広げればリングの横幅いっぱいにもなる黒の巨体は、狭いリング内ではかなり動きにくそうだ。

 

(4匹の翼竜にコンクリートすら易々溶かす炎、オマケに巨竜に変身できる…なんて攻撃的な個性なんだ。

なのに本人が目指すのは『レスキューヒーロー』…)

 

「こりゃあイレイザーの言う通りかもねえ…」

 

そんなリカバリーガールの呟きは、たまたま轟の耳まで届いていた。

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら帝ったらはしゃいでしまって…大丈夫かしら。」

 

「…一応準備だけしとこうかネ。

アナログ作業は才子チャンとこの頼れる鉄人メイドに任せるヨ。」

 

「ええ、お願いします叔父様。

生で見るのは4年ぶり…かしら?あの時より()()()()()()()()()()()。帝の努力の賜物だわ。」

 

そう言って、守屋はバッグの中から小さなノートパソコンを開く。対する才子はポケットに入っていたスマートフォンの履歴からある番号を呼び出しながらリング中央に立つ巨竜を眺め微笑んだ。

 

「ああ、大好きよ…私だけの可愛い怪物(みかど)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■ッッ!!!

 

帝王の咆哮が再びリングを揺らし、音の振動は会場内に留まらずスタジアム全体を軋ませる。

如何に個性社会となり、人々が超常を当たり前のように受け入れ過ごしていても、目の前に現れた巨竜に爆豪は未だ鳥肌を隠せないでいた。

 

(異形系…変身系か…?

この肌にビリビリ来る威圧感、どっちにしろヤベぇ…!!これが…あの女の全力かッ!!)

 

 

「今まで舐めプしやがってよォ…借りはキッチリ返させてもらうわッ!!」

 

BOMB!!

 

粟立つ肌と湧き上がる恐怖を脳内麻薬で押し殺す。獰猛に笑い、両手を起爆させ一気に距離を詰める。巨体故に動きは鈍いはず、そう思ったがゆえの行動だ。

 

だが次の瞬間、爆豪の視界から巨竜が消えた。

 

「ッッッ!?!?」

 

観客席からどよめきが上がり、興奮しっぱなしのプレゼントマイクが叫ぶ。

 

『ととと、飛んだァーーッ!?』

 

そう、帝はその大きな翼を羽ばたかせ、飛び上がった。翼が付いているなら飛ぶであろう事は予想ができるものだろうが、驚くべきはその速度と高度。

爆豪は疎か観戦席に居るもの全員が捉えられないほどの速度で飛び上がった。

一拍置いて強烈なダウンフォースが巻き起こり、竜巻の如き烈風がスタジアム内を暴れ回る。それをモロに受けてしまったのは言わずもがな空中に居た爆豪だ。

 

「うおっ!?…チッ!!」

 

風に舞う木の葉のように吹き飛ばされ、そのまま場外へ落下しそうになるのを必死に堪えながら爆発量を調節し踏み止まる。

 

「俺より上に立つたァ…ムカつくなァ!!クソトカゲが!!」

 

見上げる爆豪、太陽を背に悠々と空を羽ばたく巨竜は紅い瞳で眼下のリングを見下ろしている。

 

BOMB! BOMB! BOMB!!

 

爆破を利用し更に上へ飛び上がる、そして爆豪は果敢にも空飛ぶ巨竜に接近戦を仕掛けていく。

 

「俺が上でぇ…テメーが下だッ!!」

 

爆破の勢いと回転を加えた踵落としが巨竜の眉間に突き刺さった。

が、巨竜はたじろぎもせず悠々と羽ばたいている。

 

『爆豪果敢にも空中戦だァ!

これってルール的にどうなの!?』

 

『リングの外に手が着いたら負けだからセーフ!テクニカルセーフよっ!!』

 

『だってよ二人とも!着地気を付けろよォ!』

 

(硬っってぇ!?ブーツの方が欠けたか…ならっ)

 

爆豪は緩急を付けながら帝の周りを飛び回り、連続爆破で攻撃を試みる。暫く攻撃を続けたが何処を爆破しても、巨竜は我関せずと言った感じでなんの反応もない。まるで爆豪の事など初めから見えていないかのように。

 

それが、彼のプライドを大きく傷付けた。

 

「コッチを見てもいねぇじゃねえか…なんだよコイツ…

俺ァ対戦相手だぞッ!!馬鹿にしてんのかクソがッ!!」

 

もとより全力で叩き潰すつもりだった決勝戦、本気で立ち会い、勝利するのが彼の望み。しかし焚き付けた先に待っていたのは自分の事など全く眼中に無い巨竜ときた。

 

「気に入らねぇ…ッ巫山戯んなよッ!」

 

爆豪の額にどんどんシワが寄っていく。どんどん機嫌が悪くなる。

 

「何処を見てんだテメェッ!!対戦相手は俺だぞ!飛んでるだけのウスノロに勝っても意味ねぇんだよ!」

 

巨竜の背中に飛び乗った爆豪、そのまま両手を硬い龍鱗に押し付けた。

 

「見ねえってんなら…」

 

爆豪の手のひらが赤い輝きを放ち彼の怒りと共に臨界点を突破する。

 

「死ねぇッッッ!!!!!」

 

 

麗日戦と同じ規模の大爆発が上空で炸裂した。

ぐんっ!と巨体が下がり、爆風と衝撃で真っ逆さまにリングへと落ちていく。

 

 

 

 

『爆豪怒涛の空中攻撃ィ!

トドメとばかりに大爆発で龍征を叩き落とす!』

 

「爆豪の奴やりやがった!あの巨体を!」

 

「龍征の奴、爆豪相手に的を大きくしちまっただけじゃねぇのか?」

 

「……違う…」

 

「ん?どうした緑谷。」

 

「『見てない』んだ…

龍征さんはかっちゃんを一度も見ていない。

敵とすら思ってない。風に浮かされる木の葉とか、その辺の石ころみたいに…」

 

「どういう事デク君…?」

 

「昔読んだ個性の専門書に書いてあったんだ。一部の個性、主に動物に変身するタイプの個性は素になった生き物に精神状態が近くなるって。

例えば人馬一体ヒーロー『ゴッドホース』。彼は首から上と下半身が馬の身体で、その影響で精神面も馬に近く菜食主義なんだ。」

 

「あー確かに。ゴッドホースって確か報酬に金の代わりにニンジン要求するヒーローだって有名だよな。」

 

「だから龍征さんも、あの姿になった事で精神状態に変化があったのかもしれない。」

 

「けろ…でも私はカエルと同じような事はできるけど、精神状態や好物まで似てはいないつもりよ?」

 

「個性は未だに解明されていない事が多いから、僕にも何とも言えないけど…個性によって個人差があるのかも。けど、大なり小なり精神状態が『寄っていく』というのだけは数ある変身系の個性を統計して得られた事実なんだ。

それが龍征さんにも当てはまるなら…」

 

「心までドラゴンになってしまった帝さんは爆豪さんなど眼中に無い、と?」

 

「で、でもよ緑谷!ありゃドラゴンだぜ!?

空想上の生物が素になってるのに精神状態もクソも…」

 

「世界の半分をお前にやろうってやつか?」

 

「上鳴、そりゃドラクエだろが。」

 

「……龍の記述については東洋、西洋で諸説ある。

東洋では『河』や『天』の象徴。時に恵みを与え、ある時は人を試す存在として語られていた。

そして西洋では、古来より『嵐』や『火山』など災害の化身として、又は『人間の破壊的な心の象徴』として物語に伝えられることが多い。文献では古代メソポタミアの神話より登場する『ムシュフシュ』や旧約聖書の『リヴァイアサン』、北欧神話の『ファフニール』、アーサー王伝説に登場する卑王『ヴォーティガーン』などが挙げられる。」

 

「なんか急に常闇が饒舌になった!?」

 

「常闇は過去の文献に詳しいからな。」

 

「ヒーローを目指す以上、過去の英雄や神話を遡り己の知を深めるのは当然の事だ。」

 

「その英雄譚(サーガ)に将来僕も名を残すんだけどね☆」

 

「話を戻すぞ。

文献により大きく見た目が分かれる龍だが、大きく分けて2つある。まず東洋の龍に四肢はなく、蛇のような姿をしたものが多い。

対して西洋では、物語に登場する殆どの竜は強靭な四肢と巨大な翼を持ち、口から火炎を吐く。

……今の龍征の姿が最も当てはまるな。」

 

「その話だとさぁ…帝はどうなの?まさか常闇の言ってるみたく『人間の破壊的な心の象徴』ってのになったなんて言わないよね?」

 

「…分からない。でも彼女はずっとこの姿になれる事を隠してた、という事は龍征さんにとってあの姿は大きなデメリットになる筈なんだ。

物理的な反動?いや見るからに頑丈そうだし今まで龍征さんが炎の自傷以外で傷つく所を見た事がないからそもそも身体に影響を与えるものじゃないかもしれないUSJじゃオールマイトと同じパワーで殴られても『痛い』程度で済ませるレベルだしとなると残るのは…いやでもあの論文は一種のオカルト本みたいなものだからろくすっぽアテにはならないけど状況的に1番当てはまるのは龍征さんだブツブツブツブツブツブツブツブツ…」

 

「緑谷…?緑谷!起きろ!」

 

「ヴァイッッ!?!?」

 

「イヤホンショック…!耳郎もおっかねえ…」

 

「ご、ゴメン耳郎さん…

とにかく、あの龍征さんは間違いなく以前までとは別物だと思う。

見た目も()もだ。今までは明確な危害を加えられる事はなかったからかっちゃんを視界に入れなかっただけで、攻撃された場合…仮に『敵』だと判断した場合、多分龍征さんは……」

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!

 

 

 

『ッッッ!?!?』

 

緑谷の言葉を遮るように、再び豪咆が空に向かって響き渡った。

次いで全員の身体が強ばる。

 

 

 

帝の目付きが変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーッッッ!?ーーーーッ!!!!!」

 

赤い双眸が一点を捉え、不意に帝が吼えた、ただし今度は爆豪に向かって。

まるでジェット機のエンジンを間近で聞かされている様な破裂音、大音量の咆哮が爆豪の耳に直撃したのだ。

 

咄嗟に耳を塞ぐがもう遅い。

最早、煩いなどというヤワな概念などは通り越し、鼓膜を破裂させん程の勢いで空気が震え、爆豪は立っていられないほど脳を揺さぶられた。

堪らず膝を突きもがくように地面を転げ回る、だがそんな事をしても頭に走る激痛は一向に消えてはくれない。

 

「ぐっおおおおおおおあああああッッッ!?!?」

 

のたうち回る爆豪を他所にズズン…ズズンと地面が揺れる。

揺れが意味する所をいち早く感じた爆豪は痛む頭を必死に働かせ、咄嗟に地面を爆破し横に転がった。

 

「っっっぶねぇッ!!」

 

帝が行ったのはただの『体当たり』、たったそれだけ。それすらすれ違いざまの風圧で身を浮かされそうになる。

 

(明確に攻撃してきやがった…!!)

 

「やっと俺が見えたかクソトカゲェ…ッ!?」

 

負けじと吼える爆豪、振り向いた帝が翼をリングに打ち付け、反動で突風が吹き荒れる。目視出来るほどの風の層が爆豪を軽々と吹き飛ばした。

 

「チィッッ!!」

 

リング縁ギリギリに着地、続けざまに翼から放たれたソニックブームを躱し空へと翔ぶ。

 

空中の制御も慣れたもの。次は上からどう攻撃を仕掛けてやろうか思案していたその時、ふと下の帝を見た。

 

「……は?」

 

巨竜の口が開いている。

 

口元から赤い何かが煌々と輝きを増して、次第に赤が近付いてくる。

 

違う

 

()()()()()()()()

 

 

「ッッッッッッ!!」

 

 

身体中から汗が吹き出す。

爆豪の直感か、生き物の本能なのか、それを見た途端全身の細胞が叫んでいた。

なぜ、と思考する猶予もない。即座に爆豪は射角を直し、空からの攻撃を止め素早くリングの隅ギリギリの位置に着地した。

 

 

■■■■■■ッッッ!!!

 

 

彼がリングに足をつけたのと同じタイミングで、帝の唸り声と共に背後が赤く染まる。

巨竜が下から上空へ向かって火を吐いた、ただそれだけだ。

 

たったそれだけでリング全体を丸々覆える程の炎が観客の視界を塗りつぶして、一瞬で空は紅に染まった。

 

『なっ……』

 

『は…?』

 

リングから遠く、高い位置にある実況席からは唖然とする2人の声がマイク越しに聞こえてくる。観客席のプロヒーロー達も何人かは気付いている筈だ。

 

この炎は、爆豪を簡単に殺してしまえる火力だと。

 

人の姿の時とは比べ物にならない熱量。

熱波を浴びせられた観客から悲鳴が上がり、炎の余熱でチリチリと頬が痛む中、爆豪は振り返る。そこには灼熱のリングを4本の脚で踏み締め、赤く濁った2つの瞳で爆豪を睨み付ける巨体があった。

 

べしゃっ

 

(……?)

 

ふと、何かが爆豪の足下に落下する。

黒い塊に脚の様なものが生えた何か…いや違う。

 

(ッ!!ハトか!

さっきの炎にやられて落ちて来たのか!?)

 

最早原型も留めないほどに焼却された鳩。運の悪いことに、先程ブレスの直線上を飛んでいたらしい。落下の衝撃と風に晒されて、哀れ鳩だったものは崩れ去った。

 

(あのまま空を飛んでいたら…こうなるのは俺の方だったッ!!人間の身体してた時とは威力も範囲も段違いじゃねえか!これにこの…殺気は…ッ!!)

 

肩が震え、膝が笑い始める。

帝の僅かながらに怒りを宿す紅い双眸が爆豪を地面に釘付けにした。

 

「最初から使えって…何度言わせりゃ分かんだクソ女がッ!!」

 

巨竜から放たれる殺意を怒りで誤魔化した爆豪はますます機嫌が悪化していく。

 

「…もう一発くれてやる、食らってくたばれッ!」

 

小さな身体を爆風の勢いで飛ばし、更に回転を加えながら威力を高める。そのままあっという間に飛び込んで、自身が撃てる最大級の攻撃を巨竜へと叩き付けた。

 

「『榴弾砲・着弾(ハウザー・インパクト)』ォッッッ!!!!!」

 

着弾と共に空気が震え、一瞬遅れて大爆発がリングを覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、ありゃやべーんじゃねえのか!?今の龍征のヤツ、殺す気だったろ!」

 

「やはりあの姿は制御が不完全だったか。

それを爆豪の挑発に乗ってまんまと使っちまうとは、合理性に欠ける…」

 

一旦マイクの電源を落とし、オフレコ状況で焦るプレゼントマイク。相澤は入試試験で初めて彼女を見た時から、あの姿について薄々勘づいていた。

 

(試合中止にするか…?だが俺だと龍征の個性は炎以外を止めることができん。セメントスに拘束させてミッドナイトで…いや、今試合を止めると()()()が問題だ。)

 

そう考えた相澤はちらりと後ろを覗く。

実況席の後ろ側、パイプ椅子に座る男と目が合った。

 

「構いません、試合は続行しなさい。」

 

茶色のスーツを着込んだ男は相澤の意図を汲んだのか、ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべたままそう答え、肩に乗せた子猿と共にリングで暴れ回る帝を眺めていた。

 

「ですがこれ以上は生徒を危険に晒します、人命が第一です。」

 

「爆豪勝己君、彼なら大丈夫。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、雄英には優秀な医療スタッフも居ますからねえ。」

 

「…ッ!」

 

相澤とプレゼントマイクの眉間に皺がよる。自分達の後ろで試合を観戦するこの男の口から出る言葉は、生徒の安否など二の次なのがハッキリと伝わるのだ。

 

「キキキッ…」

 

男の肩で猿が嫌味ったらしく笑う。このエテ公、とプレゼントマイクが漏らしかけたのを相澤は目で制した。

 

(ヒーロー公安委員会から派遣されてきた猿渡(さるわたり)というこの男、思考が謎だ。迂闊な事は言うな。)

 

(でもよォ!怪し過ぎんだろ!決勝トーナメントが始まった直後にアポも無しにやって来て観戦させろなんて…)

 

(()()()()()()()()()()()()()()()、良いから黙って実況してろ山田。)

 

(ヒーローネームで呼んで!?ていうか黙って実況ってどうすりゃいいの!!!)

 

 

プレゼントマイクこと山田先生は暫く考えた後、普通に実況する事にした。

 

(唯一の救いは、使役してた翼竜達が必死に飛び回って観客を炎のとばっちりから守ってるって所か。それが出来るほど龍征は()()()()んだろう。だが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『爆豪!先程見せた爆破に回転を加えた超爆撃で龍征を強襲!正に人間榴弾だァ!!』

 

『……』

 

プレゼントマイクが叫ぶ横で、相澤は真剣に事の成り行きを静観している。後ろから視線を感じつつも()()()()()()()()()()()()()()()()()常に他教師との連絡は怠らない。

 

 

リング内を覆っていた爆煙が晴れていく、そこには爆破の反動で地面に打ち付けられ、起き上がろうとする爆豪と…

 

「なんで…傷一つ付かねんだクソッ!!」

 

無傷で立つ黒い巨竜の姿。首元には着弾した跡らしき煙が僅かに立ち込めてはいるものの、それ以外の外傷は全く見受けられない。

不動のまま、帝は爆豪の最大火力を受けきった。

 

『無傷ッ!!龍征無傷だ!!!

人間榴弾を身じろぎひとつせず受け切りやがったァ!!』

 

「クッソがァァァッ!」

 

起き上がった爆豪が両手を赤く光らせながら再び近寄ろうとするが、帝は翼を羽ばたかせ、風に煽られ近寄れない。寧ろ風圧で飛ばされまいと踏ん張っていた所を、一足飛びに飛びこんできた帝の前脚に押し潰された。

 

「ごっ…!?離し…やがれェ…ッ!」

 

何度か爆破で脱出を試みるが、身震いひとつできない。丸太の様な前脚に身体を押さえ付けられ、必死にもがく爆豪。それを見据え、巨竜は口を大きく開く。

 

紅く淀んだ瞳と目が合った。

 

(ンだよその目は…ッ!!)

 

まるでそこらのゴミでも見るかのような、淀みきった瞳。反骨精神の塊である爆豪は更に噛み付いていく。

 

「テメェ、()()()()()()()…?うごぁッ!?」

 

押し付ける力が更に強くなった。

口の中に赤い光が溜まっていくと同時に、顔に焼け付くような熱が浴びせられる。これだけ近くで見ていれば馬鹿でも分かる。

帝はもう一度ブレスを吐こうとしている、ただし今度はこの至近距離で。

 

「……がッッ!!ンの…離せッ!!クソッ!クソォッ!!」

 

確実に焼き殺される

 

ぞわりと背筋に悪寒が走り、一層激しく爆破を繰り返すも、抵抗虚しく前脚と地面の間に磔にされた爆豪、これ以上は不味いと判断したミッドナイトとセメントスが動き出そうとしたその時。

 

■■■ッッッ!?!?ーーーッ!

 

突然巨竜が苦しみだした。口の炎が次第に収まっていき、押さえ付けていた前脚が緩む。

蹴飛ばされリングを転がる爆豪。リングの真ん中で巨竜は暴れ回り、最終的にはバランスを崩してリングの外へ転げ落ちてしまった。

 

 

『あっ…』

 

プレゼントマイクが素っ頓狂な声を上げる中、1番早く我に返ったミッドナイトが叫ぶ。

 

『り、龍征さん場外!爆豪君の勝利!』

 

「……は?」

 

呆気なく、勝敗は決してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けるとそこは雲より高い砦の頂上、まるで布団の様に巨大な1枚岩の上に、私は寝そべっていた。

 

ああ、また此処か

 

龍になって暫くすると決まって私は此処へやってくる。きっと白昼夢みたいな感じなんだろう。

澄んだ空気の匂い、肌に触れる岩の冷たさは夢だというのに妙にリアルで、砦の周りには数え切れないほど沢山の翼竜が飛び回っていた。

見上げれば満天の星が夜空を彩っていて、伸ばせば手が届きそう。

私のいた世界とは違う、ありえないくらい幻想的で、現実離れした空間。だというのに私の心は不思議なくらい落ち着いてて、まるで実家のような安心感が私を包み込んでいる。

 

小さい頃はよく見ていたんだっけ?ガキの頃だから記憶が曖昧だ。でも、なんだか心地いいな…

 

このまま身をゆだねてしまえば…私は…きっと……

 

 

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

『…って良い訳あるかいッ!!!!!』

 

叫んで意識を覚醒させる。

 

っぶねー!!危ねーっ!!

久しぶりに竜化したと思ったらコレだよ!途中から意識飛んでたぞ!

爆豪に空から落とされた時くらいからか?不味いぞもしかしたら殺してるかもしれない!

 

まだ身体は大きいままだ。被害が出ないようにスタジアム周辺に飛ばしていた翼竜達を呼び戻し、取り敢えず身体をもとに戻す!

意識戻った瞬間身体の主導権無理やり奪い返して、咄嗟にリング外に出ちゃったから勝負は負けちゃったろうけど、この際勝敗なんてどうでもいいや。才サマ許して。

 

視界がいつもの高さになった所で、慌てて倒れてる爆豪に駆け寄った。

 

「爆豪、爆豪大丈夫!?ごめん途中から意識飛ばしちゃって…」

 

「ぅ…ぐッ……」

 

よかった、生きてた。

見た感じ打撲の痣や軽い火傷だけみたいだけど、思っきり踏んづけちゃったし、下手すると内臓に傷が入っちゃってるかもしれない。早くリカ婆に診て貰わないと。

 

「痛い所無いか?取り敢えずリカバリーガールんとこ行って診察して貰わないと…」

 

「!?!?…離れろ。」

 

「こんな時までツンツンしてる場合かお前。

こっちは危うく殺しちゃったかと思ってヒヤヒヤしたんだぞ!」

 

「止めろ近付くな!というか馬乗りになるな!それ以上俺に触るんじゃねえ!ぐおっ!?」

 

「ホラ顔も赤い!絶対どっかおかしいって!」

 

もがく爆豪を押さえ付けて、顔やおでこをぺたぺた触る、顔も赤いし体温も高い…どっか腫れてるのかも。顔に火傷させてるとかなっちゃったらまずいよ、轟とキャラが被る!

 

「力つえーんだよ!おまっ…

おかしいのはテメーの方だ!なんで…ッなんでお前ェ…」

 

 

裸なんだよッ!!

 

 

 

 

………………ほわい?

 

 

 

きょとーんとする私

 

慌てたように飛んできた翼竜達が私を守るように取り囲んで、ガトーが何処から持ってきたのかバスタオルを掛けてくれた。

 

そういや竜化したんだった、服着てないじゃん私。どーりで胸がよく揺れると思った。

顔を上げて、周りを見渡してみる。これだけ人がいるというのにスタジアム内は時が止まったかの如く静かで、取り付けてある巨大モニターには、爆豪に馬乗り状態になった私のあられもない姿(バスタオル一枚)がでかでかと映し出されていた。

 

 

暫く考えた私はぽんっと納得したように手を叩いて一言。

 

 

 

「てへぺろ☆」

 

 

 

 

次の瞬間、色んな絶叫がスタジアムを埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

◆観客席の様子◆

 

 

 

『わああああああああああっ!!?

放送事故!放送事故だコレぇ!?』

 

『叫んでる暇あるならモニターの映像切れ馬鹿!』

 

『おいカメラ止めろ!映すんじゃねえ!』

 

(最悪の事態は免れた…か?いやこの結果もある意味最悪だが。

クソっ、龍のインパクトに気を取られて失念していたな…)

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああっ!?」

 

「みみみ帝ちゃん…ハダっ…はだだだだ…はだかやんッ!」

 

「男子見んな!絶対見ちゃダメだからね!」

 

「私じゃあるまいし、ハダカはダメだよ帝ちゃん!」

 

「あんのバカ帝ぉおおおおおッ!?」

 

「ぶあはッ…!」

 

「お、尾白が鼻血吹いたぞ!」

 

「ミカドっぱい…生のミカドっぱいがスグそこに…ぬへ…ぬへへへ「お前は見んな!!」ンンンンぎゃああああ目がああああああッッ!?!?」

 

「み、峰田あああッ!?」

 

「じ、耳郎さんのイヤホンジャックが峰田さんの両目にぃ!?」

 

「フーッ☆」

 

「……ッ!…ッ!?(アワアワアワ)」

 

「…可憐だ。」

 

「入試の時の謎が解けたな…俺は何も見ていないが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいカメラ!カメラ止めろ!生放送だぞ!放送事故になっちまう!」

 

「それが…さっきからカメラが故障してて動かないんです!」

 

「はあ!?そりゃ一体どういう事だ?」

 

「分かりません!他の局もそうみたいで、取材陣皆大慌てですよ!」

 

「全局のカメラが一斉に故障?一体どーなってんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叔父様、首尾は如何ですか?」

 

「…ん、スタジアム全域のデジタル写真機及び各局ビデオカメラの掌握は完了だヨ。会場内のモニターだけはネットワークが独立してるからボクの『個性』じゃ届かなかった。でも録画されていないのは確認したから大丈夫。

流石に全国放送で娘の裸体を晒されるのは勘弁して欲しいからネ。

才子チャンの方は?」

 

「メイさんに奔走して貰っています。会場内で静止画や映像を記録できる個性を虱潰しに調べ上げて、()()するそうです。閉会式までにはすべてカタが付くかと。」

 

「成程成程、なら後は掲示板の火消しだけかナ。」

 

「ええ宜しく。はあ…帝、帰ったらお説教ですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、帝さん…あわわわわわわ……」

 

「わー!焦凍見ちゃダメ!ダメだってば!」

 

「…綺麗だ。」

 

「はえ…?ししし焦凍?綺麗ってどういう…」

 

「綺麗なもんは綺麗だろ。」

 

「そういう所だぞ弟よ!!」

 

「?姉さん、何怒ってるんだ?」

 

「帝さんは結構ハードル高いと思いますよ?」

 

「夢見さんも、何言ってんだ?」

 

「無自覚かい!?青春だねェ…若い頃を思い出すよ。」

 

「皆どうしたんだ、一体…」

 

 

 










〜完〜

提供:NH○

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。