帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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職場体験回プロローグって事で



※オリキャラ、オリジナル展開、前回に引き続き原作キャラの性格改変あるから注意…今更か





職場体験だったもの
25 体育祭の後、職場体験のこれから


「んん〜ッ…」

 

 

ぐ〜っと背伸びをして、座りっぱなしで凝り固まった筋肉をほぐす。

雄英高校は超のつくエリート校、偏差値78は伊達じゃない。数学のチャート本は当たり前のように赤だし、宿題の量も尋常じゃないのだ。予習復習は当たり前、ヒーローとしての学習は勿論日々の勉強でも『Plus ultra!!』精神を求められる。

机に向かって教科書と睨めっこする事2時間ほど、体育祭と遊び疲れで手を付けていなかった数学の課題を漸く終えたウチは、登校日の教科を確認してテキストを鞄に詰めたあと、スマホの電源を入れた。つけっぱなしだと集中出来ないもんね。

 

「ん…通知来てる。」

 

ピコピコと点滅するスマホをタップしてトーク画面を表示する。差出人は帝からだった。

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミカド▼

明後日提出するテキストの範囲忘れた!

おせーてじろえもん!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「誰がじろえもんよ誰が!」

 

部屋で1人ツッコミを入れて、優しいウチはテキストの番号を順番に返信してやる事にした。

 

…………

 

「これでよしっ…と。」

 

ベッドに寝そべったまま返信していたスマホを枕へ放り投げ、ぼーっと天井を見つめる。

 

大きな行事が終わって、束の間の休息。

辛いこともあったけどその分皆との絆も深まった。昨日帝の家に集まってやった打ち上げ楽しかったなあ…今度は女子会がどうのとか言ってたし、また呼んでくれたりするのかな?

 

体育祭の帝は、普段と全然違う雰囲気だった。いつも気だるそうにして、ガチャでレアキャラが当たった時位しか口角上がらない癖に、あの日はいつもよりはつらつとして、沢山笑っていた気がする。そして思い知らされた、帝の本当の実力。轟戦の大火力に爆豪戦で見せた巨竜の姿。印照先輩から聞いた通りの、優しい帝に似合わない攻撃的な強個性。

 

「帝征龍、かぁ…」

 

決勝前に休憩スペースで聞いた先輩の話を思い出す。

帝は孤児で、今みたいな性格ではなかった事。白紙の紙に1から絵を描くみたいに、印照家に引き取られた後色んな経験を経て今の帝の人格は象られたんだと彼女は言っていた。

決勝戦で見たあの圧倒的な姿、龍になる度に帝は精神力を消耗してるらしい。

 

そして、更に使い過ぎると記憶まで消えてしまうかも知れないと、先輩は言っていた。

 

あくまでも先輩の憶測で、決定したわけじゃない。

個性の副作用で記憶が消えてしまうなんて馬鹿げた話だと思ったけど、真面目に話す先輩の表情は冗談を言っているようには見えなかった。

 

大いなる力には大いなる責任が伴う

 

……昔、何かの映画で耳にした事がある。多分意味合いは違うだろうけど、帝も大きなチカラと大きなリスクを背負ってヒーローを目指してるんだ。

 

『貴女や百さんには、あの子の味方でいて欲しい。沢山思い出を作って、あの子を「龍征帝」のままで居させてあげて。

観客席から見ていたわ。私も帝と一緒に居た時間は長いけど、貴女達と一緒になってあんなに笑う帝は見たことが無なかった、それだけ貴女達に懐いている証拠よ。

…少し嫉妬しちゃうくらい。』

 

なんか最後の方は先輩に影が指したような気がしたんだけど、多分気のせいだろう。

そして、高校生活で沢山思い出を作って欲しいとも言われた。それを彼女も望んでいると。

高校生活の思い出……それで帝は突然「動画配信をしよう!」とか言い出したのか。

 

丁度USJの事件が終わった後位だったかな、帝をウチの家に呼んで部屋で一緒に父のお古のスーファミして遊んでいた時だ。

部屋に置いてあった楽器に目を付けた帝と洋楽トークで盛り上がり、何故か音楽動画を投稿してみよう!という話になった。

 

…正直ちょっと興味はあったんだよね。私の父はミュージシャンくずれで、母も音楽関係の仕事をしてる。それに音楽は私も好きだ。

最近は『yootube』とか『ニタニタ動画』みたいに気軽に投稿できるサイトもあるから、いつか「歌ってみた」とか「弾いてみた」なんて名目で動画を録って投稿してみたいなあ、なんて心の隅で思っていた。思ってただけで実行する勇気なかったんだけど、帝が背中を押してくれて2人で練習して「弾いてみた」動画を作ることになったんだ。

帝は器用だからギターのキーも直ぐに覚えて、話を聞いて妙にノリノリな父主導のもと家のスタジオで録画した。

知らない人に私の演奏を聞かれるなんて、ちょっと恥ずかしいし怖かったケド…

 

それから「歌ってみた」とかゲームの実況なんかも2人で録ったりして、定期的に投稿してる。音楽のコメントは辛口なものも多いけど、ヒーローになるんだからこの程度の批判でへこたれる訳にはいかないよね。

でもなぁ…弾いてみた動画で私が映ってる時に限って『ぺたん娘』とか『絶壁』コメント連発する連中だけは許さん!絶対にだ!あとなんだ『山と壁』って!当てつけか!

 

うう…やっぱ帝は身長も胸もデカいもんな…並んで弾いてると揺れるし、動画は顔が見えないように首から下を録ってるから並ぶと余計際立つんだ。

なんだよ「胸が邪魔で弦が見えねえ」って!あの無駄乳削ぎ落としてやろうか…

 

「響香ーご飯よー。」

 

「ッ!はーい今行くー。」

 

貧乳の闇(ダークサイド)に堕ちかけた私の心を晴らすように母さんの声が部屋まで届く。扉を開ければスパイスのいい匂いがここまで漂ってきて、釣られてお腹も空いてきた。夕飯はカレーっぽい。

 

『耳郎さん、お願いね。

これから先、何があってもあの子とずっと友達でいてあげて。』

 

手を取って、悲しそうな表情で私の目を見て話す先輩は僅かに震えていた。あの表情の裏に何が隠されていたのかは分からなかったけど。

…言われなくても帝は友達だ。

同じヒーローを目指す大切な親友、アイツが助けを求めるなら、私が助けてあげなくちゃ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝チャン。5番テーブルにハニートースト2つ、メロンソーダとオレンジジュースはボクが用意するからお願いネ!」

 

「あわわわわ…

3番テーブルお会計…レジ行きますぅ!」

 

「カウンター席の清掃終わったぞ、外で並んでる客を入れてくる。」

 

「みー姉ちゃん、卵足りない!あとホットケーキミックスも!」

 

「一体どうしたというんだあ…(瀕死)」

 

此処は死地、大量注文蔓延る地獄の(ちまた)。そう、オールドスパイダーの厨房です。

時刻はお昼過ぎ、体育祭終わって三連休の最終日だ。週の始まり、月曜日という事でいつもなら人も疎らな店内で種火周回しつつぐーたらしながら店番すんだろなって思っていたんだけど、違った。

 

「なんで平日の昼過ぎなのにこんなに人が来るのっ!!」

 

厨房で1人叫ぶ。

コンロは4つフル稼働、ガトー達に火の番をさせながら果物切って生地こねて、1人クッキングマシーンになり果てる私がそこにおるのだ。あまりの忙しさに急遽午前で授業を終えた夢見さん、そして特別ゲストとしてちー君と壊理ちゃんを招集してヘルプに入ってもらう始末。

いつもこの時間は店内に2人居れば多い方なのに今日に限って満席で、あまつさえ外に軽く列ができる程の盛況ぶりだ。

皆がフロアを行ったり来たり、壊理ちゃんには厨房のお手伝いを、ちー君にはフロアの片付けと清掃を任せた。本当はレジ打ちもお願いしたいけど、潔癖症拗らせてるあの男が他人のお金を触る訳が無いから仕方ない。消毒液に1晩漬けないと硬貨触れないもんね、ってそもそもちー君カード決済しかしないわ。しかも限度額無制限(ブラック)、ブルジョアめ。

 

「とりあえず家で使う分の卵がある筈だからそっちで代用しよう、奥の部屋の冷蔵庫探してみて。ホットケーキミックスは後で翼竜を買い物に行かせるから他に足りない物をメモにリストアップしておいてくれる?」

 

「わかった!」

 

近所のスーパーならブラウニーを向かわせれば察して用意してくれる筈、日頃からあいつらパシらせといて良かった!

 

「よっし、チョコシロップパフェ2つ出来た。ちー君宜しく!」

 

「ん…」

 

厨房から直接カウンターに繋がる小窓に出来上がったパフェを差し出して持って行って貰う。ドリンクを作ってる店長も顔には出てないけどヘロヘロだ。

 

「イヤー忙しいネ、長い事店をやってるけど満席は初めてだヨ。」

 

「何故に平日の昼間からこんな人が…」

 

「フロアに出てみれば分かるんじゃない?」

 

「は?フロアに…?」

 

くふふっと含み笑いする店長。

言ってる間にホットケーキ3人前が焼きあがった。夢見さんはレジ対応中、ちー君は注文を取ってるし私が直接持っていくしかないか。

メイプルシロップとバターを掛けて、三段ホットケーキ×3つを大きなお盆に載せた私は扉を蹴り開けてフロアに出た。両手塞がってんだから許せ。

 

「はいよー、7番テーブルのお客さん。ホットケーキセットお待ちどう…さ…ま……」

 

 

ふぁ!?

 

 

私が出てきた途端、さっきまで騒がしかったフロアが急に静まり返ったんだけど。怖ッ。

そんで何故皆して私をじっと見つめるの!?待って怖い怖い!

 

『きゃああああああっ!』

 

「ひえっ!?」

 

突然の歓声にビクってなった。本当なんなの…

 

「体育祭準優勝おめでとうございます、龍征先輩!」

 

「とってもかっこよかったわ!」

 

「ずっと前からファンでした、握手してください!」

 

「し、写真一緒に撮って貰っても良いですか!?」

 

「バーテンダー服姿も素敵です!」

 

ひいっ!?近い近い!狭い店内でそんな詰め寄らないで!?

おい聖徳太子を連れてこい、全員がいっぺんに喋って何言ってんのかさっぱりわからんぞ。

…よく見たらこの子達餓鬼道の生徒じゃないの?それと他校の制服着た子もチラホラ。どうやら私が体育祭で準優勝したのを聞きつけてわざわざ来たらしい…ってそれって授業サボってるんじゃない!?遠いところだと隣町から来た子もいるようだ。

 

「イヤー人気者だネー。」

 

「体育祭大活躍でしたもんね。」

 

「騒がしい…」

 

いや…そこ3人遠巻きに眺めてないでさ…

 

「見てないで助けて!」

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「はぁ〜…」

 

つ、疲れた…

散々握手や写真撮影を求められ、褒められたり粗品を渡されたり突然告白されたり色々あったものの、漸く静かになったフロアのカウンター席に突っ伏して溜め息を吐く。

話を聞くに、あの子達は体育祭を見て私に会いに来たらしい。そういえば全国放送されてましたわ、私。

 

「昼間の忙しさは私のせいだったのか…」

 

まさにインガオホー。

ピークの去った店内には、さっき入ってきた男女3人組が奥のテーブル席に座っている以外人は居ない。ちー君と壊理ちゃんも今は裏へ引っ込んで休憩中、手伝ってもらった御礼に後でなんか作ってあげよう。

 

「夢見さんもありがと、もう波は引いたから後は私と店長だけで大丈夫だよ。」

 

「そ、そうですか…それではお先に失礼しますね。お疲れ様ですぅ…」

 

眼鏡がズレてるのを直す気力もないのか、ヘトヘトな夢見さんは裏へ戻って行った。あの人文系女子だからなのか体力ないのよね。

 

さ、後は奥の3人組だけだな。

 

「すみませーん!」

 

なんて考えてると、活発そうな女の人がぶんぶんと手を振って私を呼んでいる。注文用のメモ持ってテーブルまで向かった。足取りが重いけど許して欲しい、体力はあるけど心が疲れているのだ、心が。

 

「はいはーい、ご注文は?」

 

座っていたのは青みがかった黒髪に尖った耳が特徴の根暗そうな黒髪の男の人とデフォルメされたザ・平凡みたいな顔付きの大柄な男の人。それからさっき私を呼んだ水色のねじれた長い髪した女の人だった。全員私より年上っぽい。

 

「えっとー、三色ホットケーキ。飲み物はカフェオレで!」

 

「…ヨーグルトパフェ。」

 

「店長オリジナルブレンドってのを1つ!」

 

「はい、了解。

ホットケーキはできるまでちょっと時間貰いますけど大丈夫?」

 

「全然大丈夫!

…………」

 

「……?」

 

ホットケーキはこれから作るからちょっと時間かかるのだ。確認の為に目が合った女の人から凄いジロジロ見られてる。ガン飛ばしじゃないだけマシだけど、穴が開くほど見られるとなんかむずがゆい…

 

「ねえねえ、通形君!

この子ってもしかして…一年で準優勝した子じゃない?」

 

げっ、またこのパターンか。

…いや待てよ。『一年で準優勝した子』って言い方、よく考えたら外部の人の言い方じゃないな(黄金の理解力)。

もしかしてこの人達雄英生だっりするのか?

 

「ん?おお、そうだね波動さん!

君、一年の決勝戦で暴れ回った龍になる子だよね!」

 

「……はい、そうです。」

 

暴れ回った、って…ちょっと制御が出来なくなっただけですよーだ。先輩っぽいし取り敢えず敬語が無難かな。

 

「わーやっぱり!

確か名前は龍征さんだったよね!あってる?あってる??」

 

「はい。雄英ヒーロー科1年A組出席番号21番、龍征帝です。

多分雄英の先輩ですよね…?」

 

「そうそうー!

私は3年生の波動ねじれっていうの!

それでこっちが通形君で、ずっと俯いてる方は天喰君。宜しくね後輩ちゃん!」

 

「初めまして、先輩。宜しくお願いします。」

 

「……宜しく。」

 

「堅苦しいのはいいよ、龍征さん。

ほら環も挨拶くらい顔を上げなよ!」

 

いちいちオーバーアクションな通形先輩、キャラが濃い…

 

「ミリオ…彼女が反応に困ってるぞ。」

 

そう通形先輩を窘める天喰先輩も何故か私と目を合わせてくれない。

 

「龍征…長いから帝ちゃんって呼ぶね!

帝ちゃん背ぇ高いね、何食べたらそんなに大きくなるの?ねえねえ!」

 

「波動先輩、近いです近いです。」

 

めっちゃグイグイくる波動先輩をあしらいながら、ふと通形先輩の方を見る。

この人…尋常じゃない鍛え方してるな。シャツの上からでも分かるくらい隆起した筋肉を見る限り、並じゃない鍛錬を積んできたんだろう。雄英の3年生ともなると殆どプロヒーローと変わりないだろうし…

 

「先輩がたはどうしてウチに?」

 

「さっきも言った通り、本当にたまたまさ。

波動さんにSNSで気になる店があるからって呼び出されたんだ。丁度俺達も体育祭が終わって、インターンの境目で暇だったもんね!」

 

「うんうん!ホラこれ見て!」

 

ぱっと差し出された波動先輩のスマホ画面にはウチで出してるメイプルパンケーキの写真が投稿されていた。というかこれMt.レディのアンスタグラムじゃん。前に来た時出したのを載せてたんだ。

 

「すっごく美味しそう!」

 

「…波動さんは言い出したら聞かないんだ。」

 

「なるほど、分かりました。

先輩の期待に応えられるようにしっかり作りますよ。」

 

「お願い!」

 

波動先輩に見送られながら厨房に戻る、途中で店長にドリンクの方をお願いして早速予め用意しておいた三色の生地をそれぞれフライパンに入れて、火を付けた。

 

インターンって…確か私達が次にやる職場体験の後に控えてる奴だよね。目的は実際にヒーロー事務所にサイドキックとして所属して、プロと同じ空気を肌で感じる為だったり、現場の緊張感をより近くで身に付ける職業訓練みたいな感じの。

 

「みー姉ちゃん、お手伝いしよっか?」

 

「んー、じゃあチョコの生地が入ったフライパン任せる。頑張りたまえ我が弟子よ。」

 

「うん…!」

 

トテトテ事務所から出てきた壊理ちゃんが手伝ってくれるなら百人力だ。今の私は阿修羅すら凌駕するぞ(確信)。

 

「失敗しても『巻き戻し』じゃ戻らないからね?」

 

「言われなくても分かってるよ!」

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

「ふわああ…すっごぉい…美味しそー!」

 

まるで子供のようにキラキラと目を輝かせる波動先輩。目の前には三段に積み上げられた三色のホットケーキ、下からチョコ、イチゴ、メイプル味の生地を混ぜ込んだ仕様の私特製品だ。

 

「はい、お待ちどうさま。お飲み物はこちらに。

天喰先輩のヨーグルトパフェと通形先輩のコーヒーはこちらです。」

 

「…ありがとう…ございます……」(ボソッ)

 

「ありがとうね、龍征さん!」

 

 

出されたコーヒーを「お、これ美味しいね!」と言いながらゴクゴク飲み始める通形先輩。熱いのにそんな勢いで飲んで大丈夫?

 

…やっぱり凄い筋肉だな、

雄英高校はヒーローを育成する学校の中でもトップクラスの排出率を誇る。

そんな学校の3年生ともなると、きっと経験も実績も尋常じゃない。ボディビルダーみたいな「見せ筋」とは違う、この人のは闘う為に鍛え上げられた筋肉だ。それに加えて腕には小さな傷が幾つも…

 

「傷跡が気になるかい?」

 

やば…ちょっとジロジロ見過ぎた。

 

「すみません、先輩。

インターンは過酷なんだなって思いました。」

 

「謝る必要なんか無いよね!

誰かを守るために付いた傷さ、俺にとっては勲章だよ。」

 

通形先輩はコーヒー片手に笑う。

 

「俺は皆を救えるヒーローになりたかった。

その為に死ぬ程努力して、今の俺がいる。

君もこれから雄英で培っていくんだ。

焦って、悩んで、ぶつかり合って、切磋琢磨し己を磨く。理想のヒーローになる為にね!」

 

「理想のヒーローに…」

 

「そう!

龍征さんにもあるだろう?理想の自分が。」

 

私、私は…()()()()()

困ってる人を助けられるヒーローになりたかった。ちー君は『都合のいい奴』とか鼻で笑うけど、誰かの為に自分の力を使えるヒーローに…

 

「…あります。」

 

「なら大丈夫!

一年はこれから職場体験だろう?体育祭であんなに活躍した龍征さんなら、沢山の選択肢が用意されている筈さ。じっくり考えて、君のなりたいヒーローに1歩でも近付けるような事務所を選ぶといい!」

 

「はい。ありがとうございます、通形先輩。」

 

笑顔に裏付けされた自信…その背後にあるのはきっと、血の滲む様な努力と挫折の繰り返し。普段食堂でチラホラ見かけるどの3年生よりも、通形先輩の姿は輝いて見えた。

こういう人が将来オールマイトみたいなヒーローになるのかもしれない。

 

「おいひぃ〜!」

 

「ハハハッ波動さん俺が折角いい事言ったのに間の抜ける声出してくれるよね!格好つかないじゃないか!」

 

「ねえねえ!なんでこんなに美味しいの?焼き加減?生地の配合?」

 

「企業秘密です。先輩近い近い近い…」

 

波動先輩はどうやらホットケーキがお気に召した御様子。喜んでもらえてよかった。

天喰先輩も殆ど喋らないけどパフェを食べる手は止めないし、気に入って貰えたのかな?

 

 

…………

 

 

「帝、いつまで喋ってる。」

 

「あ、あれ?ちー君?もしかしてちょっと喋り過ぎた…?」

 

後ろからちー君に声を掛けられる。時計を確認するとかれこれ30分位先輩方と喋り続けていたらしい、そういやちー君と壊理ちゃんに昼食待たせてるの忘れてた!

わざわざフロアまで出てくるってことは相当おかんむりだぞ。

 

「お前が直ぐ作ると言うから待っていたのに、無駄な時間を過ごしたぞ。」

 

「ゴメンゴメン、これから作るから許して。なんでも好きな物作ってあげるから。」

 

「……今なんでもと言ったな?」

 

ひゃあ悪人面!流石指定暴力団の若頭だ。

 

「先輩ごめんなさい、話の続きはまた別の機会に聞かせて下さい。」

 

「いいよいいよ、丁度波動さんも食べ終わった事だし俺達もお暇するよね!

ホラ行こう二人とも。」

 

「あー美味しかった!帝ちゃんご馳走様!」

 

「……ご馳走様でした。」

 

席から立ち上がった3人はレジの方へと向かう。途中ですれ違ったちー君と通形先輩の視線が交差した気がしたのは気のせい?

 

「じゃあ職場体験、悔いの無いように頑張ってね!」

 

「ありがとうございましたー。」

 

手を振って店の扉を閉める先輩を見送り、急いで厨房に戻る。ちー君はお怒りだ。

 

「よし、客も消えたしもう大丈夫。何作ろっか?」

 

「寿司。」

 

「冷蔵庫にあるもので作れる料理に限定します…」

 

「お前はなんでもと言ったろう。」

 

「寿司は流石に直ぐ作るには無理があるかな!主に材料の関係で!」

 

(ウチ)にならある。」

 

それは今から死穢八斎會まで言って寿司を握れって事かな!?

つーかナマモノだよ?潔癖症は何処行ったんだ。

 

「ちー君のいじわる!」

 

「当たり前だ、ヤクザだからな。」

 

悪びれないあたりいっそ清々しい!

 

 

 

 

カランコロン

 

 

 

「いらっしゃ…オヤ、君かい。

帝チャン、君にお客様だヨ。」

 

「はーい、ぁ…」

 

ちー君との不毛な言い争いを断ち切るようにドアの鐘が鳴る。

そこにはメイド服姿の女性が立っていた。黒髪を2箇所に纏めたお団子ヘアー、片目が掛かる位の長い前髪に嫌という程見た鉄仮面。

そして一番特徴的な、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(フォン) 鉄美(ティエメイ)

印照家に在籍するメイドさん、普段は才子先輩のお父様…印照英雄(いんてりひでお)の護衛兼秘書をしている。

 

「お久しぶりです、メイさん。」

 

「…………」

 

軽く挨拶するもメイさんはこっちを一瞥しただけで何も喋らない、いつもの事だからいいけど。

 

「失礼致します、守屋様。

旦那様の御指示により龍征帝をお借り致しますのでご了承くださいませ。」

 

きびきびとお辞儀をしながら再び私に視線を…というか半目で睨み付けてくるメイさん。眼光が鋭い、怖い、昔からこうだから苦手なのよね…

才子先輩の付き人してた頃、私に格闘技や戦闘の手解きをしてくれたのがメイさんだ。

大体の戦闘経験や攻撃の先読みも彼女から、完全には習得出来なかったけど功夫(クンフー)や一通りの銃器の扱い、あと車輌の運転とかも教わった(免許?印照家の敷地内で乗り回すだけだからセーフセーフ)。いわば私の師匠のような人。戦ったら絶対勝てない。

 

 

「旦那様がお呼びです。

早く支度なさいノロマ、遂に思考まで亀レベルに落ちぶれたのですか?」

 

「はひぃ!?スグ着替えてきます!

ゴメンちー君、さっきの話夜でもいい?」

 

相変わらず言い方が酷い!言葉の端々がトンガリまくってる!

メイさんが来たということは、最早私に拒否権は無い。ご当主様からの招集なのだ。印照家の所有物である私は何よりも最優先で会いに行かなきゃならない。

主従関係は大事ってハッキリわかんだね。

 

「…良いだろう。

壊理を連れて先に帰ってる、必ず来い。」

 

そのへんはちー君も理解してくれてるみたいで、一瞬メイさんを睨みつけはしたもの再び奥へ戻って行った。

私も早く着替えなきゃ!

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

メイさんが運転する車の助手席で、ジャージ姿の私は流れていく背景をぼーっと眺めていた。

 

「日本の街中で黒の高級外車を走らせるのはかなり目立ちません?」

 

「他人からどう思われようと知った事ではありません。」

 

今私が乗ってるのはマクラーレン・720S、流線型の車体が印象的な高級車だ。そのお値段なんと5000万円弱。映画とかにもよく登場する車ね。

世界的企業印照財閥ともなると秘書の車もレベルが違う。チョイスは多分メイさんだろう、あの人速くてかっこいい車好きだし。

 

「チッ…道幅の狭い国ですね。」

 

軽く舌打ちしたメイさんは疎らに混み合う道路を縫うように抜けて、マクラーレンが独特な排気音を響かせながらぐんぐん進んでく。

 

お互い黙って、何も喋らない。メイさんは無駄なお喋りが嫌いだと言う事を知っているから、必要以上の話はしない様にしてる。

 

ふと、運転するメイさんのスカートから覗く鋼鉄の脚が目に止まった。

メイさんの両足、太腿から下は機械の足だ。材料は強化カーボンと鉄、重さまで元の脚と変わらない程精密に、印照財閥の保有する技術の粋を集め作られた戦闘可能な強化義足。

元々事故や四肢を失ったヒーローの現場復帰に役立てるように開発された物だったらしいが、メイさんはそれのテスターも兼ねている。

 

 

 

「…ジロジロ見るな、不快です。」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「本社に到着したら定期検査を行います。お前が如何に無能でも検査室までの道は忘れていませんね?」

 

「はい。」

 

「宜しい、検査が終了しだい社長室まで来なさい。旦那様がお待ちです。」

 

「分かりました、メイさん。」

 

言われた事にだけ淡々と返事する。

 

「……」

 

「……」

 

でも気にしないわけないじゃない。

 

「あ、あの…」

 

「何か。」

 

「えぇっと…そのですね…足のこ」

 

「黙りなさい。

もう済んだ話だと前にも言ったはずです。」

 

「うぅ…はい…」

 

 

突き放す様にピシャリと言い放つ。それっきり、私もメイさんも口を開く事は無かった。

カーステレオも掛かってない、マクラーレンの駆動音だけが静かに車内に響く。

 

本当にメイさんは強い人だ。

両足を失っても弱音なんて吐かないし、疲れをおくびにも出さない。義足のリハビリだって完治に1ヶ月かかると言われたのにたった1週間で完璧に馴染ませた。個性の使い方も上手くて、強くてかっこいい、料理以外はなんでもこなすまさに完璧超人。完全で瀟洒な印照家の従者。

 

でも…あの時、もっと私を責めて欲しかった。

「お前のせいだ」って罵倒して、怒ってくれればまだ気が楽だ。

 

「着きました、さっさと降りなさい。」

 

「……はい。」

 

本社入り口の前に横付けしたマクラーレン、ガルウィングの扉を開けると、夕暮れ時の血のように紅い夕陽がメイさんを照らす。

 

きっと私は許されることは無い。事故だから、なんて甘い考えは通じない。

 

 

メイさんの脚を潰したのは私だ

 

 

あの人の未来を奪って、一生消えない傷を残してしまったのは、私なんだ。

 

 

負い目が心の奥でじくじく痛む。

四年前と同じ、メイさんの背中を付いていくだけの私は…何も変わっちゃいない。







この夜めちゃくちゃ寿司握った






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