帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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外さっっっっっむ

失踪するわこんなん


※オリジナル展開オリキャラオリ設定並びに堀越先生の別漫画のキャラが若干改変されて登場するので注意な




30 私の職場体験記vol.2

響き渡る怒号、止むことのない喧騒。

今日も窓ガラスが割れ椅子や机が飛び交って、誰かが発動しただろう個性の炎やら雷やらが黒板に叩きつけられる。

今月の始めに赴任してきたばかりの先生は3日と持たずに辞めてしまった。理由は簡単、彼等の怒りを買い物理的に吊るし上げられたから心が折れてしまったんだろう。前の学校では厳格で有名な生活指導の先生だったらしいけど、此処では勝手が違いすぎる。普通の経験なんて宛にならない。

 

…半分欠けて壊れたスピーカーからチャイムの音が聞こえる、もうお昼だ。

今日も授業は予定の半分も進まなかった、クラスの誰かが巫山戯半分に個性で酸か何かを黒板にぶちまけて板書を取ることもままならなかったから。逃げるように去っていく先生を何人かが嘲笑して、それに連鎖してクラス中が下品な笑い声で満たされていく。

こんなのはこの学校では日常茶飯事、授業中にトランプで遊んだり、野球を始めるのはまだ優しい方で、酷い時は授業を妨害したり突然個性有りの大喧嘩を始めたりする。

今もそう、向かいに建つ二年棟は昼前から下階が全部凍っていたし、三年棟のある方角からは今もひっきりなしに爆音と雷鳴が聞こえてくる。

学級崩壊…なんて言葉すら生温い、学校全体がこうなのだ。

 

誰もが恐れて近寄らない最悪の不良校『餓鬼道中学校』、大変残念な事にこんな場所が私の母校だった。

 

私が使ってる机、入学当初からシールと落書きだらけのお下がり品に教科書やノートをしまい込み、喧嘩の巻き添えで壊れないよう祈りながら他の生徒達のがなり声を背景になるべく目立たないよう教室を出る。

人気の少ない校舎隅の消火栓まで駆け足で走って、隠れるように座り込んだ。道中でっかい針みたいなものが頭を掠めたけどどうせ誰かの喧嘩のとばっちりだろう。

そうして校舎の端っこ、誰も来ないような場所で持参したお弁当をかきこむ。学内食堂は勿論あるのだけど、彼処は三年生の先輩達が陣取っているから行くことはできない。女の子ならなおさらに、色々な意味で危ないから。

 

そそくさと食べ終えたお弁当を片付けて、私は校舎裏のもっと奥へと進む。

 

「またやられてる…」

 

視界の先に広がるぐちゃぐちゃに荒らされたチューリップ畑。土を踏みつけた大きな足跡と折られた茎は明らかに故意のもので、酷い惨状だった。

私はその中から完全にダメになったものを取り除いて、まだ使えそうなものは土を改めて植え直す。土壌も綺麗に(なら)して、手が汚れるのなんてお構い無し、もともと土いじりは好きだったからなんの苦にもならない。

私がこの花畑を発見したのは入学してまだ間もない頃、怖い先輩や同級生達から逃げ回って辿り着いた校舎裏で見つけた。その時はまだ誰の目にも停められず綺麗なままだったチューリップ畑、誰が作ったのかは知らないけれど、この夢も希望もない餓鬼道中学校(吐き溜め)で唯一『キレイなもの』だった。

それを壊されたくなかったのかもしれない、いつしか私は何度も荒らされるこの畑を毎日整え直すのが日課になっていた。

 

「あれあれェ…?こんな校舎裏で何してるのかなぁ一年生君。」

 

不意に声を掛けられ、びっくりして思わず身体が跳ねる、恐る恐る振り返るとそこには3人の男子生徒の姿があった。

靴の色からして二年生、校舎からも遠いし此処には滅多に人が来ない筈なのにどうして…

 

「こんな校舎裏でコソコソと、欲求不満なのか?w」

 

「ちがっ…違います!

私はただこの花畑を…」

 

「それはいけない!凄くいけないなぁ!

この辺りはボクたちのナワバリなんだ、勝手にウロウロされるのは困るんだよ。」

 

ナワバリってなんだ、ここ一年棟の裏だよ。二年生が何やってんの。

結局中学生のくだらない自己満足じゃないか。これだから思春期の男子は…

ガタイのいい2人に挟まれている真ん中のキザったらしい細い人が不意に私の手を握る、怖くて振りほどこうとして…身体が動かない!?

 

「ああ、ボクの個性は〝フェロモン〟。こうして相手に触れる事で特定の行動を制限したり誘発させたりできるんだ。異性には特に効きやすくてね。

見たところキミ、背は低いが一年の割になかなか可愛いね。

学内は危ないだろう?なんならウチの派閥で保護してあげても良いよ。」

 

「オマエそう言って女子連れ込んで今まで何人食って来たんだよw」

 

「そうそう、個性で無理やり欲情させてさあ。」

 

「煩いなお前たちにだって楽しませてやったろぅ?」

 

悪びれる素振りもなく嗤う男子たち。

最低だ、思った以上にヤバい人達だった。

というか中学校一年生とはいえ見るからに幼児体型の私にこういう事言っちゃうなんて別ベクトルでヤバい。一刻も早く離れたい。

校舎裏で助けも呼べない、仮に呼んだとしてもこの学校にヒーローなんて来ない。此処は教育機関という体裁で世間から隔絶された陸の孤島だ。自力で脱出するしかない訳だけど、フェロモンのせいで身体は動かないまま、このままじゃまずい、どうにかして脱出しないと…!

 

「さ、サイテーです…」

 

「いやいやちゃんと合意のうえだから。

たまたまその気になった女の子の欲求を満たしてあげてるだけさ。」

 

軽薄な笑みを浮かべたまま男の手が再び伸びてきて、危機を感じた私は思わず個性を使ってしまった。

 

「うわっ!?なんだこれ…ゴホッゴホッ!!」

 

私の右腕から突如膨れ上がった苔色のコブが割れ、その中に蓄積されていたガスが男に向かって吹き出す。

それから私の身体のあちこちに浮かびあがる緑の斑点、まるで病気みたいなその姿に連中は一瞬たじろいだ。ざまあみろ。

私の個性〝瘴気〟は見た目がすごく悪い。突然変異らしく両親から気味悪がられて私はこの学校へ放逐された。

個性を使った私を見る人はみんな同じ目をするんだ、この個性が初めて発現した時のおとうさんとおかあさんも今のお前と同じ目をしてた。「化け物め」って言ってる目、「気持ち悪い」「汚い」「醜い」そんな感情の篭った表情でみんな私を見る。

ほら、きっとお前も。

 

「なななんだその気持ち悪い姿は!個性か!?

もういいよこんな汚い奴なんて知るか!お前達行くぞ!

こんな所で寄り道してる暇はない、さっさとウワサになってる3組の金髪美女を手篭めにしに行くんだ!」

 

もう欲望を隠す気すら無くなったか、すっかり興味を無くした奴らは私から離れていく。

これでいい、後々になって目をつけられるよりずっと楽だし…誰も私の事なんて(パリンッ)

 

ぱりん?

 

「「「へ?」」」

 

間抜けな声を上げた男共と一緒になって空を見上げると、上の階の窓ガラスが吹き飛んだのが見えた。次いでそこから飛び出し落ちてくる大きな影。

それは丁度私と男共の間に落下して衝撃で土煙を巻き上げた。

 

「「「ぎゃあああああッ!?」」」

 

地面に当たった衝撃であの3人組はゴロゴロ転がりなが吹っ飛ばされてく。

落ちてきたのは異形個性持ちであろう3mほどある巨体の男子と、それに馬乗りになった女子生徒だった。

男の方は泡を吹いて気絶している。ボコボコに殴られた後なのか顔面が凹まされていて見るも無惨な姿になってた、息はしているようなので死んではいないみたいだけど…

落下時にその巨体をクッション代わりにしたのか女子生徒の方に外傷はなく、ボロボロになって気を失っている男の襟を掴みあげて眠たそうに睨みつけていた。

 

「あァ〜…?気絶してるじゃん、私の昼寝の邪魔しといてさ。

起きて下さいよぉ、大巌原センパぁい。生意気な後輩に礼儀教えてくれるんでしょー?

おーい……つまんな。」

 

大巌原…?それって学内でも凶悪で有名な三年生だって聞いたような…

興味を失った彼女は舌打ちをしてから男の顔を音が鳴るくらいビンタして、それでも起きない彼に呆れると巨体から飛び降り、丁度私と目が合った。

斑点だらけで瘴気まみれの気持ち悪い私と。

 

「……ぁ」

 

「……?」

 

「……」

 

「…最近の娘は変わったメイクが流行ってるのね。」

 

「違うよ!?」

 

はっ!?思わず大きな声でツッこんでしまった…

そんな縮こまる私に彼女は躊躇いもなく手を伸ばす。

 

「ほら手ぇ貸すから立って、スカート土まみれ。」

 

「…ぇ」

 

どうして?私の手、汚いよ?土も触ったし瘴気のコブあるし、見えたもんじゃないよ?

 

「?ほら早く。」

 

「…へぁ?」

 

そのままなんの躊躇いもなく手を握って引き寄せられた、私に触った。だと言うのに彼女の赤いルビーのような瞳には一切の嫌悪も厭悪(えんお)も無くて。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「おう、怪我ないみたいで良かった。」

 

輝くような金髪を靡かせながら彼女は微笑んだ。

 

あの日握ってくれた手の温もりは今でも鮮明に覚えてる

 

 

ある者には力をもって

 

ある者には知恵をもって

 

ある者には優しさをもって

 

教育機関なんて名ばかりの、血と喧嘩に彩られた地獄は変えられていく

 

オールマイトなんかより身近で素敵なヒーローに

 

 

 

 

これはとある少女の原点(オリジン)

 

そして龍征帝が餓鬼道の女帝(ヒーロー)になるまで、その始まりの物語だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後4時半頃、逢魔ヶ刻動物園

県内某所に位置する山の中腹にその動物園はあった。

創立は古く、まだ超常黎明期の混乱が続いていたころに個性(この頃はまだ〝異能〟と呼ばれていた)を乱用し悪戯に乱獲される野生動物を保護し、その種を後世に繋げるため国主導のもと設立された機関だと言われている。

都会から離れた山中に建っているのは外界の影響を受けにくいように、と動物たちへの配慮の為だ。

そのうえ人間以外の生物から個性が発現する事も稀にある(根津校長がそれにあたる)し、万が一そのような事態が起きた時の為に小さな研究所も併設されている。

 

「結構ってゆうか…殆ど廃園に近いんじゃ?」

 

「言ったろ、歴史あるって。

もともとは超常世紀に取り残された動物たちを保護するってのが目的で園の運営は二の次らしいし。」

 

「おぉ〜…!動物園ってワクワクするッス!

夢、詰まってますよね!」

 

「夜嵐君にはそのピュアな心のまま大人に育って欲しいな…オジサンなんか涙出てきたよ。」

 

「いやバックドラフトさんギリギリまだ20歳でしょ、ヒーロー名鑑に記載されてたし。」

 

「龍征さんはどの動物が好きっスか!?

自分サイが好きっス!」

 

「ん〜…動物ねぇ、モルモットとか小さいタイプの子は好きだけど私が近寄ると逃げちゃうからなー。」

 

「逃げる?と言うと?」

 

「そのまんまですよ、触ろうとすると皆震えだして私から逃げて行っちゃうんです。なんでですかねー?」

 

「ああ、もしかして龍征さんが〝龍〟の個性持ってるからッスか!?流石龍の女帝ッスね!」

 

「待って私の悪評動物にまで響いてんの?死にたくなるんだけど…あとひっそり確実に女帝呼び定着させようとすんの止めて、これ以上は追加料金発生するぞ。」

 

「分かりましたいくら払えば良いっスか!?」

 

「ノータイムで財布を出すな私がカツアゲしてるみたいだから!」

 

「龍征さん、発言がヒーローとしてギリギリだぞ…」

 

「…ケッ!」

 

ガラガラのパーキングに車を停めて4()()はうす錆びれたアーチを抜ける。

…なに?1人多い?失礼、紹介し忘れた。

 

「なんで私がわざわざスポンサーの所までアイサツに来なきゃいけねえんだよ!」

 

入り口で叫ぶこの女性こそヒーロービルボードチャート上位に食い込む程の実力者にしてラビットヒーロー『ミルコ』。

先の火事の後帝にちょっかいをかけ彼女の職場体験を知り、これから逢魔ヶ刻動物園へ向かうバックドラフトから「唯一のスポンサー様なんだから偶には自分で挨拶くらいした方がいいんじゃない?」との説得を受け渋々承諾しバックドラフト事務所の訪問に同席する運びとなった。

バックドラフトとミルコ、一見全く関わりの無いように見える2人は意外にも既知の間柄だった。彼等の共通項を作ったのが逢魔ヶ刻動物園である。

事務所も置かずサイドキックも取らず、一匹狼ならぬ一匹兎を貫くミルコ唯一のスポンサー企業。そして地元が近いという理由で献身的に劣化しやすい施設のチェックに訪れてくれるバックドラフト。

本当はミルコが礼儀として挨拶なりチャリティーなりでスポンサーに恩返しすべきなのだろうが、それをやっているのは殆どバックドラフトである。

少なからず恩のあるバックドラフトの申し出だからこそミルコは渋々ではあるが了承する事にした。

 

しかし普段から自由奔放、敵を蹴り飛ばすこと以外自分勝手な彼女がただ恩の有る無しでわざわざ同行してくれたのか?それにはまた別の理由がある。

 

「ここまで来て何を言ってるんだか。

嫌なら今すぐ保須の大病院に連絡して看護師に来て貰ってもいいんだよ?ヒーロー活動という名目が無くなれば直ぐにでも君を捕まえに来るだろうね。

どうせ今日も逃げて来たんだろ?デビュー以来一度も健康診断を受けずに今年遂に最優先捕獲リスト入りしたミルコさん。」

 

「う''ッ!!?バックドラフトてめぇ…卑怯なヤツだ!」

 

ミルコは健康診断をサボっていた。

ヒーローとは立場的には公務員と同じ職業である、それならば当然人間ドックを初めとした健康診断は社会の規範となるべき職員の義務であった。勿論ヒーローも毎年2回の健康診断を受ける必要がある。それを彼女はデビューしてからずぅーっとサボり続けている訳だ。

異形個性持ちならその身体に適した特別な検査機器が別途必要になるため面倒な手続きも必要になるだろうがミルコは違う、体型は一般人女性と変わらないので特に面倒な事になる訳でもない。なのに彼女は頑なにボイコットを止めなかった。

 

「捕獲リストって…マジの兎じゃないんだから。」

 

「なんで健康診断受けないんスか?」

 

「ッ…………メンドイ」

 

「「理由が雑!!」」

 

2人がかりでツッコまれるミルコをバックドラフトはマスク越しに呆れため息を吐く。

 

(本当は注射怖いだけなんでしょ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませバックドラフトさん!

って、ミルコさんもいるぅぅ!?!?」

 

「おお華くん、久しぶり。」

 

「……おう。」

 

園内料金所の前で私達一行を迎えてくれたのは半袖姿の飼育員らしい女の人だった。

 

「ミルコさんがココに来るなんて珍し…

っと、あなた達がバックドラフトさんの言っていた職場体験生ですね!ようこそ逢魔ヶ刻動物園へ!

飼育員の蒼井です、宜しくn(ツルンッ ゴシャ)ン''ン''ン''ッ!?…」

 

(こ、コケた…!!) (何もない所で…ッ!?)

 

あ、ありのまま起こったことを正直に話すぜ…

握手しに近寄ってきた蒼井さんが1歩踏み出した瞬間にホントなんにもない真っ平らの地面に滑って空中できりもみ回転しながらコケた!次いでに顔面思いっきり叩き付けられてる、超痛そう!

 

…バックドラフトさんからこっそり教えてもらった情報によると彼女、蒼井華さんは個性でもないのにすごくドジな人らしい(因みに個性は〝健脚〟脚が速くて超健康優良児)。掃除をすればぬかるみに滑ってデッキブラシが宙を舞い、動物達にエサをやろうとすれば糞を踏んづけてひっくり返りエサが宙を舞う。最早才能と言っても過言でもないそのドジっぷりは留まることを知らないそうな…留まってくれ頼むから。

 

「だっ大丈夫ッスか蒼井さん!?」

 

「ン''ン''ン''大丈夫…私ドジだからよくこうなっちゃうの。気''に''し''な''い''で''・・・

 

「その苦悶の表情見て気にしない奴はヒーロー依然に人の心が無えと思います!無理しないでくだい!」

 

「見てるこっちが痛いわ…」

 

改めて大ダメージを負った飼育員、蒼井さんと握手を交わし(当然手はドロドロである)私達は挨拶も兼ねてこの動物園の園長の下に案内された。

 

「園長ぉ〜バックドラフトさん達来ましたよー。」

 

「お久しぶりです椎名園長、消化機器の点検と施設のチェックに来ました。」

 

「ウ〜ス…」

 

園長室、その奥のやたらデカくて金ピカな椅子にふんぞり返ってカタカタとノートパソコンを弄っている、椎名と呼ばれた兎の頭に赤い水玉のマフラーを着けた人がこっちを一瞥し直ぐ画面に顔を戻した。彼が園長らしい。

園長室には大量の書類やら本やらが散らかっててかなり汚い、執務机なんて書類の束の山ができてて辛うじて園長の顔が見えるくらいだ。書類はなんかの研究文書みたいだけど…内容まで分からない。

 

「おうバックドラフト、はよ点検行け。」

 

(いきなり不遜な物言い!)

 

「そんでお前らが職場体験生とやらか、次いでに2人も働け。

丁度エサの時間じゃろ、華と一緒に行けホラ。

あ、ルミもな。」

 

「はァ?」

 

「えぇ…」

 

なんだこの傲岸不遜な兎男は…

あとミルコの本名ルミっていうのね、かわいいかよ。

 

「いいんスかバックドラフトさん!?」

 

「いやこの子達は職場体験生なのでヒーローの仕事を見せないと…というかレップウちょっと楽しそうだと思ってない?」

 

「そんな滅相も…あるっス!」

「あるんだ」 「あんのかよ」

 

「んじゃルミのスポンサー契約切る、次いでにシシドとウワバミのも。」

 

「スポンサーを盾にしたただとぅ!?」

 

「「やる事が姑息だ!?」」

 

「シシドとウワバミは関係ねーだろが!」

 

「連帯責任じゃろがい!」

 

「この世で責任という言葉から最も縁遠いヤロウが言ってんじゃねーよ!

お前がやりゃいいだろ!」

 

「ワシは面白い事しかしたくないから嫌じゃ!」

 

「「「子供(ガキ)か!!!」」」

 

突然の横暴すぎる発言に反論する私たちだったが、バックドラフトさんはしばらく唸ったあと…

 

「はぁ〜…しょうがない。

2人ともお願いできるかい?この人言い出したら聞かないんだ。設備の点検はオレとオーガミさん(もう1人の従業員:個性〝狼〟)でやっておくから。1時間くらいで済むはずだから頼むよ。」

 

なんと首を縦に振ってしまった。

 

次いでにミルコさんも

 

「私はイヤだぞ!

挨拶は終わったんだからもう帰る!」

 

「病院」

 

「くっ…!!!」

 

漢字二文字で即落ち二コマみたいに説き伏せられ参加決定。

と、言うワケで私達は更衣室に案内されて作業服に着替えさせられ、まさかの4人パーティーで園内の動物たちにエサをやる事になったのだけど…

 

「飽きた!」

 

「ミルコさん早いですまだ3件目です。」

 

二手に分かれてやった方が効率的だと蒼井さんの提案で私、ミルコペアと蒼井、夜嵐ペアでそれぞれ園の反対側から始めた訳だが見ての通り早速ミルコさんが飽きた。

私動物のエサのやり方なんて知らなかったんだけど、ミルコさんはとても詳しい。

さっきもアザラシのエサやりで教えてもらった、魚は頭からあげないとエラや鱗が喉に引っかかってしまい危ないらしい。

 

「ミルコさんもしかして昔此処で働いてました?」

 

「ちょびっとだけな、バイト代出たから。」

 

聞いたら彼女の学生時代のバイト先だったらしい、それで園長と顔見知りだったんだ。他にもライオンヒーロー『シシド』とスネークヒーロー『ウワバミ』、この2人も同期らしく同じ時期にこの動物園でバイトをしていたらしい。名鑑にも乗ってないヒーロー達の隠された過去だ。

緑谷あたりに高く売れそう(小並感)

 

ヒーローになってもスポンサーになってくれるくらいだから仲良かったんだね。

 

「園長と仲良いんですね。」

 

「はァ?馬鹿言うな、アイツは嫌いだ。

蹴る!絶対蹴る…!」

 

「バケツ歪んでますよ?」

 

止めてあげてバケツ君が可哀想、そして中身の餌がミチミチ漏れてるから!ライオン君のお肉が!

 

「ま、当時一回も蹴れた事無かったんだけどな。あの野郎速さと強さだけは本物だったから。」

 

「ミルコさんが勝てないくらいの強さだったんですか彼!?」

 

マジか、彼女より上か。

園長ってひょっとして昔ヒーローだったりしたのかな。

 

「でも兎頭のヒーローなんて聞いた事無いですね。相澤先生みたいなアングラ系ヒーローだったのかな…」

 

「ああ、アイツは元ヒーローとかじゃねえ。

椎名園長は昔っから自分が面白いと思った事しかやらん主義なんだよ。

ヒーローなんて面倒臭ェんだろ。掃除もエサやりも面白くねえからイヤ、園の運営は他の従業員に放り投げてやってて面白い自分の研究を好き放題してんのさ。」

 

「…なんとまあ自由な事で。」

 

彼女曰く、椎名園長は心が子供のまま身体だけ大人になったような性格の人らしい。「やりたい事しかやらない」の心情を体現するかのごとく奇抜な行動と突飛な発言が多く、研究員としても別の方法に有名なんだそうな。

彼の研究内容は秘密らしくミルコさんからも教えて貰えなかったが、その稼ぎは実は相当なものらしく、結構な金持ち学者らしいのだけど余程のことが無い限り園の方へ金は回さない。外観の補修とか工面してあげればいいのにね。

 

「ンな事よりだ!

お前!雄英の龍征帝!

なんで私ん所に職場体験来なかった、スカウト掛けただろ!」

 

なんでバックドラフトなんだよ!とぷんすか怒るミルコに私は苦笑い。

だーってミルコってガッチガチのバトルヒーローじゃーん。助け合いより殴り合いの方が絶対割合高いもん、私はレスキューヒーローになれればそれでいいのよ。

それとトップヒーローと一緒に…普段サイドキックも取らない一匹狼のミルコとヒーロー服着て一緒に歩いてたら絶対話題になるやん。

 

わたし 目立ちたく ないです(ないです)

 

OK?

 

「全然OKじゃねえ!!(ズドンッ)」

 

「ワッザ!?」

 

あっっぶな!?咄嗟に避けてなかったら顔面にミルコの両脚直撃するとこだったよ!何この人!てかノーモーションでドロップキック顔面に決めようとするなや!後ろのブロック粉々なんだけど!?

 

「ソレだよソレ!

お前のその動体視力と身体能力、尋常じゃねえ。何処で教わった?経験もそうだ、明らかに学生の慣れ方じゃ無かったよな。

それから決勝の時、爆発小僧と闘りあった時の喧嘩殺法。それ生で見たかったんだ!」

 

「おおぉバトルジャンキーさんだぁ…」

 

久しぶりだよこういう手合いは…つーかトップヒーローが学生に飛びかかっちゃダメだろう、ミルコだから許されるのか?権力って汚い。

曖昧な受け答えしてるうちにあれよあれよと園内の開けた広場っぽいところに連れてこられてミルコはこっちに向かって構えを取る。

 

これはアレだ、デート(模擬戦)のお誘いだな?

 

「わたし、学生。

あなた、プロヒーロー。」

 

「ハッハッハ、細かいことは気にすんな。

エサやりよりコッチの方が楽しそうだ、スカウト断ったんだから詫び代わりに1戦付き合え!」

 

「勝手に個性使って戦闘は…」

 

「ココは私有地だ問題ねー!」

 

「えぇー…園長にあとで何言われても知りませんからね。」

 

残りのエサやりは翼竜共に託して私はミルコの相手だ。

とりあえず、ミルコの所に行かなくてよかったなって思った(小並感)

 

 

 

 

 

 

 

 

「…シッ!」

 

「ッ!!」

 

空気の擦れる音と共にミルコの脚が頬を掠める、確実に狙いが首なんですが?彼女の脚力で当たると普通死ぬんですが?なんで?

先読みっつったってね、プロヒーローの…しかもガチガチのバトルヒーローで速さが自慢のミルコの蹴りだよ?脚見るので精一杯だ。ギリギリだ。

彼女我流っぽいんだけど、我流もここまで極めればプロになれるんだな。下手に型にハマった使い手よりも厄介だ、胴を狙ってる軌道だったのに胸に来たり動きがブレて何してくるか分かんない。

 

 

回し蹴り、首を逸らして避ける

 

腰に蹴り、身体をひねって勢いを逸らす

 

…今のは返しで鳩尾いけたかな

 

胸、脇、腹、膝、ラッシュは腕使って必死にガード!

 

も一発回し蹴りは敢えて受けるッ!!

 

「ん''っ!!」

 

「おおッ!?」

 

首狙いのミルコの回し蹴りを敢えて首で受け、肩と顎で挟んで固定。息苦しい。

 

「まらやるんれふか?」

 

「ったりめーだ!」

 

回し蹴り当てた体制のままミルコはそのまま両脚で私の首をガッチリホールドして逆立ちする勢いでバネのように伸び上がり、脚の力だけで私を放り投げた。ぽーんと弧を描きながら飛んでる間に体勢を立て直して着地、首もげるかと思うた。

 

「お前マジで頑丈なんだな、普通なら今ので首もげてんぞ。」

 

「いや首取るつもりでやったんかい…

生まれつきそうなんですよ、私。

刃物で刺されてもハンマーで殴られても銃に撃たれても傷1つ付かないんです。注射器の針も通りません。なんで産まれてこの方注射はされた事ないです。」

 

そう私はとても頑丈、傍から見れば異常な程に。

高速で飛来するガスボンベが頭に直撃しても、機関銃で蜂の巣にされても、オールマイトと同じパワーで殴られても外傷無し。

USJ後に連れて行かれた精密検査も注射針が通らなくて看護婦さん右往左往してたっけ、結局MRIに落ち着いて、じっくりしっかり隅々まで診られたおかげで帰るのが遅くなってしまった。

体育祭の時みたいに個性の副作用で手から出た事はあるけれど外傷による出血は記憶の限りだと一度もないはずだ。

 

ホントに人間かよ私(今更)

 

「えっ、何それ羨まし…ッ違う違う。

そんでお前の…なんだ?型はどっかで見た事あるがだいぶ崩してる。少なくとも我流じゃねえだろソレ。」

 

「む…」

 

ありゃ、気づかれた。訓練しなくなって3年近く経ってるからもう自分でもわかんなくなってるのに。プロの眼は凄いな。

私の本職は才サマの付き人、つまり護衛である。

当然戦闘技術とか叩き込まれている訳であり、その基礎を教えてくれたのはメイドのメイさんだ。武術の名前は教えて貰わなかったけど師匠である彼女に教えを受けた事により必然的に彼女に似た『型』を身体が覚えてしまってるらしい。

中学生時代に型もクソもないテキトーな喧嘩ばっかりしてたから忘れてると思ってた。

 

「そうですね、多分八極拳とかその類いだと思います。教えてくれた人がそっちの国の人だったんで。」

 

「へぇー今の御時世珍しい。

子供に殺人拳仕込んでるとは世も末だな、蹴ってやろうか。」

 

「…気づいてたんですか。」

 

「そりゃなんとなくよ。お前のソレはかなり大雑把だが根っこは全部〝殺しの技〟だ。無意識に目線が急所に行ってるし、なんならカウンターでキメる気まんまんだったろお前。」

 

「ソ、ソナコトナイヨーワタシフツーノ学生ダヨー害ハナイヨー…」

 

「確信犯か!蹴るわ!」

 

ブンッ!と顎狙いのサマーソルトキックを身を退いて躱す、ギリギリだったから顎に掠ったというかこの話してる最中もミルコの蹴りを躱し続けてるからね!?

ブンブン脚を振り回すミルコは全く諦めてくれそうにない、というかだんだん速度がマジになってる。

 

「ちょっ…まっ……速…」

 

「ホラホラどうした反応が間に合わなくなってんぞ!雄英生だろもっと限界超えてけ!」

 

ビュンビュンと高速で、まるでムチみたいにしなる脚。

ムチムチだけにな!…死にたくなってきた。

 

やばいやばい、この人加減する気が無くなってる。

ッこの前蹴り速過ぎ…!!

 

「ッ!!」

 

「ハァッ!!」

 

ミルコの前蹴りと私の前蹴りで靴の裏同士がぶつかって、反応遅れて脚が伸びきってなかった私は力負けして後ろに弾き出された。

 

「やっと反撃してきたな、おもしれぇ!」

 

ジグザグに跳ねながら迫ってるっていうかもう辛うじて軌跡しか追えない!無理無理無理!

 

あ、これ一発貰うわ。と思ったその瞬間

 

兎墜(ルナフォー)…っだぁ!?」

 

「ワシが来た!」

 

突然空に影が差して、兎頭がミルコの背中を背中を踏み付ける。

…つーか今ミルコ必殺技叫ぼうとしてなかった?私の幻聴かな?

 

「え、園長!」

 

「全部監視カメラで見とったわ、エサやりサボってなーにをしとるんじゃお前ら。」

 

「オイ降りろ!今いい所なんだから…つか人の背中に座り込んでこれみよがしにニンジン齧ってんじゃねー私にも寄越せや!」

 

「やらん、この愛知県産『へきなん美人』はワシのモンじゃ。」

 

「高級品じゃねーか!尚更寄越せ!」

 

「ニンジンは全部ワシが食う!

ところでルミよ、仕事もせずに学生一人連れ出して何を暴れとる。お前…」

 

助かった!園長が止めてくれるならこの人も少しは大人しくな

 

「何面白そうなことしてんじゃワシも混ぜろ!」

 

ダメだった!状況悪化した!

ミルコの背中からぴょーんと飛び降りた椎名園長はニンジン齧りながら品定めするように私を見てくる。というか腕とか腰とか腹とか満遍なく触られた、なんなの。

 

「お前、特異体質か…

皮下に尋常ではない筋肉量、凝縮かつ圧縮され極限まで洗練された合金の如き筋力、それ程のパワーを秘め、なおも黄金比を保つ肉体。ミオスタチン関連筋肉肥大の亜種、いや希少種と呼ぶのが相応しいな。

ヒトの限界を超え完成された身体、呼称するなら神兵(ヒュペリオン)体質と言ったところか?

面白いぞ!」

 

なんかすげえ早口でブツブツ言ってんだけどなんだこの人、緑谷みたいな感じの人なのかな。

 

「ワシの専攻は動物科学と人類生物学でな、お前のような珍しい個体は今までに類を見ん。

お前は面白い!参考までに血液を採取させてくれ、いやさせろ!」

 

そして懐から取り出した注射器で私を刺そうとしてる。いや怖いわ、マッドサイエンティストかよ。

椎名園長は逢魔ヶ刻動物園の園長であると同時にはぐれの研究員。個性によって変化する人間の体の構造を深く研究しており、過去にはそれについての論文でちょっとした賞を取ったこともあるんだって。

百人に百通りの個性がある時代だ、それに伴って個人の身体構造も百通りに分類される。異形系然り従来の人体構造図はもはや何の参考にもならず、今や人間の身体は一人一人に個別の人体マップを作らなければならないのだとか。その土台となる部分を作る為の研究を彼は「面白い事」として進めているらしい。

確かに響香のイヤホンとか障子の複製腕とか明らかに一般人と身体の構造違うもんね、仮に命の掛かった手術とかしなきゃならなくなった時に内臓の位置把握出来てませんじゃお話にならない。

 

「あーそれはちょっと…採血は駄目です。」

 

「なんじゃお前もルミと一緒で注射が怖いんか?」

 

「怖くねェよ!」と後ろで仏頂面のミルコさんが吠える。つーかミルコ注射怖いんかい、ギャップが凄いわ。

…健康診断サボり続けてる理由ってまさか…?

 

「針通らないのもあるんですけど、私は印照家の所有物なので採血やら遺伝子情報の提供は本家を通してもらわないと。

私一人で決めていい事じゃないんで。」

 

「なんじゃそりゃ面倒くさい。

…あー?印照?お前印照財閥の関係者か!」

 

「?」

 

「はぁーそういう事か、それであの破格報酬提示してきたんじゃなあの男。」

 

「???」

 

彼は納得したように頷いてすんなり私から離れてく、こっちは訳が分からないのに。

 

「ぬー惜しい、お前絶対面白いのに。

今からでも逢魔ヶ刻動物園に就職しろ、面倒な手続きは嫌いじゃ。」

 

「急に横暴!」

 

やっぱこの…話聞かないタイプの人苦手だなあ。

 

「おーい龍征さん!

コッチの檻はエサやり全部終わったッスよー!」

 

「今日は動物達も大人しくてすんなり進みました〜。

3人とも旧ゴリラのブースで何やってるんですかぁ?」

 

ミルコさんに戦闘、椎名園長からは身柄を狙われて壁際に追い詰められていた時、ようやく反対側のチームと翼竜共が戻って来た。

次いでに点検を終えたバックドラフトさんも合流して私は首狩り兎達から開放された。た、助かった…

 

これにて急遽追加した動物園のお手伝いも終了。

私たちが着替えている間にバックドラフトさんは椎名園長との打ち合わせを終わらせたらしい。ヒーローコスチュームに戻った私と夜嵐君は蒼井さんに園の出口まで案内されて(この間蒼井さんは3回コケた)、軽い挨拶を交わす。ミルコはもう少し滞在するらしい。

別れ際に「インターンは私んトコに来いよ!まだ決着着いてないんだから絶対な!」って捨て台詞吐かれたんだけど。不穏過ぎん?

 

バックドラフトさんの車に揺られながら手元の時計を確認すると時間はもう夕方6時を回ってる。

 

「初日から激動だったな…」

 

「本当はもっとのんびりしてるハズなんだけどね…火事の対応までさせてしまって本当にすまない。」

 

「いやいや全然!プロの現場見れて自分、感動したッス!」

 

「動物園のアレは予想外でしたけどねー。」

 

「そっちはプロヒーローとは全く関係ないんだけどね、動物園…まぁ普段やらない経験ができたってことで勘弁してくれよ。

…そうだ。ホントはこの後署で夕食にする予定だったんだけど、色々あったし今日は詫び代わりにオレが奢るよ。

君達の泊まるホテルまで送るついでにね。

コスチューム着替えたら入り口で待っててくれ。」

 

「おお…太っ腹…」

 

「自分焼肉が食べたいッス!」

 

「遠慮なくくるね!?ヨシそうしよう!」

 

バックドラフトのご好意により、晩御飯は焼肉でした。火事の功労者である翼竜共にも食わせてやるってバックドラフトあんたって人は…財布が空になっても知らんぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…という事があったのだよ。私の所は。」

 

『濃いわ(ですわ)!』

 

時刻は午後9時を過ぎ、県内のビジネスホテルにて。バックドラフトの奢りでしこたま焼肉を食ったあとホテルまで送って貰って、私は風呂でさっぱりした後布団の上に寝そべって響香と百のいるグループトークで通話してる。

因みに夜嵐君も同じホテルだった、バックドラフト事務所は郊外だから泊まれる場所絞られるんだ。

 

『朝は消防隊員の人達と訓練して昼からパトロールに向かって…』

 

『そうしたら火事に遭遇してガトーさん達を駆使して火災救助を手助けし…』

 

『オマケに子供助ける為頭にガスボンベ食らってその後何故か動物園でエサやり手伝わされて一緒に居たミルコと手合わせした挙句バックドラフトに焼肉を奢ってもらった…』

 

『『いや濃いわ(ですわ)ッ!!』』

 

ノリいいね君達。

 

「いやーひと仕事終えた後の焼肉は最高でしたね。」

 

『なんっっなのその1日目!

ウチのとこなんてデステゴロと一緒にパトロールという名の筋トレしただけだったのに!?』

 

『私の所なんてなんの説明もなく唐突にCM出演の話をされましたわ!』

 

「響香はともかく百は何…?なんでCM?」

 

『知りません!』

 

3人で今日起こったことの報告会、響香は一日トレーニング、百に至っては何故かタレントの真似事をしていたらしい。「行く場所間違えたかも知れません…」と初日から本気で心配し始めた百、強く生きて。

それから他校の生徒と体験先が被ったという話になり、夜嵐君の事を簡単に説明してあげた。

 

『士傑の夜嵐さん…ですか。

雄英の推薦入試に居たのなら私もお会いしているかも知れませんね。』

 

『推薦入試ってどんなお題目だったの?

一般みたいにロボバトル?』

 

『体育祭の第一競技のような障害物レースでした。ただ障害物が多く個性を上手く使用しないと突破できないものが殆どで私も苦戦しましたわ。』

 

「百の万能個性ならアッサリ行けちゃいそうだけど。」

 

『そこで私の弱みが出まして…判断力不足でお恥ずかしながら2着でしたの。』

 

1着だった女子はB組に在籍してるらしい。そういえば体育祭の時にちょろっと見たな…身体をバラバラに出来る子。

なんて話していたらお茶子からメールが。

『コレ帝ちゃんちゃうん!?』とURL付きで送られてきたので開いたら昼間の火事の記事に私がちょっぴり写ってたらしい、『私だ』って返したら『お前だったのか…!』って返信が即飛んできた。流石お茶子はネタを分かってらっしゃる…暇を持て余したA組女子のアソビ。

 

『…?どした帝。』

 

「んー、お茶子から。

ネットニュースに私載ってたんだってさ。」

 

『マジ?……うわホントだ載ってる、交通規制やってるとこ?』

 

「こんなとこ誰が撮ったんだよ…」

 

『動画サイトにも上がってるみたいですわね、《中華料理店火災、爆発の瞬間》ってタイトルで。』

 

…ウソやん。

私が『伏せてッ!!』って言ってるとこまで全部撮られとるやん、恥っずぅ…

 

『凄い反応速度です帝さん!』

 

『ホントにガスボンベ頭に直撃してる…大丈夫なの?っても帝だし平気か。』

 

「平気だけどさ…なんか顔映されてるの小っ恥ずかしい…」

 

『珍しい、下着晒すのは恥ずかしくない癖にこういうのはダメなんだ?アンタの羞恥心どこにあるのかわかんないね。』

 

「恥ずかしさのベクトルが違うんだなコレが…」

 

 

その後もぐだぐだと駄弁りながら1時間ほど過ごした後、明日に備えて今日はもう寝る事に。

 

 

激動の職場体験初日はこれで漸く終了、バックドラフトさんは明日もスケジュール的には殆ど変わらないと言っていたけど、何が起こるか分からない。

スマホでササッとログインボーナスだけ貰っておいて珍しく早めに床についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、帝達が去った後の逢魔ヶ刻動物園。その園長室、椎名の書斎にて。

飼育員蒼井華に閉園業務を無理やり押し付けて、彼は戸棚にあった古ぼけた本をパラパラと捲っている。

向かいのソファに寝転んでニンジンを齧っているのはミルコだ。

 

「……」ペラ…ペラ…

 

「……」ガジガジガジガジ

 

「………」ペラ…ペラ……

 

「………」ガジガジガジガジガジガジ

 

「…………」ペラ…

 

「………〜〜ッ!」ガジガジガジガジガジガジ

 

 

 

「静かかッ!!」

 

 

 

堪らずミルコが叫ぶ。

彼女の中の椎名園長はいつも鬱陶しいくらい飛び跳ねて神出鬼没、誰にも捉えられない奇抜な行動ばかりする男だった。

しかし今の彼はどうだろう。帝達と別れた後ずっと椅子に座り込んでは古本を読みふけっているその姿からは普段の彼を欠片も感じさせない。

 

「なんじゃルミ、ニンジンのおかわりは給仕室に置いてあるぞ。」

 

「そうじゃねえよ!体験生共と別れた後から静か過ぎんだよお前、らしくねえな!おかわりは貰うが!」

 

「今はコレが面白いんじゃ、邪魔するならさっさと帰れ。そもそもお前なんでまだおる?」

 

「泊まるとこねえから此処に一泊する、宿直室貸せ。」

 

「……そう言って無理やり泊まり込むのも高校以来か、懐かしい。」

 

ぷかり、と口に加えたニンジン型の葉巻から紫煙が伸びる。

ミルコの学生時代、誰にも手が付けられない暴れん坊だった彼女をこの動物園に雇い入れたのは椎名だった。

「居場所ならくれてやる、お前がやりたい事を好きなだけすればいい。」

自分以上に身に余る兎の力を持て余す彼女を個性使用可能な私有地に入れ、力の制御や戦闘技能の向上に務めさせた。萎縮させるより自由な環境で個性を伸ばす事を意識させ、今では彼女もプロヒーローでも指折り数える程の実力を得ている。

ミルコ、兎山ルミにとって椎名は恩人とも言える存在だ。勿論そんな事普段の彼女はおくびにも出さないが。

 

「ルミよ、お前も気付いてるじゃろ。」

 

「……ンだよ。」

 

彼等の個性、〝兎〟はなにもスピードが早くなるだけではない。兎の脚力や聴力を得ることも出来るし、第六感…所謂『野生の勘』とも呼ぶべき危機感知能力を備えていた。

 

「今もだよ、ずっとだ。

火事の現場で会った時から今まで、五月蝿えくらい響いてる。鬱陶しいったらありゃしねえ!」

 

本来なら危険予測や強敵との接触の際に発動し、使用者に〝命の危険が迫っている事を伝える〟機能。より危険な状況であるほどより強く、より長くそれは発動し続ける。

 

「兎の勘が働く時は大抵死ぬ直前だ、だからいつだって私は後悔しないように毎日死ぬ気で息してる。

なのによ…アイツ前にして鳴り続けるってのはどうにも頭が痛えなオイ。」

 

「……やはりか。

ワシもな、アイツの身体に触れた時から頭痛が酷い。得体の知れない何かがじっと此方を睨めつけてくるような不快感、あれ程の恐怖は過去一度もなかった。」

 

椎名とミルコだけではない、動物園にいる生き物全てが命の危機を感じ、皆同様に恐れおののいた。全ての生物の頂点に立つもの、得体の知れない夢物語の一端を直に肌で感じ取ってしまったから。命の危機をずっとずっと訴え続けていたから。

2人は勘は兎でも脳は人だ、だから一目散に逃げる事もせず踏みとどまっていられた。

 

龍征帝の内に秘める巨大な何かを感じ取って

 

「ルミ、()に居るのはなんじゃと思う?」

 

「知らね。

でもきっとロクでもねえ奴さ、個性の皮を被った正真の化け物だろうよ。」

 

一番気の毒なのはそれに付き合わされてるアイツ自身だろうがな、と吐き捨てるように言うミルコに溜息を一つ吐き、読んでいた古本を閉じる。

乱雑に並べられた研究書類の束の上にそれを放り投げると言った。

 

「じゃろなあ。

ふーむ…やはり一度問い合わせてみるか。」

 

「?」

 

彼の言葉の意味も分からないまま、ミルコはニンジンのおかわりを求めて給仕室へと足を伸ばした。

 

椎名の書斎机には他にも古本が無造作に置かれている。

『アーサー王伝説』『ヴォルスング・サガ』『旧約聖書』そして先程まで彼の読んでいた論文のタイトルは『個性特異点』。

 

また変なもんばっか読んでんな。と内心毒づいて彼女は書斎を後にした。









『逢魔ヶ刻動物園』は作者の堀越先生がヒロアカの前にジャンプで連載してた漫画だ、興味がある人は買って読もうな(唐突なダイマ)
あとヒュペリオン体質の元ネタはサンデーコミックス『金剛番長』に登場する剛力番長から。ミオスタチン関連筋肉肥大は本当に存在する体質らしいよ、画像検索したらムキムキの少年がいっぱい出てくるゾ。

本作におけるキャラ解説

主人公(つよつよ)
ミルコと殴り合いした、速すぎてなんも見えんしなんならボコられたが頑丈なので無事だった。特異体質認定されたが本人はよく分かってない。

夜嵐君
君なんで職場体験おるん?感が未だに拭えない。保済の一件に絡ませる予定なのでもうちょっとガヤで騒いでて、君セリフ書いてて凄い楽しいから。

バックドラフト
完全にオリキャラと化したヒーロー。漫画でも登場コマ四コマくらいで裏書きみたいな設定しかないから弄り放題。素顔は和製トム・〇ルーズをイメージした。

ミルコ
性癖の塊(原作者談)、蹴りの風圧だけで荼毘の炎をかき消しハイエンド五体と渡り合うヤベー女。帝と戦闘して思うところある様子。注射が嫌なのはオリジナル設定だ!作者はギャップ萌えが好きさ!

椎名園長
逢魔ヶ刻動物園園長、兎の頭と水玉マフラーがトレードマーク。設定は概ね原作『逢魔ヶ刻動物園』と同じ。しかし本作では研究者という肩書きが付いている為面白い事=自分の進める研究という式が成り立っている。のじゃ口調だけど年齢は30近いお兄さん。ミルコの元ネタになったキャラクターらしいので本作では彼女の叔父あたりのポジションなんじゃないかな。

蒼井華
本作における逢魔ヶ刻動物園飼育員、そして本家『逢魔ヶ刻動物園』の主人公。理不尽に園長からボコられてドジばかりでも明るく決して諦めない華ちゃんが原作でも大好きでした。カワイイ!
それはそれとして本作では個性〝健脚〟持ちの高校二年生、動物好きだからってアルバイト先に逢魔ヶ刻動物園を選んだのが運の尽き。個性のおかげで逃げ足ばめちゃ速い

オーガミさん
個性〝狼〟、こちらも『逢魔ヶ刻動物園』に登場するオオカミのキャラからパク…オマージュした。多分もう出ない

ジロチャン&チャンモモ
初日の夜から主人公と3人でオンライン女子会しちゃう仲良したち。アニメだと耳郎は人質の避難誘導で活躍したのに八百万はホンマにCM撮影しかしてないのね。クラスメイトとの絡みは書いてて楽しいのではよ職場体験終わらせて原作なぞって♡


原点の少女
他愛のない一幕だとしても、あの日手を握ってくれた貴女の温もりを今も胸に抱いてる。
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