帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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書きたいこと書いてたら2万字超えた、後悔はしてない

なのに話全然進まんとかマジ?

オイオイ死ぬわ作者オイオイオイ






31 私の職場体験記vol.3 ■■■オリジン

★轟焦凍の職場体験★

 

 

 

都内に設置された高層ビル、その広大なフロアひとつ貸し切ってフレイムヒーロー〝エンデヴァー〟は事務所を構えてる。

 

「よく来た焦凍よ、漸く俺と覇道を歩む気になったな。」

 

無駄に広いオフィスに絶対合ってないだろってくらいぽつんと佇む高そうなデスクにふんぞり返る親父(エンデヴァー)は、開口一番そんな口を聞いてきた。

ご覧の通り俺が職場体験先に選んだのは自分の親父の事務所だった。今までの自分なら絶対そんな道は選ばなかったが、体育祭で緑谷や龍征…そして姉さんに気付かされた俺はヒーローとしての親父を知るためにこの選択をしたんだ。

 

…親父はクソだ(突然の暴言)

 

お母さんを泣かせて、夏兄には拒絶され、姉さんには迷惑を掛け続けてる。そして俺が物心着く前に逝っちまった燈矢兄さんの死にもどうせあいつが関わってるんだろう。当然俺だって好きか嫌いかって言われたらハッキリ『嫌い』と面と向かって言えるくらいには嫌悪してる。

けど、そんなクソ野郎でもNo.2だ。日本で2番目にレベルの高いヒーローなんだ。別に馴れ馴れしくするつもりじゃねえ、親父としてじゃなくヒーローとして奴を見る。そして卵なりに盗める所は盗んでいこう、まずはそこからだ。

 

「…馴れ馴れしくすんな、体育祭で吹っ切れたからってアンタはクソみたいな奴だって事は変わらねえんだ。

今日はヒーローとしての轟炎司を見に来た、そのつもりでいろ。」

 

「…ふっ。」

 

「仕方ない息子だ…」って感じでニヒルに笑うの止めろ。ダメだやっぱり腹立つな。

そうだ、こんな時こそ龍征に教えて貰ったことを思い出そう。

 

 

……

………

…………

 

 

 

『嫌いな奴とどうしても面と向かって話さなきゃいけない時…?』

 

『ああ、きっとこの先そういう事もあると思うんだ。そんな時どうすりゃいいのかなって。』

 

『あーあるある、私も作り笑いしながらテレビ局の人と話したことあるもん。

そーいう時はね、相手の顔をカボチャに変換すればいいんだよ。ついでに脳内で音楽かけてそいつが反省促す為に踊ってるって思えばいい。』

 

『音楽…カボチャ被せて踊らせる…』

 

『いい曲あるからさ、今日はそれ聴きながら特訓していこうか。いい気分転換になるよ。』

 

『よく分かんねえが頼む。』

 

『やってみせろよ轟ィ、なんとでもなるはずだ!』

 

『???』

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

そうだカボチャだ、コイツは人ではなくカボチャ。

これから1週間、親父をカボチャだと思うことにしよう。なんで反省を促すのかは未だに分からねえが。

…いや親父は反省しろ。

 

「よし、では早速保須へ向かうぞ。」

 

「保須…?」

 

「件の〝ヒーロー殺し〟を捕らえる。」

 

親父は今話題の凶悪犯、既に何人ものヒーローを手に掛けている〝ヒーロー殺し〟を捕まえるらしい。

ヒーロー殺し…俺も引っかかってた、職場体験出発前の飯田のあの表情だ。

龍征の言う通り「これから復讐に行こうって奴のするツラ」だった、けど飯田の気持ちも分からないでもない。

 

それに囚われすぎてなにも見えなくなるんだよな、俺だってそうだったんだ。目の前の踊るカボチャ(クソ親父)しか見えてなかった、体育祭で気づくまでずっと…

 

 

嫌な胸騒ぎがする

 

 

俺はあの時、駅で飯田に声を掛けるべきだったのかもしれない。

気のせいならいいんだが…

 

「行くぞ焦凍、本物のヒーローを見せてやる。」

 

「喋るな、神経が苛立つ。」

 

「焦凍ォ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の職場体験はまだまだ続く、大体午前中はやる事同じで消防士の人達とトレーニングだ。私と夜嵐君はそれぞれの校の体操服姿で参加させてもらった。署で朝食も御一緒させてもらってコミュニケーションをとってみたり。

午後のパトロールも全くの問題なし、昨日のような火事を発見する訳でもなく凶悪なヴィランが出没することもなく、街は至って平和だ。近隣の地区は例の〝ヒーロー殺し〟が出没し警戒レベルが引き上がってるみたいだけど。

 

 

あ、そうだ。

2日目の昼過ぎにバックドラフトさんと訪問した幼児施設向けの防災集会、私達の他にも付近の病院から医療従事者が講師として招かれたんだけどその中にいたんだ。マイフレンドが。

 

「ウルル?」

 

「へぁ…?ミカドちゃん!?!?」

 

名前は破柘榴羽瑠々(はざくろうるる)、餓鬼道の同級生。

中学時代の私の数少ない友達の1人にして餓鬼道中学校生徒会役員、役職は書記だった。

枯葉色のショートボブに幼げな顔立ち、そして高校生にして身長145cmという幼児体型、見間違いようがない。ナース服を着て先生らしき女性の後ろを一生懸命着いて回ってた。カルガモの子供みたいでカワイイ。

 

「お!いつも怪我治してくれる人、お疲れ様ッス!」

 

「夜嵐君も!?なんでぇ?」

 

どうやら2人は知り合いのようだ。そういや夜嵐君よく怪我して看護科の世話になってるって言ってたね。つかウルルの名前覚えてなかったんかい。

 

「そっかあ2人とも職場体験で…そうだミカドちゃん体育祭準優勝おめでとう!同級生も生徒会のみんなも大騒ぎだったんだから!

緋銀(あかがね)さんは『どうして彼処に私が居ないのよ!ライバルなのに!』って何度も私に電凸するほど悔しがってたし、(てん)ちゃんなんて興奮のし過ぎで生徒会室氷漬けにして後片付けが大変だったって臨華(りんか)ちゃんが教えてくれたよ。」

 

「電凸はやめーや緋銀。つか凍皇梨(こおり)の奴またやりやがったのか…」

 

「そうか、昨日龍征さんが言ってたのは破柘榴さんの事だったんスね!いつもお世話になってます!」

 

そう言ってお辞儀(頭を地面にぶつける)した夜嵐君にウルルは苦笑い。どうやら士傑でも同じ事をやってるらしい。

ウルルはお隣の保須市の大病院に看護科の職場体験でやってきたようで、指導役の看護婦さんとチャリティーでたまたま私たちと同じ施設へやってきたそうだ。彼女の担当の看護婦さんにも挨拶したのだけど、凄い迫力で「ラビットヒーローミルコの所在をご存知ですか?」と食い気味に聞かれたのであまりの迫力に私と夜嵐君は黙って首を横に振った。

 

「(目が…目がヤバい…!!)」

 

「(完全に2,3人殺っちゃってるカオでしたよね!?思わず背筋が伸びたッスよ!)」

 

「(これ捕まったらミルコ殺されるんじゃないの…?)」

 

「えっとね、婦長様は本当は神野の病院から派遣されて来てるんだけど、捕獲リスト…?っていうのに載ってるヒーローを捕まえて検査を受けさせないといけないみたいで、婦長様ずっとそのヒーローを探し回ってるの。」

 

厳格で使命感の強い人だから…ってウルルは言うけど、目が完全に狂気を帯びてたぞあの看護婦さん。聞けば嘗ては世界中を飛び回って医療活動に従事していた元ヒーローで引退してからも彼女の奉仕精神は多くの人の心を動かし、今でも数々の病院で講義を行い個性医療の重要性を説いて回って、引く手数多らしい。ウルル曰く歴史にも残ってるかの〝白衣の天使〟の再来なんだとか。

 

施設向けの防災公演つってもやる事は日頃からの防災の心構えとか、消火器の使い方講座とか、看護婦さん側からは心臓マッサージなどの救命措置のレクチャーなど一般的な事が多い。子供向けだからね。

個性社会つっても人は死ぬ時にはあっさり逝ってしまうのだ、リカバリーガールみたいな回復系の個性だって存在するけどアレってかなり希少(レア)な部類だし。超常以前、昔ながらに培われた救急救命措置は今に受け継がれている。

緊急時は処置はなるだけ素早く丁寧に、そして1秒でも早く救急車を呼ぶこと。それ超大事。

 

そう熱く語る婦長さんのお話が長引いたが、1時間ポッキリで公演は終了、バックドラフトと私たちはまだ施設の子供達と梯子車体験会とかがあるのでそっちに残るが、ウルル達はもう次の施設へ出発するらしい。結局話せたのちょっぴりだけだったが、お互い遊びに来てる訳じゃないからね。

 

「あんまり時間取れなくてごめんねミカドちゃん。次の連休はそっちに戻る予定だからその時にお話しよ?」

 

「おう、ウルルも頑張れ。」

 

次の連休は…期末テスト期間真っ最中じゃなかったかな。まあなんとかなるなる。

 

「…ねえミカドちゃん。」

 

「んー?」

 

「私、助けられるかな。個性(コレ)で。」

 

「できるよ、優しいウルルなら。」

 

「…うんッ!」

 

 

 

 

 

 

2日目も目立った事は無く概ね普段通り、バックドラフトさんは「初日がハードモード過ぎたんだよね」って苦笑いしてた。

その日も夜に少しだけ響香達と会話して、風呂上がりにエントランスで寛いでたら出くわした夜嵐君と少し話して眠りに着いた。

 

 

そして3日目の夕暮れどき、事件は起きる。

 

 

 

 

 

 

 

消防署の食堂にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

途端にさっきまで和気あいあいと食事をとっていた隊員さん達が一転して険しい表情でバタバタと動き出し、備え付けのポールを伝って下階へ降りていった。その動きは洗練されて無駄がない。

 

『保須の駐屯所より応援要請、位置は保須市北本町〇〇ー〇、15階建ての雑居ビルから大規模な火災発生、至急現地へ急行し消火活動にあたるよう伝達。繰り返す…』

 

「2人とも行こう、移動は消防車を使うよ。」

 

「了解です。」「了解ッス!」

 

私たちヒーローも勿論出立だ。

消防車に便乗させてもらい向かう先は保須市…保須?ヒーロー殺しが出てるっていう街だ、流石に火災と関係はないと思うけど…ないよね?

 

到着した時にはもう日が暮れていて、暗い街並みを煌々と照らすようにビルの一角が燃え上がってた。ビルの真ん中よりちょい上から吹き出すように炎がはみ出てて、電飾で飾られたデカい看板が立ってる屋上も延焼したのか火の海と化してる。周りでは沢山の消防隊、レスキュー隊、医療関係者問わずひっきりなしに走り回っていて、傷付いた人達でごった返していた。

 

「来たかバックドラフト!

火元はこのビルの12階をまるまる貸し切ったサーバールームだ、出火原因は不明。

レスキュー隊を突入させたがどの階段も焼け落ちた瓦礫で塞がっちまってて11階より上に上れねえ。既に下階の人間は避難が完了したんだが…」

 

「…マジか、このビルには来たことあるぞ。

不味いな…グァンゾルム急いで翼竜を上階に飛ばしてくれ!13階より上を虱潰しに!」

 

「了解!」

 

焦る彼の指示に従い翼竜を解き放つ、目指すは13階より上、窓のある部分を片っ端から覗かせて…

 

「…ッ居ました13階!児童福祉施設『やすらぎ荘』…左奥のフロアです!」

 

負傷した沢山の人が大部屋に固まって炎を凌いでいた。

見るからに重症なのが何人か、応急処置されたまま寝かされているのも見える。あの火事の中誰かが施したんだろう。それで…それで…!

 

「ッウルルがいる…」

 

私の大事な親友がやつれて寝かされてるのか見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3年前

 

餓鬼道中学校本館:廊下

 

 

 

 

「技術の授業で花瓶?オシャレなもの作るんだね。」

 

「うん、真面目に出席してるの私だけだから落ち着いて作れるんだ。先生も良い人だし。」

 

なんか言ってて悲しくなってくるけど事実だから仕方ない、この学校で真面目に授業出てる人の割合が低いから。

 

ヒュンッ

 

ひょいっと、私の頭を押し込むようにミカドちゃんが手で制して頭を下げた瞬間、頭上を火の玉が通過した。

 

「ミカドちゃんは選択授業何取ってるの?」

 

「私?家庭科、こう見えて料理は得意だから。」

 

突然私を抱き抱えてその場で一回転、ちょうど私がいた空間に机が飛んできて派手に壊れた。

私を降ろし、歩き続ける。

 

「凄い!じゃあお弁当も持参なの?」

 

「そうだよ、今日は昨日の野菜炒めが余ってたから「ウッシャンナアアオラアアアッ!!」…」

 

教室の窓が突然開いて、そこから釘バット持った男子が奇声上げて襲いかかってくるのを慣れた手つきで受け止め、すかさずお腹に膝蹴りを入れて相手が悶絶してるのを冷めた目で見ながらその襟首を引っ掴んで躊躇いもなく窓の外へ放り投げた。此処は3階だけど餓鬼道の生徒はこの程度じゃ死なないし大丈夫でしょ。

落ちていった生徒を一瞥し手を(はた)きながら再び私達は歩き出した。

 

「み、ミカドちゃんは得意料理とかあるの?私個性がアレだからあんまり料理とかできなくて…」

 

「お菓子は大体作れるよ。

家が喫茶店やっててね、私は厨房で新しいメニューとか考え「おうコラァ、お前が生意気で有名な一年坊か。この前はよこぺっ!?…」最近はケーキも出してみようかと思って色々研究してんの。」

 

目の前に立ちはだかった巨漢の先輩の顎にノールックで壁キックからの見えないくらい速い空中回し蹴りをクリーンヒットさせ、沈む巨体を素通りしてミカドちゃんは何事もなかったかのように話し始める。

 

「凄いねミカドちゃん!色々と…」

 

「…廊下くらい普通に歩かせろバカ共。」

 

脚を止めてミカドちゃんと振り返ってみれば廊下のそこらじゅうに倒れた人人人、これ全部移動中にミカドちゃんが倒した生徒たちだ。窓に投げたのも含めればもっといる。

ここの所毎日こんな具合に絡まれっぱなしだ。

廊下を歩けば因縁を付けられ、階段を登れば踊り場で4、5人に囲まれるのは当たり前、移動教室の際は絶対私達の後ろに屍(死んでないけど)の山が出来上がってる。

 

龍征帝、そう名乗った彼女と話すようになってから時は経ち、もうすぐ梅雨の時期を迎える頃。私達はこの喧嘩だらけの地獄で毎日のように会っては他愛ない会話をして、一緒にお弁当を食べたりしてた。

今日も人目を避けて誰もいない旧校舎の1番奥にある理科実験室へ辿り着くと、お弁当を広げてお昼ご飯の時間だ。落ち着いて昼食をとるなんて今までじゃ考えられなかった。此処はミカドちゃんが見つけた穴場スポットらしい、偶に掃除してサボりに使ってるんだって。

 

「授業サボったりしちゃダメなような…」

 

「いーのいーの、テストで点数取れば卒業できるんだし。出席率なんてこの学校に有って無いようなモンでしょ。」

 

「確かにその通りかもだけど…点数取れるの?」

 

「ここだけの話な、私はもう中学校卒業程度の学力はあるんだよ。勉強は才サ…先輩に教えて貰ってるから。」

 

「ええっ!?なんかずるいね!」

 

「賢い餓鬼道の過ごし方と言いなさいふははは。」

 

こんな和やかに笑いながらお弁当をゆっくり食べるなんていつぶりだろう。気づけば私はミカドちゃんの後ろをずっと着いて歩いてた。

先輩達をことごとく返り討ちにできるくらい強いのに決してそれを威張らない、何処の派閥に所属する訳でもなく、この壊れた学校で自由気ままに過ごす彼女に私は憧れて、惹かれていた。

 

食べ終わったお弁当を片付けたらミカドちゃんは実験室特有の長机に寝そべって昼寝の体勢に入ったみたい。私もその辺の椅子に座って、なんとなく窓の向こうの曇り空を眺める。

 

「……もうすぐ梅雨かあ、やだなあ。」

 

「いいじゃん雨、消火する手間省けるし。ウルルは雨嫌い?」

 

「私の個性ね、湿気に敏感だから。

梅雨は気を付けないと瘴気が暴発しちゃう…」

 

私の個性は火と乾燥に弱い代わりにカビと一緒で湿気と適温でどこまでも成長する。個性が発現した後、初めて迎えた梅雨の時期に暴発して子供部屋を瘴気まみれにしてしまったからよく覚えてる。嫌な思い出だ。

 

「瘴気が暴発って、そこだけ聞くと厨二病みたいだな。」

 

「こっちは真面目な話してるのに!?」

 

「悪かったって」って笑いながらひらひら手を振るミカドちゃんとこの後も雑談を繰り返し、反応が無くなってきたので顔を覗けば彼女はすやすや寝息をたてていた。

 

「おなか冷えちゃうよミカドちゃん。」

 

無防備に腹部を晒すミカドちゃん。

梅雨前の少し気温が下がったこの時期だ、お腹が冷えたら大変だから着ていた上着を掛けてあげよう、つられてミカドちゃんの隣に寝転んでみる。

学校で昼寝なんて…ッもしかして私も不良になってしまったのでは!?

なんて考えながらぼうっと天井を眺めているとどんどん瞼が重くなってきて、眠気に誘われた私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

………

…………

 

 

 

『止めて!離れて!』

 

ごめんなさい

 

『気持ち悪い…近寄らないで!』

 

ごめんなさい

 

『どうしてそんな個性になってしまったの…?』

 

『私達とは似ても似つかない醜い個性、そんな成りじゃ外になんて出られない。』

 

『…そうよ、この子は本当は私達の子供じゃないんだわ!こんな汚い姿をした子がウチの子な訳ないじゃない!』

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

『ごめんな、もう限界なんだ。見てくれこの家、お前が暴走させた個性のせいで家はメチャクチャ、どこから掃除すればいい?食べ物は全部腐ってしまった。

全部お前の瘴気のせいだウルル、お前はもう家に置いておけない。』

 

『出て行って!家から出ていきなさい、この醜い化け物めッ!!』

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

 

汚い姿でごめんなさい

 

醜い個性でごめんなさい

 

普通の子供に産まれてこなくてごめんなさい

 

 

生きててゴメンナサイ

 

助けを求めて伸ばした手は払われて、許しを求めて声をあげても誰も来てくれなくて、苔と緑に覆われた部屋の隅ですすり泣く音だけが虚しく響く。

いつもテレビで輝いているヒーローなんてどこにもいなかった。

 

土壇場で現れる英雄(ヒーロー)も、助けを乞えば駆けつける救世主(ヒーロー)も、全部絵空事で

 

ヨロイムシャも、エッジショットも、ベストジーニストも、ミルコもギャングオルカもクラストもマジェスティもエンデヴァーも、オールマイトでさえ

 

来ない

 

いつも画面の中にしかヒーローは現れない

 

 

 

誰もが個性という名の能力を持つのが当たり前になった超常世紀でも偏見というものはどこにでも存在する。

遺伝で受け継がれる筈の個性が何故か受け継がれず、全く別物の個性をもって産まれてしまった突然変異の子供。それが私だった。

個性の名前は〝瘴気〟、母親の〝念力〟とも父親の〝反動制御〟とも違う異質なものだった。

個性が発現した当初、疑心暗鬼になった父は母の浮気を疑って一悶着あったらしい。医師の説明でなんとか落ち着いてその後も暮らしていたのだけど、母の私を見る目つきは厳しいものだった。

 

個性は第4の欲求だって、昔開いた本に載っていた。感情の昂りによって個性の働きも活発になる、だから臆病だった私は梅雨の湿気も相まって、ちょっとした事で驚いてしまい個性を暴走させて取り返しのつかないことをしでかしてしまった。

 

両親が留守の間に家を一件丸々瘴気で埋め尽くしたのだ

 

帰宅して驚愕した両親…特に母はヒステリックに私を罵って、諌めようとする父の言葉も聞かずに家から私を蹴り出した。

 

あの時ヴィランにでもなっていればまだ心が楽だったのに。

非行に走る度胸もなければ自傷に堕ちる気概もない中途半端な私は空っぽな心のまま家を追い出された。

 

その後おとうさんとおかあさんは住居を変えて新しく子供を設けたらしい。その子にはきっちりと両親の個性が受け継がれていて、たいそう可愛がって育てているそうだ。やけに手早い手続きにより私の戸籍があの家族から抹消され、とうとう帰る場所は無くなった。

親としての情はなかったのかとか、簡単に子供を捨てて恥ずかしくないのかとかそういった怒りは不思議と湧かなくて、ただただ虚しさだけが胸に残る。

 

迷惑かけてごめんなさい、これでもう2人は安心して暮らせるよね。

 

戸籍を失って、役所で迎えた別れの日にそう言った私はどんな顔をしてただろう。

それから施設に入れられて…義務教育なんて名ばかりの小学校へ通って…そして餓鬼道中学校へ流れ着いた。

 

記憶の中のおかあさんはいつも私を睨んでる

 

 

化け物

 

 

気持ち悪くて汚い私、文字通りゴミを見るような目で私を睨んでる

 

 

ばけもの

 

 

私が全部悪いんだ

 

 

バケモノ

 

 

私は

 

 

 

 

『………ル』

 

 

 

『……ウ…ルル』

 

 

『ウルル』

 

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルル、おーいウルル。」

 

「……へぁ?ミカドひゃん…」

 

体を揺さぶられて微睡みから引き戻される。

…嫌な夢を見た。

 

「随分うなされてたけど何かあった?」

 

「大丈夫だよ。もう平気だから…」

 

「そう…時間見てみ?」

 

「へぁ?」

 

ミカドちゃんの付けたスマホの画面に映る数字は16:30……よじさんじゅっぷん!?!?

 

「授業は!?」

 

「残念、もう放課後だ。サボり記録更新おめでとう私達。」

 

「ええええええええっ!!!?」

 

私の叫びと共に放課後を告げるチャイムの音が虚しく響く。

 

「起こしてよミカドちゃん!」

 

「いやー私もぐっすりよ、あの机寝心地良いからさーHAHAHA!」

 

「反省してないし無駄にオールマイトの声真似が上手い!?」

 

友達と話して、笑って、昼寝して、これが普通の学校生活。

今となっては捨てられて良かったとも思ってる、この学校に来なければミカドちゃんと出会うこともなかったわけだし…こんなふうに笑う事もきっとなかった。

 

伸びをしながら教室を出ていくミカドちゃんを慌てて追いかけながら、この幸せが卒業まで続くようにと祈ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は過ぎて、アレが起きた日

 

 

その日は曇天の雨模様で、空は分厚い雨雲に覆われて辺りは薄暗く昼間でも校舎の廊下も電気を付けないとよく見えないほどだった。

 

授業と喧嘩のとばっちりを避けきって今日もミカドちゃんとお昼ご飯を一緒に食べる。最近は2人で話し合ってお互いのお弁当を作ってくるってプチ企画をする事になった、昨日はミカドちゃんが私の分を作ってきてくれたので今日は私の番。個性のせいで上手くご飯が握れなかったんだけどなんとか頑張って作ったおにぎり弁当だ。

…でもミカドちゃんのお弁当凄かったなあ、キャラ弁っていうんだっけ?「ちょっと張り切り過ぎちゃった☆」で済ませられるレベルの出来じゃなかったよ?次作るの私なのにプレッシャーがやばい。

 

ミカドちゃん食べてくれるかなあ、美味しいって言って貰えたら嬉しいな。

 

うきうきしながら理科実験室の扉を開けると、そこにはまだミカドちゃんは来ていなかった。

ん〜、最近ミカドちゃんは上級生の先輩から絡まれる事が増えたしあしらうのに時間掛かってるのかも。1年生の中じゃもう殆ど敵無しで、唯一毎日挑みに来るのは5組の緋銀さんくらいかな?あの人の派閥が学年じゃ一番大きかったはず。

 

待ってればそのうち来るよね

 

そう思って椅子に腰掛けて少し、扉を引く音がしたので暇つぶしに読んでいた教科書から目を離し顔を上げるとそこには。

 

「お、ホントに居た。ケンゴの情報大当たりじゃん。」

 

「……ぇ。」

 

知らない生徒が十人も、ぞろぞろと誰も来ないハズの理科実験室へ乗り込んでくる。

先頭にいる先輩の顔は見た事がある、前にミカドちゃんに無理やり言い寄って頬にビンタされた後取り巻き共々ボコボコに殴られてた。

 

「へえーこんなとこに空き教室なんて有ったんだなァ。

一年の破柘榴ちゃんだっけ?君。

ちょっとお話ししようよ、時間は取らせないからさ。」

 

そう言うリーダーらしい彼の頬にはまだ新しい紅葉がくっきり残っている。

 

「いやさあ、この前君の友達にぶん殴られちゃってまだ跡が残ってるんだよね。

責任取って貰いたいんだけど龍征さん強情でさあ、代わりに友達の君に頼もうかな。」

 

「い、嫌です…そもそもあの時はあなた達がミカドちゃんを無理やり誘ったから……」

 

「そうは言ってもねえ、このまんまじゃ俺も気が収まらないんだわ。」

 

卑下た笑みを浮かべる取り巻きの人達に両腕を掴まれて宙ぶらりんに拘束される私。

 

「ひっ…」

 

「そう怖がんなよ悪いようにはしないから…お、弁当作って来てるんだ。しかも2つも。」

 

机の上に並んだ弁当箱を見つけた男はそう言って中身を開ける。やめてよ…それはミカドちゃんに作ってきたぶんなのに…

 

「やめて…それはミカドちゃんの…」

 

「ふーん…」

 

何かを察した彼はおもむろに弁当箱を持った手を振りかぶり、あろう事か床に叩き付けた。当然中身は散らばってぐちゃぐちゃ、箱は壊れたし卵焼きもおにぎりも原型を留めないくらい崩れて、更にそれをなんどもなんども上から踏みつける。

 

「ハハハ、ウケる。」

 

「そん…な…ひどい…」

 

「しょうがないだろう龍征が俺の誘いを断ったんだから。せっかく彼女にしてやろうって言うのにさ、アイツ断りやがった。オマケにこんな跡まで残してくれちゃってさ、どうすんのこれ。

恥ずかしくて外歩けねえよ、責任取れよあのアバズレ!」

 

何言ってるんだこいつは、思い上がりも良いとこだしあの時先に手を出したのは彼の方だった。ミカドちゃんは何度も断ってた、お前の薄っぺらい自尊心を満足させるために私達は巻き込まれたんだ。

それを逆恨みして本人ではなく私に復讐に来るなんて程度が知れる。

冷静にならないと…外…雨降ってる…湿気が…

 

ぐちゃ

 

「恨むなら」

 

ぐちゃ

 

「俺をフった」

 

ぐちゃ

 

「あの女を恨めよ!」

 

原型を留めないくらい靴裏で何度も潰されたおにぎりを眺めながら、私はショックでどんどん意識が遠くなってくるのを感じた。

これ…覚えがある、あの日個性を暴発させた時と同じ感覚。

 

私は髪を引っ張られて不意に背中に衝撃が走る、多分投げられてどこかにぶつかったんだろう。

あたまがぐわんぐわんと揺れている。前髪を掴まれ無理やり顔を上げさせられて、醜悪な笑みに染まった男と目が合った。

 

「やめ…て…ッ」

 

「嫌だね、これから君には龍征を手篭めにする為に人質になってもらうんだ。

絶対あの女に股開かせてやるからな!そしたら隣で破柘榴さんも一緒に遊んであげるよ、ちょうど君みたいな体型の子が好みの奴を何人か知ってるからね。楽しみにしとけよ!」

 

頭がいたい、ぶつけた衝撃じゃない。割れそうなくらいぐわんぐわんと脳みそが揺れている。喚き散らす男がもうひとつの弁当箱に手を掛けた。

視界がぶれる、意識が朦朧とする。きもちわるい。

 

 

だめ…それ…みかどちゃんの…ぶん…だめ……あたまぁ……いたぃ……

 

もう…おさえ…きれ…な……

 

あああ…

 

あああああ……ッ

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

吐き気と一緒に瘴気(こせい)が一気に体の中から湧き上がってくるのを感じたのを最後に私は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………へぁ?

 

床に這いつくばった状態で目が覚めた。

頭がぐちゃぐちゃになりそうなくらい痛い…

私何してたんだっけ?

そうだ、ミカドちゃんを待っていたら不良に囲まれて弁当箱を…

 

「ぁ……」

 

見渡す限り一面の緑色だった

 

「ああぁ…」

 

窓も床も全部が苔色のコブと吹き出すガスに覆われて、おどろおどろしい空間が目の前に広がっている。

恐る恐る腕を見ると、もとの皮膚が見えなくなるくらい手も腕も斑点とコブだらけで指を動かす事も難しい。

 

「ああああああああぁぁぁ…」

 

そうだミカドちゃんのお弁当は…緑色に染まっていた、もう見た目が悪すぎて食べられない。

 

また個性が暴発してしまったんだと本能で理解した。あの時と同じ光景、瘴気に染まって腐海と化した部屋。

ただひとつだけ前回と違う事があるとするならば…

 

…ごめんなさい

 

目の前で苔色の泡を吹いて転がってる男達くらいのものだろう。私と同じような斑点模様が顔まで広がっていて目は虚ろ、息はしているようだけど意識がないようで揺さぶっても全員一切反応しない。

 

ごめんなさい…ごめんなさい…

 

誰に謝っているのかも分からない、ただ口から空っぽの言葉だけを垂れ流す。

溢れる涙からまた瘴気の苔が生まれ部屋は一層瘴気のガスが濃くなっていく。

この人たちはどうなるの?教室は?お弁当は?

 

私にも止め方が分からない

 

もう誰にも止められない

 

立ち上がろうとして不意に教室の隅の鏡に私が映る。

ぐちゃぐちゃになった頭の中で唯一分かっていたのは、こんな姿を見られれば確実に嫌われてしまうって事。

 

 

『醜い化け物』

 

 

そう言って私を突き放したおかあさんとミカドちゃんの顔が重なって

 

私は考えるのを止めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昼過ぎ、帝はいつものように旧校舎へ向かう廊下を歩いていた。

今日も餓鬼道は平常運行、止まぬ喧騒と怒号をBGMにさっきそこで絡んできたモヒカンの気絶した体を襟首引き摺りながら角を曲がり、道中で教室に彼を乱暴に投げ込んで約束の理科実験室を目指す。

 

「………?」

 

階段を降りきった先で違和感に気付く、廊下の奥から鈍色のガスが床を這うように漂っていた。

嫌な予感がした帝はガスの発生源を辿り足を速めた、そしてたどり着いた先は目的地の理科実験室。

引き戸の硝子はグロテスクな緑色の物体がへばりついており、更に教室内はガスで満たされているのか一面霞んでいる。

 

「ウルル、居る?」

 

『…ッ!来ないでミカドちゃん。』

 

返事はあるが声がくぐもっていて聞き取りづらい、扉を開けようと力を込めると更に大きな声で静止を叫ばれた。

 

『おねがいやめて…もう…私をほっといて…』

 

「どうして?」

 

『個性…暴発しちゃった…今私すごく汚いから…気持ち悪い姿になっちゃってるから……』

 

「別に気にしないよ。」

 

『ッそうじゃないの!

私のせいでこうなったの…私が悪いの……今も個性が身体の中で暴れてて…また瘴気が溢れるかもしれないから…ミカドちゃんに迷惑が掛かっちゃうから……だから…』

 

「…………」

 

『お願い、私一人でなんとかするから…醜い私を見ないで…』

 

「………分かった。」

 

扉から離れていく足音を聞き、ひとりぼっちで涙を零すウルル。

友達に嫌われたくないと必死で拒絶して、自分でもコントロールできない個性をこれからどうやって始末を付けようか、いっそ此処で全部終わらせてしまえば楽になれるのかと、どんどん悪い方に考えてしまう。

 

(これでいいの……きっと今の私を見たらミカドちゃんに嫌われちゃう…おかあさんと同じように……醜い個性のせいで…)

 

部屋の隅に体育座りして、効果があるかも分からないが身体をなるべく小さくして少しでも瘴気の発生を抑えようと試みるも、依然としてガスは濃いままだ。

どうすれば…どうすればとウルルが途方に暮れていたその時、けたたましい音を立てながら教室の扉がくの字にへし曲がり、勢いよく向かいの壁に叩きつけられた。

 

「へぁっ!?」

 

突然のことに唖然とするウルルの目の前に飛び込んできたのはそう…

 

「……なんか昔聞いた曲の歌詞思い出したわ。鉄パイプ持ってねえし割ってたの窓だけど。」

 

訳のわかんないこと言ってる、なんだこの女。

 

「み、ミカドちゃん!?あっ…だめ…見ないで…」

 

瘴気をかき分けずんずんと近寄ってくくる帝。

せめて顔だけでも見られないようにと小さい手で必死に隠すウルルの手を掴みあげ、机に座らせる。

目線が同じになった所で帝は真っ直ぐにウルルの目を見据えた。

 

自分を睨み付ける母の面影が帝と重なって思わず目を逸らしたくなる。

しかし彼女は…微笑んでいた。

 

「友達付き合いって、私も正直よく分かんなくてさ。

ウルルが自分のことどう思ってんのか知らないけど、私はアンタが醜いだなんて一度も思ったことないよ。」

 

ぎゅっと力強く、コブだらけのウルルの手を握りしめる。コブが潰れてガスが吹き出てもお構い無しに、ミカドはずっとその手を握り続けた。

 

「寧ろ凄いよ、ウルルはこの個性をずっと1人で押さえ込んでて。

誰にも相談できなくて、一人ぼっちで抱え込んでたんだな。」

 

 

でももう大丈夫、私が来たから

 

 

「ぁ…」

 

ずっとずっと聞きたかったその言葉。

ずっと一人で抱え込んで、ずっと一人で苦しんで、一人ぼっちの破柘榴羽瑠々。

環境に押しつぶされて誰かに助けを求める声すら出せなかった少女の手を握ってくれたヒーロー。

 

「ううぅ…うええええぇぇぇ…」

 

我慢出来なくなったウルルは帝の胸に泣きついて、触れた傍から瘴気で制服が染まっていくのも気にせずに彼女は優しく少女の頭を撫でる。

 

泣いて、泣いて、泣いた。

ずっと欲しかった暖かさを手放さないように、震える手で抱き着いて胸に顔を埋めながら。

それから暫く、やっと泣き終えて胸から顔を離したウルルは嗚咽混じりに顔を上げる。顔の斑点は熱で既に引いていたが泣きじゃくってぐしゃぐしゃだ。

帝は変わらずにやけ面で、ポケットから手鏡を取り出して微笑んだ。

 

「ウルルの泣き顔笑えるゾ?」

 

「あはは、台無しだよ…

ごめんね、これから凄い迷惑掛けるから。」

 

「だな、んでもってどうしてこうなったか教えてくれない?」

 

ウルルの説明する事の経緯を聞き、はあ…と溜息を吐く帝の視線の先にあるのは倒れ伏した10人もの男たちだ。

 

「もはや呆れ通り越して笑えてくるわ、馬鹿共め。とりあえずコイツらを運びだそう、生きてるのか知らないけど。」

 

「生きてるよ!?…多分…息はしてたから。」

 

その姿は緑色の斑点が身体中に浮き上がり、所々コケを生やして泡を吹いている。目もイッちゃってるしどう見ても重症だ。

そんな彼らを運び出し、帝は部屋の真ん中で天井に向かっておもむろに炎を吹き始めた。

 

「えっちょっ…」

 

「まー安心しろって、ウルルが昔教えてくれたじゃん。私の瘴気は乾燥と火に弱いって。」

 

旧校舎故に警報装置も無い。みるみるうちに炎は教室中を覆い、炎に包まれた瘴気は目に見えて無くなっていく。窓や壁のの苔も枯れるように変色していき、パリパリと剥がれ落ちて灰になり消えていった。次第にウルルの身体のコブも剥がれ落ち、斑点も引いていく。

教室の一面を覆うほどの炎が燃え上がっているというのにウルルはさほどの熱を感じないのに疑問を憶えた。

 

「私の個性、炎と熱の操作なんだ。

今は部屋をガンガン燃やして乾燥させてるけど私が制御してるから必要以上に燃え移る事はないし、熱操作で温度も上げてない。

上げられるって事は下げられるって事だからね。」

 

室温は現在35℃、少し暑いが教室中が燃え盛る目の前の光景に比べればかなり低い。

そのまま全ての瘴気を排除して、水道の水を使って消火した。元通り…とはいかないまでも瘴気が外まで溢れ出すという最悪の事態だけは免れたので御の字だろう。

 

ぐぅーッと帝から腹の虫が鳴って、誤魔化すように彼女は笑った。

 

「そういや昼まだ食べてなかったわ…

お、ウルルの弁当あるじゃん。」

 

「あ…それは…瘴気でぐちゃぐちゃになっちゃったからもう食べられなくて…」

 

「ふーん…おにぎりは大丈夫そうだよ?」

 

「でももう汚いよ、お腹壊すかも…」

 

「焼けば大丈夫っしょ。」

 

そう言って掴んだおにぎりを左手の炎で炙り、即席の焼きおにぎりを作った帝はウルルの目の前で頬張った。

何度か咀嚼し、不意に食べる口を止め神妙な面持ちでウルルに向かって呟いた。

 

「………甘ぁい。」

 

「え''っ…」

 

恐る恐るウルルも一口食べてその甘ったるさを味わって、暫く見つめ合ったあと可笑しくなって2人揃って笑い合う。

 

 

 

この後保健室まで瘴気に当てられた生徒達を運び出しひと段落ついたと思ったのもつかの間、その日の放課後に2人は校長室に呼び出された。

被害がほとんど無いとはいえ教室を1つ燃やしたのだ、重かれ軽かれ何らかの処分は免れないだろうとウルルは覚悟していたのだが、帝と校長の口から出た会話に驚愕する事になる。

 

 

 

 

そして翌日、急遽行われた全校集会。

全生徒を体育館に集め…といっても来ている生徒などほんの一部で、不良以外の根は真面目な者や単に物珍しさでやって来た者、様々だった。

ガラガラの体育館の壇上に登ったのは、気崩しもせず制服を着こなす凛々しい姿の帝。彼女はマイクを握りしめ静かに宣言する。

 

『今日から餓鬼道中学校の生徒会長に就任しました、1年3組の龍征帝です。

この度校長先生直々の指名を貰ってこの職に就くことになりました、これからは主に餓鬼道の風紀改善の為に尽力していくつもりですのでどうぞ宜しく。』

 

普段使わない敬語のうえ、しかめっ面で喋る帝の左肩には筆文字で『会長』と書かれた深紅の腕章が安全ピンで制服に縫い付けられていた。

ざわめく体育館内にもかまわず帝は言葉を紡ぐ。

 

『つきましてはこの後私の独断と偏見で生徒会執行部を設立します。役職は私の他に副会長、会計、書記、それと別途に風紀委員。

割り当ては私が勝手に決めるからそのつもりで、それと生徒達は学年問わず模範的な学生としての行動をこれから心掛けるように。必要であればこちらで指導します。

それと個性を鍛錬できる場を設けて…』

 

「オイオイオイちょっと待て!

なんだよ生徒会って。勝手なモン作ってんじゃねえ、オレたちにはオレたちの派閥があンだよ!

従ってられるかそんなモン!」

 

「そうだそうだ、綺麗事に付き合ってられっか!」

 

帝の説明を遮るように一部の男子生徒から罵声が浴びせられる。周りの生徒達も声に出して賛同しないまでもその発言には納得していた。

誰もが恐れる餓鬼道中学校、教師ですら匙を投げる凶悪な個性を行使する不良達の集まり、そんな連中に規則を促した所で帰ってくるのは罵声と拳のみ。

 

「綺麗事、ね…」

 

そんな声を受け、帝は暫く黙った後鼻をならして

 

とびっきりの侮蔑を込めて嗤った

 

『……うるせぇんだよクソガキども』

 

ドスの効いた声に全学年が静まり返る。

さっきまで罵倒に加わっていた3年生もその笑顔に軒並み言葉を失い、学生らしからぬ威圧感にカタカタと歯を鳴らし怯えるものまで出る始末。

まるで竜の唸り声のような…今まで聞いたこともない腹の底まで響く静かな怒声に体育館に居る全員が震え上がった。

 

『従わないなら従わないで結構、授業をきちんと受けない生徒、喧嘩ばかり起こす者には学年問わず何度でも〝指導〟してやる。

派閥争いだかなんだか知らんが下らない遊びを続けてる三年棟の馬鹿共にも伝えとけ、これ以上おままごと続けるなら私が直接教育しに行ってやる。個性使おうが罠張ろうがどうしようと私に勝てない事を脳の奥まで刻み込んでやるからな。』

 

おそらく偵察にやって来たであろう三年生の派閥の下っ端らしい生徒達に言い放つ。

その宣言を嗤う者はこの場に一人もいない、目が本気だった。今の彼女にはやると言ったら必ずやる凄みがあるッ…

 

『…もちろん校内で喧嘩、個性を使うのは論外。指導対象になるけど、ちゃんと個性を使っても問題ない場を設けるつもりです。

つきましては週に二回、特別教師を招いて個性始動の特別授業を行うよう学校側からプロヒーロー事務所に提案しています。

自分達に何ができるか、何をしたいか、どんな大人になりたいか、選択肢を増やしてあげる。喧嘩する暇も無いくらい貴方達は忙しくなる、私も相談に乗るから一緒に変わっていきましょう。』

 

この学校と一緒に

 

 

そう言い残して帝は壇上を降り、体育館を後にする。

未だにザワつく生徒たちを眺めながら、黙って宣言を聞いていたウルルは体育館を飛び出して帝に駆け寄った。

 

「これからどうするの?」

 

「まずは一年生のゴタゴタを全部片付ける、緋銀の奴はまぁ…協力してくれるならラッキーだし駄目なら物理的に理解(わか)らせるか。役職持ちにする気だし。

それと、はいウルル。これ。」

 

差し出した帝の手にあったのは『書記』の書かれた腕章。

 

「わ、私!?無理だよそんな役職…」

 

「大丈夫、ウルルならできるよ。

それに飴と鞭が必要なんだ、()()()()()()()()()()()()()ウルルの個性なら私がいくら暴れても人的被害は最小限で済むしぃ?」

 

「その為には個性制御頑張らないとだけど…

分かりました。1年1組破柘榴羽瑠々、餓鬼道中学校生徒会『書記』引き受けます!」

 

「これから一緒に頑張ろっか、頼むぜ親友。」

 

「うんっ!

…いくら治せるからって暴れ過ぎないようにね?」

 

「HAHAHA、了承しかねる。

いい加減上級生が鬱陶しかったんだ…!」

 

かつてないはど獰猛な笑みを浮かべる帝の表情に呆れ溜め息を吐きながら、ウルルはこの時初めて心から笑えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからミカドちゃんは1日で一年生の派閥をまとめあげ、3日で二年生に点在してた派閥を全部叩き潰し、週が終わる頃には三年生の全派閥をたった一人で制圧していた。この激動の1週間は未だに餓鬼道で「血の七日間」として今も語り継がれている。

どんな感じだったかって?書記の私と新しく風紀委員長として加わった緋銀さんがドン引きするくらい凄惨な殲滅風景だったと伝えておこう。二年棟と三年棟を一部屋一部屋丁寧に片っ端から制圧していく光景は惨劇の一言だった。まさか人の関節があんな方向に曲がるなんて…私が治せるからって無茶し過ぎだよ。「あの子と同学年で本当に良かったわ…」って緋銀さん真顔で吐露しちゃってた。

個性を使った奇襲、罠、人質作戦で抵抗する生徒達も何人かいたけれど、ミカドちゃんの宣言通り圧倒的な暴力の前に先輩達は己の無力を身体に理解(わか)らせられ為す術なく沈んでいった。今までが適当にあしらってただけで、本気でその気になったミカドちゃんには誰も勝つことなんて出来なかったんだ。文字通り龍の逆鱗に触れた先輩方が憐れでならない。

 

一週間後、生徒会監修のもと初めてプロヒーローを呼んで行われた個性指導の授業で校内は大いに盛り上がりを見せて、次の開催を熱望する声が止まなかった。

特別教師として招かれたプロヒーロー、ベストジーニストさんもやりがいを感じてくれたらしく継続的に餓鬼道に来て下さるそう。有難い限りだ。

 

ミカドちゃん曰く、彼らに必要なのは暴れられる場所ではなく個性を活かせる環境を整えること。溜まっていた鬱憤を喧嘩じゃなくて公式の授業で発散させてしまえばストレスも無くなると。

 

でもその為に生徒会の全権限を賭けてミカドちゃん対他の生徒でデスマッチさせるとか聞いてないんだけど!?いや卒業するまでミカドちゃん負け無しだったから良いんだけど!次の会長が不憫でならないよ!

 

そんな突拍子もない行事ばかりを繰り返していくうちに生徒達も少しずつ変わっていって、半年経った頃には校内での喧嘩騒ぎはめっきり無くなっていた。

 

それから学外まで広がった悪評を払拭するために四苦八苦してみたり、進学や就職が決定した先輩達の卒業パーティーを学校を挙げて企画したり、新しい一年生を盛大に迎え入れたり、卒業までの三年間で様々な事をやって生徒会の皆と過ごした。

「任期中に体育祭と文化祭を復活させられなかった」ってミカドちゃんは悔やんでたけど、私は十分だと思う。彼女の想いは先生や後輩たちに脈々と受け継がれているし、新会長の天ちゃんは貴女の事が大好きだから…

 

 

学校を変えた餓鬼道の生徒会長、誰よりも生徒の心に寄り添って、誰よりも生徒の為に拳を振るった無敗の『女帝』。

終わっていた筈の私達はそんな彼女に変えられたんだ。

 

 

 

 

 

だから、私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り、保須市某所

 

 

「…………ぅあ?」

 

まだ頭が揺れていて気持ちが悪い、一体何が怒ったんだっけ?

…そうだ、婦長様と一緒に『やすらぎ荘』へやって来て、いつもみたいに公演をして、せっかちな婦長様はミルコさんを探す為に外へ飛び出して行って…私が子供達の面倒を…面倒…を……

 

「はっ!?どういうこと…これ…」

 

ごうごうと燃え上がる炎があちこちに広がって、人の悲鳴と物が壊れる音とがひっきりなしに響いてくる。ビル全体がミシミシと音を立てていて今にも崩れてしまいそう。

 

そうだ、私…そろそろ帰る時間だって支度をしていた時に突然ビルが揺れて…

というかこれって…火事…

 

「だれか!だれか助けてくれぇ〜!」

 

何処かの部屋から人の声がする、恐る恐る声の方へ向かってみると、脚を瓦礫に挟まれて動けなくなった会社員らしい男の人が頭から血を流しながら呻いていた。

 

「君ィ、ちょうど良かった!助けてくれ!」

 

「え…あ…」

 

しどろもどろになりながらも転がっていた鉄パイプを瓦礫の隙間に挟み込んで上手いことテコの原理で浮かせた瓦礫の隙間から必死の形相でおじさんは抜け出した。

 

「ひぃっ…ひぃっ…なんでワシがこんな目に…」

 

「あの…何があったんですか?」

 

「知らんよ!帰ろうとしたら何かが突っ込んできたみたいにビルが揺れてワシは気絶しとった。そんで気付いたら脚を瓦礫の下敷きにされ…

くそっ…こんな事なら上の階でのんびりしておれば良かった…ッ痛ぅ…」

 

ブツブツと文句を言ってるおじさんは脚を痛めているようで、歩けずにいる。

 

「脚、診せて下さい。応急処置位ならできます。」

 

「本当かね…?そうかキミは今日来ると聞いとった看護婦か!スマンが頼めるか?」

 

「は、はい!」

 

無断で個性を使うか一瞬迷ったんだけど、『生命を護る為なら手段を選ぶな』という婦長様の言葉を思い出し、規則違反がなんだと自分を奮い立たせて私は個性使うことに決めた。

 

見た目からして軽い捻挫だから固定できるような物が有れば…それと布と水を持ってこないと…

 

幸い傍にあった冷蔵庫にミネラルウォーターのペットボトルがあったので拝借して、手早く応急処置を済ませる。

紫色に変色した患部に個性を発動させて、緑色の苔に覆われた脚の上から包帯を巻き水を掛けて個性を維持させた。

 

「その…なんだねそれは、普通の治療とは違うようだが…」

 

「私の個性です。

ざっくり説明するとこの苔が自然治癒力を高めて捻挫くらいなら治してくれます、湿布だと思って下さい。水を定期的にかけてあげれば個性が活性化して痛みも和らぐはずなので持っていて。

ほんとは火傷や裂傷なんかの傷に直に当てた方が効くんですけど捻挫なので今はこれくらいしか…応急処置なので早く病院で診て貰わないと。」

 

「…本当だ、歩いても痛くない。」

 

あの日気付いた私の個性の本当の能力。きっかけは瘴気で失神させた男の子達を病院に搬送した時だった。

彼らは十代の若者ながら喫煙による重度の肺炎を負っていて、肺がボロボロだったらしい。なのにあの後いざレントゲンを撮ってみると壊れかけの肺は私の瘴気に覆われていて、お医者様の話によると信じ難い事に肺が再生しつつあるのだとか。

豚を使った再生医療は有名だけど、私の瘴気はそれと近い性質を持つらしい。

自然治癒力を高めて再生を促進させる超回復能力、それが私の個性には備わっていた。

見た目が悪くて生き物に今まで相手に使った事がなかったんだけど、まさかこんな力があったなんて…兎に角私は驚いてミカドちゃんと話し合った結果、個性を制御する為に特訓をすることに決めた。

いわゆる個性伸ばしと言うやつだ、自分の個性を理解して情報を精査した結果、瘴気は傷口に直接当てて治癒するだけでなく、口から吸引すれば感覚を鈍らせてちょっとした麻酔代わりになったり、骨折など傷口が見えない負傷でも皮膚越しに当てていれば湿布代わりになり治療しつつ痛みも和らぐなど、どんどん判明してく。

それもこれも分かったきっかけは『血の七日間』の間にミカドちゃんが〝教育〟した人たちを片っ端から治療したからなんだけど…

 

とにかく私の個性はただ気持ち悪いだけじゃない、人を助けられる。あのリカバリーガールと同じで稀有な回復個性だ。

あの人のは回復するのに被験者本人の体力を必要とするけど私の瘴気は水さえあれば成長し続けられる。その点では負担が少ないかな。但し即効性は低いし見た目は身体に苔が生えてるから人によっては受け付けない、なので処置した後は包帯で隠す。

 

「あまり激しく動くと流石に痛いので何か支え棒になるものを探しますね。

…これくらいしか役にたてなくてごめんなさい。」

 

「いや有難い、適切な処置だよ。

まだ学生なのにこの対応は素晴らしい、自信を持ちなさいよ君ィ!」

 

褒めてもらえた。

その辺にあったモップを持ってきておじさんはそれを支えにして立ち上がり、付近を調べに行くそうだ。それに私もついて行く。

 

そこから一番窓に近い部屋に移動して、建物内に残った人たちを探し出し一箇所に集めた。

どうやら私が最初に治した彼はこのビルのオーナーだったらしい。

 

次々と運ばれてくる怪我した人達、オーナーの人が探し出してくれた救急箱の中身は少ないけどこの中で医療知識を持ってるのは私だけだ。

もうやるしかない。

 

「皆なるべく姿勢を低く!カーテンは全部剥がして窓から捨てて!」

 

「お子さんはこっちに固まりなさいよ!ハンカチで口を抑えて煙を吸わんようにな!」

 

「怪我した人はこっちに、私が診ますから!」

 

緊急事態だというのにオーナーさんを始め多くの人達が助け合って、必死に火から逃げる。

気付けば私達の居る子供用に作られた大きめのプレイルームには30人近くの逃げ遅れた人達が集まっていた。

その半分は怪我人で、下手に動かせない位の重傷者が5人ほど、幸い死者は今のところ見つかっていないけど今も下の階は燃え続けてるし煙も酷い。現状は最悪の一途を辿っている。

そんな中、サイン色紙の様なものを抱えた女の子がこっちに近寄ってきて不安げな表情で私に話しかけてきた。

 

「おばあちゃん助かるの?だいじょうぶ?」

 

「だいじょうぶだよ、きっとヒーローが助けに来てくれるからね。」

 

頭を撫でながら彼女のおばあちゃんの容態を確認する。軽い捻挫と火傷だけど煙を吸いすぎてる、それにお年寄りだから体力が心配だ。あまり動かさない方がいい。

 

 

 

 

 

「それで助けはいつになったら来るんだ!?

このままじゃみんな焼け死んじまうぞ!」

 

「落ち着けって!窓の外見たろ?下でレスキュー隊とヒーローが集まってるんだからもうすぐ助けに来てくれるさ!」

 

この部屋に固まってから40分くらい経過したかな?あらかた怪我人の治療も終えて、必要な水も与えたから治療に使ってる瘴気は暫く大丈夫だろう。そんな中、いつまで経っても来ない救助隊に業を煮やした人達が騒ぎ出していた。

 

「落ち着きなさいよ君ィ。子供達も見てるんだ、大人がみっともなく騒ぐんじゃない。」

 

「でもねえオーナー、こんなにも経ってるのに未だに来れないなんておかしいでしょうが。

高い税金払ってんのに肝心な時に来てくれないんじゃ困るんだよ。」

 

「そうそう、ヒーローなんだから俺達を助けるのが義務だろうが!早く来いよ!」

 

一人、二人と不満が溢れて次第に空気が重苦しくなっていく。

緊急時にはその人間の本質が出るって言うし文句を言いたい気持ちは分かるけど、今はそんなこと言って現実逃避してる場合じゃ無いでしょうに。

誰かのせいにして楽になるなんて甘い事考えない。

それにヒーローだって人間なんだ。

 

必要とされて必ずやってくるなんて都合のいい事あるわけない

 

「おねーちゃん…」

 

「だいじょうぶだいじょうぶ、必ず助かるからね。」

 

大人の汚い所を見せて不安にさせてしまった女の子を気休めでも安心させようとしてそう言って、頭を撫でる為に姿勢を変えた拍子に急に身体から力が抜けて私はその場に倒れ込んだ。

 

あ、やば…個性使い過ぎかもしれない…それに熱がすごいや…乾燥してるし……

 

「おねーちゃん!?」

 

「あぅ…ごめん、ちょっと疲れちゃった…

横になれば直ぐ治るから…」

 

「オイ大変だ!誰かこっちに来て手伝ってくれ!」

 

言い争いの中響く大きな叫び声、男の人たちが何人かそれに呼応して暫くすると、全身ボロボロでぐったりとした女の人が運び出されて来て寝かされた。

チラッと見ただけでも半身に重度の火傷、左脚と右腕があらぬ方向にねじ曲がって骨折、オマケに煙の吸いすぎで呼吸困難、脈拍もかなり弱ってる…これまずい、今すぐにでも集中治療室に入らないと命に関わるレベルの大怪我だ。

重い体を引き摺って彼女の前までたどり着いた私は個性を使おうとして、瘴気がこれ以上出ない事に気が付いた。

 

「なん…で…個性が……許容限界…?」

 

「おい君大丈夫か!?だいぶやつれてるし顔色も酷いもんだぞ!」

 

「私は大丈夫…です…でもこの人、このままじゃ命が危ない…だから何とかしなきゃ……ッ!」

 

もう一度瘴気を出そうと試みるも一向に出る気配がない。

そうだ、乾燥だ。それに業火の中気温も高すぎて瘴気が生まれたそばから焼失してる。時間が経って温度が上がったから…サイアク…

 

「どうしたんだね!?さっきまでみたいに治療はできないのか?」

 

「気温が高すぎて個性が使えないみたいです…普通の応急処置しか…」

 

「くっ…包帯も消毒液ももう使い切ってるぞ!?」

 

「ウソ、そんな…」

 

あと一人、あと一人なのに…

 

「…ぁ…ぁぁ…」

 

「無理に喋らないで!

大丈夫です、絶対助けますから!だから諦めないで…!」

 

「………ひゅー…ひゅー…」

 

折れてない方の手を握りしめて懸命に語りかける。

私と目が合って、こくりと頷く仕草を見せた彼女の瞳は必死に訴えてた。「死にたくない」って。

 

「手に届く命は死んでも助けるのが…看護婦の勤めですよね…婦長様ッ。」

 

呼吸が浅くなる女性の口を私の口で塞いで肺に直接瘴気を流し込む。苦痛で歪んでいた女の人の表情がとろんと虚ろになって、呼吸も落ち着いて来た、これで少しの間は瘴気が煙を濾過して空気を吸えるようになるし痛みは和らぐハズ…でも傷口と骨折は今の環境じゃどうしようも無い。せめて気温が下がってくれれば…

個性の使いすぎで身体が上手く動かない、そばにいた女の子にもたれかかって、何とか意識を保ってた。

オーナーさんが私に向かって何か言ってるけど上手く聞き取れない。

個性も使えない、医療キットも尽きた、この人の命は風前の灯だ。

 

不意にあの人の姿が脳裏に過ぎる

 

なあんだ、私も結局都合のいい事考えちゃうな

 

土壇場で助けが来るだなんて思っちゃう

 

私を助けてくれた人…私にとって大切な人…

 

 

「………ミカド…ちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おう、お待たせウルル。』

 

 

ガラリとベランダの大窓が音を立てて開いて、皆がそっちに注目した。

スピーカーで拡張された声の主、霞んだ視界の先に居たのは…

 

 

 

 

『もう大丈夫、私達が来た…!!』

 

 

 

やっぱり貴女は私のヒーローだ




1話丸々オリキャラの過去とかマジ?

時系列的には3日目の脳無による保須市襲撃と同タイミングで起きたビル火災、脳無襲撃、ヒーロー殺し、突然のビル火災…何も起きないはずがなく…



★オリキャラ解説★

破柘榴羽瑠々(はざくろうるる)
誕生日:6月22日
年齢:16歳
身長:145cm
所属:士傑高校一年七組看護科、出席番号13番
職場体験派遣先:保須中央病院
担当看護婦:天使白衣(あまつかしらぬの)(元プロヒーロー『フローレンス』)
個性:〝瘴気〟→〝瘴気活性〟
回復効果のある微生物を含んだガスを体内で生成し放出する個性、制御しないと湿気と水分でどこまでも成長する。
傷口に付着させる事で自然治癒力を高めて早期回復を促したり、骨折などでも皮膚越しに当てていれば痛みを軽減させる。
既に治っている傷跡は治療することはできないが、切断された指に瘴気を付着させてくっつければ接合され元通りにする事が出来る為、再生医療に活用できないか一部の医師達から注目され協議が続けられている。
見た目は毒々しい鈍色のガス、固形化させると緑色の苔に変色するので見栄えは頗る悪いがリカバリーガールに匹敵する程の稀有な回復個性だ。


元ネタは皆様ご存知屍套龍ヴァルハザク、誕生日は歴戦王実装日、何がどうしてロリキャラになったんだ…例の如く画像を一覧に置いとくので見たい人だけ見てね。
因みに彼女と帝の会話で出てきた緋銀さん、天ちゃん、臨華ちゃんもちゃんと設定があって外見も某キャストで作ってある模様。今後出てくるかは不明、あんまり端役増やしても…ねえ?
いまさら?うるせぇんだよ
3人の本名は

緋銀 司(あかがね つかさ)

天廊 凍皇梨(てんろう こおり)

不羅姫 臨華(ふらき りんか)

全員モンスから生まれたオリキャラ、個性もそのモンス由来、名前だけでどのモンスか分かった人は感想欄で僕と握手!

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