帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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正直オリジナルだらけの職場体験もうええやろって、読者は思ってると思う。
作者もそう思う。この話はここでおしまいだな!

因み前回の端役3人は上から

・ハルドメルグ…『司銀龍』『緋銀の翼(仙異種の異名)』

・ドゥレムディラ…『天廊の番人』『凍皇龍(大陸版表記)』

・臨界ブラキ…名前のまんま

答えてくれる人思ったよりが多くて、感想稼ぎしてるみたいで申し訳なくなった。すまん。







32 私の職場体験記vol.4

「どうしてですか行かせて下さい!

俺の風なら人一人くらいは背負って下まで運べる、龍征さんの翼竜だって避難が遅れた人を運ぶのに最適じゃないっスか!」

 

「落ち着きなよレップウ。」

 

保須市市街地のビル火災。

燃え盛るビルの下で救急隊と怪我人が右往左往する火事現場でレップウは声を荒らげてた。

 

「ダメだ、初日とは状況が違う。

高所火災の救助活動は君達の想像の何倍も難しい作業なんだ、梯子車が到着するまで君達は交通整理を続けていてくれ。」

 

返事は固いがバックドラフトの言うことはもっともだ。むしろ初日に私があれだけ働けたのが特例で、本当なら職場体験で学生は交通整理が関の山。

でも梯子車が到着するまであとどれくらいかかる?火事が起きてから私達が到着するまでもう40分近く経ってる、そこから更に塞がってる瓦礫を取り除くのにどれくらいの時間を掛けなきゃいけないの?

その間も中の人達は閉じ込められたままだ。翼竜達から見えた中には寝たきりの重傷者も混じってた、煙と高温で危険な状態は続いてる。時間との勝負なんだ。

それに…

 

「…バックドラフト。」

 

「なんだいグァンゾルム。」

 

「職場体験生である私達を危険な目に会わせたくないのは分かります、万が一私達が怪我したら監督者として責任を取らないといけないしそれ以上に今後の貴方のヒーロー活動に迷惑がかかる。」

 

「…それだけじゃないよグァンゾルム。

守れなかった時、君たちには社会的な責任よりも重くのしかかるモノがある。無念、後悔、懺悔…

目には決してした見えないが一生付いて回る〝重り〟だ、当然オレだって背負ってるさ。

学生の君たちがそれを知るにはまだ早い、今は…」

 

「…私の友達があの中に居ます。」

 

「!?」

 

「あの子は臆病で、ずっと一人で危険な個性を抱えてた。でも吹っ切れて今じゃ希少な回復個性持ちで看護婦の卵なんですよ。」

 

「ッ!龍征さんまさか…」

 

「そうだよレップウ。

突然変異の個性を嫌って、自暴自棄にまでなってた子が、自分の個性を人を助けるために使いたいって笑顔で言ってたんです。凄いでしょ?

たくさん勉強してたくさん練習して、得た知識と個性であの子…中に居る負傷者の手当てをしてました。必ず助けが来るって信じて消えそうな命を繋げようとしてた。

危険な現場だって事は百も承知です。貴方が責任と感情で板挟みになってる事も、それ以上に私達の身を案じてくれている事も。

でも今は…私達にしかできない仕事がある。

中の人達が助かる可能性は少ない、けど私とレップウならその確率を少しでも上げることができる。私が動けば助かるかもしれない命が目の前にあるのに黙って交通整理だなんて悠長な事できない!」

 

だからお願いします、私とレップウを救助に行かせて下さい!

 

そう言って頭を下げる私を見たレップウも後を追うように90度頭を下げた。ヨシ地面まで下がりきってないな、偉いぞ!

 

バックドラフトは暫く唸った後、諦めたように頷いておもむろにマスクを外し素顔を晒した。

 

「…命を助ける為に使える者は全て使う、それがオレのモットーだった。

でも時には救えない命もあった。オレはオールマイトじゃない、取り零す度に『あの時ああしておけば、こう判断すれば救えた命があったのに』と後になって死ぬ程後悔するんだ。

君たちにはそんな失敗をして欲しくない…!」

 

すぅーっと思い切り息を吸い、騒がしい火事場でも通るくらいの大声で彼は私達に叫ぶ。

 

「プロヒーロー『バックドラフト』の名において、『グァンゾルム』及び『レップウ』の個性使用による救助活動を許可する!

悔しいがこの現状、オレや個性の縛られたレスキュー隊じゃ手詰まりだ。タイムリミットは刻一刻と迫ってる。だから君たちの力を貸してくれ、命を繋げてくれ…頼む!」

 

そう宣言して頭を下げるバックドラフト。

私が返事を返す前に横から爆風が渦巻いて彼に負けない勢いでレップウが吼える。

 

「了解ッス!!自分と龍征さんに任せて下さい!!」

 

「ありがとうございますバックドラフト。

…レップウ落ち着け落ち着け、風を抑えろ鎮まりたまえ。」

 

「ハッ!?すいませんでしたァッ!!」

 

ガンッとまーた頭を地面にぶつけやがったコイツ、救助する前に負傷するなよ馬鹿野郎。

 

プロヒーローによるお墨付きも頂いたところで早速乗り込もうとしたレップウを襟首掴んで引き留めて作戦会議だ。手早く済ませよう。

 

先ずは私、やることは勿論翼竜を使って13階から要救助者を降ろす。担架を使って2匹掛かりでなら重傷者も運び出せる、そういう想定で何度か訓練もさせてるから大丈夫。

レップウには風で救助者を抱えて飛んで貰おう、往復する事になるが本人が「全然問題ないっス!訓練でもっと重い物を運んでましたから!」って言ってたので彼の言を信じよう。それから換気の為に風を起こしてもらわないと。

 

…それともう1つ、不安なのが出火原因が不明なところ。

先に着いたレスキュー隊の人によると12階のサーバールームから突然火が出たらしい、精密機械で熱の篭ったサーバーが火を吹いた可能性も考えられるけど、警報装置が作動した時にはもう火が階層全体に回った後だったそうだ。そんな早く火の手が回るものか?複数のサーバーが同時に爆破でもされないとこうはならないハズ。

それとも外から何かされた…?

 

まあそっちは今考えても仕方ない、救助者が待ってるからレップウ連れてさっさと上まで…と思っていたら不意に女の人から声を掛けられた。

ウルルを担当している看護婦の天使(あまつか)さんだ、彼女は私に大きな銀色のアタッシュケースを手渡してきた。

 

「先程のお話、聞かせて頂きました。

大変残念ですが私は救急隊の陣頭指揮を執らねばならないので突入に参加できません、ですのでこれを破柘榴研修生に渡して頂けますか?」

 

「これは…」

 

「彼女に必要な物が全て入っています。

それから彼女に伝言を、『全てを救え』と。」

 

「研修生にメチャクチャ言いますね…」

 

「できない者には言いません。

破柘榴研修生の個性なら可能であると断言できる。なによりあの子は意志が強い、きっと良い看護婦になるでしょう。天使白衣…救命ヒーローフローレンスが保証致します。」

 

「…絶対助けますから。」

 

「ええ、必ず。」

 

アタッシュケースを受け取って一礼し、現場指揮に戻る天使さんを見送り私はレップウに合図を送る。

バックドラフトとレスキュー隊の皆が見守る中翼竜に掴まり、レップウは風を纏って空へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

……あの人、陣頭指揮執ってなかったらガチで私達と13階まで付いてくるつもりだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆side 蒼井華

 

 

「〜〜♪〜♪」

 

鼻歌を歌いながら上機嫌で信号を渡り、ステップなんかしちゃったりして。

そうっ、今日はバイトが珍しく休みなのだ!

いつもは学校の後に必ず動物園に閉園まで勤務してその後の片付けなんかも全部押し付けられ帰ったら夜8時過ぎ…なんてのもザラだったけど、今日は椎名園長の気まぐれで休園日。

なので私はこうして放課後の一人スイーツ巡りに勤しんでいるわけよ!

 

「本日最後のオヤツは〜まんぷく亭の『ミッチリ生チョコたい焼き』!たい焼きの中にとろける生チョコを仕込んだ数量限定の一品、買えてよかったあ〜!」

 

あのバイトはキツいけどお金だけはたくさん貰える、だから一人暮らしの私でもこんな贅沢する余裕があるんですよ!あの営業状態でなんであんなに羽振りが良いのは知らないけど貰えるものは貰っておくのが私の主義なのだ!

たい焼きの詰まった袋を大事に大事に抱き締めて、スーパーまでの道のりを歩き続ける。さっきまでウッキウキで家路に着こうとしてたのに急に電話でミルコさんにニンジン買って来いってパシられたからね、悲しいね。

 

「この辺だと何処が安いのかな〜…あいたっ!?」

 

キョロキョロと周りを見回しながら歩いてると横向いた瞬間に前方不注意で誰かにぶつかってしまったららしい。

あわわどうしよ、ぶつかった感じすっごい筋肉質だったしとりあえず謝らないと…

 

「あっあっあっ…すいません余所見して……て?」

 

顔を上げるとそこには『脳』があった。

凄い大きいお人にぶつかってしまった私…いやグッッッロ!何この人!?

いや待て落ち着け蒼井華、このご時世だ人を見た目で判断するな。異形型の個性持ちならこんな人その辺にゴロゴロいるはずだろ…流石に脳と下顎しかないレベルで顔の造形を端折ってる人は初めてだけど、個性社会じゃ当たり前。差別ダメゼッタイ!

あくまで平常心を装うのよ私、たい焼きも待ってる、優雅に謝罪を入れてこの場を去るのだ!

 

「すすすすすいません余所見してましたどどどどうか命だけわわわわわわわ…」

 

ごめん、やっぱつれぇわ…怖すぎるよこの人…こっち向いたはいいけどなんも喋ってくれないし…そもそもその口喋れる構造なのかわかんないし…帰りてぇ〜…

 

おやぁ…??(唐突なジョン・〇ビラ)

 

何故拳を振り上げるのですか?

 

何故ここからでも聞こえるほどの音を立てて腕を振り絞るのですか?

 

何故そのまま拳を私の方へ振り下ろそうとなさっているので危なあああああいッ!?!?

 

自慢の脚力と日頃の業務で園長に鍛えられた動体視力を遺憾無く発揮して咄嗟にその場から飛び退いた。

ズドンって大きな音がしてさっきまで私のいた場所に彼の拳が突き刺さりクレーターが出来てる。

 

えっ…ちょ…そんなに怒ります?なんか癪に障る事でもしました?もしかして私がぶつかった所デリケートゾーンだったのかもしれん、異形型なら何処にどんな部位あるのか分からないし、そうだったらホントにごめんなさいたい焼きあげるから許してくださ「カロロロロロロ…」んんんんんんコミュニケーション取れない感じのヒトなのかなあ〜分かりますよぉ私も『蒼井さんあの逢魔ヶ刻動物園でバイトしてるの?』『お化け屋敷みたいで怖いよねあの動物園』『園長が非合法な個性実験繰り返してて、動物が人に化けて夜な夜な山から降りてくるらしいぜ』『ええ、怖…』なんて噂を立てられてクラスじゃ浮いてますからっていうかこの人多分ヴィランなんじゃないかなって思うんですよね、雰囲気も顔も怖いもん。やっぱ人は見た目が9割ですよ内面なんて知るか。

 

2発目の拳が来ると身構えた瞬間にヴィランが横に吹っ飛んでった。代わりに現れたのはヒーロースーツ着た小さいおじいちゃん。

 

「スマン来るのが遅うなった、危なかったな嬢ちゃん。奴ぁ俺が相手するからはよ避難せい。」

 

「あ、ありがとうございます…そうさせていただきます!」

 

足裏からジェット噴射で飛んでるおじいちゃんは私に避難を促したあとさっき蹴飛ばした下顎さんに向かって飛んでった。

もしかしなくてもやっぱりあの人…人?はヴィランらしい、続々とヒーローがやって来て、壁壊すくらいの勢いでぶつかったのに平然と起き上がった下顎さんとドンパチし始めた。

 

一目散に逃げ出す私。こちとら普通科育ちの一般人、逃げ足だけは自信があるんですよ!ドジらなければね!

 

猛ダッシュで角を曲がって一息、辺りを見回す。どうやらあの下顎さん以外にもヴィランが出没しているようで街のあちこちから煙が上がってる。

ちくしょう最悪だ、こんなときどうすれば…ああそうだ!いるじゃんこーゆー時頼りになる人が!

 

 

 

 

 

 

 

『…もしもしミルコさん?

いや開口一番ニンジンじゃないんですよ、保須にヴィラン来てますよヴィラン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう大丈夫、私達が来た…!』

 

 

なーんて張り切って飛び込んで来たはいいものの、そこらかしこが燃えてるし怪我人多数でヤバいしオマケに我が親友は死にかけではないですか。もしかしなくてもこの熱さの中この人数みんな治そうとしたな?そりゃぶっ倒れる。

でもあの子にはもうひと頑張りしてもらわないと。

 

「という訳で元気になぁれ〜。」

 

おもむろに持ってきたペットボトルの水をウルルの頭にばっしゃばしゃふりかける。隣のオッサンがすげえ顔しながら私を見てるんだけどどした?ぽんぽんぺいん?

 

「ななな何をしとるんだね君ィ!?この子気絶しとるんだぞ!」

 

「いやこれ立派な治療ですから。

こうなったこの子は水かけときゃ復活します。」

 

「いや枯れかけの花に水をやる感覚でそんな事されてもね!?そんなことして元気になるわけ…」

 

「ぅ…ミカドちゃん、もうちょっとちょうだい…」

 

「キャアアアアシャベッタアアアアアッ!?」

 

芸人ばりのリアクションで私を楽しませるオッサンをよそに2本目のボトルを開けてウルルにぶっかける、これでもう大丈夫だ。

 

「おはよう親友、私が来た!」

 

「相変わらずオールマイトの声マネ上手いね!?」

 

あの緑谷ですら騙せるクオリティだからな!

すっかり元気になったウルルに状況を説明してもらい、天使さんより託されたアタッシュケースを渡す。中には医療品がギッチリ詰まってた。彼女には残りの重傷者を手当してもらって私とレップウで避難を進める事に。

 

「バックドラフト事務所の者です、これから皆さんを地上までお連れします!

順番は重傷者、子供、怪我人、健常者の順で降ろします。絶対に全員助けますから皆さん落ち着いて行動して下さい!」

 

そしてもうドア付近まで迫ってる炎に私の炎を吐きつけて、混ぜる。

 

「オイ何やってんだアンタ!?」

 

「この火事に私の炎を混ぜました、ちょっと苦労しますが個性で少しは温度を下げられます…レップウ向こうの窓開けて、風を送って煙をそっちに流す。打ち合わせ通りに!」

 

「了解ッス!」

 

吹き荒れるレップウの風が煙の流れを変え、人のいない窓の方へ向かっていく。本当に優秀なんだなあの子、さっきパッと説明しただけなのに繊細な操作を簡単に…爆豪と同じタイプの天才型なんだろうか。

 

「流れは変えました!

自分は先にお子さんを1人づつ運ぶッスよ!」

 

子供はレップウに任せよう。

私は集中して部屋の炎を外へ逃がし室内の温度を下げる、温度調節は結構な集中力が必要なので他のことは全部翼竜任せだ。体感できるくらい室温も下がったし、重傷者から運び出していこう。

 

「バックドラフト、これからレップウが子供達を抱えて降下、私は翼竜で重傷者を搬送しますので受け取りの準備をお願いします。」

 

『了解、下階の火はオレが何とかするから手早くやろう。』

 

予め渡された無線でバックドラフトとやりとりし、先ずはそこで寝てる彼を手伝って貰いながら担架に乗せ、ハーネスやらで身体を固定し持ち手 を翼竜2匹の両爪で掴ませる。これで空飛ぶ担架の完成だ。極力揺れの少ないように息を合わせてガトーとガナッシュが飛び立っていく。

 

「ミカドちゃんこの人を次にお願い!

婦長様。今降ろした方は成人男性、左腕骨折、胸部に火傷、肋骨にヒビが入ってます。トリアージ赤、火傷と骨折は私の個性で応急処置を施しました、意識有り、個性麻酔で多少受け答えが難しいと思いますが対応お願いします!」

 

『分かりました、受け取り次第こちらで処置します。個性麻酔の効果はどれくらい持ちますか?』

 

「3〜40分程度で効果が切れます。それから…」

 

ウルルの方も無線で天使さんと受け答えしながら治療の手は止めてない。

さっきウルルがヤバい状態って言ってた人だ、手も足も片方ずつ折れてるしチラっと見えるお腹が赤通り越して真っ黒、跡が残らなきゃいいけど…

 

「ウルル、気温大丈夫!?ダメならもっと下げる!」

 

「大丈夫、個性使えるようになった!

骨折は添え木で固定すれば何とか下までもつ…呼吸器ももう問題ない…あとは焼けたお腹に跡が残らないようにありったけ瘴気を……」

 

治療に勤しむウルルは真剣そのものだ、邪魔にならないようにしよう。

それにこっちも結構いっぱいいっぱいだったりする、部屋内の温度調節が結構ツラい。

自分で出した炎なら負担も少ないんだけど今回のは火元が大規模過ぎるし混ぜただけだ、自分でも分かるくらいみるみる手の水分なくなってってきっと明日は多分地獄を見るぞ私。後でウルルに治して貰えないかなー…

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供は皆降ろしたッスよ!」

 

「おっけーこっちも重傷者は全員降ろした!

バックドラフト、これから健常者を順番に降ろします。翼竜一匹につき1人ずつでペース上げていきますよ!」

 

『ああ頼む!

それと急いでくれ、さっきから消防隊と消火活動を続けてるんだが中々火が大人しくならない。無事なのはもうそこのフロアだけだ、最悪建物全焼も有り得るぞ!君たちの身の安全も最優先にな!』

 

「分かりました。

レップウ、残ってるのあと何人!?」

 

「16人ッス!男性12、女性が4、いずれも大した怪我無し!」

 

「火がどんどん強くなってる!今は私が抑えてるけどこりゃ気ぃ抜いたらフロアごとドカンだ!」

 

具体的にいうと体育祭で私がやったみたいな局所爆破がこのフロア全体で起こる。うん、普通の人は死ぬね!

っていうかさっきからずっと両手が焼けるように痛いんですが、手袋の下がどうなってるか想像したくない。

つーかこれマズイ。どんどん火の勢いが増してて、それを無理やり個性で押さえつけてるもんだから溜まった熱が暴走するのも時間の問題だ。唯一熱を逃がしてる向こうの窓が枠ごと真っ赤に染まって溶けてんだもん!

 

 

 

……

 

 

翼竜達を使って四苦八苦しながらも今のところ救助の方は順調に進んでる。

 

よしあと6人!翼竜達が帰ってきたらこれで最後の往復だ!

残ってんのはウルルと、自分はビルの責任者だから最後まで残るのが仕事だと頑として譲らずに残り続けたこのビルのオーナーさん。それからこのビルにある彼の会社の部下の人達が4人、いずれも軽傷で済んでてよかった。

 

「あの…ちょっといいかね?」

 

「ッなんですか!?」

 

「いやね。ワシの個性『鑑定眼』っていうんだけど、物の寿命が見えるんだ。

それでね、さっきからあっちに扉あるじゃない?瓦礫で塞がってる、12階へ降りられる唯一の出入口。あれね…」

 

ものすごい勢いで扉の寿命が減ってるんだが。

 

「はぁ…?」

 

彼の言葉に首を傾げる私、ウルルもなんのこっちゃと頭にはてなマークを浮かべてる。

 

「普通はね、物の寿命なんてものはゆっくりゆっくり過ぎていくものなの。

それこそ建築物なんて数十年単位でしか壊れない、なのにあの扉だけさっきから寿命の減り幅が馬鹿みたいに大きいんだよ。

ワシの経験上、可能性は2つあってね。

ひとつは火事の炎で焼かれて扉の寿命がジリジリ減らされているか、もうひとつは…誰かがあの扉を向こう側から壊す勢いで叩いてるかなんだが、どうすればいいと思うかね?」

 

叩いてる?扉を…?ッじゃあ向こうにもまだ人が?いや…

 

「…火事が起こったのって大体一時間前ですよね?」

 

「だね。」

 

「この下の階って…」

 

「サーバールーム、基本的にいつも無人だしメンテナンスで人が入る予定は来週だね。」

 

「たしか火元もサーバールームで…」

 

バゴンッ!

 

急に飛び出したそんな擬音にウルルが小さい悲鳴を上げて怯えてる、音のした方は私たちがちょうど話してた12階に繋がる瓦礫で塞がって歪んだ扉。

 

バゴンッ!!

 

聞き間違いじゃない2回目の音に全員が扉を凝視した。たまたま崩れた瓦礫が衝突した音じゃない、明らかに扉を叩いてる音。バックドラフトさんに確認を取ったけれど救助隊は皆11階より下に撤収したと言っていた。じゃあ一体何がこんな音を立てている?

 

直後、歪んだ扉が瓦礫を吹き飛ばしながら弾け飛んで向こう側から背の高い見覚えのあるシルエットがのっそりと現れた。

羽根の生えた脳ミソ男…こいつ見た事ある!

 

「ぎゃあああああああああッ!?」

 

いの一番にオーナーさんが悲鳴を上げて、ウルルを連れて外に1番近いベランダの方へ下がった。

 

「要救助者…じゃないよね流石に。」

 

思い出すのはUSJ、あの手だらけの変態ヴィランが連れてた黒い奴を思い出す。あのオールマイトをあわや殺害手前にまで追い込んだ、個性が複数ある黒いヴィラン。目の前で業火に揺られながらこちらを凝視する異形はあの時のやつとよく似てた。

 

「…ッ!!」

 

一瞬だった、あの異形が開いた口から伸びた舌っぽいのが高速で伸びてって、ウルルの頭を貫こうとしたのを咄嗟に掴む。

触った感じマジで舌だ、ばっちい。ミルコの蹴りより遅かったのが幸い。

 

「龍征さん!?なんだアレ…」

 

「知らん。

けど私が雄英入ったばっかの頃、こいつの親戚みたいなのに会ったことある。」

 

「それってニュースにもなってた雄英襲撃…『ヴィラン連合』っつー連中の事ッスか!?

つかそれって…」

 

「狙いは分からないしコイツが人間なのかすら不明だけど…ねッ!」

 

思いっきり掴んだ舌を引っ張って引き寄せて、間抜け面して飛んできた奴の顔面に思っくそ拳を食らわしてやった。温度調節のやり過ぎでひび割れた手が染みて痛い、くっそ辛い。

 

「要救助者じゃない、コイツはヴィランだ!」

 

「ッッ!!バックドラフトさん!

救助中にヴィランの襲撃を受けました!数は1、龍征さん曰くヴィラン連合の関係者らしいッス!」

 

『何ィ!?

クソッ戦闘は回避出来そうか?』

 

「焼け落ちる寸前のフロアで背中に要救助者が残ってるのにどうやって戦闘回避すりゃ良いんですかね…」

 

『だよなあ…』

 

「しかも相手はなんか…人間なのかも不明です。

雄英襲撃の時も言われた命令に反応するだけのロボットみたいな奴でした。」

 

説得なんて無理だろうなあ。正直喋れるかどうかも怪しいし、まず見た目が最悪なのよ。手の妖怪、センス悪いんじゃない?

 

レップウに救助者運ばせる?人数が多すぎて時間が掛かる。

 

翼竜は?今降ろしたばかりでまだ地上だ、呼び戻す時間が足りない。

 

最適解は…此処で私がこの野郎を食い止めるしかない!

 

翼のヴィラン…たしかあの変態は『脳無』って言ってたっけ?は獣声を上げながらまたこっちを貫こうと舌を伸ばしてきた。

何度やっても同じよ…ッッ!?

 

「ッッッ!?痛っっっったッ!」

 

「ミカドちゃんッ!?」

 

掴んだ舌から何コレ、棘!?

突然生えた無数のトゲが私の掌を貫いた。個性使って傷だらけなのにその上から棘に抉られて左手から血がドバドバ溢れ出す。こんな痛いの久しぶりだわ!

飛行能力に棘を生やす個性…そういやあの時の筋肉脳無も複数持ちだったな!?

 

「個性複数持ち…ますます無視出来なくなったじゃん…」

 

「凄い血が出てるよ!直ぐ治すから…!」

 

というか血がヤバい、集中力切れると温度が…

 

ウルルが心配して駆け寄ろうとした時、部屋の熱気が一気に上がってくの感じて慌ててもう1回炎を火事に混ぜ込んで無理やり温度を下げる。

下げるというよりはもはや抑え込んでるイメージだけど…操作の規模が広すぎて少しでもコントロールを失ったら熱波がこっちまで押し寄せてくるぞ。

 

両手が燃えるように熱い、棘に貫かれた左手は血が出たそばから熱で蒸発して鉄臭いし尋常じゃない激痛に正直泣きそう。でもここで止めたら溜まった熱が暴発して部屋が吹き飛ぶ、そうなったら残った人達も、レップウだって無事じゃ済まない。ウルルが繋いだ時間も命も全部無駄になる、それだけは絶対ダメだ…!

 

 

人を助けるのがヒーローの仕事だから…

壊すことしかできない個性でも救える命があるのなら…

 

 

 

 

『帝、助けてくれてありがとう。』

 

 

 

 

 

そう笑ってくれた才サマの()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「ッ龍征さん!」

 

「なにレップウ…うわっ!?」

 

突然風が吹き荒れて、レップウが前に出る。押し止められているのか翼をはためかせもがく脳無を睨みつけながら彼は大きな声で叫んでた。

 

「もうこのフロア、持たないんスよね!?」

 

「…ギリギリまで抑えるつもりだけど。」

 

「じゃあ俺がアイツを連れて行きます、龍征さんは救助に専念してください!

…さっきチラッと光ってるのが見えたんス、ヴィランはきっと()ならどうにかできる。俺は嫌いですけど!」

 

見えた…?レップウの嫌いな?まさかッ!

 

「けどこれ以上此処で戦って、あまつさえあの男が何も知らずに来ちまったら大変な事になる!」

 

確かにこのフロアの事情を知らない彼が来たらそれだけで温度の臨界点だ、もう私じゃ抑えきれない。そうなったら大爆発が待っている。

 

「でもッ…」

 

「昨日話してくれたッスよね。

『意地張ってたら肝心な時に大事なものまで見えなくなる』って。

確かに俺…あの男の事嫌いで嫌いで堪らねえッスけど、ガキの頃のトラウマ引き摺って肝心な時に選択ミスるのだけはやっちゃならねえって事くらい理解るッスよ!」

 

「おいレップウ!!」

 

脳無に向かって吶喊し強引にその腕を掴むと風が吹き荒れて、体格差をものともせずにレップウは脳無を連れてベランダから外へ飛び出した。

 

「龍征さん、後頼むッス!絶対全員助けてください!」

 

それだけ言って爆風と共にどんどん遠くへ飛んでいくレップウ。

彼の風操作の効力が消えて、行き場を失った熱がどんどん溜まっていくのが感覚で分かる。私が抑え込むのも限界だ。

一瞬考えて、もうこうするしかないと判断した私は痛む手を握りしめながらウルル達に振り返った。

 

「皆さん、今すぐここから脱出します。

私の言う事をよく聞いて、焦らず実行してください。」

 

 

 

大丈夫、絶対全員助けますから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆夜嵐side◆

 

 

 

 

 

 

 

 

俺って奴は昔から恐れを知らないタチだった

 

 

 

カッコイイもの、アツいもの、熱狂させてくれるもの、なんでもお気に入りにしてしまう性分だった。

そんな俺が『ヒーロー』と呼ばれる人達に憧れるようになったのは必然だ。

 

ヒーローという存在は俺にとって熱さだ。

アツい心が人に希望とか感動を与える、伝える!目の前のピンチに全霊を掛けて挑むその闘志と勇気が俺を虜にした。

 

俺はヒーローが大好きだ!

 

 

たった一人を除いて

 

 

 

『俺の邪魔をするな』

 

 

そう言って俺の手を跳ね除けた男の目にはただただ冷たい怒りしか伝わって来なかったのだから。

 

 

 

 

 

 

『お、龍征さん!奇遇ッスね!』

 

『…んぁ?お〜夜嵐くんも風呂上がりぃ〜…?』

 

職場体験2日目の夜、初日の激動とはうって変わって穏やかな一日を終えた俺はホテルに戻りひとっ風呂浴びてロビーでくつろごうと向かったら、そこにはロビーに備え付けのマッサージチェアに揺られる龍征さんの姿があった。

 

龍征さんはスゲーアツい人だ!

初日の翼竜を使った避難誘導やサポートの腕は見事の一言に尽きる、的確な翼竜達への指示と判断力の高さ、とても学生とは思えねえ!それだけのものを持っていても決して威張らず、謙虚な姿勢、その行動の内側にはアツいレスキュー魂が宿ってる!俺には分かる!

そして俺がくだらない意地で諦めた雄英高校の生徒さんだ。

 

『マッサージチェアッスか、良いッスね!

ここのホテル旅館並みの施設揃ってますもんね、公共風呂は温泉だって言ってましたし。』

 

『近くに源泉あるらしいよ〜、都心からちょっと離れた場所だしそういうのウリで客集めてんのかもね〜…

夜嵐君も使ってみなよ〜…』

 

『隣失礼しまっス!』

 

だらけきった表情の彼女に促されて俺も隣の奴に座らせてもらう、百円玉を投入して10分動く旅館とかによくあるタイプだ。

 

おぉ〜…こりゃ中々…

 

『ああ''ぁ〜良いッスねぇ〜疲れも吹き飛ぶぅ〜。』

 

『でっしょ〜?』

 

消防署の皆さんとの訓練は楽しいが中々にハードだ。レスキュー活動には全身の筋肉を使わないといけないからな、俺もヘトヘトだった。

ても偶然とはいえ雄英高校の人とこうして一緒に学べるなんて滅多とない事だ。

憧れの雄英高校、士傑とは違う自由な校風で一体どんな授業をしてるんだろう。推薦の案内をしてくれたプレゼントマイクも然り、雄英の教師陣は大多数がプロヒーローだと聞いた。

 

テレビ越しに見た雄英体育祭では胸踊るような激闘の数々に時間も忘れて熱狂した。地雷を逆手にとった大逆転劇に騎馬戦の番狂わせ、トーナメントじゃ爆破対無重力の頭脳戦や炎と氷の大激突、そんで最後の黒いドラゴン!あんなアツい戦いに俺も混ざっていたかった!

 

龍征さんから教えてもらった雄英の日常は毎日がアツいイベント目白押しでとても楽しそうだ。

 

『…雄英入れば良かったな。』

 

『ん〜?』

 

『ああいや、スンマセン。思わず口から漏れちまって…気にしないで下さいッス!』

 

『そういや電車で言ってたね、雄英受けたのに事情があって辞めたって。

夜嵐君、風操作なんて強固性持ちなのになんかあったの?嫌なら答えなくていいけど。』

 

不思議そうに聞いてくる龍征さんに言葉が見つからず暫く俺は黙ってしまった。

 

憧れの雄英高校、推薦入試まで受けてあの3キロマラソンで1位合格したのに蹴ったのには理由がある。

あのエンデヴァーの息子、轟焦凍が一緒に受験をしていたからだ。

 

ヒーロー大好きな俺だけどエンデヴァーだけは受け付けない、あの男の目はヒーローじゃなかった。サインを断られたのは些細な問題、あの遥か遠くを見据えて睨みつけるような目付き、全身燃え上がってるのに絶対零度の心であしらう冷たい態度は俺の憧れたヒーロー像とは全く正反対のものだったから。

こんなものはただの俺の好き嫌いの問題、ワガママだ。けどそれくらい当時の俺にはショックな出来事だった。

大好きだったヒーローのイメージが音を立てて崩れていく気がして、俺はエンデヴァーを嫌悪した。

 

けど入試の時、息子の方は違うんじゃないかと信じて歩み寄ってみたんだ。

試験結果は僅差で俺の勝ち、けど轟も個性を存分に使ってお互いにいい勝負が出来たと思う。

 

精一杯の笑顔でお互いの健闘を讃えようとして…拒絶された。

 

『俺の邪魔をするな』

 

その目はまさに父親(エンデヴァー)と同じもの。

そんな彼に心底失望して、同じ学校に通うことすら嫌になった俺は志望校を士傑に変えた。

西と東に離れた高校なら出会うことがあったとしても仮免試験くらいだろうと、もう関わる事もないだろうと高を括って。

勿論士傑も大好きだ、世話焼いてくれる先輩達や傷を治してくれる看護科の生徒さん達には頭が上がらない。俺は此処で最高のヒーローになる為にどんな努力でもする覚悟がある!けど一時の感情で憧れを閉ざしてしまったことに後悔の念を抱いてた。

 

『そっか轟が…』

 

『スイマセン、こんな事龍征さんに言っても仕方ねえのに…気分、悪くしちゃいましたよね。』

 

『いや夜嵐君の言う通りだと思うよ。

少なくとも入学したての頃の轟はそんな感じだったし、少なくとも周りなんて見てなかったと思う。私宣戦布告されたし。』

 

どうやら轟は入学してからも色々とやらかしていたらしい。

個父親と個性が似ているというだけで龍征さんを目の敵にしたり、オールマイトに目を掛けられているという生徒に宣戦布告していたり、特に体育祭の間はクラスの雰囲気を壊すことばかりやっていたそうだ。

 

でもそんな出来事を話す龍征さんは轟に対する皮肉はあっても心まで嫌悪していないように見えた。

 

『夜嵐君は体育祭見てたんでしょ?

私と轟の戦い見てなんて思った?』

 

『そりゃ、お互い全力で望んだ掛け値なしのアツい試合だったッス!2人の熱気は画面越しでも伝わってきました!』

 

『でしょ。

私も轟も全力で、他の事全部忘れて勝つことだけを考えてた。

恨みつらみで動いてる奴があんな顔できないよね。

夜嵐君は知らないだろうけど、轟ん家も色々と問題抱えてるみたいよ?

エンデヴァーの息子っていう“枷”で余裕がなくなって、本当の自分を見失ってたっていうか…恋人殺されて暗黒面に堕ちたルー〇・スカイ〇ォーカーみたいな感じで。』

 

『それだとあと5シーズンくらい闇堕ちしたまんまじゃないっスか…』

 

終盤ギリギリまで改心できないな、それ。

何故例えがSWなのか疑問は尽きないが、とにかく俺が抱えている轟のイメージと雄英に入学した後の轟は違うらしい。他にも結構なド天然で色々抜けてることや、今では自分と向き合って龍征さんから炎の制御を教わりながら遅れを取り戻そうと努力していると言っていた。

しかしそれでも俺は彼への…あの親子への嫌悪感をぬぐい去る事はできなかった。

そんな俺の表情(カオ)を見て察したのか、止まったマッサージチェアから降りて伸びをする龍征さんは笑ってこう言った。

 

『別に夜嵐君の好きにすればいいけどさ、私達ヒーロー目指してんだよ?

ヒーローになったらきっと嫌いな奴だって助けなきゃいけない日が来るかもしれないし、その時私情や私怨で判断鈍るの嫌じゃん。

意地張ってたら肝心な時に大事なものまで見えなくなるよ。』

 

 

夜嵐君がエンデヴァーを赦せる日が来るといいね

 

 

そのまま部屋へ去っていく彼女を俺はただただ見つめていた。

 

赦す…?俺がエンデヴァーを?

 

モヤモヤした気持ちのまま床に着き、迎えた3日目の夕方。突然発生したビル火災に乗り込んでった俺達を待っていたのはヴィランの襲撃だった。

 

 

 

 

 

脳ミソ剥き出しの見たことも無い異形のヴィラン、龍征さん曰く前にニュースになってた雄英襲撃の一味と一緒に居た奴とそっくりらしい。

当初の計画では龍征さんが部屋内の熱を操って無理矢理温度を下げ、俺が風の流れを変えて龍征さんが抑えきれない熱を煙と一緒に外へ逃がす。そうする事で時間を稼いでフロアの避難を完了させる手筈だった。

 

そこに予想外のヴィランが現れて、更に外には遠くの方で赤く輝く星のような点がポツンと見える。

龍征さんは言っていた、熱を操って無理矢理温度を抑えてるって。

なら常時燃えている彼が何も知らずにやって来て、この部屋の温度をこれ以上上げてしまったらどうなる?

…例え気づかずやってしまってもそれはヒーローの過失、バッシングは免れない。

そんな悲惨な結果になる未来を考えて、俺は一瞬心の隅っこでエンデヴァーに『ざまあみろ』なんて考えてしまった。

 

何考えてんだ俺は

 

最低だ、情けない、こんなのヒーローじゃない

 

俺が目指してるのはアツいヒーローだ!あの男とは違う、笑顔で誰かを助けられる、そんなヒーローになるのが夢だ!

 

 

なりたい自分を思い描け!

 

 

咄嗟にヴィランと共にビルから飛び出した。

龍征さんなら大丈夫だ、きっと上手く残りの人達を救助できる。今の最善は一刻も早くヴィランを救助者から遠ざけること!

 

そんで暴れるヴィランを無理矢理引っ張りながら飛んで、飛んで、火災現場から少し離れた川に俺達は辿り着いた。どうやらこの川からもホースを繋いでビルの消火の為に水を引っ張ってるらしく、近くには消防隊員らしき人達と野次馬が疎らに居た。

 

道はダメだ、なら川の中…ッ!

 

風圧全開で川の水ごと巻き上げながら浅瀬に着地して、真上にヴィランを飛ばそうと試みる。

 

俺が彼なら…高威力故に二次災害の出やすい個性を持ってるならヴィランを人気のない、尚且つ周辺に燃えるものがないような所へ誘導するハズだ。そう、例えば上空とか。

 

「あぁぁがああぁれええぇぇッッ!!」

 

だからコイツをもっともっと上へ!

上空に巻き上げたいってのに…ッ!

 

「ナンっで上がらねえんだよ!」

 

なんか急に滅茶苦茶重くなったんスけど!?

そういう“個性”もあるのか!龍征さんの言ってたとおり個性複数持ち…厄介過ぎるッ!

 

「…ッッ痛''ぁ!!」

 

急に腹部へ激痛が走り腹の周りが熱くなる。

腹に奴の舌が突き刺さってた。

全然見えなかった…!龍征さんあの速度を難なく掴み取ってたのか!?やっぱスゲェやあの人!

 

って感心してる場合じゃねえ!

 

巻き上がるのは水ばかりで肝心のヴィランは一向に吹き飛ばない、こちとら奥歯砕ける程力んで風起こして、周りは巻き上げられた水で猛烈な竜巻が起こってるってのに。

穿たれた腹からどんどん血が流れていくのがわかる、さっきまで嫌ってほど熱かったのに段々身体冷たくなってきた。

 

まだだ、風を絶やすな

 

なりてえ自分(ヒーロー)があるんなら

 

やるしかねぇだろおッ!!

 

訓練で培ったモン全部使え!風でコイツを巻き上げろ!もっと上へ…更に…向こうへッ!

 

「プルスぅぅぅぅウルトラあァァァァァッッ!!!!」

 

これが俺の…最大瞬間風速だアアアアアアッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるじゃねえか竜巻小僧。」

 

ふと上からそんな声が聞こえて

 

「よく1人で押しとどめた、生意気だ!」

 

降ってきた彼女の放った蹴り上げで鈍い音と一緒にヴィランがくの字に折れ曲がり、その勢いのまま俺の風で巻き上がる

 

「オラッ!仕事だぁNo.2!!」

 

月明かりをバックに、バランスを失い天高く蹴りあげられたヴィランに向かって

 

 

「赫灼熱拳…」

 

 

 

 

ジェットバーンッ!!!!

 

 

 

 

 

赤い流星が夜空を割いて、はるか上空でいっそう眩しく輝くのが見えた。

 

嫌いだろうがなんだろうが、俺の原点はなにも変わっちゃいない。困った時に現れる、弱きを助け悪を挫く、太陽みたいに皆を照らせる…

 

ヒーローってやっぱスゲェや…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心のモヤモヤは少しだけ晴れた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪ぃ遅くなった、ハナから連絡もらって脱兎で来たんだが…ってオイ気絶してんなよ!

つか腹の傷やべぇ!」

 

「ミルコか、貴様が来るなど珍しい。竜巻を見て急遽此方に飛んできたんだがアレは一体…」

 

「呑気に言ってる場合じゃねえんだよエンデヴァー!

早よコイツ連れてけ!重症患者!」

 

「何ィ!?凄い出血じゃないか!

しかも学生か!?どうしてこうなった!」

 

「知らねーよ、でも多分コイツはお前が来ること見越して人気のないトコへヴィラン誘導して、上空にトばそうとしたんだ。感謝しとけ感謝。」

 

「そうか、俺にそのような配慮など不要だが。

……よくやってくれたな。」

 

「もしかしてコイツアンタのファンなんじゃね?」

 

「ッ俺にそんな軟弱な者などいらん!」

 

「はいはいツンデレツンデレ。」

 

「ツンデレではないッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほほほ本当にやるのかね!?信じて良いんだね!?」

 

「翼竜達じゃ間に合わないしこのフロアの熱も限界です、全員が助かる可能性があるのはもうこれしか方法がありません。」

 

「私はミカドちゃんを信じます…!」

 

 

燃え尽きる寸前のビル13階、少しでも火から逃れようと狭いベランダいっぱいに集まったウルル達は少しでもスペースを空けようととベランダの縁(へり)に立つ帝に眼差しを向けている。

 

下ではまだ懸命な消火活動が繰り広げられているがもうこのビルは限界だ、いつ焼け落ちても不思議ではない。

 

彼女が提唱した全員を助ける方法に避難者達には大きな動揺が走っていた。

 

「確かに俺達の個性を使えば出来んことじゃないが…」

 

「無理に決まってる!今からでも遅くないから梯子車が来るまで中で待てばいい!」

 

「残念ですがもうこれ以上熱を抑えきれません。」

 

そう言って帝は先程脳無に貫かれた左手の手袋を外し皆へ見せつける。

手首から向こうが焦げたかのように黒ずんで、ミイラのように骨と皮だけになっていた。そのうえ棘に貫かれた傷跡が幾つも残り、指に至ってはなぜ繋がっているのか不思議なほど抉られた箇所もある。

生々しい傷跡に一同が声を失う中、帝は事実を淡々と述べていく。

 

「私の個性による熱操作は掌の水分を消耗します。

大規模な火災の熱をこのフロアから外へ逃がして、無理矢理温度を下げていたんです。

でもご覧の通りそろそろ限界っぽくて、さっきまで死ぬほど痛かったのに今じゃ逆になんにも感じなくなっちゃったんですよね。」

 

乾いた笑いを浮かべる帝にウルルは涙ぐみながらその手を診察し、もう殆ど帝の左手は“死んでいる”と悟った。普通ならば切除しなければいけないレベルまで壊死し、放っておけば帝本人もタダでは済まない。

 

「これ以上の時間稼ぎは望めません。だから…」

 

「なんだよ…なんでそこまでできるんだよ…アンタまだ学生でヒーローの卵なんだろ?

大人に任せてればこんな酷い事にはならなかったんじゃないのか?」

 

「…私にしかできない事があったから。

私にしか助けられない命があるから、私は此処に居ます。学生とか卵とか関係ないんですよ。

 

できるならやる

 

リスクや責任なんて覚悟の上で助けに来ました。

オールマイトみたいに笑顔で余裕綽々に助けられたらいいんですけど、実際そうもいかないですね。」

 

自嘲気味に帝は笑顔を見せる。

翼竜による搬送も、熱を抑える時間稼ぎも個性を使える帝にしかできない事だ。それがなければとっくの昔にここに居た人達は煙と炎で凄惨な結末を迎えていたに違いない。

大人じゃないといけないとか、ヒーローじゃないといけないとか、命の掛かった現場で悠長な事を言っていられない。使えるものは全部使って助ける。そう思っているからこそ、その覚悟が彼女達にあると判断したからこそリスクを承知の上でバックドラフトは帝達を送り出した。

 

 

 

「…もう、いいんじゃないかね。」

 

「オーナー…」

 

「この大火の中、学生がボロボロになるまで命張って我々を助けてくれたんだ。

大人のワシらが信じてやらんでどうするよ。

安心したまえ、無事助かったら医療費は全額我が社の負担にしておくからねェ!」

 

「いや…それフラグって言うんスよ社長…」

 

「え''っ…わ、ワシは皆を勇気づける為に明るい話題を提供し場を和ませようとだね…」

 

 

どうやらさっきまで張り詰めていた雰囲気は消えたようだ。やがて文句は聞こえなくなり、無事全員が脱出を承諾してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ウルルside

 

 

 

 

 

 

 

『言われた通り撤収作業は完了、着地スペースは確保したぞグァンゾルム。

本当にやるんだな…?』

 

「はい、こうするしか他に助ける方法はありません。」

 

『分かった、責任は全部俺が取る。

君にしかできないやり方で彼等を救ってくれ!』

 

「了解ですバックドラフト。

皆、準備はいい?」

 

「…うん。」

 

ミカドちゃんの言葉に私は頷く、他の皆さんも声には出さないがそれぞれ覚悟を決めてくれた。

 

長い腕をもつ個性の男の人に他全員で捕まって、しがみつく。空中に放り出されたらなるべく全員固まっていないとミカドちゃんが()()()()()()()()()()

 

「私が先に飛ぶから合図で皆さんも飛んで下さい。私が個性を解除すれば後ろが吹き飛びます。

破片が飛び散るから絶対に振り向かないで。」

 

 

 

じゃあ…いきます!

 

 

 

そう伝えたミカドちゃんがベランダの縁から外に向かって仰向けに倒れ込む。当然そのまま重力に従って13階から真っ逆さまだ。

 

「いくぞ皆…!」

 

「はいッ!」

 

間髪入れずに私達もひとかたまりになってベランダから飛び降りてミカドちゃんに続く。次いで背中から爆音が轟いて、猛烈な熱波が首筋を焼いた。

もし死んじゃったら13階から集団飛び降り自殺(フリーフォール)、なんて記事で新聞に載りそうだなってチラっと考えちゃった…

 

ミカドちゃんが私達に伝えたのは全員で此処から飛び降りて、彼女がそれを受け止める。そんなシンプルな救助方法だった。

どうやって受け止めるのか私には分からない、受け止められて助かるのかも分からない。けどこのままここに居ても煙と炎に巻かれるのを待つだけだ。可能性があるなら私はミカドちゃんに命を預ける。

 

 

離れないよう腕を必死に掴んで落ちながら恐怖で霞む視界の先で、私達より前を落下するミカドちゃんは笑ってた。生徒会長やってたときも慣れない笑顔を無理矢理(こしら)えて、作り笑いが超ニガテだって言ってたあのミカドちゃんが。私達をすこしでも安心させる為ににこにこと笑いながら口パクで『だいじょうぶ』ってはげましてくれてる。それがなんだかとても心強くて、離れないように掴む腕に力を込める。

 

落ちていく彼女の身体が歪にどんどん膨らんでいくのが分かる、黒い脚、大きな翼、人の形を失っていくミカドちゃん。

 

次いで街中に響き渡るほどの音量で響くジェットエンジンのような大咆哮。

その大きなお腹に全員が無事着地して、大きな衝撃と爆音が耳をつんざいた。

バウンドしないように大きな翼を反らせて私たちを抱くように覆い、それでも何人かは翼の付け根までゴロゴロと転がり落ちる。

 

ミカドちゃんは巨龍に変身して、空中で私たちを包み込み、受け止めたまま地面に落ちてクッション代わりになってくれたんだ。

 

おかげで皆ちゃんと生きてる、助かった!

 

 

 

■■■■■■■…

 

 

唸るミカドちゃんの双眸はちょっと怖いけど、私たちを心配してくれているようだった。

見た目とは裏腹に結構お腹柔らかいんだね…

 

「た、助かった…のか?俺たち…」

 

誰かがそう言ったのを皮切りに次々と皆が騒ぎ出す。

 

「は…はははは!助かった…!

13階から飛び降りて助かっちまったよ俺たち!スゲェ!」

 

「…ッは!!皆無事かね!?怪我人はいるか?早めに教えなさいよ君達ィ!

ていうかこのドラゴン何!?まさかあの子か…?」

 

 

地面に衝突して、コンクリを抉って出来たクレーターの真ん中に佇む仰向けの巨龍。そのお腹の上で私達は命が助かった事を喜びあう。

閉じていた翼が開かれて、遠巻きに駆け寄ってくるレスキュー隊の人達がなにか叫んでるのが見える。なんて言って…

 

 

 

『逃げろォーーッ!!』

 

 

 

ぇ…?

 

 

 

 

 

 

バキバキバキッ

 

 

 

 

 

 

金属の軋み擦れる音が上から鳴り響く、一番最初にソレを見つけたオーナーさんが天を指さしながら絶叫するのと寝そべってるミカドちゃんのお腹が暖かくなっていくのは同時だった。

 

「うッ上!上エエエエエッ!!!!」

 

遅れて空を見上げれば、私たちの真上に落ちてくる鉄の塊、このビルの屋上に設置された巨大看板が音を立てながら私たちを推し潰そうと迫ってきてた。

 

 

 

■■■■■■■ッッ!!

 

 

 

誰もが最悪の結末を予想したその直後に放たれたのは、みんなの悲鳴を纏めて掻き消して余りある巨龍の咆哮と空まで一直線に伸びる深紅の炎。

 

仰向けのままのミカドちゃんの口から突如として吐かれた紅炎はあっという間に看板を呑み込んで跡形も残さず蒸散させる。あのエンデヴァーすらここまでの規模で炎を出す事は不可能であろう膨大な熱量とその圧倒的な迫力、この世のものとは思えない光景に誰もが言葉を失い、レスキュー隊の人達や集まって来た野次馬までただその場に突っ立って唖然と空を見上げることしかできなかった。

 

 

鉄の塊を焼き尽くした炎の柱が天に登っていく

 

その光景は街中から見えるほど大きく高く、やがてミカドちゃんが口を閉じるのと同時に夜空に吸い込まれるように消えてった。

 

針を落としても聞こえそうな静寂のあと、腰を抜かしていたオーナーさんがぽつりと呟いた。

 

「助かっ…た…?」

 

少し遅れて、野次馬から歓声が上がって、我に返ったレスキュー隊の人達が駆け寄ってくるのが見える。

あの場に残っていた私を含む6人の被災者の人達は煙を少し吸ってしまったくらい、軽傷だ。オーナーさんだけ捻挫しているけど応急処置が効いてピンピンしてるし命に別状はない。

他の重傷者達もミカドちゃんが搬送してくれたおかげで迅速に病院に送られ、今頃治療を受けている頃だろう。

 

駆け寄ってきた婦長様から私の迅速な応急処置で重傷者はいれど死者は出なかったと伝えられ一安心。

 

「婦長様、私…」

 

「ええ、貴女が救った命です。

…よく頑張りましたね、胸を張りなさい。」

 

いつもの厳格な婦長様から初めて褒められて、嬉しいやら恥ずかしいやら思わず背筋が伸びる。

 

「それと、彼女にも感謝を述べないといけないのですが。」

 

婦長様が見据えるのは絶対絶命の私たちを救ってくれた巨龍(ミカドちゃん)だ。

助かった人達が次々とレスキュー隊に連れていかれる中、巨龍の身体がしゅるしゅると縮み始め、気づいたら私は人の姿に戻ったミカドちゃんの上に馬乗りになっていた。

 

 

 

……()()()

 

 

 

 

へぁっ!?!?

 

 

 

 

「なんで裸なのミカドちゃん!?!?」

 

「ッ…()ぁ…皆無事?」

 

「全然無事じゃないよっ!主に服が!」

 

「コスくらい仕立て直して貰えばなんとでもなるっしょ〜。それより一緒に落ちた人達は…」

 

レスキュー隊と一緒に元気に歩き回る彼等を見てミカドちゃんも安心したのかホッと胸を撫で下ろしてた。いや私は全然撫で下ろせないんだけどね!?

まさか全裸になってるとは思ってなかったのか婦長様も流石に驚いて急いで隠せるものがないか周りを見回し始めた。

私が馬乗りになって前隠してないとミカドちゃんの大事な所が衆目に…!

 

「おーい君達ィ!」

 

ひぃっ!?おおおオーナーさん!さっき救護車の方へ行ったんじゃなかったのぉ!?

まずいまずい、オーナーさんこっち来る!ミカドちゃんが裸なのバレたら…

 

「いやぁさっきの救出劇は見事だった!

まさかあんな方法で全員助かるなんてワシh「滅菌ッ!!」ッッおんぎゃああああ目がああああああああッ!?!?」

 

こっちに駆け寄って来たと思ったら突然悶え苦しむオーナーさん。

ふ、婦長様…流石に眼球へ直に消毒液は不味いのでは…

 

「乙女の尊厳が踏み躙られるよりマシでしょう。

大丈夫死ぬ程染みるだけです、死にはしません。後遺症が残っても私が治します。」

 

「でもこれ死ぬより辛いような…」

 

「おおおおおあああぁぁ……」

 

目元を抑えてアスファルトを転げ回るオーナーさん、彼一応捻挫してるんだけどな…

ていうか懐から消毒液取り出して的確に彼の目を狙って噴射したの?スナイパーなの?

こわっ!私の上司こわっ!

それから翼竜達がどこからかバスタオルを持ってきてくれて、婦長様は私達を空いている救護車両へ案内してくれた。

オーナーさん?まだ通りでのたうち回ってます、とりあえず目が見えるようになるまで待ってから婦長様が事情を説明してくれるらしい。

 

「此処なら治療に専念できるでしょう。

破柘榴研修生、まだ貴女には救うべき人が残っている。」

 

「…はい!」

 

そう、まだ一人患者は残ってる

 

「ミカドちゃん、絶対元通りにしてみせるからね。」

 

個性の使い過ぎで干からびたミカドちゃんの手、特に左手はヴィランの攻撃を受けてなんで動かせるのかも分からないくらいにボロボロだ。

 

「でもまだ火は出て…」

 

「貴女の活躍で建物内の負傷者は全員無事に避難したとレスキュー隊から確認が取れました。火の始末と現場の収拾は我々大人に任せておきなさい、バックドラフトへの説明は私がしておきましょう。

今は一刻も早くその手を治療されなさい。」

 

「けど…」

 

「貴女はよく頑張った。

肺が焼けようと脚が折れようと、生きていれば必ずやり直せる。災害時において命を繋ぐことこそヒーローの最も重要な責務です。

ありがとう、貴女のおかげで皆が助かった。

後は私達に任せなさい。」

 

そう、私達は助けられた。

絶望的な状況下で1人の死者も出さずに、13階から無事に全員脱出した。これがどれくらい難しい事で困難な事か、多分あの場に居た人達にしか分からないだろうけど。

それも全部ミカドちゃんのおかげ、夜嵐君のおかげなんだ。

婦長様の言葉に張り詰めていた緊張が解けたのか、

大きくため息を吐いて頷くミカドちゃん。

 

「…よかったぁ。」

 

飛び降りる前に予め脱いでいたのか、ミカドちゃんの翼竜が持ってきたコスチュームの上着を羽織って、裸ジャケットという罪深い格好をしながら救護車両へこっそり乗り込む私達。念の為婦長様も同伴してくれたのでなんとか2人で隠せただろうきっと。

 

婦長様は事後処理の為直ぐ出ていって、車両には私とミカドちゃんだけが残された。

 

「じっとしててねミカドちゃん、絶対治してみせるから。」

 

「頼むわ。

ッあ''ぁ〜〜しんどかったぁ…」

 

私に左手を預けたままぐでっと治療用のベッドにもたれ掛かる彼女を見て、昔を思い出しちゃった。

そう言えば、長いこと一緒にいたけどミカドちゃんを治療するのは初めてだなぁ…

左手の傷(もう傷で済ませていいレベルの怪我じゃないし、切断レベルの重症なんだけど)は見る限り裂傷、火傷、その上からヴィランによる刺傷でなんで動いてるかも分からない状態だ。でも感覚は残ってて、ミカドちゃんは触られると分かるみたい。

 

「途中までクソ痛かったんだけど、なんか吹っ切れた。」

 

「そんなのんびり言えるような状態じゃないハズなんだけど…

本当に痛くないの?。」

 

「無いね。」

 

神経が全部焼け切れたらそりゃ痛みなんて感じなくなるだろうけど、ミカドちゃんの左手はまだ動いてる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

不思議に思っていたそんな時、ミカドちゃんの上着の内ポケットが震えているのを感じて中を探ってみる。

 

「スマホ、鳴ってるみたいだよ?」

 

「マジ?代わりに操作してくんない?

私手ぇこんなんだからさ。」

 

言われるがままパスワードを入力してホーム画面に映った通知にはポツンと数字だけが記されていた。差出人はオールマイトのアイコンの『緑谷』という人からだ。

 

「数字だけ…?なんだろうこれ。」

 

「差出人は?」

 

「緑谷って人から。はい。」

 

画面とにらめっこしながらうーむと唸るミカドちゃん。

 

「アイツが?この数字、なんかの番号かな。」

 

「うーんなんだろね。

車のナンバー…?にしては多いし、暗証番号ってわけでもなさそう。あとは…住所とか?」

 

「住所か…

調べてくんない?アイツ、おふざけやイタズラでグループトークにこんなこと書くような奴じゃないし、一応ね。」

 

「わかった、ちょっとまってね…」

 

私としては早く手の治療をしたいんだけど、仕方ない。ネットに数字を打ち込んで調べてみたら出てきたのはフリーダイヤルが引っ掛かった会社の名前とか、あとは保須の住所だった。

Gugle(ググレ)マップで検索すると、出てきた地図は人気のない倉庫街みたい。

 

「保須市の住所かな…此処からちょっと離れた倉庫街。」

 

「保須の住所ねぇ、うーん…」

 

しばらく考えたあと、ミカドちゃんは翼竜を一匹その場所へ向かわせる事にした。本当は全匹事後処理のお手伝いにまわす予定だったんだけど念の為だそう。

 

「一応ね、保須には今コワーイ殺人鬼が出没してるから。」

 

「『ヒーロー殺し』って人だね、ニュースで何度か見たよ。」

 

「ヒーローを意図的に襲ってるのはなんか理由ありきなんだろうけど、殺すのはねえ…ちょっとないわ。」

 

へらへら言ってるけどミカドちゃんの目は笑ってなかった。生徒会長時代、殺人を仄めかすような事を言ってくる相手に対してミカドちゃんよくこんな目をしてた。「安っぽい殺意とかカロリーハーフのマヨネーズみたいなもの」ってよく分からない例え方してたけど、本当に気に入らないんだろう。

 

…そんなことより!ミカドちゃん下着!

流石に上着一枚で救護車に乗ってるのはダメだよ!ていうかなんで上も下も丸見えのまま胡座かいてるの!?こっちが恥ずかしいからせめて隠してよ!治療の続きは下着を履いてから!

 

どうにかして調達してくるから待っててね!

 

「カギは内側から閉めて、私か婦長様が来るまで絶っっっ対開けちゃダメだからね!」

 

「う〜い。」

 

このまま見つかったら変な勘違いされちゃうよ!

 

「あ、そうだミカドちゃん。言ってなかった。」

 

「んー?」

 

「助けてくれてありがとう!」

 

「…ん。」

 

 

3年前も今も

 

貴女にしかできないことで私を救ってくれたように

 

私にしかできないことで

 

今度は私がミカドちゃんを助ける番だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで私達の闘いは終わり

 

でもこの大火災の裏側で、別の大きな事件が起こってるなんてこの時の私は思ってもみなかった。

 

 








次回やっと、やっっっと原作と絡みます(絡むとは言ってない)

え?何コレ、職場体験編描き始めてから終盤まで何年経ってんだよゴミ野郎がよ。漫画なら一巻ちょいで終わる話をいつまで伸ばしてんだクズめ(隙自虐)





☆端役紹介のコーナー☆

オーナーさん
小太りでおヒゲの素敵な気のいいおっちゃん、ビルのオーナー名乗るくらいには金持ち。人柄良く部下からも慕われている。なお外見イメージが似ているだけで某新所長ではない、いいね?
個性:『鑑定眼』
物の寿命が分かる物体版死神の眼、こっそり仕事に活かして蛍光灯の寿命とかいち早く気付いて交換してくれる。良い人か。

取り巻きの部下達
ガヤ、作者の些末な設定の犠牲者。腕関節2本ある個性の人はどっかで出てきたなードコダロウナー…
また掲示板回出来たら色々弄りたい。

天使白衣
ウルルちゃんの職場体験先の担当看護婦、神野区中央病院勤務のおねいさん。
鉄面被で厳格、患者の命を救う事に常に全力な医療従事者の鏡みたいな人。
過去にヒーローとして活動していたがヒーローと医療業界のギャップに苦しみ数年で引退、今は看護婦一本で食ってる。個性医療に感心が高く命を救うためならばリカバリーガールのような回復個性を持つ者にはヒーローでなくとも別の資格を発行する事で個性の使用を認可するように公演を通して国へ働きかけている。それが身を結んでか近々個性使用の資格取得条件が見直される法案が議会で可決されたのだとか。
という端役の話。



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