帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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あけましておめでとうございます


世界情勢の関係で仕事が1週間近く休みになって明日の生活にも困るようになった人生敗北者です

職場体験終わるよお〜やっと終わるよお〜(あと1話書く)


33 私の職場体験記vol.5

 

保須市郊外にひっそりと佇む倉庫街。

長期保存可能な木材や鋼材等を海外に輸出する際、一時的に保管する為造られたこの近辺は普段から人通りの少なく、来るとしても業者関係者のみで一般人は滅多と近寄らない。

昼間なら遠くから聞こえる環境音と時折走るトラックの排気音をBGMにツナギ姿の作業員たちが偶に右往左往する程度のこの近辺も、夜となれば針を落としても聞こえそうなほど静まりかえっている。

だが今夜は少し気色が違うようだった。

 

街の一角、倉庫と倉庫の間、車3台分ほどの幅しかない通路の片隅で時折爆ぜる炎と氷、そして剣戟の音。

 

 

「くっそ…ッ!!

なんであの速度の炎を避けられんだよ!」

 

「轟くん!」

 

 

 

 

 

 

『ステイン』

 

 

 

 

そんな名のヴィランがいる。

本名、赤黒血染。ヒーローの夢に憧れ、ヒーローの現実を突き付けられ絶望し、足掻いた。昨今増え続けるヒーロー達を〝拝金主義の偽物〟と蔑如(べつじょ)し、粛清と称してヒーローを対象に殺傷を行う悪鬼。

 

結果、現在まで起こした殺傷事件は40件、内17名のヒーローを殺害し世間を恐怖に陥れた彼は畏怖混じりにこう呼ばれるようになった。

 

〝ヒーロー殺し〟と

 

「ハァ…お前も、良い。生かす価値が有る…

良い仲間を持ったじゃないかインゲニム。」

 

轟の放つ氷と炎を躱し、中々自身のテリトリーまで縮められない距離に焦れながらも彼はその異様なまでの執着で戦い続けていた。

途中で乱入してきた子供二人は、良い。

だがその後ろに庇われている偽物(ネイティブ)と自分に復讐する為現れたヒーロー志望の学生は必ず殺す。前者は拝金主義の贋作、後者は己の力を〝復讐〟などという私情で使う論外故に。

 

もっとも、復讐される原因を作ったのは他でもないステイン本人なのだが歪んだ思想に取り憑かれた彼の頭はそんな事欠片も思っていないだろう。

 

「SMAAAASH!!」

 

氷と炎を掻い潜り、目的達成まであとわずかと言ったところで、先程個性で〝止めて〟いた子供が復活してしまう。身体強化で速度の増した蹴りを避ける都合上また大きくターゲットから離されてしまった。

 

「なんか動けるようになった!」

 

「なんだ、案外大した事ねえ個性だな。」

 

そこから緑色のコスチュームを着た緑谷は素早く状況を分析しステインの個性発動条件を割り出す、「血液型で効果時間が変わる」と自らネタバレしたにも関わらず彼の口元には笑みが張り付いていた。

 

「やはり、お前達は良い…だが後ろはダメだ。

必ず殺す。」

 

「二人は殺らせねえよ…!」

 

「轟君、コンビネーションでいこう。

ヒーロー殺しのタイムリミットは2人に掛けた個性が解けるまでだ、それまで僕達が…」

 

「ああ、時間を……ッ!?!?」

 

殺気が吹き出す、途端に雰囲気の変わったステインが猛烈なスピードで攻め立ててくる。

炎と近接は避けられ、氷は作ったそばからバラバラにカットされ、今までとは明らかに様相の違うヒーロー殺しの動きに轟は戦慄した。

素早い動きに翻弄され、緑谷が再び血を舐められそうになった刹那、夜空を裂き飛来した何かに突き立てたナイフが弾き飛ばされる。

 

『何コレ、どういうことよ。』

 

羽ばたき、首元のスピーカーから流れる声を聞き轟は少し安堵した。3人目の助っ人だ。

 

(いや3匹目か…)

 

駆け付けてきたのはA組の頼れる女番長、龍征帝が侍らせる翼竜だった。

 

「悪い龍征、助かった。」

 

「その声…龍征さん!?」

 

『グループトークに妙な数字だけ残されてたから気になって色々調べたのよ、そんで此処の住所がヒットしたからね。来たわ。

翼竜だけで悪いね、本体(わたし)はちょっと今両手塞がってんだ。物理的に。』

 

「「物理的に…?」」

 

『ああもうミカドちゃんあんまり指動かしちゃ駄目だってば!傷が開いちゃう!』

 

『待ってウルル今通話中!大事な場面だから!』

 

『うるさいよ!

暴れるんだったら金具と石膏で両手ガチガチに固めて完治するまで無理矢理固定しちゃうんだからね!』

 

『ヤダこの子治療中だと人が変わるわ、誰に似たのよ。

つかそれやられるとマジで学校行けなくなるからオネーサン許して!』

 

オープンチャンネルなのか、スピーカー越しに聞こえてくる帝の声とは別に幼い少女の声も聞こえてきて二人はますます混乱してくる。向こうはどうなってるんだ?

 

『そんでま、お前よ飯田ァ…』

 

一通り騒いだ後、落ち着いたのか轟の肩に留まった翼竜がくるりと首をもたげ、ステインの個性で未だに動けないコスチューム姿の飯田を睨みつけた。

 

『出発前にそれとなく忠告したよね?あの後緑谷とお茶子も心配してくれてたよね?

どうしてそんな所でブッザマーに這いつくばってんのかなこの直情クソザコナメクジ委員長は。』

 

「………」

 

「り、龍征さん今はそんな場合じゃないよ!」

 

『まァいいや。轟、緑谷、さっさと表の通りに出るよっと!』

 

ナイフが三本、音もなく飛来するのを翼竜が吐いた火炎で溶かし撃ち落とす。

 

「…チッ」

 

『手癖が悪いんだよ、平たい顔の不潔男。

あの手の妖怪の時といい犯罪者って皆こうなの?』

 

「ぶふッ!?平たい顔…ッ」

 

ツボにハマったのか思わず轟が吹き出しそうになったのに対してステインは黙ったまま、見慣れない翼竜と声の向こうにいる人物を見据えていた。

 

『ごめんもしかしてコンプレックスだった?』

 

「…貴様は何者だ。」

 

『オイオイオイ無視だよ無視。

通りすがりの同級生よ、覚えておけ。

ヒーロー襲って自己満浸ってるとこ悪いんだけどね、ウチら職場体験中の学生で、そっちに転がってるのクラスメイトだからさあ、おうち帰して下さらない?』

 

「ハァ…自己満足ではない、〝使命〟だ。」

 

『アッハイ使命使命、で?逃がしてくれんの?』

 

「それは、無理だ。

俺にはそこの偽物共を殺す義務がある。」

 

『偽物?もしかしてそこで転がってるヒーローとウチのポンコツ委員長の事?』

 

どんどん飯田の呼び方酷くなってない?と緑谷と轟は顔を見合わせた、対して飯田は俯いたまま帝にボロクソ言われてる。

実際のところ、飯田が独断専行していなければこうして同級生が3人も駆けつける事もなかった訳で。結果的にヒーロー1人の命が永らえているがステインの思う通り飯田は兄の仇を取る為に接触してきたので助けにきた訳でもない。判断の浅はかさが胸に重くのしかかり、後悔となって飯田を蝕んでいた。

ついでに言葉の棘がとてもつらい。

 

『……あー待って、察した。

飯田がアンタにちょっかい掛けたのね?そんで2人が駆け付けてあの数字か。

どうしよう完全に飯田の自業自得なんだけど、今すぐ通話切ってもいい?まだ今日のぶんの無料10連回せて無いのよね、私無課金でタマモ〇ロス引く義務あるからさ。』

 

「不味い龍征の興味がどんどん削がれてる、ウ〇娘以下になっちまった。」

 

「お願い龍征さん見捨てないで!?僕ら地味に命の危機だから!なんでもしますからぁ!」

 

冷静に分析する轟。なんか焦った緑谷がとんでもない事を口走ったが、そんな彼等を冷めた目で見つめるステインはスピーカー越しの彼女の力を測りかねていた。

 

(調子の良いことばかり言っているが、こいつは面倒な類だ。口調で分かる、怒っているな。

友人を傷つけられた事に対する憤りか、はたまた…)

 

「ホラそもそも飯田君が乱入したおかげでネイティブさんは無事な訳だし結果的に命を助けられたんだから飯田君に非は無いはずだよ(ここまで一息)、ね?轟君!?」

 

「ああ、飯田が割って入ってなかったらその人は間に合わなかった。」

 

『え〜ほんとにござるか〜?』

 

「マジだよ!俺アイツに殺される一歩手前だった!」

 

うつ伏せになったまま未だに動けないヒーロー、ネイティブもなんか色々察したのか弁明し、スピーカー越しに聞こえるクソデカため息と一緒になんとか帝を留めておく事に成功。

 

『まあ、融通の効かない…タケコプター見て「アレは構造的に首がもげるだけ空は飛べない!」って素で言っちゃうような頭ヴィブラニウム委員長だけど見殺しにするのもアレだし。しょうがないにゃあ。』

 

(最近の子供夢がねぇな!?)

 

(思った事あるけど黙ってるからセーフ…だよね?)

 

(くっ…昔兄さんに相談したッ!)

 

(飯田、あの顔は言ったことあるんだな。)

 

 

『…それと、1つ聞きたかったんだけどさ。

ヒーロー殺し、アンタなんで人殺しなんてやってんの。』

 

「ハァ…英雄(ヒーロー)を歪める偽物共を正す為だ。」

 

『偽物ねぇ…それちゃんと区別できてんの?』

 

「………」

 

ステインは押し黙る。

これまでヒーローを斬ってきたのはエンタメ化の進んだヒーロー社会を是正する為、その為なら有象無象の偽物など何人斬っても構わない。自分がヒーローを殺す脅威となる事で彼等の意識を引き締め、世間に「英雄の本来在るべき姿」を知らしめる。

 

そうなるまでステインは殺しを止めない。

 

少しの沈黙の後、帝は鼻を鳴らして彼を嗤う。

 

『アンタが襲ったインゲニウムはね、ヴィランを捕らえるのは勿論だけどレスキュー活動にも積極的に参加してきたヒーローだった。

〝インゲニウムは何処へでも駆けつける〟ってキャッチフレーズでね。今まで数え切れない人を助けて来たんだよ。

チャートに載る程目立つような活躍は無かったけど彼の担当する地域は確実に犯罪件数が減ってて、皆に愛されるヒーローだった、よね緑谷?』

 

「…ッうん!

インゲニウムは多くのサイドキックを抱えてて、ノリは軽いけれど決して高慢にならない。皆を笑顔にできるヒーローだ!」

 

体育祭の日、緑谷のノートを借りていた帝。

その中にはインゲニウムの記載も載っていた、流石にサイドキック一人一人の特徴と個性や独立する時期まで予想して書き連ねてるのには若干引いたが、それを通して知ったインゲニウムの功績は目立つものはない。

オールマイトのような華々しい活躍はないが、エンデヴァーのような悪目立ちもない、親より代々受け継がれ、地域に根ざし手に届く範囲を懸命に護るよう最善を尽くす、そんなヒーロー。

 

ステインが彼を斬ったのは自分の存在を喧伝する為だ、だから再起不能になるまで切り伏せ生かしておいた。赤黒血染(ステイン)という恐怖を世間に知らしめたいが故に。

インゲニウムは悪くなかった、だが自分を倒せるほど強くなかったのだ。弱い者は強い者に淘汰される、ステインの中ではごく自然な事だ。

 

『ねぇ教えてよヒーロー殺し。アンタが〝本物〟と〝偽物〟を本当に区別できてるなら、なんでインゲニウムを斬ったの?

金貰ってるのが気にいらなかった?いやいや、オールマイトだってプロ野球選手の年俸レベルに高い給料貰ってるよね。

勤務態度が許せなかった?ンなこと言ったらエンデヴァーなんて子供が泣くほど態度悪いよね。

なんでだろうねぇなんでだろうねぇー?』

 

静かにつらつらと並べ立てる帝、しかしこの場の誰もが言葉の内に秘められた彼女の苛立ちを感じ取れた。

 

「………」

 

『理由も矜持も殺しちゃったら唯の言い訳、歯止めが効かなくなったんなら無理矢理にでも止めてやるのがウチら(ヒーロー)の仕事ってね。

まー貴重な職場体験を邪魔してくれちゃったツケは払ってもらうし、とりまさぁ…』

 

犯罪者はとっとと豚箱ぶち込まれて一生臭い飯でも食ってろ

 

スピーカーの向こうできっと中指立てながらそう吐き捨てる帝にステインはニィ…と不気味な笑みを浮かべ、得物を抜き構える。

 

(…〝止める〟か。

ブレない心、強さに裏打ちされた余裕…こいつも良い。直接相見えないのが残念だ。)

 

「ハァ…思い出した、確かに(インゲニウム)は悪くなかった。だが致命的に実力が足りていない。

真の英雄が産まれるにはこの世界は腐り過ぎている。それを俺が、ステインが正す。

奴は俺の存在を世に知らしめる為、生かした。ハァ…それだけの事。」

 

現状(いま)を壊し在るべき平和の姿を作り出す

 

全ては正しき社会の為に

 

 

 

「貴様は…この期に及んで…ッ!!」

 

再び激昂しそうになる飯田を宥める緑谷をよそに轟の肩に止まった翼竜は諦めたように大袈裟なため息と共に翼を広げ、臨戦態勢を取る。

 

『緑谷、近接任せた。轟と私でサポートすっから。

超絶面倒だけど、この手のバカは殴り倒して気絶させるまで止まんないっしょ。』

 

「分かっ…たッ!!」

 

緑谷の全身に赤い稲妻が走る、今まで一箇所のみに集中させていた力を全身に満遍なく回す事で会得した彼の新たな技だ。これをもう少し早く習得出来ていれば先の体育祭の結果も奮っただろう。

 

『おいクソザコメガネ、まだ動けないの?』

 

「ぐっ…龍征君、僕は…」

 

『言い訳は結構、後でしこたま反省して貰うから楽しみにしとけー?

……でもこれだけは言わせて。

 

ッんン…

 

ざぁ〜こざぁ〜こ

無様に床舐めて恥ずかしくないのぉ?なっさけなぁ〜い

や〜いクソザコぉ〜メガネが本体〜

 

 

 

「 雑 魚 じゃ な い が !? 」

 

 

 

飯田はキレた

 

 

『よっし、言いたいこと言ったし元気出していこう。ウン。』

 

「待って?飯田くんへの煽り文句必要だった???」

 

『必要な犠牲だった。』

 

「助けてあげよう!?犠牲にしないで!!」

 

「メガネが…?まさかッ」

 

「轟くんも『やっぱりそうだったのか』って顔しながら納得しないで!?銀〇の読み過ぎだよ!」

 

 

コントやってる3人を見ながら、未だにステインの個性で身体の動かないネイティブは「これが若さかぁ…」と小さくぼやいた。

 

『あと先に謝っとく、本体で来れなくてゴメン。

あんだけ言ってなんけど翼竜じゃ陽動くらいにしかならないからね。』

 

「来てくれるだけでありがてえよ。

3人で飯田とネイティブさん守るぞ…!」

 

「うんッ!!」 『おうよ』

 

 

 

 

 

 

 

◆飯田side

 

 

殺してやる

 

奴を見つけて必ず、兄さんの仇を取る。

その為に保須(ココ)を選んだ。

パトロールから数日、突然のヴィラン襲来に慌てふためく街の隅で奴の姿を見つけた時、気付けば追い掛けていた。

“怒りで視界が真っ赤に染まる”と、よくドラマや漫画でそう表現されるが、本当にそうなるものなのだと自分でも感心している。

視界に映るのは殺したいほど憎い相手だけ、周囲のことなど見えていない。だから僕は襲われているヒーローの事などお構い無しに奴に挑み掛かり、このザマだ。

 

『轟、合わせるよ。』

 

「ああ、行け緑谷!」

 

「了解ッ!!」

 

轟君と龍征君の炎の合間を縫うように進み、緑谷君が奴に挑みかかる。

2人は炎を上手くコントロールし緑谷君への直撃を避けながら、的確に奴への妨害をこなしていた。思い返せば2人は職場体験前、放課後は共に個性トレーニングに励んでいたという。

緑谷君から迸った赤い稲妻が彼の身体を駆け巡った途端、動きが変わる。体育祭の時のように自ら腕を破壊する程の超パワーはなりを潜め、義縦横無尽に奴を翻弄していた。恐らく職場体験で何かを掴んだのだろう。

 

それに比べて僕はなんだ?

 

兄さんが入院してからというもの、奴への感情ばかりが募りトレーニングもろくに身が入らなかった。そのうえ職場体験でも奴を追うために1人単独行動をし、引率のマニュアルさんに迷惑を掛けてしまった。

思い起こせば今までの全てが後悔となって重くのしかかる。

 

「止めてくれ…」

 

何をしているんだ僕は。

周りも見ずに大人に迷惑を掛けて、挙句友人にその尻拭いをさせている。

 

「やめてくれよ……ッ」

 

復讐も遂げられず、無様に這いつくばって僕は…

 

「止めて欲しけりゃ立て!!」

 

炎で奴を牽制し続ける轟君が叫ぶ。肩から飛び出した翼竜が飛び回りながら火炎を撒き散らし、堪らずヒーロー殺しは飛び退いた。

 

「飯田、駅で別れる前にお前と話しとけば良かった。せっかく龍征が機会を作ってくれたのによ、無駄にしちまったんだ。

復讐で動く奴の顔はよく知ってるから、そんな人間の視野がどんだけ狭くなるかも分かる。けどよ…」

 

「轟君…」

 

「今はッ!」

 

 

なりてえもんちゃんと見ろ!!

 

 

 

なりたかった…もの…?

 

 

 

 

“ヒーローになった理由?モテたい”

 

僕の憧れた兄さん

 

“天哉は俺より才能もあるんだから、立派なヒーローになれるさ。その堅物さえどうにかなればなぁ”

 

僕の憧れたヒーロー

 

“天哉に憧れられるって事は俺、案外スゴいヒーローなのかもな”

 

インゲニウムの原点(オリジン)、は…

 

 

 

 

 

にい…さん…ッッ!!

 

 

 

 

本当に、今まで何をやっていたんだ

 

未熟者め…未熟者めッ!!

 

自分の事しか考えない、周りなんて見ようともしない

 

入試(あの時)から何も変わっちゃいないじゃないか!

 

こんな無様を晒しておいて、兄さん(インゲニウム)の名を継ぐつもりか!

 

そんな覚悟で彼らの隣に立つつもりか!

 

「…シィッ!!」

 

「あっ…」

 

『やばっ、轟そっち行った!』

 

奴が緑谷君と龍征君の妨害を掻い潜り、轟君の張った氷の壁をバラバラに切り砕く。慌てて振り向く轟君の姿がまるでスローモーションのように僕の目に写った。

感覚で分かる、その距離は致命的だ。

 

 

助けなければ

 

 

奴の個性で自由が効かなかったハズの身体に血が巡る、脚のエンジンが思う通り唸りを上げるのが分かる。代々我が家に受け継がれる個性(ちから)は誰の為に在るのか、漸く思い出した。

 

 

 

“インゲニウムは何処へだって駆けつける”

 

 

 

ッ今、轟君を()()()のは!僕だけだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レシプロ…バーストッ!!」

 

 

轟へ伸びる凶刃は(すんで)のところで唸りを上げる脚に弾かれ、根元から折れ散った。

その速さ、まさに流星の如く。インゲニウムは何処へでも駆けつけて仲間のピンチを救うのだ。

 

「飯田くん!」

 

「……チッ、効果切れか。」

 

ヒーロー殺しは軽い舌打ちをした後、飯田の蹴りを一発防いで更に炎と氷に遮られ、壁を蹴り再び遠のいていく。

また1人自由に動けるヒーローが増えた、ここまで劣勢であっても彼の心に撤退の二文字は無い。全てはこの間違った社会を正すため、煮えたぎる執念と偽物への粛清に拘る執着が故に。

 

「轟君、緑谷君、龍征君。巻き込んでしまって本当にすまない…

奴の言う通り僕は偽物だ、私欲を優先した。」

 

『……』

 

「ッまたそんな事…」

 

「僕にヒーローを名乗る資格なんてない…けれど!それでもッ!

僕は折れる訳にはいかない…俺が折れれば“インゲニウム”は死んでしまう!」

 

絞り出すように吐露する飯田に3人は笑みを浮かべる。対照的に、ヒーロー殺しはそれすらも論外だと吐き捨てた。

 

「感化され取り繕おうと無駄だ、人間の本質はそう易々と変わらない。

お前は私怨を優先させる、英雄を歪ませる社会の癌だ。ハァ…誰かが正さねばならないんだ。」

 

飯田の決死の覚悟すら“癌”と決めつけ、偽物と貶めるヒーローに表情を歪ませる緑谷と轟だったが、帝だけは彼の言葉に思わず笑みを零す。勿論、この頭の固い不潔男(ヒーロー殺し)を嘲っての事だが。

 

『あはははっ、アイツも飯田と同じくらい頭ン中ヴィブラニウム詰まってるみたいね。

…こりゃー重症だわ。』

 

「時代錯誤の原理主義、今どき流行らねえよ。」

 

『だねえ、いいんちょのアレ見て“取り繕ってる”なんて言うようじゃ見る目無いわぁ。

人は変わるよ、ヒーロー殺し。アンタは途中で諦めて放り投げただけ、血を流さなきゃ変わらないなんて思った時点で負けてんのよ。

ウケる、アンタの創る“正しい社会”って奴は結局、気に入らない奴殺しまくった山の上に建つ理想郷(ユートピア)ってわけ?』

 

「ハァ…粛清は過程に過ぎない。

それが、正しき社会の礎になるならば。」

 

『ハッ!そーんな歪みきって穴だらけの基礎の上にゃ豚小屋だって建たないわ。殺傷、銃刀法違反の上に建築法違反、更に前科増えましたねぇコレは!』

 

「ッ下らん問答はもういい…!!」

 

『轟ィ!!』

 

「ああッ!!」

 

翼竜の口から放たれた炎に轟の炎が重なり、生まれた炎の竜巻が飛び出そうとしたヒーロー殺しの周囲を覆い尽くし視界を遮った。体育祭で帝がやって見せた繊細な炎の操作、これも放課後毎日特訓した轟の努力の賜物である。

 

「凄い、捕らえた!」

 

「いやまだだ、奴は直ぐに出てくるぞ!」

 

「だな…」

 

『ぐっじょーぶ、じゃ手短に作戦会議済ませよう。

私が隙を作るから飯田と緑谷でトドメて、轟はその援護、ハイ決定!』

 

「「「いや雑ゥ!?」」」

 

全員で総ツッコミである

 

「待ってくれ龍征君まるで意味が分からんぞ!?」

 

『だーから私が隙作ったげるから緑谷と新〇が殴るなり蹴るなりしてヒーロー殺し殺しすればいいんでしょーが、単純明快。』

 

「誰が〇八だ!

僕が言うのもアレだがしれっと殺しちゃ駄目だろう!」

 

「やっぱメガネか…ッ」

 

「違うが!?轟君!?!?」

 

戦慄の表情を浮かべる轟に思わず飯田も肩を掴んで声を荒らげる、そんな彼を見て緑谷は思わず笑みが零れてしまった。

 

「よかった、いつもの飯田くんだ…」

 

「緑谷君……

もしかして君まで僕の事をメガネが本体だとッ?」

 

「違うよ!?!?!?

龍征さんも、隙を作るって言ってもどうやって…」

 

「確かに、ヒーロー殺しの腕は相当だぞ。」

 

『まあ任せろって。3人こそ騙されないようにね、気を引けるのは一瞬だけ。

それ逃すと多分あの男ブチ切れるから、1回でキメるのよ。』

 

「「「…??」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ッ!」

 

炎の竜巻を掻き切るように、渦からステインが飛び出してくる。業火に身体が焼かれ、皮膚が焦げてもお構い無しにその狂った双眸は迷いなく偽物(飯田)へと向けられていた。

 

『ホラ行くぞ乾〇治、今まで寝てたぶん働け働け。』

 

「飯田だ!君もうメガネなら何でもいいと思ってるだろ!!」

 

『お前が雄英の柱になれ。」

 

「それ言ってたの手〇じゃなかったか?」

 

「今指摘すべきはそこじゃないよ轟くん!?」

 

わちゃわちゃ言いながらもステインに立ち向かう緑谷と飯田、その後ろに轟が控え後方支援の構えだ。変わったところと言えば先程まで轟に付いていた翼竜が会話の後すぐ建物の隙間に消えていったところか。

恐らく背後からの奇襲を狙っての事だろう、確かに速さは中々のものだが反応できない程でもない。死角から襲ってきても斬り伏せれば済む話、それよりも先にステインには飯田が目に移って仕方ない。

 

(前に出たなら好都合、次は仕留める…!)

 

かくもおぞましい殺人鬼の視線を一身に浴びながらも飯田は負けじと果敢にステインを睨みつけた。

 

ナイフの投擲を初めとした小道具による牽制やステイン本人の斬術は決して達人のそれとは程遠い、しかし彼の呪いにも似た執念とそれに伴う鬼気迫るような動きは例え3人がかりとて決して油断の許すほど生易しいものではなかった。

一歩、また一歩と襲撃回数を重ねる毎にどんどん刃は飯田に届きつつある。

 

「シィッ!」

 

「ぐっぁ…!!」

 

「下がれ緑谷!

クソッ…こっちは3人がかりだってのに捉えきれねえッ」

 

深くはいかずとも緑谷の脚を裂き、その刃の矛先は真っ直ぐに飯田へ向けられていた。

挙動の度、怖気の走るような感覚が飯田に迫り来る。流れるような短刀の投擲をかろうじて反応し叩き落とせば、目の前まで迫る悪鬼の姿。

すかさず轟の炎が間に挟まるように遮るが、それにも構わずステインは火中を強引に突破し飯田へと刃を振りかぶった。

 

「なっ!?」

 

「お構い無しかよ…ッ!」

 

「飯田くん!?」

 

不意を突かれ、振りかぶったサバイバルナイフが飯田の左腕に突き刺さる。コスチュームを貫き骨まで届く激痛に表情を歪ませながら咄嗟にステインの腹を蹴り飛ばす事で距離を取ろうとするが、体勢を立て直すのは飯田の方が遅かった。

 

「ぐっ…ぁッ!?」

 

「ハァ…じゃあな…

正しき社会への…供物…ッ」

 

…いつもの彼なら個性で相手の自由を奪い、確実に粛清を実行しただろう。

敵は多く多勢に無勢、ネイティブの拘束時間もあとわずか。はやる彼は今すぐ飯田一人だけでも始末したい。

焦れに焦れた目標達成を目の前にして、決して表情には出さなかったがステインは柄にもなく油断してしまっていた。

 

腕のナイフを抜き放ち、返す刀でその首を掻き切ろうとした刹那。

 

 

 

 

『もう大丈夫、私が来たァ!!』

 

 

 

「ッッ!?!?!?」

 

振り上げた手を止め思わず固まるステイン。

 

ずっと待っていた、“彼”が現れるのを

 

ずっと待っていた、“彼”に裁かれるのを

 

舞台の上で踊る演者のような、仮初の平和に浸かるヒーローもどき共とは違う救世(ホンモノ)の英雄。

奴が遂に現れた、自分を倒す為に現れた!

その時だけは飯田の事すら忘れ、背後に響く声を頼りに英雄(オールマイト)の姿を目に焼き付けようと振り向いた。

そこには…

 

 

 

 

『な〜んちゃって』

 

 

 

「してやったり」そんな声音で嗤う1匹の翼竜が羽ばたいていた。

 

 

「………ハァ?」

 

 

初めに驚き、やがて気づく。謀られたと。

脳が現実を理解してふつふつと激しい怒りが込み上げてくる。

よりにもよってステイン(じぶん)の前でオールマイトの声を騙った女に、そして偽物の声にまんまと引っかかってしまった自分に。

喉の奥から振り絞るように、思わず怒りを叫んだ。

 

「貴様…貴様ァ…!!俺の前でオールマイトを騙るかッ!!」

 

『そうだよ☆(限りなくオールマイトに似せた声マネ)』

 

「キッ…サマアアアアアアッッッ!!!!!」

 

ステインはキレた。いつも静かに執念を燃やし、粛々と殺人を繰り返してきたシリアルキラー、ヒーロー殺しステイン。内に秘めるマグマのごとき激情と妄執を分厚い氷の鉄面皮に隠すヴィラン。

 

彼の異常なまでの執念の裏には現代ヒーロー社会に対する実体験を伴う嫌悪や失望が潜んでいる、しかしそれ以上にステインを動かし続ける動機は彼の信奉する真の英雄“オールマイト”の存在あってこそ。

 

“ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得られる称号でなければならない“

 

いわばヒーローとは究極の奉仕であり、報酬や名声が目当てで人助けを行う者はみな私欲欲に塗れた偽物である。それがステインの提言した、決して覆ることのない結論であった。

そんな彼にとってオールマイトは神にも等しい存在である、当然陰口など以ての外。自分が正しいと信じるものを騙ったり、貶めたりする者は誰だって許さないだろう。彼も当然そうだ。

 

子供のごっこ遊びならともかく、オールマイトを騙るなど言語道断、万死に値する。

 

そこに帝のコレである、無駄に完成度の高いオールマイトの声真似はステインの琴線に大きく触れた。

その結果、体育祭の地雷原(怒りのアフガン)なんてメじゃない特級の地雷を帝は笑顔で踏み抜いて、それはもう清々しいほどにブチ切れた。

 

 

 

 

「レシプロ・エクステンドォッ!!」

 

 

それ故に、隙が生まれる。

声に気付くがもう遅い、それを見逃すはずもなく、飯田の叫びと共に背中に強い衝撃が走る。

文字通りエンジン全開、飯田渾身のドロップキックがステインの背中を直撃した。堪らず空中に投げ出され飯田を睨みつける。

 

「デトロイト・スマアアアッシュ!!」

 

「ごっ…!?」

 

短刀を投擲しようと構えた直後に食らう、続けざまに重い一撃。別方向から壁を蹴り飛び上がった緑谷の拳が顎にクリーンヒットする。

脳を揺さぶられ、意識を飛ばしそうになるのを必死で堪えながらステインは執念で飯田に向かって残った刃を全て放った。

 

「させねえよッ!!」

 

しかし轟の氷壁がそれを阻む。手札を全て潰されたステインにトドメとばかりに上空から熱波が襲う。

翼竜による火炎放射、本来なら鉄すら溶かす温度をマイルドに絞った(帝曰く「マンガみたいに頭がアフロに焦げる程度の出力」)炎の束がステインを呑み込んで、今度こそ彼は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕留めた?」

 

翼竜から伝わってくる皆の動き。

短刀は轟が処理してくれた、私の作った隙を利用して緑谷と飯田も上手く合わせて連携ができた。ヒーロー殺し、炎を浴びて気絶し地面に落下してら。顔面からイったよ、痛そう(こなみ)

 

轟の氷でキャッチされ、ぐったりとしてるヒーロー殺しが動く気配はない。

 

『というか龍征君、オールマイトの声真似上手すぎないか?一瞬僕も本物が来たのかと勘違いしたぞ…』

 

『僕も学校で一回騙されたんだ。龍征さんのオールマイトボイス、めっちゃクオリティ高いんだよ…』

 

『何処でそんな技術会得したんだ?』

 

「宴会芸よ。」

 

『『『宴会芸…』』』

 

我ながら多芸ね、私。

あの小汚い平面顔、オールマイトの真似したら絶対過剰反応すると思ったもん。ネトゲのオフ会で披露したらめっちゃ褒められた宴会芸、中学の頃から毎日お風呂で練習してて良かった!

 

「うーん、こんなもんかな。

処置終わったよミカドちゃん、頼まれた通り消毒と私の個性使って軽く包帯巻いただけだけど。」

 

「さんきゅーウルル、こっちも終わったみたい。

轟、ヒーロー殺しは?」

 

『息はある、どうやら気絶したみてえだ。』

 

「一応拘束しといた方が良いかもね、その辺に都合のいいモノ落ちてないかな。」

 

『この辺倉庫街だからな、使い古しのロープとかあればいいが…』

 

そう言った轟が緑谷達と辺りを物色し始める。

 

いやーこっちもヒヤヒヤだった、翼竜の遠隔指示って結構神経すり減るのよね。救護車両の中で動けないから集中できたよ。他の3匹も後始末終わってバックドラフトから解放されたみたいだし、こっちもそろそろカタが付く。

そう言えば夜嵐くん姿見えないんだけど…あ、エンデヴァーが背負って飛んで来た。ミルコさんも居る。

夜嵐君腹んとこコスチュームが血で染まってるじゃんやっべ。

いや彼が咄嗟にヴィラン連れ出してくれないと本当に全部手遅れになる所だったし、感謝してもしきれないよ。

 

「ウルル、天使さんが探してるよ。

さっきエンデヴァーが重症の夜嵐君連れて来たみたいだし、彼の治療かも。」

 

「え!?夜嵐くんが!?

そっかあの時脳みその人と飛び出した後…分かった、行ってくるね。

古い包帯も一緒に捨ててこないと…」

 

私の手、大天使ウルルの適切な処置もあって今でこそこの状態だけどステインと会敵した辺りから焼け焦げた手の下から思い出したみたいに出血しちゃったのよね。突発だったからウルルも焦って何度も血を拭いてもらって辺りには私の血が付いた止血用のガーゼや包帯が転がってる。でも全く痛くなかったんだよなあ…

 

なんか私、どんどん人間離れが加速してね?

 

ウルルがゴミを纏めて出ていって、車両内は再び私1人になる。

轟達の方は倉庫脇のゴミ箱から拘束用にロープを見繕って、ヒーロー殺しをぐるぐる巻きにしたようだ。轟が簀巻きにされた彼を引き摺って、動けるようになったネイティブさんが脚を切られた緑谷を背負い表の道まで歩いてく。

 

『…轟君、緑谷君、そして龍征君。

本当にすまなかったッ!

奴を前にして感情に囚われ、原点を見失ってしまっていた、情けない…』

 

謝る飯田、そんな事ないと言う緑谷だけど金輪際こんな暴走は勘弁して欲しい。飯田は死ぬ所だった訳だし、飛び込んでった緑谷と轟もタダじゃ帰れなかった可能性だってある。幸運にも全員生き残れたのはヒーロー殺しが飯田にしか殺意を示さなかったからだ。ほか二人と私の翼竜は意図して“生かされてた”、要は舐めプである。爆豪がキレっぞ爆豪が。

 

『もう終わった事だ、気にすんな。』

 

「相澤センセに知れたら捕縛布宙吊り説教3時間コースは堅いんじゃね?」

 

『ぐぬッ!?ば、罰は甘んじて受け入れるとも!この失態、もはや委員長の座を辞する事もやむを得な「いやそれは止めて、お前がナンバーワンだ」否定が早いな!?』

 

お前という名のスケープゴートが無くなったら私が再び委員長やらされる可能性が出てくるやろがい!

 

そんな事話しながら路地を抜け大通りに出ると駆けつけてきたらしいヒーロー数人と小柄なおじいちゃんがこちらに気づいて駆け寄ってきた。

どうやらおじいちゃんもヒーローで緑谷の職場体験先らしい、問答無用で顔面を蹴られるレベルで凄い怒られてる。その他の人達、この辺にまで来たのは轟がエンデヴァーを通じて要請した救援部隊だそうだ。残念ながら来た頃には事件は既に終わった後だったが。

…この人達が戦闘に間に合ったとしても大して役に立たなかっただろうなあ。不用意にヒーロー殺しの的を増やすだけかも。じゃあむしろナイスタイミング?

 

 

 

ーー焦凍君、エンデヴァーからの使いで応援に来たんだが…ヒーロー殺し!?なんで!?

 

ーーそれに君達凄い怪我だ!早く手当を!

 

ーーつか、ヒーロー殺しってこんな髪型だっけ…?

 

ーーどうしてアフロなんだ…

 

 

 

彼等は捕らえられたヒーロー殺し(爆発アフロエディション)に驚いて、警察と連絡を取り始める。

 

「じゃ、こっちはこれにて一件落着ってコトねね。ゴクローさん、翼竜を戻すよ。」

 

『ああ、助かったよ龍征。ありがとな。』

 

『龍征さん本当にありがとう!

翼竜の助けが無いと僕達もっと重症だったかもしれないし…』

 

『ありがとう、本当に…ッ!』

 

「あいあい、飯田は後で私ら3人に食事奢りな。

それで貸し借りなしって事で。」

 

心配しなくとも高級店で奢れってワケじゃない、私はサ〇ゼで喜ぶ女。

美味しいじゃん、安くてコスパも良いし。ボロネーゼとミラノ風ドリアだけで5杯はイけるね。

 

『ッッ!ああ、喜んで!』

 

もう飯田の憑き物は落ちたらしい、でも3人ともあの怪我だと最悪入院かなあ。どっちにしろ職場体験は続けられないかも。使命(笑)で未来ある学生の職場体験を潰すとかやっぱヒーロー殺し絶許だわ、もっと髪の毛チリチリに焼いてやればよかった。

 

…まあ、彼の言い分を全否定する事はできない。

現代ヒーローはショウビズ性が強いのは確かだし、名声やお金儲けの為にヒーローを目指す人も少なくないからだ。

助けた結果お金を得るのとお金を得るために助けるじゃ結構意味合いが違ってくるもんね。ヒーローの括りは公務員という役所に続く社会的に安定した地位もそれに拍車を掛けてるんだろう。

餓鬼道なんかはモロにそうだ、不良の吹き溜まりという“腫れ物“に望んで手を出そうとするヒーローは少ない、ていうかロクにいない。

同じように餓鬼道の子達も知ってるんだ、求めたって都合よく助けなんて来ない事を。上っ面だけ救った気になって自分達をダシに人気稼ぎする連中が一定数いることを。

そういう境遇の子が集まる学校なんだから。

 

実際私の中学時代、新しく授業に取り入れる個性指導のヒーロー派遣を学校から依頼した時も近所のヒーロー達にそれはもうバッシバシ断られた。酷い人は通知も無視だ。まあわざわざ餓鬼道という爆弾の中で個性指導がしたいなんて人なんてよっぽど正義感の強い人じゃないと無理だし、生半可な実力じゃ生徒からも舐められる。快く引き受けてくれたジーニスト先生には本当に頭が上がらない。ダメもとで直談判して正解だった。

 

まあそれは置いといて、色々あったが今度こそ一件落着だろう。

火事の事後処理もあるかもだけど私はもう休んでろって言われたし、翼竜が帰ってくるまでア〇レンの周回でも…あ、ダメじゃん両手塞がってるじゃん。つら…

タッチペン持ってこなかった事が悔やまれる、お金渡すから後でウルルに買ってきて貰おうかな…

 

ん?エンデヴァーがブラウニーを捕まえて話しかけてる、なんか私を探しているらしい。

後ろにいたミルコさんは突然現れた鬼気迫る表情の天使さんに背後ろから羽交い締めにされもがいてる、そう言えば健康診断がどうのって言ってたっけ。

あれ、急にミルコさん大人しく…今首筋に注射器刺さなかった?しかもミルコさんですら反応できない速度で?

次の瞬間には天使さんが白目剥いてぐったりしてるミルコさんを引き摺って闇に溶けるように救急車へと消えていってしまった、看護婦怖い。

 

ブラウニーのマイクにチャンネルを切り替えてエンデヴァーと話した感じ、2人きりで私に話があるんだそう。救護車両の場所を教えておいた。

 

外もだいぶ落ち着いてきたみたいで、もう火は完全に消化が終わってる。負傷者の確認や被害状況を消防隊や警察、ヒーロー達が纏めている最中だ。バックドラフトもそっちへ行った。

念の為翼竜共には引き続き付近の哨戒をさせておく、異常があればバックドラフトと連絡を取り合いましょうかね。

 

「ん?」

 

ドンドンと救護車両の扉が叩かれる、エンデヴァーが来たみたい。

 

なんにも考えずに扉を開けて応対した。

 

「はーい。」

 

「龍征君、先の救助活動見事だっ……何故下着姿なんだ。」

 

破れたからですが?

え?隠せ?ああハイハイ、バスタオルで隠しますよっと。

 

「改めて龍征君、見事だった。

すまない、本来なら俺が即座に駆け付けるべき案件だ。懸命な判断でヴィランを誘導したもう1人の職場体験生の彼にも礼を伝えておいてくれ。」

 

エンデヴァーに素直なお礼を言われた、なんか以外だ。超失礼だけどエンデヴァーってこういう事面と向かって言わない人だと思ってた。だって世間はストイックだとかオブラート包んで言ってるけど轟の話や普段の勤務態度も相まってヒーローとしての能力以外は全体的にイメージが悪い、けどその辺はちゃんと大人なんだ。決めつけ良くない。

 

「気にしないで下さい、私達は出来ることを精一杯やっただけですから。」

 

「そうか…

それはそうとして、先程の火柱は君が起こしたのか?」

 

火柱?ああ看板燃やす為に竜化して吐いたやつね。そう、私です。

肯定するとエンデヴァーはフム…と納得したように頷いて再び私に向き直る。何か思うところあったんだろうか?

もしかして自分と個性被ってるの気にしてる?いや〜なんだかんだ言って、日本中の個性持ちの中でも炎熱系最強はエンデヴァーでしょ、タメ張れるの流刃〇火か松岡〇造くらいなんじゃね?

なんて馬鹿な事考えてる間にもエンデヴァーは話を続け、私の個性を大仰に褒めちぎったあと「これからも焦凍を支えてやって欲しい」って締めくくって行ってしまった。社交辞令的なアレかと思って肯定しちゃったけどなんか言い方に含みがなかったか?何故轟?ま、いっか。

 

被害報告に戻ったエンデヴァーを見送って、私は再び一人になる。個性フル稼働したり竜化したりで今日は疲れちゃった、後始末してる大人たちには悪いけどちょっとだけ寝かせてもらおう。帰る頃になったら誰かが起こしてくれるでしょ。

 

おやすみぃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟炎司ことフレイムヒーロー“エンデヴァー”。

強力な個性“ヘルフレイム”を駆使しヴィランを焼き尽くすバトルヒーローにしてヒーロービルボードチャートNo.2という不動の地位を我がものにしている彼は先程まで一人の少女と向き合っていた。

 

名は龍征帝。自らの息子にして最高傑作、轟焦凍の所属するクラスの同級生だ。

初めて目にしたのは体育祭での一幕、警備も兼ねて息子の活躍を見てやろうと巡回していた所に観客の1人から通報され、駆けつけた先で遭遇したのがきっかけだ。

 

黄金を思わせる輝くような金髪にルビーのような赤い瞳、気だるげな表情ながらも落ち着いた様子で決してこちらに礼を欠かぬよう気を使う女性であった。体操服が不釣り合いなほど整った身体つきはついこの間まで中学生だったとは思えない。

大人びた少女、それが帝に対するエンデヴァーの第一印象だった。

 

(子供じみた意地を張る焦凍とは正反対の子だったな)

 

自然と笑みが零れる。

驚かされたのは体育祭で見せた卓越した炎の操作、炎だけでなくそれに付随する熱まで操るほど精密な個性制御は同じ炎熱系で彼の事務所に所属するサイドキック達も舌を巻くだろう。実際エンデヴァーですら試合中に息子のこと以外で感嘆の声を漏らす程だった。

加えて巨龍に変身する能力、どうやら炎を吐くのは巨龍化の個性の副産物のようなもでこちらが本命らしい。ビル火災の際に街の中心から立ち上った炎の柱は竜化した彼女が放ったものだそうだ。

同系統の個性を持っているからこそわかる事だが、“ヘルフレイム”を持つ自分でさえあの熱量を即座に出すのは難しい。『溜め』無しで金属製の巨大看板を跡形もなく蒸散させる火焔を放った巨龍の姿を上空から目撃した時彼は確信を得た。

 

 

彼女こそ相応しい

 

 

日本中、いや世界中を探しても類を見ない恵まれた個性、それを的確にコントロールする技術、そして本人の精神性、全てをもって他の者とは一線を画す選ばれた子供。彼女も他とは違う“特別”なのだ。

 

(オールマイト(あの男)のような…か)

 

そんな子が息子と同じ学年で、同じクラスなのはすこぶるラッキーだ。クラスメイト同士親交も深めやすいだろう。

しかも彼女はヒーローコスチュームの発注でエンデヴァーとも親交の深い巨大企業、印照重工の縁者だと体育祭の後調査した結果明らかになっている。なら()()()も容易い。

 

全ては息子が至高のヒーローに至らんが為

 

焦凍という最高のヒーローにはそれにふさわしい最高の伴侶が必要である。

思い立ったら即行動、道すがらエンデヴァーはケータイを取り出しある番号へ連絡を取り始めた。

 

轟炎司は愛する息子の未来のため、歪んだ愛情を注ぐ。

ただ、彼の選択でこの先の未来がどうなろうとも、ただでさえ地に落ちた自分への息子の評価が更に下がるのは疑うべくもないだろう。

 

 

 

彼が誤ちに気付き、蓋をしてきた過去と直面するまでそう遠くない

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、ゴミ捨て場はこの辺って聞いたんだけど…」

 

どこかなー

 

帝と分かれ、救護車両を出たウルルはゴミ袋を担いで集積所を目指していた。

近場に居たオーナーに場所を聞き、辿り着いた建物の一角。街頭も無く奥が見えないほど暗い細道の入口に設置された大型のダストボックス。火事によって集まったパトカーや救急車のランプの点滅が無ければ真っ暗で何も見えない。

 

「あったあった…ぁ痛っ!?」

 

足元不注意。今までの疲れもあってウルルは足がもつれ、思いきりつんのめって前のめりに倒れてしまう。同時に担いでいたゴミ袋から中身がぶちまけられた。後から結べばいいやと横着して口を縛らず持ってきたツケを払ってしまった…

 

「あわわわ…」

 

「大丈夫ですかあ?」

 

慌てて袋の中を拾い集めるウルルに声がかかる、顔を上げるとそこには学生服の少女が立っていた。奥の暗がりから出てきた彼女は頬のそばかすが印象的な金髪の女の子だ。

彼女は親切にも零れたゴミを拾うのを手伝ってくれた。

 

本当は他人の血が付着したガーゼを素手で触るのは医療関係者的にあまりよろしくないのだが、ここは誰も見ていない路地裏だ。咎める婦長もいない。

 

「すみません手伝って貰っちゃって…」

 

「いいんですよぉこれくらい。

こっちこそ、アリガトねぇ。」

 

「?どういたしまして?」

 

なんで逆にお礼を言われたのかは分からないが取り敢えず受け取っておく事にする。

嘗て帝と共に数多の不良達と向き合い、激動の中学生時代を過ごしてきたウルルにとって多少の会話の齟齬など気にするうちにも入らない。なんだかんだ彼女は社交性も高いしメンタルは鋼鉄なのだ。

学生らしからぬミステリアスな雰囲気の子だなぁと、その時のウルルは呑気に考えていた。

 

「とっても良いニオイがしたのです。

…気にしないでください、独り言ですから。」

 

「はぁ…」

 

「でも貴女も小さくてカアイイねぇ、えへへ…」

 

くねくねと身を(よじ)りながら顔を赤くする女の子。そんな様子を不思議に思いながら眺めていると、ふと自分の脛に痛みを感じた、転んだ時に擦り剥いたのだと気付く。

「患者の傷は己の傷、己の傷は看護婦の恥」と、天使婦長より叩き込まれているウルルはすぐさま自分の個性で蓋をして腰のポーチから取り出した包帯で素早く治療を施した。

 

それを見ていた女の子、なんか露骨に残念そうな表情になる。

 

「えっと…どうかしました?」

 

「うぅん、なんでもないのです。

…もったいない

 

「?」

 

最後の方は上手く聞き取れなかった、聞き直そうとして口を開きかけたその時

 

「おーい看護婦くん、ゴミ捨て場にたどり着けたかね!婦長さんが呼んでいたぞ!」

 

男の人が自分を呼ぶ声がしてウルルは一瞬振り帰り、また視線を戻すと女の子はいつの間にか居なくなっていた。残ったのはウルルだけ。

声の主はオーナーだった、辿り着けたか心配して様子を見に来てくれたのだろう。彼が駆け寄って来た時には件の女の子の姿はどこにもなかった。

 

「?どうした、キョトンとして。」

 

「いえ、さっきまで女の子が…あれぇ?」

 

困惑するウルル、まるで狐につままれたようだ。

この後何事もなく彼女はオーナーに連れられて天使婦長の下まで戻り、軽傷者の治療や警察からの事情聴取の対応などで忙しくなる。そんな中、ウルルはゴミ捨て場の一幕での疑問など記憶の片隅に追いやっていた。

 

大規模火災の発生、謎のヴィラン襲撃、その裏で行われたヒーロー殺しの大捕物。

激動だった職場体験3日目の夜は一旦幕を閉じる。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

それは本当に偶然でした

 

ほんの気まぐれ、ただの酔狂

 

血の匂いが沢山する方へ私は出向いて、たどり着いたのが保須(ここ)だっただけ

 

なにやら表が騒がしいですが気にする事はありません

 

でもどうやらお祭りも終わったようで、もう帰ろうかと思っていたその時

 

知らないニオイを嗅ぎました

 

つん、と鼻腔を擽るような刺激臭

 

それでいて、脳の奥までとろけるような甘い香り

 

あのちっちゃな子、カアイかったなあ…次会う時はお友達になりたいな

 

でもそれよりも気になったのは…

 

ふふっ♪

 

手に握るソレ、拾ってる時にくすねた血の着いたガーゼ

 

誰のものかは分かりません、ちっちゃな子の血じゃないのは確か

 

ガーゼの血は乾いて吸えません、でもそれでいて尚その存在感から分かるのです

 

この血は“フツー”じゃない

 

もちろん、この血の持ち主も

 

一目惚れならぬ一嗅ぎ惚れ…なんか馬鹿みたいな言い回しですがまあいいでしょう

 

どんな人なんでしょう?きっと素敵な人ですよね?

 

もし見つけたら

 

チウチウしたいなあ♡なんて思うのでした

 

 

 





4ヶ月ぶりの更新だァ!

あと病院のエピローグと締めくくり書くぞォ!

当SSには恋愛要素はございません、匂わせぶりな文面ですが作者に甘酸っぱい恋物語とか無理なので。そもそも本人にそんな経験が無クソァ!(スマホを床に叩き付ける)ウチの主人公と原作キャラのカップリングとか、ないわぁ。
できても恋愛みたいなギャグもどきしか書けん。
あ、でもひなちゃんと心操は末永く爆発しろ?


★原作との相違点★
・緑谷が攫われていない(羽ヴィランはビル火災で夜嵐君に連れ出されエンデヴァーに燃やされたため)
・ステインの「来てみろ偽物共」のくだりカット(羽ヴィラン襲撃が無くなったため)
・代わりに帝の巨龍化映像がネットに拡散(著作権ガン無視で晒す現代人の悪い癖)
・エンデヴァーの親馬鹿が加速(焦凍君の好感度ストップ安)
・ やったねトガちゃん!チウチウしたい人が増えたよ!

因みに動画は取られていなかったが原作通りトガ荼毘その他はヴィラン連合へ合流する予定、ただしステインの動画無しなので動機が薄い模様

爆豪とジーニストの餓鬼道訪問書きてえ…でもさっさと話進めんとまた失踪しそう…寄り道ばっかしてんなこのSS
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