帝征のヒーローアカデミア   作:ハンバーグ男爵

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連休終わるまでに1話投稿する目標達成!じゃあ失踪するね!






34 私の職場体験記vol.6

 

 

 

「……なんだよ、つまらない。」

 

ボソッとそんな事を呟く

 

せっかく先輩の邪魔をしてやろうと放った脳無達は全部ヒーロー達によって拘束、もしくは行動不能に追いやられてた。

 

「死柄木弔、何か思うところでも?」

 

隣の黒霧がなんか言ってる。が、想像以上につまらない結末だったので返事をする気力もない。これでコイツが“脚”じゃなかったらこの場で塵に変えてやってるところだ。

 

もう此処で得られるものは何も無い、この一件で俺は何か収穫を得られただろうか。

脳無は全滅、頼れる先輩(笑)は御用になった、あの化け物の姿をもう一度見れたのは僥倖だが…

 

帰ったら先生に相談してみるか。

 

『ヒーロー殺しは君の役に立つ。結果がどうあれ、結末は必ず見届けるんだよ弔。

君はまだまだ成長途中なのだから。』

 

出発前、先生に言われた事をふと思い出す。

またもやヒーローがヴィランを華麗に退治して、悪の根は潰えた!万々歳!今回のもそう、テレビで腐るほど繰り返されてきたエンディングだ。

善が悪を駆逐すればそれで全て解決されると連中は信じ込んでる。

 

…イライラするなァ

 

双眼鏡を握る手に思わず力が籠り、やがて粉々になって朽ちた。勿体ね、高い奴だったのに。

 

「帰ろ。」

 

言われた通り結末は見届けた、もう用は無い。

沸き立つイライラで首が痒くなってきたし、もう帰る。

 

「…満足いく結果は得られましたか?」

 

「ばァか、そりゃ明日次第だ。」

 

 

バイバイ先輩、草の根活動ご苦労さま

 

 

 

 

 

 

 

ヴィラン襲撃とビル火災発生、そしてヒーロー殺し逮捕で大騒ぎになった翌日、保須総合病院にて。

 

ビル火災から一夜明け、職場体験4日目。

昨夜救急車でウルルから手当を受けていた私はその日のうちに病院に連行され(怪我が怪我だったので抵抗はしなかった私、賢い子)、検査入院という形で此処に居る。夜嵐君も脳ミソ野郎に腹を抉られて重症だったので入院だ、残念ながら退院は職場体験が終わったあとになるそうで。

 

気になるバックドラフトの反応だけど

「個性を使って無茶をしろといったのは俺だから責任は取らせてもらう。入院費やその後のケアは任せてくれ。」

と仰っていて、バックアップに全力を尽くしてくれるのだそう。お金の工面して貰えるのは有難い。

切迫した現場だったとはいえ、学生を危険な場所へ送ってしまった事を何度も謝られたけれどそれ以上に被災者を全員助けた事を褒めてもらった。

ウルルや天使婦長に聞くところによると、私達が助けた13階の人達は重傷、軽傷問わず被害が多々あれど全員命に別状はないらしい。重傷だった人達もウルルの個性と医者の皆さんの懸命な処置によって快気へと向かっており、後遺症も残らないそうだ。夜嵐君の起こした風で煙を吸っていた時間が少なかったのと、翼竜による運搬でいち早く炎から逃れる事ができたのが生死を分けたんだと語られた。

 

「いつ死者が出てもおかしくなかった、それ程切迫した現場だったんだ。けれど君達の活躍のおかげで死者は0、あの状況なら〝奇跡〟と言っても過言じゃない。

消防士として、命を預かる者として、改めて君達にお礼を言わせて欲しい。

ありがとう、二人のおかげで皆が助かった。」

 

職場体験は中止にすると両校に連絡は付けておくから、退院できたら残りの期間はゆっくり休んでくれ。

 

私の病室に果物の盛り合わせをカゴに詰めて持ってきた私服姿のバックドラフトはそう言って仕事へ戻って行った。

私達のやった事は間違いじゃなかった、それを認められてちょっと嬉しくなってみたり。

 

「凄いことしちゃったねミカドちゃん。

学生が救助活動なんて、新聞に載っちゃうよ。」

 

「あんまり目立ちたくないんだけどねぇ…」

 

既にネットには私が竜化して看板を焼き尽くす映像が流されているらしい、一応未成年という事で名前の公表は伏せられてるけど体育祭で同じ巨竜が出ちゃってるワケだからみんな私がやったって察してるだろう。

テレビや新聞は…あの界隈の人達がプライバシーとか肖像権を尊重してくれるって信じてる。私未成年だし流石にね?インタビューとかも迫られなかったし大丈夫だよね。

 

因みにウルルは今、私の専属看護婦さんだ。

何故かと言うと私の手、度重なる個性の酷使と脳ミソ野郎との戦闘が祟ってそれはもう酷い有り様で壊死寸前だったのだけど、一夜明けたら完治してた。

…自分でも何言ってるのか分かんないんだけど、完治した。いくらウルルの個性使って治癒力を促進させていたとはいえ、一晩で壊死寸前の手が元通りに治るなんて聞いたことが無い。ウルルの個性が凄いのか私の回復力が異常なのか、これもう分かんねえである。

むしろ本当に重症だったのかお医者様に疑われまくった結果、現状把握と経過観察も兼ねて私の友人で親しみやすい彼女が監視役として抜擢されたらしい。

 

それから私の担当だったお医者様が身体を詳しく調べたいと血液検査を所望したのだけど、ウチの規律に従って上申したらまさかの印照家から“待った”が掛かった。まさか本家から直々にストップがかかるとは思ってなかったからビックリしちゃった。

私は印照家の所有物である、ヒーローを目指してからというもの才サマの付き人を離れ比較的自由にやらせてもらっているが、印照家が龍征帝の大元の保護者であり所有者でもある。

本家がノーといえばノー、主人の命令は絶対なのだ。だから血液検査は断らせてもらった。

 

 

 

それにしても…

 

「流石にこの量は病み上がりじゃ食べきれないよね…」

 

「だねえ、バックドラフトは私を死神だと勘違いしておられる?」

 

「リュー〇でもこの量は食べないよ。」

 

机に残された大量の林檎の山をみやる。

山盛りだ、此処は青森県か。

ちょっと考えた結果、別の病棟に居る夜嵐君に分けてやることにした。切り分けられるようナイフ一式をウルルに持ってきてもらい、いざレッツゴー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でね、心優しいこの私がお見舞いに来てあげたわけよ。頭を垂れて感涙にむせべ。」

 

「「どういうわけで!?」」 「よう、龍征。」

 

おい、病室では静かにしろ愚民共。

ところ変わって此処は夜嵐君が居るはずの病室、1人だけかと思ったら飯田、緑谷、轟の3人も同室だった。本格的な検査はまだらしい、同年代だからって理由で同じ病室へ分けられたみたい。

 

「あの、院内ではお静かに…」

 

「「す、すいません…」」

 

案の定窘められる飯田と緑谷、昨日の夜からツッコミが絶好調だな。

そういえばウルルは3人と初対面だった、簡単に顔合わせも済ませておこう。

 

「こちら、マイベストフレンド。

ほらウルル。」

 

「うん。初めまして雄英高校の皆さん。

職場体験で当院に勤務している見習い看護師の士傑高校1年、破柘榴です。皆さんの容態を確認しに参りました。」

 

「士傑高校…!看護婦見習いって事は看護科…!?

みみみみ緑谷いいい出久です…」

 

「轟だ、よろしく。」

 

「雄英高校1年A組委員長の飯田天哉だ。先程は騒いでしまい申し訳ない…」

 

「はい、よろしくお願いしますね。」

 

入院患者の無体にも関わらず天使の如く微笑むウルルの社交性は53万なので女慣れしてなくてキョドる緑谷でも安心!

それからウルルは慣れた手つきで3人の容態を診察し、手元のカルテに記入していく、特に酷かったのはヒーロー殺しのナイフが骨まで届いた飯田だけどウルル曰く保須病院の医療技術と自分の個性があるから後遺症もなく完治出来るそうだ。今後のヒーロー活動に支障はないらしい、良かったねえ。

 

 

「リンゴ剥いてやろう、1人1個食べれるよね?」

 

「悪ぃ龍征、ありがとな。」

 

「すまない、有難く頂こう。」

 

もう物を持っても痛まないので慣れた手つきでリンゴの皮をぱぱっと剥いていく。サービスしてウサギさんの形にしてやろう、壊理ちゃんが喜ぶんだこれ。

 

「ウサギの形か、器用だな。」

 

「他にもバリエーションあるぞ、犬とか猫とかカエルとかモビルスーツとか。」

 

「そ、そんなカットできるんだ…モビルスーツ!?」

 

「連邦と公国の2パターンとり揃えております。」

 

(((気になる…!)))

 

切るのに3倍時間かかるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

あとさ、此処に来た本命なんだけどさ…

 

「夜嵐君、いつまで無言でこっち見てんのさ。」

 

「…!」

 

病室の一角、カーテンで区切られたベッドからいかにも話に混ざりたそうに顔だけ覗かす彼に言ってみる。

顔がね、うるさいのよ。主張が激しいの、一言も喋ってないのにね。

 

 

「初めまして雄英の皆さん!

龍征さんと一緒に職場体験やらせてもらってた士傑高校ヒーロー科、夜嵐イナサです!どうぞ宜しくお願いします!」

 

「夜嵐君院内ではお静かに…」

 

「ハッ!?すいません破柘榴さん!」

 

「結局声が大きい…」

 

おもむろにベッドの上で土下座を敢行する彼に悪気は一切ないのだ。

 

「ああ、よろしく夜嵐君!

龍征君、士傑高校の方と共に職場体験をしていたんだな。」

 

「体験先被ったって事か、そういや出発前に相澤先生話してたな。」

 

「士傑高校といえば雄英に並ぶヒーロー育成校だよ!多くの優秀な看護婦を排出してる看護科も有名だけど士傑高校ヒーロー科は『東の雄英、西の士傑』と評されるほどなんだ!そんな人と同室だったなんて…凄いや!」

 

「ウス!恐縮っス!

皆さんの事は存じてます、活躍は体育祭でバッチリ見てました!

熱い試合ばかりで俺ェ…今思い出しても興奮冷めやらぬッスよ!」

 

そう興奮しながら話す夜嵐君は順番に緑谷、飯田と眺めて最後に轟へ顔を向けようとして…おもむろに()()()()()()()()()()()

 

…いやなんでさ

 

「「!?!?!?」」

 

「?」

 

「へぁっ!?」

 

「ちょっ…」

 

騒然とする病室、夜嵐君から流れる鼻血。

突然の暴挙に緑谷飯田は絶句して轟は何が起きたのか分からずポカンとしてるしウルルは顔が真っ青だ。

おおかた、因縁のある轟と顔を合わせるのに抵抗があったんだろう。そんで自分に喝を入れたっぽいけど、加減をしなさいよ加減を。

当人は清々しい笑顔を轟へ向けている、事情を知らない人が見たら自傷で喜ぶサイコパスだ。隣の飯田が挙動不審でいつも以上にロボットみたいになっとるぞ。

 

「い、一体どうしたんだ夜嵐君!何故急に自傷行為を…」

 

「気にしないで欲しいッス!」

 

「いやこれ気にしないでは無理があるが!?」

 

「すげぇ血が出てるぞ。」

 

「いやホント大丈夫なんで!

…これは俺なりの“ケジメ”ですから、これから最高のヒーローになる為に必要な事なんス。」

 

その眼差しはまっすぐで、彼の言葉に嘘偽りないと断言できるだろう。隣で俯いたウルルがなんかブツブツ言ってるけど気にしない気にしない。

 

「こ、これが士傑流…ッ!」

 

「いや多分コイツだけよ、正気に戻れ緑谷。

とりあえず夜嵐君も食べなよリンゴ、切ってあげるから。」

 

「頂きます!腹減って仕方なかったんスよ。」

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って夜嵐君。」

 

 

 

 

やけに平坦なトーンで、リンゴに手を伸ばす夜嵐君に待ったが掛かった。ウルルだ。

 

…ひぃっ!?

 

彼女から唯ならぬ黒い気配を感じる!?

 

「なんで、重症の身で、わざわざ、新しい傷を、作ったの、かな?」

 

そこには笑顔のウルルがいた。

ニッコリと微笑みながらやさしく夜嵐君に語りかけてくる、白衣の天使。

そう、まるで天使。

微笑んだまま表情筋が一切動いてないのと、背後から漂うドス黒いオーラと、ジョジ〇よろしく「ゴゴゴゴ…!」と文字が浮かび上がって来そうなほどの気迫がなければ、天使。

 

「あっ、いやだからコレは俺自身のケジメとし「それ、今する必要、あるの?」あっあっあっ…あのですね破柘榴さん、その…怒ってます?」

 

「オコッテルワケ ナイヨ ?

でもどうしてわざわざ入院中に新しい傷を作ったのか、知りたいなあ。

詳しく、説明してください。私は今冷静さを欠こうとしています。」

 

いかんウルルが看護婦から婚約者攫われたプロゴルファーに転職してしまいそうだ。

状況に着いていけない雄英男子どもは役に立たねえので今にも刺身包丁突きつけてきそうな表情のウルルを落ち着かせ、宥めてあげる。

この子普段は優しいんだけど、スイッチ入ると止まらないのよね。看護科入って更に拍車が掛かったのかなあ。

 

 

 

 

 

 

「おう、起きとるか有精卵ども。」

 

荒ぶるウルルをなんとかおさめ、皆で切り分けたリンゴを齧っていた時、病室をノックする音がして入ってきたのはヒーローコスチュームを来た2人の男性だった。片方はおじいちゃんで、もう片方は若い男の人。おじいちゃんは確か緑谷の職場体験先だっけ?そしたらもう1人は「マニュアルさん…」と飯田が呟いたのが聞こえたので察した、飯田の職場体験先のヒーローか。

その2人に招かれ奥から現れたのは、スーツ着て二足歩行する犬?

 

「保須警察署所長、面構犬嗣さんだ。」

 

めっちゃ偉い人だった。おじいちゃんは3人に色々お小言言いたいらしいが、それより先に面構署長のお話があるそうな。

曰く、今までヒーローがヴィランを捕らえるために個性使用を許されてきたのは先人の積み上げてきた信用と、ルールに則って活躍してきたヒーローに対する市民からの信頼の賜物である。

だから結果はどうであれ、監督者の許可無しに個性を使ってヒーロー殺しを傷付けた緑谷、飯田、轟の3名には法律に則って厳正な処分が下されなければならない、と。

…あれ?私は?もしかしてあの場に居た数に入ってない?翼竜だからセーフなのか?

 

「飯田が割って入らなきゃヒーロー殺しはネイティブさんを殺してた、緑谷が来なきゃ2人は助からなかった。規則守って見殺しにしろって?」

 

「結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」

 

「…ッ人を助けるのがヒーローの仕事だろ。」

 

反論する轟に冷静に諭す署長さん、お2人ともバチバチである。

まあ、緑谷が間に合わなくてネイティブさんと飯田が殺されてた可能性はあった。対峙した人間しか分からないだろうけどヒーロー殺しは近年稀にみるヤバいヴィランだ。雄英襲撃の時の手のオバケとは比べ物にならない殺意、簡単に人を殺す躊躇いの無さは才サマの付き人してた時頃に出会ったどの連中よりも危険な感じ。そんな奴を前にして許可がどうとか悠長な事言ってる暇なんてなかったんだよ。でも「しょうがない」で済まされるほどヒーローの仕事は甘いもんじゃない。

 

…ああいう奴には変にカリスマあって、本人も知らない所でシンパが生まれちゃってたりするんだろうなあ。餓鬼道の上級生にもそういう奴結構居たし。

けど、今回のはいち学校の騒動じゃなく、警察や他人の命まで巻き込んだ大事件だ。だからこそ気持ちや規則が枷になってお互いぶつかり合ってしまう事もある。面構署長は警官なんだから尚のこと、規則を守らなきゃいけない立場にある訳だし違反者である私たちに強く当たるのも仕方の無い事だ。

 

……このまま私の翼竜が居たことはウヤムヤになってますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、随分と騒がしいじゃないか。此処は病院だよ?」

 

「ッ!?貴様は…!」

 

「?」

 

署長と轟は互いに睨み合い膠着状態。ピリピリと張り詰めた雰囲気の中、署長が口を開こうとしたその時。戸を引く音がして、聞き慣れない声が二人の間に割って入った。

白髪混じりの茶髪をオールバックで纏めた、濃紺色のスーツを着こなす初老の男性。ポマードでも塗ってんのか甘い匂いがする。面構署長は酷く驚いた様子だったけど、警察関係者かな?

いや、どっかで見たことあるんだけど…

 

「やあ龍征君、暫くぶりだね。」

 

おじさんは私と目が合って気さくに話しかけて来たんだけど、いまいちピンとこない。するとキキキッと小動物の鳴き声がして男性の肩から1匹の小猿が顔を出した。

あっ、思い出した!初日に電車で話した猿のおじさんじゃん!

 

「えっと、電車で会ったおさるの…」

 

「そうそう私!いや覚えてもらえて光栄だよ。

私の娘なんて最近は3日家を空けるだけで他人扱いされるからねェ、思春期なのかな…」

 

しょぼんと哀愁漂うおじさん、娘さんはもっとパパにやさしくしてあげてもろて…

 

突然現れた緊張感の無いおじさんのフランクな態度にすっかり毒気を抜かれる轟、対して渋い顔をしながらさっきより顔付きが険しくなったのは面構署長だ。

 

「猿渡、貴様何の用だ。ヒーロー殺しは我々が逮捕した、今更公安の出てくる枠は無いだろう。」

 

「捕まえたのはそこの学生達だろう、子供の手柄を奪うなんてとんだ駄犬だ。そんなだからお前達は『受け取り係』なんて揶揄される。」

 

「貴様ッ…!」

 

険しい顔で今にも食っかかりそうな署長を涼しい顔であしらって、煽る猿渡さん。めっちゃ仲悪そう。

 

「犬猿の仲ってヤツ?」

 

「誰が上手いこと言えと…」

 

なんて呟いたのがウルルに聞こえたようで呆れられたよ、なんでさ。

どうやら猿渡さんはヒーロー公安委員会の偉い人らしい…偉い人だったの!?

 

 

「そこの駄犬は置いといて…

諸君、見事な活躍だった。ビル火災救助にヒーロー殺し捕縛、5人とも素晴らしい大立ち回りを披露してくれたね!

看護婦の君も、見習いの身でありながら適切な処置のおかげで多くの人が救われたと君の担当婦長が絶賛していたよ。」

 

手放しに褒め称える猿渡さんの横で面構署長は苦い顔。彼、褒めて伸ばすスタイルらしい。

 

「ただまぁ、これからも自分をヒーローだと通したいならもう少し規則や法律について勤勉になっておく事だ。こちらとしても、若気の至りで処理するのにも限度があるからねぇ。」

 

茶目っ気たっぷりにウインクする彼に私達は苦笑いしてお茶を濁す。猿渡さんから察するに、彼が裏で色々と動いてくれたおかげで轟達は個性不正使用の罪に問われることは無いようだ。エンデヴァーを初めとする他の担当ヒーロー達も猿渡さんの口添えでお咎めなしらしい。

でもメディアへの発表は大人の面子的に控えておきたいようで、ヒーロー殺しの火傷跡から捕物の功労者をエンデヴァーにでっちあげ、私達が捕まえた事を無かったことにして欲しいんだとお願いされた。

 

「このまま発表すればメディアは嬉々として君達を取り上げるだろう。若きヒーロー候補生の大活躍、勿論それは喜ばしいことなんだが、公衆の面前に晒されるということは相応のリスクを背負わなければならなくなるという事だ。」

 

ぶっちゃけると過去にヴィラン退治をしてメディアに取り上げられたヒーロー候補生が住所を特定されヴィランに襲撃を受けた、という実例があったらしい。捕まったヴィランの仲間が報復の為に学校帰りだったその生徒を襲ったそうだ。

それを加味し、今回の事件を大人の力で握り潰しに来たんだって。

ヒーロー殺しの一件は規模が他とは比べ物にならない大事件。当然周囲の人に与える影響も大きく、そんな人物が学生に捕らえられたとなれば体育祭以降ただでさえ報道が加熱した各種マスコミは根掘り葉掘り私達を調べあげるだろう。校門前で出待ちとかまだ優しいほうで、酷い時は自宅の場所まで特定されるらしい。そんなのを公共の電波に晒せば間違いなく野次馬が生まれ、その中には私達の事を良く思わない人物も居て…と、そうなったら警察やヒーロー公安委員会でも守りきれない。いつぞやの襲撃もあったからね。

だから私達が学生の間、または自衛が確立できると判断されるようになるまでマスコミへの公表は控えたいのだとか。

 

流石にプライバシー無視は駄目だろ、と心の中でツッこむが餓鬼道にもマスコミが原因で寮生活せざるを得ない奴らが居たんだった。

入寮理由は胸糞悪くなるからあんまり思い出したくないけど。

 

「若きヒーローの卵を大人の汚い事情に巻き込んでしまうのは避けたいんだが、これも未来ある君達の身の安全を守る為だ。

このとおり、どうか納得して欲しい。」

 

肩に乗る猿共々頭を下げられ、衆目に晒される事で生じる危険性を諭されてしまえば私達も首を縦に振るしかない。

問題はそんな実例、過去に一度もニュースにすら取り上げられなかったって事なんだけど…

 

「情けない話、夢を見せるのが今のヒーロー公安委員会(われわれ)の仕事だからね…」

 

含みのある台詞が聞こえたのを私は口には出さず、そっと胸の中に飲み込んだ。

 

「今回の事件、真実が公にされる事はない。

知るのはごく一部の者のみになるだろう、その行動は正しくなかったが、殺人鬼に立ち向かう君達は誰よりもヒーローだった。

ありがとう、平和を守る者の端くれとして、せめて最大限の感謝を送らせてくれ。」

 

綺麗なお辞儀とともに彼はそう述べる。

 

「ほら犬、お前も頭くらい下げたらどうだ。

ヒーロー殺しが捕まって一番助かってるのは警察だろう。」

 

「分かっている…!

私だって今回の事件、若き功労者達にケチを付けるような真似はしたくはない。

轟君、貶めるような言い方で済まなかった。

そしてありがとう。至らぬ我々に代わって殺人犯を捕えてくれた事、本当に感謝する。」

 

ヒーロー公安委員会と保須警察署長から頭を下げられて緑谷は謙遜し飯田は慌てて顔を上げるように促して、轟は相変わらず無表情だけどまんざらでもなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のことはオフレコで頼むよ、勿論彼らの担当ヒーローの皆様がたもね。」とウインクしながら締めくくり、猿渡は事件の辻褄合わせの為にエンデヴァーの所へ向かうと言ってとグラントリノとマニュアルを連れて病室から出て行った。面構署長もまた、事件の事後処理の為に退室。部屋には学生6人が残される。

 

「なんというか、掴みどころのない方だったな。猿渡という人は…」

 

「でも良かったじゃないっスか。公安と警察の両方から褒められるなんてアツい展開、そうそう体験できるもんじゃないですよ!」

 

「まー面構署長も本当に規則違反でとっちめるつもりはなかったんだろうけどね、職業柄高圧的になるんでしょ。雄英生だってだけまだマシよ。」

 

「あぁー、餓鬼道生ってだけで急に横柄になる警察の人結構いるもんね。」

 

「あるあるよね。」

 

「「ねー。」」

 

((((それはあるあるなのか…?))))

 

お互い納得するように頷く帝とウルル、餓鬼道の実態を知らない男性陣は頭に〝?〟を浮かべていた。

 

「にしても、轟があんなに熱くなるなんてね。署長の胸ぐら掴む勢いだったじゃん。」

 

「ぐっ…それは…悪い、反省する。」

 

「反省する事ないっス!

俺、アンタの中に眠るアツいヒーロー魂を確かに感じた!

正直な所、今まで勘違いしてた。エンデヴァーの息子で、推薦の時の反応だけ見て色眼鏡で判断してたんだ。

けど署長に迫ってる姿見て…自分じゃない誰かの為に怒れる、ヒーロー目指すアツい奴だって気が付けた!」

 

「お、おう…推薦?」

 

「そっからかァ!やっぱ覚えられてねェっスよねー俺、病室一緒になった時から薄々思ってたんスよ!」

 

一応、夜嵐からすれば因縁のある事件だったのだが、当の轟は身に覚えがない。体育祭で吹っ切れる前、打倒父親を掲げ他の全てをどうでもいいと切り捨てていた頃の出来事だったからだ。文字通り眼中に無く、周りなんてひとつも見えていなかった。

そんな轟を夜嵐は呵呵大笑にし、自分が雄英の推薦入試を受験していた事を明かす。これには飯田と緑谷も驚きを隠せない。

 

「轟、ちゃんと夜嵐君の話聞くのよ。

これも過去の清算だと思ってね。」

 

「…!そういう事か。

なら今度はちゃんと前、見ねえとな…」

 

雄英の推薦入試と聞いて食い付いた緑谷と飯田を相手に語り続ける夜嵐を眺めながら決心するように轟は頷き、3人の話に混ざっていく。

 

本来ならばエンデヴァーの遺恨は夜嵐の心に深く残り続け、後に轟共々最悪のタイミングで溢れ出てしまっていただろう。しかし職場体験を通じて僅かな間でもヒーローとしてのエンデヴァーを垣間見た。そして勝手に敬遠していた相手の〝今〟を知る事ができた。そんな幸運が重なって、夜嵐はこうして同じ病室で笑いあえている。

 

推薦入試の内容を雄弁に語る夜嵐、聞き入る飯田、当時を思い出したのか若干顔を紅くする轟、どっからか取り出したメモ片手に物凄い速さでペンを走らせる緑谷。

そんな男連中を眺めながら、帝とウルルは残ったリンゴを話の肴にと切り分けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨晩発生した西東京・保須市での事件、知っているだろう?」

 

「…」

 

「人は大きな事件に目を奪われる、しかしこういう時こそヒーローは冷静にいなければならない。

混沌(ケイオス)は時に人を惑わし根底に眠る暴虐性を引きずり出そうとするものだ。」

 

 

人も疎らな片田舎の街中を飛ぶように走るスーパーカー。流線型の車体の中でハンドルを握るのは今をときめくNo.4ヒーロー、デニムヒーロー〝ベストジーニスト〟だ。

 

「この辺りは元々とても治安が悪くてね、近隣住民は皆逃げるように引越してしまって今では2ブロック先まで殆ど無人街が広がっている。」

 

助手席に座るコスチューム姿の爆豪は何の気なしに流れていく景色を眺めてみる。

古めかしくボロボロに朽ちた看板、手入れの行き届いていない庭先、落書きだらけで荒れ果てた商店街。生活感のない街並みはまるで人だけごっそりと抜け落ちたまま何年も時間だけが過ぎたかのようだった。

更に奥へと抜けると今度は崩れた建物が目立つ。クレーターのように窪んだ地面が幾つも見え、焦げ跡や瓦礫もあちこちに転がる。コンクリートで舗装された道路には幸いにも落ちていないようだが、戦争の跡かと見まごう程の荒廃した光景が広がっていた。

 

「全て個性によって生み出された破壊痕だ。

彼女曰く生徒同士の個性を使った乱闘が過去に50回以上起きていたらしい。」

 

「ケーサツはどうしたんだよ、職場放棄か?」

 

「ここから1番近い交番は隣町だよ、ヒーローもこの辺りはパトロールの対象ルートから意図的に外している。唯一通っているのは学校前に停車する装甲バスだけだ。」

 

「マジの無法地帯じゃねえか…」

 

「そう、ここは無法デニム。

守るべき市民も賞賛する人々もこの辺りには居ない。この時世だ、真に残念ながら見返りもなしにみすみす危険を犯すヒーローはいないだろう。」

 

(無法デニム…?)

 

車両は更に奥へと進む、やがて小高い山中をくり抜いた場所に白塗りの大きな建物が見えた。

『まるで要塞じゃねえか』と反射的に爆豪が思ったのも無理はない。窓には鉄格子、山から見下ろすような立地には威圧感しか感じない。渡り廊下で繋がった木造校舎が見えてなければ収容施設か、はたまた監獄か、少なくとも学校の体(てい)は成していなかった。

そんな、学び舎と呼ぶには少々重苦しすぎる雰囲気の漂う校舎へとベストジーニストは車を走らせる。

 

「ところで爆豪君、君は餓鬼道と聞いて何を思い浮かべる?」

 

「アァ?ンだ突拍子もねぇ…」

 

「いいから、答えなさい。」

 

しばし、物思いに耽ける。

餓鬼道という学校について、爆豪もテレビや噂で度々聞きかじったことはある。

曰く、毎日のように暴力事件を起こす不良達の溜まり場だとか。

曰く、止めようとしたヒーローが大怪我を負い、あまりの非行ぶりに警察も手をつけられないのだとか。

曰く、テレビで取り上げられるような大物(ネームド)ヴィランの殆どはこの学校出身で、「ヴィラン養成学校」なる蔑称が影で囁かれているのだとか。

 

「暴力事件、喧嘩、犯罪者予備軍の巣窟、不良の吐き溜め。その学校名聞いてマイナスイメージ持たねえ奴ァ居ねェだろ。」

 

「…そうだね。」

 

爆豪の回答に少しの沈黙の後、彼は肯定する。

校舎横の真新しい駐車場へと車を停め、ここからは徒歩だ。少し坂道を歩くがこんなもの爆豪にとっては苦ではない。

上り際、振り返ったベストジーニストは爆豪へこんな言葉を投げかけた。

 

 

「爆豪君。

これから君が真のヒーローを志すのなら、この学校から目を離さない事だ。個性社会のあり方とこの学校の〝今〟を君の目で見て、考えろ。」

 

「……」

 

「目を離すな」、そう言うベストジーニストからは強い意志を感じる。

龍征帝が一度統治して大人しくなったとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて言われるまでもない。相手は並のヒーローすら匙を投げるような問題児の集まりであるがそれがどうした。

爆豪勝己が餓鬼道へ来た理由はただ1つ、体育祭で決着の付かなかった龍征帝への意趣返しの為だ。彼女が嘗て統一したという不良校、その全貌をこの目で確かめて、さらに上を行く。正直ベストジーニストの事務所を選んだ理由は上位ランカーの仕事見たさが半分で、もう半分の目的はこの学校に赴くことだった。

 

体育祭決勝戦、帝が龍に姿を変える寸前に交わした会話を思い出す。

『他の奴全部蹴落として、誰もいない空っぽの玉座でふんぞり返っても虚しいだけ』

この言葉がずっと爆豪の胸に残っていた。

 

(お前が見た景色、この目で確かめてやるよ龍征…!)

 

あの女の余裕が気に入らない、何より勝てなかった自分が気に入らない。

勝てないヒーローはヒーロー足りえない、自らの信念をうたがわずがむしゃらに突き進む爆豪がベストジーニストの言葉の本当の意味を理解する日は来るのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、袴田先生。」

 

ひゅう、と

 

5月の終わりにしては妙に冷たい風が頬を撫でた。

鈴の鳴るような、澄きとおった声に2人は脚を止める。

声の主は校舎前に立っている女生徒だった。

 

「そちらは事前にお聞きしていた雄英高校ヒーロー科の爆豪勝己先輩ですねぇ?

初めまして。

理事長より案内を仰せつかりました、天廊凍皇梨(てんろうこおり)と申します。」

 

 

以後、お見知り置きを

 

 

 

 

 

 

にこり、と柔和な笑みを浮かべる彼女の左腕には赤地に黒の筆文字で〝会長〟の二文字が刻まれた腕章が光っていた。

 





今更ながら劇場版ヒロアカワールドヒーローズを見た。
そこはかとなくMARVELみのある演出やアクションがとても良き、ストレンジMoM見た後だと余計そう思う。
劇場版三部作はいつか本作でも書きたいっスねぇ(遠い目)


次の話は爆豪編にするか、職場体験の後日談済ませて閑話挟むか思案中。
アンケの結果見る限りオリキャラに寛容な読者様多くて安心したけど話の本筋にどこまで絡ませて許されるのか分かんぬえから扱いが難しい。
どっちにしろ更新は亀の如く遅いぞ!この話はここでおしまいだな!
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