偉人! 軍人! 囚人! 奇人! 変人! 殺人! そして、怪人ッ!!

絶対に入れてはいけない物が混ざってしまった和風闇鍋ウェスタンッ!!

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「ゴールデンカムイの二次小説が読みたい」

そんな意見が『怪人バッタ男 THE FIRST』の感想欄にあったので、読者の需要に応える形で中途半端に書いて放置していた作品を、色々と推敲し直して完成させました。10000字以下と普段の作者からすればかなり短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです。

2019/8/1 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


シンサンカムイ

北海道の何処かに隠されたアイヌの埋蔵金を求め、その在処が記された暗号の刺青を彫られた網走監獄の脱獄囚達を探しつつ、杉元佐一、アシリパ、尾形百之介、牛山辰馬のパーティーは、樺戸にほど近いコタン(村)で休ませて貰った際、奇妙な事に気がついた。

 

「……妙だな。このコタンには男がいない」

 

「そう言えば大人は女だけで、男は子供しかいないな」

 

「きな臭いな。何かあるぞ、この村」

 

彼等の警戒を余所に、コタンの女達はとても親切で、オオバユリから取ったデンプンで作ったクトゥマと言うお団子で彼等を存分にもてなした。だが、そこで杉元が違和感を覚える行動を女達はとったのだ。

 

「……アレ? この村の女達は普通に味噌食ってるな?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「今までに出会ったアイヌは、皆味噌の事をオソマっつってウンコだと思ってたんだよ」

 

「ウンコォ?」

 

「和人とアイヌの食文化の違いか……俺達だって脳味噌なんて食わんし」

 

男達が話し合う一方で、アシリパがアイヌの言葉で村の女達に、杉元のオソマ(味噌)を普通に食べる理由を聞くと、彼女達はその理由を熱く語り始めた。

 

それは、去年の春にこの村を襲った悲劇から始まった。樺戸監獄を集団脱獄した凶悪な男達がコタンの男達を皆殺しにし、アイヌになりすまして村を乗っ取り、女達は家族のフリをさせられていたのだそうだ。

 

「なるほど。それでこの村には男が居ないのか」

 

「しかし、女子供でどうやって脱獄犯達から村を取り返したんだ?」

 

「いや、コタンを取り返したのは彼女達ではない。全ては『シンサンカムイ』のお陰だと言っている」

 

「シンサンカムイ? それってどう言う意味?」

 

「いや、私もそんなカムイは聞いた事が無い。……ふむ、何でも最初は旅人の姿でこの村にフラリと現われたらしい」

 

村を乗っ取られて間も無く、一人の和人の男がこの村を訪れ、一晩だけと言う約束で砂金と引き替えに寝床と米を求めたのだと言う。

脱獄犯達はその男に酒を振る舞い、油断させて寝込みを襲う算段を立てていたのだが、その男は和人どころか人間ではなかったのだと女達は言った。

 

「人間じゃない……ってどう言う意味だ?」

 

「文字通りの意味だ。その男は人間に化けたシペシペッキ……バッタのお化けで、とても大きなバッタの群れを伴ってコタンを乗っ取った脱獄犯を一人残らず殴り倒すと、全員を縄で縛って女達の前に突き出したのだそうだ」

 

「バッタの大群……飛蝗ってヤツだな。洪水や何やらで条件が重なると大発生する時がある。北海道では明治初期から何度か大蝗災が起こって、屯田兵もバッタ退治に大砲持って駆り出されたそうだ。第七師団じゃ語り草になってる」

 

「いや、チョット待て。それって去年の春の話だろ? この北海道でそんな時期にバッタがそんな大量に湧くモンなのか?」

 

「まず有り得ない。だからこのコタンの女達は、アイヌを殺したカムイの怒りだと信じているそうだ」

 

「カムイの怒りねぇ……しかし、樺戸監獄の脱獄犯全員を一人で倒したってのは、チョット信じられねぇな。連中だってそれなりの武装をしていた筈だろ?」

 

「それが、女達を庇って刀で斬られたり、鉄砲や毒矢に当たったりしたが、毒が効いた様子も無くピンピンしていたらしい」

 

「正に『不死身の怪物』って訳か」

 

「ますます眉唾モンの話だな」

 

「それで、捕まった脱獄犯達はどうなったんだ?」

 

「夫や息子を殺した者は女達が仇を討って、村の外れに埋めたと言っている。ただ、主犯の男は男達に指示を出していただけだったから、女達は主犯の男の鼻と耳と足の腱を切って追放したそうだ。アイヌの刑罰に死罪は無いから、これがアイヌの中で最も重い罰なんだ」

 

「死罪は無い……か。ある意味、その方が残酷かもな」

 

「それともう一つ。主犯の男は他の男達とは違う、奇妙な入れ墨が彫ってあったと言っている」

 

「「「!!」」」

 

奇妙な入れ墨。そう言われて彼等が真っ先に思いつくのは、網走監獄に収容されている「のっぺらぼう」が彫った、金塊の在処を示す暗号の刺青である。

 

「牛山、その男に何か心当たりは?」

 

「……いや、特に思い当たるヤツは居ないな。指示しか出してない事を考えるとザコだろ」

 

「どっちにしろ、ソイツはもう野垂れ死んでる可能性が高い。少なくとも一人分の暗号は誰にも分からなくなったな」

 

「それが、主犯の男を追放する前に、シンサンカムイが入れ墨を紙に書き写して、この村に残していったらしい」

 

「……それって俺達に見せて貰えたり出来る?」

 

「頼んでみよう」

 

アシリパが村の女達にその入れ墨を書き写した紙を見せて欲しいと頼むと、女達は一枚の紙をアシリパ達の前に持ってきた。そこに書かれていたのは、間違いなく目当ての金塊の在処を示した暗号の刺青だった。

 

「コレをこの村に置いて行ったって事は、少なくともソイツは金塊が目当てって訳じゃなさそうだな」

 

「女達は村で起こった恐ろしい事を忘れない様にする為に、男の入れ墨を書き写して残したんじゃないかと言っている。その後、シンサンカムイは脱獄犯達の埋葬を手伝った後、女達のもてなしを受けたんだが、その時に女達はシンサンカムイから勧められてオソマを食べたんだそうだ」

 

「だからウンコじゃねぇって」

 

「しかし、よくそんな怪物から勧められた物を食う気になったな」

 

「アイヌの昔話には、ギョウジャニンニクとオオバユリが小さな二人の女の姿で村の村長を訪ねてきて、お椀を借りてはお椀を借りては物陰で脱糞して『食べろ』と差し出す話がある。拒否すると物凄く罵倒されるんだと」

 

「理不尽な話だ……」

 

「これは自分達が食料であると、まだ知らない人間に食べて欲しかったからで、ある村の村長がコレを食べてこの食料を知り、人々は飢えから守られて暮らせるようになった……と言うアイヌのお話だ」

 

「登場人物、全員変態かよ……」

 

「これには、人間に感謝され祀られないと、神様になれないと言う事情もある。シンサンカムイが脱獄犯達を誰一人として殺さなかったのも、人を殺してウェンカムイ(悪い神)になりたくなかったからじゃないかと女達は言っている」

 

「神話の再来……って事か。それで、シンサンカムイってのはどんな意味なんだ?」

 

「人の姿で脱獄犯達から名前を聞かれた時、自分の事を『シンサン』と名乗っていたから、そう呼んで祀っているのだそうだ」

 

「シンサンねぇ……」

 

「人間も含め、全てのものはカムイと呼ぶことが出来る。しかし、何時もカムイと呼ぶものは限られている。人間が出来ない事。役立つものや、厄災をもたらすもの等がカムイと呼ばれる。

例えば、刃物は手では切れない物を綺麗に切ったりしてくれるからカムイが宿っている。火は私達の生活に欠かせない。木も山に座っているカムイ。天候や疫病などは、人間の力が及ばないからカムイだ。でも決して人間よりも物凄く偉い存在ではなくて、私達と対等と考えられている」

 

「俺達、人間と対等……?」

 

「とても俺達と対等の存在とは思えんのは気の所為か?」

 

その後、杉元達は刺青の絵を写させて貰い、予期せぬ形でまた一つ暗号を手にする事が出来た事に気分を良くし、意気揚々と別行動をしていた土方歳三達と合流したのだが……。

 

「詐欺師の鈴川聖弘だ。アイヌの村に潜伏していたが、追放された所を確保した」

 

「「「「お前かッ!!」」」」

 

そこで、彼等はシンサンカムイ伝説の生き証人と遭遇した。

 

鈴川が鼻や耳を削がれ、足の腱を切られている事。写した入れ墨の絵と鈴川の入れ墨が合致する事。そして、バッタと言うとそれだけで鈴川が錯乱状態に陥る事から、杉元達の中で『シンサンカムイ伝説』の信憑性は確固たるモノになったのだった。

 

 

○○○

 

 

春が終わり、北海道の短い夏が始まろうとする頃。アイヌにとって害悪としか言い様のない男が、釧路で文字通り精力的に活動していた。

 

男の名は姉畑支遁。あちこちで家畜を殺して回り、牧場主に見つかって大怪我をさせて網走監獄に収監されたが、彼もまたその身に金塊の在処を示す暗号の刺青を彫られた囚人の一人であり、土方歳三らと共に脱獄した後も家畜や野生の鹿を犯した末に惨殺すると言う、動物好きの風上にも置けない超弩級の変態犯罪者である。

 

そんな姉畑の夢は、日本最強の野生動物と称されるヒグマとの性交。誰が聞いても無謀だとしか思えない愚考を現実のモノとすべく、姉畑は雌のヒグマの糞を体中に塗りたくり、松の枝を蓑の様に着てヒグマを追いかけ、遂に大きな雄のヒグマを見つける事に成功したのだが……。

 

「いたぁ……」

 

「GIBAA……」

 

「……え?」

 

彼がヒグマを発見した直後、後ろから只ならぬうめき声の様な声が聞こえて思わず振り返ってみると、そこには憤怒の形相をしたバッタの怪人が立っていた。

 

「銃声!」

 

「近いぞ!」

 

一方、此方は杉元とアシリパの二人。彼等は姉畑の所為で濡れ衣を着せられ、アイヌのコタンで拘束されている谷垣源次郎を救出すべく、二瓶鉄蔵の猟犬であるリュウをお供に加えて姉畑が盗んだ谷垣源次郎の村田単発銃の臭いを辿り、真犯人である姉畑を捕まえようと奮闘していた。

 

銃声から姉畑支遁が村田単発銃を使ったと判断した二人は、銃声のした方向に向かって全速力で駆けつけた。するとそこには――。

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「ヒィイイイイイイイイイッ!! ウヒィイイイイイイイイイイッ!!」

 

世にも恐ろしい見た目をしたバッタの怪物が、馬乗りになって姉畑をこれでもかと言わんばかりに殴りまくっていた。

 

「な、何だアレはぁ!?」

 

「アレだ、杉元! アレが『シンサンカムイ』だ!!」

 

「マジかよ! 信じられねぇ!」

 

これまで、杉元もアシリパも人知を超越する様な巨大生物には何度も遭っている。巨大なイトウや、巨大な鳥に、巨大な蛇。しかし、そのどれもがまだ「居てもおかしくない」と思える生物の範囲に留まっていた。

だが、目の前の怪物は違う。明らかに化物の類いとしか思えない醜悪かつ凶悪な外見は、杉元やアシリパも思わず自身の目と正気を疑った程だ。

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

「い、いや、やべぇぞ! このままだと暗号の刺青が――」

 

「待て、杉元! シンサンカムイに手を出すな! 呪いを貰うぞ!」

 

「いや、確かに呪われそうだけど!!」

 

鬼気迫る表情で殴打し、その怒りを存分に姉畑の顔面に刻みつけるシンサンカムイと、万が一にも暗号の刺青がズタボロになってはかなわんと、シンサンカムイを止めようとする杉元。そして、シンサンカムイの怒りに触れて杉元が呪われる事を恐れるアシリパ。

 

もはやシンサンカムイが姉畑を解放するまで待つしかないと思われたその時、シンサンカムイに猛然と戦いを挑む猛者が現われた。

 

それは意外! 姉畑が見つけた、雄のヒグマだッ!!

 

「ブォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

姉畑がメスのヒグマの糞を塗りたくっている事で、同族のピンチだと勘違いを起こしたのか? はたまたシンサンカムイの雄叫びに刺激されて興奮状態に陥ったのか?

いずれにせよ、ヒグマはシンサンカムイを明確な敵と認識しているらしく、「馬の首も吹っ飛ばす」と言われる前足の一撃を繰り出すが、シンサンカムイはスウェーで攻撃をかわすと、ヒグマの横っ面に拳を叩きつけてヒグマをなぎ倒した。

 

「DRYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

「ボフォォオオオオオオッ!!」

 

しかし、それでもヒグマは諦めない。幾度となくシンサンカムイに攻撃を仕掛けるも、その度に強烈なカウンターで返され、何度も殴り倒されてはまた立ち上がって戦いを挑んだ。

 

「JYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「なんてこった……」

 

「信じられん……みんな、見てるか?」

 

「ああ……!」

 

シンサンカムイの渾身のアッパーがヒグマの顎を砕き、ヒグマの巨体が宙に浮いた。

 

その光景は、杉元とアシリパだけでなく、誤解からアイヌに拘束されていた谷垣と、隙を突いて谷垣を連れ出した尾形。そして、谷垣と尾形を追いかけていた地元のアイヌの男達も目撃しており、現実離れした神話の如き対決に、その場にいた全員の目が釘付けになっている。

 

「グググ、ブクブクブク……」

 

「うう……ぼ、僕はただ……動物が好きなだけなのに……」

 

しかし、ここで想定外の事態が起こった。瀕死のヒグマが吹っ飛ばされた先には、何時の間にかズボンもパンツも脱いでいる、下半身が丸出しの変態が居たのである。

 

そう、姉畑支遁だ!

 

「ブフォブフォッ……ウォオオオオオオオオオオ!」

 

「……え?」

 

そして、何たることぞ。シンサンカムイの情け容赦ない攻撃によって、自分がもう長くないと悟ったヒグマは、姉畑に勢いよく覆い被さった!

 

「止めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「ア゛ァ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

アシリパの魂の叫びも空しく、腰を振りまくるヒグマの下から聞こえる、姉畑の汚い断末魔の叫びが、釧路の湿原に響き渡った。

 

 

○○○

 

 

その後、ヒグマは事が済んだ後、アシリパ達の手によって止めを刺され、姉畑支遁は真っ白に燃え尽きて死んでいた。

 

「……なあ、杉元」

 

「……なんだい、アシリパさん」

 

「何であのヒグマは姉畑とウコチャヌプコロしたんだ? 動物と人間がウコチャヌプコロして何になるんだ? ましてや、雄と雄なら子供なんて絶対に出来ないのに……」

 

「………」

 

杉元は返答に窮した。死に瀕した際、子孫を残そうとするのは動物としての本能である。あのヒグマはそれに従ったに過ぎないし、姉畑が雌のヒグマの糞を体に塗りたくっていなければ、こんな事にはならなかっただろう。多分。きっと。恐らく。

 

「何にせよ谷垣の誤解はコレで解けた。問題は……」

 

「FUUU……」

 

「アレだな」

 

ヒグマが事切れ、姉畑が灰になった後も、シンサンカムイはその場を立ち去る事無く項垂れており、心なしかアシリパ達に対してバツの悪そうな顔をしている。「こんな筈じゃなかったんだけどな」……みたいな。

 

「どうする? 大人しくお帰り願おうか?」

 

「だが、コイツはアイヌの味方なんだろ? 俺達の知らない金塊に関する何かを知ってるかも知れんぞ?」

 

「……じゃあ、誰がそれを聞くんだ?」

 

谷垣が至極真っ当な疑問を口にすると、男達は口々に理由をつけて「お前がやれ」「いや、お前がやれよ」と、シンサンカムイに話しかける大役を押し付け合い、それに呆れたアシリパがシンサンカムイに「お礼がしたいからコタンへ来て欲しい」と話かけ、男達をギョッとさせたものの、シンサンカムイは頷いて大人しく彼等に着いていった。

 

そして、シンサンカムイがコタンを訪れると、予めコタンのアイヌ達に説明がなされていたお陰か、彼等は盛大な宴をもってシンサンカムイを存分にもてなした。

 

「シンサンカムイ……」

 

「AAAAAA……」

 

「「「おおぉう……」」」

 

悪魔の如き風貌のシンサンカムイであるが、アシリパからチタタプを食べさせて貰う姿は、何時もの杉元達と何ら変わらない。シンサンカムイの下顎が真ん中で二つに割れたのを見た時男共はビビっていたが、それだけだ。

 

「アシリパ。俺はフチの事を伝えに小樽からやって来た」

 

そんな喧噪の中、谷垣はアシリパ達を追ってきた理由を話し、アシリパの祖母であるフチの様子が芳しくない事を伝えた。

 

「婆ちゃんが『二度と会えなくなる夢を見た』って……たかが夢だろ? 手紙でも送っておけよ」

 

「夢というのは、カムイが私達に何か伝えたくて見せるものだと信じられてきた。私は信じなくても、フチは古い考えのアイヌだから……」

 

「……アシリパさん。一度帰ろうか? 一度顔を見せりゃあ、『孫娘と二度と会えない』ってフチの見た夢は無効だろ? 元気になるさ」

 

「………」

 

アシリパとしてもフチの事は心配であるが、自分の成すべき事は分かっている。今は一刻も早く網走監獄の「のっぺらぼう」と会う事が先決だ。そんな決意を口にしようとした時、アシリパの肩を叩く者が居た。シンサンカムイだ。

 

「MUUUU……」

 

「シンサンカムイ?」

 

「な、何だ?」

 

「おい! アシリパさんと谷垣を何処に連れてく気だ!」

 

「MU? DUUIXEEVOI」

 

「……え? いや、何? え、俺も? ああ、手ぇ繋げば良いのか?」

 

シンサンカムイはアシリパと谷垣の手を引いて外へ出ると、追いかけてきた杉元も加えて四人で手を繋ぐ様にジェスチャーで伝えた。

何をしたいのかよく分からないが、まがなりにも相手は人知と常識を超越した存在である為、取り敢えず彼等は大人しくシンサンカムイに従った。

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

そして、全員が手を繋いだ事を確認すると、シンサンカムイは片手を挙げて夜天を仰いだ。

 

「何だ? 何が起こるんだ?」

 

「分からん。だが嫌な予感が……」

 

シンサンカムイの行動を不思議がる杉元達だが、遠くから聞こえる不気味な音が段々と近づいている事に気付くと、その正体を知って絶叫した。

 

「「「うわぁああああああああああああああああああああああああああッ!!」」」

 

しかし、気づいた時にはもう遅い。四人は瞬く間にシンサンカムイが呼び寄せた巨大なイナゴの大群に飲み込まれ、全身に巨大なイナゴが纏わりついていた。

 

「ぎゃぁああああああああああああああ!! 取って! 誰か取ってぇえええッ!!」

 

「落ち着け杉元! 只のバッタだ!」

 

その中でも、バッタが苦手な杉元の錯乱ぶりは凄まじい。如何に「不死身の杉元」と言えど、克服できない弱点と言うモノがあるのである。

 

「や、やっと、取れた……って、此処は……」

 

「まさか……」

 

「嘘……」

 

彼等が巨大なバッタの群れから解放された時、目の前に広がるコタンの風景は、間違いなくアシリパが育った「小樽のコタン」だった。

 

「ま、まさか、コレはアンタが……?」

 

「GUUUU……」

 

一瞬で釧路から小樽へと移動する、正に神の如き所行を目の当たりにし、言葉を失う一同であるが、当のシンサンカムイは「婆さんに会ってやれ」と言わんばかりに、コタンに指を差している。

流石にここまでお膳立てされては、フチに会わないわけには行かない。そして、フチとアシリパ達が再会を果たした後、再び彼等はシンサンカムイの手によって巨大なイナゴの大群に飲み込まれ、またもや一瞬で小樽から釧路に移動する事が出来たのだが、その時シンサンカムイの姿は煙の様に消えていた。

 

「シンサンカムイ……」

 

「ねえ、アシリパさん。頼むからバッタ見かける度に捕まえるの止めてくれない?」

 

その後、バッタを見る度に手にとってシンサンカムイを思い出すアシリパと、便利だけどバッタに飲み込まれるのはもう勘弁して欲しいと思う杉元の掛け合いがちょくちょく見られる様になったのだが……。

 

「いいかお前達! クリスマスにはシャケを食え! 七面鳥の丸焼きやローストビーフ、ましてやフライドチキンなんて絶対に食べるんじゃないぞ! いいな! 絶対だぞ! ついでにバレンタインもシャケを食え! 俺の言う事が分かったなら、はいッ、復唱ッ!! クリスマスにはシャケを食えッ!!」

 

「「「………」」」

 

「コラーッ! 人の話はちゃんと聞け! モラルだぁーッ!!」

 

今度は網走川でベニザケ怪人を名乗るベニザケの化物が現われ、アイヌに扮した土方達は一向に立ち去る気配の無いベニザケ怪人をどうしたものかと頭を悩ませ、アシリパはよだれを滝の様に垂れ流しながらベニザケ怪人を見つめていた。




キャラクタァ~紹介&解説

シンサンカムイ
 新しい時代の新しいアイヌのカムイにして、大自然の使者。地獄の悪鬼も裸足で逃げ出す姿をしたバッタの怪物だが、洋服を着た和人の姿で現われる事もあるらしい。基本的には人畜無害。しかし、アイヌの敵には容赦しない。

杉元佐一&アシリパ
 原作主人公とヒロイン(?)。『ゴールデンカムイ』の世界におけるベストマッチな奴等。杉元はバッタが嫌いな為、バッタの化物であるシンサンカムイもメチャクチャ苦手。アシリパの方は、確かにシンサンカムイの見た目は怖いが、それでも蛇よりは1000倍マシと言う認識。そして、今回の一件でシンサンカムイを崇拝する様になった。

牛山辰馬&尾形百之介
 土方陣営のヤベー奴等。牛山は原作で鈴川一派が潜伏していたコタンで熊を倒してモテモテだったが、シンサンカムイの活躍によって見せ場を失ってしまった。尾形はそのシンサンカムイと遭遇した訳だが、「どれだけ遠くから撃っても、まるで勝てる気がしない」と内心思っている。

谷垣源次郎
 スケベ過ぎる求道のセクシーマタギ。シンサンカムイによってフチとの約束を果たすが、「のっぺらぼう」に会いたいアシリパに最後まで付き合う事に。シンサンカムイとの絡みは少ないが、その義理堅さや人の良さを察知されたのか、網走川でベニザケ怪人にしつこく絡まれる羽目になる。

鈴川聖弘
 脱獄犯の一人。主犯格だった為、シンサンカムイにボッコボコにされた挙げ句、アイヌの刑罰を受ける事になる。アイヌの村から追放された所を土方陣営に回収されたが、白石奪還作戦では原作の通りに犬童典獄に化ける事が出来ず、詐欺師のノウハウからアイディアを出すに留まり、結果的に奪還作戦以降も生存している。

熊岸長庵
 贋作師と言う、明らかに暴力的な他の脱獄犯とは異なる雰囲気から、シンサンカムイの魔の手(?)から逃れたラッキーマン。村の女達もコイツに何かされた訳でもないし、コイツも脱獄犯達に無理矢理何かやらされている様子から「自分達と同じ被害者」だと思われ、特にペナルティも無く解放された。原作では叶わなかった白石との再会を果たし、偽物の刺青人皮について贋作師の視点から、原作以上に土方達に協力している。

姉畑支遁
 その変態ぶりは“変態水滸伝”と名高い『ゴールデンカムイ』の登場人物の中でも、ぶっちぎりで完全独走するレベルの超絶的な変態脱獄犯。原作ではヒグマにウコチャヌプコロして死んだが、この世界ではヒグマにウコチャヌプコロされて死んだ。尚、死因は原作と同じく腹上死。シンサンカムイ曰く「こんな筈では無かった」との事。

ヒグマ
 勇敢にもシンサンカムイに戦いを挑んだが、流石に相手が悪過ぎた。死に瀕した事による生存本能の成せる業か、姉畑を相手にウコチャヌプコロする。現実に人間を相手にやるのかは知らん。死後はオハウになった。ウェンカムイにはなっていない……と思う。多分。

ベニザケ怪人
 見た目は完全にゴルゴム怪人だが、中身は完全にギャングラー怪人。割と愉快な化物で、この世界線におけるイナゴ怪人ポジと言えよう。取り敢えず、クリスマスとバレンタインはシャケを食え。
 しかし、余りにもしつこい上に五月蠅かったので、アイヌに扮した土方じーちゃんにぶった斬られ、チタタプされてしまった。

土方じーちゃん「チタタプ! チタタプ! チタタプ! チタタプ!」
ベニザケ怪人「ぎゃぁああああああああああああああああああッ!!」

 余談だが『怪人バッタ男 THE FIRST』において、峰田や上鳴を筆頭とした非モテ男子達がベニザケ怪人と協力し、「クリスマスにはシャケを食え!」を合い言葉に暴れまくる番外編のクリスマス回が、未完成の状態で作者のパソコンに放置されている。
 時事ネタと言う事もあるが、もしかしたら今年のクリスマスにその話を完成させて投稿するかも知れない。そう、サモーンを上回る愉快な怪人が出なければね。


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