三題噺【旬】   作:百田

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三題噺 第2弾! 今回は綺麗には落ちませんでしたが、一応 書けました(笑)

やっぱり、人から お題を出してもらったほうが 頭使うので好きです。


原稿休止中なので、リハビリで書きました。

【旬】

 

①タピオカ  ②マスク  ③スマホ

 

「うああ…気持ち悪……」

某日、俺は布団の中で唸りまくっていた。

そして、完全に伸びていた…いや、干からびていた…熱で。

「暇だ…」

 

三日前から謎の高熱を出して学校を休み、今日は大分ましにはなったものの、今度は布団から殆ど出ない生活のせいで、色んな事に対する意力が削ぎ落とされていた。

先週の内に定期試験が終わっていて、良かった。うん、本当に良かった。

 

 

退屈を紛らわそうと、枕元に置いたスマホに、のろのろと手を伸ばす。

 

……く、届かない。

 

充電コードを繋ぎっぱなしで、あと少し! ってところで届かなかった。

「うーん」

ひょいひょい一生懸命、指を伸ばしてみるが、やはり無理だった。

しかも何だか、布団から舞い上がった埃で鼻がむずむずしてきた。

……横着は止めよう。

 

俺は、諦めて起き上がる…と、そのついでに、くしゃみも出た。

まだ少しある熱と、くしゃみのダブルアタック。

ずっと横になっていたせいか、予想以上に大打撃だ。

頭はぐわんぐわん鳴り、視界がぐるぐるする。

 

思わず目を閉じ、息を大きく吸い込んだ。

そして「ふう……」と深く吐く。

 

「ぶあっくしゅっ!!」

そしたら、また盛大なくしゃみが出た。

……おっさんみてえ。

自分の事ながら、おっさん染みたくしゃみで、ちょっと傷付いてしまう。

「マスクするかあ…」

熱気が籠って蒸れるのが嫌いで、今まで、マスクをしていなかったのだ。寝てる内に取れるし…。まあ、一人部屋だから、そこまで気にしなくても良いんだ。一応、姉貴がいるけど部屋は別だからな。

でも流石に連発くしゃみの度に頭がぐわんぐわんするより、蒸れたマスクの方が、よっぽど良い。俺は勉強机の上に置いてある、いかにも安そうなマスクの箱を目指す事にした。

実際、目指す程の距離じゃないが、今の俺には過酷な試練なんだ。

重たい身体を引き摺り、これまた酔ったおっさんの様に、おぼつかない足取りで机に辿り着くとマスクを一枚箱から抜き取った。

 

温かくなったスマホを充電コードから外し、再び布団に潜る。

それから、何と無しに、ニュース記事を読んでみる。

 

「あ?」

ある記事が目に留まった。『××県 ×××市の城下通り 新店舗OPEN!』と、大きく見出しが出ていたのだ。ちなみに×××市は、ここ。今、俺が住んでいる、正にこの市の事だ。取り敢えず、公式のサイトに飛んで、メニューを眺めてみる。

 

「へえ…タピオカジュース…かあ」

気付けば、喉がカラカラだった。つい、宣伝写真に「美味そうだなあ…」とか呟いてしまう。本当、広告を作る人も、写真を撮る人も凄いと思う。だって、美味そうだもん。

 

ふと、ある後輩の顔が浮かんだ。

同じ写真部の女子だ。

以前、タピオカがやたら流行った時、女子部員達と「私! タピオカに、ハマっちゃって~」とか「この前、東京に出来た専門店に行って来て…!」とか、キャーキャー騒いでいた。

しかも、店の外装と注文したメニューの写真をちゃっかり撮って来て「写真部ですから!」とか言いながら皆に自慢してたよな。

 

「あいつに教えてやるかあ」

 

 *

 

実は。俺の姉貴も流行時、かなりのマイブームだったらしく、無駄に多く買って来たタピオカジュースを飽きる程、俺も飲まされたのだ…。

でも正直…案外、嫌いでは無い。

おっさんの付き合い飲み会の如く、毎日飲まされていた時は渋々だったが、そこそこ経った今となると、ちょっと懐かしい。そう考えれば考える程、段々と飲みたくなってきてしまった。…今、干からびているせいかも知れないが。

 

 

俺は開いていた公式サイトのURLをコピーして、後輩のSNSに貼り付けた。

今日は土曜だが、確か部活はあったので返信は夕方以降になるだろう。

スマホの画面に目がチカチカしてきたので、大人しく枕元に置いた。

 

 *

 

「ん…?」

お気に入りのバンドの着信音(メロディー)で目が覚めた。

どうやら、あの後、寝たらしい。

ぼーっとした頭で画面を見ると、例の後輩からの電話だった。

「…ったく、何だよ」

寝起きの覚醒し切っていない思考で、通話ボタンを押した。

 

「もしもし」

「おー、生きてた、生きてた!」

開口一番、ハイテンションな女子特有のキンキンした声が、俺の耳を貫いた。

お蔭様で一気に目は覚める。

 

「はあ…お前なあ…」

「いや、返信したのに全然反応ないから、体調悪化でもして…砂漠を餓えてさ迷う旅人みたいになっているのかと…」

「おい、例え…。君は先輩に対する尊敬の念に欠けているのを、自覚しているかね?」

「えー。心配してあげたのにー」

「あー、はいはい。それからな。ドラマチックな比喩(たとえ)で、俺を遠回しに馬鹿にするのは止めてくれ」

「はーい!」

 

……こいつ。絶対、反省してねえ。

 

「ねえねえ! それで? あのURLのお店!! 何で先輩が知ってるのよ! 今でもタピオカを愛する私が知らない情報を!」

「あれ? そうなのか? 君なら、とっくに知ってるのかと思ってたのに…」

「知らなかったの!」

「お、おう…そうか」

……意外だった。

 

そこで急に静かになると「ふっ」と、後輩が微かに笑ったのが受話器越しに伝わって来た。

「ん?」

「いやあ~?」

 

……何だ、その意味ありげな言い方…。

 

「体調不良の先輩が、私にわざわざ、そんな食い付くと分かり切った情報を提供したという事は…?」

「は?」

 

……嫌な予感。

 

「先輩! 来週の日曜に〝デート〟しましょ!」

「は? 勝手にっ!」

「一緒に行きますからね~」

「嫌だよ」

「いーきーまーすーかーらーねっ!」

「嫌だって言っ…」

「じゃ! 先輩、早く体調治して下さいね!」

「こら! お前!!」

 

 

こうして生意気な後輩は、高らかに一方的な宣言をしたのだった。

ああ、叫び過ぎて頭痛が…。

 

この後も、SNSで散々「嫌だ」と伝えたのだが、この子には一切、通用せず。結局こちら側が折れた。

 

 ***

 

火曜日。

昨日は大事をとっての休みだったので、もう体調は平気だ。しかし…

 

『先輩! 来週の日曜に〝デート〟しましょ!』

 

「はあ……」

後輩の声が今も耳元でする…。

一応言っておくが、決して恋愛的な甘い残響ではない。これは真逆で呪いだ。

能天気な、おこちゃま後輩の面倒を親身に看ていた俺が馬鹿だった…。部活だけの関わりの筈なのになあ…。どうして、ここまで纏わり付いて来るんだか…。

そして俺は、少し苛々していた。

家を出る時、心配性のお節介姉貴に「あんた、またぶり返すと困るから、大変そうだったら早退して来なさいよ」とか言われながら出発したのも原因の一つだ。

朝から溜息ばかりで体調が悪そうに見えたのかも知れないが、今は心の調子が優れないと言った方が正しい気がする。

「あいつのせいだー」と不機嫌な声で、わざとらしく言ってみる。たまたま目が合った三毛猫が不思議そうに首を傾げた。

 

この時は、俺の噂で教室が盛り上がっているとは思いもしなかった。

 

 

「はよーっす」

俺が教室に入ると、集まって話していた男子達が一斉に此方を向いた。

「はよー」

「よう!」

「お早うさん」

「体調、大丈夫かー?」

皆、口々に挨拶をしてくれる…が、何かが違う。

何時もと、微妙に空気が違う。

 

「おー! 噂をすれば!!」

大声がした。クラスに一人はいる、ムードメーカー的な奴。

 

「…ちょっと…おい、何だよ」

それを合図にしたかの様に、ニヤニヤして群がって来る男子達。

いくら友達とか慣れたクラスメイトといえど、俺は後退(あとずさ)った。

「だから、な、何だよ」

 

「何だよ、じゃねえだろー」

「お前、解ってて言ってるのかー?」

 

「…は?」

 

全く意味が解らん。

皆、口調はからかっている風だが、顔が怖い。

 

「お前、まじで言ってんの?」

「お、おう…全然、意味わかんねえ…」

 

誰かが小さく舌打ちした気がする。

そこで、さっき「噂をすれば」と言った奴が、まじまじと俺の顔を覗き込みながら言った。

 

「お前さ…」

「おう」

 

キーンコーンカーンコーン

 

とHRの予鈴が鳴った。

そいつは「あー。後でな」と言って、あっさりと自分の席に戻って行った。

周りの奴等も。

俺は、朝の猫の様に首を傾げた。

……何かしたか? 俺。

 

 

昼休み、また男子が集まって来た。

そして衝撃の話を聞かされた。

 

「はあ?!」

「え? だって、写真部の女子が昨日、凄い言いふらしてたから。なあ?」

「ああ。なあ?」

「うん、本人も言ってたぜ?」

 

『日曜日、デートするんだー』って。

 

 *

 

「おーまーえーはー!!」

「えー? 先輩、何かあったんです…」

「あるわ! アホ!」

「あー、後輩をいじめる先輩がー」

「うるさい、アホ!」

「またアホって言った~」

 

……全く。この能天気さは、もっと別のところで活かして欲しい。

 

「お前が変な噂立てるから、朝から大変だったんだぞ?!」

「へ? あー、あれですか? 私は、ほんとの事言っただけですよ?」

「言い方を考えろ、言い方を! 何とかなったけど、相当な誤解されてたんだからな!」

 

そう。俺は『こいつの彼氏』になったと誤解されていたのだ。断じて違う!

休んでいる間に、なんて事だ…。

 

ちなみに〝後輩〟については、やたらと能天気なところがポジティブ、ゆるふわ系と言う評価に変換され、実際それなりに容姿も良い方なので本当の性格は関係無しに、男子の間では彼女にしたいランキングだかの上位にいるそうなのだ。しかも各学年で狙っている奴がいるとかいないとか…。

いや、まあ、見た目が可愛いのは認めるけどな?

だが! 普段、ふわふわと猫を被り過ぎているところに問題があるんだ。

素の性格との差があり過ぎる。本当は横暴で我儘言いたい放題の、おこちゃまなのに。

 

「先輩!」

「あー?」

「日曜、楽しみですね~」

「うるさい」

 

 

 ***

 

 

そして、問題の日曜日。

「先輩、先輩! こんにちはー」

勝手に迎えに来た。

何で、俺の家を知ってるのかを訊くのは怖いから、聞かない事にした。身の為だ…。

しかも最初に玄関の扉を開けたのが、運悪く姉貴だったんだ。

「え? え?! 嘘! 彼女できたの?!」と、ひとしきり騒いだ後、早とちりな姉に背中を押され、強制的に出掛ける事になってしまったのだ。

 

「先輩、照れてます~?」

「……」

「先輩ってばー」

「……」

「お姉さん、明るくて良い人ですね」

「は? 姉貴は只のお節介女だ…あ…」

「へへ。あ! 道こっちですよ!」

 

……俺の馬鹿。返事をしてしまった。

 

 

そんなこんなで、開店したてほやほやの店に辿り着いたのは、十四時頃だった。

「ここですね!!」

「ああ」

「わあ! タピオカ~」

「ああ」

「早く、メニュー見ましょうよ!」

「ああ」

……?!

生返事でぼんやりしていたら、腕を掴まれた。

「アホ、止めろっ」

「ほらほら! 来たからには、行きますよ~!」

と、半ば諦めた俺は女の子に無様に引き摺られて行き、客の誘導をしていた店員に後輩とのツーショットを撮られてしまったのだった。

あ、専門と言うだけあって、確かにタピオカジュースと、ランチメニューのサンドイッチは美味かった。

 

 

 ***

 

 

翌日。案の定、後輩は昨日撮った、色々な写真を友達に見せて回っていた。勿論、ツーショットのあれも…。

 

もう良い。俺は諦めた。

好きにやっててくれ。

誤解でも、可愛い子と付き合っていると思われる分には、良いんじゃないかと開き直る事にしたんだ。もう…はあ……

 

 

それから、暫くは男子と女子共に尾鰭がついた噂で盛り上がっていた。

よくネタが尽きないな、と関心するくらい。

まあ、俺は何を言われても動じない様に心掛けていたお蔭か、二ヵ月くらい経った今はそこまで騒がれなくなった。人の噂も七五日、ってやつだな。

特に、俺達学生は新しい情報に敏感だから、次々と〝旬の話題〟も変化するのだろう。

 

 

 

しかし、まだ問題があった。

 

「先輩! 今、林檎のタルトとミルフィーユに凄い、ハマってて~」

 

……また一緒に行ってやらんと駄目なのか。

 

後輩曰く、先輩と居ると楽しいし、ご飯も美味しさ倍増になる! 大抵、有名どころの店は都心に在る事が多いし…でも、都会は怖いイメージが強くて…でも、一緒なら怖くない!

とか…漫画に出て来そうな臭いセリフで、俺を連れまわしているのだった。

そして、誤解したままの姉貴とこいつが仲良くなってしまったのが、一番の悩みどころで…。

 

「今後、ダイエットしないといけないかも知れない」と危機感を抱き始めた俺だった。



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