「御無礼、ツモです。4000、8000。トビましたね?」
狭いマンションの一室に大きな声ではないが、やけに男の声が響いた。その男は身長が高いようだ。椅子に座りながらも、体格の良さが見える。服装は全身黒一色で、髪も黒いためまるで闇のようにすら感じられた。
部屋の中央には麻雀卓が置いてあり、その卓には四人の男が座っていた。少し離れたキッチンにはその部屋の主人が落ち着かない様子で立っている。
男が発した言葉に、反対側に座っていた男が喚めき始めた。
「あああんた、前順に上家が切った一萬は当たってないじゃないか!何で見逃した!当たっていれば私は!」
片手に持った煙草を振り回し責め立てるが、その男は静かに言う。
「ツモれる流れでしたので」
ただ静かに、当たり前のように言った。男は紫煙を漂わせながら、淡々と。
「まま、待ってくれ!この金が無くなると俺は首を吊らないといけなくなる!せめて、金を貸してくれ!もう一戦だ!」
脂汗が滲む顔を歪ませながら言うが、その男は顔色一つ変えずこう言った。
「死に金は回せません」
そう言って男は立ち上がり卓上に置かれた金を紙バックに入れると一瞥もせず、マンションを後にしていく。
「ああああ助けてくれ!お願いだあああ!」
虚しく男の声が響いた。きっとこの男はもう近々消えるのだろう。同卓していた者たちもその男ほどではないにしろ、金を毟られている。むしろこの程度で助かったとすら感じていた。
「あれが人に鬼と書いて、傀か……」
部屋の主人はただ客を食われ、ただ麻雀を打ち、ただ金を奪っていった男が出て行った扉を見つめる。傀が去った後の部屋は寒気すら感じられた。
八十年代、バブルが幕開けた。
地価が高騰し、貨幣の価値が基準を超え上がり人々は金を持て余した。
ギャンブルにかけるレートもます一方であり、麻雀もその内の一つ。
その高レート麻雀の世界に一人の男がいる。
曰わく「人鬼 」、「むこうぶち」などと人の呼び方ではない。
その男は麻雀があるところに突如として現れ、金を奪っていくと言う。
麻雀というゲームに置いて、無敗は有り得ないことではあるが、その男は最後には金を奪っていく。
背が高く、常に全身黒色の服を着ており、顔も整っており死神とも思われるような男だ。
麻雀が終わると直ぐに消えるそんな男は、果たして普段どのようなことを思い、どのように生活しているのだろう。
先程出て行った後の様子は………………
「……あー怖かった。後ろから追いかけてこないよね?」
紙袋をしっかりと脇に抱え、かなりの小走りで情けないことを呟く姿だった。