夜が明け、交通機関が動き出すと共に、人々も活気付き始めるころ。
東京のとある場所の、年々ビルが生えてくるようになってきた都内より少し離れた閑静な住宅街に看板はおろか、電気すら付いていない店がある。
木造二階建で、オブラートに包んでも、風情のある家屋としか言えないようなもの。
玄関に申し訳程度に「カフェ 平和」と書かれており、そのネームプレートすらボロボロだった。
そんな建物に先程の男は迷わず入っていき、鍵が開いていないことに気付くと、ポケットから鍵を取り出しドアを開けた。
中は外見からは想像もつかないほど、云わば洒落ている内装だった。
カウンター席が四つあり、テーブルを挟むと色々な種類の珈琲豆が置いてあり、様々なポットやアルコールランプがおいてあるため、サイフォン式のものもある。
キッチンなどもありはするが、しかしどちらかというとウイスキーや日本酒、焼酎など酒の種類が多く、カフェよりもバーのような品揃えだった。
そんな店のカウンター席の向こう側に一人の男性が腕を組み、椅子に浅く座りいびきをかいていた。
年齢は恐らく三十代ほどで、眼鏡をかけ少し長めの髪を後ろで縛っていた。
入ってきた男はその様子をみて、少し溜め息をついたあと起こさないためか、持っていた紙袋を一つだけあったテーブル席置き、椅子に座る。
テーブル席に置いてあった煙草に火をつけるとゆっくりと吸い始める。
音は外から聞こえてくる鳥の囀りと、呼吸音だけで、時間がゆっくりに感じられた。
紫煙の匂いにつられたのか、寝ていた音が止みテーブル席の男へ声をかけた。
「……おーお帰り。いつ帰ってきた?」
「ついさっきだよ」
「また徹マンか?」
「うん。お客さんに最後までねばられて……」
「とかいいつつ勝ったんだろ?」
「まあね」
だろうな、と寝ていた男性は笑い、つられて男も笑う。
その笑みは麻雀中の表情とは正反対で、年相応の眠そうなただの男の笑みだった。
「とりあえず軽食でも食べるか?」
「そうだね。麻雀中は何も食べてないし」
「体にわりーぞ、それ」
「教えたのは
「まあ、実際そうだと思うしな」
「流れ論者になったのも義兄さんのせいだ!」
「馬鹿言え義弟よ、流れはあると盲信するからこそ、流れに乗れるのだよ」
義兄、と呼ばれた男は立ち上がりキッチンスペースへ立つとフライパンに火をつけソーセージを焼き始める。
「それで?今日はどんな麻雀だった?」
「今日は強い人はいなかったよ、普通のサラリーマンだった。でも最後は完全に仕上がったし、レートの割にはいい麻雀だったと思うよ」
煙草を吸いながら、男は今日の麻雀を出来を話し始める。まるでただの日常のように。
「うわ、オッサン達も可哀相に。そこそこ紙袋厚いから五百くらいか?レートもそんなに高いそうじゃないから、そのオッサンやばいんじゃね?」
「だってそのオジサン最初めっちゃ勝ってたから、調子乗り始めてついイラッとして……」
「義弟ながら末恐ろしいほど熱くなるからな」
焼いていたソーセージと平行して、食パンをトースターへ入れていく。
「まあ金をかけた時点で無くなっても文句は言えないよね」
「違いない、ほれコーヒーはどうする?」
「牛乳と砂糖入れてよ。胃が痛い」
「カッコつけて雀荘ではブラックしか飲まないからだよ」
「うるさい」
「大体そのファッションもやばいからな?雀荘だからまだいいけど、都市のド真ん中を黒ずくめで歩くのは流石に……」
「義兄さんだって基本ジーンズと白のタンクトップしか着ないじゃないか!」
「馬鹿ヤロウ!お前のは訳わからん格好付け!俺のはシンプルなだけだ!」
「真冬でもそれ着てるのは可笑しいよね!?」
「筋肉が俺の服装なんだよ!」
そう言った男の服装は、確かに白のタンクトップのジーンズだった。確かに男は筋肉質で体格もいいが、明らかに店員の服装ではない。
そしてマッスルポーズを決めるのは、端からみても気持ち悪いだけだった。
「それはそれで頭可笑しいよ!俺だってシンプルなだけじゃないか!変に裸体晒しているよりマシだよ!」
「やかましい!黒一色でクロイーソーってか!?ある意味ダサすぎて役満だな!」
「なんだと!?この筋肉モリモリの変態マッチョマン!」
「やるか!?この中学生みたいな美意識のクソダサ野郎!」
和やかな雰囲気は何処かへ消えてしまい、いい年こいた男二人は睨み合っていた。
しばらく睨み合っていると、トースターの甲高い音がなった。
それに続き、二人の腹の音が鳴り響いた。
「……こういう時は決まっている」
「……そうだね、こういう時は」
「「麻雀で勝負しよう」」
「ま、その前に飯だな飯」
「そうだね、イチゴジャムとってよ」
この物語は、むこうぶちの麻雀ではなく、そのむこうがわの
、ただの義兄弟の日常生活である。