ぽってぽってと飛び跳ねながらやってきた黒いボスは、ともえを見上げて言った。
「はじめましテ。俺はパークガードロボット、ランボービーストダ。お前の名を聞かせてもらおうカ」
「え? ええと、ともえ、だよ。はじめまして……。あれ? イエイヌちゃん?」
イエイヌはわなわなと震えながらランボービーストを睨んだかと思うと、尻尾を真っ直ぐに立て、牙を剥き出しにしながら両手を掲げて吠えた。
「ボスの偽物めぇっ!! ともえさんに近付くなぁぁぁぁぁっっ!!」
「ええええええイエイヌちゃん?!」
オープニング
(好きな曲をお流しください)
未だに尻尾をぴんと立てたまま唸っているイエイヌの腕を抱えるようにして、ともえは「ランボービースト」を見下ろした。
「えーと、ランボーちゃん……ランボちゃん? でいいのかな? パークガードロボットって言ってたけど、こっちの青い子とは別の種類なの?」
「そうダ。こっちはパークガイドロボットのラッキービースト、パーク内でのアトラクション案内や施設の管理、ジャパリまんの補給を担当していル。俺はパークガードロボット、パーク内のヒトをセルリアンから守り、安全な場所まで案内し、護衛するロボットダ。よろしく、トモエ」
「うん! よろしくね」
ともえは笑顔で言ったが、グルグルと唸り続けているイエイヌはランボービーストを見下ろして低い声で言った。
「……ともえさんに乱暴したら怒りますよ」
「ら、乱暴ってイエイヌちゃんったら……えっランボちゃんの名前って、そこから来てるの?!」
「ランボーは勇敢な兵士という意味ダ。乱暴者という意味ではないゾ」
「なぁんだ、よかった……」
「……本当に護衛目的ですか? ランボービーストなんて見たことないですよ」
イエイヌの警戒はなかなか解けなかった。ともえは苦笑してランボービーストに尋ねる。
「ランボちゃんは、今までどこにいたの? 他にもランボちゃんはいるの?」
「俺は『待機地点で覚醒したヒトを護衛すること』を最後の任務として、スリープモードに入っていタ。トモエが起きた場所の近くダ。ランボービーストは他にもたくさんいたが、現在地の反応は全てロスト、把握できなイ」
「……覚醒したヒト? じゃあ、あたしがどうして眠っていたか知ってるの?!」
「データ、検出できズ。答えは『知らない』ダ、トモエ」
「ええっ……そっか……」
振り出しに戻ってしまった。ひとまず、籠を抱えたまま立ち尽くしているラッキービーストからジャパリまんを受け取り、木陰で話すことにした。ランボービーストは相変わらず巨大なリュックをずりずりと引きずっている。
「あのね、ランボちゃん。あたしたち、ヒトがいた場所に行きたいの」
「ともえさんの『おとうさん』と『おかあさん』がどこかにいると思うんです。なので、ヒトがよく集まっていた場所とか、たくさんヒトがいた場所とかに行きたいのですが」
「了解。マップ情報を取得。パーク内の利用状況分析システムにアクセス。検索中。検索中」
ピコピコと音を立て、ランボービーストのベルトにある丸いものが光り始めた。意味は分からないが、細かい文字が忙しなく表示されている。しばらくそれを眺めながら、ランボービーストの返事を待った。
「何か分かるといいんだけどなぁ。イエイヌちゃんは、ランボちゃんを見たことがなかったんだよね」
「はい。私もパークに特別詳しいわけじゃないですけど、黒いボスは初めて見ましたし、ただでさえ黒いのにさらに黒いものも着けてるし……怪しいです。信用できないです」
「あはは、イエイヌちゃんったら……」
「それに、こんなに喋るボスも初めて見ました。ともえさんが、ヒトだからでしょうか……?」
「えっそうなの?」
「フレンズと話しているボスなんて見たことがないです。……このボス、色も話し方も変ですよ。セルリアンのにおいはしませんけど、私、あんまり信じられないです」
「うーん……ちょっと様子を見てみようよ。あたしだってまだ起きて二日目だもん。他のフレンズちゃんにとっては、あたしも変に見えるんじゃないかな」
「そんなことないと思うんですけど……分かりました。まずは敵を知るところからです」
「て、敵ではないんじゃないかなー……?」
ピコピコ、と音を立ててランボービーストが放つ光は止まった。ベルトの丸いものに地図が表示される。
「検索完了。ルートを検出したゾ。目的地は遊園地だナ」
「遊園地なんてあるんだ!」
「ゆうえんち、ですか?」
きょとんとイエイヌが首を傾げた。ともえは頬に指を当てて視線を上にやる。
「あたし、なんとなく覚えてるよ。色々遊べるものがあって、楽しいところだった記憶がある」
「そうなんですね!」
「遊園地には、多くのアトラクションがあり、パーク内で最も利用者が多く、宿泊施設も付属。ヒトが長期間、大勢滞在した場所といえば、まずはここダ。目的地まではここから複数の地方を横断して向かうため、乗り物の使用をおすすめスル」
「乗り物? あたし、運転できないけど大丈夫かな」
「問題ナイ。俺が操縦できル。シンジロ」
「分かった。よろしくね、ランボちゃん」
「……ん? つまり、ともえさんの命をこれに預けるというわけですか?! 大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫だよイエイヌちゃん! たぶん! あたしもよくわかんないけど!」
また尻尾を立てて唸り始めるイエイヌに苦笑して、ともえは話を変えた。
「そういえば、ランボちゃんはたくさん荷物持ってるけど、そのリュックは何?」
「個人野営用装備一式……キャンプセットダ。パーク内の移動は野営が前提になるからナ。ヒトには必要だろうと判断し、持ってきたゾ」
「へ~! ちょっとわくわくするね!」
「……それにしては、ヒトのにおいがしませんね」
イエイヌが鼻を鳴らして言うと、ランボービーストはともえを見上げて言った。
「これは新品ダ。衛生的にも問題はナイ。利用方法はキャンプ地を決定し次第、説明するゾ」
「ありがとう! その荷物も載せられるような乗り物を使えたらいいんだけど」
「格納庫はこっちダ。移動するゾ」
ランボービーストはリュックを頭に乗せたが、明らかに端は地面に擦れ、歩みも遅かった。なんだか可哀想になってともえも手伝おうとしたが、見た目よりも重くて持ち上がらない。
「ええっ、これ、結構重いんだね?! イエイヌちゃん、そっち持ってもらってもいい?」
「はい!」
イエイヌがともえの反対側からリュックに腕をかけたかと思うと、ひょいっと持ち上がってしまった。ともえが目を丸くしている間に、イエイヌはリュックを両手で抱えてしまう。
「イエイヌちゃん、大丈夫?! 重くない?!」
「私は平気ですよ~!」
「フレンズは、ヒトと比べて身体能力が高く、腕力に優れる場合も多いんダ。特にイエイヌは、運搬能力も高い方だからナ」
「そ、そうなんだ……ありがとう、イエイヌちゃん。乗り物に載せるまで、任せてもいいかな」
「もちろんです! 何かの時はこのランボービーストの頭に戻せばいいですからね」
「イ、イエイヌちゃん~~……」
「……イエイヌは……外敵への警戒心の強い動物だからナ……仕方……仕方ナ……」
「ランボちゃんまで……」
見慣れないものに対してここまで警戒するのかと、ともえは苦笑してしまった。同時に、もしイエイヌがヒトを待っていなかったら、と想像してしまう。珍しいフレンズ、と言われた以上、ともえの見た目は他のフレンズにはあまりないのだろう。そんなともえと出会ったら、イエイヌはどうしただろう。
少し背筋が冷たくなって、ともえはランボービーストとイエイヌに挟まれた状態で困り顔で笑ってしまった。仲良くなってくれたらいいんだけどなぁ。
ランボービーストの案内で向かったのは、ともえが最初にいた建物とは反対側にある、また別の森だった。そこには金属製の巨大な箱のような建物があり、一定間隔で溝の入った四角い蓋がされている。ランボービーストが蓋の隣に向かうと、ピコピコン、と音がした。溝が入った蓋だと思っていたものが音を立てて折りたたまれていき、上へと吸い込まれていく。
「うわー、ここ開くんだ!」
「……少し変わったにおいがしますね。金属がたくさんあります」
「ランボちゃん、ここに乗り物があるの?」
「そうダ。たくさんあるから、好きなものを選ぶとイイ」
ぴょんこぴょんこと跳ねながら、ランボービーストが建物に入っていく。ともえはイエイヌと顔を見合わせたが、ゆっくりとその後を追いかけた。
ともえたちが入ると、音を立てて照明が点いて明るくなった。自転車ならともえも運転したことがあるが、他には色んな種類のバイクや車が並んでいる。飛行機らしいものまであった。
「うわ~~! 本当にたくさん! あたしとイエイヌちゃんとランボちゃんで乗れるもので、荷物がたくさん積める乗り物って、どれかな……」
「埃とか、古いにおいはしませんね。これもボスたちが綺麗にしてるんでしょうか……」
「ボスって、すごくたくさんお仕事してるんだね。大変だな……」
「トモエ」
ふとランボービーストに呼ばれて振り返ると、とある乗り物の前で飛び跳ねていた。「これはどうダ」と言うから見てみると、水色のスクーターに小さな同色のオープンカーがくっついた乗り物だった。車輪は全部で三つあり、どのタイヤも大きくてごつごつしている。
「ランボちゃん、これなに?」
「サイドカー付きオートバイだナ。車輪が三つで安定しているし、サイドカー付きでスクーター型であるため、積載量も多いのが特徴ダ。ヘルメットの装着をおすすめするゾ」
「へえ……イエイヌちゃん、荷物が入るか試してみようよ」
「はい! えーと、後ろ? ですね?」
スクーターとサイドカーの後部が繋がっていて、トランクになっているらしい。大きなリュックも入り、ともえのバッグはスクーターの座席にある収納部分に入れることができた。イエイヌはサイドカーの方に座り「おお」と表情を明るくする。
「ともえさん! これ、いいと思います!」
「本当? じゃあ、これにしようかな。水色で可愛いし! えーと、じゃあ次はヘルメットだね。ランボちゃん、ヘルメットってどれでもいいの?」
「顔をすっぽり覆うタイプをすすめるゾ。フレンズ用に、耳をカバーするものもあるからナ」
ランボービーストが向いた方には、ヘルメットがずらりと並んだ棚があった。ともえは真っ先にスクーターと同じ水色のヘルメットを選び、イエイヌは少し悩んだ後に、真っ青なヘルメットを手に取った。イエイヌの尖った耳も潰すことなく、すっぽり頭を覆うことができそうだ。
「あれ? そういえば、ランボちゃんのヘルメットはないの?」
「俺はいらないんダ」
「そうなの? あ、眼鏡? つけてるから?」
「イヤ。これは目を守るために着けているだけダ」
「え? ランボちゃん、目が弱いの……?」
まさかそんな事情があると思わなくて尋ねると、ランボービーストはぴこりと眼鏡を跳ね上げた。左目のあった場所はひび割れてしまい、金属質な丸い目が剥き出しになっている。イエイヌの毛がびゃっと逆立ち、ともえも一瞬怯んでしまった。
「ランボちゃん、それは……?」
「スリープモードに入る前の作戦で破損したんダ。片目だけ光に過敏になっているから、サングラスをかけていル。視覚情報の取得には問題ナイ」
「そうなんだ……。痛くないの? 平気?」
「ロボットに痛覚はナイ。……大丈夫だヨ、トモエ」
「そっか! よかった……」
ぴこりとサングラスを戻したランボービーストと、やっと毛並みが落ち着いたイエイヌを見て、ともえは「あ!」と声を上げた。
「どうしました? ともえさん」
「あ、ごめん、大したことじゃないんだけど……あたしたち、三人とも片目ずつ違うんだなーって思って」
「言われてみれば、そうですね! ともえさんも、片方は青だけど、もう片方の目は違う色です」
「ね! えへへ、偶然かもしれないけど、おそろいがあるって嬉しいね!」
「はい~! そうですね!」
イエイヌは嬉しそうな顔をしたが、はっとランボービーストを振り返った。
「いえ! まだ! 仲間と認めたわけではありませんからね! これからです! これから!」
(あ、よかった……これからは認めてくれるんだね……)
ふふ、とトモエはこっそり笑ってヘルメットをかぶった。イエイヌも慎重にヘルメットをかぶる。
「イエイヌちゃん、耳痛くない?」
「はい、平気です!」
「よかった! よーしっ、出発進行~! よろしくね、ランボちゃん」
「シンジロ」
イエイヌがサイドカーに座り、ともえもスクーターにまたがると、ランボービーストはハンドルの間に飛び乗った。ピコン、と音を立てたかと思うと、エンジンがかかる。
「うわー! 動いた!」
「ハンドルをしっかり握っておケ」
「うん!」
ともえはハンドルを握っているだけだったが、スクーターはゆっくりと動き始めた。建物から出ると折りたたまれていた蓋が下りてきて、元通り閉まっていく。森の中を通る道に出るとスクーターのスピードが増し、どんどん風を切って進んでいった。
「はやーい! すごーい!」
「これはいいですね! 自分で走るよりも速いかもしれません!」
「この道路は整備用にラッキービーストが整えているから、スピードも出せるんダ。このまま草原地方を抜けるゾ」
「はーい!」
ともえは座ったまま、景色だけが飛ぶように過ぎていく。あっという間に森を抜けると、開けた草原に出た。見渡す限りの緑。遠くには高い山が続き、空は広く澄み渡っている。運転をランボービーストに任せていると、周囲の景色を楽しむ余裕があってよかった。
「すごく広いんだね! フレンズちゃんもいるのかな~」
「ともえさん、ウマのフレンズさんたちが走ってますよ!」
「えー! どこどこ?!」
イエイヌの指差す方向を見ると、軽やかに草原を走っていく人影があった。長い髪が風になびいて、とても綺麗だ。
「わぁ……色んな子がいるんだね。みんな走るのが好きなのかな」
「草原でゆっくり過ごすフレンズは少ないからナ。走るフレンズの方が目立つものダ」
「へ~。それはやっぱり、動物の頃そうしてたから、とか、そういう感じかな」
「覚えていなくても、習性を引き継いでいるフレンズは多いゾ」
しばらく景色を楽しみながら走っていると、やがて広い畑に挟まれた道に出た。色んな作物が育てられており、たまにラッキービーストが籠を支えて飛び出して、大きな建物へ向かっていく。
「ラッキーちゃんだ! ここで何してるのかな」
「ここはジャパリまんの生産地だナ。左右にあるのは全部畑ダ」
「全部?! すっごく広いよ?!」
ともえは思わず周囲を見回した。先ほどまで地平線まで緑が続いていたが、今は背の高い作物などで遮られ、どこまで畑が続いているのか見えなくなっていた。ランボービーストはスクーターの速度を少し落としながら言う。
「日当たりも良く、降水量も適切な地域だからナ。気候が安定した地域で大量生産して各地に輸送スル。効率的ダ」
「色んな野菜のにおいがします~。お腹がすいてきますね」
「ヘルメットしてても分かるんだ、すごいね! じゃあ……ランボちゃん、どこかで休憩したいんだけど、いい?」
「了解。進路を変更スル」
ランボービーストがスクーターを向かわせたのは、畑の外れにある小高い丘だった。道にスクーターを置いて、木陰に座る。いつの間にか太陽は真上に来ており、移動を始めてからいつの間にか時間が経っていることが分かった。
「いただきまーす!」
「いただきます!」
お昼ご飯は、水筒に入れたイエイヌお手製のお茶と、ジャパリまんだ。そよそよと涼しい風が吹き抜けていき、それに合わせて木漏れ日も揺れる。
「んー、お外で食べるジャパリまんも美味しいね!」
「そうですね! いつも食べてる味ですけど、いつもより美味しい気がします」
「えへへ。ピクニックみたいだな~。それに、景色も綺麗。めっちゃ絵になる~」
少し高い丘に来たおかげで、今は広々と続く畑も一望することができた。広大な畑の手入れをするラッキービーストの苦労を想像すると手放しで喜べることではないかもしれないが、晴れ渡った空の下で風に揺れる畑の作物は、とても絵になった。ふと反対側に目をやると、もさもさと葉が生い茂っている場所もある。こちらも畑かと思ったが、ラッキービーストもそちらでは作業していない様子だった。
「ランボちゃん、あっちの葉っぱがたくさんあるところは何? あれも畑?」
「いや、あれはタデアイだナ。虫除け、毒蛇除けになる植物で、昔の戦士はあの植物で足の装備を染めていたらしイ」
「染める? 葉っぱで?」
ともえは何となく想像したが、靴下にぎゅうぎゅうと葉っぱを押し付ける方法しか浮かばなかった。それを察したのか、ランボービーストが言う。
「あの葉を煮込んで布を入れると、青く染まるんダ」
「そうなんだ……不思議だね。葉っぱはあんなに綺麗な緑なのに」
「実には解毒作用もあり、薬として使われていた歴史もある植物ダ。覚えていて損はないゾ」
「うん、ありがとう。たくさん生えてるんだねー。……あれ?」
指で囲いを作って景色を眺めていると、少し離れたところに建物があることに気付いた。屋根が一部崩れ、ツタに覆われている様子だが、尖った屋根が綺麗だ。
「あそこにも建物があるんだね」
「行ってみますか?」
「うん!」
水筒を片付けて、再びスクーターにまたがった。とことことスクーターを走らせて建物に向かうと、誰かが扉を叩いている。
「ヒツジあるじー! 開けてよー! クーちゃんと遊ぼうよー! ねーってばー!」
長い黒髪と首にかけた大きな白い首輪を揺らして、バンバンと扉を叩いていた。髪にはピンクのヘアピンを着けている。小さな尖った耳と短い尻尾があるから、彼女もフレンズなのだろう。ランボービーストがスクーターを停めてから、ともえとイエイヌも建物に向かった。
「こんにちはー! 何してるの?」
「あれれ?」
振り返ったフレンズは、ともえとイエイヌとスクーターを見比べて「わああ」と目を輝かせた。
「フレンズだー! どこから来たのー? ヒツジあるじの友達? クーちゃんと遊ぶー?」
「あわわわ」
立て続けに質問されて慌てていると、ランボービーストが言った。
「クビワペッカリーのフレンズだナ」
「クビワペッカリー?」
「あれー? 私のこと知ってる? そうだよ、クーちゃんはクビワペッカリー! このクビワが目印なんだー! きれーでしょー?」
そう言って、クビワペッカリーは首に対して大きすぎる白い首輪を見せてくれた。かと思うと、イエイヌに駆け寄る。
「あなたもクビワがあるの? 変わった形だねー」
「これは首輪じゃなくて、ハーネスですよ」
「はーねす?」
不思議そうにしているクビワペッカリーを見て、ともえは慌てて言った。
「はじめまして。あたしはともえ。こっちは、イエイヌちゃんだよ」
「はじめまして、イエイヌです。私たち、森の方から来たんです」
「そうなんだー! クーちゃん、あんまり遠くに行かないから知らなかったー。二人は、遊びに来たの?」
「えーっと、うーん、そうだね? そうかも!」
何の建物だろう、と気になって立ち寄っただけだから、と答えると、クビワペッカリーは輝くような笑顔になった。
「じゃあじゃあ、クーちゃんと遊ぼうよ! トモエあるじと、イエイヌあるじって呼んでもいい?!」
「ええ?! あるじ?!」
思わぬ呼び方にイエイヌと二人で驚くと、クビワペッカリーはきょとんと首を傾げた。
「一緒に遊ぶなら、もうお友達でしょー? じゃあ、あるじって呼びたいなーって」
「そうなんだ……えっと、じゃあ、うん、お友達に、なろう! クーちゃんって呼んでもいい?」
「いいよー! 何するどこいくー?! あるじと一緒ならどこでもついていくよー!」
ともえとイエイヌの周りを駆け回って笑うクビワペッカリーを見て、ともえは苦笑した。
「元気いっぱいなフレンズちゃんなんだね」
「クビワペッカリーさん、さっき『ヒツジあるじ』と呼んでいましたが……」
「あ! そう! そうなの!」
急に足を止めたクビワペッカリーは、真剣な顔でともえたちを振り返った。
「今日もヒツジあるじと遊ぼー! と思って来たんだけど、ヒツジあるじが出てきてくれなくって……クーちゃん何かしちゃったのかな……」
「そうなんですか? それは気になりますね」
「トモエあるじとイエイヌあるじと遊べたら嬉しいけど、ヒツジあるじもいたらもっと楽しいのになー」
クビワペッカリーはしょんぼりと肩を落としてしまった。ともえも建物を見上げる。
「どうしたんだろう……具合が悪かったりしないといいんだけど」
「え?! ヒツジあるじ、病気なの?!」
「えっいやあの、もしそうだったら心配だなって────」
「待っててねヒツジあるじー! あるじのためなら火の中水の中だよー!」
「ちょっと、クビワペッカリーさん!」
クビワペッカリーが駆け出したのを見てイエイヌが慌てて追いかけたが、クビワペッカリーの猛烈な勢いを止めることはできなかった。クビワペッカリーが突進して扉をこじ開ける。
「ヒツジあるじー!!」
「待ってください~!!」
「きゃああああああ?! 何なのよおおおお?!」
三者三様の声が上がり、ともえは急いで扉に駆け寄った。
「だ、大丈夫?!」
「クビワペッカリーさん、落ち着いて!」
「ヒツジあるじに何かあったら私は~!! 絶対助けて……あげ……あれれ?」
イエイヌに抱えられたままじたばたと暴れていたクビワペッカリーが、きょとんと動きを止めた。室内では、二本の編み棒と毛糸玉を抱えて座り込んでいるフレンズがいる。
「ヒツジあるじ、元気だったー! よかったー!」
「クビワペッカリー?! それに、あの、誰?! どこのフレンズなのよ?!」
「あはは……ご、ごめんなさい……」
ともえは困り切って、笑うしかなかった。
【例のBGM】
らっきーびーすと(ナス科担当)
「クビワペッカリーは、鯨偶蹄目ペッカリー科の哺乳類だネ。ペッカリーの中では体が小さくて、全身が暗灰色など暗い色に対し、首周りに白や黄褐色の帯があり、これが首輪に見えることから、クビワペッカリーと呼ばれているヨ。視覚や聴覚の代わりに、嗅覚がとても発達している動物で、仲間に体を擦りつけてにおいをつけることで、コミュニケーションを取ると言われているネ。群れで行動する動物で、もし肉食獣に襲われた時は、一番弱っている個体が肉食獣の注意を引き付けて、他の仲間を逃がす行動を取ることがあるヨ」
ともえたちから話を聞いたヒツジは「なるほど」と溜息を吐いた。
「トモエたちは旅の途中に立ち寄っただけで、クビワペッカリーは心配して飛び込んできただけだったのね。……心配かけちゃってごめんね、クビワペッカリー」
「ううん、クーちゃんも早とちりしちゃって、ごめんなさい……。でもヒツジあるじ、どうして今日は遊んでくれなかったのー? クーちゃん寂しかったよー」
「……あー、恥ずかしいなぁ」
ヒツジはもこもこと丸まった髪の上から頬を押さえて俯いたが、やがて籠から何か取り出した。毛糸で編んだ筒だ。
「クビワペッカリーが、おそろいの首輪が欲しいって言ってたでしょ? それで、次に遊ぶ時までに、最っ高にぷりちーな首輪を作ってやるって決めてたの。だけど、なかなか納得できるものが作れなくって……」
「えー?! そうだったの?!」
「ヒツジちゃん、自分で作ってたの? すっごーい! これ、毛糸だよね?」
ともえが言うと、ヒツジは「そうよ」と笑った。
「私の髪ってば、すぐに伸びちゃって、ぷりちーに整えるのが難しかったのよ。でも、先生がこのおうちにある道具の使い方を教えてくれたから、自分の髪を切って、毛糸にする方法が分かったの! それを編んで、首に巻いたらぷりちーじゃない? と思って、作り始めたのはよかったんだけど……」
ヒツジは落ち込んだ様子で、毛糸で編んだ真っ白な布を膝に置いた。
「白い首輪って、クビワペッカリーがいつも着けているものと一緒でしょ? 大事な友達にあげるんだもん、特別ぷりちーなものを用意してあげたかったの。……間に合わなくて、こんなことになっちゃったけどね」
ヒツジは金具から外れたままの扉を見て遠い目をした。ともえは慌てて言う。
「と、扉はすぐに直すよ! あたしがクーちゃんに勘違いさせちゃったみたいなものだし……」
「ああ、そういうつもりじゃないの。クビワペッカリーが勢い余って外しちゃうこと、よくあるから」
「えへへ、ごめーん……ねえヒツジあるじ、そのクビワ着けてみてもいい?」
「いいけど……まだ作りかけなのに?」
「いいのいいのー!」
もふもふとした輪を首にかけたクビワペッカリーは「おお」と目を輝かせた。少し締め付ける大きさなのか、押さえられた長い髪がもふりと膨らんでいる。
「あったかーい!」
「でしょ? クビワペッカリーったら、風が寒い日も走って遊びに行くんだもの。私は全身もこもこしてて温かいけど、あなたはそうじゃないんだから。それで、温かい首輪を用意できたら、と思ったんだけど……」
「これ、真っ白でクーちゃん好きだなー! ヒツジあるじとおそろいだよー?」
「……そうだけど、なんか違うのよね」
ヒツジは溜息を吐いた。イエイヌは「そうなんですか?」と不思議そうにクビワペッカリーを見ているが、ともえは「あっ」と声を上げた。
「もしかして、クーちゃんの髪も服も黒いから、気になるの?」
「そう! そうなの! 色のバランスってものがあるじゃない? できたら、ほら、せめて髪飾りと同じ色を入れたかったの。でも、私の髪と同じ色の毛糸しか用意できないから、それも難しくって」
「色、かぁ……」
ともえはなんとなくクビワペッカリーが身に着けた毛糸の首輪を見つめた。
「クーちゃん、これ好きだよ? 結ばなくても落ちないし、あったかいし! ヒツジあるじとおそろいだよー?」
「ありがとう。でもせっかくなら、もっとぷりちーにしたいのよっ! 私は白くてぷりちーだけど、クビワペッカリーは黒くてぷりちーなんだから」
「クーちゃん、ぷりちー? えへへ~」
「仲良しなんですね、二人とも」
ほのぼのと話している三人を見ていると、ふとタデアイを思い出した。
「ねえ、ランボちゃん。タデアイは青に染めることができるんだよね。ピンクに染めることができる植物もあるのかな」
「了解。検索中、検索中……」
ピコピコとランボービーストが音を立てると、クビワペッカリーとヒツジが振り返った。
「なになに~? 今ボス、しゃべった?」
「不思議なこともあるのね。……というか、いつものボスと色が違うのね?」
「えっと、ランボービーストっていうんだって。ねえ、ヒツジちゃん。毛糸を染めたことある? 白い毛糸も、他の色を付けられるんだって」
「そんなことができるの?! 素敵ね!」
ヒツジが目を輝かせたのを見て、ともえは嬉しくなって続けた。
「あのね、タデアイって植物の葉っぱと毛糸を一緒に煮込むと、毛糸が青くなるんだって」
「タデアイ?」
「あっちの丘の近くでいっぱいわさわさしてる葉っぱなんだけど、知らない?」
「それならわかる~! クーちゃん、そこよく走ってるから!」
「葉っぱを、にる? っていうのをしたら、毛糸が青くなるのね?」
「そう、らしいよ。ランボちゃんが言ってたの。だからもしかしたら、毛糸をピンクにする方法もあるんじゃないかなって思って」
「素敵じゃないの! 毛糸の色を変えることができたら、編み物の幅も広がるし、またぷりちーが増えちゃうわねっ」
両手を合わせて笑うヒツジを見て、クビワペッカリーも嬉しそうにしていた。イエイヌも笑って言う。
「この辺りは畑もありますし、ボスに事情を話したら、ピンクに染まるものもくれるかもしれませんね!」
「そうだね! 手に入りやすいのがあるといいんだけどな……」
「検索完了」
ポコン、と音を立てて作業を終えると、ランボービーストはともえを見上げた。
「トモエ。草木染め教室の資料にアクセスしたゾ。ピンクに染める植物として、周辺の植生上入手しやすいのは、ビワの葉ダ」
「ビワ? ビワって、あのオレンジ色の果物だよね? オレンジじゃなくて、ピンクに染まるんだ……」
「びわってなにー?」
クビワペッカリーに尋ねられ、ともえはスケッチブックを開いた。オレンジの色鉛筆でビワの実を描く。
「こういう実がなる樹なんだけど、知らない?」
「あー! それならクーちゃんわかる! 近くにあるよー」
「本当?! じゃあ、早速取りに行こうよ!」
「おー!」
ランボービーストも連れて四人で建物を出ると、クビワペッカリーは建物の裏へと走っていった。慌てて追いかけると、いくつも樹が並んでいる。クビワペッカリーが示したのは、その中でも背の高い樹だった。枝から箒のように何枚も葉が伸びている。
「この木だと思う~! 前に、さっきみたいな木の実、食べたことあるから!」
「ありがとう、クーちゃん! ランボちゃん、葉っぱってどれぐらい必要なのかな」
「染めるものの大きさによるが、毛糸玉一つ分なら、トモエの帽子いっぱい分で足りるだろうナ」
「わかった!」
みんなで協力して、高さが足りない枝から葉を取る時はイエイヌがヒツジを肩車して、帽子に葉っぱの山ができるぐらい集めた。
「いっぱい取れましたね!」
「これでピンクの毛糸ができるのね。……不思議ね。どうなってるのかな」
「あ! トモエあるじ~、たであい? も取ってきていいー?」
「いいよ! 青い毛糸も作ってみる?」
「そうねっ、白とピンクと青の毛糸があったら、とってもぷりちーだと思うの」
ヒツジの同意もあり、タデアイも抱えるほど集めた。タデアイの葉を千切っていたイエイヌが言う。
「ともえさん! この葉っぱ、千切れたところが青いですよ!」
「えっそうなの?! そっか、それで青く染めてくれるんだ~!」
「ふふっ、毛糸に色を付けるのが楽しみねっ」
ヒツジのお家まで戻り、ランボービーストが持ってきてくれたキャンプセットから焚火台と鍋を取り出した。四人でビワとタデアイの葉を水で洗っている間に、毛糸をことことと鍋で煮込み、温める。綺麗に洗った葉は細かく千切り、それぞれザルに入れてから鍋に重ねた。葉が浸るぐらいの水を鍋に入れて、またぐつぐつと煮込む。お湯が温まった頃合いに、鍋に毛糸を入れて、さらに煮込んでいく。
「これでいいんですね?」
「うん! あとはこのまま煮たら……あれ?」
ふと振り返ると、ヒツジとクビワペッカリーが離れたところに隠れてこちらを見ていた。
「ど、どうしたの? ヒツジちゃん、クーちゃん……」
「あの……なんかその、熱いのがちょっと……」
「こわい、かもーって……」
「そっか、火が怖いんだね……あれ? イエイヌちゃんは平気だよね?」
「はい~! 大丈夫です!」
イエイヌは笑顔で答え、ぱたぱたと尻尾を振っていた。イエイヌはとても自然にお茶を淹れてくれたから気づかなかったが、火が苦手なフレンズもいたのか。気を付けなきゃ。
「じゃあ、あたしたちで毛糸に色を付けてもいい?」
「うー、お願い~~」
「あ! じゃあ私、その間に別の作業しようかな。しばらくお願い! クビワペッカリーは、ここで見てて」
「はーい」
家に戻っていったヒツジを見送って、二人で鍋の様子を観察した。どんどん色が出ているのが分かる。
「……なんだか、変わったにおいになりましたね。葉っぱのままの時とはまた違います」
「本当? イエイヌちゃん、平気?」
「平気ですよ~。タデアイ? の方は、なんだかスーッてするにおいですね」
「そうだね、爽やかな感じ! お湯の色もだいぶ変わってきたね」
あっという間にビワのお湯は茶色、タデアイのお湯は緑色になった。ザルを引き上げて、毛糸をほぐすようにお湯をかき混ぜたら、タデアイの鍋を火から上げて自然に冷めるのを待つ。鍋に指を入れても平気になったら、毛糸を取り出して、最初に煮込んだ時に使ったお湯で洗った。ビワの鍋は毛糸が少しオレンジがかっているように見えるから、もう少し煮てみる。
洗うのは手伝う、とクビワペッカリーが言ってくれたので、イエイヌとクビワペッカリーに毛糸を洗ってもらった。クビワペッカリーがはしゃいだ声を上げる。
「すごいすごーい! あんなに白かった毛糸が青くなってる! きれーだねー!」
「はい~! とっても綺麗です! お鍋で煮込んでいた時は、緑色に見えたんですけど、こんなに青くなるんですね」
「これ、洗ったらどうするのー?」
「日陰で干す、だそうです」
「はーい! 今日は天気もいいし風もあるから、きっとすぐ乾いてくれるねー!」
ビワの鍋も、煮込んでいるうちに濃いピンクになってきた。その辺りで鍋を火から上げて、焚火台をランボービーストに任せ、鍋を冷やす。毛糸はまたお湯で洗って、日陰で干した。
「ふー。これで、あとは乾くのを待つだけだね」
「わくわくしちゃうね~! 綺麗な毛糸になるといいな~!」
「きっとなりますよ、今だってこんなに綺麗なんですから!」
後は鍋を洗うだけだ。せっかくなのでお湯は植物の邪魔にならないところに流して、空になった鍋を水道に持っていく。焚火台を片付けてくれたランボービーストもやってきた。
「ありがとう、ランボちゃん。おかげで助かったよ」
「火の扱いに慣れたものが担当すべきだからナ。問題ナイ」
「黒いボス、器用なんだねー。ボスってみんなそうなのかな?」
「色んな仕事をしていますからね、ボスたちは……でも手はないですよね?」
「ないねー。不思議~」
そんなことを話しながら鍋を洗おうとしていると、イエイヌが弾かれたように振り返った。クビワペッカリーも動きを止める。
「どうしたの?」
「臭います。セルリアンです」
「セルリアン?!」
「たぶん、ちっちゃいと思うよー? でもなんか、何体かいる……?」
イエイヌがともえを背にかばった瞬間、地面から滲み出るようにセルリアンが現れた。確かに丸っこい体は小さな球体だが、ぽこぽこと四匹も湧いて出てくる。
「うわぁ! いっぱいいる!」
「ともえさんは私のそばに! クビワペッカリーさんは────」
「あるじたちを傷つけたらだめー!」
クビワペッカリーが猛烈な勢いで駆け出してしまった。クーちゃん、と呼び止める間もなくセルリアンに突撃していくが、セルリアンはふわりと浮かび、相手を失ったクビワペッカリーは派手に転んでしまう。
「あうう……飛ぶなんでずるいよー!」
セルリアンはふよふよと浮かび上がり、頭上からともえたちを見ていた。ぎょろぎょろと動く一つ目は、誰を狙おうか思案しているようにも見える。
「どうしよう……石はたぶん、後ろだよね?」
「ですね。でも私のジャンプ力だと、あの高さは……」
イエイヌとセルリアンが睨み合う。どうしよう、とともえが周囲を見回そうとしたその時、ランボービーストのサングラス越しに赤い光が見えた。
「ターゲットを捕捉。ただちにこれを迎撃スル。主砲用意」
ランボービーストが背負っていた箱が開き、二本の筒が出てきた。かと思うと
「発射」
虹色に光る弾丸が立て続けに四発放たれる。光は真っ直ぐにセルリアンに向かっていき、セルリアンが振り返る前に石を撃ち抜いた。一瞬で木端微塵になったセルリアンを、ともえたちは呆然と見上げるしかなかった。
「ターゲット、殲滅を確認。ミッションコンプリート。武装、解除スル」
ランボービーストは静かに宣言すると、元通り箱を閉じた。衝撃から我に返ったともえたちは、三人してランボービーストに駆け寄る。
「黒いボス今のなにー?! バンバンバーン! って! やっつけちゃったよー!」
「今のはボスの得意技ですか?! 一瞬で石を攻撃するなんてすごいです!」
「ランボちゃんすごいよー! そのリュック何だったの?!」
ぺたりと尻もちをついたランボービーストは、ともえを見上げて答えた。
「俺はパークガードロボットだからナ。対セルリアン用に武装していル。今のは、空気中のサンドスターを凝縮して弾丸として発射する武器を使っただけダ。再装填には時間がかかるが、周囲にセルリアンの反応はナイ。しばらくは大丈夫だろウ」
「へ~! サンドスターって、空気中にもあるんだね。あたし、あのキューブみたいなのしか知らないから」
「ジャパリパーク内の地形は、全てサンドスターによってつくられたものだからナ。空気中にもサンドスターが漂っているんダ。それを活用していル」
「サンドスターって、そういう使い方もできるんだー。初めて知ったよー」
クビワペッカリーが驚いた顔のまま言うから、ともえは思わず尋ねた。
「フレンズちゃんもできることなの?」
「いいヤ。俺が知っている範囲では、パークガードロボットとレンジャー部隊に支給されている武器でしかできない攻撃ダ。フレンズは行動そのものにサンドスターを消費するから、仕組みが違ウ」
「そっか……。うーん、知らないことがまだまだたくさんあるんだね」
「一つずつ覚えていけばいいんだヨ、トモエ」
「うん。ありがとう、ランボちゃん」
気を取り直して鍋を洗って乾かしている間に、毛糸は乾いていた。元通りの毛糸玉にすると、綺麗な青色の毛糸とサーモンピンクの毛糸ができあがる。「わー!」と三人分の歓声が上がった。
「綺麗にできてよかったね!」
「ほんとー! すっごくきれー! ヒツジあるじ、喜んでくれるといいなー」
「早速、渡しに行きましょう!」
ヒツジの家に戻ると、少ししてからヒツジが出迎えてくれた。青とサーモンピンクの毛糸玉を見て、目を輝かせる。
「きゃ~~! すっごくぷりちーじゃないの、これ! とっても綺麗ね! ありがとっ!」
「えへへ、よかった。毛糸の量、足りるかな?」
「もちろん! 大事に使ってみるね。完成したのを見てほしいから、もう少し一人で作業したいの。ちょっと待ってもらってもいい?」
「いいよ! 楽しみにしてるね!」
「がんばれ、ヒツジあるじー!」
毛糸を受け取って足取りも軽く去っていくヒツジを見送り、ともえたちは庭に戻った。焚火台や鍋をリュックに戻し、顔を見合わせる。
「あたし、この辺りの景色を絵に描きたんだけど、いいかな」
「もちろんですよ~!」
「じゃあイエイヌあるじ、クーちゃんと遊ぶ?!」
「ふふ、何して遊びましょうね~」
「わーい! 遊ぶ遊ぶ~!」
走っていくイエイヌとクビワペッカリーを見送って、ともえは建物の前に座った。ランボービーストが少し離れたところから見守っているのを感じながらスケッチブックを開き、画材を手に取る。
楽しそうに走って遊ぶイエイヌとクビワペッカリー、その背景には畑が広がり、豊かな緑に満ちている。
「……やっぱり、絵になるなー」
ともえは笑って、膝に置いたスケッチブックに向かった。
■
クビワペッカリーに一言断ってから、イエイヌはランボービーストに向かった。ともえは真剣にスケッチブックと景色を見比べているから、こちらには気付いていないようだ。ランボービーストはともえの方を向いたままだったが、イエイヌは隣に座り込んで言った。
「……ボスはフレンズと話をしません。それはあなたも同じです。だからこれは、私の一方的な宣言になりますが、聞いてくださいね」
ランボービーストの耳がぴこりと揺れた。イエイヌはともえの横顔を見つめて続ける。
「……きついことを言って、ごめんなさい。正直に言うと、あなたのことを完全に仲間として受け入れたわけではありません。しかし、あなたがとても強力な味方であることは確かです。ともえさんを守るために、共同戦線を張りたいと思います。私はともえさんの近くにいる地上のセルリアンを、素早く倒します。あなたは、ともえさんから離れた、空中にいるセルリアンを速やかに倒します。役割分担をすれば、もっと確実に、ともえさんを守ることができるわけです。それはとても、大切なことだと思います。私はともえさんを守りたい、あなたはヒトを守りたい。目的が一致しているのだから、協力できるはずです」
ランボービーストは答えない。サングラス越しで視線も分からなかったが、確かにイエイヌの言葉を聞いているようだと感じた。イエイヌは微笑んで言う。
「だから、改めてこれから、よろしくお願いします。ボス」
「イエイヌあるじー! 今度はかけっこしようよー!」
「はーい! 今行きます!……それでは」
イエイヌは立ち上がり、クビワペッカリーに駆け寄った。
その背中を、ランボービーストはしばらく見送った。ぴこん、ぴこん、と尻尾を揺らし、ともえに視線を戻す。
本日は晴天なり。風も日差しも穏やかで、何より確かな仲間を得た今、絶好の日向ぼっこ日和なのである。
【例のBGM】
らっきーびーすと(葉物担当)
「ヒツジは、偶蹄目ウシ科ヒツジ属の哺乳類だネ。ヤギに似ているけど、角は渦巻形で、角のない種類もいるヨ。全身を柔らかくて長い巻き毛に覆われているのが特徴だネ。家畜としての歴史も長くて、世界中で色んな品種が生まれたヨ。草食性で、気質は大人しく、群れを作って生活する習性があり、『群れる』という漢字の語源になった動物でもあるヨ。ヒトにとって身近な動物なこともあって、文化、宗教、言語など、幅広く影響を与えているところもあるネ」
「できたー!」
ヒツジの歓声を聞いて、ともえたちは建物を振り返った。ともえがスケッチブックを持って立ち上がる間に、クビワペッカリーが屋内に飛び込んでいく。イエイヌが浅い呼吸を繰り返しながら言った。
「クビワペッカリーさん、あんなにたくさん遊んだのに、まだまだ元気みたいです」
「あはは、すごいよね! イエイヌちゃんは楽しかった?」
「はい~! 乗り物も速くて便利ですけど、自分の足で走るのは楽しいです! ともえさんも、えをかいていたんですよね? できました?」
「うん! 見て見て!」
イエイヌに見せたスケッチブックには、走るイエイヌとクビワペッカリー、編み物をしているヒツジ、それから広々と続く畑と青空を描いていた。端にはビワの実とタデアイの葉もある。イエイヌが「わあ」と笑顔になった。
「また思い出が増えましたね!」
「えへへ。いつか、スケッチブックが楽しい思い出でいっぱいになるといいな~」
「なりますよ~! たくさん思い出作りましょうね!」
「うん!」
「トモエあるじ、イエイヌあるじ~! 見て見て~! 新しいクビワ~!」
建物から飛び出してきたクビワペッカリーは、ともえたちの前でくるりと回った。白い毛糸で編まれた首輪はピンクの毛糸で縁取られ、真ん中にはクビワペッカリーのヘアピンと同じマークが編み込まれている。
「わー! 可愛いね!」
「でしょでしょー! ヒツジあるじ、ありがとー!」
「ふふっ、喜んでもらえてよかった!」
建物から出てきたヒツジも安心した顔で笑っていた。ともえたちの方に向き直って微笑む。
「二人とも、手伝ってくれてありがとう。おかげでとってもぷりちーな首輪ができたよ。毛糸に色を付けるって、素敵ね」
「クーちゃんもとっても嬉しー! クビワあったかくてきれーで、ヒツジあるじとおそろいのもこもこだよー!」
「あはは! よかったー。あたしも、お手伝いできてよかったよ。煮て毛糸に色を付けるのは、火が必要だから難しいかもしれないけど、ああいう色の付いた水を用意したらいいって考えると、たぶん煮なくても、色の付いた水を作ったら毛糸にも色が付くと思うんだ」
「そうですね。タデアイの葉っぱも、千切ったらもう青かったですし」
ともえとイエイヌが言うと、ヒツジが指先を顎にやった。
「あ、それならもしかして、ブドウとか果物を潰してもいいってこと? 前にクビワペッカリーが体に木の実を付けて汚しちゃったことがあったから」
「あー! ヒツジあるじ、それないしょ! ないしょにしててー!」
「あはは! ごめんごめん!」
仲良しな二人にともえたちも笑っていると、ヒツジが「あ、そうだった!」とともえを振り返った。
「ねえ、トモエたちは旅をしてるんでしょう? 手伝ってくれたお礼に、プレゼントしたいの」
「プレゼント?」
首を傾げていると、ヒツジは家に戻り、また別の編み物を持ってきた。じゃーん、とヒツジが広げて見せてくれたのは、首や袖口、裾の縁取りに青い毛糸を使った、白いセーターだった。とても丈が長く、ヒツジの膝まである。
「か、可愛い~! これ、本当にもらってもいいの?!」
「もっちろん! トモエのために作ったんだから! イエイヌはもこもこしてて寒いところも平気そうだけど、トモエはつるつるしたところが多いから、寒いこともあるだろうと思って。よかったら使ってみてね!」
「ありがとう、ヒツジちゃん! わーすっごくふかふかしてる~!」
受け取って肩や首に合わせて体に当ててみると、袖も膝丈の裾もちょうどいい長さだった。イエイヌが感心して言う。
「すごいですね、ヒツジさん。見ただけなのに、ともえさんにぴったりです」
「ふふっ。トモエはつるつるしたところが多いから、これぐらいかな? って予想しやすかったの。クビワペッカリーは髪をおろしてるし、動き回るから、大きさを掴みにくかったけどね……」
「あ! それでヒツジあるじ、たまにクーちゃんはぐはぐしてたの? 仲良し嬉しくてはぐはぐされてたよー」
「そうねーそれもあるかもねー」
「ヒツジあるじ~~?」
「あはは」
セーターは大事にたたんで、ともえのバッグに入れた。荷物をスクーターに戻すと、ヒツジとクビワペッカリーが見送ってくれる。
「二人とも、気を付けてね!」
「またクーちゃんたちと遊んでねー!」
「うん! ヒツジちゃん、クーちゃん、またね!」
「また遊びましょうね~!」
「発車するゾ」
二人に大きく手を振って、スクーターは再び走り出した。
エンディング
(お気に入りの曲をお流しください)
ヒツジは家に戻り、うんと伸びをした。クビワペッカリーは「木の実探してくる! 色がつきそうなの!」と輝くような笑顔で言って走り出してしまったから、ヒツジは大人しく見送った。彼女の好きにさせるのが一番だ。
「さーて、次はどんなぷりちーなものを作ろうかな。……うん?」
籠を見たヒツジは首を傾げた。白い毛糸玉が一つ減っている。どこかに転がっていってしまったのかと部屋を見て回ったが、どこにもなかった。
「変ね……数え間違えてたかな? えーと、一個、二個……」
毛糸玉を籠から取り出しながら数えていると、がたがたと窓が鳴った。ヒツジは振り返らないまま言う。
「クビワペッカリー、窓は壊さないでねー? 風が入ってきて寒いから……」
「たっだいまー!」
玄関からクビワペッカリーが飛び込んできた。籠いっぱいに色んな木の実を抱えている。
「ヒツジあるじ、見て見てー! いっぱい集めたよー!」
「あれ? クビワペッカリー、さっき窓を叩かなかった?」
「叩いてないよー? ヒツジあるじが元気って知ってるからー」
「そう……? 気のせいだったのかな」
「あ、それでね! こっちが赤っぽい木の実で、こっちが黒っぽい木の実でー」
クビワペッカリーが見せてくれた籠をヒツジも覗き込み、美味しそうな木の実を見ていたから、気付かなかった。
カーテン越しに、窓の外を人影が横切っていったことには。
『予告茶番』
「あー!」
「ど、どうしましたか、ともえさん!」
「ヒツジちゃん、もふもふさせてもらったらよかったー!」
「もふもふ?」
「だってヒツジちゃん、すっごくもこもこしてたから……もふもふ……」
「うう……わ、私ももふもふしてるので、どうでしょうか……?」
「もふもふ……」
「もふもふ……」
「うううイエイヌちゃんもすっごくもふもふしてるー! もふもふー!」
「あはは、ともえさん、くすぐったいですー!」
「……それはないものねだりなのかナ、トモエ」
「次回、『Root』! 次はどんなフレンズちゃんと会えるかなあ。楽しみだね、イエイヌちゃん!」