ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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『大タル爆弾』が三つも入るなら『飛竜の卵』ぐらいアイテムポーチに入れれると思う。

MH4のタマゴクエストはノリ的に好きでした。


第二章 『重たい物を持つ時は安全安心を確認するのが事故を減らすコツなのかな?(事故が起こらないとは言っていない)』

  ヘスティアは善神である。

 

 愛嬌と慈愛に溢れ、性格はかなりのお人好しである。とは言えど、やや子供っぽい怒りの沸点の低さも確かに有るが、それが彼女の魅力の一つとなっている。そんな、彼女の姿は現在ダンジョンの中にあった。

 

 場所はダンジョン内部の十三階層。白猫のような【大陸】の獣人である、オトモアイルーのシロに先導されながらもまるで抱えられ荷物のように運ばれている真っ最中であった。

 

 なぜ、こんな事になったのか? ヘスティアは考えようとしてすぐに考える事を止める……理由は簡単であり単純であるからだ。現在ヘスティアを抱えて走っているお馴染みの『ハンター』が原因である。

 

 現状の状況から少しだけ時間をさかのぼり場所を変え説明しよう。

 

 ベル達のパーティーの落盤による事故の後、桜花達【タケミカヅチ・ファミリア】は応急処置を施した千草を含めた全員で主神であるタケミカヅチに報告し、その足でヘスティアのいる廃教会である本拠へと向かいヘスティアに事情を説明したまではよかった。事情を説明し終えた、タケミカヅチ達の言葉を黙って聞き終えたヘスティアは、静かに息を吐くと眉を顰めながらも間接的に眷属を危機に巻き込んだと顔色を沈ませている桜花達に向けて困ったような笑みを浮かべながらも言葉を発する。

 

「そう、悲観した表情をしないでおくれ。ベル君達も君達の助太刀に賛同した結果だし、聞けばベル君の行動にも難があったらしいじゃないか……もちろん、僕の唯一の眷属である事も加味しても無条件で許すって訳じゃないけどね」

 

 最後の方は冗談めいた軽い感じでの声音で語るヘスティアに【タケミカヅチ・ファミリア】総出で頭を下げる。その光景を見つめながらもヘスティア自身はそれほどの危機感を感じていなかった。なんというか、この主神もまたある人物に毒されている節があり、常に死にかけではあるが五体満足で帰ってくる眷属の姿を度々見ている為という部分も相まってしまっているだけなのだが……。

 

 しかし、このまま放置する訳にはいかないのも確かである。ベルの生存は今も繋がりで感じてはいるが、他の二人までは分らない上に怪我などの状況自体もわからないのだ。信用こそあるが確実に帰ってくる保障などあり得ない。自責の念を抱く子供達にこれ以上の負担を強いたくない気持ちが強かっただけでしかない。

 

 心に焦りが生まれつつあるヘスティアの本拠に……まるで、その瞬間を見繕ったかのように登場したヘルメスとそのファミリアの団長であるアスフィの姿と戸惑い気味な表情を浮かべる一人のエルフの姿と『ハンター』の姿があった。

 

「あの……ヘルメス様? なぜこのような場所に……ぬ? ヘスティア様?」

 

「なんか面白そうな感じだったからついてきたけど。確か今日ってベル達はダンジョンに潜っているはず……どうしてタケミカヅチさんや桜花達が居るのかな?」

 

「すんごく話がややこしくなりそうなメンツを連れてきたものだねヘルメス……ボクに何かようかい? 用がなければすぐにでもダンジョンに救援を送りたいんだけど……」

 

 エルフである、リュー・リオンがおそらく理由も告げられずに連れてこられたのだろう。ヘスティアの姿を見て軽く驚く。その後ろから先日のケガを治したパイがオトモアイルーのシロと共に遅れて廃教会へと入ってくる。そんなパイを見てヘスティアは憂鬱そうな顔を隠す事なくこのメンツを連れてきたであろうヘルメスを見る。

 

 普通にタケミカヅチの眷属達でベル・クラネル達の救助を理由に精神的な貸しを無くそうと提案しようと考えていたヘスティアにとって、碌な事をしないヘルメスの登場は嫌な予感以外の何物でもない。そんなヘスティアの心を知らずか知ってか……ヘルメスは怪訝そうに見つめる神友と団長の視線に薄っぺらい笑みを浮かべて対応する。

 

「やだなぁ、そんな顔で見るなよ。聞けば、ベル君がダンジョンで不測の事態になっているみたいじゃないか……そして、救援を送ろうとしてたんだろう?」

 

「むしろ、さっきまで居なかった君が、なんで、その情報を知っているのかの方が……ボクとしては不思議なんだけどね?」

 

「おいおい……俺はヘルメスだぜ? こんな情報を集めるなんて朝飯前さ」

 

 ジト目で見つめるヘスティアにドヤ顔で告げるヘルメスの背後でアスフィとパイがコソコソと会話している。

 

「ねぇ、アスフィ? なんかヘルメスさんが気持ち悪い発言しているのかな……頭を打ったりしたのかな?」

 

「……いえ、最近の個人的な流行のような物でして、割と重要な事からどうでもいい事でもああ言うんですよ……正直、団員達からも受けが悪くて……」

 

「はい、そこの後ろの二人? 神様だって心があるんだから、そういう話は俺がいない所でしようね? 流石に泣いちゃうぜ?」

 

「……で? お前は一体何をしに来たんだ?」

 

 話が進まないので先を促すように話の腰を戻そうとするタケミカヅチの言葉に、ヘルメスは改めて自分がここに来た理由を語る。

 

「ああ、さっきギルドでタケミカヅチの所の……この子達が慌てて出ていくのを見てしまってね。血糊も拭う事なく急ぐ姿に気になって追いかけてみればタケミカヅチと共にヘスティアの所に行くじゃないか? 知り合いのリュー君を引き留めて、丁度暇そうなパイ君を見つけたから全員でストーキング……いや、心配になって来てみたんだ。んで、聞けばベル君達がダンジョン内で事故に巻き込まれ、その救援に向かうって話だ……よかったらお手伝いでもしようかなと思うのは当然じゃないかい?」

 

「ヘルメスが言わなかったらボクも素直に受け取れたんだけどね……」

 

「お前の言葉は素直にとらえるのが愚行だと知っているからな」

 

「ヘルメス様がそのような慈善活動を行うとはとても……」

 

「アスフィやみんなの言う通りなのかな……なに企んでいるのかな?」

 

「パイ。流石にその言い方は……まぁ、気持ちはよくわかりますが……」

 

「……君たち、泣くよ? 見た瞬間にドン引きさせるほどに外聞もなく泣いちゃうよ?」

 

 多数の人々からの心ない声にヘルメスもいつもの飄々とした面を固くさせている。殆どの場合がヘルメスの自業自得なのだが……とはいえ、このままでは埒が明かないので何処かいじけてしまったヘルメスの代わりにパイが桜花に尋ねる。

 

「んで、大方理解したけどさ、どういう状態なのかな?」

 

「ああ、事故は十三層で起こった。詳しくは省くが、ダンジョン攻略中に千草が負傷してしまって、撤退を余儀なくされたのだが、追われる間に俺達だけでは対処できない程の量のモンスターに追われる事になってしまった。命が殿を買って出たのだがその時にベル達のパーティーと鉢合わせてな。こちらの状況を見て助太刀をしてくれたのだ。そして、その場でモンスターを撃破することは成功したのだが、最後に放ったベルの技に地面が耐えられなかったようでな。他の二人のパーティーメンバーと共に下層へと落ちてしまったのだ……急ぎ、タケミカヅチ様に報告を済ませ、あとは今の状況に至るというわけだ」

 

「ふむ……なるほどなのかな……ベル達も強くなったし、よほどのことがない限りは大丈夫だと思うけど……ヘスティア?」

 

「大丈夫だ。まだベル君は生きているよ。だからこそ迅速な行動を行わないといけないともいえるけどね」

 

 この場合ヘスティアは何一つ間違ったことなどしていないし、言っていない。状況がわからない以上迅速な行動は必要であり、それが命のかかっている内容ならばなおさらであろう。最大の問題は常に予想の斜め上の行動を取る『ハンター』という常識離れした存在に言ってしまった事だろうか。

 

「なるほどなのかな……ならば、ちょっとヘスティア……失礼するかな」

 

 それだけを告げてヘスティアを軽い動作でお姫様抱っこするパイ。そんな彼女の行動にヘスティアは目を丸くする。 

 

「……んっ? なんでボクをお姫様抱っこみたいに抱えるんだい? トビ子君……どうして、教会の出口に方向を転向するんだい? トビ子君……ちょっとまって? いやなよかんがするんだけどぉぉぉぉぉぉ……!?」

 

 突然の暴走ともとれるパイ・ルフィルの行動力から来る強引なダンジョンアタックが始まった。一瞬で姿が見えなくなったパイとヘスティアの後姿を見送ったタケミカヅチ達。ポカンっとした表情のままお互いに顔を見合わせるメンバーの中でいち早く正気に戻ったヘルメスが声をかける。

 

「あー、彼女は知らないんだっけ? ダンジョンへの神の侵入を禁止しているの……どうする? すぐに行動しないと、二人と一匹でダンジョンの中に潜っちゃいそうな雰囲気だったけど?」

 

 ヘルメスの言葉にタケミカヅチは頭痛を堪える様に額を押さえ、桜花達にベル・クラネルの救援を指示すると、そこにリューが話に加わる。

 

「状況は理解しました、私も一八階層に用がありましたので……クラネルさんの救援に同行しましょう」

 

「リュー君が行くんだったら一気に楽になるだろうね。それこそ一人ぐらい戦闘のできない足手まといが居ても大丈夫なくらいにね?」

 

 リューの参加表明の後にヘルメスが続く、そのヘルメスの言葉にアスフィが嫌そうな表情を浮かべながら知っている答えを尋ねるような……心底面倒そうな感じに確認する。

 

「それは、ヘルメス様も一緒に来るという事……なのですよね? ヘスティア様を連れ戻そうという大義名分で……ですか?」

 

 ヘルメスはアスフィからの問いに答える事無く、白い歯を見せながら見ようによっては胡散臭い笑顔で返す。主神の性格を知っているアスフィにはそれだけで十分だったのか胃の当たりを抑えつつ俯く。

 

「まぁ、っというわけでみんなでダンジョンに潜ろうか!! 護衛よろしく、冒険者諸君!」

 

 とてもいい笑顔でそう告げるヘルメスと明らかにテンションがダダ下がりなアスフィを交互の見つめ、最後にアスフィを心の底から同情するように見つめるメンバーたちであった……。

 

……

…………

………………。

 

 そして回想は現在へと移る。廃教会から走ってきたヘスティアとパイ&シロはと言えば、ダンジョン内部を爆走中であった。幸い、浅い階層に冒険者の姿はほとんどなく。パイの進行を妨げる存在も居ない。それなりの時間は経過しているが現在っでは問題という問題は発生していなかった。そんなことよりも、最もヘスティアを困惑させているのは“運搬スタイル”での移動などと、全く予想外である移動方法にヘスティアの思考を戸惑わせるには十分であった。だから、今もお姫様抱っこのまま突っ走るパイに落とされないようにしがみつくのがやっとである。そんないっぱいいっぱいな彼女に不幸が訪れる。

 

 以前からミノタウロスのいる階層までの近道に使用していた下の階層へと続く穴。パイはシロに指示を出すと共にその穴へと身を投げる。独特の浮遊感と何の躊躇もなく飛び込んだ穴という危険を危険と思っていないような行動にヘスティアは涙を宙に飛ばしながら叫ぶ。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! トビ子君何やってるのさぁぁぁ! ・・・・・・痛ったぁぁぁ!?」

 

 唐突に話は変わるが、『ハンター』のクエストにはあまり人気のないクエストというのも存在する。その内のひとつは“運搬クエスト”と呼ばれるものであり。その運搬するアイテムは・・・・・・かなり脆い。衝撃に弱い癖に重量があり、常に『ハンター』達の中で受けるのが面倒なクエスト上位に食い込んでいる。

 

 余談ではあるが。パイはそんな中で、とあるやんごとなきお方の趣味を知ったのち“とある物”をよく運搬して納品する依頼を受ける事が多い。

 

 とにかく、そんな運搬慣れしているパイだが。やはり・・・・・・女性といえど人一人はそれなりの重量物であり。そんな彼女も他のハンターと同じく高い場所から落ちたら着地時に荷物を落としてしまう事もある。

 

 着地の瞬間に足では踏ん張ったものの腕で抱えていたヘスティアを落としてしまうのも仕方のない事だろう。

 

 『ヘスティアがっ!』っと叫ぶパイと硬い岩場に落とされた衝撃で、尾骨に響く痛みに唸るヘスティアを無視して、再度お姫様抱っこをしようとするパイにヘスティアが待ったをかける。

 

「ちょっと待っておくれ。トビ子君! この方法はいささか問題があると思うんだ、主にボクのお尻的な意味で」

 

「大丈夫なのかな! このままじゃベルの救援に間に合わないかも知れないのかな・・・・・・覚悟を決めるかな!!」

 

「待って!? せめておんぶにして、お姫様抱っこじゃさっきみたいな事に・・・・・・お尻が縦に割れるように痛いぃぃぃいぃぃ!!?」

 

 しかし、ヘスティアの願いが聞き入れられることもなく、先ほどとまったく同じように穴に飛び込み、ヘスティアを落とすパイ。その度に『ヘスティアがっ!』と叫ぶが、絶対に別の方法を取ろうとはしない。

 

 何だかんだで十七階層にたどり着くまでに、数回の『ヘスティアがっ!』の後に地面に臀部やら腰やらを打ち付けたヘスティアが痛くなりすぎて感覚のなくなり始めた臀部を心配しながら、パイを睨みつける。

 

「トビ子君! 君はボクになんの恨みがあるというんだい! お尻が縦に割れたらどうするんだい!」

 

「横に割れたらびっくりするけど縦に割れてるなら普通じゃないかな?」

 

「ご主人、ご主人。多分そういう話じゃないとおもうニャー」

 

 シロの言う通りで勿論の事ながら問題はそこではなく、落とす可能性を改善しない点であるのだが・・・・・・そのヘスティアのお尻にダメージを与えたパイは素知らぬ顔である。

 

 パイに対して若干の殺意を抱きつつも、異常な速度で着いた十八階層への入口・・・・・・『嘆きの大壁』と呼ばれる階層主が出現するポイントに一人の白兎・・・・・・【白兎】が居た。

 

「ベル君!? トビ子君! ベル君だよ・・・・・・よかったぁ・・・・・・生きて・・・・・・ん?」

 

 たった一人の眷属。ベル・クラネルの生存を確認したヘスティアは喜色を表した後に怪訝そうな表情を浮かべる。それもそのはずであった・・・・・・ベルは最初は足止め、または囮などの為に戦っているのだと思われた。

 

「なんか。手が光ってないかな? 新しいスキル? しかも、気のせいかな・・・・・・ベル、ゴライアス相手に修行しているように見えるかな・・・・・・もしそうなら、とってもいい事なのかな!!」

 

「とっても、よくないよ!! おかしいんじゃないかい!? ベル君一人で倒せるわけないじゃないか!? どうして、そう修行に直結したがるんだい君達は!? 脳みそまで筋肉にしたいのかい!?」

 

 感心するように言うパイにツインテールを怒髪天させて怒鳴り散らすヘスティア・・・・・・そう、【魔力疲弊】を起こしかけていたヴェルフを背負っていた事でゴライアスに掴まる可能性があった二人をファイアボルトでぶっ飛ばした後、十八階層へと落ちてゆくのを見送った後にベルは気がついたのだ。目の前の敵は明らかな強敵。ならば「この強敵と戦えば、僕はより強くなれる・・・・・・ならば、修行だ・・・・・・」っと。

 

 ヘスティアの懸念通り、彼の脳内の思考はやや筋肉寄りに成りかけていた。そしてリリルカ達と別れて何だかんだで半時間ほどの間、ベルは一人でゴライアス相手に戦術を磨いていた・・・・・・そこにヘスティア達が合流したのだが、眷属の手遅れなぐらいの修行バカ丸出しな光景に、ヘスティアは知らずに滂沱の如く涙を頬に伝わらせる。

 

 しかも、先ほどのパイの言葉にもあった様に、ベルの両手は輝きを放っている。決して強くはなく淡い光ではあるが、少なくともヘスティアが毎日のように更新した『ステイタス』の表記にはそのような記述はなかった。

 

(つまり・・・・・・土壇場で【恩恵】の更新をせずにスキルを体得した・・・・・・とで言うのかい!? 発現したのではなく己の意思で己の壁を打ち破ったと?)

 

 今だに【恩恵】のすべてを解明された訳では無い。現に、ランクアップ時に発現した【幸運】と言う名のアビリティーは『ギルド』にも登録されていなかったレアなアビリティーである。その事を思えば、確かにスキルを発現前に体現する事も理解ができないわけではない。しかし、いくらスキルが発現した所で問題が発生する。

 

 【ファイアボルト】を例に出せば、魔法としてスロット登録されている事を理解できるのは『ステイタス』に記された情報を、『ステイタス』の持ち主である冒険者が認識して初めて意味を持つ。

 

 つまり、ベル・クラネルに取って理解不能の技能でしかなく、使い道も理解できていない可能性も十二分にあるのだ・・・・・・が・・・・・・。

 

「三分経った!! いっくぞぉぉぉ!!」

 

 だが、ヘスティアの不安を他所にベルは飛び出し、両手の双剣を一方を逆手に持ち替え、自身を独楽のように回転させ、ゴライアスのくるぶしの辺りに激突するようにぶつかってゆく。

 

 Lv.2の・・・・・・それも成り立てとは思えない程の動き、それを三度方向を変えながら放つ。そのベルの動きに今度はパイが関心を示す。

 

「あれって・・・・・・『血風独楽』なのかな!! 以前に狩技の概要は教えたけど、いつの間にか使えるようになったのかな?」

 

 『血風独楽』。パイも使える狩技であり、元々はとある部族の舞をモチーフにして実戦に使えるように昇華させた狩技らしい。その狩技を見事に使いこなし、双剣を左右に広げ急停止を決めたベルは、その視線をゴライアスの足元に向ける。そこには無残とも言えるほどの深い傷跡が残り、その成果に満足したように笑みを浮かべる。

 

「やっぱり・・・・・・この良くわからないけど、光ってる間に時間をかければ掛けるほど威力が上がっていくんだ・・・・・・よぅし! もっと強くなれるぞー!」

 

「さっそく、謎のスキルの概要を理解し始めてるぅぅぅぅぅ・・・・・・べぇるぅくぅぅぅん!! 出会った頃のベル君に戻ってよぉぉぉ~~」

 

 求めた結果に更に嬉々としてゴライアスに立ち向かう少年。そんなベルにヘスティアが情けなく懇願するように叫ぶ。ややズレた感性のパイはそんなヘスティアの様子に首を捻るが、本来Lv.2の冒険者が単独で立ち向かうような相手ではなく。この場合もヘスティアの感性が正しい。

 

 怒りに身を任せて小さな獲物を殴り潰そうと拳を振り下ろすが、ベルは紙一重でその拳打を回避してゆく。そのギリギリの回避方法に、ヘスティアは自らの心臓が止まるのかと思うほど冷たい物を感じていた。

 

 実際はパイより伝授された『ブシドー』による回避術なのだが、慣れない人が見れば中々に恐ろしい物である。

 

 ちなみに『ブシドー』のスタイルにある『ジャスト回避』だが、タイミングが結構シビアであり、時折失敗することがある。

 

 物事に絶対など無い様に、調子に乗って更に色々と試そうとしていたベルが「いい加減にせんかい!」と言いたげにビンタ・・・・・・体格差で見れば高速移動中の馬車に激突されたぐらいの一撃を受けて、ベルが一八階層の洞穴に吹き飛ばされて落ちていくまでその戦いは続いた・・・・・・。

 

「見事にぶっとんだニャね・・・・・・」

 

「べるくぅぅぅぅん!! って、とぉぉぉぉびぃ子くぅぅん!? 走ってぇぇぇぇ、もっと早く走ってぇぇぇ!! 顔がぁぁぁ! おっきい顔が近づいてくるぅぅぅぅ!!」

 

 アイルーのシロの冷静な言葉と共に叫ぶヘスティア。彼女の悲痛な叫び声を上げ――それは即座に悲鳴へと変わる。ベル・クラネルと言う標的が居なくなった事で、ゴライアスの意識が鑑賞していたヘスティアとパイにその矛先が向くのは・・・・・・むしろ自然の理であり、『嘆きの大壁』の入口で、のんびりと見ていたパイ達が足こそ負傷したが、赤子のように這いずってくるゴライアス相手に逃亡を図る。なまじ抱き抱えられているので、凶悪な顔をした巨人に追いかけられると言った後ろの様子が丸見えなヘスティアが、涙や鼻水を流しながら叫んでしまうのも無理の無い話である。

 

「はっはっは―――! だぁいじょうぶかな! もうリヴェラのある階層に着くかな!! いくかなーシロも飛び込むかな・・・・・・っと・・・・・・ヘスティアがっ!!」

 

「痛ったいぃぃぃ!? いいかげんにしなよトビ子君!! 流石のボクも怒るよぉぉぉ!!」

 

「ご主人は何回落としてるのかニャ・・・・・・ヘスティアのお怒りはご尤もだニャー」

 

 やや坂になっていた道を滑り降りてきたパイが短い間のうちにお馴染みになった、『ヘスティアがっ!』を行い十八階層にたどり着いた先でパイの不注意でヘスティアが転がり落ちる。本気で怒り心頭なヘスティアが尻を突き出し顎を地面につけた・・・・・実に情けない状態で怒鳴る。彼女がここまで怒るのは珍しい事であり、よほど尻の痛みがきつかったのだろう。

 

「あの・・・・・・大丈夫・・・・・・ですか?」

 

 そう訪ねてくる第三者の声にヘスティアとパイが声をかけた主の方に視線を向ける、ちなみに先に落ちてきたベルは鼻血を流しながら白目を向いて気絶している。

 

「おお? アイズなのかな、久しぶりなのかなー」

 

「うん・・・・・・パイも、久しぶり?」

 

 知り合いでもあるアイズが不思議そうに眺め挨拶をしてきたパイに挨拶を返す。とはいえ、パイからすれば数カ月ぶりの再開だがアイズとしては数日とちょっとぶりの再会でありお互いの“久しぶり”は若干の違いがあった。

 

 そして、挨拶を終えて、ソコにヘスティアが居る事に気付いたアイズは若干の驚きを覚えつつも尋ねる。

 

「あの、ヘスティア様、ですよね・・・・・・どうしてダンジョンに?」

 

「うん・・・・・・話せば長くも短い話になるんだけど・・・・・・ごめん、ヴァレン某君・・・・・・お尻の痛みが落ち着くまで待ってくれないかい?」

 

「えっと・・・・・・はい。わかりました」

 

 情けない格好でいるヘスティアの言葉に何かを察したのか、これ以上の詮索をやめるアイズ。そして、最後にベルの姿を見つけそこでようやく自分がここに来た理由をパイに話す。

 

「実は今、遠征の帰りで・・・・・・ちょっと訳あって此処で移動を止めている状態なんだけど・・・・・そしたらボロボロになったヴェルフとリリルカがやって来て、ベルが一人でゴライアスと戦っているって聞いたから急いできたんだけど・・・・・・」

 

「そうなのかな。見ての通りみんな無事かな?」

 

 無事? パイの言葉にアイズは心の中で疑問を浮かべる。鼻血を出して白目を向いている少年と、尻を抑えながら唸る女神。これは「無事」に該当するのであろうか・・・・・・。

 

「生きてるんだから、大丈夫なのかなー!」

 

 そう言って笑うパイに恨めしそうな視線を向けるヘスティア。そんな二人を眺めながらアイズもとりあえず苦笑を浮かながら、当初の目的も果たしたのでその場でヘスティアの尻の痛みがある程度引くまでの間、雑談を介していた。それなりの時間が経過し――ベルはその間も放置されている――じゃが丸君の新しい可能性について変な方向の話が盛り上がってきた頃。異変に気付いたアイズが十八階層の入口へと視線を向けた。

 

「? どうしたのアイズ?」

 

 ・・・・・・一八階層の入口に視線を向けるアイズの様子にパイも初めは不思議そうにしていたが気になったのか不用心にも十八階層の穴の部分に近づく……そして、その奥の方から何かが転がる音に気付いたときには遅かった。

 

「「「「どわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 

「げふぅ!?」

 

「あっ・・・・・・ご主人が見事に吹っ飛んだんだニャ」

 

 仲良く同じ叫び声を上げながら更に、十七階層から転がり落ちてくる人の塊がパイに直撃する。吹き飛ばされる『ハンター』を横目で確認するシロ。そんなアイルーを見ていたアイズは転がり降りてきた人物たちを見る・・・・・・その中に知っている神物が居る事に気づく。

 

「ヘルメス・・・・・・様?」

 

「おお、ヘスティア! 無事・・・・・・じゃなさそうだね。ベル君も・・・・・・無事じゃなさそうだね!!」

 

 そう声をかけるヘルメスと微妙に絡まって身動きが取れなさそうな同じ系統の衣装を着た三人組。【タケミカヅチ・ファミリア】のカシマ・桜花。ヤマト・命。ヒグチ・千草であった。その後に少し遅れてではあるがアスフィ・アル・アンドロメダとリュー・リオンが降りてくる。

 

 パイの大暴走の後を追いかけ、こちらも最速で走ってきたのだろう。Lv.の高いアスフィなどは汗一つ流れておらず、涼し気な顔であるが、流石にLv.の低い【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花、命、千草はそうはいかない。三人とも荒い息を着きながら息を整えるのに精いっぱいの様子である。

 

「おや、ヘルメス・・・・・・もしかして、追いかけてきてくれたのかい?」

 

「当たり前じゃないか・・・・・・だって、俺達、友神だろ!!」

 

「ゑ・・・・・・? そうだっけ?」

 

 白い歯を見せて笑うヘルメスに対してヘスティアはややキョトンとした表情で返す。下手な嫌味などよりよっぽど心に来る返答にヘルメスは心の中で静かに泣いた。

 

 それよりもヘルメス共々・・・・・・どこをどうやったのか、見事に絡まりあったタケミカヅチの眷属達との密着した光景が一種の生き物のようになっていてひたすらに気持ち悪い。そして、同時に千草の胸元に桜花の顔があり、お互いに赤面しあい、より離れようとするが故に絡まっていく。その事に気付いたヘルメスは即座に叫ぶ。

 

「桜花君!? なんて羨ましい事をしているんだい! ラブコメか!!? ラブコメなのか! よし命君。君の胸元をもっと俺に近づけるんだ!」

 

「・・・・・・ヘルメス様。本当に死んでくれませんか?」

 

「とっても辛辣ぅ!? っと辛辣で思い出したが。トビ子君は何処だい?」

 

 突然のセクハラに絶対零度の視線をヘルメスに向ける命。そんな事など早々に無視してパイの姿を探すヘルメス・・・・・・実に騒がしい神である。

 

 そこでパイの姿が見えない事に気付いたヘルメス達にアイズが指を指す。指差した先にぶつかった衝撃で吹き飛ばされ、顔面を地面に付けて倒れているパイの姿。

 

「何をしているんだい? トビ子くん・・・・・・そんな情けない格好して・・・・・・」

 

 ヘルメスが不思議そうに訪ねるが。そのパイをぶっ飛ばしたのは紛れもなくヘルメス達であった。そんなヘルメスの声に反応したのか、パイは地面から顔を上げてヘルメスを見る。

 

「うん・・・・・・こうなったのもヘルメスさんがぶつかったからなのかな・・・・・・」

 

 恨めしげにヘルメスを見るパイの視線に、ヘルメスと気絶しているベル以外の視線がヘルメスに向く。しかし、この男神は無駄に口が回る男であった。

 

「つまり、俺と現在、結合している三人にも問題がある訳だね! さぁ、どうするトビ子くん! このままでは俺意外にも責任を負って貰う形になるぞ!」

 

 自然に、周りを巻き込み責任を取れせようとするクズみたいな言動を取るヘルメス。パイはそんなヘルメスに感情の篭っていない瞳を向けながら、徐に左腰のポーチに手をかけ・・・・・・ようとした所を顔を青くさせたアスフィとアイズに止められる。

 

「それ以上はいけない!! 正気に戻ってください、パイ! “二十四階層の悪夢(意味深)”を忘れたのですか!」

 

「落ち着いて、パイ・・・・・・他の被害も出てしまう・・・・・・【アレ】は使っちゃダメ」

 

 【アレ】のワードをアイズが口にした瞬間。ヘルメスとそのヘルメスと現在結合中の三人が顔を青ざめさせる。

 

 事ある事に取り出そうとする【アレ】。以前に二十四階層にて使用され精神的被害を巻き散らかした品である。『こやし玉』の使用についてパイに本気の説教を行ったアスフィだったが、流石に街中では使わないというパイの言葉にアスフィは渋々ながら説教をやめた・・・・・・しかし、ダンジョンの中ではその枷は外れる様である。

 

 このままでは、ヘルメスはともかく、桜花、命、千草の関係のない人間まで被害が出てしまう、大体あのような気持ちの悪い状況になった原因が身体能力が一般人並みのヘルメスを三人が神輿のように背負って走って運んできたという経緯があったからである。むしろ、主神のわがままで多派閥の眷属に迷惑をかけてしまった事を含めて、これ以上の被害を出すわけにはいかないと、【万能者】はその頭脳をフル活用して被害を出さない方法を探し出す。そしてこの十八階層。通称“迷宮の楽園”にある施設・・・・・・リヴェラの街を思い出す。

 

「パイ、街中でそれは使わない約束でしょう! ここはリヴェラの街ですよ!」

 

 アスフィに言われてその事に気付いたパイが、忌々しげにヘルメスをみると舌打ちを打って離れる。その様子にアスフィは違和感を覚える。パイという人間がここまで露骨に毛嫌いする理由が解らないのだ。確かに、以前からヘルメスの事を胡散臭い奴だとは語っていたが、それでもここまでの事は無かった。つまり、明らかに態度を変更させる程度の“何か”をヘルメスがした・・・・・・そう考えるほうが普通であり、信頼など限りなく皆無な主神に呆れたような視線を向ける。

 

「ヘルメス様・・・・・・パイに何かしたのですか?」

 

「おいおい、信頼がないね。アスフィ、俺とほとんど行動を共にしている君が俺を疑うなんて、少し酷いんじゃないか?」

 

「アスフィ・・・・・・ヒントをあげるかな。最近【オラリオ】で神様達から私の愛称が決定したのかな」

 

 ヘルメスの言葉にさらに懐疑心を募らせるアスフィ・・・・・・そんな彼女に少し機嫌を直したのかやや不満そうなパイが説明をする。

 

「愛称? 『便利屋』ではないのですか?」

 

「それがね、不思議なのかな。私が【オラリオ】を少しの間、離れている間にね・・・・・・なんか、緑の胡散臭い男神が、“パイ・ルフィルの喜ぶ愛称を”ばら蒔いたらしくてさぁ・・・・・・その愛称が『トビ子』・・・・・・なんだって」

 

「あっ・・・・・・(察し」

 

 そこまで聞いてアスフィも思い出す。一年半前、【オラリオ】から一時的に身を離す為に短期間ではあるが、一緒に旅をした頃。一度だけだが、仲間内からのあだ名に関して、複雑な感情を持っていると言う話を耳にした事があった。

 

 そして、その“パイにとっては不名誉なあだ名を“愛称”と偽って広めた輩が居ると”・・・・・・、アスフィは脂汗を流している主神を冷ややかに一瞥した後パイに向き直り。主審に向けたのとは真逆の優しげな笑みを浮かべながら言った。

 

「前言を半分撤回します。街の中でも、ある程度他人に迷惑さえ掛からなければ、【アレ】を使う事も必要でしょう。得に、緑色の胡散臭い神などその対象にふさわしいでしょう」

 

「あっ・・・・・・アスフィ? アスフィーさーん? 冗談だよね? 俺、君の主神だぞ? 主神の危機を見逃すどころか、危険に晒そうなんてしないよね? しないよね!?」

 

 眷属の裏切りに、ヘルメスの顔が青ざめるのを通り越して土気色になる。そのアスフィの遠巻きなGOサインに、満面の笑顔になるパイ。

 

 そのパイの笑顔に本気で危機感を覚えたヘルメスが。どうにかダンジョンから生還し“偽りの愛称”の件を訂正する為に【オラリオ】中を駆け巡るのだが・・・・・・結局トビ子の響きが人気になりすぎて。数多くの神々と、その眷属に定着してしまった後であり・・・・・・彼はそのトレードマークの緑を“茶色”に染まる運命から逃れることができなかったのだが、それはもう少し後の話なのである。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ベル・クラネルが目を覚まし周りを見渡すと、そこは中々に混沌を含んだ空間であった。

 

 尻を抑える主神と、タケミカヅチの眷属であり、知り合いの桜花、命、そして、治療を受けたのか元気そうな千草と・・・・・・なぜかヘルメスが絡まり合っている。地味に密度が高く酷く気持ち悪い事になっている四人を、リューと、ベルに取っても一年半ぶりに見るアスフィが四苦八苦しながら“解体”している。

 

 そして、何故か居るアイズとパイが仲良さげに談笑している光景・・・・・・ゴライアスの攻撃を受けて気絶してしまった後にいったい何があったのだろうか。ベルは現状を理解しきれない状況に困惑した。

 

 そこで、ベルの目が覚めた事に気がついたアイズがベルに近づき、簡単な説明を行い、その説明を聞いたベルも先に逃がしたリリルカとヴェルフの安否を確認できて、少し安心したように口元を緩める。

 

 とはいえ、この少年。途中からゴライアスとの修行に集中してしまっており、微妙に二人の事が頭から抜けかけていたのだが、その事を指摘する人間はこの場にいなかった。

 

 そして、アイズの説明が終わり、離れるアイズの代わりにパイが近づき、“なぜこの大所帯が此処に居るのか”を説明し、そこで、漸く現状を把握したベルが、納得した表情をを浮かべる。

 

 まぁ、ヘスティアを運搬スタイルで何度も落としながら救助にきた内容や、ヘルメスを【タケミカヅチ・ファミリア】の三人で神輿のように担いで全力で追いかけてきた逸話など……色々と指摘したい部分も多々あったが、ベルはすべてを飲み込んだ上で笑顔を浮かべて感謝の意を伝えた。

 

「なかなかすごい話ですね・・・・・・でも、皆さん。ありがとうございます! 桜花達も無事みたいで良かったよ」

 

 ようやく“解体”が無事に終了し。変な感じになってしまった関節の調子を、確かめるように動かしている【タケミカヅチ・ファミリア】の面々もベルの様子にそれぞれ安堵の表情を浮かべる。

 

「ベル。さっきは済まなかった。他のメンバーが集まった時に改めて謝罪と礼はするが、先に個人として礼を言わせてくれ。ベル達があのモンスターの大群と共に戦ってくれたお陰で、無事に地上に戻れた。感謝する」

 

「うん、みんなが無事でよかったよ・・・・・・最後のは明らかに僕が調子に乗った結果だからね・・・・・・あとでリリとヴェルフに謝らなきゃ・・・・・・明らかに最後の奴が原因で落ちたんだし」

 

 たはは――っと力なく笑うベルに桜花も釣られて苦笑いを浮かべる。

 

「では、団長が二人で見事な土下座でも披露するのはどうだ?」

 

「いいね、それぐらい潔い方がいっそ面白いかもね・・・・・・それにしても体中痛いなぁ」

 

 桜花が冗談を言うとそれに乗るベルは今頃になってゴライアスから受けたダメージを感じ顔を顰める。

 

「大丈夫? ベル・・・・・・とにかく、ここに居てても仕方ないし、私たちの陣営においで、フィンにも説明しないといけないし」

 

 そう提案するアイズの言葉に全員が頷くと、移動を開始し、【ファミリア】合同の陣営に向かって歩き出すのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 リリルカ・アーデは隣にいる人物が気になって仕方がなかった。

 

 さらりとした金髪と自信を宿した瞳。その小柄な体躯と種族の弱みももろともしない強靭的な精神力と実力を宿した冒険者。【勇者】の二つ名を持つ男がそこに居た。

 

 ここはリリルカとヴェルフ・・・・・・そして、後にくるベル・クラネルの為に貸し出されてテントである。質としてもそこまで高品質な物ではなく。少なくとも【団長】の身分である【勇者】。フィン・ディナムが足を運ぶような場所ではないように思える。

 

 幸いにも肉体の修復を終え、短時間で気絶状態から回復したヴェルフがテントの外へと出てから数分後に訪ねてきたフィンに初めリリルカは入るテントを間違ったのかと思ったが、フィンの目的はリリルカとの会話だという。

 

 なぜ、最高位冒険者がLv.2になったといえど、上級冒険者程度に会いに来るのか・・・・・・リリルカは真意を掴めずにいた。

 

「なぜ、僕が此処に居るのか。理解できないって顔だね・・・・・・理由は二つあってね。ひとつは君に会いに来た・・・・・・そして二つ目は、知り合いから逃げてきた」

 

「はぁ・・・・・・リリにですか・・・・・・? それと、どなたから逃げているのですか? 【勇者】様?」

 

 リリルカの少しだけ警戒している様子にフィンが困ったような笑みを浮かべる。

 

「いやー、身内の事で恥ずかしいんだけど、ちょっと熱狂的な娘が居てね・・・・・・正直、いつも近くってのは神経が持たなくてさ。ここには癒しを求めてきたんだよ」

 

「癒しですか?」

 

「小人族同士ってのが僕に取ってはありがたい。特に、君のような可愛らしい子が相手だと、特にね」

 

 フィンの言葉に、リリルカも朧げながらフィンの言いたい事も理解できた。

 

「そう・・・・・・ですか。なるほど、理解しました・・・・・・所で、その熱狂的な娘さんってどういうお方なのですか?」

 

「そうだね・・・・・・純粋に僕を慕ってくれてて・・・・・・それが暴走して、よく私室とかの天井にへばりついたりして、僕の貞操を常に狙っているような娘かな?」

 

「最初の一文のせいで、後半の狂気じみた行動が際立って聞こえるんですけど!?」

 

 リリルカはフィンの説明に戦慄した。内容を聞くだけでも明らかに関わってはダメな奴であろう空気がする・・・・・・っと言うよりも、そんなヤンでデレ丸出しな人物に追われているというのに、その男の横にいる女という、現在の立ち位置の自分は実はかなり危険な立ち位置にいるのではないだろうか。リリルカは慌ててフィンから身を離す。

 

「ふふ、君は賢く・・・・・・そして敏い・・・・・・さらに気に入ったよ。僕は、君のような女性を探していたのかもしれないね」

 

 フィンのセリフにさらに嫌な予感を感じるリリルカ。気に入ったというが、それはつまり、“例の娘”から狙われる可能性が増したというだけでしかない。

 

 フィンにとっては“嫁探し”の一環で、頭の回転の早いリリルカは好印象であるのだが、リリルカとしてはフィン、当人ではなく“当人を囲む”部分の問題こそが重要であった。

 

「ちょっとやだ! この人、リリを無理やり巻き込む気じゃないですか!? 嫌ですよ! そんな痴情のもつれみたいなのに巻き込まれるなんて、絶対にゴメンですからね!」

 

 泣きそうな顔で叫ぶリリルカに、フィンは凛々しい表情で見つめてくる。

 

「大丈夫・・・・・・君は僕が守るから」

 

「そもそも貴方がここに来なかったら、リリが危険な目に会うこともないんですよ!? なに、かっこいいセリフ吐いてるんですか! 帰ってください!! そっちのテントに帰ってください!!」

 

 普通の女性であれば、ときめく状況であるのに初めの件のせいで不安しかない。半狂乱になって喚くリリルカだが、急にフィンが警戒するように顔つきを変える。その雰囲気を一変させたフィンの様子に僅かにドキリとしたリリルカの口元をフィンが手で塞いだ後にテントの中にある木箱の一つに自らの体とりリルカを押し込む。

 

「――――っ!?」

 

「リリルカさん。すまない、静かにして」

 

 冷や汗を流しているフィンがリリルカの耳元で囁く。急に押し倒された事で一瞬パニックに陥ったリリルカだったが、その切迫したフィンの声に瞬時に冷静になる。

 

 心臓の鼓動すらも聞こえるほどに密着した状態。リリルカとて年若き乙女である。特に美形な男性にここまで近づかれて、何も感じないほど唐変木ではない・・・・・・しかし、次の瞬間には全く別の意味で心臓の鼓動が早くなる事になる。

 

「だんちょぅ~、どこですか、だんちょぉ~・・・・・・おかしいわね、ここから匂いがしたと思ったんだけど」

 

 その声にフィンとリリルカ。二人の額から嫌な汗が流れ落ちる。リリルカはこの声が先ほどのヤンでデレな娘の声だとすぐに理解できた。

 

 そもそも匂いってなんだ、匂いって。目の前のフィンは体臭ケアにかすかな香水をかけているのか驚く程に悪臭の類はしない。むしろ、この微かな香りを追ってきたというのか?

 

 犬もびっくりな嗅覚センサーを発揮してこの場所を特定した人物。【怒蛇】のティオネ・ヒリュテは外見上は誰もいないテントに入ってくる。そして少しの間沈黙した後に静かにつぶやく。

 

「団長の香りに・・・・・・知らない女の匂い・・・・・・ここがそのアバズレのハウスね」

 

(ほらー! だから言ったじゃないですか! どうしてくれるんですか!!)

 

(大丈夫だ、まだ、彼女はこちらの位置を特定していない、今はやり過ごすんだ)

 

(・・・・・・もし見つかったら? 少なくともリリはどうなるのでしょうか?)

 

(・・・・・・かならず、五体満足で地上まで責任を持って送り届けると誓うよ)

 

(無傷・・・・・・とは言わないんですね・・・・・・その潔さは素直に好感が持てますよ? こんな状況にさえならなかったら、でしたけど)

 

 微かな声でさえも感知されかねないこの状況で、アイコンタクトだけで会話をするという絶技を実行するリリルカとフィンの二人。

 

「どこですかぁ? かくれんぼですかぁ?」

 

 遠くから気箱を開けて確認する音が聞こえる。確かに位置までは特定されていないだろうが明らかにこの場所に居ることがわかっているような行動に、リリルカもフィンも顔面蒼白となっていた。

 

(絶対バレてるじゃないですか!! なんか蛇みたいに粘着質な性格なんですけど!? じわじわといたぶられる感じがするんですけど!!)

 

(二つ名が【怒蛇】だからかな・・・・・・しかし、この索敵技能は素直に感心せざるを得ないな)

 

(【怒蛇】って蛇だけにですか? 何を上手い事言ってるんですか!! しかも呑気に感心しないでくださいよ!!)

 

(ふむ・・・・・・最悪、ティオネが僕達を認識する前に、その意識を刈り取るしか方法は無いかも知れないね)

 

(・・・・・・ちなみに、それに失敗した場合はどうなるのでしょうか?)

 

(・・・・・・二人でダンジョン内を駆け抜ける事になるね・・・・・・なかなかにロマンチックだとは思わないかい?)

 

(もう最高のロマン溢れる逃亡劇になりますね!! なんでこうなったんですかー! 最近の行いで悪い事してないのにー!!)

 

 着実に近づく足音・・・・・・フィンは思いつめた表情で覚悟を決め。リリルカは自らの運命を呪い始めた頃、テントの中に別の・・・・・・それも、複数の人間が入ってくる気配と共に最初に入ってきた人間がティオネの姿を見かけて声をかける。

 

「ティオネ? ・・・・・・どうしたの?」

 

 テントに入ってきた人物。アイズに――フィン達の入っている木箱を開けようとしていた――手を止めて振り返ったティオネが、自らのことを棚に上げて顔を出したアイズに尋ねる。

 

「アイズこそ・・・・・・どうしたのよ」

 

「ここに保護したリリルカとヴェルフのパーティーリーダーと、その三人を救出する為に来た団体も一緒に案内したの・・・・・・リヴェリアとフィンを探しているんだけど知らない?」

 

 アイズの質問にティオネも首を振りながら木箱から離れる。そして、例の白髪の少年とその少年に担がれた神物に驚き目を丸くさせる。

 

「ヘスティア様じゃない! どうしてダンジョンの中にいるのよ?」

 

「カクカクシカシカで・・・・・・」

 

「マルマルウマウマって訳ね。わかったわ、団長の居場所はわからないけど、リヴェリアは団長用のテントに居てるはずだから、一応先に伝えてくるわ。ベル・クラネルって名前だったわよね。治療をして落ち着いてからでいいから団長達の所に挨拶に来るのよ?」

 

 最後の言葉をベルに伝えてテントから出て離れていくティオネ。そのままティオネの姿が見えなくなるまで見送ったアイズはポーションが入ってるであろう木箱を開けると、少しだけ困惑気味な表情を浮かべる。

 

「やっ・・・・・・やぁ、アイズ」

 

 なにしろ、そこには先程探している人物の片割れであるフィンと、ここで休んでいたはずのリリルカが重なるように隠れていたのだから。

 

 そんな、二人が木箱から抜け出す光景を、他のメンバーも奇異の目で眺めている。ただ一人、多少の事情を知っているパイだけが、フィンに近づき声をかける。

 

「もしかして・・・・・・ティオネさん、また暴走したとかかな?」

 

「また・・・・・・ですか? 勇者様は、か弱い女の子を危険に晒しちゃうようなお人なんですねー」

 

「うん・・・・・・反省するべきだし、言い訳もできないね・・・・・・まさか、匂いで感知されているとは思わなかったよ。リリルカさんも怖い思いをさせて申し訳なかった・・・・・・実に大失態だと、そう認めざるを得ない」

 

 フィン自身も今回の事でかなり反省したらしく、素直にリリルカに頭を下げる。だがそんなフィンに対してリリルカはさらなる要求を告げる。

 

「ダメです! 今回は本当に死を覚悟したんですから・・・・・・そうですね、じゃあ、期限は決めないので【オラリオ】でオススメのスイーツのお店でご馳走してくれたら許してあげますよ」

 

 そう言ってはにかむリリルカにフィンもやや頬を緩ませ笑う。そして、すぐに力強い笑みを浮かべると確かな意思を持って言った。

 

「・・・・・・ああ、わかった。約束しよう。僕もそこまで詳しくはないから少し時間を貰うけど、必ず誘わせてもらうよ」

 

 そして、ほかのメンバーと軽く話した後に団長専用のテントに戻ると告げて出て行こうとした時、ふと思い出したのかパイの方に向き直る。

 

「なにかな? フィンさん」

 

「いや、すまないルフィル君。あとで団長専用のテントまで足を運んでくれないかい? 大事な、そう大事な話があるんだよ」

 

「? はぁ、分かったのかな、後で向かうのかな」

 

 最後にそれだけを伝えて今度こそ立ち去るフィン。その最後の言葉の意味が分からずに、不思議そうにしていたパイだが、考えても仕方が無いと割り切って、リリルカに話しかける。

 

「ところでフィンさんと二人きりでお話とか……リリルカもやるのかな!」

 

「別にそう言う意味だけって話じゃないですよ、パイさん・・・・・・それに、正直にいえば、あの【怒蛇】をどうにかして貰わないと命がいくつあっても足りなさそうですしね・・・・・・」 

 

 【怒蛇】。先ほどの行動といい言動といい。恐ろしいとしか言えない女の業にリリルカは肩を抱える思い出すだけで震えてしまう恐怖体験をしてしまった。

 

 なにより、現在のリリルカは自らの精神状態のも多少の理解をしていた。確かにフィンは強く人気が高く、はっきり言って美形で性格もいい。理想の男性像の一つと言っても差し支えもないだろう。

 

 しかし先ほどの状況は明らかに『吊り橋効果』という奴だ。はっきり言って錯覚だと思ったほうがいいと思える程度に、リリルカは達観してしまっている少女であった。

 

「だから、リリとしても、何事もゆっくりでいいんですよー」

 

 そう言って、いたずらっぽく舌を出すリリルカ。そんな彼女の逞しさにパイは笑い声を上げて笑う。

 

 そして、戻ってきたヴェルフを交えて、桜花達からは、結果的に怪物進呈紛いの行為を行ってしまった事を謝罪した上で、援護と千草の治療を行ってくれた事の礼を告げ、ベルは調子に乗って大技を使った挙句落盤を招いたことを同じタイミングで土下座して謝った。

 

 流石に、千草の怪我の具合も理解していたヴェルフとリリルカは、桜花達の真摯な対応に苦言とも言えないような小言を交えた程度で許し。ベルに関しては無意味に大技を出さないように注意した。それでお互いに水に流す事にして笑いあう。ひとしきり笑い、場が落ち着いたそのタイミングで“治療を終えた”ヘスティアからベルに声を掛ける。

 

「突然で悪いんだが、ベル君……ステイタスの更新をしようか」

 

 真剣なヘスティアの言葉に先ほどのゴライアスの戦闘を思い出したベルは、静かに頷くのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ……プ~ピ~♪ ……プ~ピ~♪

 

 ……フュルルル~~♪ フヒュルルル~~♪

 

 毒にやられ、自由の利かず更に痛みすら発する身体に多くの【ロキ・ファミリア】の団員がテントの中で呻いていた。

 

 【ソーマ・ファミリア】の【解呪酒】も毒には効果がなく今回は余りにも多くの団員が毒に犯された為に持ち合わせていた解毒薬を使ってもなお、多くの団員が身動きが取れない状態になっていた。

 

 ……プ~ピ~♪ ……プ~ピ~♪

 

 ……フュルルル~~♪ フヒュルルル~~♪

 

 現在、【ファミリア】で最も脚の早い【凶狼】。ベート・ローガが単身で地上に解毒薬を調達しに言っており。行く前に、ベート本人が直接毒に苦しむ団員達に、戻ってくるまでの辛抱だと激を入れ、地上へ向けて駆け出してからそれなりの時間が経っていた。

 

 最近の【凶狼】は何だかんだで暴言を吐きながらも、訓練場で後輩などの稽古をつけたり、アドバイスを行ったりしており・・・・・・未だLv.の低い団員達からの信頼を得ていた。

 

 【凶狼】の帰還を心待ちにしながらも、気持ちの悪さに呻くだけしかできない彼らの耳に届いたのは……解毒薬の到着の知らせではなく・・・・・・なんとも間の抜けた音程の笛の音であり、その音は聴くだけで脱力させられえそうなぐらいであった。

 

 なによりも、人が苦しんでいるというのになぜ、こんな音を聴かさらねばならないのか……団員達は定期的に鳴らされている音に苛立ちを募らせる……。

 

 ……プ~ピ~♪ ……プ~ピ~♪

 

 ……フュルルル~~♪ フヒュルルル~~♪

 

「「「「「うるせぇぇぇぇぇぇ!! 人が苦しんでいるときに何で笛ふいてるんだぁぁぁぁ」」」」」」

 

 鳴り止まない笛の音に、ついに堪忍袋の緒が切れた数名の団員がそう叫び起き上がる。そして起き上がった団員はあることに気づく、先ほどまで自分達を苦しめていた毒が消えている事に……。

 

 まさか、あの笛の音が? 同時に思う疑問であったが、しかし笛の音で毒が消えるなんて聴いた事もない……。

 

 急激に回復した体調に関して不思議そうにしていると、笛の音が遠くに聞こえている事に気づいて急いでテントの幕を開けてその音の方向を見る。

 

 そこには、【ロキ・ファミリア】が誇る高Lv.冒険者である【剣姫】について行く、白猫のような生き物と黒いドレスのようなものを着込んだ少女がお互いに笛を吹きながら、他の患者の居るテントに向かっている所であった。

 

 そんな珍妙な光景に間の抜けた表情を浮かべながらも多くの団員がその背中を見送るしか出来なかったのであった。

 

……

…………

………………。

 

 パイ・ルフィルとアイルーのシロは、アイズからここで進行を止めている理由を聞くやいなや、『アイテムポーチ』から取り出した『解毒笛』を片手に毒消しコンサートを開催していた。

 

 それを後に聞いた“解毒薬”を地上に買いに行った狼人の青年がひどく荒む事になるのだが、目の前に苦しんでいる人が居るのに、それを放置するなんて事も出来ないパイにとっては当然の行動でもあった。

 

 しかも、パイだけではなくアイルーのシロもまたオトモスキル『解毒・消臭笛の技』を習得しており、『ハンター』と『オトモ』の摩訶不思議は笛治療によって多くの団員達の毒は抜け去った。

 

 その脱力してしまいそうな音を聞いてなお、確かな効果に驚いているのは何よりアイズ・ヴァレンシュタインであっただろう。

 

 ベル達をテントへと案内し。ヘスティアがベルの【ステイタス】の更新を行うと言う事で。テントの外へと放り出されてしまった一行。とはいえ、桜花達【タケミカヅチ・ファミリア】の三人とリリルカ、ヴェルフの五人も『迷宮の楽園』にはあまり来たことが無いのか物珍しさに散策へと向かい。ヘルメスとアスフィもリヴェラの町へと消えていった。覆面のエルフ。リューも個別に用件があると告げて一人で森の方へと歩いていく。結果アイズとパイ。そしてオトモアイルーのシロの二人と一匹が残る結果となった。

 

 他愛の無い話をしていると、パイから何故ここで行進が止まっているのかと言う質問され。アイズは遠征帰りにパープル・モスの大発生に巻き込まれ多くの団員が毒に犯され、身動きが取れなくなった実情を話した。

 

「毒だったら、もしかしたら力になれるかもしれないのかな!」

 

 そう口にするパイに駄目元で頼んでみたのが現在の笛吹き解毒演奏会に続いており、多くの団員達が苦しげだった表情を和らげテントの幕をめくり奇怪な演奏を続けるアイズ達を見ている。

 

「おい……アイズ! 解毒薬を調達してきたぞ……! なんだこのへっぽこな演奏は……ってお前かよ、『便利屋』」

 

 そんな、アイズ達に声を掛ける人物が居た。その人物の名はベート・ローガ。ベートはかなり急いで帰ってきたのか、額に汗がにじんでおり、予想していた時間よりもはるかに早い帰還を果たした事が伺える。しかし……

 

 アイズはそのベートが持ってきた解毒薬を見つめながら冷や汗を流す……今現在自分がお願いしたことを思い出し、そしてベートが頼まれた物がどう言う物かも思い出す。

 

 足の速いベートに地上に一人で戻ってもらって解毒薬を調達してきて貰う。当初の目的ではそのような段取りになっており、最近かなり丸くなったベートが団員達の為に嬉々として地上へと走って行ったのは体感的には今朝の明朝。そして、今は正午にはまだ早いぐらいの時間である。

 

 かなりのハイペースで往復をしてきたのだろう。しかし、そんなベートの努力はアイズのお願いを聞いたパイによって無駄に終わってしまった。

 

「ごめんなさい……ベートさん……その、解決しちゃった……」

 

「はぁ? 解決? なにがだよ」

 

 観念して搾り出すように言葉をつむぐアイズを怪訝そうに見つめるベート。そんなベートに空気を読まない行動が多いパイが明るい声で話しかける。

 

「ベートさん、お久しぶりなのかな! なんと!! 毒で倒れていた団員さんをこの解毒笛で治療したのかな! これぞ【大陸】が誇る摩訶不思議アイテムなのかなー……どうしたのかな? なんか、悲しみを背負った男前な顔になっているのかな……」

 

 パイの言葉が進むごとに物事を理解してゆくベート。そして、最後には己のした行動が無駄に終わったと告げられた彼の表情は、どこまでも静かな失望を抱えた大人の表情に変わっていた。

 

 

――――――――――――――

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.2

 

 

力  :I 91 →:H 171

 

耐久 :I 58 →:H 101

 

器用 :I 72 →:H 123

 

敏捷 :I 89 →:H 159

 

魔力 :I 54 →:H 113

 

幸運:I

 

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

 ・速攻魔法

 

 

《スキル》

 

【狩人之心《ヒト狩リ行コウゼ》】

 

 ・モンスターとの戦闘時の【経験値】の取得上昇。

 

 ・パーティを組む事でステイタスの上昇。

 

 ・笛を吹くと体力を微量回復することが出来る。

 

 

【狩猟】

 

 ・ドロップアイテムをモンスター死亡時一定時間以内“剥ぎ取る”事ができる。

 

【調合】

 

 ・素材と素材を組み合わせることで別の物を作ることができる。

 

 ・一定の確率で【もえないゴミ】を生成する。

 

 

【憧憬一途《リアリス・フレーゼ》】

 

 ・早熟する。

 

 ・懸想が続く限り効果持続。

 

 ・懸想の丈による効果向上。

 

 

【怪物狩人《モンスター・ハンター》】

 

 ・モンスターと戦闘時ステイタス補正。

 

 ・【ハンター】と行動時ステイタス上昇。

 

 ・パイ・ルフィルを師と想う限り効果持続。

 

 ・特定の狩技を使用可能。

 

 

【英雄願望《アルゴノゥト》】

 

 ・能動的行動に対するチャージ実行権。

 

 

 もう、この子供のぶっ飛び具合に関して何も感じなくなりつつあるヘスティアは、無表情で書き記したステイタスの写し。もう一度それを見直して改めてため息を吐く。【英雄願望】。おそらくだがゴライアスとの戦闘時に使っていた光る現象はこのスキルによる物であろう。

 

「えっと……やっぱりなにか発現してましたか?」

 

「うん、ベル君の思った通りのスキルが発言していたよ・・・・・・」

 

 ポーションを浸した布を腰と尻に張ったお陰で痛みが引いたヘスティアは早速ベルのステイタスの更新を行った。その結果、上記のスキルが

発現しており、その説明文をみたベルも己の感じていた通りのやり方で、間違っていなかった事に頷く。

 

 その後、帰ってきたヴェルフとリリルカの二人に声を掛けてベルはヘスティアと共に団長専用のテントの場所へと進み……そこで同じく団長専用テントに呼ばれたパイと合流する。許可をもらいテントの中に入るとそこには【ロキ・ファミリア】の団長。フィンと、副団長のリヴェリアの二人の姿だけであり、他の団員の姿は無い。

 

 三人がテントの中央まで進むと、おもむろにフィンが手の平を突き出す。その行動に足を止めた三人のうちの一人、パイに対してフィンが口を開いた……それは、嘗ての因縁の決着をつける為の言葉であった。

 

「やぁ、久しぶりだね……一年半ぶりかな……“妖怪フン投げ”君……そうだろう、パイ・ルフィル。君があの時の犯人なんだろう!」

 

「なっ!?」

 

 フィンの突然の言葉と共に指差されたことで、驚くパイはその身体を大きく揺らし動揺する……そして、リヴェリアはともかく、まったく状況についていけていない、ベルとヘスティアを置いて二人の世界観に入り込んでしまう。

 

 真剣な表情の二人、その二人の雰囲気に流され緊張を身にまとわせるベルとヘスティア……だが、ヘスティアは思い出す。一年半前の珍事件を……隣で混乱するベルにその珍事件の概要を伝えると、ベルもどこか白けたような視線を前方に居るパイに向ける。

 

 押しだまったパイは皮肉げな笑みを浮かべてながら大量の脂汗を流すという地味に器用な事をしており……そして……

 

「ひ……人違いジャナイカナー」

 

 とても……とても苦しい言い訳をするのであった……。

 




繋ぎの第四話が全然筆が進まなくて今回早いのは第四話よりも先に大方できていたからです。

ちなみにベートさんは好きです。この作品では、どんどん丸くなっていい兄貴分となり、比例して可哀そうな役が多くなってしまうのは……気が付いたらそうなってました……。
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