絆レベル10のカルデア   作:ヒラガナ

12 / 18
水着イベントにキュケえもんが実装されず「汎人類史に存続する価値はあるのか?」と自問自答して筆が止まっていましたが、キュケえもんの戦闘ボイスが追加されたことで息を吹き返したため投稿を再開します。

なお、第四話は多くのサーヴァントがキャラ崩壊していますので、ファンの方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。


第四話:藤丸立香と引き籠り姫とサーヴァント・オールシーズン・フェスティバル①

サバフェスをご存知だろうか?

正式名称は『サーヴァント・サマー・フェスティバル』。

ハロウィン、クリスマス、バレンタイン・ホワイトデーと季節のイベントをきっちりこなすカルデアが、夏に催す宴のことである。

 

人理が焼却されてんのに余裕あんな、こいつら――とか。

英霊のくせに人類より生を謳歌してんな、こいつら――とか思ったら色々辛くなるから止めようね。

 

ともあれ。何も知らない者からすれば、屋外で楽しく踊るサンバのような催しを想像するかもしれない……が。

性欲溢れる我らがカルデアにおいて、んなフレッシュなイベントが開かれるはずがないだろいい加減にしろ!

 

フェスティバルは室内で行われ、激しく動き回ることなく、軽快な音楽なんぞ鳴り響かず、爽やかさなど微塵もない。

 

――だが、熱狂はある。

 

『サーヴァント・サマー・フェスティバル』。

有り体に言えば『同人即売会』。

紙面に書(描)かれた文字が、イラストが、物語が、参加者(の主に下半身)を熱く狂わせるのだ。

 

さらに、ここはルルハワで開催された健全なサバフェスとは異なるR指定世界。

マスター脳を患う理性蒸発上等のサーヴァントらが集う肉食カルデアにおいて、『健全』は遥か遠き理想郷へと追いやられた。

人理焼却された世界に、表現の規制に取り組むリンゴ的組織があるはずもなく「全年齢? 知らない言葉ですね」と、サバフェスはアダルトな魔境と化している。

エロは生きる原動力であり生命の根源。何を恥ずかしがる、大いに表現しよう、エロの偉大さを三千世界に轟かせよう!

 

わざわざ言及するまでもないが。会場に置かれた作品群はどれも『藤丸立香』が題材となっており、彼を模したあられもない創作物が会場を席捲している。

もし、本人が目撃すれば「こんなサバンナにいられるか! 外が焼却されていようが俺は自分の国に帰らせてもらう!」とカルデアからの脱走を試みることは想像に容易い。

故にサバフェスはサーヴァントが企画・運営を一手に引き受け、秘密裏に開かれてきた。

それも夏だけでなく、年がら年中。

 

当初は夏のみ開催だったが、こんな愉しい祭りなら年に何度も楽しみたい――との要望が日に日に増え、いつしかオールシーズンとなった。

名も変わった。『サーヴァント・オールシーズン・フェスティバル』だ。

 

隙あらば開催するのだ!

どんどん書け! どんどん描け! どんどん演れ! どんどん彫れ! どんどん縫え! 

己が欲望を、己が愛を、己が性癖を!

いつか実現するかもしれないマスターとの逢瀬。そのイメージトレーニングも兼ねて!

 

 

人理修復、聖拝戦争、サバフェス準備、マスター襲撃。

カルデアのサーヴァントは実に多忙である――そんな中で。

 

 

一体のサーヴァントが人(サーヴァント)生の袋小路に陥っていた。

彼女の名前は――

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「おっきー、ネームの進捗はどうなっていますか……うっ」

 

相方の部屋を訪れた清姫は、散乱する本やスナック菓子の袋や紙屑に眉をひそめた。

基本的に片付いていない相方・刑部姫のテリトリーだが、今日はいつにも増して汚部屋である。

 

「こんなに散らかして……返事を聞くまでもなく進んでいないようですね」

 

溜め息を吐きつつ、清姫が目に付くゴミを拾っていると。

 

「うう~~ダメだぁ、(わたし)はもうダメなんだぁー! うわあああーん!」

 

中央にドッシリ置かれたコタツからすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「部屋に引き(こも)るばかりか、さらにコタツに籠るなんて、これは重症ですね。ほら、おっきー。顔を出してください。泣いていても締め切りは延びません」

 

コタツ布団を持ち上げようとするも内部からの抵抗は激しく難航する。

ええい、筋力Eなのにやりますね。いっそのことコタツを燃やし、たまらず飛び出してきたところを上から鐘を被せ捕獲しましょうか……と、物騒なことを思案する清姫。

しかし、この引き籠り。追い詰め過ぎたあまり、チェイテピラミッド姫路城へと逃げ籠った前科を持つ。強硬策に移るのは尚早か。

 

(わたし)は所詮アマチュアぁぁ。低クオリティの駄作量産機なんだぁ~」

 

「はぁ……前回の事をまだ引きずっているんですね。切り替えていきましょう、プロはプロ。私たちは私たちで」

 

「うぇぇ、簡単に割り切れれば苦労しない~~」

 

 

元来、刑部姫はオタ活に積極的でカルデアに召喚される前から同人活動を行っていた。

アマチュアながら実力は高く、イラストをTwit〇erに投稿すれば4000イイネを取れるくらいにはある。

 

 

そんな彼女の心が折れる事件が、前回のサバフェスで起こってしまったのである。

刑部姫と清姫の同人サークル『Princess×2』が出した渾身の一作『マー珍と触手』。

タイトルからしてヤバいが中身もヤバい。

 

事件の概要の前に、内容を大まかに説明しよう――

 

グランドオーダーの最中、魔神柱に捕らえられてしまう立香。

魔神柱の触手(魔神柱に触手なんてあったっけ? という疑問はNG。あの見た目ならば触手があってもおかしくないと誤認推奨)は立香の四肢ばかりか大事な部分にも伸びていく。

服を剥かれあられもない痴態を晒してしまう立香! 絶体絶尻! もうダメだ貫通だ! という寸前で彼はサーヴァントに救出され、貞操の危機を脱する。

しかし、身体は無傷でも心に残った大きな傷は如何ともし難い。

立香は自室に引き籠るようになった。そんな彼を健気に看病し支えるサーヴァント(目鼻が描かれていない同人誌おなじみの顔)。慈悲深い献身はやがて立香の心を癒し、一人と一体の仲は深まっていく。

絆が深まればヤルことは一つ。サーヴァントと立香は幸せな合体をして、お話は終了する――

 

 

刑部姫と清姫には確かな手応えがあった。

絵の出来は上々。鐘姦やコタツ姦など趣味に走り過ぎた過去作より万人受けする。

これなら歴代最高の売り上げを叩き出すのは間違いない!

 

二人は大きな期待と自信を胸に、サバフェスに臨んだ。

結果は……運が悪かった、相手が悪かったと言うしかない。

 

『Princess×2』の売場は不運にも大手サークルに挟まれていた。

一方は、日本史上最高の知名度を誇る画家・葛飾北斎

もう一方は、日本史上最高の知名度を誇る小説家・紫式部

 

これだけで罰ゲーム状態なのに、なお最悪なのは同人誌の内容が被っていたことである。

葛飾北斎は、生前からタコに絡まれる女性の浮世絵を描いていた。ならば『魔神柱×立香』モノに手を付けるのは必然であろう。

紫式部はこの時たまたま『立香介護』モノに挑戦しており、源氏物語に負けない淫靡と官能的な描写を現代小説の形にしっかり落とし込んでいた。

 

長蛇の列を作る二大サークル――の真ん中でポツンと佇む刑部姫。俗にいう『伊〇ラ〇フ状態』だ。端から見れば笑い話だが、渦中の本人としてはまったく笑いは出ず、冷や汗が滴る。

相方の清姫が居れば、まだ彼女の苦痛は緩和されたことだろう。しかしタイミングが悪く、清姫は立香を襲った罰による『素材狩りの刑』で不在であった。

 

針のムシロの刑部姫は、自作内の立香以上に精神をやられ、自作内の立香以上に引き籠ってしまった――そういう経緯である。

 

 

 

「今回はわたくしがネームを切っても良いですが、それは逃げですね。わたくし、逃げる者は追わなければ気が済まない性質(タチ)なので。おっきーには何が何でも奮起してもらいます」

 

清姫の声が硬くなる。傷心の相方への遠慮がなくなった。

 

「ひっ! お、横暴だー。暴力に屈する(わたし)じゃないぞー。耐久サポーターアサシン枠の意地を見せてやる! こちとら同人活動の傍らスキルや宝具を強化して、マーちゃんの役に立とうと鍛えているんだから!」

 

「あの明後日の方向に強化したスキルと宝具ですか? 正直、おっきーの戦い方に合致していないような……」

 

「やめてぇぇぇ、きよひー! その事実は(わたし)に効く!」

 

沸騰したヤカン蓋のようにコタツが上下に激しく揺れる。中に籠る刑部姫は壮絶に悶えている模様。

 

「はぁ……」清姫は入室してから早くも四回目の溜め息をついてから。

 

「今のおっきーは同人活動の初心を忘れているみたいですね。無理矢理引きずり出したり燃やしても根本的解決にはなりませんか……でしたら、ここは一つ、わたくしから試練を与えましょう」

 

「しれぇんん……試練ってケルト系や脳筋系サーヴァントがやたら好みそうで、文化系の(わたし)的には鳥肌が立つ暑苦(あつくる)ワードの? そんなの(わたし)が承諾するわけないじゃん」

 

「うふふ、拒否していられるのも今のうちです。試練を乗り越えた場合、特別な賞品を贈りましょう」

 

「賞品……舐めてもらっちゃ困るなぁ。(わたし)が受けた傷は深く痛ましいんだ! そんじょそこらのモノで釣ろうだなんて(わたし)を馬鹿にしてい――」

 

旦那様(マスター)の毛髪です」

 

「詳しく」

 

「あれは先日。わたくしが『素材狩りの刑』になった日のこと」

 

「あ、回想初っ端でオチが見えちゃったんだけど」

 

「わたくしは隠密的にすら見える献身的な後方警備でマスターを護っていました」

 

「客観的に言えばストーキングをしていたと」

 

「ますたぁを監視していましたら、何やらムラムラしてしまい。思い余って背後から濃密な身体接触を仕掛けまして」

 

「いつもの強襲をかけちゃったんだ」

 

「その後、同じ水泳部の頼光さんたちに捕縛されたわけですが……騒動の最中、幸運にもわたくしの指にマスターの大事なモノが数本絡まっていました。きっと、わたくしの日頃の行いが良かったからですね」

 

「思わずコタツから出てツッコミたい衝動に駆られるけど……ほ、ほ、ほんとにマーちゃんの毛髪?」

 

「我慢できず一本口に入れたので間違いありません。わたくしの霊基が多幸感と力に溢れ、聖杯なしでレベル上限が解放されました」

 

「そのデタラメさは、まさしくマーちゃんの!? ――ごくり」

 

「おっきーはメル友でサークル仲間。手に入れた毛髪から一本くらいは融通しても構いませんよ」

 

「そ、そ、そんなあからさまな『餌』に釣られないクマァァァ…………ァァ…………はい、釣られました。これでもかと華麗に釣られました。ってかマーちゃんの一部が手に入るとか乗るしかない、このビックウェーブに!」

 

ドタバタ暴れ叫んでから、ようやく刑部姫はコタツから顔を見せた。尻を隠して頭隠さず。カタツムリみたいと内心思う清姫である。

 

「で、きよひーは(わたし)に何をさせたいの? ネロ祭やギル祭みたいな超高難易度の試練はダメだからね。フリじゃなくガチで」

 

「うふふ、簡単な試練です。怯えないで聞いてください――」

 

訝し気な目の相方を安心させるように、清姫は嘘偽りのない明快な言葉を発した。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「まさか、引き籠りで名を馳せた(わたし)が御朱印集めモドキをやるなんて……絶対おかしい。魚が陸で生きるレベルの無理げーだって」

 

愚痴りながら刑部姫は廊下を進む。彼女が通路にいるだけで誰の目からも違和感だが、肩が擦るほど壁際をコソコソ歩く様は実に『らしい』光景だ。

 

「どこが簡単なのさ。コミュ障には辛すぎるんですけど」

 

清姫から与えられた試練は、『サバフェスに出るサークルを巡って、各サーヴァントの主義趣向をインタビューし、どんな矜持を持ってサバフェスに臨んでいるのか調べる』――だった。

 

「全部とは言いません。この紙に指定されたサークルを回ってください。それぞれの先生方には話を通していますから。会った証明として先生方のサインを忘れずもらってくださいね。あっ、わたくし、嘘は大嫌いですので……虚偽報告には炎をもって対応します」

 

ドスが効いた言葉に、刑部姫はコクコクと肯くしかなった。

 

 

 

「それにしても~」

 

色々と引っかかる試練だ。清姫の行動にはバーサーカーらしからぬ段取の良さと卒の無さが窺える。猪突猛進な彼女が持ち合わせていないものだ。

 

「きよひーならマーちゃんの毛髪を交換条件にさっさと原稿を描け、と命令しそうなのに。こんな回りくどいやり方を取ったのは……そういうことだよね」

 

どうやら自覚以上に仲間や友達を心配させてしまったらしい。

サークル名が記された指示書は、書式がサバフェス運営の発行誌に似ている。

 

運営の構成員は毎回微妙に変わるが、責任者は常に決まっている。黒髭氏だ。

彼はクリエイターではない。サバフェスにおいて脚光を浴びることはない。

しかし、読み専として素人のどんな拙い作品にも目を通し、良い点を見つけ褒めてくれる。もちろん改善点もきちんと指摘するが、将来性に期待した思いやりのある論評は多くのクリエイターから支持されている。

何と言っても問題行動の多いサーヴァントたちを統括し、短い頻度でサバフェスを開けるのは運営責任者たる彼の手腕に依るところが大きい。

ある意味、サバフェスにおいて最も必要とされる存在だろう。

 

「黒髭氏が、きよひーに助言してくれたのかな。多くの作家たちと交流して、(わたし)の創作意欲を刺激しようと……じゃあ、仕方ないな~」

 

ここまでお膳立てするのに、それなりの労力が費やされたはずだ。

些か大きなお世話だが、友人である清姫と黒髭氏の厚意を無下にするのは気が引ける。

 

「よ~し、いっちょ行きますかぁ」

 

指示されたサークルを全部回るのは骨だ。気合入れなど自分のキャラに合わないが、やっておこう。

 

 

『同人活動』には、たくさんのサーヴァントが関わっている。関わり過ぎている。

絵心がある者は漫画やイラストを、ストーリーテリングが上手い者は小説を、料理の得意な者はマスターの胃袋攻略に適したレシピを、音楽で一世を風靡した者は楽曲を、フィギュアやゴーレムなどの変わり種だってある。どのサーヴァントも思い思いの方法で自身の中で燻ぶる熱情と劣情を表現する。

 

これが『サバフェス部』だ。『愉悦部』、『溶岩水泳部』と並んでカルデア三大部活動の一つと数えられるが、携わる人数だけ比べれば他を圧倒している。

部と言う形を取っているものの部員たちが一堂に介するのはフェスティバル当日だけで、普段は横の繋がりが薄い。同部員だろうと、刑部姫が喋ったこともない者ばかりだ。

 

ちなみに文化に疎い脳筋サーヴァントは部員になれないが、推しの先生が同人活動に集中できるようQPを稼いで投げ銭したり。

藤丸立香がサバフェスに気付かないよう、あえて(?)襲撃者となって注意を逸らしたりする。いやはや、刑罰を承知でサバフェスに身を捧げる。なんとも涙ぐましい自己犠牲ではないか。

 

 

 

「わー。お菓子だーお菓子ー! クリスマスでもないのに嬉しいです!」

「わー。おいしぃ! アメリカにはない味でほっぺた落っこちそう~」

「わー。わたしたちも大満足だよー!」

「わー。絵本のようにあまーい!」

 

「ひっ!?」

 

前方から(中身はともかく見た目は)カルデア子供組がキャッキャと走って来る。キャッキャの『キャ』は陽キャの『キャ』。つまり大敵だ。

刑部姫は壁に張り付いて、

 

「お菓子ありがとー! おねえさーん!」

 

お礼を言いながら去って行く幼女共をやり過ごした。

 

「うええぇ、慣れないなぁ。あの子たちのあのノリは……ん、お姉さんって」

 

どうやら最初の先生の部屋に着いたようだ。

 

「こらこら、ちゃんと前を向いて歩くんだぞ」

 

叱るようでいて、母のような愛情を含む声色。

ギリシャ神話に名を刻む女狩人・アタランテが刑部姫の前に立っていた。

スラリと細い体躯、ケモノ染みた耳と尻尾が特徴的だ。

 

 

「子供は良いものだな。彼女らの笑顔は好きだ」

 

アタランテはその生い立ちから、子供を庇護され愛されるべき対象と見ている。聖杯にかける願いは『この世全ての子供たちが愛される世界』、たとえ夢想家と蔑まれようとも願わずにはいられない。

 

「さて――」

アタランテの視線が子供たちから刑部姫にシフトする。

「話は聞いている。私の活動を見学したいのだな」

 

「ひっ、そ、その」

 

刑部姫にとってアタランテはまったく接点のないサーヴァントだ。会話するのもこれが初めてである。

だが、相手はサバフェスで一大ジャンルを築く権威あるお方。挨拶はしっかり行っておこう。

刑部姫はブンブン頭を下げつつ言った。

 

 

「よ、よろしくお願いします! 『ショタランテ先生』!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。