初っ端から『サーヴァント特攻(ハート)さん』が猛威を奮う本作ですので、矛盾や粗があっても「ままええやろ」な精神でお読みいただくと有難いです。
英雄王、ギルガメッシュ。傲慢で冷酷、隙あらば愉悦を求める、癖しかない男である。
反英霊以上のコミュニケーション難易度を誇るが、不遜な振る舞いが許されるだけの実力を持ち合わせた英雄の中の英雄。
そんな彼が
「まあ、
ギルガメッシュは考えた。
必要な物は電力。カルデアの発電設備はフル稼働しており、多くの電力を昏睡状態のマスターたちの生命維持や近未来観測レンズ・シバのために使っている。サーヴァントのレイシフト用に融通するのは難しいだろう。
「足りなければ増やす。幼子でも分かる道理よ」
ちょうど先日、電気に精通するサーヴァントが召喚された。ヤツなら相応の働きをしてくれるだろう。
ギルガメッシュは、禁欲的な男を愉悦の徒にするような口の上手さで勧誘を行った。
「――成る程、『すべてをみたひと』と語られるだけはある! 私に話を持ち掛けたのは正解だ。何故なら、私は天才だ。何故なら、私は雷電だ。我が交流発電機サンダードームならば、サーヴァント多数のレイシフトにも対応してみせよう!」
ロンドンで敵対した星の開拓者、ニコラ・テスラ。
彼はマキリ・ゾォルケンによって召喚され、魔霧計画に加担していた――が、藤丸立香を見るや「おっと身体に電気が走った」と発し、ゾォルケンから受けていた狂化を自力解除。あっさりサーヴァント特攻(ハート)さんの軍門に下ったのである。そのままごく自然にカルデアまで付いて来たのは言わずもがな。
「超効率の発電方式は私が作り上げるとして、実際組み上げるには人足が必要となる。英雄王の人徳があれば、容易にかき集められると思うのだが」
「ほう、
ニコラ・テスラからの注文は、単純な労働力。
それを叶えるため、ギルガメッシュは2人のサーヴァントに接触した。
「僕が聖杯に願うのは『原初の創造』――だった。しかし、それを『受肉』に変えてしまった
「ホムンクルスをご入用と? 我が愉悦部の長たっての願いとなれば喜んでお貸ししましょう……それが
アヴィケブロンとパラケルススの2人は、どちらも『求める対象に近付くべく研究と探究に心血を注ぐ』というキャスターらしいキャスターである。なお、カルデアに召喚されるまでそれぞれ『原初の創造』と『真理』を追究していたが、今では専ら『藤丸立香』を研究対象としている。
アヴィケブロンがゴーレムを、パラケルススがホムンクルスを提供し、ニコラ・テスラの計画の手足となる。
こうしてテスラが言うところの『サンダードーム』なる発電施設は、カルデア職員の許可なんぞ取るはずもなく勝手に作られることになった。
しばらく時が経ち。
「さて、作業の進捗でも見てやるか」
ギルガメッシュが千里眼を用いてサンダードームを視察すると、磁力を付与されたゴーレムたちが高速回転していたり、燃焼効率を上げられたホムンクルスたちが火の海で藻掻く姿があった。
さらに、いろんな意味で地獄絵図を作るニコラが「核融合……有りだな」と独白していた。
「ははははは、恐れ入ったぞ雑種。
ニコラ・テスラだけに任せるのは危険だと感じたギルガメッシュは強引に一部の計画を凍結した。
また、代わりの発電方法としてナーサリー・ライムの助力を受けながら、消え行く途中のロンドン・ハイドパークから『サンダーブック』と呼ばれる魔本を捕獲。
これは微小な魔力で存在し続け、電気を垂れ流すエネミーだ。発電施設に隔離部屋を作って飼育することとした。
「発電はこんなものか……次は吸収効率だな」
カルデアから提供される魔力は、天然の魔力ではなく電気を変換させた人工物である。そのためか、サーヴァントが吸収する際に『抜け落ち』が発生していた。
100の魔力がサーヴァントに提供されたとする。マスター由来の天然物ならば100全てを吸収するところ、人工物はせいぜい60といった具合だ。
アーチャークラスでありながらキャスターの素養を持つギルガメッシュは、この『抜け落ち』を知覚し、吸収効率に着目していた。
「
ハイドパークまで行って魔本採取に奮闘したのをノーカウントし、ギルガメッシュは魔術に詳しいサーヴァントを訪ねた。
「ふぅん、傲慢な男の頼みは聞かない主義なんだけど。しょーがない、他ならぬピグレットのためだからね。一肌脱ごうじゃないか!」
「はぁ、叔母様ったら安請け合いして……マスターにプレゼントする礼装作りがまだ途中なのに」
怪しげな薬品や生物の干物が並ぶ、如何にもな部屋。
そこの主であるキュケえもんとメディアの魔女コンビは、英雄王の案件を受諾した。
男運の無さが目立つ2人だが、魔術に関しては時計塔の
普段から立香のためにセキュリティ礼装を用意する2人は、ギルガメッシュの依頼も『いつもの仕事』と承諾した。
「人工魔力の吸収効率を上げる……骨が折れそうな問題ですね」
「そうでもないさ、メディア。私に良い考えがある!」
フラグなセリフに、妹弟子のメディアと依頼人のギルガメッシュが「期待できない」と半眼になっているのも何のその。
「電力を魔力に変換する際に、触媒を使うのさ」
キュケえもんは一つのアイディアをぶち上げた。
「触媒……いったい何を?」
「ふふふ、私の魅惑の身体(147cm、39kg)が受け入れるのはピグレットただ一人。魔力だってそうさ、ピグレット印の魔力ならいつでもウェルカムってね!」
「ほう」
「それって!」
まさかでマトモな妙案にギルガメッシュは愉しそうに、メディアは驚きの反応を見せた。
「ピグレットの魔力。欲するも頭バーサーカー確定だから我慢したあの禁断の代物を、触媒として扱うのさ……ふふふふ」
キュケえもんは大魔女の面目躍如たる邪な笑みを浮かべるのであった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「お、俺の魔力を……?」
「すでに検証は済んだ。貴様が先日受け取った礼装。あれに貴様の魔力を変換器へ飛ばすよう細工してな」
な……なんだとっ。最近、肉食サーヴァントの潜伏に気付きにくかったのは魔力を抜き取られていたせいか、と立香は訝しんだ。
「だが、案ずるな。貴様から採る魔力はせいぜい1割程度。聖杯探索に支障はなかろう」
元々、量の少ない立香の魔力――その1割。
ごく少量であるが、それで十分だった。いや、十分過ぎた。
立香の魔力は触媒ではなく、起爆剤だったのである。人工魔力を100%吸収どころか、ブーストさせて英霊にぶち込む……が、対価として理性を奪い取る。
そんな恐るべき機能を秘めていたのだ。
「ピグレットの体調も考えて、2割くらいもらおうかな…………ぐ、ぐえええぇぇ!!」
被験者となったキュケえもんは盛大にラリッてギャグシナリオの住人と化し、大魔女の面目丸潰れな醜態を演じてしまったのである。
あまりの無様っぷりに英雄王と妹弟子はこれを見なかった事とし、立香から提供される魔力は1割、それ以上はNGと取り決めた。
ギルガメッシュの長い解説も締めに入る。
「発電施設と魔力の吸収システム。これらによってレイシフトに約30体の英霊を同行出来るようになった。研究が進めば、更なる同時召喚が可能となるだろうが、現時点ではこれで満足せよ」
「30体! あ、ありがとうございます英雄王! 他のサーヴァントの皆さんもありがとうございます!」
「ふん、礼なんぞ要らぬ。貴様は自分の仕事を全うせよ」
「はいっ!」
純な藤丸立香とツンデレなギルガメッシュ。一見して微笑ましい光景であるが。
藤丸立香の内心は――
(うわあああああっ!! レイシフト中は、大半の肉食サーヴァントから離れて伸び伸び出来るのに、俺のモラトリアムがぁぁぁ!! なんてことしたんだ英雄王ゥーー!!)
対して、ギルガメッシュは――
(人理修復はカルデアマスターの使命。最も重要視するべき行いであり、最も観賞し甲斐の催事であるはず。しかし、どうだ……雑種ときたら目を輝かせながら特異点を謳歌している。たわけ! 貴様の真骨頂は、震え怯えつつも全力で足掻く姿にある! カルデアでは常にそうであろう! 肝心の特異点で生き生きするとは何事か! さあ、
藤丸立香とギルガメッシュはマスターとサーヴァントではなく、愉悦対象と鑑賞者の間柄にあった。
「そろそろいいだろうか。マスター」
心中で「英雄王のバカヤロー」する立香に、疑似サーヴァントが話し掛けてきた。時計塔のロードの肉体に、三国時代に謳われた天才軍師の能力を持つ彼は――
「こ、孔明さん!」
「英雄王の言う通り、今回のレイシフトでは同時に30体のサーヴァントを同行できる。もっともサーヴァントの
理路整然とした口調の孔明であるが、人の良い性格をしている。直接立香を襲うことはないし、せいぜい人理修復を成した暁には、時計塔へ留学するべきだと強く進言する程度だ。
そんな彼が言い辛そうな顔をするのだから、これは悪い話だと立香は察した。
「マスターに頼みたい仕事が2つある」
「な、なんでしょうか?」
「1つはシフト作成だ。30体連れていけるとは言え、全てのサーヴァントは同行できない。だが、召喚サークルを利用すればサーヴァントの入れ替えが可能となる」
あっ……つまりは……
立香の瞳から光が消える。愉悦部垂涎のリアクションである。
「マスターには全サーヴァントが一度はレイシフトするようシフトを組んでもらいたい。これは忠告だが、特定のサーヴァントを
100以上いるサーヴァントを上手に入れ替えて、全員に見せ場を作れとな?
無茶振りってレベルじゃねーぞ! 立香は絶叫した。もちろん心の中で。
「もう1つの仕事だが」
「ま、まだ何かぇ……」
「査定を頼みたい。サーヴァントの働きを平等に評価してほしい。これも忠告だが、華々しく宝具を撃つセイバーばかり高評価して、人知れず情報収集に励むアサシンを軽んずれば無用な争いを生むだろう。広い視野と深い考察が必須だ。私を始め、ヘクトール氏や陳宮殿のような指揮経験を持つサーヴァントを相談役として付けるのでどうか頑張ってくれ」
「…………」
すでに言葉を失った立香。それでも孔明の言葉は止まらない。
「今回の聖杯探索の完了後、評価の高いサーヴァントから順に褒賞を与えるのも忘れないでほしい。マスターの国で言うところの『御恩と奉公』に例えると分かりやすいか。恨み辛みから無縁でいるための処世術と思ってくれ。なに褒賞と言ってもマスターの私物であれば何だろうと至高の品となるだろう、難しく考えることはない」
「…………」
肉食カルデアから避難し、胸躍る冒険をしたこれまでの聖杯探索。
『逝き逝き』ではなく『生き生き』できた唯一の日々が終わったのだと、立香は理解した。