絆レベル10のカルデア   作:ヒラガナ

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第五話:藤丸立香のグランドオーダー④

それは、正道を()く藤丸立香の物語。

 

1783年、北アメリカ大陸にレイシフトした彼と、パートナーであるマシュ・キリエライト。

来て早々、二人は大規模な戦いを目撃した。

1783年のアメリカには不釣り合いな機械化兵団と、レトロチックな蛮族の集団が激突している。

 

両軍に敵と認識された立香とマシュ。

苛烈な攻撃を必死に防ごうとするも多勢に無勢。砲弾と榴弾に当たり立香は右腕と左大腿部を負傷、気を失ってしまう。

そんな彼の治療(切断)をしようと現れたのは、クリミアの天使ことナイチンゲールであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強い浮遊感と船酔いに似たふらつき。

レイシフトを終えた時に来る感覚を振り払いながら、立香は周囲を確認した。

 

現在、自分を取り巻くのは鬱蒼と茂る木々と――30体のサーヴァント。

いつもの外出(レイシフト)で得られる解放感は微塵もなく、カルデアと変わらない圧迫感が立香を痛める。

 

「マスター、手はずは分かっているな?」

 

「大丈夫です。やります」

 

アドバイザー役の孔明に促され、立香は己を勇気づけるように強く肯いた。

悲観ならもうたくさんだ。やらなきゃヤラれる。相手が伝説の英雄だろうと立派に引率してみせる。

 

「状況確認が最優先です。ハサンの皆さん、テルさん、アタランテさん、よろしくお願いします」

 

「「「「任されよ!」」」」

「へっへっ、森は狩人のフィールドさ。お前さんは息子も同然、父親らしいところをみせるぜ」

「韋駄天にも勝る早さで情報を届けよう。礼を強請(ねだ)りはせんが、使用済み半ズボンをはずんでくれると助かる」

 

立香の指示を受けたサーヴァントらが喜々と散開した。

レイシフトしてまず行うべきは調査だ。北アメリカ大陸がどう変貌しているか、また誰と敵対するのかを早急に把握しなければならない。

 

百貌のハサンは、多重人格が宝具化したことで分裂出来るようになったハサンだ。

個体それぞれに個性があり、話術、学術、隠密術、暗殺術、詐術などに長けている。

戦闘能力は低いため聖杯戦争ではやられ役に甘んじてしまうが、それ以外の用途幅が広過ぎで「こんなん重宝するしかないじゃないか!」なチートサーヴァントである。

1体ずつ低コストのためかマスターから離れて活動が可能であり、調査には持ってこい。

レイシフト第一陣メンバーに選ばれるのは必然と言えよう。

 

単独行動スキルがデフォなアーチャークラスの中でウィリアム・テルとアタランテを調査に出したのは、ここが森で2体が狩人だから。また、今後荒野での戦闘が想定されるアメリカ大陸で、2体の活躍の場は限られるかもしれない。そのため今のうちにポイントを稼がせようと計算したからである。

 

適材適所な人(サバ)材派遣が円滑な聖杯探索の基本であり、マスターの性命の保障となる――そう立香は考えた。

 

なお、懸命にやりくりする藤丸立香の姿は尊さに溢れており、待機中のサーヴァントを垂涎させるのだが、幸か不幸か立香は気付けなかった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

『この先の荒野で大規模な戦闘が発生している。一方は現地民兵と機械化歩兵から成るアメリカ西部合衆国軍。もう一方は蛮族のケルト軍。それぞれの軍の指揮官は――で、所属するサーヴァントは――である。状況からケルト側の――が聖杯の持ち主と思われる。両軍に属さず行動する一団が存在し、リーダーのサーヴァントは――だ。はぐれサーヴァントも存在しており――が目撃されている』と多くの情報が帰還したサーヴァントによってもたらされた。

 

「お、おう……」

 

収集を命じた立香が軽く引きほどの情報量だ。明らかに『周囲の状況』とは異なる重大事実まで含まれているし。聖杯探索中盤から終盤で「な、なんだってー!」と明かされる聖杯の在処まで見当が付いてしまった。色々台無しである。

 

ちょっとサーヴァントの皆さん頑張りすぎじゃありませんかねぇ(畏怖)。

 

「お疲れさまでした。非常に有意義な結果となり、感謝に堪えません。今回働いたサーヴァントの方々には一律5ポイントを付けさせていただきます。さらに、皆さんが入手した情報が今後役立った場合、その活躍度によって追加ボーナスを払います」

 

「「「おおぉぉぉ!!」」」

 

「「「ぐぬぉぉぉ!!」」」

 

ポイントをゲットしたサーヴァントらが歓喜し、先を越されたサーヴァントらが苛立ちの声を上げた。

 

サーヴァントたちに格差を付け、周知させる。危険な行為だと自覚しながらも立香は断行する。

査定を後回しせず、結果は逐一公表する――それこそが英霊たちを納得させる方法だと信じた。

 

都度、査定を明かせば不正や贔屓(ひいき)をしていないと示せる。サーヴァントらにポイントを意識させることで、マスターを襲うようなポイントマイナスの愚行を予防も出来る。

冴えた案に思えるが、欠点もあった。立香の見る目に狂いがあって評価内容がガバガバだったら成立しない方針なのだ。人外アクションを採点するのは難易度が高い。

 

立香は己を鼓舞する。

 

今の俺が持たなきゃならないのは確固たる指標。サーヴァントからどんな圧力を受けても不動の指標こそが、逝き延びる唯一の道なんだ!

 

 

「さすがです先輩! これまでの聖杯探索とは一線を画すスムーズな滑り出しです! ところで私の身体も滑りを良くしていますから、どうですか? その辺りの草むらで」

 

「最強の軍団を指揮するマスター。木漏れ日がお顔を照らして凛々しさが十倍増しです。シャッターを切る手が止まりませんぞ!」 

 

ポイントと無縁で強制メンバーの盾のビースト(マシュさん)藤丸立香専属カメラマン(ゲオル先生)が視界の隅でキャッキャしているのを無視し、立香は行動する。人理のために、カルデアの仲間(サーヴァントを除く)のために、そして自身の貞操のために。

 

 

「討って出ます。目標はこの先の荒野で展開するケルト軍。アメリカ西部合衆国軍への攻撃は原則禁止としますが、機械化兵士が撃ってきた際の反撃は許可します。現地民は今後協力関係を結ぶかもしれませんので殺傷は控えてください。もし行えばレイシフトメンバーから外します、いいですね!」

 

 

正道を()く藤丸立香が巻き込まれた戦いに、性道を逝く藤丸立香は積極的に武力介入すると言う。

すでに有力な情報を得た現状、戦う必要性は薄い。

ケルト側が聖杯を持っているとすれば、兵士は無限湧きするかもしれない。ここで蹴散らしても徒労に終わってしまう。

それどころか敵にカルデアの存在と実力を知られてしまうだろう。

 

かしこい選択ではないのは重々承知だ。

けれども立香は選択する。多くのサーヴァントを引率する身として、戦闘行為を選択する。

そうしなければサーヴァントたちはポイントゲットの機会に恵まれず、自暴自棄になりかねない。敵軍ではなく自軍にヤラれるなんて笑えないし、後者の確率の方が高くて泣けてくる。

 

『聖杯を探索する』『サーヴァントのポイント管理をする』

『両方』やらなくっちゃあならないってのが『マスター』のつらいところだ。

 

 

 

 

 

森の出口に到着した。この先は土と砂交じりの荒野で、機械と蛮族の激突によって砂塵が舞っている。

両軍とも眼前の敵に夢中な模様。横槍を狙う一騎当千の肉食獣たちに気付いていない。

 

どのサーヴァントも(おの)が武器を握り、「ひぃ、ふう、みぃ……」と獲物を数えて舌なめずり。頭の中はポイントの事で一杯のようだ。

 

第一陣メンバーにバーサーカークラスを入れなくて正解だったな――立香は胸を撫で下ろす。

バーサーカーなら作戦なんぞ知らんと突撃して、戦線を「あーもうむちゃくちゃだよ」にしていただろう。

レイシフト直後は不測の事態が目白押しだ。どんなケースにも対応出来るようにと、基礎能力の高い剣・弓・槍の三騎士クラスを中心にメンバーを決めた自分の判断は正しかった、と確信する。

 

そもそも、バーサーカークラスってどこで採用すればいいんですかねぇ?

 

レイシフトメンバーが限られていれば、どのクラスにもある程度強いバーサーカーに需要はある。

しかし30体も揃えた行軍となれば、如何なる種類の相手だろうと最適解クラスが帯同しているわけで。情報収集や索敵など器用な任務には向かず、暴走する危険が常に付き纏うバーサーカーって要らなくね? と、なってしまう。

 

 

大所帯のカルデア軍におけるバーサーカーの活用法とは……レイシフト前に思い悩んでいると。

 

「あなたが苦悩せずとも結構。狂兵の運用は軍師にお任せください。私、試したい策を山程積んでいるので」

 

カルデアで最も異名の多い軍師がバーサーカーの運用ならば我に策あり、と笑みを浮かべた。

 

そうなん? じゃあ、よろしくオナシャス! 

 

人選に悩み疲れていた藤丸立香くん。『深く考えずに軍師へ丸投げ』という特大のミスを犯してしまう。

立香くんがこの時の丸投げを激しく後悔するのは、少し先の未来でのお話。

 

ちなみにバーサーカーの面々は()の軍師と共に召喚予定である。

 

 

 

 

 

 

『戦闘指揮は私が()るが、名だたる英雄たちに細かい指示はかえって邪魔になろう。大まかな策と戦場の趨勢だけ伝える。基本は各自の判断で臨機応変に、以上だ』

 

孔明が全員に念話を飛ばし、やや湿り気のある目で『ふぅ、マスター号令を』と告げてくる。

 

生前は神であり王であり将だった英雄たち。

しかし、今は立香に従うサーヴァントだ。彼らを戦場へ送り出すのは、立香をおいて他にない。

 

敵に察知されないよう念話で――なんて、しみったれた気遣いは彼らに失礼だ。

貞操を狙う危険な輩だろうと、歴史に燦然と輝く英雄の軍団。マスターとして締まらない姿は見せられない。

 

立香は大きく息を吸って――

 

「第五特異点の記念すべき初戦! 敵は武力の高さで知られるケルトの兵士です。しかし、()()()()()()()皆さんなら心配無用! 斬る、射る、突く、殴る、燃やす、消す。方法は問いません! 皆さんの勇士を俺の目に焼き付けさせてください!」

 

サーヴァントが喜びそうな文句を混ぜながら大音声で号令を発す。

 

「いざ! 出撃です!!」

 

「「「「おおおおぉぉぉお!!」」」」

 

テンション有頂天なサーヴァントたちが獲物目掛けて疾走する。

その物騒な後ろ姿を眺める暇なく、立香は覚えたての魔術を発動させた。

 

魔術師ならば誰でも扱える『強化』。

初歩の初歩と言われる魔術であり、加えて講師がケイローンだったこともあって、魔術の才がない立香でも短時間でモノに出来た。それも二つの強化を。

 

一つは強化魔術の王道である『視覚強化』。

もう一つはケイローン先生曰く「ここを強化したいとは……マスターには些か手に余りそうな部位ですが、私が手取り腰取り教えましょう」で肝を冷やしながら学んだ『記憶領域強化』。

 

 

これらを行使することで、立香は不思議な感覚に陥った。

視界が広がっただけでなく、点にしか見えなかったケルト兵の表情まで分かる。一旦目を閉じてもケルト兵たちの顔を模写できるくらい詳細に思い出せる。

 

これなら……やれる、査定開始だ!

 

 

ファーストアタックは、アーチャーのアーラシュか。戦いを終わらせる英雄の一矢が先制の一撃とは趣深し。眉間を射抜かれたケルト兵の消失確認。1ポイント。

 

続いて、アルテミスの矢が到達。男にはめっぽう強い彼女の攻撃だけあって急所でなくてもケルト兵は消失。1ポイント……っとまだだ。彼女にぶん投げられたオリオンも棍棒で一殺。併せて2ポイント。

 

ここで若き日のクー・フーリンが陸上選手ばりの綺麗なフォームで戦線に躍り出た。サーヴァント相手にはいまいち効かないゲイ・ボルクで同胞に容赦のない一刺しを三回だよ三回、で一気に三殺して3ポイント。

 

――と、少し離れたところにナポレオンの大砲が着弾。ケルト兵が吹き飛ぶ……その数はええと、五体か! いや、一体はまだ生きているようなので4ポイント。

 

セイバーたちも参戦し始める。やめてくれ、モーさん! 一振りで数体のケルト兵を屠らないで! 数えるの大変なんだよ、4ポイント!

 

……うおっ、岩陰から魔術を撃ちかけていた祭司(ドルイド)が焼失した。あの炎は……キャスターのクー・フーリンの攻撃か! しまった、クラス違いながら同名の英霊はポイント管理で混乱する! 1ポイント。

 

あっ、ケルト軍の隠し玉らしきバイコーンを沖田さんが惨殺して大勝利ぃ~している。バイコーンは高ランクエネミー指定で5ポイントだったよな? くそぉ、敵によってポイントが違うから集計がぁぁぁ!!

 

 

 

カルデア軍の凄まじい攻勢でケルト兵が溶けていく。

あらゆる場所で、秒単位で、異なるサーヴァントの手によって、どんどん溶けていく。

 

いくら『視覚強化』したとは言え、同時多発する戦果を査定するのは至難の業だ。

カウントを忘れないため会得した『記憶領域強化』は、サーヴァントとケルト兵のゴアでスプラッターなシーンまでしっかり記憶してしまうため精神衛生上非常によろしくない。しばらく肉が喰えないこと必至である。

 

不幸中の幸いなのは広範囲宝具が用いられていない事だろう。多数のサーヴァントを現界維持するには電力節約が重要。そのため、許可のない攻撃宝具は使用禁止とされている。

もし、サーヴァントたちがバンバン宝具を放って百単位でケルト兵が消し炭になっていたら「査定なんてやってられるかぁ!!」と立香は吠えたに違いない。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

5分も経たずに戦いは終わった。

ポイント至上主義のカルデア軍によってケルト軍は全滅。部隊消耗率が30%を超えての『全滅判定』などではなく、文字通り一兵たりとも生かさず滅したのである。

 

戦場に残ったのは、戦い足りない(もっとポイント欲し気な)様子のカルデアサーヴァント。

圧倒的な蹂躙の前に機械でありながら怯え切った機械化兵士。

戦意喪失に加えて失禁や失神する現地民兵。

 

 

そして、戦場の端に。

 

「……あ……ああ……やっと……おわった」

 

廃人一歩手前の藤丸立香。

視覚強化の影響で目は充血し、記憶領域強化の名残で頭をグラグラさせている。

 

次からは記録要員として誰かの使い魔をレンタルしたい……待て、ダメか。査定にサーヴァントを絡めるのは不正に繋がる。不正疑惑を持たれるだけでもアウトだ。

レイシフト先をモニタリングするのが精一杯のカルデアシステムじゃあ、レイシフト先の戦場を広範囲360度で撮影するのは夢のまた夢だし。

 

現状は俺が頑張るしかないか……あ゛あ゛ぁぁ。

 

「先輩! 先輩! しっかり! 一大事です、先輩のメンタルがティウンティウンと四散しそうです! お身体を私に(ゆだ)ねて休んでください! そのまま身も心も依存してくださっても一向に構いません!」

 

膝枕を企てるデンジャラス・ビーストを満身創痍の身でかわしながら「どこかに俺を優しく介護してくれる人はいないかなぁ」とフラグでしかない願いを、藤丸立香は抱いた。

 

 

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