絆レベル10のカルデア   作:ヒラガナ

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全五話構想と書いたが、五回の投稿で終わるとは言及していない。
そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい つまり……作者がその気になれば長くなった1エピソードを分割して投稿することも可能だろう……ということ……!



大変申し訳ありません、後編は早めに投稿します。


第二話:藤丸立香とキュケえもんと名探偵(前編)

「キュケえも~ん!」

 

「どうしたんだい、立香君? また、バーサーカー連中に襲われたのかい?」

 

「ううん、バーサーカーの大半は『素材狩りの刑』になって不在だから今回は違うんだ~」

 

「じゃあ、何があったのかな? おっと、親愛なるマスターの来訪に茶菓子も用意しないんじゃ大魔女の名折れだ。ちょっと待ってくれ、今キュケオーンを用意するから」

 

「あっ、お構いなく。キュケオーンは結構です」

 

「きゅ、急に素に戻るのは止めてくれよ。キュケオーンをお食べ! お食べったら!」

 

 

「……毎度そのやり取りをして飽きないのですか、マスターも叔母様も」

 

藤丸立香とキュケえもんの珍妙なやり取りにツッコミを入れたのは、『裏切りの魔女』ことメディアである。

キュケえもんの姪であり同門の彼女は、姉弟子と同様に高い魔術スキルを誇り、これまた姉弟子同様に男運の無さを誇っている。

 

「失礼なのは分かっているんですけど、キュケえもんと喋るのは楽しくてついつい調子に乗ってしまうんですよ」

 

(しか)と聞いたかい、メディア! 私たちの絆の深さを! 立香君にとって私は初めての相手だ。これはもう運命を感じずにはいられないんじゃないかな! なっ!」

 

「初めての相手って……誤解を招く言い方をして。あくまで最初に召喚されたサーヴァントというだけですよね。それにキュケえもんって……叔母様はあだ名を付けられて不満はないのですか?」

 

「もちろんさ! キュケオーンは私のアイデンティティであるし、それをモチーフにした親愛の呼び名にどうして嫌悪を抱くっていうんだい?」

 

「なんでしたらメディアさんも呼び方を変えてみましょうか? ええと、キュケえもんの元ネタからして『メディミちゃん』が良いですかね?」

 

「メディミちゃ、ちゃん……そのような可愛らしい名を受け入れるのは……しかし、他ならぬマスターからの提言ですし……」

 

フードを深く被って、照れた顔を隠し戸惑うメディア。リリィのような初々しい反応に思わず立香の顔が綻ぶのであった――

 

 

 

などと、二人の女心をタラシの如く弄ぶ藤丸立香だったが、彼の内心はどこまでも真剣だった。

 

神話級恋愛敗北者のキュケえもんとメディア。マスターガチ勢の中では接しやすい部類に入る二人だが、油断は出来ない。なにせ人間を豚に変えたり、肉親を殺す残酷なエピソードを持つ正真正銘の魔女たちだ。

隙を見せればナニをされるか分かったものではない。

 

だからと言って、セメント対応をすれば闇を抱えやすいのが魔女というもの。恋愛関連のトラウマ持ちでワンアウト、とっくの昔に絆レベルが10に到達してツーアウト。もしマスターへの愛を(こじ)らせてスリーアウトを取ってしまえば貞操終了(ゲームセット)である。

 

藤丸立香のスキル『危険予知(貞)』は魔女二人の恐ろしさを正確に察知している。彼はあえてフレンドリーに接して、魔女の闇度が溜まるのを抑え、性的な意味でのワルプルギスの夜が訪れないよう腐心しているのだ。

 

なおサーヴァントによってはフレンドリーに接した結果、お尻にフレンドリーファイアッーーーー! を受ける可能性も多々ある。100のサーヴァントがいれば100のコミュニケーションがあると理解し、それぞれのサーヴァントの主義趣向を調べ学び、適した交流を図らねばならない。失敗すれば貞操と人類が滅亡一直線だ。

まったく人類最後のマスターはブラックにも程がある職業だぜ!

 

 

「それで何があったんだい? 話してみてくれよ。それとキュケオーンをお食べ」

「実は午前中の事なんですが……」

 

キュケえもんの部屋。怪しげな釜や用途不明の器具や干物にされた爬虫類の死骸が所狭しと並ぶ中、唯一開けたテーブルに三人は位置取る。

立香は目の前にドンと置かれたキュケオーンの皿から視線を逸らしつつ、回想モードに入るのだった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

シャーロック・ホームズは仲間になったばかりのサーヴァントである。四番目の特異点『死界魔霧都市:ロンドン』。霧に包まれた都のベーカー街で、彼は立香たちを待っていた。

 

「本来ならもっと後で合流する予定だったのだが。いやはや、私の予定を狂わせるとは実にミステリアスな魅力を秘めるマスターだ」

 

初対面なのに気に入られている。普通なら疑問に思うところだが、立香はいつもの事と受け入れた。

 

ホームズはアトラス院について調査しているようだが、彼の目的なんてぶっちゃけどうでも良い。

そんな事より優先すべき事がある。カルデアのライブラリデータによれば、かの名探偵はアイリーン女史以外に異性へ関心を示したことがなく、結婚をナンセンスと称した人物だという。なら性に淡白なのだろうか……いや、データだけで判断するのは浅慮。

きちんと言葉を交わしホームズの人となりを把握して、安全な付き合い方を確立しなければ。立香の頭にはそれしかなかった。

 

なお、サーヴァントを丁寧に調べ上げ、一体一体と向き合う態度こそ『あっ、マスターってこっちに気があるんじゃね?』と誤解を生み、サーヴァントの絆レベル上昇に大きく関係しているのだが、悲しいかな当の立香は気付いていなかった。

 

貞操を守ろうとすればするほど、貞操が危うくなっていく。なんとも皮肉が効いた話である。

 

 

 

名探偵はカルデア内において、早速活躍の場を得る。

 

『藤丸立香の下着盗難事件』

 

カルデアではさして珍しくもない事件であり、世界一の名探偵が出張るにはあまりに低俗かもしれない。

だが、ホームズは犯行現場である立香の部屋にやって来た。

 

「聞けば三日に一度は下着が紛失するそうだね。私の知的好奇心が驚くほど反応しないが、新参者としてマスターへの貢献度を稼ぐとしよう」

 

えっ、あのシャーロック・ホームズに下着泥棒を捕まえさせる? なんて恐れ多いことを……カルデア職員の中に生粋のシャーロキアンがいたら自分は殺されるんじゃないか、と立香の胃がキリキリ鳴った。

 

名探偵は部屋中を調べ始めた。小説におけるホームズは頭の回転と同じくらい調査スピードが早く、犯行現場の要点を即座に見抜く人物だった。が、立香の前でタンスの中を(あらた)める彼は実にねっとり――訂正、ゆったりとした挙動を取る。

それだけ熱心に事件に当たってくれているんだな。立香は人類最後のマスターとして培ったポジティブシンキングで、ホームズの不審ぶりを流した。

 

「タンスから盗まれたのは、パンツ一枚かね?」

 

「はい。先日盗まれた時に、残存する下着を数え直したので間違いありません」

 

「ふむ。ちなみにその時の犯人は捕まったのかい?」

 

「バーサーカークラスだったのが幸いしました。証拠を残しまくりで俺でも犯人を突き止めることが出来ました。残念ながらパンツはすでにヨレヨレな上に湿っていて処分するしかありませんでしたけど」

 

「……(くだん)の狂暴なるサーヴァントは今どこに?」

 

「『素材狩りの刑』に処されて現在カルデアには居ません」

 

「すまない。私はカルデアに来て日が浅い。『素材狩りの刑』について説明を頼んでいいかね」

 

「あっ、失礼しました。『素材狩りの刑』というのは――」

 

 

カルデアの戦闘シミュレーターは非常に優秀である。

データさえあれば、どんなサーヴァントだろうと怪魔だろうと再現して戦闘することが出来る。制作者はサーヴァントとマスターがシミュレーターによって練度を上げ、人類の脅威に立ち向かうことを願ったのかもしれない。が、現実は無情である。高性能シミュレーターはロクでもない事に使われていた。

 

『聖拝戦争』と『素材狩りの刑』、シミュレーターの用途はもっぱらこの二つだ。

 

前者は藤丸立香の起床係を決める大戦争。

 

そして後者は、藤丸立香に危害を加えたり、私物を盗んだサーヴァントへの懲罰である。

下手人はシミュレーターに押し込められ、設定された敵を狩って素材を規定数集めるよう命じられるのだ。素材とはサーヴァントの霊基を強化する魔術的なアイテムを指す。鳳凰の羽根やゴーストランタン、世界樹の種などなど、サーヴァントによって強化に必要な素材は異なる。

 

なんでそんな物がシミュレータから獲得出来るのか? と誰もが首を傾げるが、人類の危機を前にして使えるものは何でも使う。シミュレーターは十二分に活用させていた。

 

なお、犯罪サーヴァントたちは素材ノルマを達成するまでカルデアに帰れず、途中で力尽きれば一か月間実体化出来ないペナルティを喰らう。

 

「バーサーカーたちはカルデアよりシミュレーターの中に居る方が多いですね」

 

マスターも無しに単騎で敵がひしめくエリアに送還される。バーサーカークラスの特徴は攻撃力があるものの守りに弱い。さらに燃費が悪く、一応カルデアから魔力が細々と供給されているもののすぐにガス欠になってしまう。敵の一体一体は弱くても、複数相手となればバーサーカーが生き残れる道理はない。

 

しかし、藤丸立香のバーサーカーは一味違う。マスターに会いたい一心でしぶとく生存してノルマをこなす。バーサーカーの癖にスタミナ配分に気を付け、素材を用いて己を鍛え、本来持っていないはずの『ガッツ』や『仕切り直し』スキルで体力を回復し、しまいには独自で霊基再臨までしてしまう。バーサーカーとはいったい……?

 

先日『蛮神の心臓を50個獲得するまで帰れまてん!』のノルマを課せられた、自分を藤丸立香の母と思い込んでいる武将サーヴァントも今頃は――

 

「息子の下着を管理するのは母の務めなのに何が悪いのです!? ええい、邪魔です! 母の道を阻むものは何であろうと塵芥(ちりあくた)に成るがいい!」

と居直って元気にデーモンたちを屠っているだろう。

 

 

 

 

「なるほど。『素材狩りの刑』か……何とも恐ろしい事を考えたものだ」

 

「ダ・ヴィンチちゃんが考案してくれたんです。サーヴァントに襲撃されて疲れ切った俺を不憫に思ったらしくて」

 

ダ・ヴィンチはカルデアの中でも古株のサーヴァントで、技術局特別名誉顧問として日夜特異点修復に尽力している。自身の傑作であるモナ・リザに心酔しており、その姿で現界したエキセントリックな彼女? だが、根は善良だ。

 

立香の現状を知ったダ・ヴィンチは「立香君はただの人間なのに、懸命にオーダーをこなしてくれる。キミを尊ばないサーヴァントは厳罰がお似合いさ!」とシミュレーターを刑罰装置に改造した。

 

目が回るほど忙しいはずなのに、俺のために……立香は感動した。

ダ・ヴィンチの献身に報いたい。凡人の自分では大したことが出来ない。それは分かっているが何かしたい。

考えた末に立香は夜食を作り、夜通し働くダ・ヴィンチの部屋へ持って行った。優しきサーヴァントの助けに少しでもなれば、と期待して――

 

 

で、襲われた。

 

「多忙で頭がボーっとしている時にだよ。立香君がやって来たんだ。こんな夜更けにわざわざ部屋を訪ねてくるなんて……しかも、ちょっと気恥ずかしそうに。もしかして、ついにデレ期到来かと身体をオーバーチャージさせていたら『食べてください』の言葉だよ。そりゃ許可が出た、と思って襲うさ! 万物の成り立ちについて肉体言語で語り合おうとするさ!」

 

立香の悲鳴で駆け付けた複数のサーヴァントによってダ・ヴィンチ容疑者は拘束された。その供述は一定の同情を得たものの、マスターへの暴行未遂は万死に値する。結局、ダ・ヴィンチは初の『素材狩りの刑』に処された。

 

さすがは人類史に名を残す大天才である。懲罰シミュレーターの性能を身をもって試験する科学者の鑑。

 

 

 

 

 

話を下着盗難事件へと戻す。

 

「犯行時刻は君が朝食を取りに食堂へ行き、戻るまでの一時間か」

 

「はい、部屋に戻ってみるとタンスが開けられていて、パンツが無くなっていました。サーヴァントは霊体になれますし、この部屋にはプライバシー保護のため監視カメラがありません。いったい誰が盗んだのか……」

 

「盗まれたパンツの種類はブリーフ、トランクス、ボクサーパンツ、ジャパニーズフンドシ、どれかね?」

 

「それって事件に関係するんですか?」

 

「犯人の思考を読むのに役立つかもしれない。情報は多い方がいい」

 

「と、トランクスです」

 

「なるほど。マスターはトランクス派……と」

 

興味深く頷くホームズ。この名探偵、本当に大丈夫なのだろうか?

 

 

立香の心配は良い意味で裏切られた。

現場検証を終えたホームズはカルデア内で聞き取り調査を行い、瞬く間に容疑者を絞り込んだ。

 

犯行は食堂で立香が朝食を取っていた午前7時から8時の間。

 

サーヴァントは食事を取らなくても問題なく動くことが出来る。しかし、食事は重要なコミュニケーションツールであるし、ご飯を食べるマスターをオカズにパンを咀嚼するのは食欲と性欲が満たされてお得――そんな見解を持つサーヴァントたちで事件当時の食堂は混雑していた。

『素材狩りの刑』に服す20体のサーヴァントを除き、姿が見えなかったサーヴァントは片手で足りる数だった。

 

「今回の事件は至ってシンプルだ。まだらの紐のような(おぞ)ましさはなく、ブルースパーティントン設計書のような煩雑さもない。犯行現場を思い返せば、事情聴取せずとも犯人は特定できる。付いて来てくれ、マスター。探偵の醍醐味は謎を解き、犯罪者を追い詰める時に集約される。もっとも今回は謎と呼べるほどのモノではないがね。それでも被害者である君の(あずか)り知らぬ所で解決されるのは嫌だろう」

 

世界一の名探偵と評されるシャーロック・ホームズは気取った物言いをしながら廊下を進む。立香は誰が犯人なのか問いたい衝動を我慢した。推理物のお約束を鑑みれば、かの名探偵はきっと犯人の名をはぐらかすだろう。今はただ、名探偵の背中を追うのに集中するべきだ。

 

そう首を長くして待たなくても、謎は解かれるのだから。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「へえ、私とメディアが実験している間にそんな事があったのかい? しまったなぁ、有能アピールチャンスを逃してしまったよ。私がその場にいたらすぐ犯人を当てて、ピグレットに変えてやったのにさ」

 

キュケえもんが両肘をテーブルに突き、手のひらの上に顎を載せてムクれた。幼い体型も合わさって、ファミレスで駄弁る中学生のようだ。

 

「叔母様は犯人が分かったのですか?」

 

「その前に一点だけ確認させておくれよ。立香君のタンスの前には何か落ちていなかったかい?」

 

「――鋭いですね。弱体耐性を向上させる礼装。使用された形跡のあるソレが落ちていました」

 

「ありがとう、大体絞り込めたよ。メディアも覚えているだろう? つい先日のことだ。立香君のタンスは本人以外は開けられないよう、魔術でロックしたじゃないか。解除するにはそれなりの魔術知識と耐魔力A+クラスは無いと不可能なやつをね」

 

立香が大魔女を『キュケえもん』と呼んで、良好な関係を築こうとするのも貞操保持の礼装を作ってくれるからだ。

彼の着ている服はスタンや魅了を無効化するようキュケえもんが魔術式を組み、服飾が得意なメディアが編み込んだ逸品である。時計塔の魔術師なら喉から手が出るほど欲しがるだろう。

他にも認識阻害の魔術を立香の部屋に施して千里眼持ちのサーヴァントによる視姦から守ったりと、魔女たちは手を焼いてくれる。

色々問題を抱えている二人だが、なんだかんだ立香のカルデアライフに欠かせない魔女コンビだ。

 

 

「――犯人は耐魔力A+未満で、礼装の補助を使ったということですか? それにしては証拠品を現場に残すのが気になりますけど」

 

「私たちがタンスに魔術を掛けて日が経っていない。普通だったら警戒して犯行を控える時期じゃないか。それなのに何故犯人は動いたのか? ふふふ、先週『素材狩りの刑』に処された中に、にっくき愛され女神が二人いたことを考慮すれば見えてくるんじゃないかな」

 

「そこまでお見通しとは脱帽です」

立香は拍手でキュケえもんを讃えた。キュケオーンに精神汚染されていても神代の大魔女なだけはある。

 

「ふっふふん~。どうだ、私の頼りになりっぷりは! 好きになるなら今のうちだゾ! あっ、もうなってる?」

 

「で、肝心の解決シーンなんですけど」

 

立香はドヤ顔のキュケえもんとテーブル上のキュケオーンをスルーして話を続けた。

 

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